東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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大炎上の外側で

「『フェニックスの尾』!」

 

  様子見もなしにいきなり妹紅のスペカ宣言。開始直後にできる一瞬の隙を突こうと、腕でなぎ払うようにして大量の炎の弾幕を横に広く繰り出す。

 

  しかし、火神はそれにまったく動じることはなかった。むしろ凶悪な笑みを深めると、同じようにしてスペカを取り出し、

 

「群符『ヘルスタンピード』」

 

  それを宣言した。

  すると火神の周囲に大小様々な魔法陣が数十にも渡って浮かび上がってくる。その中から召喚したのは種類を問わぬ、炎で形作られた獣たち。それらは咆哮をあげながら妹紅の炎を喰いちぎり、そのまま彼女の首めがけて飛んでくる。

 

「このっ、いい加減に……!」

 

  イラついて腕をなぎ払おうとして、彼女は気づく。その両腕が炎の獣によって完全に固定されてしまっていることに。

  無防備になったその隙を火神が見逃すはずもなく、すぐに彼から指令が送られて、残った獣たちは妹紅めがけて突撃。そしてそのまま彼女もろとも自爆して、竹林に赤い花を咲かせた。

 

 

  ♦︎

 

 

「相変わらず派手にやってるな」

 

  時は遡って数分前。

  妹紅が炎の弾幕を、火神が炎の獣をそれぞれ呼び出したところで、思わずそんな感想が漏れる。

  だが、これの直接衝突は妹紅の方が不利だろう。あっちの方が炎の密度が高いし、何よりもまるで本物の獣のように動き回る分、迎撃することが難しい。

 

  ふと、思考に陥っていると、後ろから何かが近づいてくる気配を感じる。なんとなく嫌な予感がしてとっさに右に避けると、突如先ほどまで俺が立っていた場所に黒い剣が突き刺さった。

 

  あ、危なかった……。完璧に殺す威力だったぞあれ。

  こんなことするやつは一人しかいない。犯人を推測しながら、ゆっくり後ろを振り返る。そこには—–—–。

 

「今度という今度は許さないわよ……! 覚悟して微塵切りにされなさい!」

 

  闇のオーラ的なものを全身から溢れさせながら、怒り狂うルーミアの姿があった。

  おおう、すごい殺気だ。心臓悪いやつなら視線だけで殺せるんじゃないだろうか。

  まあとりあえず、こういう時にすることは一つだ。

 

「全力で逃げる!」

「逃すか! 死ね!」

 

  音速を超えてその場から離脱しようとする俺。しかしルーミアはあらかじめこのことを予想していて、攻撃する前に罠を張っていたらしい。行く手を阻むように、影の剣山が地面から次々と突き出てくる。

 

  仕方がないので抜刀。からの斬撃。そうして目の前に立ち塞がる全てを両断して、なんとかルーミアの罠地帯を突破する。

  しかしルーミアも中々諦めてはくれないらしい。影と影の間を行き来して、私についてこようとしてくる。

 

「まったく、ただ生き埋めにされただけじゃねえか!? 器が小せえぞルーミア!」

「生き埋めの意味を辞書で調べてきなさいよ! このピンクヘッド野郎!」

「そもそもあの程度の小屋の崩壊に巻き込まれるやつの方が悪いんだろうが! 油断しすぎだボケェ!」

「なんの言葉もなく壊す方が悪いでしょうが! 常識学んできなさいよ!」

 

  幼稚な罵倒とともにルーミアと俺の刃が交差する。まさかこの馬鹿に常識を説かれる日が来るとは。そういうのは日頃の行いを振り返ってから言ってほしいものである。

 

  火神と妹紅とは別で、今ここに俺対ルーミアの勝負の幕が切って落とされた。とはいえ、一瞬で片はついたのだが。

 

「俺に剣術で勝てるわけねえだろうが。だからテメェは馬鹿なんだよ」

「弾幕ごっこで勝負しなさいよ! ああもう、服も血と土で汚れて最悪だわ!」

 

  とは言うものの、最初に殺す気で仕掛けてきたのは明らかにこいつである。まあ流石に約十回ほど斬撃を叩き込んだ俺にも非があるとは思うが。

 

  ルーミアもこれ以上傷は負いたくないのか、恨みのこもった視線を送るだけで精一杯になった。

  と、振動で体が震えるほどの轟音が結界内から鳴り響く。どうやらあっちも一度目の被弾があったようだ。どちらが、などとは見なくてもわかるだろう。

 

  だが、俺はこの時、竹林の奥から何かが走ってきているのに気がついた。

  遠くでは砂煙がはっきりと目視できる。これほど力強い走りは人間には無理だろう。となれば妖怪か何かか?

 

  やがて砂煙どころか地面を踏んだ音さえ聞こえるような距離まで来たところで、これの持ち主の姿が明らかになる。

  緑がかった白い髪。頭部に生える二つの角。明らかに知らない妖怪のはずなのだが、どこか既視感があった。何か、何か一部分が変わればわかるような……。

 

「妹紅ぉぉぉぉぉお!!」

 

  結界内で戦っている少女の名を叫んだのは例の妖怪。

  だが、今ので空いていたピースが埋まり、彼女の正体がわかった。

 

  あれは上白沢慧音のワーハクタク化した姿なのだ。竹林に引きこもっている妹紅を知っている人物など数少ないため、それがすぐにわかった。

 

  でもまずいな。あいつ、俺の結界に攻撃していやがる。

  おそらく中の妹紅に用があるのだろうけど、仮に突破なんかしてみろ。その時点で火神の逆燐に触れて即お陀仏だ。一応慧音程度じゃ壊せない強度とはいえ、万が一もありえる。

  仕方ないが、俺は彼女を止めるためにすぐそばまで移動して声をかける。

 

「無駄だ。お前に壊せるようなやわい結界じゃねえよ、それは」

「く、この結界はお前が張ったものなのか……!? 妹紅を仲間に襲わせて、何が目的だ!?」

「まあ落ち着けって。茶でも入れてやっからよ」

「誰が敵の差し出す茶など飲むか!」

 

  ん? あれ、慧音もしかして俺の正体に気づいていない?

  今一度彼女を見てみる。明らかに俺に対して敵意剥き出しにしており、どう見ても知人に見せる表情ではない。

  まあ考えてみれば当たり前か。最近は初見で見破ってくれるやつが多いから忘れてたが、幼体化の俺と今の俺とじゃ姿だけでなく雰囲気や声のトーンもだいぶ異なる。出会ってまだ付き合いが浅い慧音に見破れと言うのも酷な話だろう。

 

「……再三の忠告だ。結界を消してそこを退け。でなければ痛い目を見るぞ」

 

  そう言って彼女は懐からあるものを取り出す。

  なるほど、スペルカードか。正しい選択だ。俺の張った結界を壊せなかった時点で力量差は明白。なればこそ、妖力量に関係なく対等に戦えるはずの弾幕ごっこを選択したのだろう。

  伊達に教師をやってないというわけか。一瞬で決断する思考力しかりで、これはかなりの強敵だ。

 

  —–—–もっとも、それは俺がいつもどおりだったら、の話だがな。

 

「いいだろう。受けてやる。スペルは三、残機は二だ。異論はないな」

「ああ。こっちも急ぎたいのでな。それでいい」

「そうか……それなら、さっさと死に急いでろ!」

 

  弾幕ごっこが始まった。

  まずは様子見を—–—–って!?

 

「新史『新幻想記—–ネクストヒストリー—–』!」

「いきなりスペカかよ!?」

 

  開始直後で油断している一瞬の隙を突いてのスペカ宣言。

  そして慧音の周囲に規則正しく魔法陣が展開され、彼女自身の弾幕と相まって赤と青の雨あられが生まれ—–—–。

 

 

  —–—–る前に、その全てが両断されていた。

 

「……な—–—–!?」

「ボケっとするなよ。……これで一つだ」

 

  撃ったばかりなのに、自身の目の前で二つに分かれた赤の弾幕群。そもそも魔法陣から出現することすらできずに消えた青の弾幕群。それらが朽ちていく様を見て、慧音の思考は停止する。

  そして気がついた時には、俺に背中に手を押し当てられていた。

  そこからなんの威力もない一つの弾幕が放たれる。そしてゼロ距離で着弾。慧音の体を揺らす程度のダメージしか入らなかったが、それでも被弾は被弾だ。

 

  慧音もこれでようやく気づいたらしい。単純な妖力量やテクニックじゃ覆せない、実力の差を。

 

  そうだ。いくら弾幕ごっこが人間と妖怪などの地の力に優劣がある者同士が戦うために生み出されたものだとはいえ、その平等性には制限がある。

  元々の身体能力。これはいくら弾幕の威力を下げたところで縛れないものの一つだ。

  天狗ならまだしも、音速どころか光速に匹敵する速度で移動することができる俺に弾幕を当てるのはほぼ不可能だ。だからこそ、俺は勝負を楽しむためにこの姿を捨てているのだ。

 

「だから諦めろ。たとえお前が束になってかかってきたところで、俺には勝てねえ」

「くっ……! これほどの実力……貴様、何者だ!?」

 

  おっと、それを聞いてくるか。

  うーむ、どうしようか。ここで本名名乗ったら流石に慧音に正体が気づかれちまいそうだな。

  いや、ちょうどいい名前がそういえばあったな。話題にはなってしまいそうだが、この幻想郷に新しい衝撃を入れるためだと考えよう。

 

「外の世界にはこんな言葉がある。『なんだかんだで聞かれたら、答えてあげるが世の情け』ってな。それになぞって答えてやろう。俺の名は産霊桃神美(ムスヒノトガミ)! この世で最強の妖怪だ!」

「なんだと……!? お前が、あの……!?」

 

  神名を聞いた途端、慧音の表情がだんだんと青ざめていくのがわかる。

  おーおー、俺も有名になったものだ。しかしこの反応を見るに破壊の化身みたいな扱い受けてる俺なんだが、一応は縁結びの神なんだよなぁ。主に神奈子と諏訪子のせいで。そこらへんのイメージダウンが神社の参拝客に影響が出ないかは心配である。

 

「だが……私は逃げるわけにはいかない! 妹紅を必ず助けてみせる!」

 

  今の言葉で気がついた。

  そうか、慧音は妹紅が得体の知れない野郎に襲われていると思ってるんだ。だからこそ、実力差がわかっていても引き下がらないのだろう。

  正直俺も彼女と戦うメリットはないし、それならなんとか平和的解決に……は、無理そうか。なんせついさっき火神が妹紅を一回休みさせちまったからな。悪役っぽいノリの名乗りと相まってイメージは最悪だろうし、俺の言葉なんざ聞いてはくれないだろう。

 

「……仕方ないか。それじゃあ先手は譲ってやる。それで十分満足してから眠ってくれ」

 

  俺は構えを解いて、あえて無防備な姿を彼女に晒す。

  一番効率の良い勝利方法はこのまま高速で突っ込んで慧音を斬ることだろう。しかしそれではあまりにも味気なく、面白くない。

  なにより、こんなに相手側は盛り上がってるんだ。ならば散りざまはせめてド派手にしてやろうじゃないか。

 

「『日出づる国の天子』!」

 

  来たか、ラストワードが。

  まず放たれたのは無数の赤と青のレーザー。そのうちのいくつかが俺の上下左右を通る。

  レーザーの種類はその場に長時間残るタイプのようだ。これによって、レーザーはまだ継続されており、俺は狭い空間に閉じ込められてしまった。

  そして迂闊に動けなくなる状況を作り出したところで、自機狙いの弾幕を放ち直接当てるって寸法か。

  なるほど、初見ならだいたいのやつがこれで倒れるだろう。だが、それでもやはり俺には届かない。

 

  あえて正面から突き進む。前に進めば進むほど両端のレーザーとの間隔は狭まっていくが、体が二つ分入るくらいの隙間があればそれでいい。

  赤と青の光で埋め尽くされた視界の中でも俺の足が止まることはなかった。ほんの数センチ左右に移動しながら前へ、前へ。チリチリと服が焦げていくが、まるで弾幕の方から避けていくように、当たらない。

 

  慧音との距離はもう一メートルもない。刃を振るえば届く距離だ。しかしそれは同時に、避けるスペースが最も狭い場所とも言える。

  最後の弾幕。それを上からの切り下ろしで消し去る。そして手首を返して止めの一太刀。

 

「楼華閃『燕返し』」

 

  霊力を纏った刃での切り上げが、彼女の胴体を切り裂く。

  ただし、赤い花が咲くことはない。

 

「ぐっ……!うぅ……」

「安心しろ、峰打ちだ。妹紅の友人を切り伏せるつもりはない」

 

  小さく嗚咽を漏らす慧音。最後まで抵抗しようと俺に手を伸ばしてきたが、それっきりだ。糸の切れた人形のように彼女は気を失い、重力に従って地面へ落ちていこうとする。

  その前に彼女を片手で抱き抱え、丁寧に地面に下ろしてあげる。

 

  結界内はまだ戦闘が続いてるようだ。今もなお結界の内側では燃え盛る炎が暴れまわっていた。いくつもの火柱が噴き出すその様は、まるで太陽の表面を近くで見ているように感じさせてくれる。

 

「ったく、あいつら……見境なく暴れ回りやがって。結界張ってる俺の負担ぐらい考えろよ」

 

  しかしそんな凄まじい光景を目にしても、俺の口からはそんな感想しか出て来てくれない。妹紅を心配する気持ちも、何も浮かびはしない。

  ただただこのくだらない遊びが早く祈ることぐらいしか、今の俺の頭の中にはなかった。

 

 

 


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