東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「……あ、死んだ」
そうルーミアは声を漏らす。
妹紅の首から上は火神の拳の威力が強すぎたのか消滅。残った体は慣性の法則に従って火だるまになりながら吹っ飛んでいき、小屋の壁に大きな穴を空けて外へと吹っ飛んでいった。
「—–—–って、やべっ! 今の衝撃で小屋が崩れそうになってる!」
急いで『形を操る程度の能力』を発動。床に散らばった木片たちは独りでに壁に空いた大穴へ飛んでいき、それを塞いでいく。まるでビデオテープを逆戻しにしているかのような光景だった。
しかし……。
妹紅の手作りなのか、ずいぶんずさんな設計である。明らかに素人の仕事っぷりだこれは。
妹紅は雨風がしのげればいいのかもしれないけど、これじゃあ客人が来ただけで壊れちゃいそうだ。なのでせっかくだし、あとで直してやろう。
と、穴を塞ぎながらぼんやりと考えていると、妹紅が再生を済ましたらしい。痛そうに頭を抱えながらまだ完全に塞がってない穴をくぐってこちらに入り込んでくる。
「あー、いてて。師匠の拳はやっぱ痛いなぁ」
「たるんでる証拠だ。前のお前ならとっさに自爆かなんかで反撃出来てたはずだ」
「あ、どっちにしろ私は死ぬんですか」
「そりゃ当たり前だ。なんせ俺の拳なんだから」
妹紅は寝起きで殺されたことを根に持っているのか、ジト目で火神を睨みつけている。しかし火神はどこ吹く風でそれを全く気にしていなかった。
「……んで、なんで師匠がここに? というより、そちらのお嬢ちゃん方は誰?」
「あら、口の利き方に気をつけた方がいいわよ?
妹紅の言い方が気に入らなかったらしく、ルーミアはいつもの幼女形態を解いて本来の姿に戻ると、挑発するようにそう言い返した。
いきなり幼女が女性に、しかも自分を優に超えるプロポーションを持っている姿に変わったことに、妹紅は目を丸くして驚く。
それを見てルーミアは『勝った』とでも言いたげな笑みを浮かべた。
「な、な、な……!?」
「改めまして、私はルーミアよ。火神の
そう言ってルーミアは火神の腕に絡みついた。
おおっ、たわわな胸が押し付けられていい目の保養に……あ、無理矢理引き剥がされちゃった。
しかしそんな火神の対応でも、弟子である妹紅はそれが照れ隠しであることを見抜いたらしい。「まさか、あの師匠に彼女ができるなんて……」と思わず火神の前でつぶやいてしまって、拳骨を頭に落とされた。
……まあ、気持ちはわからんでもないが。
「いつつ……! んっ……?」
痛みをこらえるためにうずくまっているうちに、何かに気がついたらしい。
涙目のまま妹紅が次に注目したのは、私だった。
「桃髪に黒い巫女服……まさか、お前って……!」
「おー、よく気がついたね。—–—–正解、俺だ。」
変化の術を解いた瞬間、黒い煙が私から吹き出す。
そしてトーンが落ちた声とともに中から本来の姿へと戻った
「ふぅ……。今の姿もいいが、やっぱり俺はこっちの方が似合うな」
久しぶりに元に戻ったせいか、若干違和感のあった首を捻るとゴリッ、ゴギッ、という音が鳴った。おそらく筋肉が硬くなってしまっているのだろう。
まあ、そのうち慣れていくと思うし、仕方ないか。
「よう、久しぶりだな妹紅。変わりがないようで何よりだぜ」
「変わるも何も蓬莱の薬のせいで変わりようがないじゃんか」
「それもそうだな」
妹紅には申し訳ないけど、あまりに正確なツッコミに思わず笑ってしまった。
それをおちょくられていると思ったのか、彼女は若干ムスッとした顔になるが、それはそれ。気づかないふりをして、マイペースに話を進める。
「それで? この家には客人をもてなす茶も座布団もないのか?」
「ないよ。というかこの小屋にそんなものが置いてあると思う?」
「……マジかよ。てことはこの小屋が本当にお前の家なのかよ」
小屋内は四人入ると狭苦しく感じるくらいで、キッチンはもちろん、家具や置物は何にも置かれていなかった。
おいおい、いくら妹紅が不老不死でもこの生活は酷すぎるだろ。もう一人のワガママ姫と比べて、こいつには生を楽しんでる様子が微塵も感じられない。そのことに呆れていると、彼女の方から声がかけられてきた。
「まあとりあえず座りなよ。積もる話もあるだろうし、何もないけどここで立ってるよりかはマシだと思うよ」
「そうだな。んじゃ遠慮なくくつろがせてもらおうか」
言うが否や、俺たちは床へ座り込む。そして最後に妹紅があぐらをかいたところで、雑談が始まった。
まあ話と言っても、そのほとんどがくだらない昔話ばかりだ。あのころはどうだったか、どうしていたのかなどとひたすらくっちゃべってっていく。
もちろん、会話の肴である酒といったものはここには存在しなかった。しかしそれではあまりに味気ないという理由でいつもの酒を出すと、妹紅はまるで奇跡の水でも飲んでいるようにそれを味わい、口々に美味い美味いと呟いてくる。
はぁ……。この様子じゃこいつ、酒すらも滅多に飲んでないんだろうな。この分だと飯もロクに食っていないのかと心配になってきたぞ。下手すると修行僧とかよりも質素な生活をしているかもしれない。
まったく、これじゃあ慧音が心配しすぎて過労死してしまいそうだ。保護者というか責任者とでも言うべき人物はそのことにすら気づいておらず、呑気に酒呑んでるし。昔っから人の世話が苦手だったとはいえ、責任くらいは持って欲しいものである。
そんな風に過ごしていると、話が一段落つくころには日がすっかり暮れてしまっていた。外は来たころより薄暗くなっており、小屋の設計が下手なせいか隙間風がピューピュー吹いて来て若干寒くなってくる。
「ん? どうしたんだ楼夢。そんなに震えて」
「この欠陥住宅のせいだ。何で室内なのに外とほぼ同じくらい寒いんだよ」
「寒いって、大げさな。このくらい耐えられなくてどうするんだ。なあ師匠?」
「全くだ。最近鈍って来たんじゃねえか?」
そりゃ普段体から火を噴き出してるせいで温度の影響を受けないお前らは大丈夫だろうよ! でもこっちはそんな特殊な訓練積んでないんだよ!
唯一共感してくれると思っていたルーミアは火神に密着することで寒さをしのいでいた。
ジーザス! 味方はこれで誰一人いなくなった!
「だけどまぁ、この小屋も建ててから軽く百年は経つからなぁ。そろそろ建て替えるべきか」
「むしろこのオンボロ小屋でどうやって百年も持ったんだよ」
「オンボロ小屋って……。一応私が作ったんだけどなぁ……」
「うん、知ってた」
なんで師匠同様に戦闘以外のセンスが壊滅的なのかねぇ。やはり似なくてもいい部分も似てしまうのが師弟ってことなのだろうか。
まだ改善できるうちに真面目そうな慧音にコレの面倒を見て欲しくなって来たよ。
ちなみに火神は手遅れです。だってあいつ友人関係狭いうえにそのほとんどが家事できないんだもん。えっ、一人は残ってるからいいじゃんかだって? やだよ、俺はこいつの世話なんざ死んでもごめんだ。
「そういえばガキ、俺がやった石はどこにあるんだ?」
「げっ……!? それはそのぉ……はい、失くしました……」
「あぁっ?」
石? へぇ、火神が贈り物とは珍しい。
もっとも、妹紅はそれをどうやら失くしてしまったらしい。
それを聞いた火神の表情がさらにガラの悪いものに変わった。あーあ、目つきだけで人殺せそうな顔してるよ今。
「ち、違うんだよ! これはその……そう輝夜だ! 輝夜のせいで失くしたんだ!」
「おいおい、いくら宿敵とはいえ、自分の失態を擦りつけるのは良くないぞ」
「いやホントだって! あいつと殺りあってたらいつのまにか消えてたんだよ! 絶対あいつのせいだって!」
あ、輝夜とはもう殺し合ってたのか。というか不老不死同士の戦いってどうなるんだ?
一応その時のことを聞いてみると。
「決着つくわけないじゃん。殺しても殺しても蘇ってくる。全く、ゴキブリのようなやつだよあいつは」
「うわっ、なにその不毛な戦い。というかゴキブリの話に関してはお前にも言えるだろ」
「私をゴキブリ女と一緒にするな!」
正直な感想言ったらなんかキレられた。
多分だけど輝夜にこれ言っても同じような返事が返ってくるだろうなぁ。両方見てきた俺だから言えるんだけど、似てるんだもんこいつら。
んで、その後ふてくされた妹紅に色々聞いてみたところ、しょっちゅう永遠亭に出向いては決闘をしてるらしい。
いや仲良いなお前ら。
「まあなんにせよ、友達ができてよかったな」
「誰が輝夜と友達だ! 誰が!」
「いや、俺は慧音のことを言ってたんだが……なんで輝夜のことなんて思い浮かべたのかな?」
「おっ、おちょくるなぁっ!」
妹紅の炎を纏った渾身の蹴りが俺に繰り出される。
しかしさすがは本来の姿だ。スローモーションに見えるそれを掴むと、勢いをいなすようにしてそのまま後方へ投げつける。
後はもう物理法則に従って、妹紅は壁と激突して大穴空けながら外へ放り出された。
「ん〜、ちょっと温くなったんじゃねえか? そう思うだろ火神」
「……確かにな。これはちょっと気合い入れてやる必要がありそうだ」
「ケホッ、ケホッ……へ?」
悪い笑みを浮かべて、俺と火神は勢いよく外へ出る。ちゃっかりその衝撃波で小屋がバラバラに壊れるが、もう面倒くさいからいいや。知ったこっちゃない。
「きゃあああああああっ!?」
あれ、中にまだ一人取り残されてたっけ?
……まあいいや。
「ああああ! 私の家が!」
「後でそこのピンク大工が何倍もいいものに建て替えるから安心しろ。それよりも妹紅、石をなくした罰も兼ねて、ちょうどいい暇つぶしだ。俺と弾幕ごっこしろよ」
おい、誰がそんな約束した!
と言おうとしたけど、流石に家がないのは可哀想だ。しょうがない、今回ばかりは友人のよしみでタダで建ててやろう。
さて、そんなこんなで参稼報酬が決まったところで。
肝心の妹紅はまだ表情が引きつってる。
まあ当然か。弟子ならば火神の実力なんざ嫌という程分かってるだろうし、フルボッコにされるのは目に見えてるからな。
「……ちなみに、もし断ったら?」
「四肢全部削いだ後に肉片にしてコンクリートに詰めてやるよ。その場合はテンプレ通りに東京湾に沈めてやっから安心しろ」
「全然安心できない! ああもうわかったよ! やるよ、やります!」
ああ、死んだなあいつ。いや戦わなくても死んじゃうからこうするしか道はないのだけど。
とりあえず骨は拾ってやっから安心しろよー。
そんな呑気なことを考えていると、ふと私は思い出した。奴らがもっとも得意とする弾幕の種類を。
火神矢陽、二つ名『炎の悪魔』。
藤原妹紅、二つ名『激熱! 人間インフェルノ』。
……だめだ。こいつらがやり合ったら竹林が焼滅する未来しか見えない。
というわけで結界を発動し、ここら一帯を隔離することにした。
本来の姿になった俺の結界なら、火神の弾幕ごっこにも耐えられるだろう。
ちなみに結界は透き通っており、外からでも中の様子が覗けるようになっている。後はポップコーンと炭酸飲料を巫女袖から出せばあっという間に大アクション映画を見ている気分に早変わりだ。
……ん、妹紅がなんか叫んでるような……?
『ここから出せ』だと? お断りだ。
というかあいつ弾幕ごっこが始まったら適当に逃げるつもりでいたのか。だから結界で隔離された今、あんなに焦っていると。
まあどうせ逃げようが逃げまいが辿る道はみんな一緒なんだ。大人しく今日のところは死んでおいてくれ。
「んじゃ始めるぜェ……俺流の『弾幕ごっこ』をな……」
「クソッタレ! こうなればもうヤケだ! せめて一太刀でも入れて死んでやる!」
かくして、少女にとって圧倒的に不利な戦いが今始まろうとしていた。
頑張れ妹紅。負けるな妹紅。君の未来は明るい! ……たぶん。
投稿遅れてすみません。熱が出てしまい、数日は小説が書けませんでした。次回はもうちょっと早く投稿したいと思います。