東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
永遠亭がある方向から、今日一番の轟音が響いてくる。
……どうやら終わったようだね。異変が。
結果は見ずとも予想できる。霊夢達の勝ちだ。
とはいえ、私との弾幕ごっこで力を使い果たした彼女らだけでは永琳や輝夜の相手をするには厳しかったはず。ということはあの二人を倒したのは霊夢達以外の誰か、ということになる。
「と、ここまでヒントを出してから問題! 異変の首謀者を倒したのは果たして誰なのでしょうか!? 十秒で答えてね」
「えーと、えーと……わからないー!」
「……魔法使いのコンビと亡霊のコンビ。残ってるチームはそれ以外には存在しないはず」
「ピンポンピンポーン! 大正解!」
舞花は冷たい視線を清音に向けている。
まあよくよく考えれば誰にでもわかる問題だしね。テンパった清音が悪い。全く、術式はあんなにできるのになんでこういう問題は解けれないのだか。
さて、話を異変の方へ戻そう。
さっきの答え通り、魔理沙アリスペアと幽々子妖夢ペアが異変を解決したと推測できる。
では霊夢達は何と戦っていたのかだって? それは私の近くに転がっているものを見ればわかる。
「キュ〜……」
「お師匠様ぁ……すみませぇん……」
寝言でも謝罪してるなんて大した忠誠心だこと。
そう、私と娘達が合流してしばらく歩いていた時に、これを見つけたのだ。てゐと鈴仙の気絶姿を。
まるで私との戦いで溜まったストレスをぶちまけられたかのように彼女らの姿はボロボロだ。多分私たちの中で一番酷いと思う。
こうなった原因は十中八九このチビうさぎの煽り言葉かなにかのせいだろう。口は災いの元とはこのことを言うんだってね。
んで、そんな哀れな兎たちを運んで(もちろん娘たちが)いる間にようやく永遠亭の玄関前に到着した。……正面扉が思いっきり蹴破られた、ね。
「……うん、これは霊夢だね……」
魔理沙だったらレーザーの跡が残ってるだろうし、アリスと紫は女の子してるからこういうことはあまりしないはず。妖夢も根が真面目だし、幽々子じゃそもそも力仕事はできない。となれば犯人はもうあのヤクザ巫女で間違い無いでしょう。ご丁寧にヤクザキックの跡が扉にくっきりと残ってるし。
と、そんなことを思っていると中で再び轟音が鳴った。そして玄関近くの木製の壁をぶち破いて、見知った二人が姿を現わす。
「……ん、何よ、もう復活したの?」
「あれ? 霊夢、それに紫もなんでここに……って、今背負ってるそれってまさか……!」
「ああ、大将の首よ。残念ながら胴体付きだけど」
そう言って霊夢はぽいっと背負っているものを私たちの前の地面に放り投げる。
立派な黒髪に美しい着物姿の女性。……うん、皆まで言うな。もう正体はわかったから。
輝夜は目を閉じてぐったりとしており、どうやら気絶しているようだ。彼女は不死だから気絶とかには強いはずなんだけど……一体どれほどぶちのめしたのやら。
いや、というよりも一つおかしなことがある。
「ねえ、輝夜って魔理沙たちか幽々子たちが倒したんじゃないの?」
「バカ言わないでほしいわね。幽々子たちは別のやつを叩きに行ってたし、魔理沙たちに至っては廊下で二人仲良く寝かされたわよ。おかげでこんな体なのに戦うハメになったわ」
「そのせいでもうボロボロよ……。ああ、もうダメ、ゆかりんおうち帰る……」
「はい、そこ帰らないのー」
話す気力もないのか、紫はそのまま真横にスキマを展開して帰宅しようとする。けどこの後の話し合いは紫にしか務まらないので、入り込む前に首根っこを掴んで阻止させてもらった。
「ヤダヤダー! 痛い寒い眠ーい!」
「ナイスよ楼夢。……あとそこの九尾二人、こいつが逃げないように何かで縛ってくれないかしら?」
「はーい! 縛道の六十三『鎖条鎖縛』」
光の鎖が清音の術式によって出現し、紫を自動でグルグルに縛り上げる。あとついでかは知らないけど、輝夜の方も同じように縛られていた。
それでも紫は抵抗し続けるが、最終的に霊夢の拳骨が頭に落とされたことで大人しくなった。
うへぇ、今結構鈍い音してたぞありゃ。あんだけの激戦を繰り広げた後でもこの元気っぷり。……うん、やっぱこの子化け物だわ。
「あれ、じゃあ魔理沙たちはどこ行ったの?」
「さあ? 適当にそこらでのたれ死んでるんじゃないかしら」
「おいおい、私たちのおかげでそこの女を倒せたっていうのに、随分な言い草だな」
霊夢の後を追うように、壊れた壁の奥から魔理沙とアリスが続いて出てくる。
二人の服は敗北者の証とでも言うように汚れており、ボロボロだ。しかし魔理沙は素直にそれを認めたくないのか、口をとんがらせて霊夢に突っかかっていく。
「私たちがこいつの体力やらなんやらをギリギリまで削ったからこそ、今回の勝利があったんだぜ」
「過程は過程よ。結果的に私たちは勝って、あなたたちは負けた。文句あるかしら?」
ありゃりゃ、霊夢も随分と煽るね。というかこの二人って異変後はこんなにギスギスしてたっけ?
……ああ、そういえば二人は私や清音と戦う前に一回衝突し合ってたんだっけか。未だに火花を散らしてるのも、それが理由か。
「ぐぬぬぬ……! 今ここで決着つけてもいいんだぜ?」
「あら、望むところよ。もっとも、結果は知れてるけど」
「はーいそこまで」
すっかりヒートアップしてる二人の頭にチョップを打ち込む。彼女らは可愛らしい悲鳴を上げた後、涙目で私を睨んできた。
「ライバル同士争うのはいいんだけど、それは後日ってことで。……ほら、ちょうど黒幕さんも揃ったことだし」
私の視線の先。玄関扉が開かれ、中から幽々子と妖夢……そして後に続いて永琳が出てくる。
これで紅魔組以外の異変に参加したメンバーの全てがここに集まったようだ。永琳も縛られた輝夜を見てこれ以上は異変を続けられないと判断したのか、はたまた異変解決に来た連中が月の民ではないことを理解したのか、抵抗するようなことはなかった。
「さて、あんたが異変の首謀者ね?」
「ええ。私は八意永琳。そしてそちらで寝ているのが私の主人の蓬莱山輝夜よ」
開き直って、霊夢というよりかはここにいる全員に聞かせるように自己紹介をする永琳。しかし霊夢はそれを軽く聞き流すと、彼女に向かってお祓い棒を突きつけた。
「そんなことはどうでもいいわ。さあ白状しなさい。あんたがなんで今回の異変を起こしたのかを」
「……わかったわ。ちょっとこちらの事情も絡むから長くなるけど、全てを話すわ」
言葉通りに、永琳は隠すこともないと全ての情報を霊夢たちへ聞かせた。
永琳たちの正体。月の民の存在。そしてその月の民から輝夜を守るため、満月を入れ替えて地上へのゲートを塞いだことも。
それら全てを聞き終えた上で、霊夢と紫は大きなため息をついた。
「はぁ……あんたたち、スッゴイ無駄をしてるわよ」
「無駄……とはどういうことかしら?」
永琳の疑問に答える前に、霊夢はお祓い棒を天高く突き出す。その先にあるのは満月なのだが、しばらく見つめているとそれが夜空ごと一瞬だけブレた。
「今のは……?」
「結界を一瞬だけ緩めたのよ。ここ幻想郷は博麗大結界っていう超強力な結界に覆われているの」
「そしてその性質上、月の民が幻想郷に侵入することはないわ。決してね」
その言葉を聞いて半ば呆然とする永琳。しかしものの数秒で思考を取り戻すと、文句が言いたげな顔で私を睨んできた。
それに対して私はただ口笛を吹いて誤魔化そうとする。
いやたしかに、今回の異変は本当は無意味なものなんじゃないかって薄々気づいていたけどさ。そもそも博麗大結界を作ったのは私じゃないから断定はできないわけだし、なによりあなた写真集使って私を脅迫したじゃないですか。教えなかったのはそれの腹いせということだよ。
そんな風に思っていたのが目線から伝わってしまったらしい。さすが天才永琳、と褒める間も無く彼女は深いため息をついた。そして私にしか見えないように口パクで何か言ってくる。
えーと……?
『オ・ボ・エ・テ・ナ・サ・イ』
……見なかったことにしよう。
「それで。異変の首謀者の私たちにはどんなペナルティが与えられるのかしら?」
私への恨みを全く悟らせないポーカーフェイスで永琳が霊夢へ話を切り替えようとしてくる。
「ここって酒はあるのかしら?」
「え? ええ、結構余ってるはずだけど……」
「それじゃあ今日はここで宴会よ! 食料も酒も全部犯人が提供してくれるって言ってるし!」
「おっしゃぁ! 野郎ども、宴会の準備だぜ!」
わーお。さすが霊夢だわ。
見事に言質を取ってからの強引な展開へ引きずり込もうとする。永琳側は異変を起こしたという罪悪感から断ることはできないし、一声宴会と言えば幻想郷の住民はすぐに騒ぎ出す。結論、無償で大量の食料を提供せざるを得なくなる。
急な展開へ持ってかれて、流石に困惑している永琳の肩を叩く。
「ちょ、ちょっと! まだ許可していないわよ!」
「諦めなさいな。こうなった幻想郷の住民は止められないよ」
もうすでにテーブルとかが永遠亭内から無許可で引っ張り出されている。魔理沙なんかは盗み出した酒をもう飲み始めてるほどだ。辺り一面どんちゃん騒ぎである。
それに、と私は言葉を付け足す。
「霊夢は異変は解決するけど、交渉とかそういうのは興味ないんだよ。そういうの担当の人はあっちで縛られちゃってるし、そんな頭が痛くなるような話はまた後日ってことで」
「私はすでにこの人数分のお酒や食べ物を出すって時点で頭が痛いわ」
そう言って頭を抑える永琳。でもそれはまだ軽傷な方だよ。
だってこの後に幽々子によって予想していた金額を遥かに上回ることになるんだもん。そういう意味では今の彼女の脳内は幸せなのかもしれない。
でもまあ永琳もなんとなく理解したのであろう。幻想郷でのルールとやらを。文句を言いながらも宴会を開く気でいるのがいい証拠だ。
そうやって戻ってきた月が動き出すのと同時期に。
永遠亭主催の宴会が始まった。
♦︎
「おおっ、タケノコだぜタケノコ!」
「こら、行儀が悪いわよ」
テーブルに並べられた料理を見て魔理沙が瞳を輝かせる。それをなだめるアリスの視線も料理に釘付けになっている。
ちなみに作ったのは全て鈴仙だ。彼女は永遠亭の料理を担当しているらしいが、さすがにこの人数分の料理を作ったことはないのか、テーブルに品を次々と置いては目まぐるしく厨房へ戻っていく。
……いや、彼女が忙しいのは
「ふふ、美味しいわ〜。妖夢の料理とはまた味が違ってて飽きないし、これならいくらでも食べていられるかも」
出たよピンクの悪魔が。
幽々子はまるでブラックホールのように並べられた料理を次々と平らげていく。いやもう、実はあれ流し込んでるとかじゃないの? 一品食うのに三秒もかかってないよね?
……あ、鈴仙が駆け回ってる姿を見て楽しんでたてゐが悪魔に捕まった。
「あらあら、兎肉もあるのねぇ。至れり尽くせりだわ〜」
「ひぃえええええ!? ちょ、れいせーん! ヘルプヘルプぅ!?」
「ゆ、幽々子様! それは食べ物じゃありませんよ!?」
間一髪かじられそうになったところを妖夢が助けに入った。
残念そうにてゐを眺めている幽々子に再び料理が運ばれたところで、妖夢は彼女に声をかける。
「あの……もしよかったら手伝いましょうか?」
「本当ですか!? ありがとうございます! 正直手が足らなくて……」
「私にもやらせてくれ! 一人残されたら今度こそ食べられちまうよ!」
おお、あのイタズラ兎が自ら申し出るとは。よほど幽々子のことがトラウマになったのだろう。まああのままだったら絶対パックリいかれてたからね。
声を上げるが否や、まさに脱兎の如く厨房へと駆け出すてゐ。それを見送った後、私の視線は娘たちの方へ移り変わった。
「星に関する魔法を使うんだったら、いつでも最大限の威力が出せるように空に擬似的な太陽とかを打ち上げてみるのはどうかなー?」
「おいおい勘弁してくれよ。弾幕ごっこを始める前に私の魔力が尽きちまうぜ」
「人形の動きをもっとスムーズにするのなら、糸で一々操るよりもある程度の動きは自動化させて、魔法はそれのサポートに回した方がいい」
「うーん、魔法以外で人形をいじるのは苦手なのよね……。機械の勉強でもしてみようかしら?」
娘たちは魔女組と何やら意気投合し、魔法について語り合っているようだ。普段引きこもりの彼女らに友達ができてよかった。やはりこの異変に連れてきて成功だったようだ。これで三姉妹全員にも知り合いができたわけだし、今度の宴会からは積極的に参加していってもらおう。
んで、そんな彼女らからちょっと離れた縁側に私は座っていた。いや、正確には私たち、だけど。
「今回の異変は疲れたわ……。今日はお風呂炊いたらさっさと寝よ」
「はいはいお疲れ様でしたー」
「はぁ、誰のせいだと思ってるのよ」
「それは謝るって。ほら、お酒ついであげるから」
そう言って私は漆塗りの盃に酒を注ぐ。もちろんこれも永遠亭のもので、月の産物らしい。癪だけどさすがは月の民というべきか、その味は地上のものとは別格だった。
「でもなんというかねぇ……。久しぶりに飲むんだけど、やっぱり味が綺麗すぎるというか」
「久しぶり?」
「ああいやいや、もちろん始めて飲む酒だよ!? ただこれに似た酒を飲んだことがあるってだけで……」
「まあ確かに普段飲んでるものと全然違うから、ちょっと慣れが必要ね」
「そりゃそうよ。なんせ一々手作りで作られるから多少雑になる幻想郷の酒と違って、月はどうせ機械とかで大量生産してるんだもの。この綺麗さは味としては外の世界のものに似ているわ」
と、憶測を付け足す紫。
彼女も彼女で美味いと感じてはいるものの、浴びるほどは飲みたくないといった様子だ。
「全く……今では貴重な月の酒を空けたんだからもうちょっと感謝してほしいわね」
やれやれと言う風に文句を言う永琳。まあ考えてみれば月の酒が貴重なのも当たり前か。昔は月の住民だったとはいえ、今はもうあそこでは立派な罪人だ。だいたい逃亡したのが平安京が作られてすぐの出来事だから……うげ、最低でも千年ものかよ今飲んでるやつ。そりゃ文句を言いたくもなるさ。
「いいじゃないいいじゃない。こんなチンケな酒、チョビチョビ飲む方こそ性に合わないわ」
しかしまあそんな超レアものの酒も全く珍しく思っていないお姫様もいるようで。
男顔負けに顔を上へ向けると、ゴクゴクという音を出して輝夜は酒を一気飲みした。
本物の月影が照らすこの場に私、霊夢、紫、永琳、輝夜。この異変の中心人物全てが集結している。
しかしその間に緊張感はなく、ゆるやかな雰囲気だ。各自がマイペース過ぎるのが原因だろう。
ふと、霊夢が永琳と私にこんな質問をしてくる。
「そういえば、あんた今回の異変に報酬をもらって参加してるって言ってたけど、何をもらったのかしら?」
その一言でピキィッ、という音とともに場の雰囲気が一変した。
なぜだか冷たい風が吹いてきている。紫と私は誰よりも真剣な顔に、そして永遠亭組の二人は……悪魔のような笑みを浮かべていた。
お、おいお前らまさか……!?
「はい、これがその報酬よ」
「やめろォォォォォォッ!!!」
響け『舞姫』ェ!
その忌々しいブラックボックスを見た時、私の理性が弾けた。とっさに舞姫を解放し、永琳に切りかかろうとするも……。
「はーい、油断大敵よ?」
「くそっ、いつの間に……!? 離しやがれ!」
目の前の人類悪(私にとって)に気をとられるあまり、輝夜が背後から接近していることに気づけなかった。そして彼女の馬鹿力によって羽交い締めで拘束されてしまう。
そうこうしている間に永琳の手の中にあるものが霊夢へと近づいていく。その切羽詰まった状況化の中で頭が活性化したせいなのか、その動作が今だけ私にはスローモーションに見えた。
ああ、霊夢の手が徐々に不純物の元へ……。
こうなったら……!
「鳴り響け! —–—–『
「へっ—–—–きゃぁっ!?」
本日二回目の神解。体中の筋肉が悲鳴を上げ、妖力が枯渇していくのが感じられるが、今はそんなこと考える暇はない。
私はジェット噴射するような勢いで輝夜を弾き飛ばし、永琳と霊夢の間に割って入っていく。そして閃光のように通り過ぎたころには、私の両腕の中には写真集が抱きかかえられていた。
「よっしゃ! ギリギリセーフ!」
「……ん? なんか落ちてきたわね」
「へっ?」
ひらりひらりと、一枚の紙切れが宙を舞い、降下していく。強化された私の瞳は、それがよりによってアヘ顔ダブルピースのやつだということを認識させてくる。それが最終的に着陸した場所は—–—–霊夢の手の中だった。
「……うわぁ、まさかあんたがレズだなんて……これからは半径二メートル以内には近寄らないでくれる?」
「ぐはっ!」
そんなぁ……。霊夢が、私の霊夢が離れていく……。
めまいがしてくる。絶望と称すべき感情が私に流れ込んでくる。
しかし、地獄はまだ終わっていなかった。
「ちょうどいいわ。紫、これの廃棄処分は頼んだわよ」
「なによ、どんな女の写真が……」
睨みつけるような勢いで写真を見る紫。しかしそれは最初だけで、十秒ほど硬直した後、噴火したかのように顔を真っ赤に染め上げた。
……ああ、終わった……。何もかも……。
「なっ、なっ、なっ……!?」
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
言葉にならない声を上げる紫。そしてただただ感情のままに叫ぶ私。
もはや何もかもが吹っ切れた。ものすごい勢いで紫の手からそれを奪い取ると、写真集ごとそれを地面に叩きつける。そして右手を勢いよくそれらに向かって突き出す。
「こんなものォォ!! 『メラゾーマ』! 『メラゾーマ』! 『メラゾーマ』!!」
連続で火柱が立ち上る。もはや写真集は跡形もなく浄化されてるだろうけど、そんなことはお構いなしだ。この感情を発散するには、ただただ術式を放ち続けるしかなかった。
「メラガイアァァァァァァッ!!!」
こうして楽しいはずの宴会は、ただただ孫娘と友人に私の痴態を見せつけるという苦行で幕を閉じた。
永遠亭では、宴会が終わるまで少女の悲痛な叫び声が聞こえ続けたとか。
♦︎
「……ふーん。あの永遠亭の医者と楼夢ってそんな関係だったんだ」
「そりゃ大変なもんだったよ。当時の奴は好奇心の塊でね? 何かやるごとに毎回実験実験言って私をつき合わせてたよ」
宴会からの帰り道。
私と紫は、八雲邸までの階段を一緒に上っていた。
普段だったらこんなことはしない。なぜなら紫にはスキマがあるので、階段なんて上がる必要がないのだ。しかし今日は別で、私と一緒に歩きたいと言ってきたので今に至っている。
彼女が話す内容は基本的に永遠亭の住民の話ばかりだ。特に永琳と輝夜について。
そういえば、紫は私が昔月の民になる前の人間たちと一緒に暮らしていたのを知らなかったんだっけ。今となっちゃヘドが出るような話だけど。その時のことを、おそらく彼女は知りたいのだろう。
「ねえ、楼夢ってどこでどうやって生まれたの?」
「……分からない。森の奥、気づいた時にはこの世界に存在していた」
嘘だ。本当は知っている。
悲劇の果てに朽ちた人間、白咲楼夢。またの名を神楽。そいつが生み出した二つの分身のうちの一人。それが私だ。
しかしこのことを知っているのは私と狂夢、それと神楽の関係者の岡崎だけでいい。この秘密は墓にまで持っていくつもりだ。
「……そう」
紫は目を伏せると、ポツリと語り出す。
「私も生まれた時は一人だったわ。妖怪とは人間にとっての恐怖が具現化したもの。でも私には鋭い爪も、牙も、尻尾も角もなかった。つまり……なんの妖怪かがわからなかった」
紫のスキマ妖怪という種族名も彼女が自分でつけたものだ。
ごく稀に、この世には私や紫のような存在が生まれる。そういった存在は『一人一種族』などと呼ばれ、蔑まれ、食い物にされていく。
当然紫も同じ境遇を辿ったのだろう。ただ他のやつらと違うことは、彼女がその中で生き延びたことだ。
「ちゃんとした自我を持ってからは地獄だったわ。毎日毎日他の妖怪や人間に狙われて、逃げる日々。それで数十年程度経ってちょっと力をつけたら、今度はもっと強いやつが出張ってくる。それの繰り返し。終わらないイタチごっこのようなものだった」
「それで、気がついたら大妖怪最上位、か……」
「そうね。そして今度は誰も寄り付いてくれなくなった」
この少女の運命も中々に酷なものだ。
身を守るために力を得たのに、待ってたのは孤独。余計に自分を傷つける結果になるとは。
「そんな紫が人間と妖怪の共存する国を作るなんてね。どこで考えが変わったのやら」
「暇つぶしで人間に化けてた時にね。ちょっとだけ優しくされて……それがたまらなく嬉しかったの。今思えばちょっとしたことで心変わりしてしまう子供の拙い夢だったけど、動機なんてそんなものよ」
「そのちょっとしたことで変わる純粋さを今も保てたらなぁ……」
「あら、、私はそれじゃあまるで今の私が薄汚いって言ってるように聞こえるのだけど?」
「ちょっ、ギブギブ! 頼むから首締めないで!」
わーお、綺麗な笑顔。
顔が青ざめてきたころに辛うじてもう一度同じことを言ったら、やっと解放してくれたよ。やれやれ、酸欠不足で死ぬところだった。
そうやって戯れながら歩いていると、ようやく屋敷が見えてきた。
「さて、ここまでだね。話し合いに付き合ってあげたんだから、帰りはスキマで送ってよね」
「わかってるわよ。ほら」
紫が手を振りかざすと、空間が割れてスキマが出来上がる。真っ暗で中は見えないけど、奥はおそらく白咲神社に繋げてくれているはずだ。
「んじゃ、私は行くよ。お休みなさい、紫」
「ええ、お休みなさい。それと……」
「ん?」
言うのをためらったのか、わずかに言葉に間が空く。しかし顔を赤らめながらも言いたかったことを紡いだ。
「ありがとね、楼夢」
その時の紫の笑顔を見て、不覚にも私は可愛いと思ってしまった。しかしすぐに冷静さを取り戻すと、一言。
「……ああ」
曖昧な返事をして、スキマへ逃げるように飛び込む。
それはおそらく、今の私の顔を彼女に見られたくなかったからであろう。
神社に着いた時、私の顔は何故だかほんのりと紅に染まっていた。
「受験勉強忙しすぎる! ヤダヤダ、勉強したくないー! 作者です」
「お前また投稿遅れたのかよ。いい加減にしろよと言いたい狂夢だ」
「えー、先ほども言った通り、投稿が遅れてすみません。受験勉強が本当にラストにさしかかって来ており、自然と小説を書く暇がありませんでした」
「はぁ……これも受験生の末路か」
「というわけで冬休みに入ろうとしている時期ですが、これからの投稿はどんどん遅くなっていくと思われます。もしかしたら二月に至っては一切投稿しないかもしれません。ですが受験が終わったら必ずペースを上げていきたいと思うので、これからもよろしくお願いします」
「と、今日はこれからの方針を語ったところで終了だ。次回もお楽しみに」