東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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幽霊コンビとの遭遇

 

 

  静まり返った竹林内を進んで行く。

 

  あの後、レミリアたちは異変解決を断念したらしい。

  まあレミリアとフランが同時に大怪我をしたのだ。この状態のまま進めというのも無理がある。

  というか、あの弾幕ごっこの最後はちょっと反則すれすれだった。まったく、相手を殺しちゃいけないのに全力でやりあってどうするのやら。

 

  まあ全てをぶつけたからこそ、ああやって元の姉妹の関係に戻れたのかもね。

  これでフランはもう大丈夫だ。今までは私に依存していた節があったけど、今日でそれも消えたはず。あとは身内の方々にお任せするとしよう。

 

 

  私を姉と慕っていたあの子との距離がちょっと離れたことを若干寂しく思っていると、前方から誰かの気配が感じられた。

  そしてそれはだんだんこちらに近づいて来ている。

 

「ヤッホー清音、舞花。怪我はない?」

「大丈夫だよー。舞花はさっき一発もらっちゃったみたいだけどー」

「ごめんなさい……」

 

  そう言うと舞花はしょんぼりと頭を下げる。

  ほう、窮鼠猫を噛むとやらか。舞花は大きな傷は負っていないものの、服の一部分が黒く焦げていた。この感じだと多分魔理沙のマスタースパークによるものだろう。

 

「いいっていいって。無事お勤めを果たせたんだから」

「あれれー、お父さんが誘拐した女の子がいないよー?」

 

  むぐっ、誘拐って……。だからあれは誤解と言ったじゃん……。

 

「フランなら家に帰ったよ。先ほどその姉とメイドと戦ってきてね」

「じゃあ無事保護者の元に帰れたんだー。お父さんもこれを機に反省してねー?」

「いや私悪くないよ!? というか冤罪だって!」

 

  なんで私が悪いみたいになってるの!? 舞花も清音に同調するように頷くんじゃない!

  フランの家庭問題の次は私の家庭問題かよ。いつか娘たち全員に汚物を見る目をされなきゃいいんだけど……。

 

「……敵、来た?」

 

  そうやって騒いでいると、舞花が謎の気配を感知したらしい。

  数は四つ。それぞれ二人で逆方向に分かれていこちらに向かって来ているらしい。

  その中に、よく見知った霊力を感じられた。

 

「……清音、舞花。あなたたちはあっちのをお願い。私は逆を迎え撃つから」

「えっ、ちょっとお父さんー!」

 

  清音の返事を聞かずに飛び出し、目的の場所へと向かって行く。

  ふふふ、とうとう今日のメインディッシュが来たようだね……! 異変自体には乗り気じゃなかったけど、今だけは別だ。リベンジを果たさせてもらうよ、霊夢!

 

 

  ♦︎

 

 

「どうしたんだろーお父さん。あんな風になるのを見たのは久しぶりだよー」

「……でも、ちょっと楽しそう」

 

  遠ざかっていく小さな後ろ姿を見つめながら、清音は呟く。

  最後に見たあの瞳。まるで炎が宿っているかのような熱をそこに感じられた。

  そういえば、前に美夜から父がとある人間を大層気に入っていると聞いたことがあるようなないような……。だが、もしそうだとしたらあの様子も納得できる。

 

  清音たちにとって父とは世界の象徴だ。この世で何をしても許される唯一の妖怪だと本気で思っている。

  いや、許されるのではない。圧倒的な力を持つゆえに裁くことが誰にもできないのだ。対抗できるのはせいぜい鬼城剛か火神矢陽ぐらいだろう。しかしその二人でさえも、父に敗北している歴史がある。

 

  そんな全能の神のような父が他人に必要以上の興味を持つことはまずない。仮に親しくなったとしても、それは友人止まりだ。それ以上の関係にまで辿り着いたのは他の伝説の大妖怪と八雲紫……あとは詳しくは知らないが永琳と輝夜ぐらいか。

 

  だからこそ、そのお気に入りには多少の興味がある。が、今は見にいくのはやめにしておこう。先に目的の侵入者を倒してからだ。

  そしてその時はちょうど来てくれたようだ。

 

「妖夢〜、お腹空いたわ〜」

「ゆ、幽々子様、出発前にあれほど食べたじゃないですか!?」

「うーん、美味しそうな筍。生でもいけるかしら?」

「やめてください幽々子様! 絶対にお腹を壊しますってそれ!」

 

  なんか生気が感じられないのに騒がしい漫才コンビがやってきた。

  あれは……亡霊か?

  というかピンク髪の方が筍食べ始めたんだけど! しかも五つ同時に!

 

「舞花……リアルカ●ビィって存在したんだね……」

「百合にピンクの悪魔……今日は珍しくものをたくさん見る」

「あらら、呼んだかしら〜?」

「ひゅっ!?」

 

  コソコソと話していると、突如背後からそんな気の抜けた声が聞こえて、思わず清音は飛び上がってしまった。

  この亡霊、いつのまに……!?

 

「ふふ、そんなに驚くなんて面白いわ〜」

 

  清音の表情が面白かったのか、ピンクの悪魔はそう言うとニコニコと笑う。

 

  清音は妖狐、しかもその最高位である九尾だ。当然その五感は鋭く、普通だったら彼女が接近しているのを察知することができたはずだった。

  しかしそれを容易くすり抜けて来た亡霊。おそらくただ者ではないだろう。

 

「幽々子様っ! そいつらは敵ですよ! むやみに近づいちゃ……えっ?」

「んー、どっかで聞いたことがあるような声だねー」

 

  ピンクの亡霊の従者らしき人物は清音たちを見るやいなや、言葉を詰まらせて困惑したような表情を浮かべる。

  白髪の幼い少女剣士。見たことはない顔だったが、何故だか声だけは記憶に残っていた。

  どうにか思い出そうと頭を捻っていると、少女はおずおずと清音に問いかけてくる。

 

「あ、あの……すみません。あなた方はもしかして美夜さんのご姉妹では……?」

「ん? あー思い出したー! 美夜姉さんが稽古をつけてあげてるっていう女の子だー! 確か名前は……」

「魂魄妖夢です。そしてこちらにおらすのが私の主人の」

「冥界の管理人をやってる西行寺幽々子よ。よろしくね〜」

 

  冥界の管理人……道理で強者の気配がするわけだ。

  幽々子と名乗った女性はおそらく大妖怪最上位クラスの実力がある。すなわち清音たちと同格の存在ということだ。

  そして姉が直々に指導をしているという少女、魂魄妖夢。見た感じは幽々子ほど強そうではないが、彼女も用心しなければ。

 

  妖夢が清音たちの正体に気づいた理由は、おそらく顔だろう。白咲三姉妹は服装や趣味はそれぞれで違うが、顔立ちだけは非常に似ている。そのことで判断したのだと推測できる。

 

「白咲神社は基本異変に関わらないって聞いたのだけど、どういう風の吹きまわしなのかしら?」

「別にー。ただお父さんの命令、とだけは言っておくねー」

「なるほど、彼が……」

 

  清音が『お父さん』と呼んだ存在について心当たりがあったのか、幽々子は反応を見せると愉快そうに微笑む。

  その不気味な笑みを見て、清音たちの妖獣としての本能が告げる。この女性は危険だと。

 

「妖夢、さっそく修行の見せ所よ。頑張ってね〜」

「えっ、でも幽々子様、相手は美夜さんの……」

「美夜姉さんは関係ないよー。今の私たちは敵同士。異変を解決したいのなら、私たちを倒すしかないよー」

「……わかりました。魂魄妖夢、参ります!」

 

  妖夢が腰に差していた長刀と短刀を引き抜く。二刀流ということもあり、一瞬だけだが楼夢の姿が脳裏をよぎった。しかし彼女は楼夢ではない。すぐにそんな強者の面影は消えていく。

 

「……舞花、あなたはあの得体の知れない亡霊をお願い。私は剣士ちゃんの相手をするからー」

 

  舞花に近づき、そう耳打つ。

  舞花は特に秀でた部分はないものの、剣術と術式の両方を扱うことができる。故に対応力が高く、ピンクの亡霊が規格外の攻撃をしてきても簡単には倒されないはずだ。

  舞花もそれが分かっているのか、無言で頷く。

 

  ルールは先ほどと同様スペカ三枚に残機二個。

  そして開始の合図が出された後、いきなり妖夢が突っ込んでくる。

 

「やあっ!」

 

  気合いのこもった一閃。霊力の込められたそれは刃状の弾幕となって飛んでくる。それは清音が想像していたよりも速く、鋭かった。

  さすがは美夜が見込んだ少女だ。しかし舞花も負けていない。腕輪として身につけている『銀鐘(ぎんしょう)』を刀身から柄まで全てが銀色の刀に変化させ、それを切り裂く。

  同時に清音は数十の狐火を援護射撃として放った。

  しかしそれらは幽々子の放ったレーザーに全て貫かれ、標的に当たる前に空中で爆散してしまった。

 

  やはり、思っていた通りに強い。先ほどの魔理沙という魔法使いもレーザーを得意としていたが、密度も精度も幽々子の方が一枚上だ。

  だが、清音の術式は何も炎だけではない。

 

  『バギマ』。

  そう心の中で唱えると、三つの竜巻が地上から舞い上がり、辺り一帯のものを鎌鼬で切り刻もうとする。

  しかし二人を巻き込むことはできなかったようだ。幽々子も妖夢も竜巻の範囲外に移動してしまい、あっさりとバギマは不発に終わる。

  しかしこれはまだ序の口だ。

 

  『ヒャダルコ』。

  距離を取った二人に人一人分くらいのサイズはある氷柱を数個飛ばす。しかしこれも幽々子のレーザーによって相殺されてしまった。

 

  『イオラ』。

  幽々子と妖夢の周りに小さな光球が複数浮かび上がり、突如それらが爆発する。

  だが……これもか。

  幽々子はどこからか取り出した扇に妖力を込めてなぎ払う。それによって生まれた暴風により、爆風ごと吹き飛ばされて防がれてしまった。

 

  だが爆発がちょうど終わった時に合わせて、舞花が飛び出した。その手には先ほどの刀と拳銃が握られている。

  刃の弾幕と銃による乱射が彼女から繰り出された。

  今、幽々子は妖夢と近くにいる。ならば流れ弾で当たらないかと思ったのだが、なんと従者の方が前へ出て全ての弾幕を切り裂いてしまった。

 

「あらあら、多芸なのね〜」

 

  余裕を感じさせる笑みを幽々子は浮かべている。

  どうやら火力でゴリ押すという作戦は通用しなさそうだ。別にこれ以上威力を上げることもできなくはないが、そうなると弾幕ごっこのルールを破ってしまうことになる。

 

  ここからは頭脳戦だ。

  連携の点を見るに、相手も長い付き合いらしい。清音たちに勝るとも劣らない素晴らしいコンビネーションだった。

  つまり力量差はほぼ互角。……いや、個人個人で見れば妖夢という少女がいる分若干清音たちの方が優っている。

  しかし侮ってはいけない。大妖怪最上位クラスでなくても、舞花の斬撃と銃弾のコンビネーションを完璧に防ぎきった剣客だ。剣技だけなら美夜に匹敵するものと考えてもいいだろう。

 

  状況は均衡していた。どっちが優勢ということもなく、ただただ勝負が動かないまま時間だけが過ぎていく。

 

  弾幕を放ちながら策を巡らせる。この場合での迂闊なスペカの使用は逆に危険を招きかねない。そう理解しているからこそ両方ともスペルを唱える気がないのだ。

  逆に言えば、どっちかが隙を見つけてスペカを使えば、状況は一転する。そしてそれは清音たちの方が一つ早かったようだ。

 

「舞花っ!」

「んっ……!」

 

  両手に拳銃を握りしめ、ひたすらそれを幽々子に向かって乱発する。

  しかしそれを見逃す妖夢ではない。従者の鏡を見せるかのように主人の前に再び仁王立つと、二つの刀で弾丸を切り裂いていく。

  しかし大妖怪最上位の戦いにおいて、一度見せたものは二度通じることはない。

 

「極大消滅『メドローア』!」

 

  舞花の背後に隠れていた清音から、極太の閃光が放たれた。

 

  妖夢は幽々子が狙われると、必ず彼女の前に立って守ろうとする癖がある。それはそれで従者として正しいのかもしれないが、逆に言えば幽々子と妖夢は必ず同一直線上に並び立つことになるのだ。

  そこに無数の銃弾で妖夢を十分引きつけてからの、メドローア。

 

  普通だったら発動前に二人とも気づいたことだろう。しかし妖夢は幽々子を守るのに夢中で、幽々子は幽々子で妖夢が前に立つことで前方が見えなくなってしまい、お互い気づくことができなかったのだ。

 

  妖夢は両刀を斜め十字に交差させ、清音の閃光を受け止めようとする。しかしその程度で止まるメドローアではなく、妖夢はたやすく飲み込まれていった。

  そして閃光は妖夢の背後に立っていた幽々子にも襲いかかるのが、彼女の見た目に反する運動能力によって、ギリギリそれは避けられてしまった。

 

「惜しい、二人同時にノックアウトできる……と、思って……たのに……?」

 

  悔しがる素振りを見せていた清音の視界が突如ぐらりと揺らぐ。

 

「あ……れ……なんで……?」

「死蝶『華胥(かしょ)の永眠』。お休みなさい、いい夢を」

 

  最後に見えたのは幽々子の微笑みと、妖しげに宙を舞う蝶の姿。

  それ以降は目を開けることができず、清音の意識は闇に呑まれていった。

 

 

  ♦︎

 

 

「清音姉さんっ!」

 

  謀られた。相手の方が一枚上手だったようだ。

 

  珍しく舞花が声を張り上げる。

  清音が突如倒れたのには、それほどの衝撃があった。

 

  すぐにそばに駆け寄り、首筋に手を当てる。

  どうやら息はしているようだ。そのことにひとまず安心すると、すぐに元凶と思われる幽々子を睨みつける。

 

  幽々子の能力『死に誘う程度の能力』。それによって作られた蝶型の弾幕には本来触れたものを即死させる力がある。

  しかしそれは能力を最大限に使用した場合だ。手加減を加えれば清音のようにこうして意識だけを刈り取ることができる。

 

  しかしその情報は残念ながら舞花の知識の中にはなかった。しかし蝶型の弾幕に触れれば危険だということはなんとなく察することができたようだ。宙に舞うそれらを片っ端から撃ち落としたところで、幽々子のスペルカードは終了した。

 

  とはいえ、状況は圧倒的に清音が不利だ。二対二のタッグバトルでパートナーを失ってしまったのは致命的に痛い。

  舞花は気絶して無防備になっている清音が狙われないように、彼女の体を結界で覆い隠した。かなり強固なものなので、もし幽々子たちがそれを破壊しようとしても大半の意識をそっちに持って行かなくてはならないだろう。

 

  しかし妖夢も幽々子も清音を狙うつもりはないらしい。なにせわざわざ頑強な檻をこじ開けなくとも、目の前に孤立した絶好の獲物がいるのだ。これを逃す手はないだろう。

 

  絶対絶滅のピンチ。

  しかしそんな状況でも、舞花は取り乱したりはしなかった。それどころか極めて冷静に状況を見ている。

 

「……はぁ。巻き込むかもしれなかったからあまり使いたくはなかった……。でも、こうなったらもう関係ない」

 

  ため息を一つつく。途端に舞花の雰囲気が豹変し、同時に『銀鐘』が輝き始める。

 

「—–—–来い、虹弓『ラルコンシエル』」

 

  そのスペルカードの宣言とともに。

  舞花の手の中に、虹色に光り輝く弓が出現した。

 

 






「最近なにかとお腹を壊す作者です」

「そう言いながらこのコメントをトイレで書くのやめてくれないか? 狂夢だ」


「冬はどうしても腹の調子が悪くなるんですよね。昨日なんか朝登校前だけでトイレに3回も行ってしまいました」

「そのせいでクラス内じゃうんこ太郎とかうん太とかうんちのすけとか呼ばれてるんだっけな……」

「言われてませんよ! 変なあだ名つけるのやめてくれません!?」

「というかいい解決方法があるぜ」

「へっ? そんなのあるんですか?」

「便秘薬使えばいいじゃねぇか」

「その手があったか! 早速使って来ますね!」


「……行ったか。あのバカめ、便秘の意味も知らねェのかよ。クソを止めてェんだったら普通止瀉薬(下痢止め)だろうが……」

『あぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

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