東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「まずはこれでも、くらいやがれぇ!」
魔理沙の周りに緑色の三角形が多数出現する。『マジックミサイル』とも呼ばれるそれらは彼女の腕を振るう動作に反応して、名前通りミサイルのようにまっすぐ飛んでいく。
その先にいるのは金色の九尾—–—–清音だ。
「火力勝負? だったら負けないよー!」
清音も周りに赤い狐火を大量に浮かばせ、指を振るうと同時にそれらを射出する。
二種類の弾幕はぶつかり合うと、途端に爆発を起こした。しかし互角というわけではない。いくつかの狐火がミサイルに打ち勝ち、魔理沙へと襲いかかる。
「魔理沙、伏せなさいっ!」
後ろからアリスの声が聞こえ、とっさに魔理沙は身をかがめる。それとほぼ同時にアリスとアリスの人形たちからレーザーが放たれ、狐火を次々と迎撃した。
「魔理沙、これはタッグバトルよ。無理に突っ込んで行く必要は—–—–」
「……そう、これはタッグバトル。だからこんなこともできる」
ふとそんな呟きを偶然アリスの耳が拾った。
途端に体中に悪寒が走る。その言いようのない不安から逃げるように、アリスはほぼ無意識にその場を離脱した。
瞬間—–—–恐ろしく速いなにかが元いた場所を通り、人形の一体を貫いた。
「なっ……!?」
「ちっ……外した……」
今度ははっきりとアリス、そして魔理沙の耳にも聞こえた。
清音の体の後ろに隠れるようにしていた舞花はそう舌打つと、手に持っていた非常に長細い金属の塊を持ち上げる。
スナイパーライフル。誰もが知っている狙撃銃だろう。今持っているのは金属弾ではなく魔力の塊を放つという違いはあるが、舞花はそれを使ってアリスの狙撃を試みたのだ。
しかしそれは失敗し、二人の注意が舞花に向いてしまった。こうなってはもはやスナイパーライフルは意味をなさないため、彼女は狙撃銃を今度は二つの拳銃に変化させる。
舞花の『
しかしそれを知らない魔理沙とアリスは、武器が突如変化したことに非常に驚いた。そしてその隙を狙ってか、二丁の拳銃から交互に魔力弾が高速に放たれる。
「……っ、未知の魔法に未知の武器か……ヤバイけど、なんだかワクワクするぜ!」
「余裕かましてる場合じゃないわよ!」
拳銃の乱射の間を縫っては、狐火が放たれる。
一糸乱れぬ連携。それは清音と舞花が長年共に過ごしてきた故にできることだ。
個々の力も、連携も相手の方が上。そんな絶望的な状況に魔理沙たちは陥っていた。
「なんかいい案はないのか!?」
「あったらやってるわよ。ないからこうして防戦一方になってるんじゃない……っ」
「……こうなったら仕方がない! 連携もなにも関係なくしてやるぜ!」
「ちょ、ちょっと魔理沙っ!?」
魔理沙の箒が魔力の光を火花のように撒き散らし、彼女を乗せて加速していく。
一見無謀にも見える魔理沙の突撃を止めようとして、アリスは声を張り上げる。が、ふとなにかを思いついたようで、あろうことか彼女も魔理沙同様に姉妹へ突っ込んでいった。
「戦繰『ドールズウォー』!」
ある程度まで近づいたところで、アリスは魔法陣を展開する。そしてそこから数えきれないほどの武装人形たちを出現させると、全員に突撃命令を送り出す。
「ちょ、ちょっと多すぎじゃないかなー!?」
「……まずい、至近距離でこんなの出されたら……混戦になる」
いくつもの狐火と魔力弾が人形たちを撃ち落としていくが、キリがない。そうこうしているうちに魔理沙たちは姉妹に十分近づき、手当たり次第に弾幕をばらまいていく。
混戦。それこそがアリスの狙いだ。
そうなれば戦況は入り乱れ、周りに気を使うことが難しくなる。結果、姉妹の連携を断つことができるのだ。
「オラオラオラァ! 弾幕はパワーだぜ!」
「……っ、ちょこまか……!」
「—–—–よそ見をしている場合かしら」
「しまっ……!」
魔理沙に気を取られている隙に、素早くアリスは舞花の後ろに回り込み、弾幕を放つ。それらはとっさに展開された結界に阻まれたが、そのうちのいくつかが舞花の服をかすめていたのが確認できた。
「邪魔だよー!」
「あいにくと私の人形たちは数が自慢なのよ。物量勝負だったら負けないわ」
「それに、火力担当もこっちにいるぜ!」
アリスを狙って狐火がいくつも放たれる。しかしアリスは盾を持った人形たちで壁を作り、それらをことごとくシャットアウトしていく。そして術式に意識が削がれている隙を突いて、魔理沙のレーザーが清音に襲いかかった。
それらは舞花と同様被弾はしなかったが、いくつかがかすり、肌から血が少量滲み出てくる。
このように有利に戦況を勧められているのにはまだ理由がある。
偶然か必然か、魔理沙と清音、アリスと舞花の戦闘スタイルはある程度似ていた。もっとも、個々の能力は比べるまでもなく姉妹の方が上だ。
だが勝負には相性というものがある。火力で押してくる清音には数で勝負するアリスで、同じように数で押してくる舞花には火力で勝負する魔理沙というように。
別々のタイプであれば、相性が悪くない限りそう簡単にやられることはない。
そうやって普段は一対一を二つ繰り広げるが、隙を見て一瞬だけ二対一に持ち込み、また一対一に戻す。
そして姉妹にはそれができない。なぜなら魔理沙たちと違って清音たちは移動しようとするとドールズウォーで召喚された人形群が壁となり、それを遮ろうとするからだ。
「……マズイ姉さん、まずは人形を壊さないと……っ」
「うーん、こっちも一枚使うしかないねー」
清音はカードを構え、腕でなぎ払うような動作を取るとともに宣言する。
「赤符『紅蓮の九尾』」
「なっ……私の人形が……っ!」
清音の身長よりも大きな九尾に突如炎が宿る。そして彼女はそれで周囲を思いっきりなぎ払い、周りにある全ての障害物を焼き払った。
「くっ……まだよ! まだ私の人形はたくさんいるわ!」
アリスの命令により、大量の武装人形たちは清音を四方八方から取り囲む。あまりの数に清音の姿が人形群で覆われて見えなくなるほどだ。
「八方向じゃ足りないなー。こっちは九方向に対応できるんだから」
しかし、清音に焦りはなかった。
先ほどのように一つにまとめてなぎ払うのではなく、九本の尾がそれぞれ別々に振るわれる。
九つもの尻尾が近距離で振り回されているのに、それぞれがぶつかり合ったりすることはなかった。まるで尻尾一つ一つに意思があるようだ。
そして全方位から迫り来る人形たちを次々と鞭のように叩き落とし、灰燼へと帰させていく。
「……今がチャンス、かな?」
「っ、しまった!」
ドールズウォーで召喚された人形たちが一掃されたことによって、姉妹の連携を阻害するものがなくなってしまった。
舞花は対峙している魔理沙を出し抜き、人形の操作で動きが鈍くなっているアリスへ弾丸を連射した。
「きゃっ!?」
「隙あり。一つ目もーらいっと」
突如迫り来る弾幕に気づいたアリスは、とっさに身をひねってそれをギリギリ回避する。が、それに意識を取られて、彼女に急接近してくる清音の存在に今の今まで気づくことができなかった。
一メートルあるかどうかの距離。しかも無茶な回避をしたせいで体勢が崩れていて、避けようとすることすらできない。
そして無慈悲にも、炎の尻尾が振るわれる。
「—–—–アリスゥゥゥゥ!!」
しかしそこに突っ込んでくる光が一つあった。
魔理沙だ。彼女は舞花を置き去りにして最高速度で箒を飛ばし、アリスを突き飛ばしたのだ。
おかげでアリスは清音の攻撃範囲から逃れられ、間一髪避けることに成功した。だが魔理沙は—–—–。
「ぐ、う……っ!!」
「魔理沙ぁ!」
炎を纏った尻尾が魔理沙の腹部に直撃する。そしてその肉を焦がしながら、彼女を地面へそのまま叩き落とした。
すぐにアリスが魔理沙の元に駆け寄り、先ほど攻撃された部位を見る。
酷い……とまではいかないが、かなりの怪我だ。彼女の服の腹部にあたる部分は焼け落ちており、その下にできた大火傷の跡が露出している。
間違いなく、弾幕ごっこじゃなかったら即死ものだっただろう。
「馬鹿……! 弾幕ごっこは被弾数で決まるんだから、庇っても意味なんかないじゃない……!」
「へ、へへっ……なんかお前私よりも貧弱そうだからよ。守ってやらなきゃなって思って……痛っ」
「……余計なお世話よ。……でも、ありがとう……」
最後にボソリと感謝の言葉を告げ、アリスは立ち上がって空を睨みつける。
どういうわけか、アリスが怪我を見ている間姉妹たちは攻撃してはこなかった。それどころか顔を赤らめて、何か興奮しているような……?
「ど、どうしよう舞花ー! 私、本当の百合なんて初めて見たよー!」
「じゅるり……百合は漫画こそ至高と思ってたけど……これはたまらない」
お忘れになっているかもしれないが、この二人は引きこもりだ。故にいつも漫画やらをダラダラと呼んでいたりするのだが、二人の性癖は少々特殊だったりする。
つまり、
しかし悲しきかな、魔理沙とアリスは自分たちがそんな風に思われているなどとはつゆほどにも思っていなかった。
「私たちを待っていてくれたのかしら? 随分と余裕そうね」
「いやー、待ったというか、あの雰囲気は壊しちゃいけないというかー」
「……ふふ、あなたたち気に入った……」
「なんなんだぜこいつら……? 気色悪ぃ……」
復帰した魔理沙がそう呟く。
攻撃を当てたのはあちらなのに、妙に瞳に熱がこもっているのは気のせいだろうか。
だが考えていても仕方ないと判断し、魔理沙たちは動き出す。
しかしさすがにそれ以上は待ってくれないようで、姉妹の方も魔理沙たちに合わせて行動を始めた。
「アリス、今度はどうすればいいんだ!?」
「銀色の方を狙いなさい! 金髪は私が抑える!」
「了解だぜ!」
アリスの指示に従い魔理沙が舞花をマークする。
「……姉さん、やっちゃってもいい?」
「いいよー。あと一発なんだから、ここで仕留めてよねー」
「……わかった」
銀鐘が液体のような形状に変化して舞花の周りを飛び散る。それらは幾百もの雫となって空中に漂い、そして舞花の意思によってその形を歪ませていく。
そして出来上がったものを見て、魔理沙は口をあんぐりと開けて驚いた。
「……おいおい、嘘だろ……冗談きついぜ」
「……受け取れ……乱射『マナバレット・フルバースト』」
空中に浮かび上がったのは、無数の銃口。それらに緑色の光が集中していき、魔弾が狂ったように乱射された。
「魔理沙!」
「おっと、行かせないよー。ここで落とせば私たちの勝ちなんだからー」
魔理沙のピンチを悟ったアリスが援護に向かおうとするが、その前に清音が立ちはだかる。そして周囲を覆うように炎の壁を作り出し、アリスを自分ごとその中に閉じ込めた。
「くっ……ヤベェ、このままじゃ持たないぜ……!」
竹と竹の間を縫うように、魔理沙は竹林を縦横無尽に飛び回る。背後から聞こえてくる粉砕音が彼女の心をキリキリと締め付けていく。が、止まることはできない。そうした時点であの無数の魔弾が自分に襲いかかることが確定しているから。
幸いだったのは、ここが入り組んでいる場所だったということだ。高速で射出される魔弾から竹のカーテンが魔理沙を守ってくれている。
しかしここまで避けられたのは、それでも奇跡に近い。弾丸から逃げるためには常に最高速度を維持しなくてはならず、少しでも気を抜けばたちまち己を守ってくれていた竹が自分にも襲いかかっていたことだろう。それを成し遂げることができたのは、極限状態にまで追い詰められた集中力ゆえか。
「何か……何かないのかっ!?」
いずれにせよ、何か打開策がなければこの危機を脱することはできないだろう。極限の集中力も長くは続かない。そしてそれが切れた時こそが、この弾幕ごっこの最後だ。
「ガッ……!?」
そしてとうとうその時がやってきてしまった。
僅かにスピードが緩んだせいで、魔弾が竹に当たった時の爆発に巻き込まれ、魔理沙は地面に放り出される。
背中を打ち付け、地べたを転がっていく。
その時、彼女は見た。
彼女のすぐそば。ボロボロになった人形が同じように地面に落ちているのを。
……これはアリスのだろうか? おそらく先ほどのドールズウォーの残りだろう。かすかに焼けた跡から黒煙が吹き出しているのがわかる。
「人形……アリス……煙……そうか、思いついたぜ!」
空から無数の緑色の光が地面をえぐっていく。それを身をかがめて転がることでギリギリ回避した魔理沙は、スカートのポケットから謎の丸い物体を取り出した。
そしてそれを真上にいる舞花めがけて、思いっきりぶん投げる。
「……そんなもの……っ!?」
もちろんか弱い少女の腕力では投擲してもスピードは出ない。そのためあっさりと舞花に避けられてしまった。
だが、それでいい。なぜならそれは
舞花が避けた直後に、丸い物体が一瞬光ったかと思うと、突如そこから白い煙が噴き出した。
「これは……煙幕弾!?」
「魔法をぶっ放すことだけが魔法使いと思うなよ! マジックアイテムくらい、私だって作れるさ!」
八卦炉や人形しかり、魔法使いというのは必ずマジックアイテムを持ち歩いているものだ。そして同時に魔法使いはマジックアイテムを作り出すこともできる。ならば彼女が煙幕の一つや二つ持っていても、なんら不思議ではないだろう。
白い煙が辺りを包み込む。元々迷いの竹林は霧がかっていることもあり、舞花の視野は最悪の状態になった。
しかし舞花に焦りはない。妖獣は元々聴覚や嗅覚が優れているのだ。目が見えないぐらいで、射撃の精度は落ちることはない。
不意に、右側の方から黒い影がうっすらと浮かび上がる。だが事前に匂いを嗅いでいた舞花はそれに気づいていて。
「……そこ!」
向かってくる影の中心を寸分違わず撃ち抜いた。
勝った。そう判断し、一瞬だけだが気が緩んでしまう。しかしそれは間違いだった。
やがて霧が晴れ、視野が元どおりになる。そこで初めて、先ほど撃ち抜いた影の正体を見て、舞花は驚愕した。
「これは……偽物……!?」
「アリス特製魔理沙人形だ! 珍しい魔法がかかってたから盗んでポケットに入れておいてたけど、まさかこんなところで役に立つとは思わなかったぜ!」
なぜ珍しいのかというと、サイズ変更可能な魔法がかかっていたからだ。普段は小さくしてポケットに入れておいていたのを、本物と同じサイズまで巨大化させ、それを囮にしたのだ。
たっぷりと匂いのこびりついたそれを見抜くことは、流石の舞花でも困難だったのだろう。その結果、見事逆を突かれ、無防備にも背中をさらしてしまう。
「くっ……このぉっ!」
「遅いぜ! 恋符『マスタースパーク』!」
七色の極太光線が舞花を呑み込む。
これで残機は両チームとも残り一。
「まだだぜ!」
しかし魔理沙は舞花の被弾を確認もせずに、すぐさま箒で元来た道を戻っていく。
目指す先は炎の壁の向こう。マスパを撃った反動で発射口から白煙を出しているミニ八卦炉を後ろに向け、再びスペカ宣言。
「『ブレイジングスター』!!」
マスタースパークがジェットのように凄まじい推進力を箒に与え、魔理沙の速度は加速していく。
その姿、まさに彗星。
「魔理沙はなんとか切り抜けてくれたようね……だったらこっちも!」
マスパが放たれる時の独特な発射音で、炎の壁の内側にいるアリスも、魔理沙が迫って来ていることに気づく。そして彼女に負けてたまるかと、清音へ人形ではなく糸を繰り出した。
舞花がやられたことに驚愕していた彼女にはそれを避けることができず、体を拘束するように糸が巻きつく。
「こんなの……私の炎で……!」
たしかに、彼女なら数秒程度でこの拘束から脱出することができるだろう。
しかしその数秒で十分だった。魔理沙がここにやってくるには。
「いくぞ、清音ォォォォォンッ!!」
炎の壁を突き破り、彗星が迫ってくる。清音との距離は目と鼻の先だ。
避けられるはずがない。魔理沙たちがそう思ったその時—–—–。
「—–—–あーあ、ほんとはこれを抜きたくなかったんだけどねー」
この状況において場違いなそのセリフ。
清音の腰に差された双刀が抜かれる。それらはそれぞれ赤と青の光を纏っていく。そして極限にまで集まったそれらを打ち付け、清音は最後のスペルの名を唱えた。
「極大消滅『メドローア』」
打ち付けた双刀から炎と氷の巨大閃光が放たれた。
それは彗星と化した魔理沙と衝突し、互いにせめぎ合う。
「ぐっ、く……くそぉぉ!!」
しかし均衡は長くは続かなかった。
あまりの威力に押し負け、悔しそうな声をあげながら魔理沙が弾かれる。そして閃光は彼女を飲み込み、彼方へと消えていった。
二回目の被弾。首謀者側と解決者側の記念すべき一戦は、姉妹たちの勝利で終わった。
「なんか最近飴玉にハマってる作者です」
「元々テメェは甘党だろうが。狂夢だ」
「今回は作者にとってはテスト明けで久しぶりの戦闘描写か……」
「ブランク空けるたびに、あれどうやってここ書くんだっけ、ってなりますよね。今回はちょっとぎこちなくなっちゃったかも」
「そういえば魔理沙が自分そっくりの人形を盗んだって書かれていたが、なんでんなもんがアリスの家にあったんだ?」
「……その理由はお察しください」
「……ああ、そういえば片方は本当の百合だったな」