東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「楼夢が幼女を攫ってきた……」
「うわぁ、最低ねこいつ……」
「お父さん……」
「……変態……」
「いやいや違いますからね!?」
くそったれ! 帰って早々これかよ!?
永琳、輝夜、清音、舞花の冷たい視線がそれぞれ私に突き刺さる。
ちなみに鈴仙とてゐは隅の方でフランの面倒を見ているので、この精神攻撃には加わっていない。しかしなんとなく彼女らも私への対応が冷たかったような……。
いや、それらを気にするよりも先に全員の誤解を解かなければ。
「だから説明したでしょ!? 迷える子どもを保護しただけって!」
「問答無用! 私が引導をくれてやるわ!」
「上等だコラァ! こっちもやってや……ボゲラハッ!?」
勇ましく拳を構えようとした直後に、私の顎に輝夜のストレートが直撃した。その威力は凄まじく、私の体はその勢いで後ろから縦に回転し、そのまま畳に後頭部を打ち付けてしまう。
ぐおぉぉ……! おのれ輝夜ぁ、引きこもりでその腕力は卑怯だろうが……!
しかしそんなのは知ったこっちゃないと言わんばかりに輝夜は私の上半身の上に飛び乗るとマウントポジションを取ってくる。
「手伝いなさい永琳!この馬鹿を粛清するわよ!」
「そうしたいのは山々だけど、タイミングが悪かったわね。侵入者よ」
その言葉の直後に、竹林の方から轟音がこちらまで響いてきた。
いや、一箇所だけじゃない。それに人数もかなり多いぞこりゃ。
霊夢、魔理沙は来ると前提して、フランの情報からレミリアと咲夜が来ることが確定している。しかし感じ取れる妖力はそれ以上だ。
おいおい、なんで私が参加する異変に限ってこんな大世帯なんだよ!
「ウドンゲ、てゐ、清音、舞花。あとは任せたわよ」
「ねえちょっと待って! なんで私の名前はふくまれてないの!?」
「あなたはお仕置きしてから出撃よ。文句は言わせないわ」
上半身を押さえつけられて動けない私の目に、銀色に光る細い針が映り込む。
嫌だぁ! それだけはやめてくれ!
私は助けを求めるが、返事は来なかった。ただ襖が開かれ、四人分の足音が遠ざかっていくのだけが無情にも聞こえてくる。
「あ、あぁ……あぁぁぁぁぁぁっ!!」
先っぽから液体を垂らしている針がだんだん近づいて来る。
そしてチクリという感触の後、永遠亭中に私の甲高い悲鳴が響いた。
♦︎
「ふぅ、なんだか景色が変わらなくてつまんない場所だな」
「逆に言えば首謀者が身を隠すにはうってつけね」
無数の竹と闇に閉ざされた世界を二人は歩いていく。
霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイド。かつて春雪異変の時に弾幕ごっこで対戦した者たち。そんな彼女らはあの後仲良くなったようで、今も協力して今現在起きている異変を解決しようとしている。
「おわっ、天然のたけのこだ! しかもこれは極上物だぜ! 持って帰らないと……」
「待ちなさい魔理沙。異変が終わってからにしなさい」
「えー? 私は今採りたいんだぜ」
「そんなものを持ちながら弾幕ごっこができるなんて、随分偉くなったものね」
「ちぇ……もったいないぜ」
もっとも、アリスの方はこのように時々暴走する魔理沙を抑えるのに若干疲労気味ではあるが。
まあ魔理沙が騒ぎたくなる気持ちもわかる。竹林内では今のところ何も手がかりが見つかっていない。これじゃあ気が滅入るのも仕方ないだろう。
ため息をついたその時、かすかだが誰かの足音が聞こえた気がした。
「魔理沙、今の聞こえたかしら?」
「ああ、バッチリだぜ。とうとう犯人を見つけたぜ!」
鼻息荒く魔理沙はそう言うと、あろうことか大声を張り上げながら敵がいるであろう方向に突っ込んで行ったのだ。
アリスが制止の声をかけるが、時すでに遅く。あっという間に彼女の視界から魔理沙の姿が消えてしまった。
「ああもう! たまには人の話を聞きなさい!」
こうなっては仕方がない。ここ迷いの竹林で魔理沙と別れれば、次に合流できるのはいつになるかわからない。それを理解しているアリスは頭を抱えると、すぐに魔理沙の後を追うために走り出した。
そうして何分経っだだろう。絶え間なく前方から聞こえ続けていた魔理沙の奇声が突如聞こえなくなった。
そのことを不可解に思いながら走っているとようやく魔理沙の姿が見えてくる。アリスは彼女に追いつくと、その肩を思いっきり引っ張った。
「ちょっと魔理沙、迂闊すぎるわよ!」
しかしその言葉も、魔理沙にはまるで届いていなかったみたいだ。
なにか様子がおかしい。彼女は呆然とその場に立ち尽くしていて、その瞳はある一点だけを見つめている。しかしアリスが来ていたことには気づいていたのか、振り返らずにただ彼女に問いかけた。
「なあアリス……あれをどう思う?」
「あれって、あなたはなにを……っ!」
思わず激昂しかけたが、その気持ちも途端に霧散してしまった。
魔理沙の視線の先。そこには—–—–。
「……おいおい。なんで霊夢が妖怪と一緒にいるんだよ!」
霊夢の隣を金色の髪を持つ女が歩いている。
世間にはあまり関わらないアリスでも彼女が何者かは知っていた。
妖怪の賢者、八雲紫。それが霊夢の隣にいる化け物の正体だ。
相手側もこちらに気づいたらしい。臨戦態勢でアリスたちは霊夢たちと対峙することになる。
「はぁ……魔理沙、やっぱあんたもここに来てたのね」
「霊夢、これは言い逃れできないぜ! 観念しな!」
「はぁ? 観念? あなたはなにを……」
「この明けない夜を作り出したのはお前だろ紫! それが何よりの証拠だ!」
魔理沙の言葉に、思わずアリスも今回ばかりは納得してしまった。
たしかに。妖怪は千差万別ではあるけれど、『明けない夜』という、ここまで大きな概念を捻じ曲げられる人物は限られてくる。それの最有力候補が紫というのは理にかなってる。
「ちょっと魔理沙、話を聞きな……」
「あらあら、バレちゃったら仕方ないわね」
「ちょっと紫!?」
そしてここでまさかの犯人候補自らの自白。鵜呑みにするわけではないが、目の前の二人が異変のなんらかに関わっているという可能性はこれで大幅に高まった。
「やっぱりそうだったのか……許せないぜ霊夢。博麗の巫女のくせに妖怪側に寝返るやつなんて、私が成敗してくれるぜ!」
「悪いけど、あなた達は怪しすぎるわ。ここで退治して異変の犯人なのかどうか確かめてあげる」
「ほら、やっこさんたちはやる気満々みたいよ?」
「あんたねぇ……っ! あとで覚えておきなさいよ……っ!」
魔理沙は八卦炉を、アリスは複数の人形を周りに展開する。
その後、とある竹林の一部で激闘が繰り広げられることになった。
♦︎
「ねぇ、あれって仲間割れー?」
「……もしかしなくてもそう」
清音と舞花は、霊夢たちの弾幕ごっこを手を出さずに遠くから眺めていた。
あれほどの手練れがいる中での監視は通常かなり難しいだろう。下手に近づけば一瞬でそれを悟られることになる。
しかし清音の術式ならばそれも可能だ。視界望遠と物体透視を組み合わせた魔法を使い、入り組む竹に邪魔されずに遠くからのんびりと激戦を眺めることができる。
「うーん、やっぱ紫さんたちが優勢だねー。ま、単なる魔法使いと魔女が手を組んだにしては上出来かな?」
「……あ、逃げ出した……」
「あちゃー、勝てないと見て一旦逃げちゃったか。紫さんたちもこれ以上追うつもりはないみたいだし、これでこの弾幕ごっこは終了みたいだねー」
それだけ言うと清音は地面に手を当て、清音と舞花が立っている場所を包むほどの魔法陣を展開する。
「ねえ。もし敗戦した直後に別の敵に当たったりしたら、相手はどうなると思うー?」
「……そういうことね。清音姉さんも人が悪い……」
「理解できたみたいだねー? それじゃあ行くよー」
清音の合図によって魔法陣が光り輝く。やがてだんだんと光は大きくなっていき、外からじゃ中が目視できないほどの光量を持つドームを構築する。そして一瞬光が収まったかと思うと、一気に光が破裂し、辺りを眩く照らし出した。
しばらく経つと、光が収まっていく。魔法陣があった場所にはなにも残っていなかった。まるでこの場所だけが切り取られたようだ。
そして切り取った場所はある座標に貼り付けられることになる。
「ヤッホー。驚いたー? 驚いたよねー?」
「なっ!?」
霊夢たちとの弾幕ごっこで負け、敗走している魔理沙たちの前方に、突如眩い光が出現した。
その中から、金髪と銀髪の少女たち—–—–清音と舞花が姿を現わす。
「な、なんなんだぜこいつら? 一瞬で私たちの目の前に現れやがった……」
「この感じ……空間系の魔法、かしら?」
「おいおい、あんなのも魔法なのかよ! 冗談キツイぜ」
「確証は持てないわよ。空間系の魔法はどれも超高難度で、パチュリーでさえ実用化には至ってないんだから」
魔理沙もアリスも、今のを見たことでかなり動揺してしまっている。
当たり前だ。魔法は魔法といっても、彼女らが普段扱うのと清音がたった今見せた魔法では文字通り次元が違う。特にその実力差をよく理解してしまったアリスは完全に萎縮してしまっている。
それを知ってか知らずか、清音は初登場と変わらず、明るい笑みを浮かべている。が、月光で照らされるその顔は、今だけはひどく不気味に思えた。
「セーカイ。そっちの金髪の……って、二人とも同じ色だったね。それじゃ人形のお姉さんとでも呼ばせてもらおうかな?」
「へっ、お前も同じ金髪だろうが。名前でも訪ねてみたらどうなんだぜ?」
せめて恐怖心に負けないようにと、精一杯の虚勢を魔理沙は張る。そのある意味勇敢な姿を見てアリスも徐々に冷静さを取り戻していき、震える足で魔理沙の横に並び立つ。
「うーん……じゃあ聞こっかな。あなたたちの名前は?」
「霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ」
「アリス・マーガトロイド、魔法の森の魔女よ」
「私は清音。白咲清音っていうんだよー。それでこっちが私の妹の……」
「……白咲舞花。よろしく……」
『白咲』という名字を聞いて、二人は互いに驚いたような顔をする。なぜならその名前に聞き覚えがあったからだ。
「お前ら、もしかして美夜のやつと同じ……」
「そだよー。私たちは美夜姉さんの妹」
「だったら戦う意味はないんじゃないか? 私たちの目的は異変を解決することだぜ」
「私たちの目的はそういう人たちを排除することなんだよねー」
魔理沙は前に美夜が協力してくれたので、清音たちも異変解決に来たと思い込んでいたのだろう。しかしそれは大きな間違いだ。
いや、そもそも『白咲三神』というものについて理解していないのかもしれない。
彼女らが表舞台に関わるのは主神である
つまり、美夜の件も命令されたから異変解決に赴いただけであって、真の意味では仲間ではないということだ。もっとも、人間と妖怪が仲間だなんてあってはならないことなのだが。
「諦めなさい魔理沙。あいつら、どうあっても私たちを叩き潰すつもりよ」
「美夜お姉さんは今日来てないから安心していいよー」
「……もっとも、あなたたちはここでチェックメイトになるのだがな……」
「くそっ、こうなったらしゃーないか……っ!」
白咲三神の強さは、春雪異変の時に同行した魔理沙が一番よく知っている。少なくとも美夜レベルの相手が二人いると想定しなくてはならない。
だからこそ、手加減なしで全力で戦わせてもらう。犯人をとっちめるその時まで全力は温存しておきたかったのだが、今負けてしまえば元も子もないので仕方がない。
アリスも同じ意見だったようだ。展開された人形の数は霊夢たちとの弾幕ごっこの時よりも多くなっている。彼女も加減は抜きということだろう。
しかしそれを見ても清音たちの表情は変わらない。魔理沙たちの全力も、彼女たちからしたら誤差でしかないからだ。
舞花の『
一方の清音は腰に差している二刀を抜くこともなく、無手のままだ。だが彼女の本質は術式使い。何も持っていないからと言って、決して弱いわけではない。
「スペルカードは三、残機は二だ。言っとくがタッグマッチの場合はスペカも残機も共通されるってことになってるんだぜ。つまり合計三枚使い切ったか、合計二回当てられたチームが負けってことだ」
「りょーかいしたよー。それじゃあ始めようかなー」
かくして、幻想郷の端で隠されていた二人の大妖怪の力が、久方ぶりに解放されることとなる。
魔理沙は気持ちでは負けてたまるかと、凄まじい妖力を身に纏う清音に突撃していった。