東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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Final Stage 柔と剛の幻想巫女

  妖夢との戦闘があった日の翌日。それも夕方あたりかな。私は目の前に続いている長い階段を上っていく。

  相変わらず整備はされてないらしい。階段の石は年季が入ってボロボロで、すぐにでも崩れてしまいそうだ。それでなくとも石畳の間からはいたるところから雑草が突き出ており、炎のようにゆらゆらと風に揺れている。

 

  昨日、私は思いついた案をすぐに実行するために博麗神社に出かけてみた。しかし運悪く霊夢は入れ違いになったそうで、博麗神社は留守だったのだ。

  何だかんだ言って霊夢も今回の連続で巻き起こる宴会については危険視していたらしい。それを調べるために各地を飛び回ってるそうなのだ。

 

  まあそんなわけで、日を改めてここに来たわけだ。今度はちゃんと霊夢の霊力が感じられるので大丈夫だと思う。

 

  そんな愛する孫娘のことを考えていると、いつのまにか階段を上り切ってしまったようだ。

  見たところ、鳥居の奥に人影はない。でも霊力は感じられるし、いつも通り縁側で座ってでもいるのだろう。そしてそれはどうやら正解だったようだ。

 

「ヤッホー霊夢! 遊びに来たよー」

「……ちっ、また面倒くさいのが来やがったわね。こんな日暮れ時に何の用よ? 子供は黙ってお家に帰っておねんねしてなさい」

「わーお、出会って早々に罵倒されちゃったよ」

 

  さすがは私の孫娘である。中々胸に刺さる毒舌をお持ちで。ゾクゾクするから私にとってはご褒美だけど。

  いや、別に私がMってことじゃないよ? 霊夢以外に言われたら今ごろ相手の四肢もぎ取ってるかもね。

 

「はーい霊夢。最近宴会するのに色々使っちゃってるだろうし、お小遣いだよ」

「それだけはありがたくもらっておくわ」

 

  霊夢は私の手から諭吉数枚を奪い取ると、急いで自分の懐—–—–もとい袖に収納した。

  あ、やっぱそこに入れるんだ。お札とかもよくそこから取り出すし、あの中には他にも何が入ってるのやら。私が言えたことじゃないけど。

 

  さてさて、残念だけど今日は雑談しに来たんじゃないんだよね。ちょうど餌も撒いといたし、今なら言うこと聞いてくれるかも?

  ってことで、私は早速霊夢にとあるお願いをした。

 

「ねーねー霊夢。私と弾幕ごっこを「断るわ。私はあんたみたいな暇人妖怪と違って日向ぼっこするのに忙しいのよ」……さすがに即否定はどうかと思うなぁ……」

 

  霊夢も結構暇人じゃん、とかは言っちゃいけない。言った瞬間にぶっ殺されるから。

 

「というか今は日暮れだよ? お空が真っ赤だよ? 日向ぼっこするには遅すぎるんじゃないかな」

「うっさいわね。昼は暇な異変の首謀者を突き止めるのに忙しかったのよ」

 

  はい、たしかにこの異変の犯人は超絶暇人なやつですね。私や霊夢よりも。

  霊夢は縁側をゴロゴロとするが、昼ほど暖かくないせいでちっとも気持ちよくなさそうだ。現にその口からはその不満をぶっ飛ばすかのように愚痴が延々と飛び出している。

  話を聞く限り、萃香はまだ見つかってはいないようだ。今は幻想郷を覆うほどに薄く散らばっており、肉眼じゃ霧にしか見えないから当然か。そして異変解決に励む者たちを高みの見物してるってわけ。

  ちなみにここにもさっきまでは能力によって薄くなった萃香がいたんだけど、邪魔だから追っ払っといた。今からここでやることを見せちゃ意味ないしね。

 

「へー。んじゃまだ異変解決は何も進歩してないんだ」

「率直に言うとそうなるわね。だからあんたなんか構ってる暇はないってことよ」

「ふーん。だったらこうしない? 私に勝ったら()()()()()()()()()()()()()()()()

「……はっ」

 

  霊夢は短く嘲笑すると、私の顔から背くように寝返りをうった。

 

「まるで異変の犯人を知ってるような言いぶりね」

「うん、知ってるよ。犯人も目的も。だからこそ霊夢にアドバイスができる」

「……それ、本気で言ってる?」

 

  今度ばかりは霊夢も無視しなかった。勢いよく体を起こすと、私を問いかけてくる。

  それに私は無言で微笑むことで答えてあげた。

 

「……はぁっ、仕方ないわね」

 

  霊夢はそう力なくため息をつく。

  そして急に目つきが変わったかと思うと、凄まじい速度と手つきでお祓い棒を私の首に突きつけた。

 

「あんたが知ってること、洗いざらい白状してもらうわよ。吐かない場合は徹底的にぶちのめしてやるわ」

「……くふっ、好きだよ霊夢、あなたのその顔。やっとやる気になってくれて、私も嬉しいよぉ!」

 

  一瞬で私は突きつけられたお祓い棒を弾くと、縁側から飛び退く。

  霊夢は手に持つ獲物で肩をトントンと叩きながら、ゆっくりと私の方へ歩いてくる。

  ふむ、相変わらず見事な気迫だ。さすがヤクザ巫女。そこに痺れる憧れる。

 

  でも、ここじゃ戦うには狭すぎる。

  私は霊夢を手招きすると、正面鳥居を抜けたところにある広いスペースに移動した。彼女もそれに賛成らしく、大人しくついてくる。

  やがて私たちの足が止まった。私たちの間は十メートルくらいは空いており、互いを見据えるように同一直線上に立っている。

 

  私は巫女袖から結界カードを取り出す。霊夢も同じように自分の袖に手を突っ込んでカードを取り出していた。

  そして結界を張り終えれば、ルール設定をする。ゲーム開始までもう少しだ。

  あ、そうだ。その前に……。

 

「スペカは5枚。異論はないわね?」

「あ、ちょっと待ってくれないかな。重要なことを忘れてたよ」

 

  私は腰につけられた二つの刀を鞘ごと掴む。そしてそれを取り外すと、巫女袖の中に収納した。

  霊夢は驚いたようで、若干目が見開かれる。

  別になめてるとかそういうのじゃないから安心していいよ霊夢。ただ、今回は刀を使うと授業にならないだけ。

  しかしそんな私の気持ちは届かず、彼女はすぐに平静を取り戻すと圧を込めて私に問うてきた。

 

「あんた、正気なの? 刀なしで私とやるつもり?」

「うんうん、しょーきだよ。ただし、刀の代わりにこれを使わせてもらうけど」

 

  そう言って私が腰から掴み上げたのは一つの瓢箪。

  霊夢の顔が怪訝そうなものに変わる。

 

「何それ? なんかのマジックアイテム?」

「これの名前は『鬼神瓢』って言ってね。飲むと—–—–鬼になれる」

 

  私は瓢箪の先を口に突っ込み、頭を上げて容器を逆さにする。

  俗に言う一気飲みとやらである。中に入れられた液体が重力に従って落ちていき、大量の酒が私の体内へと取り込まれた。

  そして瓢箪から口を離した直後、

 

「ガァァァァァァァァッ!!!」

 

  私の体の奥底から、凄まじい熱が溢れてくる。

  そして私の雄叫びに答えるかのように、肉体の内側が作りかえられていく感覚が伝わってきた。

 

  霊夢は私の雄叫びに本能が叫びをあげたのか、無意識に一本後ろに下がっていた。

  外見は変わらない。いや、一つ変わっているのは、頭の両サイドから捻れた巨大な角が生えていることだ。鋭いそれは、当たるだけで全てのものに突き刺さってしまいそうだ。

  伝わってくる覇気はまるでさっきとは別人のように感じられるだろう。

  そんな私の姿を見て、今度こそは霊夢も動揺したようだ。なんとか平静を保とうと湧き上がる感情を押し殺して声を出してくる。

 

「それは……何かしら?」

「答えはさっき言った通りだよ。そんなわかりきった答えよりも……さっさとやろうじゃないの!」

 

  鬼化の影響か、自身の戦闘欲をうまく制御できない。

  霊夢にとって今の私は別人のように見えるのだろうか? それは嫌だなぁ。でも、今回ばかりは仕方ないんだよ。

 

  霊夢もようやく覚悟を決めたようだ。本気になるどころか、私の覇気に影響されて殺気まで出している。それが溢れ出る霊力と混ざり合って、青いオーラを具現化させる。

 

  勝負開始の合図を告げるものはいない。いや、もう勝負は始まっているのだ。

  それでも私たちはしばらく動かなかった。

  霊夢は珍しく慎重で、私のことを目を細めて観察しているようだ。このままじゃらちがあかない。そう判断し、私は最初に仕掛けることにした。

 

  まずは様子見の一発。筋力が大幅に上がってるせいか、いつも以上の速度で霊夢に回り込むと、その頭を狙って回し蹴りを打ち込む。

  それを霊夢は受け止めようとして……慌てて上体を反らした。

  その直後、空振った蹴りが彼女の真上を突き抜ける。それだけでは足らず、巻き起こった風圧が霊夢の体を宙に浮かせた。

 

「っ、いつもの貧弱っぷりはどこいったのよ!? あんた狐やめてゴリラにでもなったのかしら!?」

「言ったでしょ? 鬼って。今の私はありとあらゆるものを粉砕する剛力を持ってる。当たればひとたまりもないと知りな!」

 

  なんだかんだ言って3回目の鬼化のせいか、体が予想以上に制御できるようになってきている。これなら、萃香の技を再現してあげられる。

 

  連続で繰り返される拳を、霊夢はひたすら受け流していく。

  拳を掴むより腕を反らす。だんだんコツがわかってきたようだ。

  でも、こっからが本番だよ。

 

  上半身にばかり拳を打ち込んで霊夢の意識をそこに集中させたところで、不意をついての足払い。普通なら決まってるんだけど、そこは勘が働いたのか、反応はしてなくても何気なくジャンプすることで避けられてしまう。

  でも所詮勘は勘なんだ。確実に避けられるわけではない。

  左拳を打ち込むが、それは受け流されてしまう。しかしそれはフェイク。すぐさま身を翻して繰り出した後ろ蹴りが、霊夢を境内の側に生えている木まで吹き飛ばした。

 

「ほらほら! 追撃くるよー!」

「っ、この……!」

 

  しかしそこはさすが霊夢と言うべきか、吹き飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、本来ぶつかるはずだった木の幹に足の裏を添えるように置く。そして勢いよく蹴り、壁キックの要領で加速して、追撃のために前進していた私に逆にカウンターで拳をくらわせた。

  だけど、

 

「嘘っ……!」

「効かないねぇ。そんな拳!」

 

  嘘です。メッチャ痛いです。

  鬼の頑丈さを持ってもこの痛さ。だが逆に言えば痛いだけだ。

  霊夢の拳は見事に私の顔面に当たるも、私は吹き飛ばされることなくそこに踏みとどまった。

  自分の渾身の拳をくらってビクともしなかった私を見て、霊夢は一瞬硬直してしまう。その隙に私は殴られた方の腕を掴んで、彼女を思いっきり地面に叩きつけた。

 

  空気が吐き出された音が耳に聞こえた。

  しかし私は容赦なく、腕を掴む手に力を込めて、彼女をぶん投げる。霊夢はそのまま勢いよく元来た場所へ逆戻りしていき、壁キックに使った木に背中を打ち付ける。しかしそれでも止まらず、木をへし折ったところでようやく勢いが落ち、地面に転がり落ちた。

 

「おーい、生きてるー? 生きてるんだったら返事を……」

「カハッ……カハッ……! 符の三『魔浄閃結』!」

 

  霊夢が地面を思いっきり叩くと、その前方に青白い霊力の壁ができあがった。それが中々の速さで私に迫ってくる。

  ふむ、かなり分厚いね。こちらもスペカで対応を……と思ったけど、今は鬼化のせいでほとんどのスペカがおしゃかになってるんだった。

  残った数少ないスペルを今ここで使うのもなぁ。

  まあしょうがないか。どうせ霊夢も時間稼ぎのつもりで放ってるだろうし、それに乗ってやろう。

 

「ふんぬっ、ぬぬぬぬ……おりやっ!!」

 

  もはや眼前にまで迫った壁に勢いよく両手を打ち付ける。そして錆びついた扉をこじ開けるように、手に力を込めた。

  だんだんと壁にヒビが入っていく。そしてしばらくすると、壁は真ん中からばっくりと二つに割れ、轟音とともに消し飛んだ。

  その奥に霊夢の姿はなかった。

  森の奥に逃げたのかな? だとしたら追うのは大変だぞ。

  しかしここで立ち止まっていてもらちがあかない。仕方なく森へ足を踏み入れた途端、少し奥の方の木の後ろに赤い布が一瞬だけ私の目に映った。

 

「ははっ、そこだぁ!」

 

  大地を踏みしめ、一気に加速。そして打ち込まれた拳が、木の後ろに隠れていた霊夢ごと貫いた。

 

  ……ん、貫いた?

  いやありえないでしょ。霊夢は結界に守られてるし、いくら鬼の力を手にしたとはいえこの程度の一撃じゃ……まさかっ!

  急いで霊夢の体を貫通している腕を引き戻そうとしたけど、遅かった。まるで接着剤で固められたかのように、抜けなかったのだ。

  そして私の腕と一体化してしまった霊夢の体が突如爆発。煙と大量のお札を撒き散らしながら、私の結界にダメージを与える。

 

「くそっ、罠か!」

「ご名答よ。力が上がった代わりに細かい制御能力は落ちてるようね。普段のあんたなら絶対に引っかからなかった」

 

  後ろからささやくように霊夢の声が聞こえてくる。

  つまり、木の後ろに隠れていたのは大量のお札と術式によって作られたダミー人形で、本物は霊力と気配を完全に消して近くに潜んでいたのだ。

  鬼化の影響で、こうも探索能力が落ちてるとはね……。私本人でさえも気づかなかったことに気付くなんて、さすがは霊夢だよ。

 

  その肝心の霊夢といえば、私の後ろでスペカを取り出して何かを唱えている。

  振り返って今すぐにでも攻撃したいのだけれど、それはできない。ダミー人形を作っていた札が、今度は私の周り八方向に陣を作るのと同時に、鎖のように私の体を縛りつけているせいで、身動きが取れないのだ。

 

「神技『八方鬼縛陣』」

 

  見えなかったが、たしかにそう宣言した声と、何かを地面に叩きつけた音が耳に届く。しかしそんなものはすぐに記憶の片端に消えてしまった。

  なぜなら八方向に張られたそれぞれのお札が赤く光り輝き、その中心にいる私を攻撃し始めたからだ。

  この光は魔除けをさらに強化したものなんだ。だから妖怪が当たれば大ダメージを受けることになる。結界があるから特に痛みは感じないが、それでも光は結界にも損傷を与えるようで、このスペカが終わるころには2割ほども削られてしまっていた。

 

  スペカが終わると、強引に腕を振るい拘束を引きちぎる。

  そしてまたもや霊夢の姿はどこかに消えていた。

  ……いや、今度は感じる。境内の中で霊夢が待ち構えている。

  それは正しかったようで、森を抜けると、私の視界には罠も張らずに立ちはだかっている霊夢の姿が映った。

 

「かくれんぼはもうおしまいかな?」

「どうせもうあんな奇襲は通用しないんでしょ? だったらこそこそやるより正面から行った方がマシってもんよ」

「潔いねぇ。そういうのは嫌いじゃないよ」

 

  でも、そういう大口はこれを捌ききってからにしなよ!

  私は先ほどと同じように接近戦をしかけるため、前に進む。

  手加減はもうしていない。足払いや掴みはもちろん、私の持ちうる限り全ての格闘技術を駆使したつもりだ。

  ところが、それらは空を切るばかりで当たることはなかった。霊夢の動きが見違えるほどに進化していたのだ。

 

  拳ではなく腕を。蹴りには太もも。足払いなどにはジャンプではなく、バックステップで。

  打撃を防ぐのではなく、受け流す。そうすれば鬼の腕力によって防御した部位が痺れることもない。

  さらに彼女は無理に接近戦を続けることがなくなった。つまりある程度打ち合うと、不定のタイミングで自ら距離を離してくるのだ。

  そして遠距離になった途端に弾幕攻撃。焦れったくなって拳を振るっても受け流され、カウンターを食らい、また引き剥がされる。

  形としては打っては離れる(ヒットアンドアウェイ)に近い。ただこれと違う部分は、霊夢が遠距離からも強力な攻撃を繰り出せるのに対して、私には接近するしか道はないということだろう。

 

  完成したということか。霊夢だからこそできる、遠距離と近距離のどちらにも対応できる究極の型が。

 

「宝符『陰陽宝玉』」

 

  振り回すように繰り出されたスイングをバックステップで避けると同時にスペカ発動。巨大な陰陽玉が彼女の目の前に出現し、追うために前に踏み出した私に襲いかかる。

  霊夢の動きについていくのが難しく、ちょくちょく結界を削られてしまった。先ほどもスペカの直撃を受けたし、これ以上ここで耐久を削られるわけにはいかない。

  仕方がないか……。

 

「鬼技『空拳』!」

 

  小さな台風のように渦巻く風を纏った拳が陰陽玉とぶつかり合う。鬼の腕力を得た一撃は普段以上に凄まじく、陰陽玉をたやすく打ち破った。

  しかしまだだ。

  渦巻く風はそのまま私の拳を離れ、霊夢の元に向かっていく。しかし霊夢の反応の方が早くて、吹き飛ばしはしたものの直撃には至らなかった。

  くそっ、浅かったか。せっかく空拳を遠距離に対応できるように進化させていたのに。

 

  残りスペカは四。だけど鬼化のせいで術式が全く使えないので、実質は一だ。対して霊夢はまだ二枚もスペカを残している。

  そのことを考えると、結界の耐久も限界に近いだろう。そろそろ勝負を仕掛けた方がいいかもしれない。

 

  霊夢のお祓い棒が防御をすり抜けて私に当たる。すぐさま棒を掴もうと手を伸ばすが、叩く反作用の勢いを利用しているのか引っ込めるのが速く、捉えることができない。

  まだ、まだだ……もうちょっと引きつけて……。

  お祓い棒によるなぎ払い。前蹴り。左の突き。お祓い棒による振り下ろし。回し蹴り。左スイング……ここだ!

 

  私は鎖に繋がれた瓢箪を投げた後、霊夢の拳を避けずに、抱きつくように彼女に密着した。

  あ、ほんのりといい香り……じゃなくて!

  霊夢の拳が顔面に直撃する。しかしそれは承知の上だ。

  密着した私たちに瓢箪の鎖がグルグルと巻きついていく。霊夢は私の意図に気づいて逃げようとしたけど、もう遅いよ。

  手元に戻ってきた瓢箪をぐいっと引っ張る。すると私と霊夢の体を鎖が締め付け、ガッチリと固定してしまう。

 

「ぐっ、この……離れなさいよこの変態!」

「ふふふ、霊夢のお肌。スベッスベで触りごごちが良くて……殴るのがもったいないくらいだよ」

 

  突如、霊夢の体がものすごい勢いでくの字に曲がった。

  結界があるものの、その衝撃は凄まじく、苦痛に顔を歪める。

 

  ワンインチパンチ。要するに中国拳法でいう発勁のことだね。

  僅か数センチの隙間で拳に全てのエネルギーを集中させ、突き出す。威力は見ての通り。霊夢は今自分の腹がえぐられたような錯覚に陥っているだろう。

 

  霊夢の体が折れたことにより、少し空間が出来上がる。

  それを利用して今度は反対の手で、普通のボディブローを繰り出す。これも命中し、霊夢はさらに悶絶することになった。

 

  霊夢の体重がのしかかり、鎖がグニャリと歪むのがわかる。

  避ける場所も、逃げる場所もない。鎖は剛の一撃にも耐えれる一級品で、破壊はほぼ不可能だ。

 

「鬼技—–—–」

「霊符『夢想妙珠』ッ!」

 

  私がスペカを唱えるのに被せるように、早口で霊夢のスペカ宣言が聞こえた。

  なるほど。たしかにこの距離なら私も避けることはできない。でも私にはこれを全弾受けても僅かに耐久が残る程度の余裕はある。

  対して私が放つのは最強の鬼の技だ。今の霊夢の結界では耐えきれるはずがない。

 

  夢想封印にも似た、カラフルな弾幕が私に次々と当たっていく。

  距離が近すぎるせいで光が眩しく、前が見えないけど問題はない。1メートルすらもない距離だ。振るえば当たる。

  私は色とりどりの弾幕をその身に受けながらも、スペカを宣言した。

 

「—–—–『雷神拳』!」

 

  拳が雷を纏い、スパークする。鬼の腕力で放たれたそれは空気を切り裂きながら進み、その風圧が大地を揺らす。

  電撃のような速度の拳はまっすぐ直進していき—–—–何にも当たることなく、直線上を通り過ぎていった。

 

「へっ……!?」

 

  私の拳が振り切られるのと同時に霊夢のスペカが終了する。

  そして弾幕の光によって消されていた視界が戻った時、その中には霊夢の姿はなかった。

  ではいったいどこに? それを理解したのは、下から飛び上がる勢いを利用して繰り出された拳を顎で受けた後だった。

 

「がはっ……!?」

 

  鬼の筋力は得られても体重が増えるわけじゃない。霊夢の全力の拳を受けた私は、なすすべなく空中に跳ね上げられた。

 

  そうか。全て分かったぞ。

  霊夢は私の近距離からの攻撃を受けた時に、()()()()()()()()()()()()()。それを繰り返すことで霊夢がギリギリ抜け出せる程度の隙間を作ったというわけか。

  もちろんそれだけじゃ私はすぐに気づいただろう。だから囮に使ったのが『夢想妙珠』だ。あれで視界を潰した後にすぐしゃがんで鎖から脱出する。そして機を見て私に反撃したっていうことか。

 

「……なるほど、やられたよ」

「神霊『夢想封印』」

 

  霊夢の周りに巨大な色とりどりの弾幕が浮かび上がる。

  空中で体勢を立て直そうとした時にはもうそれらが迫ってきていた。

  そして私は弾幕の光に飲まれ、ガラスが割れるような音を聞きながら地面に倒れた。

 

「ふふ、ふふふっ! まさか今回も負けるとはねぇ。驚きだよ」

 

  ああ……疲れたせいか、地面がひんやりして気持ちいい。

  それにしても、勝てると思ったんだけどなぁ。ほんと、計算が狂っちゃうよ。ああも成長されちゃうと。

 

  その肝心の霊夢は、若干おぼつかない足取りでこちらに向かってくる。そして縁側でしたように、再びお祓い棒を私の首に突きつけた。

 

「さあ、約束よ。今回の異変について詳しく教えなさい」

 

  一瞬、なんのことだかわからなかった、

  ……ああ、そうだったね。そういえばそんな約束してたっけ。

 

「ねえ霊夢、状態変化って知ってる?」

「何よそれ。妖術?」

「簡単に言っちゃうと物質がいろんな形状に変わることだよ。固体は液体に、液体は気体にって感じで」

「なんとなく理解したわ。で、それがなんの役に立つの?」

「気体を固体に戻す方法を考えてみなよ。あ、もちろん冷やせば戻るとかいう、科学的な話じゃなくて」

「……つまり、宴会の時に漂っている妖霧をなんらかの方法で固めればいいってことね?」

「ご名答。話が早くて助かるよ」

 

  そう言い残してっきり、私は頭を再び地面に当てて、目を閉じる。

  ダメだねぇ……どうも鬼化の影響で、意識が……。

  考えがまとまらない。

  霊夢の声を耳にしながら、私の意識は深い闇へと落ちていった。

 

 





「今回文字数が多くなって投稿が遅れてしまいました。作者です」

「最近焼き芋が食いたくなってきた狂夢だ」


「んで、今話のタイトルにラストステージって書いてあるんだが、霊夢と萃香の弾幕ごっこは書かないのか?」

「そこは言っちゃえば原作通りですからね。レミリアはアリスの時は書きましたが、あれは接点を作るためですし。今回の萃香と楼夢さんは昔から接点があるので、今回はいいかなぁと」

「まあもし書いても今回と似たような展開になりそうだしな」

「そういうことです。次回はもうちょっと早く投稿できるように頑張ります」

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