東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「あ、あった!」
パチュリーに場所を聞いてようやく、私は目当ての本を見つけた。
本の内容は今は地上じゃ忘れられてしまっている妖怪である鬼についてのことだった。
私がこの図書館にわざわざ来た本当の目的。それは霊夢と萃香が戦う時に、霊夢を出来る限りサポートするためだ。
今のままじゃほぼ確実に霊夢は負けてしまう。そうなったら私は数十年は地底で過ごさなきゃいけないわけで……。
当然そんなのは受け入れられない。だからこうして本を見て、少しでも私が見落としている弱点やらなんやらを調べているのだ。
しかし……。
「うーん……。役に立ちそうなのがないなぁ」
私が借りたのは日本の妖怪図鑑的なもので、軽く千ページを超えるほど分厚いものだったが、その中に記されていた鬼の情報は少なかった。それに得られた情報も全部知ってるものばかりだ。
よくよく考えてみれば、当たり前か。
鬼というのは、言ってみれば伝説の種族だ。彼らが地上にいたころも近づくような人間はほとんどおらず、その情報は元から少ない。それがさらに地底に戻ったことで、今ではほとんど忘れかけられてしまっている。
そんな人間どもが作った本と、私が直接交流して得た知識。どっちが優れているかなんて一目同然だった。
ペラペラとページをめくっているうちに、気がつけばもう日が落ちかけていた。
本自体は中々完成度が高く、ついつい見入ってしまったようだ。なるほど、パチュリーが勧めるのもわかる。
でもそろそろ帰らないと。作戦の練り直しだ。
足を動かそうとしたところで何か違和感を覚えた。
膝が重りを乗せたように重くなっている。
それに気づいて座っている状態から視線を下にやると、そこには私の膝を枕に眠っているフランの寝顔があった。思わずほっこりしてしまう。
寝顔も可愛いけど、今日はもう帰らなくちゃ。
慎重に彼女の頭をずらし、代わりにお姫様抱っこでフランを抱き上げる。そして図書館にある階段でさらに下に下りて、そこにある彼女の部屋のベッドに寝かせてあげた。
そして私が階段から再び図書館に来た時、なぜか空から紫髪の少女が隣に落っこちてきた。
……古来より、こんな時に言うべきことは一つだ。
「……親方、空から女の子がっ!?」
「いや誰だよ親方って?」
「冷静なツッコミありがとう魔理沙」
紅魔館の図書館でこんな狼藉ができる人物なんて一人しかいない。
黒と白の魔女のような服に金髪。間違いなく、霧雨魔理沙本人がそこにいた。
「よう楼夢! こんな時間にいるなんて、お前も本を盗みに来たのか?」
「いや違うからね? 一人が寂しいからって、しれっと私を泥棒仲間に入れないでくれるかな」
魔理沙はニッと元気そうな笑顔を浮かべて、私に挨拶してくる。
というかやっぱり盗みに来たのか……。迎撃しようとパチュリーは弾幕ごっこで挑んだんだけど、元々が病弱な上に私との戦いで体力を削られていた彼女に魔理沙とまともに戦える力が残っているはずもなく、こうやってあえなく敗北したってわけか。
私の隣で本日二回目の全身黒焦げを体験したパチュリーは、消え入りそうな声を振り絞って私に頼んでくる。
「ゲホッ、ゲホッ……楼夢、私の代わりに魔理沙、を……」
「パチュリー様ぁぁぁぁ!!」
それだけ言うと、返事も聞かずにパチュリーは力尽きてしまった。気を失った彼女を再び運ぼうと、小悪魔が駆け寄るが、途中で足を本棚か何かに引っ掛けて思いっきり転倒。彼女までもが、目を回して気絶してしまった。
……あっちの茶番はひとまず置いといて。
さて、どうするかな。
普段なら面倒くさいし無視するんだけど、今回はパチュリーに色々助けてもらったからなぁ。流石にこのままスルーして帰るというのはないわー。
まあ仕方ない。借りは必ず返す。それが私のモットーなんだね。今回ばかりは魔理沙に痛い目を見てもらおうとするか。
「ふっふ〜んっと。大量大量だぜ」
鼻歌を歌いながら、魔理沙は手持ちの袋にドンドン本を詰め込んでいく。数にして10以上はあるのは確定だろう。
やがてパンパンになった袋を肩に背負って、図書館から出ようとしたところに、私は立ちはだかった。
「……なんのつもりだぜ?」
「悪いね魔理沙。今日私はパチュリーに結構お世話になったんだ。その恩返しぐらいはさせてもらわないと」
言うがいなや、結界カードを取り出す。それを見ると魔理沙は好戦的な笑みを浮かべて、帽子の中から同じカードを取り出した。
私と魔理沙の体が一瞬光る。そして透明な結界がそれぞれに張られた。
「へへっ、そういえばお前とやるのは初めてだったな。話に聞くその実力、試させてもらうぜ」
「好戦的だねぇ。まあそんな魔理沙に免じて、手加減はいらないかな」
私は右腰に両手を近づけると、柄を掴み
そして、語りかけるようにそれぞれの名を口にする。
「—–—–響け『舞姫』。そして—–—–咲け『
桃色の刀身を持つ刀—–—–舞姫を右手に。
紫水晶のような刃を持つ刀—–—–妖桜を左手に。
化物の魂が封じられた二つの妖魔刀。その力が解放されるとともに、辺りの空気が冷たいものへと変わっていく。
魔理沙もそれを感じ取ったのだろう。無意識に一歩大きく跳びの退き、とっさにミニ八卦炉を構えた。
「……おいおい。そんな刀前まではなかっただろ。どこで集めたんだぜ?」
「残念ながら企業秘密。それよりも気をつけてね。こいつらはけっこう乱暴だから、結界があっても最悪大怪我をしちゃうかもね」
「へっ、言ってろ。大怪我をして帰るのはお前の方だぜ!」
魔理沙は冷や汗を垂らしながらも、その戦意は失っていないようだ。むしろ私が本気ということを感じて、逆に燃えるようなやる気に満ちていた。
こういう性格だから、私は魔理沙に二つの妖魔刀を解放したのだ。逆に手加減してたなんて知られたら不機嫌になられるだろうし。
それに魔理沙は魔法使いとしては未熟だが、弾幕ごっこの腕は数々の異変をくぐり抜けてきたおかげで超一流だ。手加減なんてしていたら、逆に私がやられてしまう。
「カードは3枚。準備はいいかな?」
「ああ。いつでもオーケーだぜ」
「それじゃあ—–—–遠慮なく、行かせてもらうよ」
そのころにはもう、私は魔理沙に接近し終えていた。
両刀を振るう。斜め十字に切り落とし、手首を捻ってその後は逆に斜め十字に切り上げた。しかし魔理沙には振り下ろししか見ることができなかっただろう。
斬撃は結界に無効化されてしまうが、その分の衝撃が魔理沙の体を吹き飛ばした。勢い余って本棚に衝突し、それの下敷きとなってしまう。
しかし私はお構いなしだ。倒れた本棚の上に乗ると、魔理沙がいるであろうところに刃を突き刺した。しかし、確実に当たったはずなのに相手を切ったという感触が手に残らなかった。
その時だった。本棚の下から突如大きな爆発が起こり、若干油断していた私はなすすべなくそれに巻き込まれた。
炎とともに黒い煙が辺りを包む。それらのせいで視野はかなり悪くなっていた。
と、そこへ何かが後ろから突っ込んでくるのを、獣特有の鋭い聴覚が感じ取った。誰だかはもはやわかり切ったことだ。
「オォラァァァァアアッ!!」
魔理沙は魔法で硬化させた箒を力いっぱい振り上げ、全力で私に振り下ろしてくる。
しかし迂闊だったね、魔理沙。長物の扱いに関して私に勝てるとでも思っていたのかい?
左の刀で軽く受け流し、バランスを崩したそこに右の刀を振るう。しかしその一撃は、金属音にも似た音とともに防がれてしまった。
刃と魔理沙の間には、分厚い魔導書が挟まれていた。見た目からして頑丈そうだが、それを補強するように強力な結界が本には張られている。
「これは、パチュリーの……? そうか、あの時に拾ったのか!」
「正解だぜっ。そして報酬のプレゼントだ!」
パチュリーは自分の魔導書が万が一燃えたりした時のために、本棚にかけてあるのとは別々の結界をこの図書館全ての本に一つ一つかけているらしい。魔理沙はその強固な結界を利用して、私の斬撃を防いだのだ。
魔理沙は魔導書で刀を押さえつけたまま、小指だけであらかじめ覚えておいたページを開く。そこには栞の代わりに光が点滅している丸い物体が挟まれていた。
光が点滅する速度は目に見えてだんだんと速くなっていく。
これって……まさかっ!?
「しまっ……んげっ!?」
私が気づいた時には遅かった。
丸い何かは一瞬だけ、激しい光を放った。そして次の瞬間、それは突如爆発したのだ。
光る物体の正体。それは火薬の代わりに魔力が詰め込まれた爆弾だった。
それをモロに浴びてしまった私は結界の耐久を削られながら、吹き飛ばされる。それによって距離が空き、体勢を立て直した魔理沙がスペカを掲げる。
「魔符『スターダストレヴァリエ』!」
いくつかの魔法陣が、魔理沙の周りに展開される。それらを身に纏うようにすると、彼女は自慢の箒に乗り込み、そのまま空中を飛んで私に突っ込んできた。
そのころ私は、爆風で吹き飛ばされた体勢を立て直したばかりだったので、回避は間に合わなかった。代わりに双刀を斜め十字に構え、魔理沙の突進を受け止める。
しかし箒の推進力は凄まじく、筋力も体重もない私ではその勢いは到底止まられるものではなかった。私は床を削りながらいくらか後退した後、とうとう耐えきれなくなり、再び宙に跳ね上げられてしまった。
しかし、魔理沙のスペカはここからが本番だ。展開された魔法陣からいくつもの星弾が放たれ、それが何かに当たると爆発を巻き起こした。
「また爆発なの! もうちょっと他の芸はないのかなぁっ!?」
「芸術は爆発だぜ!」
ああもう、面倒だなぁ!
目の前に迫る弾幕群を切り裂きたくなる衝動をなんとか抑えながら、冷静にそれの避け方について考える。
むやみに切るのはダメだ。あの星弾の一つ一つが小さな爆弾なので、衝撃を与えると爆発してしまう。普通の弾幕ごっこならグレイズ扱いされるんだけど、爆風に結界が反応してしまうため近接弾幕ごっこだと耐久が少し削られてしまうのだ。
ということは、あの星弾幕群の隙間をくぐり抜けて行くしかないということだね。
息を深く吸って、吐く。心を落ち着かせて、弾幕群を睨みつける。
大丈夫。こんなことは今までに何回もあったんだ。ヨユーよヨユー。
そして私は自ら、弾幕群へと突っ込んでいった。
弾幕と弾幕の隙間を見つけ、そこに自分の体を滑り込ませるようにして進んでいく。そして無事、弾幕群からの脱出に成功した。
しかし、魔理沙は私が床に着地するタイミングを見計らって、再び突進してきた。
いわゆる着地狩りってやつだね。でも、それはもう見切ってるんだよ!
高く掲げた舞姫に霊力が集中していく。
そしてスペカを空中に飛ばし、技を宣言した。
「や、ヤバッ! 避けられ……!」
「遅いよ!霊刃『森羅万象斬』!」
舞姫の刃が光り輝く。そこから放たれた青白い光は巨大な刃を形作っていく。
魔理沙が叫び、急カーブしようと箒の先端を横に向けてるけど、逃がさないよ。
魔理沙の突進に合わせるように、光の刃を振り下ろす。そして避ける間も無く、魔理沙はその閃光に飲み込まれていった。
やがて光が収まっていく。
そこで姿を現したのは、冷や汗をいくつも浮かべて肩で息をする魔理沙の姿だった。見た目は無傷だが、彼女を守っていた結界がかなり損傷しているのがなんとなく感じ取れる。
この機を逃す手はないね。
左腕を突き出す。その袖の中からスペカが飛び出し、空中を回転しながら光り輝いた。
「雷龍符『ドラゴニックサンダーツリー』!」
「っ、魔空『アステロイドベルト』っ!」
本日2回目のドラゴニックサンダーツリー。
私と魔理沙の間に雷の柱が発生し、そこから伸びる枝のように、雷でできた竜が大量に放たれた。
一方魔理沙は私のスペカと一つ遅れて、自分の技を宣言する。
彼女はミニ八卦炉を天に掲げる。そしてそこを中心に、ミニ八卦炉から赤、青、黄、緑のカラフルな星弾が規則正しい音とともに放たれた。
二つのスペカは互いに激突した。
雷竜が星を次々と喰らい潰していく。しかし星弾と雷竜の数では、私の方が不利だった。
やがて数十もの星弾をその身に浴びて消えていってしまう竜が増えていった。
しかし私はこの時気付いた。星弾が雷竜に当たっても、さっきのように爆発しないのだ。
だったら話は簡単だ。
雷の柱から出てきた竜たちとともに弾幕群に突っ込んだ。そして目につく限りの弾幕を切り裂き続け、魔理沙への道を切り開いていく。
そして彼女へと限りなく接近できたところで、二つのスペカはほぼ同時に終わってしまった。
それはすなわち、次のスペカを放つことができるという意味でもあるわけで……。
—–—–両刀を振り下ろそうとしたところで、ふと視界に光り輝くカードが見えた。
「恋符『マスタースパーク』ッ!!」
ほぼゼロ距離で、魔理沙の代名詞でもある巨大な閃光が放たれた。
回避は、間に合わないっ!
振り下ろした両刀が閃光とせめぎ合う。しかしそれは押さえつけていると言った方が正しい様子で、一瞬でも気を抜けばすぐに私は閃光に飲まれてしまうだろう。
マスタースパークの威力は他のどんなレーザー弾よりも高い。残った結界の耐久ではたちまち破壊されてしまうだろう。
「私の、勝ちだぁっ!!
「まだ……まだ勝負は、終わっちゃいねぇよッ!!」
必死さのあまり元の口調に戻っちゃったけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない!
両手が塞がっているので、スペカを取り出すことができない。しかし私は手を使わずに物を動かす人物を知っている。
『これがアリスの魔法の正体。アリスは魔力で編んだ無数の糸を操って、人形を動かしてるんだよ』
そうだ、糸だ!
魔力で編んだ糸を作り出し、それを操作することで巫女袖からカードを取り出すことに成功した。
私が選んだスペカには、何も描かれてはいなかった。
当然だ。なぜならこれはスペルカードとなる前の段階のカードだからだ。
それを口に咥え、妖力を注ぎ込む。
イメージするのは今自分が使いたい技。この局面を打破出来るような、強力な技。
そして眩い光とともに真っ白なカードに絵が描かれ、カードが完成した。
私は口を大きく開く。それのおかげでカードが口からこぼれ落ちるが、それでいい。そのまま私は、あらん限りの声で切り札の名を叫んだ。
「『百花っ、繚乱』ッ!!」
マスタースパークを押さえつけている二つの刃が光に包まれ、徐々に巨大化していく。
舞姫は桃色、妖桜は瑠璃色。
目にも留まらぬ速さで、光輝くそれらが閃光へ叩きこまれる。
一撃が振るわれるたびに、派手な色の火花が飛び散る。
光と光のぶつかり合い。
勝ったのは—–—–私のだ。
やがてマスタースパークは、その斬撃群によって切り裂かれ、胡散してしまった。
「……おいおい、そりゃないぜ……」
「ゼアァァァァァァア!!!」
咆哮とともに、光の刃が魔理沙を切り裂いた。
その時、ガラスが割れるような、爽快な音が鳴り響く。
それを耳にした私は振りかぶっていた刀を下ろし、それらを鞘へと納めた。
ふと目に映ったのは魔理沙の姿だ。
彼女は図書館の床に仰向けに倒れ込み、完全にのびてしまっていた。
どうやらさすがの結界でも、あの一撃は完全には防げなかったらしい。凄まじい衝撃が魔理沙の体に襲いかかり、そのまま気絶してしまったようだ。
「ふぅ……今回はちょっと危なかったかな?」
まさか急きょあの技が必要になるとは思わなかったわ。
体は無傷でも、精神はボロボロだ。
これで3戦目。今日はもう勘弁してほしいもんだね。
後処理が面倒くさくなったので、とりあえず気絶してる魔理沙とパチュリーは互いに互いを抱き締めさせといた。顔なんてキス寸前のところまで密着している。
「うん、これできっと仲良しになるね!」
もちろんそんなこと粒ほどにも思っていませんが。
記念の写真を数枚撮った後、私は悪い笑みを浮かべて図書館を出て行く。
ふふ、これからあの二人は写真をネタにすれば言うことを聞かせられそうだ。
パチュリーへの恩? そんなのさっき魔理沙を倒したのでチャラだぜチャラ。
—–—–この数日後、パチュリーがユリに目覚めてしまったことは、今の私には知るよしもなかった。
「今期アニメが面白すぎる! 転スラをオススメしたい作者です」
「あえて言うなら、ゴブリンスレイヤーをオススメするぜ。これを見てリアルで勃起した作者に引いてる狂夢だ」
「いやー、本当に今回は見たいのいっぱいありますね。テンプレだったらとあるとかSAOとかもあるし、それ以外も色々豊富ですね」
「まあ作者の家は録画機能がないからアニメ見るの大変なんだがな」
「大丈夫ですよ。もうすぐでテレビ買い換えるそうですし」
「買うといえば、お前の誕生日が今週中にあったよな? なんかもらったのか?」
「現金をもらいました」
「夢がねぇ……」