東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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萃夢想編
香霖堂


  魔法の森。

  そこは幻想郷に存在する魔境の一つだ。

  数多くの知能を持たない妖怪が生息しており、ただの人間が一度足を踏み入れればたちまち骨となって食い荒らされてしまう。

  それでなくても、この森には精神や身体に異常を起こす胞子が充満しているため、近寄る者は実力者か、ただの馬鹿しかいない。

  そんな魔法の森の入り口近くにポツンと寂しく建っている店が一つ。

  さほど大きくなく、ドアの上にかけられていた看板には『香霖堂』と書かれていた。

  そんな店の前に、私はいた。

 

「おっ邪魔しまーす!」

 

  ドアノブを握り、元気よく入店。途端に草木の匂いがほこり臭いものに入れ替わる。

  中には一人の青年が椅子に腰かけて読書をしていた。

  すらっとした長身に銀髪、そして眼鏡。

  うん、かなりのイケメンですわこれ。

  そんなインテリ感漂わせる青年は、私の入店に気づくとゆっくり立ち上がり、こちらに向かってくる。

 

「やあ、見かけない顔だね。もしかして初来店かい?」

「まあそうなるね。ここには外の世界の物があるって聞いて寄ってみたんだけど……」

「ああごめん、自己紹介が遅れたね。僕の名前は森近霖之助。ここ香霖堂の店主だ」

「私は楼夢。ただのしがない妖狐だよ。以後お見知り置きを」

 

  青年—–—–霖之助はそう言うと、すぐに元の椅子に座って読書を再開してしまった。この様子じゃ、どうやら人付き合いはあまり得意ではなさそうだ。

  仕方がないので台座に置かれている商品らしき物を勝手に見る。どうやら商品には値札は張ってなく、交渉次第では割引きしてもらえそうだ。

  でもなぁ……置いてある商品がイマイチパッとしない。

  壊れてたり、何十年も前の家電製品がゴロゴロある。……ラジオなんか神楽の記憶にもなかったぞ。これじゃああまり期待できそうにないかな。

  商品はいいから、一度店内をグルッと見回してみる。するとふと、霖之助の後ろにある棚に飾られてある()()()に目がいった。

  ……あれってまさか……。

 

「『天叢雲(アマノムラクモ)』!?」

「おっ、それを知っているのかい? でもごめんよ、それは非売品なんだ」

「いや、別に大丈夫だけど……」

 

  知ってるも何も、あれの製作者は私だもん。

  天叢雲はかつての神話時代、私がスサノオにくれてやったものだ。でもあの武器は『叢雲草薙(ムラクモクサナギ)』という妖魔刀として進化してるはず。しかし、あそこにあるものには妖魔刀特有の覇気らしきものが感じられない。ありゃ一体どういうことだ?

 

『ああ、ありゃ複製品だな。おそらく鍛治の神かなんかが作ったんだろう』

『まあ楼夢さんには私たちがいるのであんな刀は必要ありませんよね?』

 

  ふと頭の中にそんな男女の声が響いてきた。十中八九狂夢と早奈だろう。

  というか早奈に至っては妖夢の半霊に似た、黒い人魂になって妖魔刀から抜け出してきやがった。……そんな簡単に出てこれるものなんだ。

  というか珍しいね、早奈はともかく狂夢から私に話しかけるなんて。

 

『俺もこの店には興味があったからな』

 

  だったら自分で行きなさいよ。

 

『嫌だ、めんどくさい』

『そんなことより楼夢さーん! 中々いいものが見つかりましたよ?』

 

  俺と狂夢の念話中、商品欄を動き回っていた人魂はあるものの上でピタリと静止する。

  声に呼ばれたままに商品がある場所に向かう。そこにあったのは—–—–。

 

「……ん、これって……!」

「ああ、それは『ふぁみこんそふと』とかいうものらしいよ? なんでもそれで何かの遊びができるらしいけど、使い方がわからないからゴミ同然だね」

 

  そのゴミ同然なものをあんたは売っているのか……。

  っと、それはともかく。ナイスだ早奈。

  今ここにあるのはただのファミコンソフト。しかしファミコン発売から百年以上が経っている今では、そのただのファミコンソフトがプレミア化しているのだ。

  つまりは高く売れる。しかも見たところ一つや二つの話じゃない。明らかに数十個はありそうだった。

 

『しかもご丁寧に本体まであるみたいですよ? この幻想郷じゃ電気はないから使えませんけど』

 

  マジか。

  よくよく見ると商品が並べられているところの端っこに本体が数台置かれていた。埃は被っているようだがそんなのは関係ない。

  すぐに商品を指差して霖之助を呼ぶ。

 

「ねえ霖之助。これに似た機械やソフトって他にないかな?」

「これにかい? 同じのや似たようなものはまだまだあるけど……」

「じゃあそれ全部持ってきて」

「ぜ、全部? ちょっと待ってくれよ……」

 

  戸惑いながら、霖之助は店の奥に消えていく。そして十分後、彼は両手に様々なコンピュータゲームの山を抱えながらこちらに戻ってきた。

  さすがにこれほどの量のものを持ってくるのには疲れたのか、店の床にドンッ、とそれらを置くとヘタレ込んでしまった。しかしそれに見向きもせずに、私は霖之助がガラクタと称した山を漁る。

 

『これは……あたりのようだな』

『ふふん、どうですか楼夢さん! これのお礼にキスか何かを……』

 

  あーはいはい、今忙しいから黙っててね。

  あらかた見終わった結果、この中にはファミコンやそれのゲームソフトの他に、ゲームボーイやスーファミなどの別機種からファミコンよりも古いものが大量にあった。

  ソフトの数も合わせて商品数は約百個ぐらいかな。私は諭吉を十枚差し出すと、商談に話を持っていった。

 

「ねえねえ、これら全部を十万円で私に売ってくれない?」

「買ってくれるのかい!? いやー、正直僕も倉庫のスペースをかなり圧迫していたから困ってたんだ。是非ともその値段で売らせてくれ」

 

  こうして私の商談は無事終了した。

  だいたいソフト一つが数万円で売れるから……合計で数千万は稼げるかもね。もちろん値崩れさせないように場所を変えて売る必要があるけど。

  外の世界に行けない霖之助には必要ないものだろうし、私には大量の金が入ってくる。これぞwin-winの関係ってやつだね。

 

  すぐに買ったものを巫女袖に次々と収入していく。霖之助はそれを興味深そうに見ていた。

 

「へぇ……面白いね、その袖。異空間と繋がってるんだ?」

「ん? これの仕組みがわかるの?」

「いや、全然。でも僕の『道具の名前と用途が判る程度の能力』は便利でね。見たことないものでも能力が教えてくれるんだ。君の両方の刀についても見させてもらったよ」

「……覗きは犯罪って習わなかったかなぁ?」

 

  その私の言葉とともに、急激に店内の気温が下がっていく。

  そう、今は私はちょこっとだけ殺気を解放しているのだ。しかし霖之助は慣れているのか、ちっとも動じなかった。

  ちぇっ、つまんないの。これ以上やっても無駄だと悟り、殺気を抑える。途端に店内から凍てつく冷たさが失われ、湿気と熱気で包まれた蒸し暑さが戻ってきた。

 

  霖之助は表情一つ変えていない。椅子に座り眼鏡をクイッと押し上げる。そして冷静な瞳で私を見つめた。

 

「……君がなんとなく只者じゃないことはわかってたよ。能力を使わずとも身につけてる服は高価そうなものだし、その刀に関してもただの妖刀じゃないことは見ればわかる」

「へぇー、詳しいんだね」

「日頃から様々な道具を扱っていれば自然にわかるさ。強力な妖魔刀を二つも持った妖怪。君は一体何者だ?」

「ふふ、そこまでたどり着いたなら名乗ってあげたいところなんだけど……残念ながら答えることはできないね。その名推理を使って自分で考えてごらん」

「……まあいいや。たとえ妖怪だろうが人間だろうが、僕の店で暴れない限りはみんなお客様だ。そのお客様の秘密をむやみに探るほど、僕は礼儀知らずじゃないよ」

 

  立派な心がけで。

  なんというか実年齢は私の方が上なのに、精神年齢で負けてるような気がする。この陰キャ系イケメンにはそう思えてしまうほどの何かを感じた。

 

  私がそんな霖之助の言葉に感心していると、いきなりドアを乱暴に叩く音が店内に響いた。

  驚く私。またか……、とでも言いたそうな霖之助。早奈に至っては脱兎のような素早で妖桜の中に戻っていた。

  そしてひときわ大きな音がドアからした途端、それは少女の足によって蹴破られた。

 

「おーいこーりん! お邪魔するぜー!」

「まったく……また君かい魔理沙。うちの店のドアは外開きと何回言ったらわかるんだ?」

「私んちのは内開きだから慣れてないんだぜ。それよりもさこーりん。頼んでた物は出来上がったのか?」

「ああ、あれね。今取ってくるから頼むから大人しくしててくれよ」

「りょーかいなんだぜ」

 

  「はあ、またドアの修理代が……」だとか「なんで魔理沙と霊夢はいつも……」とブツブツ呟きながら、霖之助は再び店の奥に消えていった。

  そして残ったのは私と—–—–ドアを壊した張本人、魔理沙だ。

  彼女は私に気づくと手をあげて挨拶してくる。

 

「よう楼夢。お前がこんなところに来るなんて誰の吹き回しだ?」

「他ならぬ魔理沙が紹介したんでしょうが。というかドアの方は壊しといて大丈夫なの?」

「ああ、心配ないぜ。霊夢もやってるし、いつものことだ」

 

  何してるんですかあの孫は……。

  妖忌の孫さんとは大違いだな。似てもつかない。でもまあ、そんな乱暴なところが私好みなんだけど……。

  っと、霊夢の話は今は関係ないか。

 

  魔理沙はズカズカと店内に入り込むと、先ほど霖之助が座っていた椅子に勢いよく腰かける。

  ボフッ、という音とともに埃が舞った。しかしそんなことは気にも留めず、まるで自分の家のように彼女はくつろいでいる。

  そういえば、魔理沙は何をしにここに来たんだろう。

  気になったので聞いてみる。

 

「ねえ魔理沙、あなたもここに買い物に来たの?」

「買い物? へっ、こんなガラクタしか売ってない店に何を買いに来るっていうんだぜ。私がここに来たのはだな……」

「おっと、誰の店がガラクタ売り場だって?」

「うおっ!?」

 

  魔理沙がここに来た理由を口にしようとした途端、彼女の頭を部屋の奥から戻ってきた霖之助が軽く叩いた。魔理沙は霖之助が後ろにいたのに気づいていなかったようで、突如頭に走った衝撃に驚き、椅子から転げ落ちる。

 

「はぁ……誰が君のマジックアイテムのメンテをしているのか忘れたわけではないよね?」

「おーっ! さすがこーりんだぜ! あれだけ派手に壊れたミニ八卦炉が元どおりだぜ!」

 

  霖之助の言葉に被せるように魔理沙は感嘆の声をあげると、彼の手に握られていたミニ八卦炉を奪い取る。

 

「話は最後まで……まあいいや。今度は壊れないようにヒヒイロカネの量を増やしておいたから、君の最大出力にも耐えられると思うよ」

「サンキューだぜこーりん!」

 

  まるでオモチャをもらった子供のようにはしゃぐ魔理沙。

  そういえば以前魔理沙がミニ八卦炉は霖之助が作ったものだって言ってたな。それもレアで扱いが難しいヒヒイロカネを組み込ませることができるほどの腕だ。技術面でいえば舞花と同じくらいと推測できる。

  それほどの腕前を持つ彼が何者なのかは気になるけど、さっき霖之助は私のことを無理に探ろうとはしなかった。それに免じて私も無作法に調べるのはやめておこう。

 

「そういえばミニ八卦炉って西行妖との戦闘の時に壊れちゃってたんだっけ」

「ん? なんでお前がそのことを知ってるんだ?」

「へっ?」

 

  思いがけない魔理沙の質問に言葉が詰まる。

  しまった。そういえば私は春雪異変とはなんら関わりがない設定だった。美夜からある程度の霊夢たちの行動は報告されたけど、まさかここでそれが裏目にでるとは。

  なんとか作り笑いを浮かべて誤魔化すとするとしよう。

 

「あ、あはは……霊夢から聞いてね。今回の異変は相当大変そうだったみたいだね」

「ああ、まったくだぜ。私は弾幕ごっこ専門の魔法使いなのに、化け物と殺し合いをすることになっちまうとはな。私は気絶しちゃってたから詳しくは知らないんだけど、あの後胡散臭い妖怪の賢者とやらが倒したそうだぜ」

「そ、そっか……災難だったね」

「ったく、最初に封印をかけたやつも、自己責任でさっさと倒してくれりゃよかったのによ……」

 

  その点に関しては誠に至らぬ身で申し訳ございませんでした。

  魔理沙の話の通り、彼女が称した化け物—–—–西行妖を倒したのは紫ということになっているらしい。まあ謎の妖怪が倒した、と言うよりも妖怪の賢者が倒したと言った方が他人にはしっくり来ると思うからこのままでいいと思うんだけど。

  幸いあの場にいた魔理沙と咲夜は大妖怪最上位と伝説の大妖怪の妖力量の違いが計れてなかったようなので、バレることはないだろう。

  それよりも問題は霊夢だ。

  彼女なら紫が西行妖—–—–というより早奈を倒したのではないということに気づいてしまいそうだ。……いや、多分気づいていると思う。

  でもまあ、さすがに私が倒したという結論には至ることはないと思うし、大丈夫か。

 

  魔理沙は本当に修理に出したミニ八卦炉を受け取りに来ただけらしく、それが終わったら用済みとばかりに壊れたドアから外に出て行く。……と思ったら、何か伝え忘れたのか彼女は振り返ってこちらに戻ってきた。

 

「そうだ、忘れてたぜ。今日は博麗神社で異変解決の宴会があるから、お前も来たらどうだ?」

「そういえば宴会まだやってなかったんだね。いいよ、夜に私も来させてもらうね」

「おう。酒も食い物も準備していない私が言うのもなんだが、待ってるぜ」

 

  そこは用意しときなさいよ……。はぁ、今回も私と紅魔館が宴会の食材を全て負担することになりそうだ。いや、白玉楼の住人も加わったから多少は分割させることもできるかもしれない。

 

  魔理沙はそのことだけを告げると、森の奥に消えてしまった。あっちは魔理沙の家方面だし、おそらく自分ちに帰ったのだろう。

  私はふと玄関近くをちらりと見やる。そこにはしゃがんで壊されたドアの破片を集めている霖之助の姿があった。

 

「そういえば霖之助は宴会に来ないの?」

「僕? 僕は遠慮しておくよ。あまり騒がしい場所は得意じゃないんだ」

 

  あら残念。でも魔理沙が誘わらなかったことから、毎回こんなこと言って宴会は避けてるんだろうなぁ。なんとなく彼が引きこもりの性分を持っていることがわかる。

  でもまあ、仕方ないか。嫌がる人を連行するわけにもいかないしね。

  私は最後に霖之助に別れの言葉を告げてから、店を出た。

 

  さて、今夜は宴会だ。霊夢のためにも張り切って酒を貢がなくちゃ!

 

 






突然ですが作者です。そろそろテストが近づいてきたので、しばらく投稿は休みます。次は9月の初めから真ん中辺りに投稿かな。
まあ二週間以上は間を空けないように頑張りたいと思います。

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