東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
舞い散る桜、暖かな日の光。
幻想郷の春が奪われたあの日。春雪異変と呼ばれたその一連の騒動が終了してから二日が経っていた。
縁側から見えるピンク色の木々。例年よりも桜の数が多く見えるのは間違いではないらしく、溜め込まれた春度が一気に解放されたかららしい。おかげで明日行われる予定の博麗神社でのお花見兼異変解決祝いの宴会はさらに盛り上がることだろう。
本来なら異変解決の後日には宴会は開かれるものなのだが、今回は西行妖などの件で色々問題が残っている。それを配慮して三日の時間がそれぞれに与えられていた。
さて、現在俺……ではなく私は八雲邸にお邪魔している。
ちなみに今の私は元の幼女の姿に戻っている。だから一人称が私なのだ。
なぜこの姿なのか質問したいだろうが、それには様々な理由がある。
まず霊夢たちと会うときにできれば正体をバラしたくないだとか、こっちの方が妖力消費が少なく省エネできて楽だからとか……。
まあ、それは置いといて。
「はいよ紫、あ〜ん」
「あ、あ〜んっ……」
木製のスプーンですくったおかゆを布団の上に座っている紫の口に差し出す。……掛け声つきで。
それを彼女は若干顔を赤らめて恥ずかしがりながら、ゆっくりとスプーンを口に入れた。……掛け声つきで。
どうしてこうなった……。
いやまあ、そもそもの原因は私にあるんだけどね。
春雪異変の日、俺は幽々子の仇打ちをさせてやろうと紫と妖忌を西行妖の元にけしかけた。
そして二人は目的を済ませて生還したわけなんだけど……一つ誤算があった。
それは西行妖の生への執着がG並みにしつこかったこと。そしてそれが理由で私の想定以上の強さを手にしていた西行妖によって、紫の両腕が使い物にならなくされてしまったことだ。
正確的には紫の能力を自分自身にかけたことによる副作用だったはずだけど、私が原因の一つなのは変わらない。
ってことで、藍一人じゃ大変だから彼女の両腕が治るまで私が看病してあげようと思ったのだけれど……。
「……」
「そ、そんなに見つめてどうしたの?」
「……いや、なんでもないよ」
掛け布団がかかっていて見えない彼女の両腕を凝視する。
それが気になったのか紫は何か慌てたように私に問いかけてきた。
……やっぱり、もう治ってるはずなんだよね。
いくら両腕の筋肉がグチャグチャになって動かなくなっていても、もう二日も経っているのだ。彼女が私と同じ体が貧弱な部類の妖怪だとしても、治ってなくてはおかしい。
それに彼女の腕には私の再生能力を促進させる術式もかけられている。
これらのことを踏まえて、彼女は私に嘘をついていることが確定した。
まったく、ガキかこいつは。
怪我が完治すれば私がここにいる意味がなくなる。それがわかってるからこそ、彼女はこうしてるのだろう。
今回の怪我は私にも責任があるから、強く言えないしなぁ……。
ま、いっか。
こうなればとことん付き合ってやろう。果たして何日持つか見ものだな。
私がそう覚悟を決めた瞬間、屋敷の外から地面を震わせるほどの爆発音が聞こえてきた。
「な、何が起きたの!? 藍、らーんっ!」
「大変です紫様! 博麗霊夢がこの屋敷に攻めてきました!」
「な、何ですって!?」
連鎖的に響く爆発音。
そしてピチューんという空耳とともに、下で戦っていた妖怪の妖力が急速に少なくなっていく。
「
おい藍、混乱のあまりどこかで聞いたことあるセリフ言うのやめなさい!
たった今やられたであろう妖怪は藍の式神だったらしい。橙という名前には私も聞き覚えがある。たしかマヨヒガで出会った化け猫だったっけ……。
っと、私が考察していると、爆発したかのように藍の妖力が高まっていった。
19,000、20,000、21,000、22,000……うおっ!? 私の脳内スカウターが爆発しやがった!
「……紫様。私は今から橙の敵討ちに行って参ります」
「え、ええ、どうぞご自由に……」
「では……待ってろ橙、今すぐ助けに行ってやるからな!」
明らかに怒ってますというオーラを出しながら、藍は屋敷を出て行った。……紫の部屋の障子を突き破って。
さらに飛んだ時の風圧で部屋の中に置いてあったいくつもの書類などが障子の欠片とともに吹き飛んでいく。そしてあっという間に紫の部屋はゴミ部屋と化した。
マジか……あの真面目な藍があそこまで豹変するとは。自分の式神がやられたら怒るのは当たり前だけど、まさか自分の主人の部屋を荒らしてしまうほど冷静さを失うとは予想外だった。
というか紫、部屋の惨状を見た後に無言で私を見つめるのやめてくれないかな? ちゃんと片付けてあげるから勘弁してくれよ。
しばらくして屋敷への階段の方から「ちぇぇぇぇぇんっ!!」だとか「いいわ、木っ端微塵にしてあげる。あの化け猫のように」や「橙のことかぁぁぁぁっ!?」などという声が聞こえてきた。
そして始まる爆発音の連鎖。
先ほどのものの比ではない。さすがは大妖怪上位といったところか。
というか時々聞こえる咆哮みたいな叫び声が怖いんだけど。スペカ宣言だけでドスが効きすぎて弱小妖怪くらいなら殺せそうな勢いだ。
でもまあ、たかが怒りのボルテージが上がった程度で負ける博麗の巫女ではないわけで……。
およそ十分くらいかな。ここにまで届くほど外が激しくフラッシュしたかと思うと、次の瞬間には藍の断末魔が聞こえてきた。
「ああ、藍……せめて安らかに眠ってね……」
「南無……」
いやまあ死んでないけどね。というかちゃっかり紫も便乗してるんじゃないよ。
でも、流石の藍でもしばらくは動けなくなるんじゃないかな。霊力の気配から先ほど放たれたのは夢想封印だろうし。まあ無事を祈るばかりである。
っと、悠長にしてる場合じゃなくね?
明らかに人間を超えている霊力の持ち主が屋敷への階段を上ってくるのが感じられる。
幼女形態だから万が一会っても私が産霊桃神美であることはバレないと思う。でも会う場所が問題なのだ。
私は一応多少強い中級妖怪上位という設定を通して彼女と接している。実際出会った当時は封印が解除されてなくて保有妖力も少なかったから、そこんところは疑われてはいないだろう。
今もこの姿になることで上手く妖力を隠蔽している。
私はこう見えて妖狐なので、騙すことのスペシャリストだ。いかに霊夢であろうとこれを見破ることは難しいと思う。
しかし、もしそんな半端妖怪が強者の代名詞であるかの八雲紫の屋敷に、しかも本人と二人っきりでいたら?
当然怪しまれる。場合によっては今後ずっと疑われるかもしれないのだ。
もちろんそんなことは言語道断。私が孫に嫌われるなんてことがあってはならない。
「というわけで今日は帰るね紫。バイバーイ!」
「え、ちょっ、楼夢っ!?」
素っ頓狂な声を上げる紫。
それを無視して、腰に紐で結ばれている二つの日本刀のうち、舞姫の方を抜くと同時に何もない空間を切り裂く。そしてできたスキマに身を投じ、八雲邸からの脱出に成功した。
そして数秒遅れて、木製の壁が蹴り破られる音が聞こえた。
危なかった。もしあの時逃げるかの判断に迷ってたらアウトだったろう。
というかさっきまで階段にいたのに来るの早すぎやしませんかね?
「紫、あんたも冥界の結界の修復手伝いなさいよ!あんた仮にも妖怪の賢者なんで……」
「……ふ、ふふふっ。ねえ霊夢、今私虫の居所がすごく悪いの。ちょーっとだけ遊んでくれないかしら?」
……ああ、紫のやつガチでキレてやがる。
あまりの迫力に先ほどまでヤクザ巫女と恐れられる霊夢もスキマの奥でこっそり覗いていた私もたじたじだ。
いや怖がるのも無理ないよ? だって溢れる妖力が具現化したのか、紫の後ろにスタンドや化身に似たような化け物が見えるんだもん。
というか霊夢がここに来た理由ってなんだっけ?
さっきの言葉から冥界の結界とやらが関係しているらしいけど……ああ、あの結界か。
霊夢が先ほど言った結界に私は身に覚えがあった。
ほら、冥界に侵入した時に天空にあったあの巨大な門。
おそらくはあれだろう。確か春を集めるために門の上に穴が空いていたんだっけかな? っで、それを直すために紫の力を借りに来たと……。
なるほど、話が読めた。
つまり紫が悪い。
おそらく霊夢に結界の修復を依頼したのは幽々子だ。本来なら紫が異変解決後すぐに直さなければならないはずなのだけど、その頃彼女は仮病でサボっていたというわけで。
いつまでも直されない結界を見て、仕方なく霊夢に依頼したということか。
いつもの紫ならこんくらいのことは一瞬で察せたはず。なのに頭に血が上りすぎたせいかそれに気づかず、紫は外に出て鬼の形相で弾幕ごっこを始めていた。
ちなみに結果は霊夢の勝ちだった。途中まではいい勝負だったのだけど、最後の最後で霊夢の夢想天生が発動し、一方的にボコられて敗北した。
泣きじゃくりながら服の襟を後ろから掴まれて連行されていく紫。途中で私が見ているのに気づいたのか、何もない虚空に助けを求めていたけど、まあ当然ながらそれを無視する。
すまぬな紫。今霊夢の前で姿を現すわけにはいかないのだよ。
そうして紫は霊夢に脅されて強制的にスキマを開かされ、その奥に彼女と一緒に消えていった。
……なんか心配だから見に行こっかな。
そう思って移動しようとした時、どこからか現れた真っ白な光が私を包んだ。
♦︎
どこまでも続く青空。そこに浮かぶ無数の摩天楼。
その上に私は立っていた。
あ、ありのまま今起こったことを説明するぜ!
俺はスキマを通って冥界に行こうとしたらいつのまにか混沌と時狭間の世界に立っていた。
な、何を言っているのかわからねーと思うが、私も何をされたのかわからなかった。
頭がどうにかなりそうだった……。時止めとか瞬間移動とかそんなチャチなもんじゃ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
と、定番のセリフは置いといて。
いやマジどうしてこうなった?
犯人はだいたい見当がついてるよ? 私の2Pカラーの白髪野郎とか白髪野郎とか。
でもさ、いきなり拉致はなくない? 念話できるんだし何か一言断り入れておけよって思う。
「いや、んなこと言ったら絶対お前来なかっただろ」
「当たり前ですー。誰が腹黒邪神なんかのお茶会に参加しますか。……いや、そもそも君はお茶会というものをしたことがなかったか。ごめんねー、傷口抉るようなこと言っちゃってー! プークスクス」
「テンメェ……!」
なんか狂夢の周囲に黒いオーラが溢れ出てるけど気にしない。
ほーらすぐ怒る。これだから単細胞は嫌いなんだよ。悔しかったら何か言い返してみなされ。
そう思った途端、狂夢は私の思考を読んだのか呆れた顔でため息をつきながらオーラを抑えていった。
ん、なんか珍しいな。こいつが自分から引き下がるなんて。
というかバカに可哀想なものを見るような目をされているのは気のせいか?
「まったく……バカはお前だっつーの。お前は自分が嵌められたことにまだ気づいてないのか?」
「嵌められた? いったい誰に? 目の前にいる人以外心当たりのあるやつはいないんだけど」
「呆れた……本当に呆れたぜ。あれから二日も経ってるってのによ」
二日前、ということは春雪異変の時だね。
でもあの時私と敵対したのは誰がいたっけ……? というかそもそもあの異変は美夜に任せてたから、あの日は異変解決組と紫と妖忌にしか会ってないんだけどな。
うーん、分からん!
「……ああそうかい。すっかり忘れられてるそうだぞ、異変の真犯人さん?」
『もぉー、酷いですよ楼夢さん!』
「……えっ?」
突如、狂夢とは別の声が頭に響いてきた。
女性の声だ。しかも私はこの声に聞き覚えがあった。
しかし私が何かを言う前に、腰につけていた二本の刀の一つーー妖桜がひとりでに動き出した。
それは勝手に鞘から抜け出すと、クルクルと回転しながら刃を地面に突き刺す。そして何かが弾けるような音とともに煙が刀から噴出した。
……まさか……!
一瞬で舞姫を抜刀し、その切っ先を煙へと向ける。
しかし緊張感は誤魔化しきれず、刀を握る手には知らず大量の冷や汗が流れていた。
そして煙が徐々に晴れていく。
その中から姿を現したのはーー紛れもなく、俺が二日前殺したはずの早奈だった。
「な……んで……っ!?」
「驚いてます? 驚いてますよね? まあそれはともかく、刀を納めてくれませんか? 私はもう楼夢さんとは戦うつもりはありません」
「……信用できると思う?」
「はい! だって私と楼夢さんの間柄なんですから!」
「数日前に殺し合った間柄じゃねェかよ。……まあそれはどうでもいいけどよ、さっさと刀納めろ。今からこの俺が説明してやるからよ」
「……わかったよ」
渋々と舞姫を元の鞘に納める。
正直今回ばかりは頭の中がこんがらがっちゃって、何がどうなってるのかよくわからない。
あの時、確かに私は早奈に止めを刺したのだ。彼女を貫いた時の感触からその体温が消えるその瞬間まで、全て私の記憶に焼き付いている。
では目の前にいるのはなんだ?
狂夢が作った偽物? ……いや、ついこの間相対したからこそわかる。これは紛れもない本物だ。
一体全体どうなってるんだ……?
「だから落ち着けってこのバカが。今から説明してやるって言ってんだろうが」
「ふふ、相当なテンパり具合ですね。私も二日間隠れ潜んでいた甲斐があったというものです」
そんな思考を読まれたのか狂夢から冷静なツッコミが入り、私は正気を取り戻した。
……しかし、考えるほど謎だ。
私の思考を狂夢が読めるのは、私とあいつが同一人物であるからだ。逆に私もやろうと思えばあいつの思考を読むことができる。ただ、普段は気持ち悪いことばかり考えているからしないんだけど。
でも今の早奈のセリフだと、彼女も私の思考を理解しているように聞こえるのだ。
……顔にものすごくわかりやすく現れてたってのなら私の勘違いで済むんだけど。
「いいえ、勘違いじゃありませんよ。ちゃんと楼夢さんの声は届いていますからね? これぞまさに以心伝心ってやつです!」
ニッコリと全てを見透かしたようなーーいや現にそうなんだろうけどさーー笑みを早奈は私に向けた。
うわぁ……元から考え事はほとんど読まれちゃうのに、本当の読心術なんか覚えられたらこいつにもう隠し事できないじゃん。
「さて、まずは何から聞きてェんだ?」
いつのまに出現していた椅子に座りながら、狂夢がそう聞いてきた。
奴の目の前には明らかに一人用のテーブルが置かれており、そこに大量のスナック菓子が積まれていた。
……相変わらずマイペースなようで。これが私たち全員用のだったらともかく、一人用のテーブルと椅子しか用意していないことからこいつの性格の悪さが滲み出ている。
ボリボリという音に腹が立ってきたけど、今は我慢して質問に答えようか。
「……じゃあ、なんで早奈が生きているのか教えてくれない?」
「いいぜ。というかそれを話さなきゃ始まんねェからな」
椅子に踏ん反り返ったまま、狂夢は口を開く。
しかし出てきたのは、突拍子もない質問だった。
「お前は妖魔刀がどう言ったものなのかは理解しているよな?」
「強力な魂が刀に宿った武器のことを言うんでしょ? でもそれが何に関係してるのさ」
「いいから聞きやがれ。妖魔刀はいわば生きている武器だ。お前の舞姫には俺の魂が、火神の
たしかに考えてみたけど検討もつかないな。
私の相棒の舞姫も、遥か昔に
さすがに意識がない状態じゃ妖魔刀誕生の瞬間を思い出せるわけがない。というか知らない。
火神だったら何か知ってるだろうけど。まあ今この場にいないやつのことを話しててもしょーがない。
「いいか。妖魔刀を作るには一度対象となる人物を魂、つまり殺さなくちゃいけない。それも妖魔刀の原型となる器でだ」
「あー、なるほど。だから私たちが初めて会った時、殺し合ったんだね」
「ちなみにお前が負けたら俺の妖魔刀になってもらおうと思ってたんだけどな」
おい、サラッととんでもないこと言ってるんじゃないよ。
え、何? てことはもしあの時の決闘で負けてたら俺がこの世界に閉じ込められてたの?
……駄目だわ。ここで数百数千年生きてける自信がない。そもそも暇すぎて逃げ出しちゃいそうだ。
そう思うと私って狂夢に結構酷いこと強いてるのかな。……いや、よくよく考えてみたらルーミアだって自由にしてるんだし、おそらくこいつが外に出ないのはそもそも引きこもりたいからだな。というか間違いない。
「でもよ。ただ殺すだけじゃ妖魔刀は出来上がらない。これを作るにはもう一つ条件があるんだが、これが果たされることはほとんどない」
「むしろ殺すだけでできるんだったらこの世は妖魔刀だらけだよ。おそらく世界中探せばもっといるだろうけど、私が知ってる妖魔刀使いも火神と早奈だけだしね。それだけ難しいってこと?」
「難しいというよりは成立しにくいだな。まあその条件ってのは、殺した相手が妖魔刀になることに同意することだ。これがどれだけ成立しにくいかはお前の想像におまかせしとくぜ」
ああ、確かにそりゃ妖魔刀使いが少ないわけだよ。
案外簡単そうに聞こえるけど、これが成立することはほぼない。
なんせまだ生きている者に、殺させてくれと頼み込んでるのと同じようなものなのだ。そして死んだ後も自分の道具として生きてくれって矛盾したことをさらに言ってるんだから、そりゃ誰もが断るだろうさ。
そもそも殺されるのに同意するやつの方が圧倒的に少ない。もし仮に自殺志願者が相手だとしても、その後道具として一生生き続けるという話を聞けば素足で逃げ出すだろうよ。
でも、早奈の妖桜の魂の元となった西行妖は妖魔刀になるのに果たして同意したのだろうか。
っと思ったら、どうやら念話で返答が返ってきた。
どうやらあれは例外中の例外らしく、早奈が呪いで西行妖の魂と刀を強引に繋げたのだとか。
昔は殺人桜として見ていたけど、こうして考えてみると結構苦労してたんだなぁ。今は亡きかの妖怪に、心の中で合掌する。……同情はしないけど。
……ん、あれ? 器で殺す……相手の同意が必要……。
私の脳裏に、つい最近の思い出が蘇る。
『その子は楼夢さんに託します……。そのかわり、これで私を……殺してください……』
『……よかっ……た……これで……私の最期の願いは……叶いました……っ』
「……まさか、嵌められたってのはそういうこと?」
「大正解、ピンポンパンポーン! あの時私の刀で私を殺してもらったのもそのためですよぉ。後は刀に魂を込めれば、はいっ!
やられたぁ……!
最後の最後でこいつを信じた私がバカだった。
つまりこいつは元より死ぬ気はなかったということか。よくよく思い出してみれば『生まれ変わる』だとか『また会える』だとか言ってたけど、あれらはこういう意味だったのか。
ってことはさ。こいつの持ち主って私ってことになるの?
それだけは嫌だ! 勘弁してくれ!
「……諦めろ。妖魔刀は一度なったら所有者が死ぬまで壊れることはない。そして解除することも不可能だ」
「妖魔刀の契約は魂と魂を結び付けるためのもの。つまり、魂レベルで繋がってる私たちは一体化していると言っても過言ではなく、これで私の最終目標の一つだった『楼夢さんとの一体化』は達成されたわけです!」
「……ちなみに、今説明した方法以外ではどうやってその目的を叶えるつもりでいたの?」
「もちろん殺した後に死体を食べるつもりでしたけど?」
「サイコパスだ! ここにサイコパスがいるよぉ!」
あーもう、面倒くさいのが一人増えちゃったよ!
おまけに妖桜の能力なんてガチの殺し合いでしか使えないじゃないか。神解の幻死鳳蝶も同じく。
今さらこんなチート能力使えても意味ないよ。今回の異変で、もう幻想郷にいる
もっとも、そんな状況はおそらく後数百年は来ないだろうけど。
「というわけで、今後は妖桜こと白咲早奈をよろしくお願いします!」
「いや、あたかも私とお前が結婚したかのように名前変えるのやめてくれないかな? 元の名字に戻しなさい」
「嫌です。私はもう東風谷一族を名乗る気はありませんし、あそことは一切無関係です。そこまで言うのなら何かいい名字考えてくださいよ」
口先をちょっぴり尖らせて、拗ねたような表情をする早奈。
そういえばこいつ、諏訪子や神奈子たちと喧嘩別れしてたんだっけかな。ちょっと嫌なことでも思い出させてしまったのかもしれない。
……はぁ、しょうがないか。なんで私がという気持ちもあるが、このまま私の名字を使われるよりはマシなので考えてやるとしよう。
幸い興味が湧いたのか、狂夢も手伝ってくれるそうだ。こいつが考えるのなんて不安でしかないのだが、今は少しでも人数がいた方がいい。
……そう、思っていました。
「うーむ、江戸川とかどうだ?」
「たしかに私は死を呼び寄せることができますけど、脳みそ大人ガキメガネのをもろパクるのは嫌ですよ!?」
「じゃあ毛利はどうだ?」
「キャラ変えればいいってものじゃないんですよ!?」
「というかこいつ絶対マジメに考える気ないだろ……」
「あっ? 当たり前だろうが。俺は今後こいつの黒歴史にのるぐらい面白い名字を考えるためにいるんだからな」
こいつを頼った私がバカでした。
悲報、私のもう一人の人格がまったく使えない件について。
もうかれこれ数十個は出ているが、狂夢が出したのは全部マンガやアニメなどのパクリだった。
一番酷かったのが早奈・パロ・ウル・ラピュタだったな。いずれ失明しそうな名前をつけるとか正気じゃないわ。
そうやって早奈と否定意見を出し続けていると、狂夢は飽きたのか名前を考えることをやめ、代わりに私を指差さしてこう言った。
「ったく、そんなに嫌ならお前がつけてみろって。元々お前の仕事なんだしよ」
「わ、私が? いや待ってそんな急に考えられるものじゃ……」
「十、九、八、七……」
「まさかのカウントダウン!?」
いやだから待てって言ってるでしょうが!
しかしそんな叫びも虚しく、早奈は非常に綺麗な笑みを浮かべて数を数えていく。途中から狂夢も加わったせいでうるさいのが倍増だ。
……ああもう! こうして頭を抱えて悩んでいる間にも時間は進んでいってるんだ。もうやるしかない!
「「四、三、二、一……」」
「あ、
「……普通だな」
「……普通ですね」
「う、うるせいやい!」
案の定、二人からはダメ出しされました。世の中って厳しいね。
まあ考えてみれば当たり前だろうけど。西行妖や妖桜から取ったんだけど、外の世界ではいわゆるDQNネームってやつでしょこれ。
でも二人の反応は違って、滅多に見ない無表情を見せて心を抉ってくる狂夢に対して早奈は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
うん、ちょっとは笑いは取れたのかな?
「ふふっ、まあいいです。せっかく楼夢さんが考えてくれたんですし、この名前にしましょう」
「えっ、嫌なんじゃないの?」
「いいんですよこれで。今日から私は妖早奈です。今後もよろしくお願いします」
「うん、なんだかしっくりしてきた」と自分の新しい名前を何度も口にした後、彼女はそう言った。
まあ本人が納得してくれたんだし、いいでしょ。だからそっちの白髪野郎、ものすごい微妙な顔で私を見るのはやめなさい!
こうして早奈復活の件は落ち着いていった。
今後は騒がしくなるだろうけど、まあいいか。
嫌がってるはずなのに、生前の彼女に似た純粋な笑顔を見るたびに、なぜかそう思うのだった。
♦︎
「……のう萃香。お主はこの前感じた妖力についてどう思う?」
「へっ、母様も野暮なことを聞くねぇ。この感覚、間違いなく奴だと私は思っているよ」
「そうか……それじゃあ、地上に出てみて確かめてみるかの」
「最近文字数多くなってきて自然と投稿が遅れてしまう作者です」
「今回も9000文字越えだもんな。無駄な文章は削る技術も身につけた方がいいと思う狂夢だ」
「さて、作者。この世のアニメやマンガ、ラノベなんかでブーイングされる要素が一つある」
「へぇ……何なんですかそれは?」
「それはだな……なんかいい雰囲気で死んだのに、なぜか復活してそのシーンを台無しにしてしまうキャラなんだよ!」
「なっ、ナンダッテー!?」
「前回で終わればいい感じで終わったんだよ! それがなんだよ今回! 今までのシリアスを吹き飛ばすかのような茶番といっしょに、サラッと復活させてんじゃねェよ!?」
「で、でもっ! 早奈さんあれだけヒロイン感出してたんですよ!? ここで殺すのは惜しいじゃないですか!」
「……ああもう、これだからこいつは……。昔読んだ脳内台本じゃ早奈死亡ルートしかなかったんだが、いつの間に変更したんだよ」
「去年の冬ごろくらいですかね。まあこの通り無計画なものですから、その場の気分で変わっちゃうんですよ」
「唐突な茶番の嵐もそのためか……」
「いえ、あれはただ単に連続で続くシリアス展開に耐えきれなくなっただけです」