東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「【二重結界】ッ!」
始めに動いたのは霊夢だった。
未だ西行妖の魅力に取り憑かれ、呆然と立ち尽くしている魔理沙と咲夜ごと隠すように、巨大な二重の結界が張られる。
直後に、鋭い石が壁にぶつかったかのような音が無数に結界の外から聞こえて来た。
「くっ、痛ぅ……っ! ボサッとしてるんじゃないわよ! さっさと動きなさい!」
「……っ、二人とも手を伸ばして!」
咲夜の声に従い、二人は手を差し出す。それを急いで掴んで、時止めによる瞬間移動を行い、その場から離脱する。
そして一拍遅れて、西行妖から伸びてきた真っ黒な枝が二重結界を突き破り、地面に深く突き刺さった。
『あら、惜しいですねぇ。そこのメイドさんがいなければ串刺しだったのに』
クスクスと、どこからか笑い声が聞こえてくる。
まるで音楽のような心地よさを感じられる。ずっと聞いていればそれこそ溺れてしまいそうな……。
しかし、同時にその声は酷く粘着性があった。それが不気味さをさらに増長させている。
「どこの誰よあんたは! せっかくの異変解決を邪魔しないでくれるかしら!」
『ふふふ、強がってもダメですよぉ。怖がってるのはわかっているんですからぁ。でも、そんな顔も可愛いなぁ……』
「……ちっ、聞いた私がバカだったわ……」
「大丈夫ですか霊夢!?」
会話することも難しいとわかり、どうしようかと霊夢が悩んでいると白玉楼の方から二人の人物が走ってくるのが見えた。
一人は美夜だ。黒くて巨大な九つの尻尾が重りとなっているはずなのにその動きは軽やかで、あっという間に霊夢たちの元にたどり着いた。
そしてもう一人はーーーー
「幽々子様ぁぁぁぁッ!!」
先ほど白玉楼前の階段で邪魔をしてきた剣士の妖夢だった。
彼女は枝に絡め取られている幽々子の姿を確認すると、絶叫しながら何も考えずに西行妖に特攻していった。
もちろんそれは愚策だ。
弾幕ごっこではなく、実戦用の本気の二重結界がああもたやすく破られたのだ。一度でも枝による攻撃をくらえば重傷になるであろうことはあれを見ていた三人には容易に想像できた。
そうでなくても、西行妖の周囲には幽々子の【主に死を操る程度の能力】によって生み出されていた蝶と同類のものが無数に飛び回っているのだ。あれをどうにかしない限りは接近することもできない。
「……っ、あんのバカ……!」
「れ、霊夢っ!?」
ここであの背中を見送ればあの剣士は間違いなく死ぬだろう。しかしここで一人でも欠けることは全員の生存率の低下を意味するし、なによりも死ぬとわかっていて見捨てるのは霊夢のプライドが許さなかった。
気がつけば魔理沙の声を振り切って体が飛び出していた。
もう後には戻れない。覚悟を決めて妖夢を追う。
真っ先に駆け出した妖夢にあらゆる攻撃が集中した。
弾幕ごっこでは見られないような早くて鋭い弾幕の嵐。マスタースパーク並みに大きなレーザーの連続掃射。そして空を舞う無数の蝶たち。
それらをほぼ本能と勘だけで避け、それでも当たるものは両手に持つ楼観剣と白玉剣で切り裂いて防ぐ。
しかしそれでも足りない。一つ切っても五つ増えていくような感覚を覚える。もうこの一、二分だけで数十数百もの弾幕が妖夢の体をかすり、ジワジワとその傷を増やしていった。
幸いなのは妖夢にはあの即死の蝶が効きずらいということか。妖夢は半分死んでるためか効果は薄く、蝶がかすった程度では死ぬことはなかった。それでも普通の弾幕並みには痛いらしく、たまに口元を歪める。
そしてとうとう一つの弾幕が妖夢の体に直撃した。
「……かはっ……!?」
弾幕ごっこでは到底味わえない威力に体の動きが止まる。それによって無数の弾幕が次々と妖夢に当たり、その華奢な体を穿っていった。
まずい。このままじゃ確実に死ぬ。
霊夢は片手に先ほどよりも多い霊力を込めるとそれを突き出し術式を発動させる。
「【二重大結界】ッ!」
妖夢と霊夢の前に二重結界よりもさらに大きな結界が張られる。
これが、今の霊夢が持ちうる限りの最高の結界。しかしそれを使っててでも、長くは持ちそうにはなかった。
「……っ、博麗の巫女がなぜ……?」
「今はっ、そんなことっ、言ってる場合じゃないでしょうがっ!」
「【スターダストレヴァリエ】ッ!」
妖夢が霊夢の助けに戸惑っていると、目の前の弾幕群が星型の弾幕によって相殺された。
この技を霊夢はよく知っている。振り返ると、すぐそばには肩で息をする魔理沙がいた。
ああ、まったくこの友人は……。
ここに来たら死ぬかもしれないとわかっていて来てくれた友に喜んでいいのか悲しんでいいのかわからない。
しかし、ここぞという時で頼りになることは確かだ。
結界の維持に片腕を必死に伸ばしている霊夢の肩に魔理沙の手が置かれる。霊夢が吹き飛ばされたら死ぬことはわかっているし、魔理沙としても残り魔力に余裕があるわけではなかったので、今はただ支えることくらいしかできなかった。
しかし必死に結界を保っている中、先ほど二重結界を突き破ったものと同じ触手が槍のように繰り出された。
ただでさえ二重大結界にはヒビが入っているのに、これを食らったら間違いなく壊れるだろう。
しかしそれはどこからともなく現れた赤の閃光によって切り落とされた。
「私を忘れてもらっては困りますよ! 【閃】!」
美夜の黒刀が赤い光に包まれる。そのまま繰り出された斬撃が触手を切り落とし、結界が壊れるのを防いだ。
その隙に霊夢たちは再び咲夜の能力によって前線を一時撤退した。
一人取り残された中、美夜は無言で西行妖を睨みつける。
これが、父の仇の姿。
溢れ出ている妖力は間違いなく伝説の大妖怪クラスであり、とても一人では勝機などなかっただろう。
しかし、幸いにもここには幻想郷の実力者が美夜含めて五人もいる。誰かが作戦か何かを立ててくれれば、もしかしたら勝てるかもしれない。
美夜はその作戦が組み上がるまでの時間稼ぎだ。
西行妖の攻撃を一人で受けきるのは無理がある。しかしやらなければ勝利はない。
まっすぐに愛刀を構える。そして精一杯足掻くため、美夜は西行妖の元へと駆け出した。
♦︎
「……っ、美夜さんが戦ってる……! 早く行かなくちゃ!」
「落ち着きなさい白髪。さっき無策で突っ込んで行ってたけど、何も学習してないのね」
「でも、ここで大人しくしていたら間違いなく死にますよ!?」
「……あれでもあいつは大妖怪の一角よ。早々にくたばることはないと私は信じているわ」
ヒートアップする妖夢を冷静に霊夢はなだめる。
いや、実のところ彼女も先ほどまで冷静ではなかった。しかし自分以上に取り乱していた妖夢を見たおかげで頭が冷えて冷静になれたのだ。
人、自分より下を見れば安心するとはよく言ったものだ。
しかしいくら冷静になったところで美夜のタイムリミットは近づいて来ている。なので出来る限り手短に霊夢は自分が見たものと、それを生かして立てた作戦を説明する。
「西行妖の幹の部分に二つの日本刀が刺さっているのは見たわよね?」
「……ええ。あれだけ異様な存在感を放ってたからすぐに思い出せるわ」
「それがあの妖怪桜の封印の触媒よ。あれに触れて術式を組み直せば西行妖も再び封印されることになるはず」
つまり、霊夢の作戦とは彼女自身が西行妖の幹まで潜り込み、二つの日本刀を触媒に再び西行妖を封印する、というものだ。
シンプルだが、それ故に難しい。あの弾幕と触手の雨を掻い潜りながら進むなど正気の沙汰じゃなかった。
それに霊夢の残りの力にも問題がある。幽々子との弾幕ごっこで夢想天生を使ってしまったせいで霊力が激しく消耗しており、あと夢想封印が一、二回出せるかどうかぐらいしか残ってないようだった。このため、彼女は極力霊力の消費を抑える必要がある。
「だからあなた達にも手伝ってもらうわよ」
「……どういう風にだぜ?」
「役割分担するのよ。魔理沙は私に近づいて来た弾幕類を妨害、そこの半霊と美夜には触手の相手をしてもらうわ。そして咲夜はいざという時に時止めで逃げ道を作り出す。これが私たちにとって最も確率の高い方法だと思うのだけど、異論はあるかしら」
「ないぜ」
「ないわよ」
「ありません」
「……わかったわ。それじゃあ私は機を見て突っ込むから援助よろしく」
そう言うがいなや、霊夢は再び前線へと駆けていく。
そして血まみれで刀を構える美夜の側まで辿り着くと、彼女を魔理沙達の方へ無理やり投げ飛ばした。
「……っ、乱暴すぎやしませんか霊夢」
「いいから話してる時間はないわよ。今からあなたの役割を説明するわ」
美夜は怪我のせいか受け身がとれず、背中から地面に落ちてしまう。その口から吐き出されたのは空気ではなく、口の中に溜まっていた血液だった。
彼女の体を一言で表すなら、ボロボロだろう。
身体中にいくつも高密度の弾幕による大火傷を負っている。さらには触手のようなものの一撃をいくつかくらったのか、数カ所貫かれたような穴が空いていた。
そんな状態でも必死に目を見開き、咲夜から伝えられた己の役割を理解しようとする。
「……理解できたようね? それじゃあ霊夢も動いてることだし、さっそく作戦を始めるわよ」
咲夜のその声によって、全員が動き出す。
魔理沙は少し下がって後方に。咲夜は霊夢と並走するように彼女の横へ。そして妖夢と美夜はその後に続くようにそれぞれ駆け出した。
西行妖の幹までおよそ百メートル。
そこまで距離が縮められると厄介と感じたのか、小、中、大様々な弾幕が蝶とともに狂ったように乱射された。
それらは霊夢の視界を埋め尽くすと、周りの地面に複数のクレーターを次々と生み出していく。しかし彼女は止まらない。宙を舞う砂煙を突き破り、ただひたすら前に進み続けた。
「【イベントホライゾン】!」
「【インディスクリミネイト】!」
魔理沙は持っている箒を杖のように振るう。するとそこから流星群のように次々と星型の弾幕が流れ出てきた。
同時に咲夜のマジカル☆さくやちゃんスターが青く輝き、そこから手ではとても出せないような量のナイフ型弾幕がマシンガンのように放たれた。
面には面で。二種類の弾幕は霊夢の周りに落ちる西行妖のそれと正面衝突し合う。
地面が震えるほどの爆音が連鎖的に鳴り響く。
そして全ては消えなかったものの、弾幕で埋め尽くされていた視界はクリアになり、西行妖への道ができあがる。
『ちっ、中々粘りますねぇ。ならこれはどうですか? 【
それは閃光というよりもブレスと言った方が正しかった。
広範囲に放たれたそれは霊夢だけでなく隣にいる咲夜や、後ろの美夜や妖夢でさえ巻き込み、その視界を光で埋め尽くさせる。
そんな中、後ろから喉が裂けそうなほどの大声で魔理沙が叫んだ。
「伏せろぉぉっ! 【ファイナルスパーク】ッ!!」
魔理沙の持つミニ八卦炉から霊夢でさえ見たことのないほどの光と熱量が集中していく。
ミニ八卦炉。
魔法の森の道具屋、森近霖之助によって作られたマジックアイテム。
材料として使われている金属にはあのヒヒイロカネも含まれており、その最大火力は作成者曰くーー山一つを焼き払う。
それが耐久の限界を超えて、魔理沙の絶叫とともに解き放たれた。
霊夢達は魔理沙の言葉に従い、頭からスライディングするように勢いよく地面に体を伏せた。
その上を恐ろしく速い流れ星が流れた。
広範囲に散らばっているため密度が若干薄くなっている閃光と、逆に一点に集中しているため密度が高い閃光。
例えるならば紙と小石だろうか。
魔理沙のファイナルスパークは小石が紙に穴を空けるかのように、霊夢たちが通れるほどの穴を作り、そのまま奥にある西行妖に直撃して大爆発を起こした。
しかしそれでも、西行妖が燃えることはなかった。ただ幹の表面が黒く焦げているだけ。
だが道は作れた。霊夢たちを飲み込むほどのブレスを彼女たちは魔理沙が作った穴を通り抜けて乗り越えた。
『っ……いい加減ムカついてきましたよぉ!』
西行妖まで残り50メートルほど。
ここにまで来て焦りを感じたのか、西行妖の枝がメギメギという気味が悪い音を立てながら急成長して伸びていく。
そしてパッと見て数十を超える枝の槍の雨が霊夢たちに降り注いだ。
しかしここで霊夢たちの前に飛び出たのは美夜と妖夢だ。
二人の刀には眩いばかりの光が集中しており、そこから美しい剣技が繰り出される。
「【天剣乱舞】!」
「【未来永劫斬】!」
恐ろしく硬いはずの枝の槍のひとつひとつを、一太刀のもと断ち切っていく。
【森羅万象斬】を連続で繰り出す白咲流奥義【天剣乱舞】。そして目にも留まらぬ連続攻撃で相手を切り刻む魂魄流奥義【未来永劫斬】。
二つの奥義はどちらとも凄まじく、二人はまるで競い合っているかのようにどんどん剣速を速め、降り注ぐ槍の雨を全て両断した。
『……人間如きがァァァァァ!!』
絶叫のような女性の声が耳をつんざく。そして西行妖から幽々子の【亡我郷】を連想させるような巨大なレーザーが複数放たれた。
「っ……【ミルキーウェイ】!」
「【ドラゴニックサンダー】! ……ぐぁっ!?」
少し遅れて、魔理沙から迎撃のための星型の弾幕が放たれた。しかしミニ八卦炉が先ほどのファイナルスパークでイカれてしまったため、高火力が出ず、弾幕の大きさも小さくなっていた。
もちろんそんなもので西行妖のレーザーが止められるはずがない。魔理沙の異常に気づいた美夜がすぐさま加勢に入るが、それすらも突破され、反動で彼女は大きく吹き飛ばされてレーザーに飲み込まれた。
「咲夜っ!
「わかってるわよ! ーー時よ止まれ!」
霊夢の声を合図に、最後の手段として温存されていた咲夜の能力が発動する。
そして世界が灰色に染まった。
咲夜と霊夢を除いてあらゆるものの動きが静止する。
あと数秒遅れたら当たっていたであろう目の前の空中で止まっているレーザーを横に避けて、能力が続く限り前に進む。
西行妖の幹まで残り十メートル弱。
そこまで辿り着くと、制限時間が来たのか能力が自動で解除される。
そして次の瞬間、
「っ、ぐぅ……!」
『アハハハ! 何回その能力を見たと思ってるんですかぁ? 残念ながら私の周りには地雷を埋めさせてもらいましたよぉ!』
迂闊だった。
女性の声が言う通り、ここらには地面に触れると作動する罠が仕掛けてあったのだろう。
咲夜の能力も万能ではない。一度能力が発動してからまた使うまでに一秒というインターバルが必要となる。今回はその一秒という一瞬の隙をまんまと突かれたというわけだ。
あまりの激痛に顔を歪め、地面に倒れてしまう。そしてそこに設置してあった罠が再び作動し、今度は咲夜の胴体を串刺しにした。
「咲夜ァ!」
「はやっ、……く、いきなっ……さい……っ!」
『ねえ紅白の巫女さん。あなたは仲間と自分、どっちを取りますか?』
すぐに咲夜を助けようとした霊夢にかけられる、無慈悲な声。
どういうことかと上を見上げると、そこには先ほど美夜を吹き飛ばしたレーザーが迫ってくる光景があった。
このままだと咲夜ごと霊夢は巻き込まれてしまうだろう。しかしもし咲夜を見捨てれば自分だけは助かる……。
迷いは一瞬だった。
「……悪いけど、仲間を見捨てるほどクズじゃないのよ、私は!」
「よく言ったぜ霊夢。しっかり掴まっておけよ!」
「……へっ? きゃぁぁっ!?」
突如もの凄い速度で突っ込んで来た
霊夢は驚き目を見開きながらも、後方に控えていたはずの
「魔理沙、あなたミニ八卦炉が壊れたんじゃ……」
「壊れたからって役に立たないわけじゃないだろ。せめて荷物の配達ぐらいはやらせてもらうぜ」
「……誰が荷物よ、誰が」
「悪いな霊夢。この箒は一人乗り専用なんだ。それなのに無理して乗せてる私に感謝しろだぜ」
どこかで聞いたようなセリフはさておき、一人乗り専用と魔理沙は今たしかに言った。
そして現在箒に乗っているのは魔理沙と霊夢、そして咲夜の三人。明らかに人数オーバーだ。するとどうなるか。
それまで地面からそれなりに高い位置を飛んでいた箒がガクッと先端を下に向けると、そのまま落下運動によって速度を増しながら西行妖の幹まで突っ込んで行った。
「……ねえ魔理沙」
「なんだぜ霊夢」
「私は今まででこれほど人をバカだと思った日はないわ」
「脳筋は褒め言葉だぜ」
「脳筋なんて言っていない!」
霊夢が焦るのも無理はない。
なんせ西行妖の枝が次々と伸びて来て、こちらをロックオンしているようなのだ。
しかし魔理沙は呑気にも大丈夫だと宣言する。そして下を見てみろと地面を指差した。
そこにいたのは妖夢だった。
枝の槍が伸びてくる前に彼女は跳躍し、次々とそれらを切り落としていく。
彼女の体は実戦に慣れてないためボロボロだ。息は荒いし、体力不足で今にも倒れてしまいそうだった。
しかしその極限状態が妖夢にかつてないほどの集中力を与えた。今の妖夢には技もなくただの一振りで枝を切ることが可能だろう。
「あとは頼みましたよぉ!」
目に見える中での最後の一つが切り落とされると同時に妖夢は気が抜けたのか、気絶して落下してしまった。
しかし、お陰で西行妖に限りなく近づけた。
霊夢は一瞬だけ魔理沙の横顔をチラ見する。それに気づいたのか、彼女は笑顔を見せると親指を立ててサムズアップをした。
「さて、ここまでお膳立てしてやったんだ。失敗したじゃ許さないからな」
「わかってるわよ。……感謝してるわよ、魔理沙」
その言葉を最後に、霊夢は勢いよく箒を飛び降りて、自然落下に身を任せた。
いくつかの再生した枝の槍が彼女を撃ち落そうと伸びていくが、なんと霊夢は目を閉じて勘だけでそれらを全て避けてしまった。
そして避けている間に言葉にならないほど小さな声で詠唱を呟く。
すると七つのカラフルな弾幕が出現し、彼女の周りを衛星のように回りながらだんだんと巨大化していった。
「景気良くぶちかますわよ! 【夢想封印】!!」
手加減なし、全力の【夢想封印】が西行妖に叩き込まれた。
七つの玉は枝などを消滅させながら幹へとぶつかり、振動で体が震えるほどの大爆発を起こした。
しかし、魔理沙のファイナルスパークでさえまともなダメージを与えられなかったのだ。これが有効なダメージになるとは到底思えない。
しかし爆発によって巻き起こった黒煙が辺りを包み込み、霊夢の姿を隠していく。
残り十メートル弱の道を迷わずに進んでいく。煙で見えにくい中、勘だけを頼りに途中で罠があると感じたら方向転換を繰り返し、それらを全て避け切った。
そして伸ばされた霊夢の右手が、西行妖に突き刺さっている刀のうちの一つの柄を握りしめた。
「これで終わりよ!」
残りの霊力全てを刀に流し込み、施された術式を再び組み立てようとする。
頭の中に術式の詳細が流れ込んでくる。それを見た霊夢の頭に、まるで果てが見えない大迷宮のようなものが浮かび上がって来た。
あまりにも複雑すぎて見たこともない術式だ。これほどのものを一人で一から組み立てることなど霊夢には到底不可能だったが、幸いにもこれは直す作業である。
道しるべのように迷宮内の通路に示された細い線。それを辿っていきながら線を補強していくイメージ。
そして道が途切れ、迷宮から脱出すると同時に術式が完全に元どおりの姿になった。
「【
刀の柄頭に、霊力が込もった霊夢の掌打が叩き込まれた。そして霊力が刀に刻まれた術式に流されると、再び封印が発動する。
霊力で形作られた巨大な桜の花弁が西行妖を中心に花開く。そしてそれは徐々に西行妖を包み込んでいきーーガラスのように脆く崩れ去った。
「……なっ!?」
『ふふふ、アハハハハ!! 残念でしたぁ! 時間切れですぅ!』
桜の花弁が光の粒子と化して散っていく中、高らかに狂気を含んだ笑い声が頭に響いてきた。
「時間切れって……どういうことよ……っ?」
『今の西行妖の花を見ればわかるんじゃないんですかぁ?』
ほとんど無表情で、言われた通り西行妖の花を見つめる。
満開だ。八分咲ではなく、本当の意味で桜が満開になっていたのだ。
それの意味を理解した霊夢は力なく膝から倒れ、絶望した。
『昔封印できたからって同じ封印が通用するとは限らないのですよ。今の私は昔よりも確実に強いです。つまり、その術式じゃ
もはや何も言葉にすることもできない。
勝機が潰えた。
これを聞いているであろう全員の顔が絶望に染まった。
うなだれて顔を下に向けている霊夢とは対照的に、西行妖からは場の雰囲気に合わない明るい声が聞こえてくる。
『さて、お掃除の時間です! 【千年風呪】』
呪いの黒い竜巻。それが霊夢も魔理沙も咲夜も妖夢も、近くにあるありとあらゆるものを吹き飛ばした。
空中に投げ出され、風が収まった時に全員は勢いよく地面に叩きつけられる。
霊夢は大の字に倒れながら、首だけ動かして周りを確認した。
動かない。魔理沙も咲夜も妖夢もバラバラの位置で倒れこんでおり、ピクリとも動かない。
……ああ、終わった……。
痛みと霊力不足で薄れゆく意識の中、ふとそんなことを思う。
仕方がなかったのだ。自分たちはやれるだけを尽くした。その結果が今の状況というだけだ。
なんとなくだが、あの枝の槍が近づいてきているのを勘が告げている。
しかしもう動けない。指先どころか瞼を閉じないようにすることだけで精一杯だ。
でもまだ、生きていたかったな……。
風切り音が聞こえた。
それは伸ばされた枝のものなのか、それとも……。
そして枝が霊夢の胸を貫こうと勢いを増した瞬間ーー爆発とともに枝が消し飛んだ。
「ーー待たせたな」
誰かの声が聞こえた。
桃色の美しい繊維のような髪。太陽のように眩い黄金の十一尾。それらを持った女神が、歪み切った霊夢の視界に映った。
「さて、俺のお気に入りをここまでボロボロにしてくれたんだ。死ぬ覚悟はできてんだろうなこのクソッタレがァッ!!」 」
その言葉を最後に、霊夢の意識は闇へと落ちていった。
「最近ドラクエ5のDS版を久しぶりにやっています。三日でラスボス一歩前まで進んでしまったのでこれ終わったらどうしようか悩んでいる作者です」
「プレイ時間約十五時間ってやばいだろそりゃ……。勉強しろと言いたい狂夢だ」
「さて、今回文字数がなんと約9000にもなりました。投稿が遅れた理由はいつもの二倍も書いたからってことで許してください」
「今回から展開が一転していきそうだな。次回からはメイン戦が始まるってわけだ」
「それはそうと最近ドラクエ5のはぐれメタルが200回以上倒しても仲間にならないんですがどうしたらいいでしょうか?」
「テメェはさっさと勉強してろ! 一応受験生だろうが!」