東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
「……ルーミア」
「あら、霊夢にレミリアじゃない。まだ生きてたのね」
「貴方、楼夢に倒されたはずじゃ……っ」
驚愕を浮かべた顔でレミリアは問おうとするが、ルーミアの体に刻まれた大きな斜め線の切り傷に気づいて言葉を詰まらせる。
その不名誉な傷を見られて、ルーミアも眉を顰める。
「まったく……嫌な傷ね。あんなやつにここまでやられるなんて——ッ!?」
そこから先は、言葉が続かなかった。
なぜなら、ルーミアの腹に高速の蹴りが打ち込まれたからだ。
ゴハッ、と息を大きく吐き出しながら悶絶する。
その様子を見下ろす人物が一人。
「よぉルーミア。お前、よりによって今の楼夢に負けたんだってな?」
「火、神ぃ……っ」
「ほんと、情けねぇやつだ。でも俺は寛大だ。汚名挽回のチャンスをやろう。さあ、さっさと準備しろ」
「わかっ、たわよ……っ」
少しよろめきながら、ルーミアは姿勢を戻す。
その横に片腕を失くした火神が立った。
「……火神だって左腕切られてるじゃない」
「ぁあ! なんか言ったか!?」
「だからわざわざ魔法防壁を体に展開させてたくせに、どうやったらそんな綺麗に切られるのかって言ってるのよ!」
「うるせぇ! 調子に乗んな!」
「もぎゅらんっ!?」
再び火神の蹴りがルーミアに打ち込まれ、悶絶する。
まったく……、と呟きながら、問題のある部下のことを思考した。
(だからめんどくせぇんだよこいつ。蹴られたいがためにわざわざ煽ってくるんだから、やりにくいっちゃありゃしねぇ。今も体をくの字に折り曲げて顔を見えなくはしているが、その下が笑顔で埋まっているのは知ってんだぞ)
再び深いため息をつく。
もうこれの性格についてはどうしようもない。元々M気質だったのを、ルーミアが部下になるまで殴り続けたのは火神だし、責任は一応ある。
ただもうちょっと無口で理性的だったら良かったのにと思わないことはない。なまじ顔は好みの部類であるため、残念さは倍増していくのであった。
閑話休題。
これ以上霊夢たちを待たせるのはマナー違反だと思った火神は、彼女らの方にゆっくり振り向く。
「……攻撃してこなかったとは意外だな。ルーミアと話している時が最後のチャンスだったんじゃないか?」
「あれほど濃い殺気撒き散らかして何言ってるのよ。あそこに割り込んでたら、間違いなく三途の川を渡ってたわ」
それもそうだな、火神は笑う。事実、彼の周りには牽制するように殺気が放たれていた。
「そんじゃまあ、ラストスペル行くか」
軽いかけ声とともに、右手を前に突き出す。
するとルーミアが黒い光となって彼の右手に集まり、凄まじい魔力の奔流を垂れ流しながら形を作っていく。
そして火神は、自身の相棒の名を呼んだ。
「食らいつけ——【
その名を呼んだ瞬間、辺り一帯は漆黒に包まれた。
そしてしばらく経ってそれが徐々に収縮していき、武器となって火神の右手に収まる。
「あれは何かしら? 見たこともない武器ね」
「ルーミアが武器になったのはわかるんだけど……バール?」
それは、黒いL字バールの形をしていた。
形状だけで見ると笑い物だ。だが、それが放つ濃厚な死の気配が、霊夢とレミリアに緊張を解くことを許さない。
これこそ火神の妖魔刀【憎蛭】。
もっとも振り回しやすく、殴殺しやすい形状という火神のリクエストによって、この武器はバールの形を保っている。
依り代はルーミア。大妖怪最上位が武器となった憎蛭は、間違いなく世界一、二を争う威力を秘めた武器だろう。
それが今、霊夢たちの前に佇んでいる。
「レミリア、覚悟はいいかしら?」
「そんなものとっくにできてるわよ」
「ならいいわ……行くわよ!」
青い空の中、全速力で二人が飛び出した。
それに合わせて、最後のスペカカードが宣言される。
「永暗【
そして、世界が闇に包まれた。
あんなに青く、暑かった灼熱地獄は消え去り、代わりに闇が空を覆い尽くしている。
まるで夜になったようだ。
夜の砂漠は非常に寒く感じられ、二人は思わず体を震わせた。
そして、ここからが本番だ。
砂漠には灯などというものはない。本来なら月が世界を照らすはずなのだが、この仮初めの夜に月は存在しなかった。
そうなれば必然的に何も見えなくなってしまう。
例外なのはレミリアだが、それでも見えにくいことは確かだ。
「くそっ、いくら夜目が利くといっても限度があるわよ!」
「そっちにいるのねレミリア! よかったわ、これを受け取りなさい!」
霊夢は何かをレミリアの声がした方向に投げつける。それはレミリアの服に張り付くと、そこから懐中電灯ほどの光を発した。
突然の光に驚きつつ、霊夢が何を投げたかを見る。
お札だ。
よく周りを見れば、別の場所でお札が発光しており、それが霊夢を照らしていた。
「……お札って便利ね……」
「いや、普通はあんな使い方しねぇぞ?」
「それもそうかし……ッ!」
レミリアは突如聞こえた謎の声の正体にいち早く気づき、いち早く身を捻る。
すると先ほどまでレミリアがいたであろう場所に、大量の黒い槍が殺到する。
安心している場合ではない。
身構えると、次の弾幕に対応できるように感覚を研ぎ澄ます。
「無駄だ。お前じゃこの闇は見抜けない」
「そっちね! くらいなさい!」
「だから無駄だと言っている」
声が聞こえた方向に弾幕を放つが、それはすぐに見えなくなった。
通常弾幕は発光しているので、暗いところで放つと目立つのだが、それは一切感じられない。
まるで、弾幕自体が消されたようだ。
そして代わりに背後からレミリアを襲ったのが、複数の闇でできた剣だった。
「ッ! どこから来るのかまったくわからない!」
叫ぶとともに真上に飛翔。
だが、そこでレミリアを待っていたのは、四方から迫る刃の群れだった。
もはやなりふり構っていられない。
狙いも定めずに大量の弾幕をむちゃくちゃにばら撒く。
幸いにも、それによって刃の大半は撃ち落とされたが、残るいくつかが彼女の服にいくつもの切り傷を刻む。
被弾はしていない。とっさのグレイズだったが、刃だったのでかすった分、肌から血が何箇所も流れ出てくる。
「……っ、見えない弾幕に見えない敵なんてありなの……っ!?」
「今お前が被弾してないのも、ルールに沿って隙間を作ってるからってこと忘れんな」
「余計なお世話、よっ!」
すぐさま弾幕を放つも当たるはずがない。
その時、レミリアの近くにもう一つの灯が近づいてきた。
「霊夢っ!?」
「ついて来なさい! じゃなきゃ当たるわよ!」
唐突な霊夢の指示に一瞬躊躇うが、迷っている暇はない。
全速力で飛ぶ霊夢のすぐ後ろに追従するように、翼を羽ばたかせて飛翔する。
霊夢は上下左右に飛び回る。それについていくのは大変だったが、いつのまにか全ての攻撃を避け切っていることに気づいた。
「……ちっ、どうなってやがる。博麗の巫女には透視能力かなんかがあるのか?」
火神が驚くのも無理はない。
手に持つ憎蛭を掲げると、周りに三桁を超えるであろう槍、剣、斧などの数々の武器が闇によって形成される。
それを霊夢たちが回避するであろうコースまで先読みした上に放っているのに、まるで全てを把握しているかのようにその全てがことごとく避けられるのだ。
「くそったれがっ! あいつは避けゲーの神かなんかかよ!」
遠くから聞こえる火神の声に、霊夢は同じ言葉を吐き出したくなった。
一応今は勘のおかげで避けれているけど、こちらから攻撃する手段がない。そして相手がまた反則スレスレの攻撃をしてくるかもしれない以上、時間はかけていられない。
まさにジリ貧だ。
せめて相手の位置がわかれば……っ、と霊夢が呟いたその時、
——黒い天空に、幻の月が浮かび上がった。
突如現れたそれは、世界に光を降らせ、闇を浄化させていく。
そして、薄暗さは残るものの、霊夢たちが火神を視認できるほど世界は明るくなった。
「なんだこの光は……っ! ルーミア、どうなってやがる!?」
『知らないわよ! 誰かが私の闇を解析して、それを打ち消す光を作ったんだわ!』
「こんなことができるのは……ッ! お前か楼夢ゥゥ!!」
火神は見通しが良くなった砂漠の一点を睨みつける。
闇夜に浮かぶ幻の月。その真下の大地に、二つの影が見えた。
「へ、へへ……っ。どうだ霊夢、何だかんだ言って私は役に立つだろ?」
「あははは! そっちがルールを逆手に取るなら、こっちもやるまでだよ! 直接的な干渉はしてないからセーフだよね?」
魔理沙は倒れこみながら疲れ切った笑顔を、楼夢はうざいほどのドヤ顔をそれぞれ火神へと向ける。
打ち上げられた幻の月の手品は、もちろん幻覚なんかじゃない。
これは楼夢によって作られた、浄化の光を降らせる作り物の月なのだ。
最初楼夢はこれを一人で作ろうとしたが、ルーミア戦で消耗しており、とてもそんなものを作れる魔力はなかった。
しかしそこで砂漠で転がっていた魔理沙を見つけ、彼女に全魔力を提供してもらったのだ。
あえて、この技を名付けるとするなら——
「【月の波動】とでも言っておこうかな。そんなことより、ラストは任せたよ霊夢!」
「言われなくても! ラストワード——【夢想天生】ッ!!」
そして、霊夢の最終切り札が切られた。
彼女の姿が、この世全てから浮くことによって半透明となる。その周りには七つの陰陽玉が発車前の砲台のように、今か今かと待ち構えている。
「……へっ、楽しくなってきたじゃねぇか! ——ルーミア!」
『死になさい!』
火神矢は憎蛭を何もない前方に振るう。
すると彼の後ろに三桁を余裕で超える量の闇でできた武器と、数十もの魔法陣が出現した。
「ヒャハッ! テメェにこれが避けれるか!?」
「……無駄よ。今の私には、全ての攻撃は届かない」
「聞こえねぇ、なぁっ!!」
叫ぶと同時に一斉掃射。
様々な角度から剣が、槍が、メイスが、斧が。
あらゆる魔法陣から弾幕やレーザー、果てには闇の触手が霊夢一人のために放たれる。
しかし、当たることはない。
次々と迫り来る視界を埋め尽くすほどの攻撃。それら全てが霊夢の体を貫き、通り過ぎていく。
霊夢は眼前の敵に向かって前進する。
止まらない。止まらない。
あらゆる武器も、あらゆる魔法も彼女に届くことはない。
なぜなら、今の彼女は世界からも
そして十分な距離まで近づいた時、霊夢の陰陽玉から無数の弾幕が解放される。
それらはデタラメな速度かつ複雑な軌道で火神に襲いかかった。
「……っ、まだまだダァッ!!」
しかし相手は伝説の大妖怪。
いかなる『必殺』も、彼の前では『必殺』足り得ない。
——【バニシング・シャドウ】。
突如、霊夢の弾幕地獄の中から火神の姿が消える。
最後の最後まで残していた最大の弾幕群は何もない空間を通り過ぎてゆき、互いに互いをぶつからせ、消滅させることで終わった。
そして、闇夜の空に火神の姿が浮かび上がる。
霊夢の方を見ると、糸が切れた人形のように静止して何も動かなくなっている。
もはや動く体力すら切れたのだろう。あらゆる攻撃を受け付けない半透明状態は続いているものの、彼女の周囲を浮いていた陰陽玉は七つ全てが砕け散っている。
これで、彼女はもう先ほどのような弾幕は放つことができない。
勝利を確信し、笑みを浮かべようとした瞬間、斜め下から感じた殺気に思わず目を向ける。
そこには、幼き吸血鬼の姿が。
その手には巨大な真紅の槍が握られている。
五枚目、最後の宣言。
スペルカードが、解き放たれた。
「お父様の仇よッ。神槍【スピア・ザ・——」
「遅ぇんだよ!」
しかしそれすらも、火神の計算通り。
レミリアが槍を大きく振りかぶった瞬間、彼は憎蛭の先端を杖のように彼女に向ける。
そして、そこに魔力が集中していき——黒い閃光が、放たれた。
「——グングニル】ッ!! ……ぐっ、ああああああッ!!!」
神槍が放たれる。そして一泊遅れて、レミリアは黒い閃光に呑み込まれ、墜落していく。
悪あがきか、と火神は一人呟く。
閃光に呑まれる前に慌てて放ったためか、レミリアの神槍は狙いが外れて火神の右肩より上を通り過ぎていった。
「ハッ、精一杯の努力ご苦労さん! これで、俺の——」
言いかけた瞬間、違和感が火神の中で生じた。
……博麗の巫女の姿がない。
そしてその答えは、後ろから聞こえる風切り音によって解消された。
「ハァァァァァァアアアアッ!!!」
火神の後ろに回り込んでいた霊夢は、迫り来る神槍を掴むと矛先を標的向け、全力の投擲の構えを取る。
……こいつら、まさかわざとか……ッ!
それに気づいた火神は後ろを振り返り、長年の戦闘経験からの反射で憎蛭を向けて、霊夢のこめかみ目掛けてレーザーを放つ。
しかし、それは霊夢の頭を通り抜けていくだけで終わった。
火神の失態。それは、攻撃が通じない霊夢から逃げずに反射的に攻撃してしまい、隙を彼女に見せることになったことだ。
「これで……終わりよっ!」
「……ちっくしょぉぉぉぉぉがぁぁぁぁッ!!!」
超至近距離からの神槍の投擲。
それはとっさに割り込ませようとしたバールの防御をすり抜け——火神の胸へと、突き刺さった。
血しぶきが舞う。
体に張っていた魔法防壁を壊されていたため、今まで無傷だった彼の胸から槍に伝って、血が流れる。
その光景を見ながら今起きたことを実感し、火神はため息をついた。
「……あーあ、俺の敗北かぁ。だが、悪くねえ。この俺を倒したこと、光栄に思いやがれ」
「そりゃ、どう、も……っ」
皮肉げな笑みを浮かべた後、霊夢は砂漠の海へと落ちていく。
もはや飛ぶ気力さえない。
下から親友と桃色の妖怪が自分の名前を呼んでいる気がするが、答えることもできない。
流れに身を任せ、博麗の巫女——博麗霊夢の意識は深い眠りについた。
「ヒャッハーー! 修学旅行行きたくねェェェェ!! 作者です」
「ホームシックにもほどがあるだろ……狂夢だ」
「まさか、今回一枚のスペカで一話終わるとは思いませんでしたよ」
「まあ、あんなほぼ反則スペカ出してる時点で結構おかしいんだがな」
「まず相手の視界を封じ、さらには無限武器生成ですもんね。作中でも言った通り、まさしく見えない敵に見えない攻撃、というわけです」
「ほぼ霊夢がいたから勝てたもんだしな」
「もしこのスペカを破れるとしたら誰がいると思いますか?」
「まず俺と楼夢、後は紫だな」
「どうやって攻略するんですか?」
「そうだなぁ。俺と楼夢は作中の【月の波動】を使った後、迫り来る全ての攻撃を俺は撃ち落とせるし、楼夢にはそもそも当たらないだろ。紫は能力使って、その後頑張ればできると思うぜ」
「……そういえば、剛さんじゃダメなんですか? 伝説の大妖怪なのに」
「……お前は鬼火以外まともに妖術を使えないあいつが、あれを突破できると思うか?」
「……すんません、できそうもないです」