東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
漆黒の夜の中、二つの人影が飛び交う。
そして両者からは雨という表現すら生ぬるい量の弾幕が放たれ、弾け合い、闇を照らしていた。
「アハハハッ! 消し飛びなさい!」
ルーミアが魔法陣を出現させると、そこから巨大な炎球が私めがけて飛んでくる。
あれは確か『ヘビィフレア』という魔法だね。一応弾幕ごっこなので制限されてるけど、それでもかなりの威力を持ってるから、直撃すればひとたまりもないね。
まあ、当たらないんだけどね。
するりと炎球を避ける。すると後ろから中々の大きさの火柱が立ったが、まあ気にしない。
というかここがルーミアの結界内のせいなのか、炎が木々に燃え移ることはなかった。
ちくしょー、火で明かりがつけばルーミアを多少弱体化できたのに。
空中を高速で移動しながらも、弾幕の応酬は続く。
とはいえ、通常弾幕じゃちょっと不利になってきたかな。
それは当然で、そもそも私とルーミアじゃ妖力のスペックが違いすぎる。
私が十発弾幕を撃つのに使う妖力の疲労の感覚を、彼女は数百発撃ってやっと感じるんだ。
そりゃ必然的に私とルーミアじゃ出す弾幕の量に差ができるわけよ。
どんなに弾幕の操作技術が上手くても、弾幕ごっこで有利なのは数での圧倒的質量だ。
なら、ここで出し惜しみしてる場合じゃないね。
「滅符【大紅蓮飛翔昇竜撃】!」
それは、前回ルーミアをこれだけで敗北に追いやったスペカ。そして私の切り札に位置するスペカだ。
炎と氷。
それぞれ合わせて二つの属性を持った翼が、私の背中から生えてくる。
それらから炎と氷の弾幕が雨あられのように撃ち込まれ、翼が羽ばたくたびに風が発生して弾幕の軌道を乱しに乱していく。
しかし元の姿に戻ったせいなのか、二回目だからなのか、はたまた両方か。
スペカすら使わず、ルーミアは嵐の中を突き進んでいく。
時にはダーウィンスレイヴを使い、迫り来る弾幕を切り裂いていく。そうやって進んでいくと、いよいよ私の前へと姿を表した。
そして、このスペカの最後。私が光をまとい、超速で突っ込んだ。
それはまるで光の矢のように。
しか、それがルーミアに当たる直前、
「しまっ……!」
「まずは一つよ」
【バニシング・シャドウ】
ルーミアが得意とする移動法。
それによって背後に回られ、複数の弾幕が後ろから迫ってきているのを感じた。
しかし私は振り返ることができない。一度放たれた矢は方向転換することができないように。
そして、複数の弾幕が私に殺到し、背中で小規模な爆発が起こった。
「ぐっ……!」
焼けるような痛みを感じる。
背中の部位の布はおそらく弾け飛んでるのでしょうね。風が直接当たってスースーする。
それでも背中にこもった熱を冷ますことはできない。
その痛みを抱えたまま、私はルーミアへ再び向き合った。
「二度見た技なんて通用するわけないじゃない。バカなのかしら?」
「……痛ぅ、あいにくと私のスペカの種類は多くなくてね。数合わせってことだよ」
本番はこれから、と言いたいところだけど、ちょっと参ったな。
彼女、一度見たとはいえスペカ無しであれを切り抜けたんだもの。
現在私の残機はフル、そしてスペカが残り四枚。
対してルーミアは残機スペカともに消費無しだ。
全盛期に戻ったルーミア相手にスペカ一枚のハンデは痛い。
でもこれ以上通常弾幕で打ち続けてもジリ貧だしね……しょーがないか。
「いくよ二枚目! 雷竜符——【ドラゴニックサンダーツリー】!」
新しいスペカを宣言。
そして私を中心に、雷でできた巨大な柱が出現した。
その姿はまさに大樹。
そして大樹から伸びた無数の枝が、雷竜と化しそれぞれがジグザグにフィールドを疾った。
「……っ、数だけは多いわね! でもこんなもの……!」
「まだまだ続くよ、ほれ!」
——【ドラゴニックサンダー】
それは、かなり昔に私が生み出した妖術だ。
ただジグザグに高速で動く雷を放つだけというもの。
しかし、このスペカはそんな避けにくい雷竜を百単位で出現させる。
ルーミアも最初は次々と襲いかかる竜を剣でかき消していたのだが、その圧倒的な数と予測しにくい動きによってだんだんと追い詰められていった。
「ちっ、【バニシング・シャドウ】!」
「逃がさないよ!」
叫びとともに、ルーミアの姿が闇夜に消える。
だけど、私の気配察知能力を舐めてもらっちゃ困るな。
ルーミアが影から出現する。と同時に私は右手に握っていた神理刀を投擲。
不意を突かれたルーミアは避ける間も無く、その左肩に刀が突き刺さった。
「これで一ヒット。お相子さんだね」
「今のは反則でしょうが! 武器投げるなんて……!」
「えー、でもルールにはちゃんと書かれてるよ? 現にレミリアだって槍投げるじゃん」
実際、弾幕ごっこでは遠距離攻撃というのは体から離れていれば全てが弾幕として認識される。
これは弾幕が上手く使えない妖怪のための救済処置らしいけど、ルールはルール。私が使っても問題は一切ない。
ルーミアは突き刺さった刀を強引に抜くと、粉々にそれは破壊する。
そして怒りの形相で私を睨んだ。
「ぐっ……、しばらく遊ぶつもりだったけどもう許さない。夜霧——【ジャックミスト】!」
……おっと、見たこともない技だね。
私の周りを覆うように、黒い霧が辺りを漂う。
そしてそこから大量のナイフが、吐き出されるように出現した。
……ふむ、厄介だね。
新たな神理刀を生成し、それは高速で回転させて盾のようにすることで、襲いかかるナイフを次々と弾いていく。
でも、問題はそこじゃない。
面倒なのは、私の周りの霧が濃くなってきたということだ。
ナイフは高速で、マシンガンのように連射して放たれている。
しかもそれは霧が濃くなるにつれて、だんだんと激しくなってきているのだ。
おまけに霧は全方位を覆っているせいで、どこからナイフが飛び出してくるかわからない。
なら、ここから脱出するのが最優先かな。
ルーミアの姿は霧に隠れて見えないけど、気配は察知できる。ここから抜け出したら、特大のやつをお見舞いしてやろう。
ひたすら一つの方向へ向けて全力で飛んでいく。
しかし霧の中にいるうちは、後ろだろうが前だろうが問答無用でナイフが放たれるだろう。
神理刀で迫り来るナイフのマシンガンを弾きながらも、いくつかが私の肌にグレイズする。
でも、私は止まらない。
そして私はついに霧から抜け出し、同時にルーミアの気配も見つけた。
「あそこだ! 擬似符——【マスタースパークもどき】!」
そのネーミングセンスのない技名を叫ぶと、神理刀に巨大な魔力を光として集中させる。
イメージするは魔理沙の十八番。
あの巨大な光を頭の中で妄想し、実際にそれを実現させる。
私は神理刀を両手で構え、前方に腰を落とす。
そして文字通り、ルーミアがいるであろう霧に向けて、何もない空間に
そして、荒れ狂う巨大レーザーが霧を貫き、中にいるルーミアをも呑み込む……はずだった。
「惜しかったわねぇ。あれはハズレよ?」
不意に、そんな声が上から聞こえてきた。
顔を振り上げると、そこには三日月に口元を歪めたルーミアの姿が。
「それじゃ、ワンヒット、お返しでいくわよ?」
……ああ、こりゃダメそうだ。
いつのまにか、私の周りは再び深い霧に包まれていた。それも先ほどとは比べ物にならないほど濃い。
そしてそれらから一斉にナイフの雨が全方位から降り注ぎ、私の体に幾度となく突き刺さった。
……と、思ってたでしょ?
「時よ止まれ!」
私は【時空と時狭間を操る程度の能力】を発動。
すると一斉掃射されるはずだったナイフがルーミアもろともピタリと止まり、辺りに静寂が舞い降りた。
その隙に私は再び霧の中を脱出。
そして制限時間が来たので、時止めを解除した。
何もない空間に、大量のナイフが殺到する。
しかし、ただそれだけ。
ナイフは互いにぶつかり合い、スペカの制限時間が来たためか霧とともに消えていった。
「……何をしたのかしら?」
「さあ? 切り札は教えないものさ」
とはいえ、もうこの能力は使えない。
私自身が弱いということもあり、一度使ったらクールタイムがあるため、咲夜のように連発できないのだ。
「……まあいいわ。どちらにしろ、こっちが有利なのは変わりないもの」
「まったく、弾幕ごっこなのに、下手したら死ぬねこりゃ。ちょっとは手加減してくれないかな?」
「ならそこで無様に死んでなさい。狂月符——【ルナティックライトレイ】」
ルーミアの周りに数十もの魔法陣が展開される。
そしてそこから、青白……ではなく、真紅の巨大レーザーが次々と飛び出して来た。
ふーむ、名前と見た目からして【ムーンライトレイ】の強化版ってことか。
一つ一つが大きくて速い。
ただ、軌道は全て直線。ならば打つ手はある。
私はカードを取り出し、四枚目のスペカを宣言した。
「鏡符——【プリズムプリズン】!」
巨大な水晶のように輝く結界が、放たれたばかりのレーザーごとルーミアを閉じ込めた。
しかし、それだけだ。あとは何も起こらない。
訝しげな視線を送るルーミアだったけど、レーザーが結界に当たった瞬間、それは驚愕に変わる。
「……なっ、分裂した!?」
巨大な赤閃が水晶の壁を貫かんと迫る。
だが壁にぶつかった瞬間、巨大レーザーは
そして一番最初に結界に反射されたのに続くように、次々とレーザーが殺到し、分裂して結界内を暴れまわる。
これぞ、【プリズムプリズン】の能力。
これにはレーザーなどの直線的な攻撃をいくつにも屈折させて、反射するという技だ。
ルーミアが先ほど放ったスペカは全てレーザーしか出ない。このスペカにとって最高の獲物でしょうね。
現に彼女は、狭い結界内で数百にも増えたレーザーを必死に避けている。ある程度の大きさじゃないと増えないから、これ以上は分裂しないかなぁ。
なら、私自身がレーザーを放とう。
スペカと勘違いされないように、脳内で術式の詠唱を紡ぐ。
——散在する獣の骨。
——劣塔・紅昌・鋼鉄の車輪。
——動けば風、止まれば空。
——槍打つ音色が虚城に満ちる。
——破道の六十三【
左手に集った巨大な雷が閃光と化し、結界内に向かって一直線に突き進む。
このままだと結界にぶつかるんだけど、なんとこの結界、内側からの攻撃は反射するけど外側からは全て通り抜ける仕組みになっています。
閃光は迫る第一の壁をすり抜け、第二の壁で分散して反射されながら、結界内を走り回る。
もはや数え切れないほどに増えた小レーザーを、ルーミアは必死に避け続ける。
しかし、そこが限界だった。
一つのレーザーがルーミアに命中し、彼女は動きを止めてしまう。
そこへ大量のレーザーが殺到し、結界が吹き飛ぶほどの大爆発が起こった。
あちゃー、ちょっとやりすぎたかな?
ルールで一度被弾してから数秒間はノーカン判定になるとはいえ、傷までもなかったことにはできない。
でも、【ルナティックライトレイ】の威力を重傷だけどギリギリ死なない程度にまで上げていたルーミアの自業自得か。
普通の威力にしておけば、あそこまでの大爆発にはならなかっただろうに。
舞い上がった煙を引き裂いて、中からルーミアが姿を現わす。
しかし服が所々破けており、黄金のように眩しかった髪も少々乱れていた。
ともかく、これでルーミアの残りは残機一、スペカ三だ。
対して私は残機二、そしてスペカがラスト一枚。
……うむ、ピンチやね。
一発当てれば終わるけど、ルーミアがスペカを防御に回して来たらそれは難しいだろう。
それに新作のスペカがもうない。
【フロストブロソム】も【狐火鬼火】も彼女を仕留めるには役不足だ。
ああもう、こんなことになるんだったらもうちょっとスペカ作っておくべきだった!
しかし後悔先に立たず。ここで嘆いてもしゃーないか。
「ふ、ふふふ……! 一度ならず二度までも……この私に傷を……っ。許さない、許さないわよ楼夢! 体中をバラバラに引き裂いてでも殺してやるッ!」
ルーミアはダーウィンスレイヴ零式を握りしめ、それを天に掲げる。
そしてそれを中心に、黒い雷がバジバジと発生した。
……おいおい、まさか……ッ。
「焼き焦げなさい! 魔雷——【ヘルヘブン】ッ!!」
そして、ルーミアはそれを発動する。
かつて紅霧異変の時に放たれたのと同じ、いやそれとは比べ物にならない威力の闇の雷が、枝分かれするように私へと襲いかかった。
スペカ四枚使用後の疲労からか、不意を突かれた私は刀を構えることすらできなかった。
高速の雷は、私の四肢や体を幾度も貫いた。
「あっ……ぐぁ……ッ!?」
体中に風穴を空けられ、口から滝のように血が吐き出される。
荒い息を整えながら、私は残る冷静さで必死に状況の確認に努める。
まず、傷は致死性ではない。
そこは弾幕ごっこのルールを守っているのだろうけど、人間だったら痛みでショック死しそうだね。
現に私の体は全盛期の激戦と比べたらよくあることだとはいえ、動けなくなるほど重傷だ。
しかし何とまあ、やってくれたもんだよ。
現在の私は残機スペカともに一。ルーミアは残機が一だけど、スペカは二枚も残っている。
おまけにこの怪我だ。もはや全力で動けるのは残り数分ってとこかな。
「……あら、まだやるつもりなの? たった一枚のスペルカードでどうやってこの場を凌ぐつもりなのかしら?」
正直、勝ち目は薄い。
でもね、霊夢が頑張ってる中、私が勝たないのは論外でしょうが!
神理刀を力強く握りしめ、その切っ先をルーミアへ向ける。
そして、叫んだ。
「来いルーミア! 私と貴方の格の違いってものを見せてやる!」
「……ふふ、そうよね。そうでなくっちゃ! なら……遠慮はいらないわ。目覚めなさい、ダーウィンスレイヴ零式!」
ルーミアが掲げた十字の剣が、闇に包まれその形状を槍へと変えていく。
あれを、私は見たことがある。
紅霧異変の時、吸血鬼の肉体をもたやすく貫いた魔槍。
その名は——。
「——【レイ・オブ・ダークネス】ッ!」
恐ろしいほどの速さだった。
少なくとも音速は余裕で超えていたと思う。
そして、私の視界を暗黒に染めながら、巨大な槍が迫って来る。
いくらスペカとはいえ、これをまともに受ければ私はともかく、いくら神理刀でもたやすく折れることだろう。
しかし、私が身につけている物の中に、一つだけ神理刀よりも頑丈なものがあった。
「おらぁぁぁぁぁッ!!」
そして私は、腰についてある鬼神瓢を鎖ごと魔槍へと投げつけ、がんじがらめに縛り付けた。
「っ、馬鹿な……!?」
「不可能を可能にする。それが伝説の大妖怪、白咲楼夢の力だぁぁぁぁぁぁっ!!」
鎖が巻きついたからと言って、槍の勢いが止まるわけじゃない。
幸い、鎖が壊れることはないだろう。なんせそれらは鬼の頭領である剛の一撃にも耐えられる耐久力がある……らしいからだ。
それでも槍の一撃を殺すために鎖を握りしめた手の皮は剥がれ、血がダラダラと流れ出て来ている。
そして、高らかな名乗りとともにあげられた咆哮が消えた時、魔槍は……。
「うそ、でしょ……?」
焦げ臭い煙を吹き出しながら、巻きついた鎖によって動きを制止させていた。
「まだ、だ……っ!」
「ッ! 獄符——」
「遅ぇッ!」
ルーミアの視界から、私の姿が消える。
否、消えたのではない。
ふと、ルーミアは自分の顔に影がかかってることに気づき、顔を上げる。
そこには、青白く輝く刀を持った私の姿が。
スペルカード発動——。
「霊刃——【森羅万象斬】ッ!!」
飛翔する青の斬撃。
それがほぼ至近距離で、ルーミアへと放たれた。
その距離約一メートル。
人間はおろか、妖怪ですらこの斬撃を避けられる距離じゃない。
ルーミアは体に斜め線を刻まれ、赤い血を撒き散らす。
(あ、れ……? なんで私の血が出てるの? ……ああそうか、切られたから、なんだ……)
あまりに一瞬のことで、ルーミアは自分が切られたことにすら最初は気づいていなかった。
しかし、痛みを自覚したことで、この弾幕ごっこは終わりを告げられる。
「次、は容赦しな、いわよ、楼夢……!」
「何度でも来なさいな。私は逃げない」
それで力を失ったようで、ガクッと沈みながらルーミアは空中から落下していく。
そのときの顔が実に満足げな笑顔だったのを見て、私は
「……でも、しばらくはやりたくないかな。バトルジャンキーの相手はもう御免だね」
やれやれといった風に、苦笑するのであった。
「ゴールデンウィークだぜェェ!! そして最近クソ暑い! 狂夢だ」
「修学旅行に行きたくない系人間、作者です」
「今回はルーミア戦だったな」
「はい。とはいえ反則ギリギリの応酬でしたがね」
「最後森羅万象斬が思いっきりルーミア切り裂いてたけど、あれは大丈夫なのか?」
「本編中のルール説明通り、体に触れてなければ近接攻撃とは判定されません。あくまで楼夢さんが行ったのは斬撃による物理攻撃ではなく、超至近距離からの刃型弾幕の放出という風に判定されますね」
「穴だらけだな、弾幕ごっこって」
「第一気の短い妖怪たちは細かいルールなんて覚えちゃいませんよ」
「……そんなもんか」
「そんなもんです」