東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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それぞれの戦場にて

 

 

「……誰だぜあいつ。お前の知り合いか?」

「いいえ、知らないわよあんなやつ。他人の空似かなんかで間違えたんでしょ」

「バッチリ霊夢って言ってた気が……」

「それこそ偶然よ。たまたま私に似た顔で私と同じ名前ってだけ」

「そんなもんか?」

「そんなもんよ」

「……ブレないね、貴方たち」

 

  よくもまあこんなときにのんびりできるもんだよ。ルーミアから溢れ出る妖力を感じてないわけないのに……。

  もちろん、霊夢たちのように余裕を保ってられないやつもいる。

 

「に、逃げるわよ霊夢……! 貴方もアレの力ぐらいはわかるでしょ!?」

「落ち着け」

「ヘグボンッ!?」

 

  普段のプライドはどこに行ったのか、霊夢の袖をグイグイ引っ張りながらもここから離脱しようとしている。

  ……本当にここにフランを連れてこなくてよかった。これ以上『格好悪いお姉様』なんてイメージを与えた日には何が起こるか……。

  最悪本当に私の妹になるかもしれない。宴会後、一回私と暮らしたいなんて言い出すくらいだもん。

 

  でも、レミリアが怯えるのも無理はない。

  私が知ってる限り、ルーミアは大妖怪最上位の中では最強だ。

  あの紫ですら、藍と当代の巫女の三人でかかってやっと封印というレベルなのだ。いくら同じ大妖怪最上位とはいえ、紫単体よりも弱いレミリアじゃ勝ち目なんてない。

 

  でもね、レミリア。一つ忘れてることがあるよ。

  霊夢に蹴飛ばされたレミリアは、立ち上がると怒りの表情を浮かべながら霊夢に問いかける。

 

「何すんのよ霊夢!?」

「ったく、落ち着きなさいって言ってるの。いい? ここは幻想郷よ。そしてここにはここのルールがある」

「そのルールとはつまり、弾幕ごっこのことだよ」

「ルールを守らなければいずれ全勢力が敵に回るわ。相手もそれは望んでないはずだし、あいつは必ず弾幕ごっこのルールを守るわよ」

「……いい推理ね。さすがと言っておくわ。……でもね、一つ訂正させて? ——私は別にここの全勢力を敵に回しても問題ないのだけど?」

 

  そんなわけあるか!? ……と言いたいところだけど、火神がいれば可能なんだよなぁ。

  もっとも、あの火神が手を貸すとは思えないし、ブラフだとは思うけど。

  そんなことより、

 

「ルーミア、これはなんのつもりかな?」

「……へっ? ルーミア?」

「あらあら。気安く正体をバラすなんて役者失格ね」

「主人が書いた台本を涎垂らしながら読むことしかできない犬よりはマシだと思うけど?」

 

  突如始まる罵倒の嵐。

  あの異変で共闘したとはいえ、私たちの仲は相変わらず悪い。

  原因は私と火神の仲の良さだ。

  互いに殺し合う関係とはいえ、私たちはこの地球唯一の同年代だ。

  剛も太古の世界からいるけど、あっちの方が歳上なのは確かだしね。

  というか数十歳で当時から大妖怪最上位の実力を持っていた剛に立ち向かった私って、もしかして超すごい?

 

  とにかく、私たちの関係は基本的に親友ポジだ。

  だがしかし、主人に忠実なルーミア犬は私と火神の仲に嫉妬してるらしい。

  現に妖怪の山に住んでたころ、何度暗殺されかけたことか。もちろん全部叩き潰したけど。

  まったく、部下の躾ぐらいしっかりしとけって話だ。もっとも、殴れば殴るほど笑顔が増すから最近では触りたくもないらしいけど。

 

  閑話休題。

  私は右手に神理刀を出現させ、それを構える。

  そしてその矛先をルーミアに向けた。

 

「行って、みんな。ここは私が食い止める」

「……おそらくこの奥に異変の首謀者がいるわ。さっさと行くわよ」

「……お、おい霊夢……」

「簡単に通すと思って?」

「貴方の相手はこっちだよ!」

 

  霊夢たちに伸びてきた触手を神速の斬撃で全て切り落とす。

  そしてお返しに弾幕を数十発放ってやった。

 

「ちっ……!」

「今だよ。行って!」

 

  私の声に即反応して、霊夢は突き進んで行く。

  他の二人は私のことを心配してるみたいだけど、その後ろ姿を見てようやく決心したようだ。

  そして三人は、この広間の突破に成功した。

 

  「これでよしと」

「……まあいいわ。どうせ霊夢も貴方も勝てないのだから。それよりも……戦うにはここはちょっと狭いわね」

 

  ルーミアはパチンと指を鳴らした。

  すると突如ここら一帯の空間が歪んで、広がり始めた。

 

「……なるほど、結界だね。元々あった空間に栞を挟むように結界の空間を入れることで、ここらを広げたってわけか」

「正解。私だって火神の従者だもの。魔法が使えなきゃお話にならないわ」

「……これは多分魔法の域を超えてると思うけど」

 

  まったく、これだから最近の若いのは成長が早くて困る。

  無理矢理広がる空間内にあるものは私たちを除いて全て、その影響で形を歪ませていく。

  草も木々も、大地までもが。グニャリと折れ曲がっている光景は奇妙でたまらない。そこがルーミアらしいのだけど。

 

  ふふ、たった千年ちょいでここまで魔法技術が上がってるとはね。でもその分、今回も楽しめそうかな。

 

「さあ、試合おうか」

「今日こそそのムカつく顔を恥辱で歪ませてあげるわ。そして前回スペカ一枚で勝負を終わらされた私の屈辱、今味わいなさいッ!」

 

  私たちは互いにスペカを五枚ずつ取り出す。

  そして、残機3、スペカ5という本気の弾幕ごっこが幕を開けた。

 

 

  ♦︎

 

 

  森の奥を、闇の中をひたすら走る。

  すでに後ろから光は差してきていない。そこまで奥に進んだという実感とともに、もう後戻りはできないという思考が生まれる。

  もっとも生まれただけで、彼女はもとよりそんなことをするつもりはない。後ろの二人も同意見だろう。

 

  そして、霊夢たちが走っていると、闇の終わりがとうとう見えてきた。

  目の前から僅かな光が差し込んできており、自然と三人の足取りは軽くなっていく。そしてどんどんそこを目指して突き進んでいった。

  そして、溢れ出る光の世界に飛び込んだ。

 

 

  ——そこにあったのは、砂漠だった。

 

  あまりに突然のことで、霊夢は思わず目を見開いてしまった。それは反応からして、後ろの二人も同じなのだろう。

  後ろを振り返っても先ほどまで走っていた森の姿はない。

  地平線の彼方まで続く永遠の死の大地と、澄み切った青い空、そして真っ赤に燃える太陽。この世界には、それだけしかなかった。

  ジリジリと日光が肌を刺す感覚を味わいながら、霊夢は一言呟く。

 

「……ここどこよ……?」

「そんなの私が聞きたいぜ……。というかなんで太陽が出てるんだぜ。今は夜のはずだろ?」

 

  そう、それが一番の疑問だ。

  この状況から真っ先に考えられることは、どこかに転移させられたということ。

  しかし魔理沙が言っていた通り今は夜なので、その線はないと霊夢は切り捨てる。もっとも、外の世界に転移させられたのであれば話は別だが。

 

  答えは出ない。

  元々霊夢は考えるより直感で動くタイプだ。わからないことはいくら考えても仕方ない。

  そんなときだった。——レミリアの叫び声が聞こえたのは。

 

「ぎゃあああああ!! 日光が、日光がぁぁぁぁ!」

 

  凄まじい叫び声をあげて、レミリアは砂の大地にゴロゴロと転がる。

  その体からは黒い煙が弱々しく出ている。

  本人はいたって真面目なのだろうが、霊夢たちにとっては子供が駄々をこねて転がり回っているようにしか見えなかった。

 

「……何してんのよあいつ」

「知ってるか? 吸血鬼の弱点の一つに日光があるらしいぜ。多分それが原因でああなってるんだろうな」

「ちょっと!? 豆知識披露してる暇があるんだったら布の一枚でも貸しなさいよ!」

 

  呑気な二人にレミリアが必死のSOSを出してくる。

  とはいえ、霊夢は布や傘なんか持ち歩いてはいない。それは魔理沙も同じようで、ともにどうすればいいか頭をひねっていた。

  そんなとき、ふと後ろから声が聞こえた。

 

「だったらこんな場所来てんじゃねぇよ。ったく、人騒がせな客人だこと」

「っ!? いつのまに……!」

 

  霊夢は声の聞こえた方へ顔を向けると、お祓い棒を構えてすぐさま飛び退いた。

  一つ遅れて魔理沙も霊夢と同じくらいまで後退してくる。

 

  霊夢はこう見えて、周囲の気配には警戒していたはずだった。にも関わらず目の前の男を察知できなかったのは、油断なのか、それとも相手の隠密技術が優れていたのか。

  ……どっちでもいい。

 

「ようこそ客人。俺の世界へ」

 

  刺すように鋭い視線を男にぶつける。

  身長は180に届くかどうか。髪は白、というより燃え尽きた灰に近い。そんな髪をワイルドに逆立たせており、荒々しい口調から似合うの一言を生み出させる。

  そしてこんな砂漠の中なのに長くて黒いコートを羽織っており、その顔には汗一つも見当たらなかった。

 

  見たこともないやつだ。

  だけど、はっきりとわかることが二つだけある。

  一つは、男が妖怪であるということ。そして二つ目は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「貴方が主犯ね。名乗りなさい、貴方は誰かしら?」

  「……クク、実力差を理解しながら大胆に名を聞いてくる度胸。おもしれぇな。それに免じて名乗ってやるか。——俺は火神矢陽。人呼んで西洋最強の名を持つ賞金稼ぎ。伝説の大妖怪の一人だ」

「伝説の……大妖怪? なんだそりゃ?」

 

  魔理沙は聞いたことがないようだが、その言葉に霊夢とレミリアは強い反応を示した。

  特にレミリアだ。

  先ほどまで動くことすら疲れていたのに、男——火神矢に向けて膨大な殺気を向けている。

  もっとも、その霊夢にとっての膨大も、やつにとってはそよ風程度にしか感じていないようだが。

 

「……『伝説の大妖怪』ってのは、妖怪の先祖、いわゆる超古代から存在する三体の妖怪のことよ。あれが本物だとしたら、荒事で私たちが勝てる確率は万に一つもないわ」

「マジかよ……にわかには信じられないぜ」

「だったら試してみたらどうなんだよ。もっとも、結果は知れてるけどな」

 

  狂気に満ちた高笑いを聞きながら、挑発に乗ってミニ八卦炉を取り出した魔理沙を手で制する。

  彼女はとりわけ相手の力なんかを感じるのが苦手だ。

  やつが見事なまでに妖力を隠しているのも原因の一つだが、もしそれを感じた場合、青い顔をするだろう。

  現に大妖怪最上位に匹敵する霊夢でさえ大量の冷や汗が流れ出てくるのだから。

 

  その元凶である火神矢は、霊夢たち三人の他に誰かいないかキョロキョロと周りを探っていた。

 

「……なあ、お前らの仲間にもう一人妖怪がいなかったか?」

「あいにくと仲間じゃないわよ。そして貴方のお探しものは今現在ルーミアと戦ってるでしょうね」

「あの馬鹿……俺の獲物だと言っておいたのに。ちっ、腕が立ちそうなのはそこの巫女だけであとはハズレだな」

 

  その言葉に、レミリアと魔理沙は激しく反応する。

  それを見て満足したのか、火神矢は何かの液体が入ったガラス瓶を3個、霊夢たちにそれぞれ投げつけた。

 

「……何かしら、これ?」

「ポーションだ。あいにくと瀕死の獲物を狩るのには興味がない。万全の状態じゃねぇと話にもなんないからな」

「ちっ、いちいち人を下に見やがって。ムカつく野郎だぜ」

「実際下だしな。文句があるならこいよ。得意の弾幕ごっことやらでボコボコにしてやんぜ」

 

  くそっ、と魔理沙は吐き捨てる。

  霊夢は瓶の蓋をあけると、それを口に流し込む。すると倒れそうなほどの暑さが和らぎ、体が涼しいと感じられるほどまでになった。

  魔理沙も顔色が一気に良くなった霊夢を見て、渋々とポーションを飲み干す。やはりこの暑さには耐えられなかったようだ。

  もっとも、空になったガラス瓶を火神矢に投げつけたことから、感謝はちっともしてないようだ。

 

「さて、元気になったか?」

「……こんなポーション、見たことも聞いたこともないぜ。こんだけ効くんだから、副作用とかがあるわけじゃないよな?」

「失礼だな。苦しそうなお前らと倒れてる貧弱があまりにも惨めだったから慈悲をかけてやっただけだ」

「ええ、感謝してるわ。——そして死ね」

 

  赤い何かが、霊夢の後ろから飛び出した。

  ——『スピア・ザ・グングニル』

  しかし、スペカ宣言は聞こえなかった。

  当たり前だ。これは弾幕ごっこじゃなく本気で……殺すために放たれたのだから。

 

  触れればどんな金属さえも貫く真紅の槍。

  しかしそれは、何気なく振るわれた手の甲によって、いとも呆気なく叩き落とされた。

 

「……15点だな。技にしては威力もなければ速度もねえ。わざわざ叩き落とすまでもなかったぜ。——それで、なんのつもりだ小娘?」

「お父様の……仇よ!」

 

  普段なら自分の全力が防がれて耐えようもないショックを受けるはずなのに、レミリアはそれに耐えてみせた。

  そして爛々と輝く瞳で火神矢を睨みつける。

 

「貴方との戦いで負った傷のせいで、かつて西洋最強を唄った私のお父様は死んだわ。それ以来、スカーレット家の家臣はみんな離れていき、気がつけば残ったのは数人のみ。これで私が貴方を恨まない理由がないわけないでしょ!」

「あー長ったらしく説明してくれたんだけどすまん、覚えてないわ」

「……何ですって?」

「六億年以上生きてるとな、興味のあるやつしか名前を覚えられねえんだよ。お前の父とやらはそれに含まれなかっただけだ」

「この……クズ野郎が……ッ!」

 

  再びグングニルを放とうと、レミリアは妖力を手のひらに集中させる。

  しかしそれが完成する前に、霊夢の拳が彼女に突き刺さった。

 

「ぐぶ……ッ! 何すんのよ!?」

「忘れてないかしら? ここは幻想郷よ……多分。私がここにいる以上、弾幕ごっこ以外の戦闘方法は認めないわよ」

 

  突き放すように冷たく、霊夢は己の仕事をこなそうと言い放った。その言葉に微量の殺気を乗せて。

  それで頭が冷えたのだろう。レミリアは傷を癒すと、火神矢を睨みつけるだけで終わった。

 

  圧倒的な力と凍てつくような理性。

  それを見た炎魔の、高らかな笑い声が響く。

 

「ハハッ、悔しいか? 悔しいよなぁ? ならば力を証明してみせろ! テメェらの存在を俺の魂に刻み込め! ……3対1だ。全員まとめてかかってきやがれ!」

 

  炎魔は笑う。新たな強者を見つけたがために。

 

  炎魔は笑う。それが宿命のライバルを倒したことを知ってるがために。

 

  その者の名は博麗霊夢。

  それが自分を面白く感じさせるに足る人物か見定めるため、炎魔は笑う。

 

 

 

 

 


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