東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
時は少し進み、紅魔館上空の決戦。
紅い月が微笑む下、二人の弾幕ごっこは苛烈を極めていた。
「紅符【スカーレットマイスタ】!」
目を見開いて大声で、レミリアは三枚目のスペルカードを宣言した。
残機は残り一。なのに霊夢はかすりはするもの、被弾数はゼロ。
(強い……化け物かこいつはっ!?)
先ほどまでの余裕は消し飛び、レミリアはサイズは違うものの、全てが紅色に輝く弾幕を全力で放った。
それを霊夢は次々と避けていく。
飛んでくる高速の弾幕の隙間を、自身も高速でかい潜り続け、レミリアへと近づいていく。
そして射程圏内に入ったとき、霊夢は一枚のスペカを掲げて宣言する。
「夢符【封魔陣】!」
するとレミリアの紅に対抗するように、赤いお札の弾幕群が放たれ、互いに衝突し、レミリアが浮いているところを巻き込んで大爆発を起こした。
そのときの煙が辺りを包み込む。
視界は悪くなったが、今の爆発は確実にレミリアを巻き込んでいた。そう判断していたため、霊夢は次の動作に一瞬遅れた。
「神槍【スピア・ザ・グングニル】!」
高らかな声が、煙の中で響き渡った。
そして、煙に隠れているレミリアは巨大な真紅の槍を作り出すと、それを霊夢めがけて投げつける。
霊夢は煙のせいでそれが見えなかったが、直感で何かを感じ取り、横へ大きく飛び退き、グングニルを間一髪避けた。……はずだった。
グングニルは射線に霊夢が消えると、グニャリと進行方向を捻じ曲げ、追尾するように霊夢に迫ったのだ。
これには流石の霊夢も対処できず、気づいたときにはその腹にはグングニルが突き刺さっていた。
「がっ……ゲホッ……!」
「安心しなさい。死なない程度の手加減はしてあるから」
「そりゃ……ルールに忠実で結構なことね……!」
煙が晴れ、声の主であるレミリアの姿が再び現れる。
レミリアが言っていた通り、グングニルは霊夢を突き刺して数秒後には霧散して消えていった。
しかし、体に槍が刺さったという事実は変わらない。腹に熱が集中して熱くなり、それを冷やそうとするように赤い液体がそこから垂れる。
それでも霊夢は戦意を喪失しない。
懐から四枚目のスペカを取り出し、それをレミリアに向ける。
同じようにまた、レミリアも最後のスペカを霊夢へと向けていた。
「これがラストだ。果たしてその体でどこまで耐えきれるかしら?」
「さあ? それよりも申し訳ないわね。貴方に五枚目のスペカを見せることはできなさそうだわ」
お互い負けるはずがないと自身を鼓舞するための挑発。
それが終わった今、二つのスペカが同時に宣言された。
「霊符【夢想封印】!」
「【紅色の幻想郷】!」
まるで世界が塗り潰されたかのように、辺りに無数の弾幕が出現した。それらが同時に動き回り、霊夢を押し潰さんと迫る。
例えるならば、四方八方から迫る弾幕の壁。
しかし、霊夢の周りには七つの色鮮やかな巨大弾幕が浮いていた。それらの内六つが壁に殺到し、次々と壁を打ち壊していく。
やがて、壁に一つの大きな穴が空いた。その先にはレミリアの姿が。
残った最後の巨大弾幕が加速し、壁の穴を通ってレミリアへと飛んでいく。
レミリアはこの後の運命を悟り、そっと目を閉じた。
そして、巨大弾幕がレミリアを呑み込み、最後の大爆発を起こした。
♦︎
「久しぶりパチュリー! 貴方が私と遊んでくれるの?」
「フラン……悪いことは言わないわ。今すぐ元の部屋に帰りなさい」
拝啓、敬愛する神楽の祖父へ。
私は今、突然襲撃してきた吸血っ子によって生命の危機に立たされています。
……はっ! 現実逃避したいがために間違えて頭の中で手紙を書いてしまった。
というかヤバイを超えてヤヴァイ!
あの吸血っ子、完璧に私たちをロックオンしてますやん。
なんでや! 私に美少女に襲われて喜ぶ趣味はない!あるのは狂夢だけや!
とりあえず、彼女がなんなのか知らないので、私はこの中で唯一事情を知ってるパチュリーへ聞いた。
「……パチュリー。あの子は?」
「……フラン。フランドール・スカーレット。この館の主のレミィの実の妹よ」
「やめて! あんなのは姉じゃないわ!」
「……どうやら複雑なご家庭をお持ちのようで」
いやフランの様子見る限り複雑ってどころじゃないけどさ。
見てみなよあの目、あの様子。
大妖怪最上位クラスの力があるのに、それを制御できる精神を持ち合わせていない。一体どんな教育をしたらこんな風になるのか。
「フラン、最後の忠告よ。今すぐ部屋に戻りなさい。じゃないとレミィを呼ぶわよ」
「大丈夫、その場合はここにいる全員を殺せばいいだけだから」
な、子どもがビビる言葉ベストランキングトップの「○○を呼ぶぞ」攻撃が効かないだと!?
お主、やるよのう……。私でさえ紫呼ぶぞとか剛呼ぶぞとか言われると、時と場によってビビるくらいなのに。
ちなみにそういうときは大抵別の女の子が近くにいたりする。
フランの皆殺し宣言によって、みんなの緊張感が高まったのを感じる。特に私とか私とか。
パチュリーは言うことを聞かないフランを見ると、そっと目を閉じて魔導書を開いた。
「そう……なら手加減はしないわよ!」
パチュリーは数個の魔法陣を展開する。
そしてそこから触手のように伸びた水がフランを拘束し、それをさらに閉じ込めるように水の檻を作り出した。
「加勢するよ! 【ザバラ】!」
「【ミッドナイトバード】!」
これを機に私とルーミアは弾幕ごっこのように手加減したものではなく、本気の攻撃を同時に放った。
中くらいの水の弾丸と、妖力で作られた黒い鳥が檻の中のフランに迫る。
しかし彼女は狂気の笑みを浮かべると、術式を練りながら大声で叫んだ。
「【スターボウブレイク】!」
そしてフランからカラフルで鏃の形をした弾幕の矢群が放たれ、水の檻と衝突し爆発を起こした。
その熱風により檻と私たちの攻撃、そしてフランを拘束している水は蒸発し、彼女は再び自由を取り戻す。
「……くっ……!」
「パチュリー!」
それを見て悔しそうな顔をしたあと、パチュリーは崩れるように地面に倒れた。
忘れてた! 彼女魔力がもうないんだった!
同じように魔力がほぼない魔理沙がパチュリーを抱きかかえているのを見て、仕方ないと言った風にため息をつく。
そして魔理沙へと声をかけた。
「魔理沙、パチュリーと入り口辺りで隠れてる小悪魔を連れて逃げて」
「なっ、そんなことしたらお前が……っ!」
「死ぬ気はないよ。霊夢がここに来るまでの時間稼ぎさ」
「でもそこの妖怪とお前とじゃ……」
「少なくともこういった荒事は私たち妖怪の本分だよ。そんなに心配だったら一刻も早く霊夢を読んできてくれると助かるんだけどなぁ」
「っ! 死ぬんじゃないぜ……!」
彼女の言葉への返答は言わなかった。フランの我慢が限界に達しそうだったからだ。
私の背の後ろを通っていく魔理沙を見て、フランは攻撃の動作をとった。
「逃がすわけないじゃん。【スターボウブレイク】!」
「【注連縄結界】!」
魔理沙が扉を出たのを感じ取り、私は久しぶりの大術式を発動する。
注連縄で縛られた巨大な結界が図書館全体を覆う。
そこにフランのスターボウブレイクが結界を破壊せんと迫るが、結界はビクともしなかった。
「無駄だよ。この結界はあらゆるものの出入りを禁じる。それが隕石だろうが、ブラックホールだろうが壊れることはないよ」
「ふーん、じゃあ貴方たちが私と遊んでくれるの?」
「遊ぶのならお金を入れてね?」
「コイン一個じゃダメ?」
「一個じゃ人命も買えないよ」
「あっそ。まあ無理やりにでも遊んでもらうけど」
「不正をするなら従業員呼ぶよ? って、それは意味ないんだっけ。……ルーミア、覚悟はできた?」
「無理やりここに閉じ込めておいてよく言うわ。まあでも、ここで逃げるのも負けるのも私はどっちも嫌よ」
「それが聞けたら十分。さて、こちらも最初から全力でいかせてもらうよ!」
まずは両腕をクロスさせ、柄を握るような動作を取る。そこに光が集まり、二本の神理刀が出現した。
結界を張るのに霊力はほぼ使ってしまったので、これから使えるのは妖力、魔力、神力のみ。
その内の妖力を全力で放出すると、使い切るつもりで強化術式を構築した。
——【テンション】、【ハイテンション】、【スーパーハイテンション】。
それらがすべて発動すると、全ての身体能力が数倍に跳ね上がった。その証拠として桃色の闘気が体から噴出される。
ルーミアも自身の影に収納しているダーウィンスレイヴ零式を取り出し、油断なく構えている。フランがいるのに元の口調に戻っているのは、その真剣さがうかがえる。
空気が殺気によってビリビリと震える。
私もルーミアも、今回に至っては本気だ。なんせ中級妖怪程度が大妖怪最上位に挑むのだ。
正直、私とルーミアに魔理沙を守る義理はない。効率的な手段としては彼女を囮にした方が数倍楽だ。
でも、それで得た生に胸を張れるのか?
私たちは他人を守るために戦うんじゃない。誇りを守るために戦うんだ。
「そうだ、名前を聞いてなかったねお姉さんたち。私はフランだけど、貴方たちはなんて言うの?」
「覚えておくといいよ。私の名前は楼夢。最強の剣士だ!」
「ルーミア。偉大な方に仕える者よ」
「うん、覚えておくね。貴方たちはすぐにはコワレナイヨネ?」
壊れた人形のような笑顔をフランは咲かせた。
そして、弾幕ごっこなどないなんでもありの殺し合いが始まった。
「【ムーンライトレイ】!」
先手必勝とばかりにルーミアが青白く、太いレーザーをいくつも放つ。それは高速でフランへといくつも迫った。しかし、
「そんなもの効かないよ!【スターボウブレイク】!」
フランの放った弾幕の矢がそれらをかき消し、それでも相殺されなかった分のエネルギーが私たちへと向かった。
やっぱり火力じゃあっちが上か……。
ルーミアのレーザーは貫通力が上がるように螺旋回転していたのに、ただの力技で破られた。
しかし、そんなのはわかっていたこと。
私とルーミアに当たる弾幕を全て見切り、私はそれらを全て切り裂くことで攻撃を防ぐ。
そして流れを変えるため、意を決してフランへと接近した。
「自分から来るなんて、よっぽど壊されたいの?」
「残念だけど、壊れるのは貴方だよ」
鬼に等しい怪力を持つ吸血鬼の豪腕が幾度となく振るわれる。
しかし、その動きは素人くさい。いや、実際に素人なんだろう。
そんな拳で私を捉えられるわけがない。
大振りになったところを回避して、回転切りを繰り出しながら彼女を連続で切る。例えるんだったらそう、刃がついたこまが回転してるような感じだろう。
鮮血が彼女の腹から飛び散る。
まったく、八回も同じ箇所切ったのに両断すらできないなんて、結構硬いじゃん。
「っ、離れて!」
「っと、危なっ!?」
フランも私と接近戦をするのに不利を感じたのか、近距離から適当に弾幕をばらまいてきた。
それを大きく後ろに跳ぶことで間一髪回避する。
それにしても危ない攻撃だ。もし当たってもあの距離じゃフランも爆発に巻き込まれるのに……。
しかし、彼女がそのような諸刃の刃に等しい行動を取った理由がわかった。
肉が動く音がフランの腹から聞こえる。
それが聞こえなくなると、先ほど切った傷がふさがっていた。
そんなのありすか。チートだチーターだ!
「お姉さん、虫みたいに避けて面倒くさいなぁ。ならこれで焼いちゃお。——【レーヴァテイン】!」
彼女がそう言うと、魔力が集中していき、一本のぐにゃぐにゃと折れ曲がり、先端がスペードのマークになっている黒い棒が出現した。
それをフランは手に取り、魔力を注いだ。
すると、棒から凄まじい熱量の炎が吹き出し、その形を巨大な剣へと変化させる。
「これなら打ち合えるね!」
炎の大剣が、高速で振るわれる。
型はなく、子どもが棒切れを振り回しているような動きだったけど、その威力は絶大だった。
両方の刀をクロスさせることで私は大剣を防御する。だけどフランの腕力は私の想像を超えていて、衝撃で後ろに大きく吹き飛ばされた。
あまりの一撃に対応できず、私は背中から地面へと叩きつけられる。
「ガハッ! ……【ヒャダイン】ッ!」
「ハァァアアアア!」
苦し紛れに放った吹雪がフランを呑み込もうとする。が、それは炎の大剣の一振りで蒸発されてしまった。
その隙を狙ってルーミアが声をあげてダーウィンスレイヴ零式を振り下ろした。しかしフランはそれにすぐに気づき、腕力の差もあってか簡単に斬撃は止められてしまった。
攻撃が止められたことでルーミアの動きが一瞬止まる。
まずっ……!
私が動くよりも速く、フランの大剣が容赦なくルーミアの腹を焼きえぐった。
「ぐっ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
「アハッ、楼夢のお姉さんじゃないけど、やっと当たった! おまけにもう一つあげるね」
「やらせない! 【裂空閃】!」
再び、炎の大剣がルーミアの命を燃やさんと牙を剥いて、振るわれた。
しかし、私を忘れるなよ!
私はルーミアをかばうように前に立って、空気をまとった右の刀をレーヴァテインに打ち付けた。
金属が砕ける音とともに、私の刀が宙を舞いながらへし折れた。しかしその代わりに斬撃の軌道を逸らすことには成功する。
私たちより数センチ横にレーヴァテインは振り下ろされ、床を砕いた。
そのとき起きた爆風によって吹き飛ばされたけど、私たちは不幸中の幸いでガレキが影になって彼女に見えないところに落ちた。
「ルーミア、大丈夫?」
「ぐぅっ、マズイわね……! さっきのをもう一発食らってたら間違いなく死んでたわっ」
腹に奔る激痛に顔を歪めながら、ルーミアは答えた。
ちっ、私の目から見てもこれは酷い……。全盛期ならともかく、魔法の一つ二つで治せる怪我じゃないよこれは。
吸血鬼の腕力で叩き切られて、そこからこんがり焼かれてるんだもん。正直、ルーミアに炎の耐性がなかったら確実に死んでた。
「こんなときばかりには火神に感謝ね……!」
「喋らない方がいいよ。火傷は大したことないけど、切られた方はとてもこの戦闘中は治りそうにないから」
「貴方の方こそ、刀が一本やられたじゃない。大量にあるけど、無限に生成できるってわけじゃないのよね、あれは」
……図星だ。
私の神理刀は精神力を元に作られる。要はSAN値を使ってるってこと。数十本くらいなら大丈夫だけど、そこから先は最悪発狂するかもしれない。
しかし、そんなことより今はルーミアだ。
悔しいけど、彼女はもう戦える状態じゃない。下手すれば立つことすら困難なはず。
勝算はさらに薄くなった。
どうする……?
レーヴァテインは炎を纏った大剣。対して日本刀ってのは元々耐久力はあまりなく、フランのを真っ向から受け止めたらまた砕ける可能性が高い。かと言って受け流そうにも、あれは炎を纏ってるせいで最終的にはジリジリ削られて終わりだ。
「お姉さーん、どこに隠れたのー? それともかくれんぼでもしたいの?」
「くそっ、時間がない……! せめて刀以外の魔剣か、火耐久が私にあれば……」
「……それなら心当たりがあるわよ」
「えっ?」
ルーミアが発した言葉に、私は一瞬硬直した。
しかしすぐに時間がないことを思い出すと、私はルーミアに迫るように問いただした。
「本当なのルーミア!? それで、それはどこに?」
「ここよ、ここ」
ルーミアは自身の胸を親指でトントンと叩いた。
そして、こう言った。
「私を使いなさい、楼夢」
「ソシャゲの10連ガチャで最高レアが二つ以上出たときの幸福を最近もらえました。作者です」
「うわっ、お前もう今年分の運を全部使っちまったのかよ……。心底作者を哀れだと思う狂夢だ」
「さて、今回はとうとうフラン戦が始まりました」
「なお、このとき火神は映画館でポップコーンと映画を楽しんでいたという」
「まあ、どうせルーミアさんは死んでも復活しますしね。彼もそこまで心配してないんでしょう」
「ルーミアが離脱したら楼夢の死がほぼ確定するけどな」
「そこはまあ……ご愁傷様です」
「ほんとそれだな。正直カテルワケガナイヨ!! とか言っても許されるレベルの危機だしな」