東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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白咲神社お家探索

 

「へぇー、いろいろあったんだねぇ」

「まあおかげでこの神社から山の改造までの資材を全部紫さんに負担してもらえたのですが」

「ふぇっ? ここの資材全部? ……強く生きろよ、紫……」

 

  それなりに大きなちゃぶ台を囲むように、私たち四人は座布団の上に座っていた。……いや、二名は寝転がっていると言ったほうが正しいか。

  どうやら私がいない間にいろいろなことがあったようだ。幻想郷の情報も十分に得られたし、やはり最初にここを目指して正解だったのだろう。

 

「そういえば紫の屋敷はどこにあるの? 数日後に行ってみたいと思うんだけど」

「紫さんのですか……確か、博麗神社と正反対の場所だった気がします」

「……正確的には、結界の端側にある」

 

  寝転んで仰向けな状態で舞花が答えた。その手にはスマホが握られている。

 

「ここからだとちょっと遠いよー。まあでもお父さんが全力で行けばすぐだけど」

 

  同様に清音もう寝転びながらそう言った。舞花とは違い、その両手には3DSが握られている。

 

  ……えっ? ここってインターネットつながってんの?

 

「紫さんにつながるようにしてもらいました」

 

  マジですか……ゆかりんマジ万能!

  娘二人が既にオタク文化に侵食されていてショックだったけど、ここは素直に喜んでおこう。

 

「結界の端か……清音の言う通り、音速ならすぐ着くね。じゃあ明日行ってみようかな」

「そういえば荷物を整理したいなら、お父さんの部屋は三階にあるから好きに使っていいよ」

 

  おふっ……この屋敷三階建てなのか……。

  果たしてここまで大きな屋敷が必要なのかどうかは疑問だけど。なんかここって屋敷どころか旅館じゃないかってくらい広いんだよね。

 

「そういえば各階は何があるんだ?」

「三階は私たちの部屋ですね。ここは二階ですが、居間の他にいろいろな家具が置いてあります」

「あそこにあるテレビみたいに?」

「それ以外にも掃除機や洗濯機などが置かれています。電化製品の大半は使わなくなったものを含めてこの階に収納してるんですよ」

「要は倉庫ってことね……それで一階は?」

「一階は宴会スペースに台所、それと温泉ですかね……。その他にも裏庭は私の趣味で枯山水と盆栽がありますし、地下は妹たちの要望で全て工房にしています」

 

  ここまで聞いた結論、広すぎね?

  そして温泉だと!? 浸かりたい、ぜひ浸かりたい!

 

  そんな気持ちが湧き上がってきたが、まずは荷物の整理が先だろう。私は一見手ぶらに見えるけど、これは時狭間の世界に収納しているだけだ。早く回収しないと狂夢になにされるかわかったもんじゃない。

 

 

  というわけで美夜に案内されて自室へ。

  この言葉が何階目になるかは知らないけど、一言言おう。

 

「……広い」

「それは……まあ白咲家当主の部屋ですし」

「そして無駄に広いくせに家具が何にも置かれてないのはどういうことかなー?」

「それはですね……好みにカスタムしやすいようにと」

「本音は?」

「他の部屋の家具を揃えていたら、お父さんの部屋の家具は予算だけ足りなくなりました。……って、しまった!」

「美夜、清音、舞花……あとで拳骨ね」

「でもお父さんの筋力って……」

「空拳使うよ?」

「すいませんでしたあああ!!」

 

  大和撫子な美夜からは想像もつかないような見事な土下座が繰り広げられる。

  ……まったく。いくら私がしばらくいないからって、ケチりやがって。お父さんはお前らをそんな風に育てた覚えはない!

 

「結局、幻想入り二日目で再現代入りか……。まあいいや。明日前使ってたアパートに全部配達してもらお」

「あれ? 引き払ってなかったんですか?」

「何か不測の事態が起きてもいいように数年分アパート借りてるんだよ。ボロいから大した出費じゃないし」

 

  聞けば、現代のお金もこの世界では使えるようにされているらしい。むしろ今ではそっちが主流のようだ。

  そして私は裏で旅の途中手に入れた宝石やらを少量売却していたのだ。今の手持ちは百万以上あるので、十分に買い物ができる。

 

「というかベッドどころか布団すらないんじゃ寝ることもできないし、今日居間のソファ借りるからね」

「わかりました。お父さんが温泉やらでくつろいでいる間に、夕飯を作っておきます」

「そういえば家事の振り分けってどうなってるの?」

「掃除洗濯料理やらは全部私が……。妹たちはその……」

「その?」

「……何もっ、していません!」

「あの子たち本格的にニートかよ!?」

 

  その後、私が神理刀を持って二人の部屋までそれぞれ殴り込んだのは言うまでもない。

 

 

 

  ♦︎

 

 

「さて、これでいいかな」

 

  ふわふわと宙を浮くベッドが部屋の隅に降り立つ。そして作業が無事に終わったと確認すると、私は大きくため息をついた。

 

  幻想郷へ来てから三日目。昨日は初日に宣言した通り家具を買いに行っていた。そして今それらを妖術で浮かせて設置して、今に至る。

  金を惜しまず使ったため、私の部屋は豪華だ。

  ベッドは三人は寝れるほど大きいし、机の上には最高クラスのスペックを誇るパソコン。それらをさらにサポートするための複雑そうなコンピュータが複数そのサイドに詰まれており、パソコンとつながっている。

  さらにはテレビなどからタンスや大量の本棚、そして冷蔵庫まで付いているのだ。

 

  ……なんか、一つの部屋で生きていくニートみたいな感じになっちゃったな。

  でもまあ、ニートって意外と金さえあれば生きてける環境を自分で整えてんだよね。食料もピザ頼めばずっと引きこもってられるし。

 

「今は……お昼くらいか。ちょうどいいや、美夜が昼食作ってるはずだし」

 

  飛び降りるように階段を一気に降りて、一階の台所へ向かう。

  そこにはちょうど昼食を作っている美夜の姿が。

 

「何作ってるの?」

「冷やし中華ですよ。今は夏じゃないですが、材料がちょうど揃ってたので。清音と舞花もそろそろ降りてくると思いますから、宴会場に置いてあるダイニングテーブルで待っててください」

 

  宴会場は普段使わないので、常時はだだっ広いダイニングテーブル付きの部屋になっている。数十人が騒いでも大丈夫なこの部屋にたった四人は寂しいが、まあそれは置いておいて。

 

  私が宴会場に着いた時には既に清音と舞花は座布団に座って昼食を待っていた。ただし舞花はスマホ、清音は漫画をテーブルに置いてくつろいでいる。

 

「まったく、二人ともだらしないよ。ちょっとは修行でもしたら?」

「修行のおかげで一秒に16連打ができるようになりましたー」

「……それにノーパソを開いてる父さんが言っても説得力がない」

「あっ、バレた?」

 

  テヘペロと言いながら、膝に乗せて開いていたノートパソコンをテーブルに置く。これは部屋にあるデスクトップとは別物で私が常に巫女袖に入れて持ち歩いているものだ。

  なんか他人に注意しながらも、すっかりインターネットなしじゃ生きていけない体質になってる気がするけど気のせいだろう。気のせいったら気のせい!

 

「冷やし中華ができたわよー。みんなインターネットは止めてさっさと食べなさーい」

「「「はーい」」」

 

  というわけで麺を吸いながら今日の予定を考える。

  そうだなぁ……。

 

「美夜ー。今日紫んち行きたいと思うんだけど」

「まあ、そろそろ目覚めてる時期ですしね。いいんじゃないですか?」

 

  よし、これで紫の屋敷に行けるぜ。黙って行くと後が怖いからね。

  ……あれ、ここの当主って誰だっけ?

  まあいい。そんなことより、彼女の驚く顔が楽しみだ。

 

  そんなことを考えていると、清音と舞花が何やら話し合っていた。

 

「今日はどうしよっかー?」

「……私はネトゲのイベクエがあったはず。今日は忙しくなりそう」

「じゃあ舞花の漫画借りるねー? ちょうど気になるのあったし」

 

  ……。

  お父さん、もう泣きそうだよぉ……。

  まさか娘たちがここまでオタク文化に侵食されてたなんて。もう、手遅れなのか!

  ふと横を見れば、美夜も泣き出しそうな顔をしている。

 

「美夜……強く生きなさい」

「……はいっ」

 

  その後、悲壮感漂う空気に耐えきれなくなり、冷やし中華を一気に詰め込んで宴会場から脱出した。

  ……まあいいや。妖力の具合からして、それぞれ修行をサボってるわけではなさそうだし。私が気にすることはないのかもしれない。

 

  私はそう考えながら外に出ると、ふわりと宙に浮いた後、音速並みの速度で飛翔した。

  ちょっとトラブルはあったけど、待ってろよ紫!

 

 

「……あっ、スペルカードルール教えるの忘れてたかも……」

 

  そんな言葉が、台所でポツリとつぶやかれた。

 

 

 

  ♦︎

 

 

 

  八雲藍は八雲紫の式神である。そして彼女はそれを誇りに思っていた。

 

  彼女の朝は早い。起きてすぐに朝食を作り、主人へと届ける。だが今は冬眠中なためその必要はなかった。

 

「紫様も寝ているときは楽なんだが……」

 

  そして八雲藍は苦労人である。主人の紫が自由な人(妖怪)のため、よく様々な事件に巻き込まれる。さらに部屋は一日でゴチャゴチャになるし、書類系の仕事もときおりサボる。はっきり言って、藍は八雲家で一番苦労している人物だった。

 

  そんな藍は洗濯をしていると、屋敷の中にある時計を見てもう昼過ぎなのかとつぶやく。そしてこれを干したら昼食を作ろうと考えたとき、ここら一帯に張ってあった結界から何者かが屋敷の近くに侵入してきたのを感じた。

 

「……また寝ている紫様を狙うバカが現れたか。まったく毎年懲りない奴らだ」

 

  結界からの情報によれば相手は中級上位程度の妖力しか持たないらしい。大妖怪上位の藍からすれば格下もいいところだ。

 

 洗濯物を置き、空へと飛翔する。そして目的の敵の目の前へと降り立った。

 

「止まれ。ここから先は幻想郷の管理人たる八雲紫様の屋敷だ。何人たりとも侵入は許さん」

「何人って……あなた入ってるじゃない」

「私は式神だからいいのだ私は!」

 

  侵入者は藍の反応にクスリと笑った。

  怪しげな微笑を浮かべる相手を藍は注意深く観察する。

  桃色の髪の非常に美しい少女。耳に黄金色のキツネ耳がついているが、尻尾はない。しかし藍は彼女の後ろから感じる微弱な妖力から、彼女が空狐ではなくただの尻尾を隠した妖狐だと見破った。

 

 

「強く見せようと尻尾を全て消すのは場合によっては有効かもしれないが、相手が悪かったな。私は九尾だ。お前の術式を見破ることなど容易い」

「おー正解。それで、ここを通してくれるのかな?」

「……死ぬ勇気があるのならな」

 

  そう言って、藍は自身の妖力の一部を開放する。地面がピリピリと震え大地にかかる圧力が増すが、彼女は何も気にしていないようだった。

 

(私の妖力に耐えるとは……ただの中級妖怪じゃないようだ。ならスペルカードでやったほうが得策か?)

 

「……ほう。まあいい、三枚だ。それで決着をつけてやる」

 

  そう言って藍は懐から三枚のカードを取り出した。これは幻想郷における戦いーー弾幕決闘法通称スペルカードルールに用いられる物なのだが、カードを突きつけた敵は

 

「ふぇ? 何そのカード?」

 

  頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

 

「お前……スペルカードルールを知らないのか?」

「知らないよ。私は最近ここに来たばっかだから」

 

  藍は思考する。今ここでスペルカードを教えるべきか。いや、ただの妖狐相手に自分が教えるなどプライドが許さない。

  それに彼女はここ八雲邸に侵入しようとしているのだ。大義名分はこちらにある。

 

(紫様には中級妖怪がルールを無視して襲ってきたとでも言っておくか。もしそれで見破られても、誰かに見られているわけではないので大した問題にはしないはず)

 

  藍の頭の中で黒い思いつきがまとまる。この間約一秒ほどだが、彼女ほどの思考力があれば余裕でできる。

 

  藍はうすら寒い笑みを浮かべると、その巨大な妖力で術式を組みながら片手を彼女に向けた。

 

「悪いな。貴様は侵入者だ。決して生かして返すことはできん」

「命のやり取りってそういうものでしょ。……ただし、やるんだったら後悔はしないでね」

「ほざけ! 小娘が調子に乗るな!」

 

  叫ぶと同時に術式発動。

  宙に青白い炎ーー狐火がいくつも出現する。その数約20個。それらを殺到させ、相手を灰にすべく手を振って放とうとした瞬間、

 

  ーー宙に浮かんだ全ての狐火が、同数の小さな氷塊によってかき消された。

 

「……なっ」

「相手が悪かったね。同じ妖狐なんだから最初は狐火を出してくると思ったよ」

 

  藍は唖然としながら少女を睨む。そしてそこにいたものに驚愕した。

  先ほどまでの弱者の雰囲気はもうない。

  妖力が平凡なはずの彼女の後ろに巨大な蛇が現れたのと錯覚してしまった。それほどまでに濃密な死のオーラが、少女から溢れていたのだ。

 

「……さあ、始めようか。私に逆らったこと、後悔させてあげる」

 

 

 

  ♦︎

 

 

 

「……どこだろここ……」

 

  ふらふらと歩きながら一人呟く。なんか感知用の結界が張られたけど、誰か来てくれるならそれでいいや。

 

  だぁぁぁぁあああああっ!!!

  わかってたよ! わかってたさ! 何の情報もなしに飛び出すとこうなるってことは!

  しかし幼くなった私の頭はそんなことすっかり忘れていた。いくら紫より頭脳が良くても、それを扱えなきゃ意味ないのだ。例にすると、勉強できるけど普段バカばっかりやってるやつに似ている。

 

  ……んお? なんか巨大な妖力が近づいてきている気が……。いや、これ完全にこちらをターゲットオンしてますわ。だって迷わずに直進してきているんだもん。

  そして空から降りてきたのは黄金の尻尾を持った九尾の狐。ただ最近は九尾のバーゲンセールが激しいので感動はしない。

 

「止まれ。ここから先は幻想郷の管理人たる八雲紫様のお屋敷だ。何人たりとも侵入は許さん」

「何人って……あなた入っているじゃない」

「式神だからいいのだ私は!」

 

  おっ、怒ったぞ。あの冷たい表情を崩せたことに内心胸を張っていると、九尾の子が私は空狐ではないということに気づいたようだ。

  むむむ……やるじゃあないか。

 

  その後なんとか話を交わしていたが、彼女が出したカードのことを知らないと答えると一気に殺す気満々になった。

  ……これ、もしかしてヤバイ?

 

  膨大な妖力が集中し、数十の炎を形作っていく。妖狐得意の狐火だ。

  しかしそれを見て私はいいことを思いつくと、脳内でこうつぶやいた。

  ーー『ヒャド』。

 

  数十の氷塊が何もない空中へ向かって飛んでいく。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

  そして炎が出現すると同時に氷塊が衝突し、未完成なそれらを消し去った。

 

「……なっ」

「相手が悪かったね。同じ妖狐なんだから最初に狐火を出してくると思ったよ」

 

  狐火というのは発動に二つの手順を踏む必要がある。

  一つは妖力で炎を発生させる。二つ目で空気中の酸素を取り込ませ炎を青白く強化する。

  大抵の妖狐はこの手順を一瞬で行う。大妖怪ならなおさら。しかしそこに常人では感じ取れない僅かなタイムラグがあるのも事実。

  私は九尾が狐火を発生させようとしたときにその場所、速度などを一瞬で計算していたのだ。あくまで場所は予測の範囲だったので数個は外れてしまったが、全部消せたので良しとしよう。

 

「さあ始めようか。私に逆らったこと、後悔させてあげる」

 

  格上の敵とやるときは自分も同等だと見せつけることが重要だ。

  さあ、若い九尾の子よ。私を倒してみるがいい!

 

  ……ただし、できる限り手加減はしてほしい。私はか弱い中級妖怪なのだから。

 

 





「もうすぐ春休みですね。作者は成績が急激に下がったことから周りから白い目で見られ始めています。作者です」

「最近出番が少ないと思う狂夢だ」


「今回は白咲神社の内部の紹介とか色々ですね」

「終わり方からして次回は藍戦か」

「ええ。とは言ってもさっそくスペカ無視しちゃってますが」

「それよりも俺の出番はいつなんだ?」

「当分先です。というかこの小説における最強キャラがそうポポンと出れるわけないじゃないですか」

「最近は火神よりも少ないってどういうことだよ!」

「剛さんよりはマシです」

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