東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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金でも力でもなんでもない

ただ自分たちが作り上げた宝が、そこにはあった


by白咲楼夢


お狐様の幻想入り編
幻想入りの変


 

 青い空。見渡す限りの大自然。

  それらは今の時代では失ってしまったものだ。空はここほど綺麗じゃないし、自然はよほどのど田舎じゃないと見つからない。

 

  そんな忘れられしものが集う楽園【幻想郷】。

  そのとある空間に、突如裂け目が入った。

  それはどんどん大きくなると、最終的に人一人が入れるほどにまでなった。

  そして、グモンッという音とともに、裂けた空間から現れたのはーー

 

「とーっちゃく! 幻想郷よ、私は帰ってきたぁぁぁぁ!!」

 

  ーーもちろん私こと白咲楼夢だった。

 

  ひとしきり叫んだところで、改めて周囲を確認してみる。

  ……山だ。決して山田ではない。

  どうやら私が出てきたのは、幻想郷にある山のうちの一つだったらしい。地面が傾いているのを見れば嫌でもわかる。

 

「さてと……これからどうしようか?」

 

  ひとまずの目的は、白咲神社に行って娘たちに会うことである。彼女たちはここに十年ほどいるのだし、ここでの生活などを聞くには一番適しているだろう。

  ……え? なぜ紫に聞かないのかって?

  今の季節は春になったばかり。そして彼女はまだ今冬眠中だろう。会いに行くには少し時間がかかるからだ。

  それに、私は紫の屋敷がどこにあるのか知らないしね。

 

  ひとまず情報収集のため、辺りで一番大きそうな木のてっぺんまで登ってみる。圧巻の景色が見れたが、それを楽しむのはまた今度にしよう。

  高くから幻想郷を見下ろしていると、私はとあるものを見つけた。

 

  人里だ。かなりの規模の人里が、そこにはあった。

  そういえば、かなり昔に紫から人と妖怪が共存する里を作ったと聞いたことがある。おそらくあれがそうなのだろう。

 

「決めた。目標はあそこにするとしますか」

 

  あそこでなら、白咲神社の場所も聞くことができるだろう。

  私は炎のように揺らめく漆黒の翼を生やすと、里へ向かって羽ばたいた。

 

 

 

  ♦︎

 

 

  しばらくすると、人里がよく見えるところまで近づいていた。

  門らしきところを見つけたので、人目に寄り付かない場所で降りてから門へと向かっていった。

 

  そうだ、念のために私の尻尾はこの世界で生きてく上で、常時は全部消しておこう。

  私はご存知の通り伝説の大妖怪である。その証明である黄金の十一尾はとにかく目立つのだ。それなりに知識があるものなら、すぐに産霊桃神美(ムスヒノトガミ)の名を思い浮かべるだろう。

  なので、目立たないように消しておく。ただ、耳だけは残しておこう。妖怪が入って大丈夫なのか、念のため確認する必要があるしね。

 

  尻尾を消した後、しばらく歩くとかなり大きな門へと辿り着いた。その前には武装した人間が数人ほど立っている。

  間違いなく門番か何かだろう。私はできるだけ警戒心を持たせないため、明るい声と笑顔で挨拶した。

 

「こんにちわ!」

「おう、妖怪の嬢ちゃん! 見ない顔だけど、人里は初めてか?」

「はい、最近外の世界から来ました。それで、妖怪は入って大丈夫なんですか?」

「おう。基本的に人里内で暴れなければ大丈夫だ。詳しいことは寺子屋で教師をやってる慧音さんに聞いてくれ」

「ありがとー! それじゃまた縁があったら!」

 

  ……うし、子供の真似成功である。わざわざ使ったこともない敬語も使ったんだから成功してもらわないと困る。

  私は幻想郷という場所を知ってるだけで、そこの細かな事情は聞いたこともない。ゆえに現段階で敵を作るわけにはいかないのだ。

 

  最悪の場合は知らないうちに大妖怪クラスの妖怪と敵対することだ。その場合、私に有利がない限り勝つことは至難。なんせ、今の私はただの中級上位程度の妖力しかない妖怪なのだ。以前のように上位魔法を雨のように発動することもできないし、そもそも身体能力がガタ落ちしてるのが酷い。

  筋力が低いのは元々なので仕方ないが、なんとスピードが音速に届くかどうかのレベルまで下がってしまったのである。

 

  他の妖怪でこの速度を例えると……天狗の文と大体同等の速度かなぁ。端から見ればなんら問題ないかもしれないけど、私の最高速がマッハ88万ということを考えてもらえばどれだけ落ちたかがわかるだろう。

 

  そんな風に思考しながら私は門を抜け、人里へと入っていった。

  そこにあったのは、かつての時代では都以外に見ることができなかった、明るく騒がしい声。そして人間たち。

  とはいえ、よく見れば人型の妖怪もそれなりの比率で道を歩いていた。この光景から見て、人間と妖怪の共存はひとまず上手くいっているらしいね。

 

「えーと、寺子屋の慧音だっけ? その人に聞けばうちの場所もわかるかも」

 

  というわけで早速聞き込み開始!

  適当な場所をうろつきながら店を巡り、慧音という人物についての情報を集めていった。

  そうして得た情報をもとに寺子屋まで行ってみると、少し独特な雰囲気の女性を見つけた。

 

  えーと、青みがかかった銀髪に青い帽子、そして服。何よりもボンキュッボンな美人さん。

  ……うむ、特徴が一致した。早速あの胸を揉みに……じゃなかった。話を聞きに行こう。

 

 

  ……と、思ってた時期が私にもありました。

 

「宿題は忘れるなぁぁぁ!!」

「もぎゅらんッ!!」

 

  青い妖精と笑顔で話してたと思ったら、次の瞬間態度が豹変。妖精の頭を両手掴みすると、目にも留まらぬ速度で頭突きを放った。

  ヤベェ、ヤベェよ……。めっちゃすごい音なったぞ? ていうか妖精の子が頭から煙を出して倒れてるよ。

 

  ジリジリと無意識に後退していると、グリンッと勢いよく慧音の顔がこちらを向いた。その額から上がる煙を見て、思わず「ひっ」と小さく叫んでしまった。

 

「そこの君。見たこともない妖怪だが、もしかして人里は初めてか。」

「は、はいっ! そうでしゅっ!」

「こらこら。そう焦ってるから舌を噛んだじゃないか。もっと余裕を持ったほうがいいぞ」

「……いや無理だって……。今が生命の危機なんだから」

 

  そう聞こえないようにつぶやいた。

  いや、よく考えてごらんよ? 目の前で惨殺現場を繰り広げてた張本人が、次にはなんともないように挨拶して来たんだよ?

  間違いなくビビるだろ! 少なくとも私は焦って舌を噛むくらいビビる。

 

「そういえば、私を見ていたようだが、何か用か?」

「あ、そうだった。慧音……さんであってますよね?」

 

  やはり敬語は疲れる。基本的に妖怪は自由気ままに生きる。それは妖力が上がってくるごとに自然と傲慢になってくるということだ。特に私などの伝説の大妖怪クラスになると、気に入らない者をぶち殺してもなんとも思わないほどになる。

  まあ要するに自由の歯止めが効かなくなってくるということだ。

 

  しかし、私には今目の前にいる慧音が恐ろしく感じられた。

  まるで巨大なオーラが彼女の体から噴き出しているような錯覚を覚える。後ろで倒れこんだまま、ピクリと動くことすらない妖精がその恐怖のオーラを助長していた。

 

「ああそうだ。私が上白沢慧音だ。見ての通り寺子屋で教師をしている。君は……」

「楼夢です。今日この世界にやってきました」

「外の妖怪だったか。どうりで知らないわけだ」

 

  慧音はそう納得していた。

  ちなみに、私の苗字を名乗らなかったのは理由がある。もし白咲家当主が、こんな弱っちい妖怪と知られたら必ず厄介ごとが起こる気がするのよ。特に妖怪山あたりが。

  というわけで、この姿での私はしばらく身分を隠して過ごそうと思う。もちろん、知り合いには積極的に声をかけるけど。

 

「君は妖狐なのか? それにしては尻尾がない……まさか、空狐なのか?」

「あーそうそう。似たようなものです」

 

  空狐というのは尻尾がない妖狐のことである。世間一般では空狐は妖狐の中で一番高い位なので、大変珍しい存在だ。まあ、私の場合は蛇狐なので、厳密には純粋な妖狐ではないんだけどね。

  どうやらこのことを知っていた慧音は、私を空狐だと勘違いしてしまったみたい。確かに私は空狐以上に位は高いが、それをそのまま伝えるわけにはいかない。私は後ろ盾を得るまで目立ってはいけないのだ。

 

「それよりも! 白咲神社って知ってますか?」

「敬語はやめてくれ。それと、白咲神社だな? ああ知ってるさ。十年ほど前に現れた神社だろう? 縁結びの加護がよく効くらしくて、この人里にも危険を承知でお参りに行く者が多いな」

 

  よかった。どうやらちゃんと神社は復活できたようだ。

  私は慧音に、彼女が知ってる限りの白咲神社の情報を聞いた。そして気になったことは二つ。

 

  一つはこの神社が転移したとき、同時期に異変というものが起きたらしい。白咲神社の勢力はこの戦争に参加し、大きな戦果をあげたことで有名になったそうだ。

  もう一つは、白咲神社はとても美しい山のてっぺん付近に建っているらしい。

  ここで一つ疑問が。白咲神社が建ってた山は普通の山だったはずだ。妖怪の山のように無駄に高いわけでもない。景色も木々が生い茂っている以外何もない。

  しかしまあ、このことは着いたらわかるでしょ」

 

「ありがとう慧音さん。それと、最後におすすめの団子屋はあるかな?」

「おすすめか……。私がよく行く店ならあっちにあるが」

「ありがとう! それじゃまた会ったらよろしくね!」

 

  別れを告げた後、私は慧音が指さした方向に通行の邪魔にならない速度で走っていった。

  予定変更、目標は団子屋! 異論反論は許さない! いいね!?

 

 

 

  ♦︎

 

 

  みんなは黄金の山と言ったら何を思い浮かべるだろうか。

  おそらく、純金などが積み重ねられたものを想像する者が大半だろう。しかし、私の目の前には本物の黄金の山が広がっていた。

 

  数え切れないほどの木々がその枝から生やすのは紅葉。それも、黄色だけだ。赤はどこにも見当たらない。それが山全体の規模で同じようになっているらしい。

 

  常識ではありえない光景。

  そもそも今は春だ。枯れ葉なんて見つかるはずもない。それどころか生命力溢れる若葉が生えてくる時期だ。

  しかし、この山にはそれが黄色の葉によって隠されているせいでどこにも見当たらない。まるで、この山だけ時の流れが止まったような。

 

  しばらく進むと、これまた懐かしい階段が見えてきた。ただし、その長い階段を囲むように大量の鳥居が設置されていた。

  京都で見たことがある千本鳥居にそっくりだ。ただ、山の高さから考えて千では到底終わらなさそうな気がする。

 

  そんな美しい鳥居たちをくぐり、階段を上っているとひときわ大きい鳥居と神社が見えてきた。

  だが、ここは本殿ではない。簡単に言うと、私たちが生活する場所ではないということ。

  ここは参拝に来る人間のために作られた拝殿なのだ。

  先ほど山を見てみたが、妖怪の山ほどではないにしろここの山はかなり高い。私たち妖怪なんかは大丈夫だけど、人間は違う。わざわざ参拝に行くために頂上まで登るほど人間は丈夫ではないのだ。

  そこで、山の麓に拝殿を建てたというわけだ。本殿は拝殿の裏にある階段から行けるらしい。ご丁寧に本殿への階段も千本鳥居みたいになっていた。

 

「……長くね? やっぱ飛んでったほうがよかったかなぁ……?」

 

  薄々気づいていたが、この山なんと面積が大幅に増やされているようなのだ。大妖怪最上位が三人いてこそできる芸当だろう。

  スカーレット・テレスコープで遠くを覗いてみると、どうやら本殿への階段は拝殿までの約二倍ほど長いみたいだ。つまり拝殿への階段は全長の3分の1でしかないということになる。

  最初は景色を見ながら歩こうかと思ってたけど、これじゃ何時間かかるかわからないので結局走っていくことにした。

 

  ……いやぁ……デカく作りすぎでしょ?

  どんだけ気合い入ってるんだよ。というか拝殿も並の神社だと本殿だと見間違えるほど立派だったんだけど、どこからそんだけの費用持ってきたのよ?

  まさか、私が世界中からかき集めたコレクションを売ってないよね? ……売ってないよね?

 

  そうこうしてマッハに届きそうな速度で走ってると、あっという間に頂上にたどり着いた。そこにあったのはーー

 

「……わーお。デカすぎね?」

 

  もはや神社と呼んでもいいのかわからない、巨大な和風屋敷がそこにはあった。

  いや、ちゃんと賽銭箱やらの神社にありがちなもんはあるんだよ? ただ神社にしては珍しく真ん中に設置されてないのだ。

 

  私の目には二つの建物が映っていた。一つは先ほども言ったように巨大な和風屋敷。庭には昔の貴族のような池まで作られており、橋までかけられている。地面は草がちょうどいいくらいまで生えており、緑と青が美しく強調されていた。

 

  もう一つは賽銭箱やらが置いてある本殿らしき建物。どうやらここには私が世界中から集めた宝具のコレクションやらが収納されているようだ。微弱だが感じられる魔剣やらの魔力が私にそう結論付けさせた。

 

  一つの膨大な敷地内に二つの建物が建っている。その比率は8:2。住居スペースのほうが圧倒的に大きい。

 

  ……ここ神社だよね? 確かに普通の本殿よりも大きく作られてるけど、それ以上に屋敷に力入れすぎじゃない? 金のシャチホコまで屋根に飾っちゃってるし。

 

「……まあいいか。ここに来る人間はいないだろうし、神としての私に影響があるわけじゃないしね」

 

  今まで見た中で一番大きな、【白咲】と書かれた鳥居をくぐり境内へ入る。そして庭にある池を橋を通って渡り、目の前を見た。

 

  そこには三つの人物が立っていた。金、銀、黒の美しい髪をたなびかせながら、そのうちの黒髪の女性が声をかけてくる。

 

「おかえり、お父さん」

「ただいま、娘たち!」

 

  美夜からの言葉に、私は笑顔でそう答えるのだった。

 

 





「とうとう三月に突入! 最近気づいたのですが、どうやらこの小説も二周年を迎えたようです。三周年があるかはわかりませんが、今後ともよろしくお願いします。作者です」

「二周年か……台本も書かずに頭だけで適当に書いてたこの小説がここまで長くなるとは思わなかったぜ。ちょっと感動を覚えた狂夢だ」


「今回はとうとう主人公の登場です」

「いよいよか……。なんだか楼夢以外のストーリーが最近続いてたから本当に忘れられてるかもしれねェな」

「それは言わないであげてくださいよ」

「第一、あいつ弱体化してるから上位の術式すら連発できないんだろ? なんか死亡フラグが立ってねェか?」

「大丈夫ですよ。幻想郷にはとある決闘方がありますから」

「ああ、そういえばあったな」

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