東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
神様も趣味が悪いねぇ
by白咲楼夢
新生・白咲楼夢
「あああああああああ!!!」
下から押し上げてくる冷たい風。それが自分の頬を叩く。
凄まじい浮遊感。まるで、バンジージャンプをしているようだ。
……いや、今の表現は間違っているのだろう。
ーー現在、私は大空の中、急速落下しています。
「こんなの聞いてなぁぁぁぁぁい!!」
怖い怖いっ!
地獄では高いところから落ちることなどなかったので、飛ぶのとは別の、久しぶりの自由のきかない落下に相当恐怖している。
腹に来るふわっ、という感覚。
うっ、吐きそう……。
「いや、吐いてたまるか! ……って、あれ?」
【形を操る程度の能力】で大きな傘を作ろうと思ったのだが、なぜか上手く操作できない。
そうこうしてると、変化させようとした鉄球が破裂してしまった。
「って、ヤバッ! えーと、えーと……翼展開!」
鉄片が飛び散り、結構焦るがとっさに黒翼を広げることに成功した。
よし、これならばーーあっ。
飛ぼうとした矢先の眼下に広がったのは、数メートル近くにある地面。
……あっ、これダメなやつや。
生き返って早々、爆発のような衝撃音とともに、
♦︎
「痛ぅ〜、蘇生した直後で死ぬところだった……」
頭を抑えながら、なんとか立ち上がる。
結局、広げた翼が下敷きになったおかげで大した怪我は負っていない。……それにしても、なんで能力が使えなかったんだ?
そして疑問はもう一つある。
……あれ、木々ってこんなに大きかったっけ? いや、それだけじゃない。周りのもの全てが大きく見える。
そこで、地面に一つの封筒が落ちていることに気がついた。
差出人は……四季ちゃんからだ。
さっそく開けて読んでみよう。
拝啓、ハエのように叩き潰したい楼夢殿へ
全く……話も聞かずに生き返るなんて馬鹿ですか? 馬鹿ですよね?
まあ、そこは置いておいて……単刀直入に今回の蘇生で起こるデメリットについて書かせてもらいます。
まず、あなたの力はほぼ全てが西行妖と封印されているため、本来の100分の1の力しか使うことはできません。それでも中級上位ほどあるので、恐れ入ります。
そして、最大の問題点。あなたの体を以前のように構成するには妖力が足りないため、幼い姿でしかあなたを蘇生することができませんでした。……ちなみに、服はサイズに合わせて蘇生するので、心配しなくてもいいです。
そして幼児退行に伴い、性格や思考なども幼児退行すると思うので、お気をつけてください。
というか、二度と地獄に戻ってこないでください。
もう二度とお会いしないことをお祈りします。
映姫より
「ふっざけんなぁぁぁぁぁ!!!」
叫ぶと同時に、手に握りしめた手紙を引きちぎる。
すると、隠れていたのかもう一枚の手紙が落ちてきた。
P・S
これであなたも低身長の苦しみがわかるはずです。思い知りなさい!
「余計な御世話だぁぁ!!!」
今度は狐火を感情のまま出現させ、二枚ともまとめて消滅させた。
測ってみたところ、私の身長は見事に140台にまで縮んでいた。
ふざけんな! 最後のは八つ当たりでしょ!? ……いや、よく考えれば数百年も同じネタでいじり続けた私が悪い気も……。
……いや、気のせいだ! 正義は私にある!
さて、さっきからずっと思っていたことがある。
「口調どころか一人称まで変わってるじゃん!? もはや幼児退行じゃないよこんなもの!」
おかしい。明らかにおかしい。
四季ちゃんの手紙には幼児退行って書いてあった。でも、この背ぐらいのころだと固いデスマス口調だったはずだ。それに、感情もこんな風に表に出たことは一切ない。
そこで私に一つの可能性が浮かんだ。
もしかして、幼児退行って『人間』白咲楼夢の幼い姿に戻るんじゃなくて『妖怪』白咲楼夢の幼い姿になるんじゃないのか?
可能性は十分にある。
以前の人格を幼くすると、だいたいこんな感じになりそうな気がする。
そもそも、私は『白咲神楽』のパーツから生まれたわけであって、本人というわけではない。つまり、私と神楽は単に似ているだけの赤の他人なのだ。
……はぁ、もういいや。
意識すれば以前のように話せるのだが、さすがに面倒くさい。これからは必要なときだけ元に戻すようにしよう。
さて、次は能力の確認だ。
この場合、【形を操る程度の能力】だけを指すのではなく、妖力などの戦闘能力も含まれる。
適当にあった木の枝に能力を発動。異常なほどリアルなハトを作ろうと思ったのだが、枝はぐにゃりと歪な形に曲がると、内側から破裂した。
別の素材でも試してみたが、結果は同じだった。
念のため、精神統一して能力名を頭に思い浮かべてみよう。
そこに浮き上がってきたのは、驚愕の真実だった。
「【形を歪める程度の能力】……? って、どう見ても下位互換でしかないじゃん。能力までグレートダウンするなんて聞いてないよ……」
なるほど。形を操れないのはこのせいか。
この能力はその名の通り、物を歪ませることしかできないようだ。しかも生物には作動しないっていう弱点もそのままである。
ええい、次だ次!
脳内で巨大術式を描き、それを発動しようとする。
「【イオグランデ】! ……やっぱダメか」
しかし、予想通り魔法は発動しなかった。
その他の巨大術式を発動しようとしたが、それらもダメだった。
まあ、その理由はわかりきっている。
単純に力が足りないのだ。戦略兵器級の術式に注ぐ力が。
なので、
「【メラ】」
突き出した手のひらから球状の炎が出現し、的である木を爆発させる。
このように、術式の難度を下げれば簡単に発動できる。
ちなみに通常のメラは木を一つ吹き飛ばす威力はありません。私が操っていたからなんだろうけど。
ただ、神力の量だけはなぜか昔と大差なかった。
おかしいな……神楽の記憶では白咲神社はほぼ参拝客が来なくて信仰なんて欠片も集まってなかったんだけど。
とはいえ、今の器というかスペックが低くて妖力とかと同じ量しか一度に放出できないみたいだけど。
くそっ、同じ低身長であそこまで神力を使える諏訪子が羨ましい……。
とにかく、これで一通り現状がわかったし、大丈夫だろう。
いや、大丈夫じゃないけど。今の状態で鬼(主に剛)なんかに会ったら本当に瞬殺される。それだけは勘弁してほしい。
まあ、まずは初めなきゃ何も進まない。ひとまずは、現在地の確認といこう。
狐妖怪が得意とする幻術を自らにかけ、他人からは私の姿は見えないようにする。
変装も良かったけど、最近のファッションなんてわからないしね。そもそも私はこの体に合う服を知らないし。
しばらく適当に歩いていると、えらく整備された道に出た。
「おっ、これは高速道路だね。知識としてはあるけど、実際に見るのは初めてだなぁ」
そう感動を覚えていると、小型のトラックが走ってきた。
そうだ。ちょうどいい移動手段を見つけたぞ。
「よっと」
妖怪としての身体能力で跳躍し、トラックに飛び乗った。
目指すは新天地! 目標は白咲神社! いざ出発!
♦︎
「……おっ、でっかい建物が見えてきたね。てことは、あそこが新天地か」
せめて土地名だけでもわかればなぁ……なんて考えていると、途中の看板に大きく『ようこそ京都へ』と書かれていた。
あ、あれ……? 私の旅終了したんだけど?
ま、まあ、京都に白咲神社があるのは知ってるけど、どこにあるかは知らないしね! 私の冒険はこれからだ!
さて、街も見えてきたし、このトラックともお別れだ。
妖力で作られた黒い翼を生やし、大空へと飛び立つ。
ちなみに、翼のサイズは片翼で私を包み込めるほどでかい。まあ、私がちっちゃいのはもう今更だ。
そういえば、私っていつの間にか脳の障害が治ってるんだよなぁ。
肉体を再構成って、そういう意味もあったのか。でもこれで障害ありだとほぼ詰んでるので、正直嬉しい。
そんなことを考えていると、街が近づいてきた。
わーお。すごいビル群。さすが現代日本の首都、京都だな。
適当な場所に降りたあと、上を見上げてそう思った。
おっと。感傷に浸っている場合ではない。まずは情報収集からだ。
私の記憶に【ネットカフェ】なるものが存在する。なんとそこでは制限があるものの、パソコンを無料で使えるらしい。
ただ、神楽すらも行ったことない場所なのでどういった場所かはわからない。でも、とりあえずそこを目指そうか。
場所を調べるなら、聞き取りが一番手っ取り早いだろう。
こうやって姿を隠していては、不便なこともある。
とはいえ、黒い巫女服の少女なんてこの時代では笑いものでしかない。インスタの良いターゲットだ。
なので対策はさせてもらおう。
お、ちょうど人通りが少ない裏路地にスーツ姿の男性が入って行ったぞ。
彼に聞き込みをしようか。
「あの、すいません。ネットカフェの場所って知ってますか?」
「……巫女? いやコスプレか。君もそんなくだらないことをしているのなら、もっと勉強しなさい」
「……あっ? 喋ろって言ったよな? なめてんじゃねえぞ」
もういい。話になりそうにない。
なので催眠をかけさせてもらった。
さあ吐け! ネカフェの場所を吐くんだ!
「ここから……右に行って、突き当たりをまっすぐ左に行くと……そこにあります」
「そうかい。ありがとね」
彼のポケットの中の財布から、諭吉を1枚取り出しながら言う。
そして記憶も削除させてもらった。
まったく、失礼な……星と星の距離を一瞬で求められる紫よりも頭の良い私に勉強しろなんて。
でもまあこれで軍資金は手に入った。あとは行くのみだ。
男性の言った通りに進むと、ネットカフェらしきものが見つかった。
ここでも姿を隠していくわけにもいかないので、多少訝しげな目で見られても仕方なく姿を現して入店する。
……はぁ。思った通り、注目を集めてしまったようだ。
ま、ここにいたやつら全員にマークはつけた。用が済み次第、すぐに記憶を削除してやる。
紅茶を頼み、パソコンの前へと座る。そしてすぐにキーボードを打って、白咲神社と調べた。
……見つけた。なるほど、こんな山奥にあるのか。
意外にも、簡単に場所は見つけることができた。その理由はとあるオカルトサイト。
そういえば、メリーたちと神楽が会ったのも、オカルトサイトが関係してたっけ……。
というか、うちの神社を勝手にオカルトスポットにするな!
それから、気になることは片っ端から調べた。
どうやら今は神楽が死んでから一年程度しか経ってないらしい。
それから、【産霊桃神美】についても調べた。それが意外にも昔色々やったことで有名になってるらしく、結構信仰されているようだ。……うちの神社に賽銭は来ないけど。
でも、白咲神社と私との共通した情報はなかったため、単にうちの神社が何を祭ってるのか知らないだけだろう。
「ふぃー……腰が痛い。そろそろ移動しよっかな」
腰をトントンと叩きながら、ネカフェを出る。と同時に術式発動。
店内にいる人間全員の記憶を消去させてもらった。
「さて、いよいよ神社に向かおうか。……ん、あいつは……?」
姿を消しながら交差点を歩いていると、見覚えのある白髪が目に入った。
フード付きの黒いジャケット……ではなく、コート。それに白髪。
……いやいやまさか。あの野郎がここにいるわけ……ないよね?
どうしても気になった私は隠密を最大限にして、白髪の男の後をつけるのであった。
「はい! とうとうやらかしました! 祝、主人公少女化! 作者です」
「……ああ、もう末期だなぁ……。狂夢だ」
「へろーえびりーわーん! 本日登場のニュー楼夢だよ!」
「おい作者。お前とっくにタイトル詐欺になってんぞ」
「失礼な! これでも私は男だ! 息子もちゃんとついてるんだぞ!」
「フタナリか……本当に末期だなぁ」
「いえ……あの、読者の方々に本当に申し訳ございませんでした! 今までの楼夢さんを崩してしまうこと間違いなしですが、しばらくはこのまま続けさせてください!」
「しばらくって、いつか元に戻るのか?」
「はい。設定上そうなります。ですが、後編は基本少女楼夢さんで続けていくので、今までの楼夢さんの出番が少なくなるかもしれません」
「いや、私男だから。何回言ったらわかるの?」
「黙ってろピンクファンキー頭! お前のせいでややこしくなってんだよ!」
「ああん? やんのかオラァ!」
「……とりあえず、前の楼夢さんが好きな方は大変申し訳ございませんでした。この楼夢さんも好きになっていただけるよう、精一杯努力しますので、今後もよろしくお願いします!」