東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

144 / 292

別れは必然、出会いは偶然

なら、いつまでも共にいたいと願うのは罪なのか?

いや、罪であってもいい

貴方と共に、過ごす時間こそが、私の全てなのだから


byマエリベリー・ハーン




崩れる思い出

 

 

 

 

「さて、馬鹿蓮子も退治したことだし、なんか下で買ってくるか」

「そうね。ちょうどここに親切な馬鹿蓮子さんの財布があることだし、たらふく買いましょう?」

「待って! それ今月の仕送りの分も幾つか入ってるんだけど!?」

 

  俺たちの後ろで蓮子の叫び声が聞こえたが、彼女は動くことはできない。

  なぜなら、俺の針で彼女の服と木を固定しているからだ。

 

「そもそも、着物に穴空けてる方もひどいよ!」

「針が消えると直るようにしてあるから、安心しろ」

「できないよ!? これで私が男にでも襲われたらどうするの!?」

「一応お前を縫ったのも男なんだが……」

 

  相変わらずの女扱いに軽く落ち込む。

  い、いいし! 俺今彼女持ちだし! リア充だし!

 

「さて、一応結界も張っておいたから、人間は来ないと思うぞ。じゃあな」

「お金ありがとね、蓮子。余った分はボランティア団体に寄付するから、喜んでいいわよ」

「血の涙を流して悲しむよ!?」

 

  まあでも、俺たちは蓮子が金欠なのを知っているので、使いすぎるということはないだろう。悪くて焼きそば二人分くらいだ。

 

  俺たちは蓮子に背を向け、階段がある道へと戻ろうとする。

 

 

「ウワァァァァアアア!!!」

 

  ーーその瞬間、誰かの叫び声が、下から響いた。

 

 

 

 ♦︎

 

 

「……ここか!」

 

  展望台から飛び降りて、いち早く声の元にたどり着いた俺は、早速周りを見渡す。

 

  まず、人がドーナッツ状に集まって、何かを見ては吐きそうになっているのが見えた。

  無理やり押し通るわけにもいかないので、屋台の屋根に飛び乗り、上から見下ろす。

 

  ーーそこには、大量の血を流して倒れている、男性の死体があった。

 

「楼夢君、こっちだよ!」

 

  声がした方を見下ろすと、メリーと蓮子が息を切らしながら手を振っていた。

  蓮子の拘束を解いた後、全力で走ったので二人にはきつかったのだろう。

 

「何かあったか?」

「……いいえ。他の人たちの話を盗む聞きして、ここに死体があるってことだけしか。楼夢君は?」

「こっちもだ。死体が目の前で見れないせいで、死因すらわからない」

「死因は、刃物などで切りつけられたことでの、出血死らしいよ」

 

  先ほどから情報収集を行っていた蓮子が、俺たちの会話に入ってきた。

  さすが蓮子、仕事が早い。なら、次は誰がこれをやったって話になるんだが……。

 

「……ん?」

 

  ふと周りを見渡すと、通路を塞ぐように目が虚ろな人間が多数、うろついていた。服装はバラバラで、着物を着た客から屋台の店主など、この祭りを楽しみにきた人間たちだと思われる。

 

  彼らの一人が、野次馬たちの近くに寄っていく。

  そしてそのまま、その中の一人に向かって、手にした包丁をーー

 

 

「……え?」

 

  ーーグサっと、突き刺した。

 

  赤い血を流しながら、刺された女性が倒れる。

  一瞬の沈黙、そして

 

「うわァァァァ!?」

「きゃあああああァァァァ!!」

 

  辺りはたちまち、混乱と恐怖の渦に陥った。

 

「どけよ!どけェェェェェ!!」

「ひ、人殺し……ッ!」

「逃げろォォォ!」

「ば、馬鹿やろう! そっちに行くな!」

 

  混乱の中、必死に声を張り上げたが、逃亡者は止まらない。事件現場を中心に、上と下の通路に分かれて、逃げていく。

  だが、その二つの道を塞ぐものがあった。

  先ほどの、目が虚ろな人間たちだ。手にはそれぞれ、包丁やらナイフやらを手にしている。

 

  ーーそれら全てが、逃げ惑う人々に襲いかかった。

 

「ァァァァアアアアアアア!!??」

 

  いくつもの鮮血が流れ、地面が赤へと染色されていく。

  クソッタレがぁ!

  叫びたくなる気持ちを抑え、能力【怪奇を視覚する程度の能力】を発動。

  結果は……やはりそうか。

 

「メリー、蓮子! こいつら妖術で操られている!」

「そんな……じゃあ、止められないの!?」

「術者を殺せば妖術は止まる! それまで耐えてろ!」

 

  そこまで言ったところで、二人に傀儡と化した人々が近寄ってきた。

  俺は屋根を飛び降りると同時にバッグを投げ捨て、抜刀すると、横に刃を一回転に一閃させた。

  楼華閃五十二【旋空波(せんくうは)】。

  俺を中心に円を描くように、真空波が周りの傀儡を切り飛ばした。

 

  これで、しばらくは大丈夫だろう。

  正直、罪悪感はある。だが、二人を守りつつ、敵を殺さないで倒すのは不可能だ。

  なら、俺は俺の大切なものを守る。その上で、犠牲者が少なく済むようにしなくてはならない。

 

  気配察知を最大限に。

  途端に、怒声や悲鳴が、静寂に変わった。

  ……見つけた。東に約一キロ。

 

「そこかぁ!!」

 

  【森羅万象斬】が東の屋台やらの障害物を吹き飛ばし、目的のいる木を両断した。

  黒い影が、木の倒壊から逃れるため、上にジャンプしたのが見えた。狙いはあそこだ。

 

  身体能力を強化して最大限に。

  地面の足を思いっきり蹴り上げ、加速しながら標的へと向かっていく。

 

  それに気づいた影が、急いで逃げようとするが、速度は俺の方が速かった。

  そのまま、納刀すると、雷が鞘の中で煌めく。

  【雷光一閃】。

  稲妻と化した神速の抜刀切りが、影を追い越して、すれ違い様に深い傷を負わせた。

 

「ご……!? ぐふっ……!」

「動くな。すみやかにこの術式を解除しろ。これは命令だ」

 

  突然の激痛に崩れ落ちた影の頭を掴み、いつでも砕けるように力を込める。

  影の正体。それはやはり、妖怪だった。

  姿は人型だ。ただ完全にはなっておらず、その印象は肉を貼り付けただけのグールのようにも見える。

  妖力は中級程度しか持っておらず、大した相手ではない。

 

「ひ、貴様……何者だ!?」

「うるせえ」

 

  掴んだ頭を、近くの木の幹にぶち当てることで、黙らせる。

  別に、こいつが生きてなくてもいいのだ。ただ、万が一の可能性で、こいつが死んでも解除されない形式の妖術だったら、お手上げになってしまう。そのための保険だ。

  ……それに、解除させても殺すからな。

 

「わ、わかったっ! 解除するから、放してくれ!」

 

  その言葉に、俺は掴んでいた手を離す。

  すると、予想通りに、妖怪は術式を解除せず、再び襲いかかってきた。

 

「……二度目はない。失せろ」

 

  わずかな苛立ちを発散するかのような鋭い突きが、飛びかかってきた妖怪の腹を貫いた。

  もう、こいつには用無しだ。

  腹を貫通している刀身を引き抜くと、妖怪は血を吹き出しながら、地面に倒れ落ちた。

 

「……とんだ雑魚だったな。さて、残りの処理でもすっか」

「……くく、無駄なあがきを。俺が死んだとしても、まだ異変は続く。俺の仲間が、今ごろあそこの人間を操って、死に追いやってるだろうよっ」

 

  ……いい情報を聞いた。

  要はこいつら全てを皆殺しにすれば、妖術は解除されるらしい。これで死後も永続的な術式だったらという心配は杞憂になる。

 

「口を滑らせたな。後悔と仲間への懺悔でもあの世でしてろ」

「……ああ、言い忘れてたが。お前が女二人と歩いているのを……全員が、知ってるぜぇっ?」

「ッ!?」

 

  なんだと……?

  こいつら、まさか……。

 

「けけ、せいぜい……頑張るんだな……グガァッ!!」

 

  気づいた時には、俺の刀は倒れた妖怪の背を貫いていた。

  急げ……っ。急がないと……あいつらがっ!

 

  思考すらも置き去りにして、ひたすら加速して走る。

  木々をすり抜け、再び屋台が並んでいた通路に戻ってきた。

  そこで見えたのはーー

 

 

  ーー互いに包丁を持って対峙する、二人の姿があった。

 

「嫌だ……蓮子……嫌だよぉ……」

「メリー、逃げて! お願いだよぉ……っ!」

 

  二つの、凶器を持った腕がそれぞれ少しずつ動いていく。

  二人は、妖術によって操られていた。

  泣き出しながら必死に抵抗しようとするが、無情にも腕は持ち主の命令を聞こうとしない。

 

  それを見た瞬間、脇目も振らずに必死に駆け出した。

  どんどん近くなっていく二人の体。同時に、さらに早く近づいている二つの凶器。

  叫びながら、がむしゃらに手を伸ばした。

 

「チクショォォォォォッ!!!」

 

 

 

  ーーそして、二つの凶器が、二人の胸に深く、突き刺さった。

 

「……あ、楼、む……君……っ」

 

  ゆっくりと、メリーが、俺を見ながら地面に倒れる。

  蓮子も同じように。

 

  気がつけば、ただただ彼女たちの元で膝をついて、叫んでいた。

 

「おい、メリー! 蓮子! しっかりしろ! 俺が、俺が助けてやるからなっ!」

「……うっ……うう……っ」

 

  俺は両手で霊力を操作して、術式を構築していく。

  だが、そこであることに気がついた。

 

  ーー俺は、治癒の術を使ったことがなかったのだ。

 

「くそ、くそぉっ!! 頼む、頼むから塞がってくれぇっ!」

 

  元々、肉体を癒す術式は高度だ。いくら様々な術式が使える俺でも、初見で使えるものではない。

  だが、それがわかっていても、俺は必死に霊力を注ぎ続けた。

  だが、傷は癒えない。二人の下の地面がどんどん赤く染まっていく。

 

  突然、俺の手を、メリーが掴んだ。

 

「もう……いいんだよ、楼夢君……」

「いい訳ねえだろうが!? 待ってろ、俺がすぐ……」

「でも、このままじゃ楼夢君が倒れちゃうよ……」

 

  彼女の言う通りだ。

  今の俺は、不完全な術式に大量の余分な霊力を注いでいる。

  このままでは、俺は霊力枯渇で倒れるだろう。

  だが、それでも……っと、霊力を注いでいると、今度は蓮子が口を開いた。

 

「楼夢君……私たちにとってはね……いつも私たちのためにボロボロになってる楼夢君を見る方が辛いんだよ……っ」

「そんなのは当たり前だ! 俺は、護衛役だぞ!?」

「いや、違うよ……君は、私の、私たちの、大切な秘封倶楽部のメンバーだよ……」

「蓮子ぉ……っ!」

 

  見れば、彼女の顔は血の減少で青白くなっていた。

  それでも、彼女は笑顔のまま、俺たちの方を向いて言った。

 

「ごめ、んね……もう意識が、保てない……や……。元気でね……メリー、楼夢君……っ」

 

  それを最後に、彼女は目を閉じて、二度と開くことはなかった。

 

「もう……蓮子はせっかちなん、だから……っ。こんな時も、先に行くなんて……っ」

「ごめん……ごめんな……俺が、俺が弱いせいで……っ!」

 

  笑いながらも、メリーの瞳からは雫が流れていた。

  それを見て、俺は何の意味もない謝罪を繰り返すだけだった。

 

「楼夢君は強いよ……ずっと、ずっと強い。そんな貴方だから、私は好きになったの……」

「メリー、そんな最後みたいなこと言わないでくれ! これからだろ!? これから、じゃないか……っ」

 

  喚いたところで、傷は癒えない。

  喚いたところで、彼女を救えない。

 

  ちっぽけだ。ちっぽけすぎる。

  大切なもの一つ守れないで、何が歴代最強だ。何が『白咲楼夢』だ。

 

「ははっ、私、もう……終わり、みたいね……。嫌だなぁ、死ぬのは……っ」

「待ってくれメリー! お願いだ、逝かないでくれ! お前が消えたら、俺は……俺はぁっ!」

 

  わかってる。彼女は、悔やんで泣いているのだ。

  それでも精一杯、俺に笑顔を向けて、

 

「ごめんなさい、蓮子。貴方にいつもレポート作らせちゃって。ごめんなさい、楼夢君。いつもいつも、弱い私をかばってくれて」

 

 

 

「そしてありがとう、蓮子、そして楼夢君。貴方に会えて……良かったわ……っ」

 

  それを最後に、彼女は静かに、息を引き取った。

 

  冷たくなっていく。俺も、お前も。

  熱い。熱い何かが、俺の瞳から溢れ出した。

 

「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!」

 

  崩れていく。崩れていく、俺の、大切な全てが。

  泣き叫びながら、体内の霊力が暴れ出す。

  そして、暴走した霊力の波がーー

 

 

 

  ーー()()()以外の、全てを消し飛ばした。

 

 

 







▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。