東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
私たちは一人じゃない
みんな揃っての『私たち』なのだ
byマエリベリー・ハーン(メリー)
「……楼夢君が、押されてる……?」
「うそっ、せっかくここまで押し返したのに……」
地面から生えた、大量の刃の檻の中で、メリーと蓮子が遠くの一点を見つめる。
そこでは、激戦が続いていた。
依姫が大太刀を振るうたび、地面の砂が天変地異のように吹き飛び、液状化して、固められ、楼夢を襲う。
それを青白い斬撃を飛ばして、必死に振り払う。
だが、この月の大地の砂全てを防げるわけもなく、硬化した砂の塊が、いくつも楼夢に直撃していた。
防戦一方というわけではない。現に、隙を見て放った【森羅万象斬】に彼女が呑み込まれ、服を焼き焦がしながら吹き飛んでいる。
ただし、有利というわけではない。依姫の攻撃が複数当たるのに対して、楼夢のは単発でしか依姫を捉えることができない。
状況は、楼夢が不利だった。
「なにか……なにかできないの? 私たちだって秘封倶楽部のメンバーなのに……っ」
こうやって安全地帯で傍観することしかできない自分に、メリーは悔しさのあまり下唇を噛む。
そんな彼女の手に、蓮子の手が置かれた。
「大丈夫よ。私たちだってなにかできるはずだわ……焦らないで、一緒に考えよ? ねっ?」
「……ええ、そうね。少し冷静さを欠いてたわ。私たちは私たちの方法で、楼夢君を援助しましょ?」
それから、メリーと蓮子は次々と思いつく限りの作戦を伝えていく。だが、そのどれもが現実的ではなく、実行はできなかった。
「石を投げたり、とかはどうかな?」
「無理でしょうね。私たちの腕力じゃあんな空中にまで届かないだろうし、そもそもここには砂しかないわ」
「うーん、思いつかないな……私たち『だけ』にしかできない方法かぁ……あっ!」
暗く沈みかけたメリーの思考が、そんな蓮子の何か閃いた声で引き上げられた。
「あるじゃん! 私たち『だけ』しか持ってない力!」
「……【能力】っ! 確かに、灯台下暗しだったわ」
「そう。私たちの能力でなんとかならないかな?」
彼女たちの能力の中で、一番応用性の高いメリーの能力の分かってることを、全て思い出していく。
そうした中で、一つの案が蓮子に浮かんだ。
「そうだ。スキマを彼女の目の前で開いて、なんとか攻撃を防げないかな?」
「……残念だけど、私のコントロールじゃとてもそんなところには開けないわ」
「大丈夫、私の能力忘れた? 現在地からの座標計算は私が担当するから、メリーは開くことだけに集中して」
「……分かったわ。秘封倶楽部の力、思い知らせてやりましょう?」
悪い笑みが、メリーから漏れる。
それを見て蓮子は苦笑しつつも、目の前の計算に集中していった。
ーー頼んだわよ、楼夢君……。
♦︎
「っガハッ!」
地面から突如伸びてきた、金属のように硬い砂の柱に腹を突かれ、中の空気を吐き出してしまう。
そして思考を一瞬止めて、上を見上げると、この月の大地から持ち上げられた、膨大な砂が、槍を形作って雨のように降ってきた。
「ちっ、やられっぱなしだと思うなよ!」
青白い斬撃が煌めき、砂槍の雨に大きな穴を空ける。
そこに超高速で飛び込むと、その奥に佇んでいた依姫を、思いっきり切り裂いた。
「く、うぅっ!」
抵抗もなく、依姫の体に刃がめり込む。
なるほど。どうやら
滝のような汗を流している彼女を見れば分かる。体の負荷が大きすぎて、体力消耗が激しいのだ。
そのせいで、得意の剣術に意識を向けることができていない。現に、先ほどなら弾かれた攻撃も、今では当たるようになっていた。
「シッ! ハァッ!」
これはチャンスだ。
近づいているうちに、ありったけの斬撃を依姫に繰り出す。それらは全て当たり、彼女の体を切り裂いて、鮮血を撒き散らした。
だが、
「【
その一言で、地面から数十トンもの砂が吹き上がり、俺を吹き飛ばしていく。
必死に砂嵐に耐えようとするが、硬化した砂が無数の刃と化し、俺を切り刻んでいった。
【天沼矛】。かつてイザナギとイザナミが混沌と化した大地をかき混ぜる際に用いた神器。
依姫の大太刀は、それと同じ効果を発揮していた。
たった一言で、一大陸全土の大地を液状化、硬化、などなど……。
つまり、俺が今いる月の世界は、彼女のテリトリーへと変わっていた。
突如風の向きが地面の方へ向いたことにより、俺は鎌鼬と突風の両方に攻撃を受け、地面へと強制的に叩きつけられた。
すぐに立ち上がろうとするが、足が動かない。
よく見ると、足元が沼と化しており、俺の両足を引きずり込んで拘束していたのだ。
そんな俺の頭上で、今までで一番大きな砂の球体が、圧縮されて形成されていた。
あのサイズだと……軽く数百トンはあるのが分かる。現に、俺たちの周りの地面は大きく抉られていた。
どうする……?
俺の切り札である【秘封流星結界】や【超森羅万象斬】でも、あれをふせぐことは難しい。それは、神降ろしの状態でも変わらなかった。
なら、一か八かで俺も【
だが、一柱でさえ難しいのに、二柱も果たして制御できるのか分からない。
それ以前に、【産霊桃神美】といっしょに力を貸してくれる神がいるかの問題だ。相性が悪ければ、最悪力が暴走して死ぬ。
……いや、一柱だけならいたな。
正直、どんな災害が起こるのか分からない。だが、今を生き残るには、これしかない!
「【ウロボロス】よ! 平和の晴天を引き裂き、世に厄災をもたらせ!」
その言葉を叫んだ瞬間、激痛が頭を走った。
同時に、刀身が俺の意思に反して黒い光に包まれ、巨大化していく。
膨大な霊力の暴走。それが今まさに起きており、俺の刀を歪にさせていく。
「ァ、アアアアアアアッ!!!」
頭を走る激痛に耐え切れなくなり、力任せに刀身の黒い霊力を解き放った。
瞬間、空が黒く煌めいたかと思うと、砂の球体が真っ二つに切り裂かれ、大爆発とともに消滅していった。
そこで、ウロボロスの神降ろしを解き、地面に膝をついてしまう。
……あの野郎、俺を乗っ取ろうとしやがったな……。
危うく意識が消えるところだった。神降ろしできたのはたった2秒。そしてあと数秒遅れていたら、確実に呑まれていた。
驚愕を露にした依姫が、俺を警戒しながら、飛翔の高度を低くしていく。
その顔には、滝のような汗。……いや、俺も同じか。
俺も再び空へと上り、息を整えながら対峙した。
「ハァ、ハァッ……まさか、まだ生きてるとは……」
「……ふぅっ、こっちが驚きたいんだがな……」
「……さて、そろそろ終わりにしましょう。貴方が負けて、私が勝つ!」
「勝つのは……俺だァ!!」
二つの刃が激突する。
そのたびに、砂嵐が吹き荒れ、俺の体を切り裂く。
だが、接近すれば勝機はある。
刀身を両手で正面に構え、嵐の中を槍のように突き進んで行った。
そして、嵐を乗り越えると、そこには依姫の姿が。
両手で柄を握りしめ、あらん限りの声を上げて、刀を前に突き出す。
「おァァァアアアアアア!!!」
だが、ここであることに気づいた。
そして、すぐに彼女が圏内の外で、大太刀を構えているのに気がついた。
気がつけば、後ろの嵐も止んでいる。
やられた!
彼女がやったのは、至極単純の行為。
ただ、俺の速度に反応するには、相当集中していなければならない。
彼女は最後の最後に能力を捨て、自分の剣術を信じたのだ。
進む先にはカウンターの一太刀。
だが、止まろうにも、加速した突きはもう止められない。
そうして、俺の突きが届かなかったと思った、そのとき、
「今よ、メリー!」
「やああああ!!」
少女たちの声が、戦場で響いた。
すると、俺と依姫の間に空間の歪みーースキマが、開いた。
しかし、少女たちの予想したタイミングとは若干ズレがあった。
それは、依姫がまだカウンターを繰り出していない、ということだった。
「しまった! タイミングが早すぎた!」
これではスキマを盾代わりにできない。と少女たちの顔が絶望に染まった。
だが、俺はこの行為に感謝をしていた。
閉じかけるスキマへ突きの加速を利用して、中へと強引に入り込む。そして、スキマが閉まると同時に、依姫のカウンターを回避することに成功した。
だが、ひたすら暗いこの世界に、出口はもうない。唯一のスキマが閉じてしまったことで、外界との繋がりが消えたのだ。
ーーそれならば、俺が切り開く。
再び、【
激痛が走り、今度は左目の視界までもが黒に染まったが、そんなのは関係ない。
それと同時に、俺の剣術ーー楼華閃の構えを取る。
そして、
「ヤァッ!!」
一閃。
楼華閃九十七【次元斬】。
その一撃は、何もない空間にヒビを入れ、空間を強引に切り裂いた。
そしてその先には、無防備な依姫の姿。
「な、なに!?」
「ァァ……ァアアアアアアア!!!」
不意をついた別世界からの斬撃が、彼女の腹にぶち当たる。
そのまま雄叫びを上げ、力任せに彼女の体を切り裂いた。
「ば、かな……!」
大量の出血で意識が遠退き、依姫が地上へと落ちていく。
そして、俺の体もまた、力を使い果たし、地面へと落ちていった。
(これで……あいつらは助かるはずだ。良かった……っ)
キラキラという光とともに、体を覆っていた神降ろしの力が消えていくのが分かる。
その光景はさながら星屑が空を舞っているよう。
最後にそんな綺麗な景色を見ながら、俺は激痛によって意識を失った。
「どーもです。今回微妙に投稿が遅れました。理由は、本来一話でまとめるはずの話が、少し長くなったので、二等分にしたからです。早ければ明日か明後日にはもう一話投稿していると思うので、よろしくお願いします。作者です」
「昨日作者が学校で●●●を漏らしたのを見て、大爆笑した狂夢だ」
「ちょっと! ●●●の話は止めてって言ったじゃないですか!」
「原因は朝食のアメリカンドッグとワカメスープって……ププ」
「笑うな! こう見えて私は結構病弱なんだぞ!」
「貧弱の間違いだろ? 7年以上やってたサッカーを止めて数年で気管支の炎症やら、その他色々が発生したもんな?」
「私だってちゃんと運動してるんですよ!」
「へえ、どんな?」
「下校の道を毎回ダッシュで走っています」
「……さすが、作者だな……」