東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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戦いで逃げるのは恥ではない

立ち向かいもせずに逃げるのが恥なのだ

by白咲楼夢(神楽)


八百万の猛攻

 

 

 

 

  眩しい光に、思わず目を閉じる。

  そしてそれが収まった後、ゆっくりと目を開けた。

 

  ーーそこには、月の世界があった。

 

「わぁ! ここが裏の月の世界なんだね! 久しぶりにわくわくしてきたわ!」

「ていうか、表とはずいぶんと違うじゃねえか。なんで月に海なんてあるんだよ」

「それに、地面は砂みたいなのでできているわね。単純にここが浜辺だからと考えるべきか、裏の月の世界の地面はみんなこんなのなのか。判断に困るわね」

「まあまあ。『境界を抜けると、そこは月の世界だった』よろしくで無事にたどり着けたんだし、まずはここを探検しようよ!」

「ええ、そうね。まずはあそこの林を調べてみたいわ」

 

  メリーが指さした先には、結構な数の木が生えていた。

  しかも驚くべきことに、それら全てに桃が成っているのだ。

  甘いもの好きな女子二人ははしゃいで木に駆け寄り、桃を手に取ると、すぐさまかぶりついた。

 

「あ、甘い!」

「そして美味しいわ! こんな桃を食べたのは初めて!」

 

  一言そう叫ぶともう止まらない。

  次々と新しい桃を手にとっては食べ続ける二人。

  このままでは俺の分がなくなりそうなので、急いで俺も一つ手に取り、実をかじった。

 

  ……確かに、美味い。

  それにしても、なぜこんなに美味いのかと木の根辺りの砂を探ってみたところ、これら全てに微量の神聖な魔力が宿っているようだった。

  いや、ここの砂だけではない。

  海も砂も、大気でさえも。

  全てに含まれる魔力の量が、地球よりもはるかに多いのだ。

 

  それにしても今さらだが、ここは月なのになぜか呼吸ができる。

  やはり、月人たちにも空気が必要なのだろうか。

 

「さすが、魔力の源の星というだけあるな。だが、大気中の魔力が濃すぎるせいで、逆に動物なんかは生まれないようだが。とりあえず、月の石だけでも拾っとくか」

 

  それからしばらくは採取の時間になった。

  二人は持っていた鞄に入るだけ桃を詰めており、俺はちょうどいいサイズの月の石を拾っておくだけにとどめておいた。

 

  とはいえ、二人はまだ足りないらしく、再び木の元へ駆け寄っていく。

  そして枝にぶら下がった桃を取ろうとしたときーー

 

 

  ーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

「地上の人間が月に来るとは珍しい。せっかく来てくれて悪いけど、不法侵入で拘束させてもらうわ」

 

  その言葉を聞くより早く、体が動いていた。

  野球バッグを投げ捨て、その中の柄を掴んでメリーに当てられた刃に鞘をつけたままの刀をぶつけ、それを逸らした。

 

「メリー、大丈夫!?」

「ええ、平気よ蓮子。それよりも……」

「いきなり首元に刃突き立てるたぁ、野蛮な野郎だ」

「鞘をつけたまま刀を振るうあなたに言われたくはないわね。それに、見て分からない? 私は女よ。野郎ではないわ」

「同じようなもんだ。ムキになってんじゃねぇよクソ女」

 

  俺はメリーに刃を向けた張本人と向かい合うと、本気の殺気を飛ばして牽制した。

  だが、相手は見た目綺麗な美少女であるにも関わらず、逆に殺気を返してきた。

 

  と、そこで、林の中からうさ耳が生えた女の子たちが銃を構え、こちらに向けてきた。

 

「見てメリー、本物のうさ耳なんて初めて見たわ! 月の兎って、想像よりも可愛いわね!」

「あら、本当ね。これを見れただけで月に来た価値があるわね」

「いや、お前らもうちょっと警戒しろよ!? あいつら銃持ってんだぞ!」

「貴方たちも、何敵に褒められて嬉しそうにしてるのよ!? もうちょっとマジメにやりなさい!」

 

  俺と彼女のツッコミが辺りに響く。

  この子、意外と苦労してるのかもしれない……。

 

「……はぁ、もういいです。それよりも、貴方たちにはこれから私の質問に答えてもらうわ」

「……まあ、いいぜ。二人ともそれでいいだろ?」

 

  俺の言葉に、二人はコクコクと頷く。

  メリーに刃を当てられてカッとなったが、今争っても意味はない。

  ならば、無意味に体力を消耗するより、話し合いの方が数倍マシだ。

 

「まず、どうやって貴方たちはここに来たのかしら?」

「……いきなりその質問かよ。まあいい。これは蓮子に任せるわ」

「え、私? ……そうね、こっちのメリーの能力で来たわ」

「なるほど。では次の質問。なぜここに来たのかしら?」

「「「旅行に行きたかったから」」」

「……判決は不法侵入ね。しばらく身柄を拘束させてもらうわ」

「……やっぱこうなるか……よし、逃げるぞ」

「え、うん。じゃあスキマを開くわね?」

 

  グミョンという音とともに、スキマが開いた。

  早速逃げようとするが、彼女の視線は俺たちよりもスキマに集中していた。

  まるで、同じものを見たことがあるような……。

 

「……さっきの宣言を取り消すわ。貴方たちを危険人物と判断して、殺処分させてもらう!」

 

  砂の地面に、彼女の大太刀が突き刺さる。

 

「『祇園(ぎおん)様よ、逃げ出す女神を閉じこめよ!』」

 

  その言霊が発せられた瞬間、俺たちの足元から複数の刃が突き出して、ギリギリ触れない距離で拘束した。

 

「な、何これ!?」

「祇園様だと……? まさか、あいつが……!」

 

  思い出した。

  月の都には、その身を依代にして神々を下す巫女がいると。

  そいつの名は確か……

 

「綿月……依姫……!」

「あら、私の名前を知ってるようね?」

「けっ、最悪だ……なんで月の都最高戦力が端っこの警備なんてしてんだよ……!?」

 

  綿月依姫。能力は【神霊の依り代になる程度の能力】だったはず。

  この能力は八百万の神々全ての力を神降ろしして、その身に宿すことができる能力だ。

 

  なるほど、受けて初めて分かる。

  ()()()()()()()()

 

「メリー、蓮子、間違えてもそこから出るなよ。最悪死ぬぞ」

「ろ、楼夢君は?」

「馬鹿、俺がやることといったら決まってるだろ」

 

  鞘を腰に付け、抜刀すると、長刀を片手で構える。

  そしてニヤッと笑った。

 

「いつも通りに、正面突破だ!」

 

  刃の檻を乗り越えると、地面を踏みしめ、全力で依姫へ駈け出す。

  しかし、外へ一歩踏み出した途端、先ほどとは比べ物にならない量の刃が、地面から出現し、俺を覆い込んだ。

 

「楼夢君っ!」

「まったく、祇園様の怒りにわざわざ触れに行くとは……愚かな」

 

 

「そいつはぁ、どうかな?」

 

  直後、剣山のように生えた無数の刃が真ん中から一刀両断された。

  その中から飛び出して、依姫に向かって刀を振り下ろした。

 

  しかし、相手も歴戦の剣士。

  すぐさま両手で握る大太刀で防ぐと、そこから激しい斬撃の応酬が始まった。

 

  依姫の巨大な刃が一閃。

  それを鋭いバックステップで躱すと、素早い足さばきで二、三回ほど斬撃を繰り出す。

 

  しかし、依姫の大太刀は振るった次の瞬間には元どおりの位置に戻っていて、クリーンヒットを許さない。

  そして俺の斬撃を弾いた後、すぐさま一閃。

  それを避けて、俺も二閃、三閃。

 

  そんな戦いがループで行われていた。

 

「ったくっ! そんな馬鹿でかい太刀でよくもそれだけ早く防御できるもんだな!」

「っ、貴方こそ、長刀を片手でそれだけ素早く振るえるものね。貴方の方がよっぽど馬鹿力じゃないっ」

 

  俺と依姫は同じ刀というジャンルの武器を扱いながら、その戦い方はまったく違う。

 

  俺の場合は速度と連続技。

  とにかく相手よりも素早く動き、その高速の連続技は秒速で三回ほど振るうことができる。

 

  対して依姫は一撃重視。

  取り回しの難しい大太刀で一撃必殺をひたすら狙い続ける。

 

  剣士対剣士の戦いにおいて、相性というのは存在する。

  だが、達人の剣士同士の場合はそれがない。

  俺と依姫の剣術に差が出ないのはそのためだ。

 

  俺は全ての一撃を回避するため、刹那で斬撃を見切る術を死ぬ気手に入れた。

  逆もまたしかり。

  依姫も一撃の後に攻撃をくらわないように、ひたすら防御テクニックを磨き続けたのだ。

 

  とはいえ、それはあくまでも剣術だけの戦いの話。

  これは異能バトルなのだ。それゆえに、

 

「っ!? あっぶねえっ!」

「……外しましたか」

 

  依姫の大太刀が光り、そこから斬撃が飛び出したとしてもなんら不思議ではない。

  体を大きく仰け反らせてそれを避け、前を見る。

  すると彼女は次の斬撃の体制を取っていた。

 

  ならばこちらもと、柄を強く握る。

  すると、刀身に爆炎と雷が発生。

  それを切り上げて、光の斬撃にぶつけた。

 

  楼華閃七十二【雷炎刃】。

  七十番台の強力な一撃は、本来一撃で勝る大太刀の斬撃を軽々と吹き飛ばし、依姫に大きな隙を作らせた。

 

  今度は氷が、俺の刀に纏わりつく。

  楼華閃七十五【氷結乱舞】。

  七つの氷斬全てが、依姫の体を切り刻むーーはずだった。

 

「『愛宕(あたご)様よ、真の炎の輝きを持って、小さき氷を溶かしたまえ』」

 

  しかし、彼女の体から突如噴き出した、神の炎によって、それらは不発に終わった。

 

  そこで、剣技の応酬が一旦終わり、俺たちはにらみ合う。

 

「小さくても愛宕の炎だな……まったく、技のチョイスを間違えたか」

「ええ、これだけの放出量でも、地上ではこれより熱い炎は存在しないでしょうしね。身を守る鎧としては十分だわ」

 

  そこまで話すと彼女は炎を消して、こちらを観察する。

  そして、大太刀を天に掲げた。

 

「おそらく、剣術だけなら私は負けていたでしょうね。だから、本気で行かせてもらうわ」

 

  大太刀に神力が集まっていく。

  まずい。また神降ろしをするつもりか!

  急いで止めようと駆け出したが、一つ遅かった。

 

  辺りに、一瞬の豪雨と雷が降り注ぐ。

 

「『火雷神(ほのいかづちのかみ)よ、七柱の兄弟を従え、この地に来たことを後悔させよ』」

「……マジかよ、スケールデカすぎだろ……」

 

  雨が止んだ後、俺の目に映ったのは、巨大な七匹の炎竜だった。

  それは依姫の命令を受けて、四方八方から一斉に襲いかかってきた。

 

  そして、俺は吹き飛ばされ、大きな火柱に呑み込まれ、その身を焼かれた。

 

「が、ハァッ!!!」

 

  凄まじい熱が、身体中を走り回る。

  衣服は所々黒く焼けており、その下には大量の火傷が隠されていた。

 

  だが、ただではやられない。

  空中に吹き飛ばされた時、反射的に俺の手は退魔の針へと伸びていた。

 

「【鉄散針】!」

 

  投げられた数本の針がいくつにも分列していき、数十の鉄の雨が彼女に降り注いだ。

  しかし、それを見ても彼女は表情を崩さず、ただ刃をそれらに向けるだけだった。

 

金山彦命(かなやまひこのみこと)よ、私の周りを飛ぶうるさいハエを砂に返せ!」

「なっ!?」

 

  彼女が一言そう告げるだけで、俺の針は文字通り砂に変わり、サラサラと辺りを舞うだけに終わった。

  クソ野郎、俺は神話の大妖怪じゃねえんだぞ! ちったぁ手加減しやがれ!

 

「ーーそして、持ち主の元へ返しなさい」

 

  一度は宙に舞った砂たちが、ビデオを逆再生するかのように元どおりになり、今度は俺に向かって無数の針が飛んできた。

  弾こうにも、今の俺は空中で吹き飛ばされている状態。

  とてもではないが、弾くことは不可能に近い。

 

  ならばと、俺は御札の束を辺りにばら撒き、結界を張った。

  しかし、いくつかの針が間に合わず、肉を貫いた感覚が、俺を襲う。

 

  ……どうすればいいっ。

  戦況は圧倒的にこちらが不利。

  俺が貧血になりそうなのに対して、依姫は無傷。

  能力を使い出してからは、一度も攻撃が届かない。

 

  認めよう。俺はこいつにほぼ勝てない。

  だが、奴の勝利条件が俺らを殺すのに対して、俺の勝利条件はメリーたちを逃すことだ。

  そのためには重傷を相手に負わせるか、動きを封じるしかない。

 

  ……やれるか?俺の今使える中で最強の技。

  【秘封流星結界】で。

  相手は月人とはいえ、体は人間と変わらない。

  こいつがまともに命中すれば、ひとたまりもないだろう。

 

  ふと、メリーたちの悲痛な視線と、目が合う。

  二人とも、俺の惨状を見て、涙を流してるようだ。

  ……ったく、何を迷ってるんだか。

  作戦は決まった。後は俺のーー

 

「ーー後は俺の度胸だけだ!」

 

  叫びながら前へ進む。

  俺の、覚悟の戦いが始まった。

 






「最近グッと寒くなりましたねぇ。作者の家はもうこたつを出してくつろいでいます。皆さんも良いコタツムリライフを。作者です」

「こたつで寝て課題を忘れて、そのせいで放課後にやる羽目になってたのはどこのどいつやら。狂夢だ」


「さて、今回は依姫さんが再登場しましたね」

「ああ、俺が散々いじめたやつか。よく生きてたな」

「月の技術力は宇宙一ィィ!! てやつですよ。もっとも、心に深いトラウマを負ったようですが」

「そこは知らん。ちなみに、依姫は神楽と戦って俺らとの共通性を見つけられなかったのか? 言っちゃ悪いが、俺たち全員同じ顔だぞ?」

「外見については、神楽さんはトゲトゲした黒髪で、長さも肩につく程度に短いので別人にしか見えませんからね。剣術の方も、実は楼夢さんはあの時二回しか刀を振るってないので、分からないのもしかないんですよ」

「原作最強キャラが酷い扱いだ……」

「で、でも、今回で改めて依姫さんの強さが分かったでしょう? これで万事解決です!」

「代わりに今章の主人公が瀕死だけどな……毎回死にかける白咲一族の身にもなってやれよ」

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