東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
レア? ミディアム?
どっちがお好み?
by白咲楼夢(神楽)
「『森羅万象斬』!!」
怒号とともに、巨大な刃が妖怪たちを巻き込み、爆発を起こした。
舞い上がった煙が消える前に、次々と御札と退魔針がマシンガンのように繰り出される。
しばらくすると、ようやく煙が晴れる。そこにあったのは、血肉が撒き散らされた廊下に佇む、もう半数の妖怪たちだった。
「ちっ、まだ半分かよ……! この廊下じゃちょっと厄介だぜ!」
集められた妖怪はどれも下位クラスで、目が三つある犬のようなもの、巨大ゼリーのようなものと様々だった。
普段なら空高く跳躍して、そこから御札などで針地獄に叩き落すのだが、ここは病院の廊下内。跳ぶどころか、十分に左右に動くことすらできない。
「なら、これでも喰らえや!」
刀で横の壁を粉砕するとともに、ガレキを奴らに向かって打ち出す。
そうすることで、横のスペースを広げると共に、妖怪たちを攻撃することに成功した。
とりあえず、刀を自由に振りまわせるスペースを確保出来た。なら、やるべきことは決まっている。
一段と強く、刀身が青白く輝く。そして得意の森羅万象斬を何連撃も繰り出した。
「ちょっとちょっと!? このままじゃ病院が崩れちゃうよ!」
「大丈夫だ! それより階段までのルートが出来たから急いで走れ!」
「もう、なんでいつもいつもこうなるのかしらぁ!?」
俺の無茶苦茶な破壊によって前方の妖怪たちが死肉と化し、塞がれた階段が姿を表す。
そこにメリー、蓮子、俺の順番で駆け上がると、俺は御札を投擲して天井を崩し、妖怪ごと階段を封鎖した。
「楼夢君……これ、下りる時どうするの?」
「他の階段があるだろ? なかったら俺がぶっ壊す」
今ごろ大量にいた妖怪の生き残りはガレキの下で息を引き取っているだろう。階段なら上から一方的に攻撃することも可能だったが、後ろから来ると板挟みでメリーたちを守れないので、今回は守りを優先させてもらった。
……さて、二階に上がったはいいが、これからどこに行こうか。むやみに動き回ると妖怪たちがやってくるし、最低限の動きでここの地縛霊の元にたどり着きたい。
ここに来る前にメリーに聞いたが、ここは地下一階と地上三階まであるらしい。だが、地縛霊の力は上から感じられるので、おそらく地下には用はないだろう。
「この階には何があるんだ?」
「確か、病人のベッドがたくさんあった気がするわ。でも、幽霊の気配がこの階では多く感じられるわ」
「助からなかった者たちの怨霊か……はぁ、これまた厄介なものを召喚しやがって」
怨霊とは、現世に恨みを残して去った人間の幽霊のことだ。負の力が幽霊に加わるため、基本的に幽霊よりも強く、そして好戦的なのが特徴だ。
そこんところを二人に説明したのだが、よく分かってないようだ。
なので、実物を見てもらおうか。
「えーと、あの絵の具に黒を混ぜたような色のやつが怨霊?」
「ああ。ほら、今こっちに向かって弾幕を撃ってきた」
「というかのんびり説明しないでどうにかしてよ」
「いや、怨霊と言っても所詮幽霊だから雑魚も同然なんだよ」
怨霊を見ていなくても、御札を当てることはできる。そして幽霊特攻の装備である俺の攻撃を一撃でも喰らえば、相手は即消滅が確定する。
つまり、適当に札を投げてれば勝てる相手なのだ。そんな奴のどこを警戒しろと? 雑談しながらおやつ感覚でほふれるので楽勝である。
「あの〜楼夢君、なんかすっごい集まってる気がするのだけど……?」
「はい、『森羅万象斬』」
な…なんと怨霊たちが……!? とかいう文字が表示された気がするが、気にしない。怨霊たちは次々と重なり合い、どこぞの王冠被ったスライムに変身しそうになるが、その前に森羅万象斬が炸裂。
相手の変身中は攻撃してはいけないというルールを見事掟破りされて、怨霊たちは弾け飛んで消滅していった。
「……それはないよ楼夢君……」
「……合体した姿、見たかったなぁ……」
「えっ? これ俺が悪いのか?」
なんか責めるような視線を感じるのだが、気のせいだろう。
俺はただ動きが止まって狙いやすくなった相手を倒しただけなのだから。
気を取り直して、再び廊下に進んでいく。
やはり怨霊が山ほど出てきたが、全て俺の敵ではなかった。軽く大群を全滅させ、階段に向かって突き進む。
やがて、とある一本通路の先に階段を発見する。しかし、当然ながら一階と同じように門番として妖怪が待ち伏せていた。
一個の体に、頭が二個ついている、まるで地獄の門番ケロベロスを連想させる姿二メートルほどの犬。それが四匹、佇んでいた。
「うわぉ……ケロベロスなんて初めて見たよ」
「馬鹿野郎、本物のケロベロスは異名通りの怪物だ。決してこんなちっぽけな合成生物じゃねえぞ」
「じゃああれはなんて呼べばいいの?」
「そうだな……モブキャラっぽいからモブべロスでもいいんじゃねえか?」
「……ステファニー」
「……はい?」
メリーがポツリとつぶやいた。
「あの子の名はステファニーよ。そう決めたわ」
「イヤイヤイヤ!? なんであんな気色悪い妖怪にまともな名前つけてんの!?」
「だって、あの子たちの顔が昔飼ってた犬に似てたんだもん!」
「趣味悪すぎるだろ! というか本物のステファニーがメッチャ可哀想だわ!」
「あの子はステファニーったらステファニーなの!」
「落ち着けメリー! ああもう、ツッコミ役がボケに回るとやりにくすぎるだろ!」
騒ぐメリーを落ち着かせるのに必死で、俺たちは気づくのが遅れた。
後ろからも、
「あの〜楼夢君、蓮子さんの目には黒が混じった光体Xが見えるんだけど……」
「……しまったな、囲まれた」
もう正体も分かってただろうが、光体Xはこの階でさんざん出くわした怨霊たちであった。
前門の犬、後門の怨霊。
八方塞がり。四面楚歌。
今の俺たちの状況を説明するのに、これだけの言葉を並べれば十分だろう。
俺一人なら問題ないが、そうなるとメリーたちは守りきれないだろう。
突破するにも、ここは一本道。逃げる場所なんて……いや、一つあったな。
「どうしよう楼夢君! このままじゃ確実に誰かが攻撃されるよ!」
「一旦ここを離脱するぞ! あそこの扉の中に飛び込め!」
廊下の横の扉を開け、そこに飛び込むように避難する。そしてすぐさま扉を閉め、近くのタンスで入口を塞ぎ、辺りに御札をばらまいた。
一息ついて、周りを見渡す。この部屋は学校の教室ほど広く、出入り口も同じように二つあった。
だが幸い、奴らはそれを理解する知能がないようで、飛び込んだ反対側の扉はそのままにしてある。だが、塞いだ方の扉がギシギシと外からの衝撃によって揺れるので、長くは持たないだろう。
「ねえ楼夢君。怨霊って壁とかすり抜けられないの?」
「肉体がないからできるっちゃできるが、この部屋に御札をばらまいておいたから入った瞬間に爆散するぜ」
「……なんか楼夢君って幽霊とかに対して無敵すぎないかしら?」
「巫女ですから」
まあ、確かに俺の装備が幽霊に特効なのは認めるが、今はそこは置いておこう。
この部屋の二つ目の特徴は、床や天井から置いてある家具まで、全てが木製でできていることだ。大きな窓も付いており、部屋の中心には大きな木が、そこじゃなくても花や小さな木などが飾られていた。
おそらくは、患者たちを自然の力とやらでカウンセリングするための部屋なのだろう。
だが、この時俺の頭には黒い考えが浮かんでいた。
「なあメリー、お前確かライター持ってきてたはずだよな?」
「う、うん一応あるけど……何に使うの?」
「なーに、愉快な室内花火が上がるだけだ」
♦︎
ドガッ! という鈍い音とともに、こじ開けられる木製の扉。
障害物であるタンスを踏み潰して、四体のモブべロス及びステファニーが侵入してきた。
「あーした天気になーれ、とッ!」
近くのゴミ箱を蹴り飛ばし、四体のうち一体に命中させる。ダメージは与えられなかったが、散乱したゴミのおかげで、全匹の注意をこちらに向けられた。
作戦通り、反対側の扉からメリーたちが走って出て行った。
だが、廊下にはまだ怨霊たちが彷徨っている。
そこで蓮子たちは、俺が渡しておいたとあるものを取り出すと、怨霊たちに向かって投げつけた。
そして、外から閃光弾のような激しい光が二つの扉から中に差してきた。
それが収まった頃には、もう外から邪悪な気配は感じられない。どうやら作戦は成功したようだ。
俺が持たせたのは、十枚一束の御札を一つずつ。だが、通常とは違い、投げて数秒後に浄化効果のある光を撒き散らすように設定しておいた。
効果は抜群。
本職が巫女である俺の霊力に耐えらるわけもなく、怨霊たちは言葉一つも残さずに消滅していった。
「さて、次はこっちの番だな」
ギャオオォォッ!
言い終わると同時に、地面にステファニーAの牙が突き刺さる。
それをジャンプで回避して、頭の上に着地と同時に斬りつけようと思ったが、反対の頭が邪魔をしてきたので針を投げるだけにとどまった
今度はステファニーBとCが連続で四個の顔で攻撃してきた。
だが、✳︎を描くように四回斬撃を繰り出すことで、それら全てを弾き飛ばす。そして追撃を入れようとしたところで、ステファニーDの横槍が入ってきて、転がるように緊急回避する。
(俺の目的はこの部屋の脱出。そうすればアレで一網打尽にできるのだが……そのためにはッ)
一度納刀すると、中から黄色の光と電気が漏れてきた。
そして、一瞬の居合い切り。
『雷光一閃』。閃光のような斬撃によって、正面で立っていたDの足の関節を切り裂くことに成功する。
現在位置は、犬三匹と向かい合うように互いに背を壁に構えている。俺が左に、犬が右に行けば、それぞれ出口がある。だが、ステファニーが近い方は確実に無理だろう。なら、勝機にかけるしかない。
叫びながら、特効していく。
そして滑り込むようにステファニーAの腹に近づき、ズタズタに切り裂いていく。
その隙を狙って、後ろからBがタックルしてきた。服が汚れるが脱出に成功。代わりにAが吹き飛んだ。
仲間を吹き飛ばしたことに一瞬呆然とするBに、硬化された御札が突き刺さる。そのまま体内へと入り込み、しばらくすると中から大爆発を起こした。
自分以外の全員が倒されたことに、ステファニーCが慌てて後ろに飛び退く。だが、俺の手には青い光を放つ鋭い針が二本握られていた。
キランッ、と部屋が一瞬輝く。
それと同時に、Cからおぞましい叫び声が放たれた。
投げた針は、Cの両目を見事に潰していた。やつが雄叫びをあげるのも無理はない。
これで、全員の足を止めることに成功した。
その隙に、メリーたちが出て行った扉の前に立ち、ステファニーたちの方へ振り向く。
そして、御札の小束をポケットから掴み取ると、それをライターで燃やす。
そしてそれを、空中に放り投げた。
直後、爆発するように御札が急速に燃え上がり、青白く、大きな炎の球体と化した。
「初めて使うから威力は分からねえが、ガッカリさせんなよ!『
叫ぶと同時に外へ駆け出し、戸を閉める。
直後、
ボガァァァァアアアアアアアンッ!!!
中で炎の大爆発が巻き起こり、病院全体を震わせる。
よく見れば、犬たちが壊した反対側の扉から中の炎が噴射するように飛び出していた。
廊下側に窓があれば俺たちもただでは済まなかっただろう。
炎が静かになってきた頃、そっと中を覗いたが、木製の部屋が灼熱地獄と化していたため、生きてはいないだろう。
「……よし、この妖術は封印しよう。というかなんてものを残したんだご先祖様は」
だがよく考えれば、この術がこれほどの威力なのは納得がいくかもしれない。なぜならこの術は、我が神社の主神、産霊桃神美が自ら作り出した
さて、ここで疑問を覚える人も多いだろう。
なぜ、俺が妖術を使えるのかと。
実は、霊力を使って妖力生み出すことができる術式がこの世にはある。
俺がこの術式を知ったのは、なんでも西洋最強の賞金稼ぎが残した書記を倉庫で拾ったからだ。
それによれば、白面金毛九尾という妖怪は、玉藻前という人間に化けるため、大量の妖力を消費して少ない霊力を生み出していたそうだ。
しかも都合がいいことに、その書記には妖力を霊力に変換する術式と、逆に霊力を妖力に変換する術式が書かれていた。
俺が使ったのは後者だ。だが、書かれていたほど、俺は霊力を消費しなかった。
その理由もすでに予想がついている。
十中八九、俺の体に流れる妖怪としての血が原因だろう。それのおかげで俺は普通より消費が少ないまま、妖力を生み出すことができた。
とはいえ、先ほどの一撃で二割以上使ったことから、効率は良くないことは変わりない。
これからは慎重に使っていこう。
そして、数分後。二階の階段から上に上がってくる影があった。
もちろん、俺たちのことである。
あの爆風で、幸い二人は怪我などをしなかったようだ。少し埃がついてしまった服を払いながら、蓮子が通快のスキップで俺の後ろを歩く。
「……さて、まずは気づいたことを聞いてみようか」
「うーん、なんかよくわからないけど嫌な感じがするね」
「大気中の妖力の濃度が濃くなったわ。確実に、ってキャァッ!?」
突如、無防備のメリーの足元から触手状の針が伸びてきたのだ。
だが、いち早く危険を察知した蓮子が体当たりで突き飛ばすことで、九死に一生を得る。
「ッ、痛たた……どういうこと? 今まで罠は全部見抜けてたのに」
「……簡単な道理だ。おそらく俺が安全と判断して通った道に、一瞬で罠を作り出したんだろ。即設置即起動ってやつだ。そこで俺より一番離れていたメリーが標的に選ばれたってわけだ」
「悪趣味ね……こういうことがこの階では続くのかしらね?」
「そうじゃねえのか。少なくとも、あっちは歓迎してくれてねえみたいだし」
怪しい雰囲気を漂わせる廊下を指差して、俺はそう皮肉染みた笑みを浮かべる。
まだまだ、夜の廃病院探索は続く……。
お知らせです。
とうとうテストの期間がやってきてしまったので、二週間ほど投稿をお休みさせていただきます。
終わり次第、精一杯頑張って投稿しますので、どうかご了承ください。
それでは皆さん、お気に入り登録&高評価してくれたら嬉しいです。今回はありがとうございました。