東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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夜が明ける

闇空は消え去り、暁が終わる

そして、日常が戻ってくる


by白咲楼夢(神楽)


その後の結末

 

 

 

 

  落ちていた意識が、浮かび上がってくる。

  そこで俺の意識は覚醒した。

 

  まず、最初に感じたのは、何やら良い匂いと、柔らかい何かを枕代わりにしている感触。

  恐る恐る目を開けると、そこには金髪の美少女の顔が間近で映り込んできた。

 

「……メリー、何やってんだ?」

「ろ、楼夢君起きたの!? 良かった……血まみれで倒れてた時にはどうなることかと……」

「いやメリー、現状の説明を……」

「じゃ、じゃあ私蓮子たちに伝えてくるねっ!」

 

  そういうがいなや、もうダッシュで駆けていく。

  とりあえずメリーのは保留にして、霊力感知を行う。

  そこには、何か巨大な妖力の跡が残っていた。

 

「ようやく起きたの? 楼夢君」

「なあ蓮子。俺が寝た後何が起こった? 明らかに異常な妖力の爪跡があるんだが」

「……私もよくわからないけど、青い流星群が終わってしばらくした後、急にあの辺りが破裂したように大爆発を起こしたんだよ。それなのに、火の手が上がらないのも不思議だし」

 

  青い流星群とは、俺のあの全力の森羅万象斬の雨のことだろう。だが、俺はそれ以外に何も放ってないし、そもそも爆発地と現在地に少なくない距離がある。

  つまり、

 

(俺以外の、あいつを超える妖怪が一瞬であの場に現れ、大爆発を起こして一瞬で消えたってことか……?)

 

  正直、ただの妖怪にそんなことができるとは思えない。だが、それができる存在は日本中にいるはずだ。

  大妖怪。

  強大な力を持った妖怪を指す言葉で、一人で国一個分の戦力を誇る、かつての世の恐怖の支配者たち。

  その数は数多の妖怪の中でも日本では三桁もいないそうだが、逆に言えば百匹以内はいる、ということだ。

  とりあえず、俺のこの考えは胸の中に置いておくとしよう。そして卯酉東海道の中で、その時はゆっくりと二人に聞かせようと思う。

 

「それで蓮子。子供は保護できたのか?」

「うん、今メリーが一緒にこっちに向かってるはずだよ」

「残念、もう来ちゃったわ」

「うわっ! ……もうメリー、後ろから急に声かけないでよ。ていうかそのためだけに境界弄るのもやめなさい」

「えー、嫌よ。だって面白いじゃない?」

 

  体の周りの境界を弄って、気配を薄めたメリーが、少し腹黒い顔をしながら可愛らしく舌を突き出す。

  なんかあれが凄い能力ってのは分かるんだが、あんな使い方をされると全然尊敬できない。

 

  ふと、彼女の後ろから遅れて、緑色の不思議な髪をした少女が出てきた。

 

「メリー、この子が?」

「ええ、ほら、あなたを怖い鬼から守ってくれた人よ? お礼は?」

「そ、その……ありがとうございました!」

「いいえ、これが私の仕事ですので。気にしなくていいですよ」

 

  巫女モードになった俺は営業スマイルを見せ、彼女を落ち着かせる。

  彼女が万が一、俺の性別を語ってしまった時の対策だ。先ほどの蓮子との会話は聞いていなっかたようなので、ちょうどいい。

  そして幸い、服はいつもの黒シャツに紺のパーカー姿だが、髪は長いままだ。うまく行けば、彼女をなんとか誤魔化せるだろう。

 

「……はっ、はいっ! 気にしません!」

 

  彼女は俺の顔を見た後、なぜか数秒間硬直したのだが、その後顔を真っ赤にして慌てながらそう言った。

  はて? 俺は何か彼女を慌てさせるようなことを言ったっけ?

 

「見た蓮子? 凄い天然たらしだよ。幼い女の子まで落とすなんて」

「うん、さすがにあの笑顔は反則だよ。私もキュンって来ちゃったもん」

 

  うんそこの二人、ちょっと待とうか。

  第一、そんな漫画みたいに笑顔一つで人が落ちるわけないだろうが。

  とはいえ、少女が再び固まってることは事実なので、緊張を解くため会話を続ける。

 

「それで、貴方の名前を聞いていいですか?」

「はいっ、東風谷早苗、五歳、彼氏はいませんっ!」

「そ、そうですか……私の名前は神楽です。他にも色々と名前があるのですが、今は神楽と呼んでください」

「はい、神楽様!」

「いや、普通に神楽でいいですよ」

「嫌です! だって神楽様の雰囲気が神奈子様や諏訪子様に似てるんだもん! だから神楽様です!」

「だから……はぁ、もういいや」

 

  その諦めの言葉を聞くと、早苗が太陽のように眩しい笑顔を見せる。

  いやだってよ、あんな泣き出しそうな顔されたら許可するしかないじゃねえか。俺は悪くない!

 

「見た蓮子? 小さい女の子に様付けで自分を呼ばせてるわよ。きっと今のうちから育てて後で食べようって考えてるのよ」

「うん、確かにありえるね。これは犯罪だよ楼夢君」

「お前らいい加減黙ってろよ!」

 

  お前らはクラスによくいる嫌味ったらしい女子かよ。いや俺は学校なんて通ってないからよく知らねえが。

 

「分かったよ。それじゃあ、早速山を降りようか」

「ああ、その件なんですがその、すいません……肩を貸してくれませんか?」

「へっ?」

「霊力の使い過ぎで……立ってるのがやっとなんです……」

 

  ホントに情け無い話だ……まさか女の子に肩を貸してもらう時が来るとは。

  だが、蓮子とメリーは俺のその様子を見て、何かを必死にこらえていてーーーー

 

「「ふふっ、あははは!」」

 

  ーーーー耐え切れず、笑い出した。

 

「ふふっ、やっと私たちを頼ってくれたんだね。いつも一人で戦ってるから、本当は足手まといなんじゃないかな、て思っちゃったよ」

「そんなわけありません。現に今、蓮子たちがいなければ早苗を助けられなかったじゃないですか」

「そう? ありがと。さてメリー、頑張って山を下るよ!」

「うん、任せて!」

 

  こうして俺はメリーたちの肩を借り、山を下っていった。

  道中、登りの時に大量に出てきていた野良妖怪たちは一匹も姿を現さなかった。

  彼らは人間に劣るというだけで、決して頭は悪くない。鬼を倒した俺の実力を感じ、近寄らないようにしているのだろう。

 

  そして数時間後。

  長い、長い夜が明ける。

  俺たちが村に帰ってくるのと同時に、太陽が空を登り始める……。

 

 

 

 ♦︎

 

 

  あの後、俺たちは村で引き続き捜索願いをしている女性に、早苗を送り届けた。

  その時、彼女が涙を流しながら礼を言う姿に、村人たちは鬼はどうしたと立て続けに質問してきたので、少し弄って真実を伝えてあげた。

 

  実際、俺が鬼を倒したのは事実だ。だが、殺したのは俺ではない。

  伝えた内容は、巫女である神楽が昨日の夜、鬼を退治してきた、ということにしてある。

  最初は半信半疑だった村人も、たった一夜で一部が燃やされ、荒れ果てた鬼来山を見て、全員が感謝の言葉と宴が繰り広げられた。

 

  鬼来山は、元々邪魔な山だったらしく、これから数十年かけて開拓作業を行うらしい。

  なので、俺の戦闘による自然破壊はお咎めなしになった。むしろ、大量の木々をなぎ倒してくれたおかげで、切り倒す手間が省けたと感謝を言われるほどだ。

 

 

  その後の生活は、特に異常もなく平和に終了した。

  そして現在俺たちは京都に帰還し、いつも通り大学のサークル部屋でダラダラと過ごしている。

 

「うおおぉぉぉぉおおぉ!! レポート締切まで後一日! それまでに持ってくれ、私の体ァ!」

 

  ……約一名を除いて。

  彼女がやってるのはお察しの通り、レポートの書き上げ。内容は東京で起きた怪奇現象についてである。ちなみに蓮子の先祖のことは書いてないらしい。

  つい最近の出来事のくせに肝心なところ以外全部ド忘れした蓮子が、いつも通り提出日ギリギリまで粘ってレポートを書いてるにが現状だ。

 

「蓮子も大変ねぇ……」

「自業自得だ。それよりもメリー、紅茶ができたぜ」

「あら、ありがとう。……んっ、美味しい……」

 

  暖かい液体を飲み干したメリーの口から、白い息が出てくる。

  秋場になってからだいぶ経った。そろそろ冬に備える時期になるだろう。

 

「とはいえ、しばらくは休みたいかな。傷もまだ治ってねえし」

「……っ」

 

  不意に袖から見えた包帯を見て、メリーが申し訳なさそうな顔をする。

  当然、あの戦いの後、すぐにいつも通りの日常に戻れるわけじゃない。俺の体には、見るのも絶えないほど酷い火傷と、腹の辺りの骨が折れた跡が、今でも包帯で隠されている。

  通常なら病院に行くのだが、俺はそれはおろか医者にさえこの傷を見せていない。この尋常じゃない怪我を見れば、それについて問い詰められる未来が見えていたからだ。

  まあ幸いなのが、俺の体は人間以上に頑丈で、こんな傷も半月ほどで治るということか。さすがは妖怪と神の血が混じった体だ。

 

「さて、このままじゃ終わりそうにないから、俺も手伝ってやろうかな」

「そのセリフも毎回よね。まあ、ちゃちゃっと終わらせてケーキでも食べましょう」

 

  机の上で煙を出しながらショートしている蓮子を見て、俺とメリーが手伝いを始める。

  こうして、ゆっくりと俺たちはいつもの日常に戻っていくのであった。

 

 


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