東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

132 / 292
おいであそばせ迷いの森へ

さあ、鬼さんこちら

楽しいショーの始まりです


by白咲楼夢(神楽)


臆病者の森

  最初に動いたのは、俺だった。

  鬼を超える速度で鬼を通り越し、すれ違いざまに切りつける。

  だが、傷は予想以上に小さかった。

 

「ハッハハ! こんなものかすり傷にも入らんわ!」

「うおっとっ! ちぃっ、なんて硬さだよ……!」

 

  奴の腹を切った時、まるで鋼を叩いたかのような感触を手のひらに感じた。そしてそれは間違いじゃないだろう。

  伊達に千年以上鍛えておらず、その肉体を形作る筋肉は、金属を超える強度となり、鉄壁の鎧と化していた。

 

  普通に切るだけでは通用しない。

  なら、他の作戦に切り替えるのみだ。

  とは言ったものの、相手は都合よく待ってくれるはずもなく。

  雄叫びをあげながら、鬼のラッシュが行動を阻害してくる。

 

  アッパーをスウェーで、ストレートを首を傾けることで、フックはしゃがむことで、鬼の拳の嵐を避け続ける。

  だが、下にしゃがんだことは失敗だった。

  頭上から悪寒が走る。

  見上げれば、渾身の打ち下ろしが、俺の頭をロックオンしていた。

  ほぼ反射で横にダイブ! と同時に、針を数本投げる。

 

  再び轟音。そして出来上がるクレーター。

  すぐさま立ち上がり、相手を観察する。鬼の体には針が突き刺さっていたが、先ほど同様深くにまでは至らず、あっさり引き抜かれてボキボキに折られ、ポイ捨てされた。

  それは俺に対しての見せつけかな? 結構高かったんだぞそれ用意するの!

 

  さて、針も通用しないということで、また次の作戦。

  刀を鞘に納刀し、じっと力をためる。

  その行為に鬼は若干驚くが、すぐさま切り替えてあざ笑いながら拳を突き出してきた。

 

「クハハハッ! 戦場で敵が待ってくれると思うなよォッ!!」

 

  ああ、言われなくても分かってる。

  そしてお前に一言。

 

「頭上注意、だな」

 

  その言葉とともに、数枚の御札が空から鬼の体へ突き刺さり、大爆発を起こした。

  これらはメリー達への防御にばらまいたやつらだ。誰も全て防衛に回すなんて言ってないぜ?

  予期せぬ攻撃に、鬼の体は少しの間硬直した。

 ーー今がチャンスだ。

 

  鞘の中に霊力を込めると、外がバチリと光り、雷が纏わりつく。

  それを一気に距離を詰めると抜き放ち、光の居合い切りを放った。

 

  ズシャァァアッ! という血が噴き出す音。そして生肉を切り裂く感覚。

  楼華閃『雷光一閃』。

  今度こそは、相手に通用したようだ。

 

「ぐっ、うおぉぉぉお!」

 

  鬼は雄叫びをあげるが、その体は腹に流された電撃によって痙攣し、マヒしている。

  今だ、畳み掛けろ!

 

「ハアアアアアアァァッ!!」

 

  緑色の光と風を纏った刃で、先ほどの反対側を切りつける。

  楼華閃『裂空閃』。

  返す刀で、今度は刀を両手に握りしめ、赤く輝く刀身で切り上げる。

  楼華閃『赤閃』。

  振り切った体制を利用して、上から下に強烈な衝撃と斬撃を叩き落とした。

  楼華閃『墜天』。

 

「ゴ……ガァッ、ハァッ!」

 

  衝撃波が巻き起こり、巨大な体を数メートル吹き飛ばす。

  それを追いかけ、追撃の突き技をーーーー

 

 

  ーーーー放つ前に巨大な火柱が間に発生し、壁となり行く手を塞いだ。

  周りの木々に燃え移り、あっという間にフィールドが炎に包まれる。

  そこに、一本の大木が不自然に宙を浮く。目を凝らしてその下を見ると、そこにはそれを片手で持ち上げる鬼の姿があった。

  炎の激しさが増す大木を、大きく振り被る。

  おいおい、まさか……?

 

  ゴォッ!!

  空気を切り裂く、いや叩き潰すような音をしながら、炎木が投げつけられた。

  すぐさま上にジャンプ! アクション映画顔負けのバク宙を決める。

  だが、少しドヤ顔になった俺に、まだまだ大木の脅威は終わらない。

  横に投げつけられた大木は、俺の周りの木々をなぎ倒していったのだ。

  当然、根元を折られた木々は次々と落下しながら他の木とぶつかり、やがて複雑な軌道をしながら大量のそれらが、俺へと降り注いで行った。

 

「くそっ、本当にここはアクション映画じゃねえんだぞ!?」

 

  こうなったらやるしかない。木々は壁のようにまとまりながら落ちてくるが、一本一本にわずかなタイムラグがある。そこを突けばーーーー。

  まずは上に跳躍、そして木の幹に足をつける。それを蹴り飛ばし、壁キックの要領で次々と木を乗り換えていった。

  だが、まだまだ木は大量に落ちてくる。それらに反応できず、俺は押し潰されーーーー

 

 

 

  ーーーーなんちゃって。

 

「『森羅……万象斬ッ!!!』」

 

  木の壁を粉砕し、青の刃が、翼のように天に昇った。

  青の鳥が作った一瞬の穴。それを俺は見逃さない。

  雄叫びをあげ、俺は必死に木の壁をーー通り抜け、脱出した。

 

  近くの木の頂点に飛び移り、そこから他の木々へと移動しながらここを離脱する。

  直後、ズゥン! という木々が地面に衝突した音が響いた。

  さすがに今回ばかりはまともに戦っていられない。御札を周りに浮かばせ、結界を張って身を隠す。

 

  そういえば、メリー達は無事だろうか?

  気になって元いたあたりの場所を見つめると、必死に地面に伏せて身を守る二人の姿があった。

  ……流石にもうここにはいられないか。ちょうどいい、二人に一仕事してもらおう。

  パーカーのポケットから御札を一枚取り出し、そこに血を垂らして血文字で手紙を書いた。

  内容は攫われた少女の居場所だ。霊力感知によると、ここから少し離れたところで縛られているようだ。彼女たちにはここを離れるついでにこの子供の救出に向かってもらおう。

 

  完成した手紙を硬化させて、メリーたちの近くの木目掛けて投擲する。それは見事に直進し、突き刺さった。

  それをメリーが見つけ、手紙を広げる。そして蓮子に呼びかけると、その場を走って離れていった。

  よし、それでいい。あとは……。

  直後、冷たい殺気が横から突き刺さる。

  喉を鳴らして振り向くと、そこにはーーーー。

 

 

「よう。よそ見とは余裕そうじゃないか」

「……!? しまっ……!」

 

  そこから先は、言葉が続かなかった。

  間髪入れずに放たれた鬼の拳が体を捕らえ、俺は地上に強制的に叩きつけられた。

  腹に受けた衝撃と、地面に叩きつけられた時の衝撃で骨が鈍い音をあげる。

  感覚で分かった……これは折れたな、と。

  だが正直、それだけで済んで良かったと思う。あの時御札の結界を防御に切り替えていなければ、間違いなく即死していた。

 

  吹き飛ばされた先は、まだ火が木々に移っていない、新しいステージ。

  そこにふらつきながら立ち上がる俺と、空から落ちてきた鬼が再び対峙する。

 

「よく生きてたな。てっきり死んだもんかと思ったぜ」

「ったく、すげぇ馬鹿力だ。今でも頭がクラクラしやがる」

「はっ、じゃなきゃ意味がねえ。安心しな、俺が勝ったらお前の女どもをたっぷり遊んだ後で同じ場所に送ってやるよ」

「テメェ……やっぱ最低のクズ野郎だな」

「そうかよ。でもお前は今から、その最低のクズ野郎に殺されるんだ、ぜェッ!」

 

  鬼の両拳が炎に包まれる。それを互いに打ち付けると、歪んだ笑みを浮かべながら俺へと駆け出した。

  再び始まる、拳のラッシュ。だが炎の分リーチが長くなっており、先ほどのように避けれず、刀で受け流しなが後退し続ける。

  ギャリン、ギリッ、ガギンッ!

  このままじゃ防戦一方だ。俺は後ろへ飛び退き、木の裏に背中を合わせる。そこを狙って放たれる、赤い拳。

  だが俺は、拳が木を貫く前にしゃがみ、回転して振り向きながら木の幹を斬りとばす。そして拳を振り切った状態の鬼に、木が倒れてきた。

 

  あまり期待はしてなかったが、それは直撃するも結果的に無傷で終わった。

  だが足止めにはなった。それで十分だ。防御から攻撃に立て直せる時間があるなら十分だ。

 

  『赤閃』を繰り出し、鬼の肉を切り裂く。と同時に、他の木に飛び移り、先ほどの壁キックで周りの木々を縦横無尽に飛び回った。

  今回の戦いでは、連続技はほぼ意味を為さないだろう。例えニ、三回斬撃が当たっても、鬼はタフで動きを止めないからだ。

  なので、今回は単発技がメインになるだろう。そしていずれできる大きな隙の時に、連続技だ。

 

「ちぃっ、ちょこまかとうっとおしい……!」

 

  頭や体、そして何より目を動かして俺の動きを捉えようとしているが、どうやら追いつけないようだ。

  そのまま死角から飛び出してすれ違いざまに切り裂き、また死角へと戻る。

  鬼はとうとう堪えきれなくなったのか、ガムシャラに突っ込んできた。木々をなぎ倒し、メチャクチャに拳を振り回しながら周りを破壊する。

  しかし、その分隙も生まれる。無防備な背中に×字を刻んだ。

  どうやら、修行したと言っても精神修行まではしていたわけではないようだ。繰り出される拳は高確率で急所へのコースを導くが、それが当たらなければ怒り、暴走して暴れまわる。

  相手が同じ鬼だったら通用するだろう。だが、あいにくと俺は速度重視の剣士だ。わざわざ相手の土俵で戦う義理はない。

  そういう意味では、この木々が生い茂る森は俺にとって都合が良かった。この障害物だらけのフィールドで切り刻まれて死ね。

 

「死ねオラァァッ!」

「死ぬのはテメェだゴミ屑野郎!」

 

  激しい罵倒が飛び交う中、鬼の拳が頬をかすめる。そして、まっすぐに伸びた腕に、操作した御札が巻きつき、数秒間拘束した。

  だが、その数秒間は致命的な一撃になり得る。

  ーーこれで終わりだ。

 

「『森羅……万象斬ッ!!』」

 

  ーー止めの一撃。

  今日最高の斬撃が、鬼の背中を抉り、鮮血を撒き散らしながらーー大爆発を起こした。

  青い光が飛び散り、爆発によって煙が巻き上がる。

  しかし、そこに姿を現したのはーーーー

 

「……つか、まえた……っ!」

 

  血だらけになりながら、俺の刀の刃を握りしめる、鬼の姿があった。

  その目は血走っており、大ダメージで消耗しているにも関わらず、その闘志だけは薄れていなかった。

  ニヤリ、と鬼は笑う。そして叫び出す、本能の直感。

  まるで、心臓が凍りついたかのように。体が動かなかった。

  そのままゆっくりと、鬼は指に力を込めーーそれを弾いた。

 

  直後、巻き起こる大爆発。

  俺の体はあっという間に炎に包まれ、体中が熱に叫びながら、涙のような汗を流す。

 

「ギッ、ガアアアアアアァァァァアア!!!」

 

  熱い熱い熱い!

  燃え盛る体を地面にこすりつけ、ガムシャラに熱を冷まそうともがく。

 

「くくく、いい気味だぁ……そうじゃなきゃ意味がねえよなァ!?」

 

  だが、相手がそんなものを待ってくれる道理はない。

  横に倒れている俺の腹目掛けて、奴のつま先がねじり込まれる。そのままサッカーボールのように蹴り飛ばされ、俺は木々をなぎ倒しながら吹き飛んだ。

 

  飛びかけた意識を痛みが繋ぎ止める。

  腹から浮かび上がる、鉄の味をした赤黒い液体。それを大量に吐き出すと、薄れゆく頭で必死に思考を加速させた。

 

  非常にまずい。体はもはや満身創痍、全力で動いて後五分というところだろう。

  それに加えて、俺は奴を短時間、つまり一撃で仕留められる技を持っていない。

  絶体絶命。崖っぷちの今に最もお似合いの言葉だろうな。

  だが、奴が術を使う前に、奇妙な現象が発生したのを俺は確認した。奴が炎を発生させる前に、額の辺りが青の光を放っていたのだ。

  そしてそれは、俺の耳にぶら下がっている魔水晶(ディアモ)が放つ光によく似ていた。つまり、

 

  ーー奴が異常な妖術を使えるのは、何かアイテムのおかげではないだろうか。

  だが、それが分かったところで、どうにかなるものではない。仮に額の何かを破壊したとしても、その次に一撃で仕留められる大技が必要だ。

  今の俺が持っているのは……刀に針、それに御札しか……。

 

  いや待て、御札だと?

  俺はポケットに束にして入れてある御札の数を確認する。一束百枚が六つと、小さな束が一つあったので、約六百枚とちょっとだ。後はメリー達の分を合わせると、合計九百といったところか。

 

「……やれるかもしれねえ。いや、やらなくちゃならねえ」

 

  手元に残った全ての御札を見つめ、俺はそう呟いた。

 

 

 ♦︎

 

 

  俺が鬼の前に姿を現したのは、あれから十分後程のことだった。

  文字通り血まみれでボロボロな体を引きづりながら、ゆっくりと歩いていく。

  進むごとに、力なく握られた刀の刃が地面とこすれ合い、ギギッという音を立てる。だがその無礼方な行為も、今の俺には気にする余裕もなかった。

 

「よう。安心したぜ、もし逃げた時には女どもを食い殺した後、村を灼熱地獄に叩き落とすところだったからな」

「……悪いが、地獄に落ちるのはテメェだ」

「はっ、そうかよ。なら試してみようじゃねえ、かぁッ!」

 

  喋りながら、その拳が俺に振り下ろされる。

  なんでもない、ただの拳の一撃。しかし、今の俺にはそれすらも避けることが難しく、歯を食いしばって刀で受け止めた。

 

「ははっ、大したことねえなぁ! これで、終わりだクソ野郎!」

 

  笑いながら、余った左拳が下から上へと加速していく。

  そのアッパーは、必死に防御していた俺の刀を弾き飛ばした。

 

  勝利を確信する鬼。笑い声をあげながら、奴は俺の顔を覗いた。

  そしてギョッとする。そこにはーー

 

 

  ーー悪魔のような笑みを浮かべて、こちらを睨むヒトの姿があった。

 

  直後、鬼の腹に、強烈な衝撃が走る。

  見ると、拳が、鍛え上げられたはずの腹筋を貫いて、突き刺さっていた。

 

  ただのボディブローと思うことなかれ。俺が狙ったのは肝臓。つまりこれはリバーブローだ。

  おまけに、奴が拳を振り切った状態で、息を大きく吐き出したタイミングを狙ってのカウンター。

  あらゆる好条件が揃ったその拳は、たった一度だけで鬼を酸素欠乏障害、チアノーゼへと陥れた。

 

「グブッ、……ォッ!」

 

  たまらず、鬼の腰が崩れ落ちる。当然、頭の位置も低くなっていた。

  だが、右手はアッパーを防ぐために、左手は未だに突き刺さっている。では、どうやって追撃を決めろというか。

  それは、俺の額に集まる霊力の塊が、全てを物語っていた。

 

「ウオリャァァァァァアアアア!!!」

 

  もはや型などを逸脱した、渾身の頭突きが、鬼の額に直撃し、埋め込まれていた青い宝石がバラバラに砕け散っていった。

 

「アアアァァァアアアア!!! くそっ、くそぉ……!」

 

  頼りのものがなくなった鬼が、額から血を噴きださせて苦しみ始めた。

 おそらくは宝石の破片が額に突き刺さったのだろう。埋め込んでいたんだから、深くまで届いているはずだ。

 

  地面に落ちている刀を拾う。それを構えると、鬼に向けて刃を突き出した。

 

「終わりだ……厄介な炎はもう使えない。大人しく諦めろ」

「はっ、そういうテメェの方こそっ、もう体が動かねえんじゃねえかっ? 終わりなのはお前の方だ!」

「そうかよ……遺言はそれでいいんだな?」

 

  そういうが否や、今まで見たこともない量の霊力が、俺の体から溢れた。

  これらは全て、俺の体に残っていた霊力だ。これを外せば、間違いなく俺は霊力が空になり、敗北に至る。

  だから……これだけは絶対決める!

 

  黒刀が青い炎をジェット噴射するように、大量の霊力を放出する。

 

「学習能力のねえ野郎だな! それ以外に打つ手はねえってか!?」

「……確かに、俺にはこれしかない。だけどよ、いくら同じ技でも、工夫をすればなんだってなるんだぜ?」

「だったら証明してみせろよ! テメェのその貧弱な切り札でな!」

「そうか……俺の先祖が残した技を馬鹿にしたこと、あの世で後悔しろ!」

 

  ありったけの霊力を込めて、もはや青光の大剣と化した己の武器を、天に掲げる。

  その行為に、鬼は一瞬疑問を浮かべるが、やがて空から()()()降り注いでくるのに気がつくと、驚愕で口を呆然と開いた。

 

「な、なんだよ……なんなんだよこれはぁッ!?」

「確かに、俺の森羅万象斬じゃ一撃でお前を仕留められない。だが、もしそれが数百回も重なれば?」

「ま、まさか、あれらの全ては……ッ!」

「俺がばらまいた御札約千枚。それら全てに、森羅万象斬を付与しておいた。さて……逃げれると思うなよ?」

「ふざけんな! 来い、雑魚共! 時間をかせーー」

「させると思うか?」

 

  鬼の一声に、山の妖怪共が集まりだす。

  だがそれらは全て、光刃の流星によって、全て消し飛ばされる。

 

  恐怖がプライドを砕き、鬼は必死の逃亡を始める。だが無駄なことだ。

 

「なんでだよ……なんで全部こっちに向かってきやがる!?」

「忘れたのか? あれらは全て俺の御札だ。制御ぐらい、造作もない」

「ち、ちくしょォォォォォォォォオオオオ!!!」

 

  やがて、御札の一つが鬼の背中を切り裂く。その痛みで動きが止まった瞬間、もはや避けようもない量の青い刃が、辺りを光で染めながら降り注いだ。

 

「さて……汝に耐え切れるか? 我が不滅の刃を!」

 

  芝居かかった口調で叫ぶと同時に光の大剣の柄を両手で強く握りしめる。すると、光剣は、輝きを増すとともにさらに巨大化を果たした。

 

「滅べェェェェェ!!!」

 

  もはや光で何も見えない鬼の体を、青光の大剣が全てを打ち砕いた。

 

  それは、凄まじいと表す以外言いようがなかった。

  無数に降り注ぐ光はやがて、大剣の衝撃で圧縮していきーー一気に解き放たれ、青の柱が夜の空を貫いた。

 

「……うぐっ、もう今日は戦いたく、ねえぞ……!」

 

  体中の霊力が枯渇し、地面に倒れる。

  そしてその言葉を最後に、俺の意識は闇に沈んでいく……。

  そして、俺の人生最大と思われる殺し合いは、幕を閉じた。

 

 

 ♦︎

 

 

「グッ、ゴホッ、ガハッ、ごグッ……! ちくしょう! あの野郎絶対ぶち殺してやる……!」

 

  楼夢が気を失った地点から一キロほど離れた場所。そこでは、全身を血で染め、ふらつきながら歩く鬼の姿があった。

  鬼は、とある一方向目指して、文字通り命を削りながら歩いていく。そこは、攫った少女が拘束されている場所だった。

 

「グッ、ハァハァッ……あいつには女共がいたはずだ……。そいつらを人質にとって、今度こそあいつをーーーー」

 

「その必要はないぞ?」

 

  不意に、闇の奥からそんな声が聞こえた。

  聞き覚えのある口調で、見覚えのない雰囲気を放ちながら、それは姿を表す。

 

  赤い髪に着物。頭には二本の見事な角が生えており、夜の雰囲気に相まって妖艶な姿を月明かりの下に表す。

 

  鬼の頭領、鬼城剛が、そこにいた。

 

「き、鬼城剛……っ!?」

「ほう?」

 

  直後、鬼の体に強烈な衝撃が加わり、地面に叩きつけられる。

  大きな体から、か細い悲鳴があがった。

 

「誰がワシの名をフルネームで呼んでいいと言った?」

「も、申し訳ありません……でしたっ」

 

  腹の痛みをこらえながら、苦しそうに謝罪する。

  それを見て剛は「まあいい」とつぶやき、森の方を見ながら、目も合わせずに鬼に問うた。

 

「さて、ワシがなぜここにいるのか分かるか?」

「あ、あの人間との決闘のことですか!? しかし、あれは神聖な鬼の儀式! たとえ頭領様でも、邪魔はーーーー」

「ほう、お主は手下の妖怪を呼び寄せ、決闘途中で逃げかえり、あまつさえ人質を取ろうとするのが鬼の儀式じゃと?」

 

  瞬間、辺りの気温が急激に下がる。周りの空気が重くなっていく。

  剛は、完全にキレていた。

 

「はっきり言わせてもらうが、ワシが今回来たのは貴様を処分するためじゃ。誇りを失ったお主はもう、鬼でもなんでもない。そしてさらに、お主はワシをイラつかせた。この意味が分かるか?」

「ま、待ってーーーー」

「ーーーー死ね」

 

  その一言の後、放たれた拳が、鬼の体を消し飛ばした後、地面に衝突し、もはや災害と呼ぶ他ないクレーター跡が残った。

 

  ひょうたんに入れていた酒をグビリと飲むと、小さくため息をつく。

 

「ハァ、あいつのせいでワシの休日が台無しじゃわい。八雲紫よ、今回のことは感謝するが、また面倒ごとを引き込まないで欲しいのじゃ」

 

  返事は、ここから聞こえない。

  だが、剛のライバルを見るような目から察するに、あまりいい返事をもらえなかったらしい。

 

  歪んだ空間が目の前に開く。そこに入って、剛は己の()()にある屋敷に帰宅していくのであった。




「十月なのに最近暑い日が続きますね。おかげで自分は体調を崩しました。いつも病弱、元気0倍の作者です」

「お前は寝不足が原因だろうが。学校の集会に行くと、クラス内で必ず誰かしらが寝る。狂夢だ」


「なあ、最近思ったんだが、神楽って楼夢に比べて頑丈すぎじゃねえか?」

「というと?」

「いや、神楽は手の握力だけで木を握り潰したり、鬼の腹筋を貫いたりしてるし、霊力を纏ってないくせにめっちゃ力強くねえか?」

「まあ、よくそこに気がつきましたね。神楽さんは楼夢さんに比べてパワーと頑丈さは人一倍高いです。ただ、楼夢さんの場合、霊力を使えばそれ以上のことができるのであまり問題はないですが……」

「ま、過去に妖怪の山に拳で穴空けたことがあったからな」

「ちょうど剛さんとの戦闘の時でしたね。懐かしい」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。