東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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ただいま、と一人呟く

おかえり、という声が聞こえた気がした


by火神矢陽


西洋大陸への帰還、そして大炎上

  ザァァァッ! 波が押し寄せてくる音が聞こえる。

  鳥たちは太陽の下、まるでダンスのように優雅に飛んでいる。

  水は日の光を受けて輝き、それを魚たちは浴びながら、海を跳ねる。

 

  そこを突っ切る、木製の人工物。よく見れば船のようで、そこに二人の人物が乗っていた。

  金髪の少女は床でごろりと寝転がっている。もう一人の白髪のハンサムフェイスな少年は、先頭で仁王立ちをしていた。

 

  そのハンサムフェイスな少年とは、もちろん俺こと火神矢陽。寝転がってスヤスヤと寝息を立てている身長145から150の少女は、俺の武器(相棒)のルーミアだ。

  現在、俺たちは船に乗っている。ちなみに作られた場所は白咲神社である。材料持ってあそこに届けて金を払ったら、三姉妹の一番下の舞花が作ってくれた。本人曰く、暇つぶしにちょうど良かったとのこと。

  あの三姉妹は、それぞれ楼夢の特徴をよく引き継いでいる。長女の美夜は特に剣術に秀でていて、その技量は剣術だけなら俺と中々の勝負ができるほどだ。

  その下の清音は妖術、霊術、魔法など。とにかく術式関連のことならなんでも得意だ。楼夢のようにポンポン新しい技を作り出すのも引き継いでいて、戦闘のバリエーションなら姉妹の中で一番豊富だ。

  そして一番下の舞花。彼女はちょっと特殊だ。彼女は刀はもちろん扱うこともできるが、両手剣、斧、槍など、様々な武器も同じほど上手く使うことができる。術式も似たようなものだ。

  いわゆるバランス型というやつだろう。だが、剣術も術式もどちらかの姉妹よりは弱い。だが、それ以上に、彼女は鍛冶から建築などという、楼夢の明らかに無駄な才能まで引き継いでいたのだ。

 

  その彼女に頼んで作らせたのがこの船。最高速度で俺が無理やり加速させても壊れないように、見たこともないほど頑丈に作られている。

  目的の大陸まであと何日かかるだろうか。嵐が来なければ幸いなんだが……。

 

「そもそも、なんで船なんか作ったのよ? 普通に飛んでいった方が速いと思うのだけれど……」

「それだと釣りができないだろうが! 俺はな、釣りがしたかったんだよ。この海の真ん中で、釣りがしてみたかったんだよ! その気持ちが、お前に分かるか!?」

「いえ、全然」

「酷いな!? ……まあ、金はたっぷりもらえたから良いんだよ。まさか中国の王があれほどサービスしてくれるとはな」

 

  など言いつつ、竿を振るい、餌が取れることを願う。

  今のところ、取れた数はゼロ。このポイントでかれこれ数十分は釣りをしているので、場所が悪いのだろうか。まあ、そろそろ釣れてもいい頃合いだろう。

 

「あ、釣れた」

 

  後ろで数分前に起きたルーミアが、そんなことを口にする。そして後ろで響く、ピチピチ音。

 

「あ、また釣れた。釣りって案外簡単なのね」

 

  ピチピチピチピチピチピチ。

  俺の耳に、うっとうしい雑音が入り込んでくる。ちなみに俺の竿にかかった魚は相変わらずゼロ。

  ……うん、うすうす気づいてた。

 

「チックショォォォッ!!」

「うわ、ちょっ、どうしたのよ?」

 

  輝く海に釣り竿をフルスイングでインさせる。弾けた水しぶきが、俺の涙を表しているかのように感じられた。

  知ってた。知ってたさ。俺が戦闘関連以外のものになると全く役に立たないことは!

  でもさ! やってみたかったんだよ! やってみたかったんだよ釣りを!

 

  だから、だからさルーミアさん。お願いだから俺をそんな需要の無くなった生ゴミを見るような目で見つめないでくれ。

 

「相変わらず火神って戦闘以外だと役に立たないわよね」

「俺だって努力してんだよ! でもイライラするとついぶっ壊したくなっちまうんだよ!」

「……ダメだこりゃ」

 

  ルーミアのダメ押しの言葉が俺の胸に突き刺さる。これも全部釣りがしたいなんて言った過去の俺のせいだ。そしてついでに船に乗ることになった西洋大陸のせいだ。

  こうなったらヤケだ。船の後ろに魔法を発動。どんなノロマな船でもトップアスリートクラスになれるような、爆炎エンジンを搭載した。

  音速をも超えそうな速度で、俺の『炎のタイタニック』(今名付けた)が唸りをあげる。

 

「きっ、キャァァァァッ! 落ちる落ちる死ぬぅ!」

「ハッハァッ! 全速前進だァ!」

 

  その言葉に返事をするように、船が海を割りながら加速した。

  そして船が通ったところが次々と爆発していく。確か水蒸気爆発だったか。

  とにかく、後ろの被害がヤバイことになっているが、確実に西洋の大陸に近づいてきている。これなら今日には着けそうだ。

  流石、俺の『炎のタイタニック』。どこかの地獄の船頭が聞いてたらクレームが来そうな名前だが、無視無視。

 

 

  そんなことがあって数時間、俺の目には巨大な大地が映っている。

 

「ただいま。千年以上も空けて悪かったな。ようやく、帰ってきたぜ」

 

  そして俺たちはついに、西洋の大陸にたどり着いた。

  そして、もう二度と船に乗るもんか、と心の中で誓うのであった。

 

 

 ♦︎

 

 

「へ〜、ここが西洋の大陸の街なんだ。あっちとは随分違うわね」

  「ああ、当たり前だが俺がいた頃よりもはるかに発展してるな」

 

  石造りの大通りの通路を二人並んで歩く。

  今、俺たちは西洋の人間の街の中にいた。長らく東洋の文化を見ていたので、家の一つ一つが珍しく映っている。

  ちなみにここが西洋のどのあたりかと言うと、大雑把だが俺が昔仕事をしていた国らしい。言語が生まれた時に最初に覚えたものと同じなので、おそらくこの国は俺の故郷でもあるのだろう。

 

  ちなみに、今の時代を日本で言うと、戦国時代と言うらしい。全国の大名が大乱闘するという、大変カオスな時代になっているようだ。

  さて、戦国時代と聞いてわかったかも知れないが、俺が晴明と別れてからすでに百年以上も時が過ぎている。なぜこんなに時が経っているのかと言うと、玉藻前の尻尾を売りに中国、そして討伐した証拠品を持ってインドに行ったら、両方の国で英雄扱いされて思ったより長く滞在してしまったのが原因だ。まあ、百年ではちきれるほど金を三ヶ国で稼ぐことができたので、良しとしよう。

 

  俺たちが歩いている横を、馬車が通り過ぎる。

  ここには団子屋なんてものはないので、仕方なく店で買った値段以上にマズイ黒パンを買った。

  ルーミアが苦い顔をしながら、パンをボリボリと嚙み砕く。どうやら庶民は今俺が食べるフリして口の中で燃やしたパンを主食に食べるらしい。おかげで普通のパン屋には、あれ以外のまともなものは置いてさえいなかった。

  今度日本に戻ったらこいつに団子たらふく食べさせてやろうと、隣で同じように魔法で手の平の黒カスを消し飛ばした彼女に誓うのであった。

 

  そうこうして数十分、歩いていると、遠くから赤や金の色で装飾された豪華な馬車が近づいてきた。それと同時に、大通りにいた平民たちが一斉に頭を下げ始める。

  それを不思議に思いながら端っこを歩いていると、馬車が近づき、俺たちの前で止まった。そして、誰かがそこから降りてきた。

 

  出来てきたのは、この大陸にいるオークと呼ばれる妖怪のような、丸い豚のようなデブだった。

  穴を開ければ飛んでいきそうなほど太ったそいつは、臭い息を吐き出すと、俺たちーーーー正確にはルーミアを、汚らわしい視線で眺めてきた。そして

 

「そこの女、中々美しい体をしているなぁ。気に入った。貴様を私の屋敷で飼ってやろう」

「……はっ?」

 

  ええっと……リピートプリーズ?

  なんか豚が意味不明なこと言い出したんだが。

  ヤベェ、非常にヤベェ。主人である俺だから分かったが、ルーミアの妖力が急上昇してやがる。

  豚さん逃げて! 超逃げて!

  だが、俺のそんな心の中の忠告を完全に無視して、豚さんはルーミアに触れようとした。だが、スルリとルーミアがそれを避けると、豚さんは顔を真っ赤に染めた。

 

「貴様、無礼だぞっ! この私の手を避けるなど!」

「誰が生ゴミあさったような臭い手に触れるのかしら? 飼育場にでも行って、豚と一緒に泥水で遊んでなさい」

「なんだと!? 平民の分際で生意気な!」

「豚の分際で生意気よ、あなた。おかげで臭いったらありゃしない」

 

  クスクスと口を手で隠しながら妖しげに笑うルーミア。分かっていたとはいえ、やっぱこいつ性格悪ィッ!

  おそらく口喧嘩だったら負けなしなんじゃないか? そう思わせるほどに、見事に相手を罵倒しながらペースを握っている。

 

「もういい、衛兵よ! こいつを鎖で縛り上げて連れて帰れ!」

「あら、最後は実力行使かしら? それはあまりおすすめしないわよ?」

「うるさい! 帰ったらすぐに壊してやるからな! 覚悟しろ!」

 

  そのあまりにもゲスな発言とともに、ガチガチのピッカピカなフルプレートを着た衛兵が四人ほど、ルーミアに近づいてきた。後ろの方に控えている分も合わせて、数十人はいそうだ。

  まあ、あまり関係ないが。

 

  衛兵がルーミアを拘束しようと、無用心に近づいてくる。女だと思って舐めているのだろう。だが、今回はそれが命取りだ。

 

「……あっそう。それじゃあ私も正当防衛と行こうかしら、ねッ!」

 

  グチャリ、という音がした。

  見れば、ルーミアの細い手が、衛兵の腹を貫通し、背中から腕を生やしていた。

 

「が、あァああぁぁああああ!!!」

「さぁて、心臓はここかしら? それとも……こっちかしら?」

 

  ルーミアは背中から生えた手を腹の中まで戻すと、内臓を手でかき混ぜ始めた。

  グチャ、ゴチャ、というグロテスクな音が鳴り響く。だがルーミアはそれさえも心に安らぎを与える鐘の音と認識して、衛兵の左胸にある内臓器官ーーーー心臓を、素手でえぐり抜いた。

 

「あ、あぁぁぁぁ……ぁ」

「酷い顔ね。来世の幸福を願って……いただきます」

 

  直後、衛兵の足元の影から飛び出した、黒い化け物が、彼を巨大な口で嚙み砕きながら、影の中へと引きずり込んでいった。

 

「ああ、つまんないわね」

 

  グシャリと、右手に持った心臓は捻り潰し、一人そう呟く。

  ……うわぁお……さすがルーミアさん。随分酷い殺し方をする。俺でもあんなことはしねえぞ。

  ちなみに俺の場合、腕で腹を貫いた後、そこから腕ごと燃やすな。俺は炎でダメージを受けることはないし、相手は体内から燃やされるという珍体験ができる。これぞまさに、一石二鳥。

  ……えっ? お前も十分酷いって? やだなー体内をかき混ぜられるよりはよっぽどマシでしょ。

 

  とりあえず、ルーミアのクッキング方法に衛兵、平民たちが顔を青ざめていく。あっ、豚が漏らしてやがる。酷っどい臭いだ。

 

「さて、次のお相手は誰かしら?」

「う、うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

  恐怖をごまかすように雄叫びを上げ、衛兵たちが突っ込んできた。

  だが、一つ速く、ルーミアが能力を発動。どこからともなく現れた黒い霧を纏うと、そこから針状の闇を大量にばらまいた。

  恐怖で冷静な判断ができない衛兵たちは、次々とそれに貫かれてゆく。直後、針から現れた黒い霧が、彼らを侵食し、物言わぬ屍と化していった。

 

  そこでふと、子豚ちゃんが逃げているのに気がついた。追いつくのに十秒もかからないだろうが、面倒くさいので放っておくことにしよう。

  そう思っていたのだが、ルーミアちゃんが何逃げてんだよ、という風に綺麗なモーションで針を投擲した。ソードスキル的に言うと、シングルシュートだろうか。

 

「火神ー、終わったわよー」

「はいはいルーミアちゃん、よくできましたー」

「わーいありがとー……って、頭撫でるな! 後何子供扱いしてんのよ!?」

「……まっ、魔女だっ! 魔女が出たぞぉぉっ!!」

 

「「……あっ?」」

 

  会話中に輝いていた笑顔が一転、お怒りの表情に変わる。

  そんな時、平民の誰かがそんなことを叫んだ。

  それを引き金に、そこに集まっていた全ての人間逃げ惑い、阿鼻叫喚と化した。

  そして、気づいたらここにいるのは、俺とルーミアだけになっていた。

 

「……いなくなっちまったな」

「困ったわね。これじゃあ食料を買えないわよ」

「自炊するしかないな。てことでルーミア、料理は任せたぞ!」

「はっ? ちょっと、私も料理なんかしたことないんだけど!?」

「大丈夫だ、君ならできる。俺を信じろ!」

「一番料理できないやつを信用できるか!?」

 

  俺がグッと親指を立てると、すかさずルーミアが突っ込んだ。

  それにしても、本当にどうしようか。楼夢がいた時は、料理は全部あいつとその娘がやってくれたため、俺たちは何もしていなかったのだ。

  ちくしょう、惜しい人材を亡くした。いっそ今から地獄にでも無理やり乗り込んであいつに料理教わろうかな。

 

  今後の問題を一生懸命考えつつ、俺たちは人が消えた大通りを歩いていった。

 

 

 ♦︎

 

 

「「「魔女に死を! 悪魔の眷属に死を! 魔女に死を!」」」

 

  そして現在、俺たちの前には大量の人間が集まっています。

  夜の街いっぱいに広がる、人間の群れ。

  主に平民が大多数を占めているが、中には衛兵の姿もある。

  実に八百、九百の街の人間が、俺らの目の前に集合していた。

 

  彼らは鎌や鋤などの農具を武器として抱え上げていて、それを持っていないものは松明などで辺りを照らしている。

  衛兵も百単位でいるらしく、おそらく仲が悪いであろう貴族と平民が、この時ばかりは手を取り合っていた。

 

  さて、こんな場面に遭遇した俺たちのやることは一つ。

 

「逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ええっ!?」

 

  全速前進。魔女狩りの連中に背を向け、脱兎のごとく走り出した。

  ルーミアが驚いた声をあげたが無視する。

  ちらりと後ろを見ると、連中が怨念に取り憑かれたゾンビのごとく、一斉に追いかけてきた。

  怖ェェェェ! 怖すぎんだろこれ!

 

「……ねえ、火神」

「なんだっ、ルーミアっ! 話してる暇があったらさっさと……」

「なんで私たち逃げてるのかしら?」

「……はっ?」

「あなた自分の実力考えてみなさい。どうやったら負けるのよ?」

 

  逃げつつ、ちらりと後ろを見た。

  相手は九百の平民アンド衛兵。こっちは伝説の大妖怪。

  ……あっ、負ける要素ゼロだわこれ。

 

  急ブレーキすると、Uターンして、人間の群れにダッシュ。そのまま突撃した。

  『スピキュールインパクト』、灼熱の炎を体に纏うと、左脚で地面を蹴り上げ飛ぶように加速した。そのまま赤い隕石と化した拳を、人間の壁の真ん中に叩き込んだ。

 

  直後、赤い閃光が、数百の人間の群れを貫いた。街道は一気に建物とともに溶け去り、加速した閃光が、向こうの山を蒸発させた。

  もちろん、赤い閃光に直撃した人間たちの被害はそれ以上に酷い。隕石に直撃した人間はもちろん、それが通った後に発生した灼熱の炎の波が、3分の2の人間を蒸発させた。

 

  そう、小さくないはずのこの都市は、実に一撃で都市としての機能を失ったのだ。

 

「うわお、さすがの一撃ね。なんであれに直撃して楼夢のやつは生きてたのかしら? まっ、火神が()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()

 

  ルーミアは人間たちにとって、実に恐ろしい発言を、軽い言葉のように話していた。

()()()()()()()()()、つまり、この都市破壊をたやすくなした一撃は、あくまで個人に放つための技なのだ。

 

「いやぁ、スカッとするねぇ。最高に気分が高まってきたぜッ!」

 

  崩壊する建物の奥にいる、満身創痍で生き残った人間を見ながら笑う。

  そうだ、いいことを考えた。俺の考えを妖魔刀としてのパスで読み取ったルーミアは、能力を発動させる。今の時刻は夜。大量に溢れた闇を圧縮させて、巨大なロングボウを作り出した。

  それを俺は受け取ると、片方の手に緑色の妖力で作られた剣『ストームブリンガー』を生み出した。そして矢のように弓で引き絞ると、建物の奥の人間たちの上めがけて、思いっきり解き放った。

 

  緑の弧を描いて、剣は飛翔する。そして人間たちの上にたどり着くと、爆散して無数の光の槍となり、地上を穿った。

 

  再び訪れる、地獄の光景。初撃よりも被害は小さかったが、いずれにせよそれが範囲内の人間をほぼ全員死に追いやったのは変わりなかった。

 

  「そろそろ止めにでもしようか。ルーミア、俺の中に戻れ」

 

  その言葉を聞いて、ルーミアが黒い闇の塊と化して、俺の胸の中に吸収された。ルーミアは俺の妖魔刀なので、俺自身の体内に収納することも可能なのだ。ちなみにもう一人の妖魔刀使いの楼夢がそれをしないのは、単に腰に差していた方が格好いいから、という理由らしい。

  正直、あいつの妖魔刀の形状が羨ましい。こっちなんてバールだぞバール! 鞘なんかあるわけねえだろ!

  まっ、その代わりうちの妖魔刀は勝手に歩いてくれるので、便利ではあるが。

 

  ルーミアの収入した後、俺は街の中心の空に飛翔した。

 

  改めて下の光景を見る。夜の街はあちこちに火の手が上がっており、無事な建物は一割もない。まさに街の終わりを体現したかのような状態だった。

  その中で浮かぶ、人間たちの恐怖。 彼らは泣き叫び、この現象を引き起こした魔女を心の中で何十何百回も呪った。

 

  ま、それで死ぬんだったら苦労しないわけで。実際にはその祈りは俺にはなんの障害も与えていない。むしろ力が湧いてくるようだ。

  俺は理性的(?)だが、一応は妖怪だ。人の恐怖などの感情の近くにいた方が、気分は断然良くなる。

 

  ふと、数少ない建物の中で一番大きい、教会が目に映った。そういえば、今回の騒動の原因を、最初逃げてる時に適当な人間から魔法で読み取ったところ、教会が俺たちを魔女認定したのがわかった。

  つまり、彼らは教会のせいで苦しんでいるわけで、その教会をぶっ壊せばみんなも浮かばれるということだ。誰かが聞いたら『絶対違う!』と言ってきそうだが、俺がそう思ったからそうなのだ。そうに違いない。

 

  ということで魔法発動! 手のひらにバスケットボールサイズの赤い球体を作り出します。この球体は超高温の炎で作られていて、着弾と同時に広範囲にはじけとぶ特性をもたせております。

 

  では、シュート! ひゅるるるると炎球が教会に落ちたかと思うと、数秒後、大爆発を起こして建物が建っていた山が吹き飛んだ。

 

  ああ、山ごと消し飛ばしてしまった。やつらは初撃の余波を、大量の結界を張ることで防いだらしいが、余波を防ぐので精一杯なくらいじゃ、俺の魔法は防げない。今ごろ瞬間的に太陽と同じ温度と化した炎によって蒸発してるだろう。南無三。

 

『ねえ、火神。これ思ったんだけど、絶対後で面倒くさくなるわよね?』

「へっ?」

『こんなに街壊しといて、私たちが今後別の街に入れると思ってるのかしら?』

「だ、大丈夫だっ」

 

  ルーミアの正論に、思わずたじろぐ。

  だが、その時俺は天才的な発想に至った。

 

「街ごと俺たちの証拠を消せばいいんだよ!」

『……バカだこいつ』

 

  うるさい! 超規模魔法陣展開。街を包み込むように、赤い魔法陣が、重なって三個、空にいる俺と街の真ん中に描かれた。

 

  そこからさらに能力を使用する。『灼熱を操る程度の能力』。普段は土地破壊が激しくて本来の用途に使わないのだが、今回は楼夢戦以来にフルパワーで発動した。

  それだけではない。俺の頭上に五芒星の魔法陣が展開される。そこを中心に集うように、一匹で街と同じくらいの長さの灼炎で作られた竜が、九匹現れた。

 

  そして数秒後、俺は魔法陣に刻まれた究極の魔法、『極大五芒星魔法』を解き放った。

 

「極大五芒星魔法『ムスペルヘイム』ッ!!」

 

  直後、九つの灼炎竜が一斉に三つの魔法陣を通過しながら融合し、九つの頭を持った文字どおりの街サイズの、二つの翼を持ったドラゴンへ生まれ変わった。

  轟音の雄叫びをあげながら、炎のドラゴンは地上へ飛び込みーーーー

 

 

 

  ーーーー街どころか、近くの山々、果てには隣の町々を、灼炎の波が吞み込み、全てを無に帰した。

 

  そしてそれが、西洋最強最悪の大妖怪、灼炎王の火神矢陽の帰還を知らせる引き金となった。

 

 




「どーも、最近スラもり3のドラクエを買った作者です」

「そしてそれを三日でクリアした馬鹿野郎を見ていた狂夢だ」


「とうとう火神さんが西洋に到達しました」

「そして相変わらずの土地破壊っぷりだな。極大五芒星魔法って強すぎねえか?」

「いや、まあ威力と範囲だけならこの小説の中で最強の魔法ですからね」

「あくまで魔法の部類で最強ってだけで、一撃なら剛の方が上だからな」

「技術とスピードの楼夢さん、超広範囲の破壊、消滅担当の火神さん、そして範囲はないものの、一撃必殺の剛さんがそれぞれの伝説の大妖怪の特徴です」

「楼夢がその中で最強だったのは、作者ですら把握しきれない量の技を使い分けることによって、広範囲も高火力も両方使えてたからだな。その分、打たれ弱さでは普通の大妖怪にも劣るけどな」

「話は脱線しますが、今章は決して火神矢視点オンリーではございません。あと、時間の流れが川の流れのように早くなるので、ご注意ください」

「ちなみに気になったんだが俺の評価はどんな感じなんだ?」

「えーと、単体、多数どちらでも活躍できる超火力、紫さん以上にチートな能力が二つでマジふざけるな、というのが評価です。欠点としてはコミュ力がこの小説最弱、ということですね」

「コミュ力は関係ねえだろ!?」

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