東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
総合戦闘能力値
博麗楼夢(妖怪vr):5万
季節は冬、2月のことだ。
博麗が妖怪になってから数日、彼女はさらなる成長を遂げていた。
まず、妖怪になったことで大幅に強化された身体能力を、わずか半日で把握した。その次の日には、新しく手に入れた妖力をもう扱えるようになった。
その光景を見て妖力を扱えるようになるのに1ヶ月近くかかった楼夢は軽くショックを受けた。
これがリアルチートか、と内心つぶやく。
とりあえず、彼女は前のように体に無理して剣術の練習をすることはなくなった。おそらく十分な時間を得たため、心が軽くなったからだろう。
「いやぁ、一面銀世界だなぁ。でも死ぬ前に雪月花を見てみたいなぁ」
「年寄りみたいなこと言わないの」
「いや、俺十分お年寄りなんだが……」
俺の呟きに、紫がそう呆れたように答えた。どうやら彼女は楼夢の実年齢を忘れているらしい。
「はぁ〜あ」
年寄りなのに年寄りじゃないと言われ、軽くため息をついた。
吐き出した空気が白い息に変わって虚空に消える。
それを眺めると、グピリと酒を一杯飲む。
「それで、幻想郷とやらの調子はどうなんだ?」
「順調よ。あまりにうるさい奴らは片っ端から楼夢が片付けてくれたしね」
「ったく、最近の若い奴はもうちょっと老体をいたわれや」
「見た目私より肌すべすべで綺麗なんだから、我慢しなさい」
「……不幸だ」
幻想郷というのは、紫が作っている理想郷の名前だ。今じゃそれもかなりの規模を誇っていて、国一つと大差ない。
さらに、妖怪の山を中心とした勢力が揃っているため、反対派の争いが起きても、すぐに封殺できる。
要するに、幻想郷の防御は鉄壁となりつつあった。そんなわけで楼夢の出番も減ってきたが、まだ大妖怪クラスは楼夢が相手している。その方が被害を抑えられるというわけで、なんともまあ合理的である。
実に素晴らしい。……楼夢の負担が増えることを除けば。
「それでね、楼夢。最近ちょっと暇できたから私の友達を紹介しようと思うんだけど?」
「ブフォッ!?」
紫の突然の爆弾発言に思わず楼夢は酒を吹いてしまった。
「きゃぁっ! ちょっと! 汚いじゃない!」
「紫に友達だと……? 馬鹿な、そんなはずがない! 俺が知っている紫はコミュ障で友人なんて俺以外いなかったはずだ! ……まさか、幻覚……か?」
「はったおすわよ!」
楼夢が驚くのも無理はない。なぜなら先ほど楼夢が言ったことは全て事実だったからだ。そんなやつに急に「友達できました」と言われても、信じられるわけがない。
数十分後、紫が幻術か何かにかかってないのを確認すると、信じられないと言った表情で彼女を見つめた。
「いや、しかしまさかお前に友人ができるなんてな。おじさん感激だぜ」
「その顔でおじさんって言われても、違和感しかないんだけど」
女性としてはそこそこ高い背に、すらっと伸びる雪のような色の美脚。顔は絶世の美女と呼ばれた輝夜と同格で、明るい桃色の髪を長く伸ばしている。そんな美女が『おじさん』なんていうと、違和感だらけで仕方なかった。
「とりあえず! 今からその友達の家に行くんだけど、よかったら楼夢もどう?」
「そうだな。俺はお前の保護者にようなものだし、一回会っとくか」
「保護者ってなによ!? 私もう4桁普通にこえてるわよ!」
「やっぱりガキじゃねえか。9桁こえてから言え」
「無茶苦茶だぁ!」
涙目になりながらスキマを開く紫。ご丁寧に二つ開けてくれたようで、楼夢は近くに開いたスキマに飛び込んだ。
だが、その瞬間、紫が楼夢を見て笑っているのに気がついた。
「私をおちょくった罰よ。着いた先で反省しなさい」
「おい、紫! お前、これどこにつなげやがったぁ!」
必死の叫びも虚しく、その問いが音に出たのは楼夢がスキマに飛び込んでからだった。
そして、楼夢は、暗闇の中を垂直で落ちているような感覚に襲われた。
♦︎
数分逆さに落ちたところで、楼夢は石畳に勢いよく体をぶつけた。だが衝撃の瞬間に受け身をとり、なんとか怪我を未然に防いだ。
「紫のやろう……っ。落ちてる最中に演算装置の電源入れてなきゃ、今頃『足首をクジキマシター!』になってたぞ。見つけたら絶対とっちめてやる」
ブツブツ文句を言いながら、杖を使いゆっくり歩いていく。幸い石畳が続いてる方向に向かえば目的地にたどり着けるようだ。
だがここで問題が起きた。それは歩いて10分ほどだったことだ。
「な、なんじゃこりゃ……っ?こんなん登れるわけないだろ紫の馬鹿ぁぁぁぁぁぁあ!!」
あまりの理不尽に、楼夢は思わず叫んでしまった。
だが目の前に映る光景を見ればそれも仕方がなかった。
楼夢の眼前。そこには、天まで伸びる石作りの長い階段があった。
見上げてもどこまで続いてるのかわからず、それは六億歳のご老体の楼夢にとって悪夢のようなものだった。
「ああもう!いいぜ、受けて立ってやる!後悔すんじゃねえぞ紫ィィィィィィイッ!!」
雄叫びを上げながら己を打ち震わせ、楼夢は全速力で階段を駆け上がった。
目指すは階段の頂上。首を洗って待ってろ紫!
そんな格好いいことを口にして30分。
「し、死ぬ……っ。心なしか腰が痛くなってきたっ」
楼夢は完全に疲れ果てていた。今だに階段の頂上は見えない。
それもそのはず、楼夢は今演算装置の電源を切っていた。装置の機能なしじゃ杖がないと歩けない楼夢が、そもそも階段ダッシュすること自体間違っているのだ。
ちなみに紫はこのことをすっかり失念してしまっている。なので救助の可能性は限りなく低かった。
「はっ、ははははっ。ここまでコケにされたのは久しぶりだぜぇ。もういい、今度こそ本気でやってやらぁッ!」
電源のスイッチオン。
すると、体から大量の妖力が溢れ出てきた。
地面を踏みしめる。そして、思いっきりそれを蹴飛ばした。
瞬間、凄まじい風圧を体に受けたかと思うと、楼夢が先ほど歩いた距離の2倍の長さを、一気に飛んでいた。
果たして今までの頑張りはなんだったのだろうか?
そんな疑問が頭によぎったが、今はどうでもいい。
「ヒャッハーーーッ!! 俺は自由だ!」
まるで鳥になったような気分だ。先ほどの疲労も同時に飛んで行ってしまっている。
音速を超えた速度で、楼夢は階段の上を飛んでいった。
気がつけばもう頂上は目と鼻の先だ。ラストスパートに大きく飛び上がり、華麗にスライディングしながら石畳の上に着地した。
石畳は衝撃で吹っ飛び、小さなクレーターができたが気にしない。全ては紫が悪いのだ。
「さてさて、これは、なかなかいい景色だねぇ」
頂上の景色。そこには大量の桜の木が、均一に、石畳の道の隣に植えてあった。
今は冬で花はないが、春になったら一体どれだけの桜が咲き誇るのだろうか?
その光景を想像して見てみたい、と思ってしまった。
石畳の道を進むこと数分。とうとう目的地らしきところにたどり着いた。
そこは大きな屋敷だった。敷地内を塀で囲まれており、中心には大きな門が閉じている。
そしてそこに、一人の人物が立っていることに気づいた。
門前の人物は老人だった。銀髪で、白い和服の上に緑色のベストを着ていて、腰と背中に長刀と短刀の二本の刀を差している。一言で言えばダンディなおじ様だった。
そのあまりのしぶさに、思わず目を見開いて見とれてしまった。
「か、かっけェ……」
思わずそう呟いてしまう。
あれだ。楼夢が目指す活かしたおじさん像は。ああいう格好よさが、自分にも欲しいのだ。
そんなことを考えていると、楼夢に気が付いたのかおじ様が歩いてこちらに来た。
ま、待ってくれ! まだ心構えがっ!
「これ、そこの者。ここから先は立ち入り禁止じゃ。大人しく立ち去るがよい」
「ど、どーも。いやそれがそういうわけにもいかないんですよ。ここにおそらく友人がいるはずなので」
「友人……? 失礼だがその者の名は?」
「八雲紫なんだけど、心当たりある?」
「……そうか、貴殿が紫殿の……」
目の前でおじ様が楼夢の顔を覗くと、何やら小さな声で独り言をこぼす。何を言ったのか問いただそうとしたその瞬間ーーーー
「『現世斬』」
「っ!? あっぶねぇ!」
おじ様が突如襲いかかってきた。抜刀してからの突進で距離を詰め、長刀でダッシュ切りを放った。
だがそれを寸前で愛刀『舞姫』で受け止める。だが相手は突進しながら切りかかったため、勢いで後ろに弾かれた。
「おいおい何すんだよ! いくら格好いいおじ様だからって、やっていいことと悪いことがあるぞ!」
「いきなり切りかかったのは詫びよう。だがもしこの門を通るなら儂を倒してからにするのじゃな」
「腕試しってやつかよ……。まあいい、縁結びの神の白咲楼夢だ」
「幽々子様の剣術指南役兼この屋敷の庭師、
互いに自己紹介をすると、二人の姿は既にそこから消えていた。
刀と刀がぶつかり、火花が散る。しばらくつばぜり合いで睨み続けた後、両者は同時に距離をとった。
「無駄がない動き……相当な手練れじゃな」
「こっちこそ驚いたよ。まさか現段階で弟子より強い剣使いがいるとはな」
互いに賞賛し合うと、再び構えた。
直後、激しい斬り合いが始まった。
妖忌が長刀を振るったかと思うと、いつの間にか楼夢が防いでいて、さらにカウンターを放つ。それをさらに予測して、妖忌が受け止め、反撃する。
両者一歩も退かずに、その光景をビデオ再生したかのように繰り返す。だがそのここでその均衡が崩れ始めた。
「っ、ぬぅッ!」
妖忌の体を、すれすれに刃が通り過ぎた。妖忌が苦しそうに声を出す。
妖忌にとって厄介なのは、時たま楼夢が混ぜてくる変則攻撃だった。
低く潜り込んだかと思ったら、その場で3回転し回転切りを放ったり、剣術かと思いきや体術を混ぜた攻撃が来るなどなど……。
とにかく、妖忌は楼夢の動きを今だ読みきれていなかった。これが変則の回転切りだけだったらよかったが、専門外の体術を混ぜられてはお手上げだ。読みようがない。
「『冥想斬』ッ!」
「『神羅万象斬』」
密着しているのを利用し、妖忌は長刀ーー楼観剣に妖力を込める。すると、刀身が伸びて緑色の光の刃が出てきた。
それを、妖忌は振り下ろす。この距離では避けれる距離ではない。
だが、楼夢も刀に霊力を込めると、青白い斬撃を放ち吹き飛ばしてしまった。
一瞬の硬直。それが、楼夢のオープニングヒットにつながった。
空いた左手で、妖忌のがら空きの妖忌の胸に掌底を叩き込んだ。
「ぐ、ぐはっ!」
腹の中の空気を吐き出しながら妖忌が地面に吹き飛んだ。だがそれだけでは致命傷にならないようで、すぐに立ち上がってみせた。
すると、妖忌の雰囲気が急に変わった。腰に差してあった短刀を引き抜いたことからやっと全力を出すようだ。
「中々やりますな。だがここで退いたら剣士の名折れ。次の一手で全てをかけましょう」
そう言うと、二つの刀に妖力を込めながら鞘に収め、抜刀の構えをとった。
「雨を切るには三十年、空気を切るには五十年。では、時を切るには何年かかるかご存知かな?」
妖忌が意識を集中させる。その凄まじさに収めた鞘から妖力が溢れ出てしまっている。
「答えは……
瞬間、楼夢の視界に咲いてるはずがない桜の花びらが映った。
妖忌が刀を抜刀してーーーー、
「剣技『桜花閃々』」
凄まじい速度の斬撃の嵐とともに、突進してきた。
構えは『現世斬』に似ているが、それは一振りするだけで桜の花びらが舞っているかのように錯覚するほど、速く、そして美しく斬撃の舞だった。
だが、それで驚愕したのは妖忌であった。
「なっ!?」
桜吹雪が舞う。だがそれは楼夢に傷をつけられずにいた。
何か特別なことをしたわけじゃない。
楼夢は妖忌の『桜花閃々』の突進速度に合わせながら同時に退がり、剣の速度に合わせて全ての斬撃を受け流したのだ。
やがて、全ての斬撃が終わり、妖忌の動きが一瞬止まる。
「雨を切るには三十年、空気を切るには五十年、時を切るには二百年かかると言ったな。では、
今度は楼夢が抜刀の構えをとる。その鞘からは禍々しい黒の妖力が集中し、溢れ出ていた。
もちろん妖忌も黙っていない。技後の硬直が切れ、次の奥義の型をとった。
「答えは、
「うおぉぉぉぉおッ!!『未来永劫……」
「遅い」
妖忌の技よりも一瞬速く、楼夢が抜刀した。瞬間、辺りが黒に染まった。
「楼華閃九十七『次元斬』」
いつ切られたのかはわからない。気付いたら、妖忌の体には周囲の景色を巻き込んで一筋の黒い線が描かれていた。
直後、線の周囲の景色がガラスが割れたかのように崩れ落ち、妖忌は血を吹き出しながら気を失った。
ゆっくりと、舞姫を鞘に収めた。パチンという音だけが、あたりに静かに響き渡った。