炎の吐息と紅き翼   作:ゆっけ’

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6:変転

「納得いかねぇ」

「んな事言われても……」

 

 天変地異も裸足で逃げ出しそうな力と力の衝突から、既に十分あまりの時が過ぎた機械浜国立公園。今はラストの勝負で出来た底の見えない大穴の脇に両チームとも集合し、倒れていたリュウとナギを起こして結果を伝えた所である。お互い全力を尽くした最後の勝負は、力の使い過ぎによる二人同時の気絶という形で決着と相成った。

 

 即ち、引き分けだ。

 

 魔力と龍の力の使い過ぎで、放出していた力が途切れたのは全くの同時。例え一秒間に一万コマを映し出すスーパースローカメラであろうとも、どちらが先に力の放出を止めたか判別出来ない程の同時である。時間内に決着を着けるつもりだったが結局引き分けに終わってしまい、何とも締まらない結末を迎える事になったリュウ達であった。

 

「うわ、これ相当深そうねー」

「公共の場だと言うのに……さてどうしたものか……」

 

 大穴を覗き込んでいるモモと、その対処に頭を悩ませる苦労人・詠春。今、両チームの間に戦っていた時の様なギスギスした空気は全くない。さっきの敵は今の友。実際に拳を交えてお互いの力を認めあった両チームのメンバー達は、まるで幾千幾万の言葉を交わした知人同士であるかのように、自然な形でうち解けあっていた。むすっとしているのはナギだけである。

 

「気絶したのは俺もナギも同時らしいし、そこは納得するしかないじゃん」

「……ちげぇ」

「違うって……何が?」

「それもだけど、それだけじゃねぇ。オレが納得いかねぇって言ってるのは……」

 

 この目の前にある大穴を作った犯人の片割れであるナギは勝負中の上機嫌から百八十度転換し、あからさまな不満を表明していた。イライラしている原因は、てっきり“引き分けという事柄”に対してだとリュウは思ったのだがどうやら違うらしい。そして次にナギの口から出てきた言葉で、リュウは少しだけ固まる事になった。

 

「リュウてめぇ……何で最後“変身”しなかった」

「……」

 

 ギラリと飛んでくる鋭い視線。そう、ナギは期待していたのだ。今出来る全力と言うならば、リュウは必ずあのドラゴなんたらを使ってくるはずだと。一月前にフォウルの空間で見た変身後のリュウの強さは、明らかに神皇フォウルと同等の域だった。修行して素の状態でこれほど強くなったのなら、当然変身後の姿もあの時よりさらに強くなっている筈である。ナギは勝負の最後に、その力の程を見たかったのだ。

 

「……」

「……」

 

 結果としてリュウは三体同時竜召喚という切り札を披露し、見事ナギと引き分けて見せたのだが、それではナギは満足しなかった。変身していたとしたら、とても高い確率でリュウが勝っていただろうと思えるからだ。そこまでは良かったのに、最後の最後で水を差された気分になっていた。

 

「……」

「どーしたよ、なんとか言ってみろよ」

「まぁまぁ。リュウにも何か都合があったのではないですか?」

 

 やれやれと困った風にリーダーを宥める、空気の読める(けど普段は読まない)男、アル。普段ならばそれでナギの怒りも引っ込むのだろうが、しかし流石のアルも勝負事には妥協しない興奮気味の戦闘狂を留めるには、少し力不足のようだ。

 

「都合だぁ? じゃあその都合の中身は何だってんだよ」

「……」

「リュウ!」

「…………。力試し、って事じゃ駄目?」

 

 リュウの反撃。こう言われてしまうと、ナギは“ぐっ”と呻いてそれ以上追及出来なかった。何故なら自分も変身後のリュウ相手に、同じ事をしようとしていから。自分に対して同じ事を考えてたから変身しなかったと言われたら、ぐうの音も出ない。けれどもやっぱり最後の最後でリュウがワザと手を抜いたような気がして、ナギのご立腹は中々収まりそうもないのだった。

 

「ん、あんまり“変身”はしたくないって事で、そこは納得して貰えない?」

「……」

 

 地べたに座って平静を装いつつ、愛想笑いで適当な言い訳をするリュウ。すると色々と悩んでいるその頭に、聞き慣れた相棒の声が飛び込んできた。

 

≪よぅ相棒、体はどうでぇ≫

≪ん、大丈夫。普通に疲れてるだけ≫

≪そうかい。相棒もつくづく頑丈だなぁ≫

 

 ボッシュの労いにも問題ないと返し、リュウは念話を打ち切って少し思考の海に浸る事にする。先ほどナギに言った“力試し”というのはまるっきりの嘘……ではないが、それだけという訳でも当然ない。今の勝負で最後まで“変身”をしなかった事には、もっと別の理由があるのだ。

 

「……」

 

 違和感を覚えたのはドヴァーとの修行の最中。彼の要望に答えて、改めてドラゴナイズドフォームになった時の事。……その時、リュウは変身しても自分の内部で力が暴れるような、いわゆる“暴走”の気配が無くなったと感じた。それだけなら単純にメリットと言えるかもしれないだろう。しかし、そんな虫の良い話は世の中にある筈もない。エネルギー保存の法則の様に、“暴走”という現象は別の形となってリュウを襲い始めたのだ。

 

 変身した際に一度に意識を奪おうとするのではなく、まるで川の流れが山を削る様にゆっくりと。“何か”が、リュウの意識に侵食してくるようになっていた。これこそが、最も大きい“近く”なった事による影響であった。そしてその浸食してくるのが何であるのかを、リュウは知っている。それはリュウが初めて変身した時に、暗闇の中で対峙した“アイツ”だ。リュウはその時感覚的に、自分は“アイツ”に“近づいている”のだという事を理解してしまったのだ。

 

 思い返せば以前からリュウは、“変身”を使いたくないと思う事が度々あった。最初から変身していれば、あっさりと片付いた事柄だってあっただろう。でも何故か、ギリギリまでそうしようとしなかった。その時は、リュウは変身する所を見られたくないとか、暴走したらヤバイからといった理由を、頭の中で考えていた。

 

 しかし、真実は違った。リュウはようやく悟ったのだ。本当は、そう言った理由を考えていたのは表層意識の部分のみ。深層にある第六感的な部分では、リュウは変身を行い続ける事でこの“意識への侵食”という事象が引き起こされる事を、本能的に恐れていたのだ。

 

「……」

 

 只の思い過ごしならば良かったが、厄介な事にリュウには実感がある。それは自分の昔の記憶について。時間の経過での記憶の薄れとは違う。その部分だけが何かで上書きされていくような不快感。浸食された事で、昔の記憶が消えていく。引いてはそのうち、今居る“自分”さえもが“アイツ”に塗り潰されてしまう気がして――――

 

 リュウは、それが怖い。

 リュウは、ヒトでありたい。

 だから、なるべくならもう安易に変身したりしたくない。

 それが、リュウがこの場で変身を使わなかった理由だった。

 

 尤も、言い訳というならば他にもある。今の変身したリュウの力は、ハッキリ言ってとてつもなく強大だ。“竜変身”は試していないが、どれ程の域に達しているのか最早想像すらつかない。そんな立場になって、リュウはドヴァーやフォウルが隠居生活をしている理由を良くわかってしまった。この力は、簡単に世界を左右出来てしまう力なのだ。そんな物を多数の見物人の前でポンポン使ったらどうなる。大きな力には、それ相応の責任が伴う。自慢するように見せびらかすのは、馬鹿のする事だ。

 

「……」

「……」

 

 そう言った色々な思惑と言い訳を重ねて、リュウはもう本当に余程の事でも起きない限り、今後は“変身”という選択肢を選ばない事に決めていた。勿論この話は、リュウ自身しか知る者は居ない。今この場でベラベラ全てを語って心配させる気にはならないので、ナギには悪いが適当にはぐらかすしかないのだった。

 

「……」

「まぁほら、やっぱこういうのって普通の自分で戦ってこそ、じゃない?」

 

 ちなみにリュウとナギの最後の衝突劇は、衛星軌道上からでもしっかりと確認できる規模だった。大量破壊兵器もかくやという程である。おまけに他の面子も全力を出せば、これを少し劣化させた程度の爆発は起こせる訳で。今の状態でもリュウ達が集まれば、十分世界をどうこう出来そうじゃね? ……という突っ込みをリュウの頭に入れられる人間は、残念ながら居ないのだった。

 

「……だめ?」

「……。あー……くそ、もういーよ。納得してねーし、ホントはよくねーけど、終わっちまったモンは仕方ねぇ。次はお前が変身しようが何しようが、絶対にコテンパンにしてやるからな!」

「……じゃあ俺もそうされないよう、努力する」

 

 ナギはずっと不満状態でいる事に飽きたのか、またもや態度をころっと変えた。からっと陰気な空気を吹き飛ばし、周囲の雰囲気を明るく変えられるのはナギの良い所である。威勢良く立ち上がろうとしたナギだが、消耗しているせいかプルプルと生まれたての小鹿の様に足腰が振えてしまい、すぐさまカクンと座り込んでしまった。彼にしては珍しく、格好を付ける余裕がそんなにないらしい。

 

「愉快だねぇ……」

「あーあ、それにしても、結局あたし達の負けかぁ……」

「……」

 

 二人のフーレン族の呟きが耳に入り、リュウは嫌々ながら今直面する最大の問題に目を向ける事にした。死力を尽くした勝負の結果は、一勝二敗一分けで炎の吐息の負けである。やはり天才集団との間にある壁はぶ厚いのだった。まぁ一カ月程度の修行でここまで喰らい付けたという事実は、十分称賛に値すると言っても過言ではないが。

 

「ふふふ……リュウ? あの約束の事、よもや忘れてはいませんよね?」

「ぐ……」

 

 リュウ達の負けであるからして、当然その後に待っているのは罰ゲームである。ボロボロローブを纏ったアルは、これ以上ない程に楽しげかつドス黒い笑顔だ。一体どのような非人道的な罰ゲームが課せられるのか。リュウ達は戦々恐々としながらも、潔くその言葉を待つ。

 

「そうですねぇ。チーム代表として、リュウに死ぬほど恥ずかしい二つ名を大声で名乗りながら、メガロの街を練り歩いてもらう。……というのととても迷ったのですが……」

「!?」

 

 腹の立つスーパーニヤニヤタイムを平然と披露するアル。候補を上げられただけで、想像力豊かなリュウは精神的ダメージを受けた。そんなリュウのゲッソリした表情を見て満足したアルはさらに勿体ぶり、大きく引きを作る。

 

「発表しましょう。あなた達への罰ゲームの内容、それは……」

 

 ゴクリ、と誰かが唾を飲む音が聞こえた。勝負中よりもむしろ今の方がアルは輝いているように見える。それに対し詠春はやれやれと額に手をやり、ゼクトはリュウ達に手を合わせて無表情に南無南無唱え、ナギは何が楽しいんだかと溜息だ。そしてイヤに静まり返ったその場に、ついに非情なる判決が下される。

 

「皆さんの人生を、私のアーティファクトに記録させて頂きたい」

「……はい?」

 

 気の抜けた声を出したのはリュウである。恥ずかしい二つ名の他にも女装かコスプレか。はたまた一生アルの奴隷扱いとか。それはもう人としての尊厳を踏みにじりまくる痴態を晒す事になるのかと想像していた。だからか聞かされた言葉は、そういう意味で予想の斜め上だった。

 

「えっと……それだけ?」

「ええ。安心してください。皆さんのプライバシーは私の誇りに掛けて守ります。記録内容は、私が個人的に楽しむだけに留めると約束しましょう」

「……」

 

 どうやらアルの言葉に嘘偽りは無さそう、と理解するリュウ達。漂っていた硬い空気が瞬く間に氷解し、安堵の溜息が幾つか漏れだす。人生の収集なんて悪趣味と言えば悪趣味だが、まぁ被害度的にそれくらいなら何も問題ない。少々恥ずかしいのは確かだが、ここはアルのプライバシー云々の言葉を信じるしかないだろう。それに炎の吐息の女性陣に至っては、渋るかと思いきやしっかりと頷き承諾している有様だ。その辺の男より、はるかに男らしいゼノ達である。

 

「まぁ今すぐにと言う訳ではありませんから、後日改めてあの城にお伺いするとしましょうか」

「え……」

「何か?」

「いや別に……」

 

 リュウが“また来んの?”という若干の抗議の視線を送ったものの、やはりアルには暖簾に腕押し、ぬかに釘であったとか。そういう訳でチーム間の簡単な事後処理も終わり、開けた大穴や酷くなった地形に関しては知らんぷりする事で意見は一致。“紅き翼”との対決という一大イベントを、リュウ達一行は何とか終える事が出来たのだった。

 

 そして、本日の予定はこれにて終了。今すぐにどうこうしなければならない事案も特になし。これで一応ナギとの約束は果たし、また借金の憂いも完璧に無くなった訳だ。晴れてリュウ達は自由の身である。時間的にはまだ昼だが、もう今日は城に帰ってマッタリしようかなーなどと、リュウは肩の荷が降りた事で非常に清々しい顔をして考えていた。が。

 

「んじゃ終わった事だし、あっちの魚野郎んとこ行こうぜ」

「! そうだった……そういやマーロックさん達の事すっかり忘れてた……」

 

 昨夜のビックリ来訪者であるミイナから聞いた話では、少なくともウィンディアの人達はこの場に来ている筈である。ならば挨拶もせずに帰るのは道義的によろしくない。なーんか他にも居そうだなーという妙な予感を感じるリュウ。そうしてリュウ達とナギ達は、“あそこまで強くなったなら、やっぱリュウに二つ名を付けるべき”という本人の嫌がる内容の雑談をしつつ、マーロック達の居る方へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 リュウ達の居た激闘の舞台から、それなりに離れた所にある来賓席。……だった場所。強固な魔法障壁が幾重にも張られていた筈のソコに、今現在障壁の姿は見当たらない。かなりの数の人間がざわざわしながらリュウ達とナギ達を見ていて、周りには日除けのサッシやらワインクーラーやら高級チェアーらしき物の残骸が散乱し、それはもう酷い有様である。

 

「ありゃ?」

「これって……」

 

 言うまでも無く、原因は両チーム激突の余波だ。戦いの最中に発生した爆風・衝撃・流れ弾。その全てに耐えていたマーロックご自慢の魔法障壁。しかしそんな障壁と言えども、流石に満身創痍の状態ではリュウとナギのとんでも勝負の余波に耐えられなかった。結局その場の殆どの装置は吹き飛び、ぶっ壊れてしまっていたのだ。

 

「大枚はたいて用意したモンが全滅ですわ。全く、あんたらにはほとほと呆れて言葉もないですな」

「すみません……」

「って、あんた意外と丈夫なんだな」

 

 心底呆れた表情でそう声をかけてくるマーロック。トレードマークのナポレオンハットも微妙に折れ曲がり、埃まみれだ。しかし怪我などは見られず惨状の割に人的被害は軽微で済んだのか、とリュウが疑問に思った時、ふとした事に気付いた。良く良く見れば、周りのガードマン役の鎧兵士達が一際汚れている。どうやら障壁が崩壊した後は、彼らが身を呈してこの場に居る大勢の人の盾となったらしい。何とも護衛の鏡と言うべき人達である。

 

「まぁとにかく、お疲れさんでしたな」

「どうも」

「別に、オレらはまだまだやれるけどな」

 

 お疲れと声を掛けられたのに、上から目線のおかげでどことなく腹が立つ。例によってその事はなるべく考えないようにするリュウ。そしてマーロックは挨拶もそこそこに、以前はまともに見ようとさえしなかったリュウ達全員の顔を、しっかり真っ直ぐに見据えていた。

 

「は……ん…………正直な所、あんたらが“紅き翼”に善戦するとはこれっぽっちも思ってませんでしたが……」

「……」

 

 歯に衣着せぬこの物言い。商いの世界でぶいぶい言わせるマーロックのふてぶてしさは、あれほどの力を見せつけたリュウ達を前にしても全く変わる事はないらしい。

 

「……しかし、あんたらに対するワイの評価が低過ぎた事は認めます。今日は中々ええモン見させてもらいましたわ」

「!」

 

 リュウ達にとっては初めて見ると言ってもいい、ニッ、というマーロックの僅かばかりの笑顔。儲け損ねた事へのストレス等は、あの派手な戦いぶりを見てとっくにすっ飛んでしまっていた。一応性格的に嫌味っぽく言ってみたものの、実はマーロックもそこまで怒っている訳ではないのだ。だが“あの”マーロックがそんな態度でリュウ達を褒めた事で、リュウだけでなくその他の面子も「雪でも降るのではないか」と驚いて固まっていたりする。

 

「……ふん、まぁワイの感想なんてどうでもええですわな。それより……」

「?」

 

 リュウ達のある意味大袈裟なリアクションに、少々気分を害したらしいマーロック。彼に促され、その後ろからは懐かしい顔が現れた。最初に近付いてきたのは背中に立派な羽を生やした老齢の男である。さらにその後ろには見覚えのある逞しい身体つきのフーレンの男と、これまた羽を生やした美しい女性。そこに昨日突然リュウ達の城に訪ねてきたお転婆姫がくっ付いている。

 

「久しいな。“紅き翼”の諸君」

「あ! ……えーっと……ホラ…………あれだ…………誰だっけ!」

「……」

 

 リーダーにあるまじき失礼な態度を取るナギ。喉まで出掛かっているが誰だったか思い出せない感じでうーうー唸る姿に、溜息乱舞なアルとゼクト。その背後で拳骨を振りかぶるのは詠春である。老齢の男はそんなナギに理解を示しているのか、苦笑いでスルーしてくれている。

 

「ゴホンッ! ……フォウ帝国の件では世話になったな。今日はそなた達の力をじっくりと拝見させて貰った。いやいや、凄まじいの一言に尽きる」

「いえいえそれほどでは。ウィンディア王に置かれましては、ご健勝のようでなによりです。本日は私達の為にわざわざ御足労頂いたようで、ありがとうございます」

「よいよい。堅苦しいのは抜きだ。恩人である諸君らに頭を下げられては心苦しいからな」

 

 リーダーのナギを差し置いて、しれっと答えるアルの図。こういう時のアルの人当たりの柔らかさは貴重だ。少なくとも無礼なナギより何倍もマシである。

 

「そうそう、近々我が娘エリーナとクレイの挙式があるのだ。差支えなければ、そなた達にも出席して欲しいのだが……」

「それは目出度いですね。私達で良ければ喜んで」

「うむ。是非参加させて貰うとするかの」

 

 リーダー不在で勝手に話を進めるその他の“紅き翼”。そして一歩引いた状態で話に加わらない当のナギ本人はと言えば……

 

「あ! そうだ思い出した! ウィンディアの王様だ!」

「おせーよ時間掛かり過ぎだよ! ていうか王だってアルが言ったじゃん!」

 

 ようやくその人物が誰かを思いだし、リュウの突っ込みを一身に受けているのだった。そんなナギの無礼過ぎる態度を軽やかにスルーしてくれている王様の懐の大きさには、これはもう感謝するしかないだろう。そして改めて、王様の隣に立つフーレンの男と美しい女性。言わずもがなのクレイとエリーナが、“紅き翼”に話しかけてきた。

 

「久しぶりだな。ナギ、リュウ。どれほどの物なのかと楽しみにしていたのだが……正直、お前達があそこまで強いとは思わなかった。今日は驚きの連続だ」

「お久しぶりね。元気そうで……ううん、元気良すぎて、羨ましいぐらいだわ」

 

 仲の良い婚約者の二人は極めて自然に寄り添っていて、他者の付け入る隙がない。リュウ達の戦いぶりにフーレンの血が騒ぐのか、クレイはどこか微妙にうずうずしている。しかしそれはエリーナがしっかり抑え、何だか手綱を握っているようにリュウには見えた。もう既に完璧な夫婦の風格である。

 

「本当、凄かったです! リュウさんもナギさんも皆さんも、こうズバーッてドヒューって!」

「ミイナ、はしたないですよ」

「でも姉様! 本当に凄かったんですよ!」

 

 そしてお転婆姫のミイナに至っては、大興奮で背中の羽をパタパタさせていた。大仰な身振り手振りで必死に味わった感動を伝えようとしている姿が微笑ましい。そんな穏やかな世間話をしていると、話題は今日の“紅き翼”の対戦相手、リュウの作ったチームの事へと自然に移っていく。

 

「確か、相手をした君達は“炎の吐息”と言ったか。君達の関係者も、幾人かここに来ていると聞いたぞ」

「……え?」

 

 そんな風にリュウがウィンディアの王から話を聞いていた丁度その頃。後ろの方でボーっとしていたステンの背後に忍び寄る影があった。その影の主はステンと同じような体型で、鎧を纏った黄色い体毛のハイランダーだ。

 

「よぉステン」

「……。あれ何か……オイラ疲れてるせいか幻聴が聞こえるんだけど……」

 

 たった一言でそれが誰であるか理解してしまったステン。付き合いが長いのもこういう時には困りものだ。そして嫌々ながらに声の聞こえた方向に振りかえると、そこには予想の通り、とても見覚えのあるニヤついた戦友の顔があるのだった。

 

「トゥルボー、来てたのか」

「よ。まさかお前があんなに強くなってたなんてな。スゲェじゃねーか。まぁ勝負の方は残念だったが」

 

 中々ご機嫌な表情で話しかけてくるステンの親友、トゥルボー。勿論この場に彼一人だけで来ている、なんて事はあり得ない。トゥルボーは立場で言えば護衛であり、マーロックの招待に飛び付いた本命は、その後ろに居る“彼女”なのだ。

 

「ちぇ。折角の晴れ舞台だったってのに、カッコ悪い所見られちゃったな……」

 

 良い勝負をしたとは言え、負けた所を見られた訳である。トゥルボーの後ろに居る“彼女”にそんな姿を見せてしまったのが、少しステンは悔しかった。

 

「いいえ! カッコ悪いだなんて、全然全くそんな事ありません!」

「!?」

 

 ズズイッと出てきてステンの言葉をやたら強固に否定する彼女改めハイランド王女。えらく興奮しているのか、その顔は火が出るくらいに真っ赤だ。

 

「? あの……エルファーラン?」

「あ……いえその……」

 

 そしてササッと目を伏せて、王女はステンを直視しない。そんな彼女の心の内が、男二人にわかるはずもなかった。

 

(おいトゥルボー、まさかと思うが、エルファーラン何か変なモノでも食ったのか?)

(わからん。さっきお前の戦いを見てからずっとあの調子なんだよ)

「……」

 

 もじもじしてまともに顔を見ようとしない王女の態度を、うーむと訝しむステン。何を隠そう王女は、ステンの変身した姿とその想像以上の力強さに思いっきりクラッと来ていたのだった。要するに惚れ直した訳だ。ラブコメも真っ青な展開である。とまぁそんな寸劇を猿の人達が展開している傍らで、シルクハットを被った富豪の一人が某カエル紳士に静かに近付いていた。

 

「タペタ……」

「! その声は……おーう、父上ではありませんか。今日はワタクシのお披露目舞台にようこそ来てくれたのでした」

 

 シルクハットの男はタペタの姿を見るや……いきなり感涙に咽び泣きだした。勢い余ってボゥンと変装魔法が解けて、匍匐族(クロウラー)の真の姿を晒してしまっているのにまるで気付かずお構いなしだ。この人こそ誰あろうタペタの父、エカル伯爵である。

 

「うう……あの放蕩息子のお前があれほど立派になるとは……私は父として鼻が高いぞ!」

「? 父上どうしたのですね?」

 

 色々とタペタの自由奔放ぶりに苦労していたのだろう。エカル伯爵の泣きっぷりは本物なのであった。親の心子知らずで、タペタにはその辺の複雑な感情が上手く伝わっていないようだが。

 

「エカル伯爵、匍匐族だったのか……」

 

 思いの他親馬鹿な面を見せているエカル伯爵。どうでもいいが、今まで交流があった富豪仲間達は皆、その正体を知って驚いているらしい。そしてさらに、おいおい泣くエカル伯爵の声に勝るとも劣らない、一際大きな声が辺りに響いた。エラく目立つその声の発信者は、何人目になるのか知らないがフーレン族の男性だ。

 

「ようリンプー!」

「え? ……ってティガ!?」

「おう、久しぶりだな」

「来てたの!?」

「ああ。あっちに居る金持ちさんにいきなり一緒に来ないかって誘われてよ。こうしてお招きに預かったわけよ」

「ふーん、で、で、どうだった? あたしのカッコイー姿を見た感想は?」

「いやマジでスゴかったぜ。お前あんなに強かったんだな。っていうか、それよりリュウ先生の方が驚いたぜ。強すぎだろあいつ」

「ふふん、そんなのとーぜんじゃん。だってリュウだもん」

 

 フーレン少女の元には、かつて一緒に働いていた同僚が訪れていた。そのティガの半歩後ろには彼女であるクラリスも同伴しているようで、カップル揃っての見物である。自分に加えてリュウが褒められた事で、リンプーは自分の事のように自慢気だ。さて、どうして金持ちでも国の重鎮でもない一般人である彼らがこの場に来ているのか。その理由である“金持ちさん”はティガが会話の中で“あっち”と指差した方に居る。そこにはまた、一組の母子も共に居る訳で。

 

「か、母ちゃん!? 何でココに!?」

「いやなに、ランド君が大きな舞台で戦うと聞いたものでね。私がデイジイさんも誘ったのさ」

 

 富豪の一人、キルゴア。彼がティガとクラリスもこの場に連れてきた張本人だった。リンプーにも以前世話になったのだから、ティガ達に面識はなかったがお返しという事で誘ったという事らしい。律儀なキルゴアらしい事である。

 

「いやー、あたしゃ嬉しいよ。あのドラ息子がこんなに立派になって。……ってそうだあんた、まさかとは思うけど、お仲間の皆さんに迷惑掛けてんじゃないだろうね!」

「勘弁してくれよ……まいったなぁこりゃ……」

 

 人目も憚らず炸裂する母ちゃんパゥワー。巨体のランドもこれには頭が上がらない。戦っていた時の勇敢さはどこへ行ってしまったのだろうと、キルゴアはその光景に苦笑していた。

 

 そんな和気藹々とした輪の一歩外には、静かに佇む男達が居る。特に知った顔が居るでもなく、盛り上がっている間に割って入る気にもならない。そんな無愛想な空気を纏う男が三人程。

 

「おっさんは知り合いとか来てねぇのか?」

「居るわけなかろう。そういうオマエはどうなんだ」

「……。サイアス、あんたは?」

「……」

「愉快だねぇ……」

 

 ガーランドとレイとサイアスは、外側からそんな光景を見ていた。知り合いなんてほとんど居ないから、こうなると蚊帳の外なのだ。まぁ俺達には関係ないからと、邪魔にならない為に静かにしてようと思った彼ら。……けれどそうは問屋が卸さない。そろりそろりと、彼ら三人の側に寄ってくる人の影。一つや二つではなく、数は多い。そしてその影の一つが意を決したように、暇そうにしている三人に話しかけた。

 

「あの……俺、感動しました!」

「あん?」

 

 振りかえったレイの視線の先に居たのは……分厚い鎧を着込んだ兵士達。ボディーガードをしていた連中である。

 

「なんだお前ら……」

「もし宜しければ、是非俺に武術を教えてください!」

「俺はあの剣技を! 神速の抜刀術を是非!」

「俺はあの大渦を出す技を! お願いします!」

「……愉快だねぇ」

「むう、まさかこういう事態になるとはな」

 

 男たるもの、強い者に惹かれるのは古今東西万国共通である。曲がりなりにも武を嗜でいる兵士達が、レイ達に憧れを抱くのも無理からぬ事だ。そんな訳で、予想外の方向から意外とモテモテな男三人。わいわい周囲を兵士達に取り巻かれて珍しく困惑しているのだった。周り全員がむさ苦しい男であり、全く華が無いのは仕方ない。

 

「ええい、寄るな! 私は軟弱者は嫌いなんだ!」

「そんな……」

「あたしに何か、用でもあるのかい?」

「いえあの、用という訳ではないんですが……宜しければ連絡先など……」

 

 しつこい男相手に、危うく銃に手を掛けそうになるアースラ。勇気を出して話しかける男と、その意図を全く読めないリン。一方では別の意味で人の輪に囲まれている者達がいた。当たり前かも知れないがトリニティの美人四人組に、富豪と兵士が半々くらいで擦り寄っているのだ。彼女達の勇ましさや華麗さが、どうも一部の男性の心を鷲掴みにしたらしい。ゼノの鋭い眼光やアースラの威嚇でビビッている者も多く居たが、邪険にされて逆に息を荒げて悦んでいる危ない者も、結構居たとか居ないとか。

 

 ……さて、そんな和やかな雰囲気の中にあって、一部数人で固まり動こうとしない者達が居た。兵士やリュウ達の知り合いとは違う、豪華な服を着て難しい顔をした男達だ。こそこそと小声で何かを話し合いながら、伺うようにリュウ達やナギ達全員の動向に気を配っている。

 

「久しぶりに会う連中、元気そうじゃねぇか」

「良い事じゃん。みんな変わんないねー」

 

 マーロックが招待したゲストの大半と知り合いであるリュウが、一通り彼らと話やら顔出しをして、ちょっとフリーになった所だった。その隙を狙って、こそこそしていた集団の中から一人が抜け出て、徐にリュウへと近付いていく。その集団に居た他の人間達は、それを見て一斉に“しまった”と言う顔をして、慌てて少しずつだが距離を縮めて来ている。

 

「初めまして」

「!」

「リュウ君……だったかな。こうして会うと、聞いていたのとはまた印象が違うなぁ」

「えーと、失礼ですが、あなたは?」

 

 スッと握手を求めるように、右手を差し出すその男。肌は浅黒く長身。金色の短髪で白いスーツらしき奇妙な服装。亜人などではなく、種族的には人間だろうか。足運びや気配からして明らかに只者ではなさそうで、おまけに正直に物を言う人間にも見えない。一目でアルとは違った意味で“胡散臭そう”と勝手な評価をリュウは降した。

 

「これは失敬。私の名はメベト。メガロメセンブリア元老院の議員を務めている。君にはガトウの上司、と言った方がわかりやすいかな」

「……ガトウさんの……?」

 

 これまた懐かしい名前が出てきてリュウは驚いた。ガトウの上司。それを明かすという事は、少なくともそこだけは真実だろう。あの何事にも慎重で秘密主義だったガトウが、不用意に他人へリュウの事を漏らすとも思えないからだ。リュウは少しだけ気を緩めた。一応挨拶としてリュウが握手に応じると、メベトと名乗ったその男は矢継ぎ早に話を切り出す。

 

「さて、単刀直入に言わせて貰おう。我が国の魔法衛士部隊に来る気はないかな?」

「は……い?」

「無論、君達全員でだ。待遇の方は大いに期待して貰って構わないぞ」

『……』

 

 突然のリュウへの勧誘発現にピシッと空気を凍らせたのは、メベトが出てきた集団の者達だ。数人がやられた、と苦々しい顔をしている。そう、彼らの目的はメベトのそれと同じであった。即ち、“リュウ達を自分の陣営に取り込む”事である。

 

 集団の正体は、魔法世界各国の重鎮達だ。お互いが同じ目的だと察して牽制し合っていた所に、元老院議員メベトが先制攻撃を仕掛けたのだ。その集団の彼らにとって、先制を許したこの状態は非常に面白くない。もし万が一リュウが首を縦に振り、その戦力をメガロメセンブリアが取り込んだらどうなるか。いつその矛先が自分達に向かないとも限らないのだ。

 

 何しろ大量破壊兵器も同然の力を持つ連中だ。これを取り込めれば、それだけで一個師団どころか現在の各国のミリタリーバランスを根底から覆す事さえ可能だろう。リュウ達の勝負の最中から、既にこの来賓席の水面下では、ドロドロの争いが行われていたのだ。

 

「あの……俺達はそういうのはちょっと……」

「ほう、それなら我がヘラス帝国の魔導騎兵団はどうかな少年」

「!」

 

 メベトに負けじと横からヌッと出てきたのは、やけに筋肉の逞しい男性だ。片目に眼帯をしており、開いている方の眼光は非常に強烈。まるでずっと最前線で戦い続けてきたような、歴戦の戦士の如き雰囲気を纏っている。

 

「……あの、あなたは?」

「俺の名はデモネド。ヘラスで軍を率いている。階級は准将だ。もしもウチに来てくれるなら、そこのそいつが提示した額の三倍は用意すると約束しよう。どうだ?」

「……」

 

 そいつと指差されたメベトは、冷ややかな視線をデモネドと名乗る眼帯男へ送った。隻眼から放たれる眼光が、それをしっかりと受け止めている。あまりに露骨な二大国の駆け引きを皮切りに、負ける訳にはいかないと焦る各国の重鎮達は、一斉にリュウの仲間やナギ達の元へ駆け寄っていった。

 

「不本意だが、貴殿らの実力には素直に敬意を表する。我がアリアドネー魔法学園の非常勤講師として雇われる気は無いか? これは栄誉な事だぞ。私が直接スカウトするなど滅多に……」

「すみません、そういうのもちょっと……」

「なら我が国の魔法部隊長には……」

「だから、そんな気はありませんから」

 

 どんどん激化していく勧誘の嵐。こうなると厄介だ。ぶっちゃけリュウはとても面倒くさかった。ハッキリとどこかの国に属する意思はないと示しても、言うだけ言ってみようと次から次にやってくるのだ。リュウの仲間達も、全員リュウと同じで面倒くさそうにお断りの対応をしている。一応今は穏便な空気だが、そのうちキナ臭くなりそうなのは明らかだ。

 

「あー、オレぁそういうのわかんねーからアルに言ってくれ」

「いえいえ、私のような一介の魔法使いには決めかねますねぇ」

「我が神鳴流の剣は、本来魔を滅する為にのみ振るわれるもの。どうぞお引取りを」

「……」

 

 当然のように紅き翼にもその手の勧誘は行っていた。だがアルやゼクトはその手のはぐらかしが上手く、詠春は堅物でナギはおバカ。そのせいで、自然と話の通りやすそうに見えるリュウに勧誘攻撃が集中しているのだった。

 

「皆さん! その辺にしておきませんか!」

 

 収集がつかなくなり掛けたところで、パンパンと手を叩き注目を集めたのは影の薄かった悠久の風最高責任者だ。マーロックがその後ろに控えており、どうやら打ち合わせてこの流れを止めようという事らしい。実際あまり手応えを感じられていなかったせいもあり、一大リクルート合戦はそこで一旦の収束となった。

 

「もし気が変わったら、ここへ連絡してくれたまえ」

「……」

 

 それでも諦めきれない何人かが、ならばと連絡先の書かれた名刺や用紙を次々とリュウやナギに預けていく。段々と重くなっていく紙の束に、なおうんざりするリュウである。

 

≪イヨ、相棒! モテるねこの!≫

≪お前ね……≫

 

 ボッシュのからかいに反応する元気もなく、リュウはゲソッとした表情だけを返すのだった。そうして来賓席にリュウ達が来た事で起きた混乱もようやく落ち着きを取り戻し、「妖精達の所へ関係者みんなを招待して、美味しいご飯でも一緒にどうだろ」などと考えるリュウ。だがそのすぐ隣に、再びザシャッと何者かの足音が聞こえた。まだ誰か勧誘にでも来たかいい加減にせいやと、「ああん!?」と声に出し下からえぐる様にガンを飛ばして振り返る。

 

「大丈夫ですか?」

「……え、えーと、はい」

 

 ある意味戦いの時よりもぐったりしているように見えるリュウに話しかけてきたのは、予想に反してボディーガード鎧兵士部隊の隊長格らしき人物だった。何故隊長とわかるかというと、目立つように一人だけ鎧が金ぴかだったからだ。それにしても疲れているとは言え、リュウに気配をほとんど感じさせずに隣に立ったこの男は、中々の手練らしい。

 

「……」

「何か?」

「あ、いえ……なんでもないです」

 

 その隊長はスッポリと頭を覆う兜を着けていて、目の部分のスリットからしか顔が見えず、どんな人相なのかもわからない。顔の部分をじっと覗き込んでしまったリュウは、何か彼に違和感と言うか、ざらっとした感覚を覚えた。

 

「そうですか……恐縮ですが、よろしければ握手などして頂けませんか?」

「……はい?」

 

 何の用かと思いきや、力の抜けるその言葉にカクンとリュウは砕けた。厳格な人と見せ掛けて意外とお茶目な人なのか、と苦笑しながら認識を改める。

 

「あ、隊長ずるいです!」

「俺達にはそういうの駄目って言った癖に!」

「そーだそーだ!」

 

 目敏く気付いた周囲の兵から飛ばされる野次。それが全く耳に入っていないかのように、スッと手を差し出す隊長の男。その態度にやはりどこか違和感を感じたリュウだが、先程までの戦いの影響と勧誘攻撃にふらふらだったので、さして気にも留めなかった。求められるままに手を差し出し、ちょっとした芸能人のような気分で快くそれに応じようとして。

 

 ……差し出された手は、迎えようとしたリュウの手をするりと通り過ぎた。

 

「え……?」

 

 一瞬、リュウは今何が起こったのかを理解できなかった。感じた感覚は、今日の戦いで蓄積されたものではない新たな痛み。その刺激を送ってくる場所は、手のひらではなく自分の腹。目の前の男の、鎧に覆われた手だった筈のそれは、とても奇妙なモノに変化していて――――

 

「……っ!」

「……」

 

 ――――ゾブリ、と触手の様な物体が、リュウの腹を貫き背中から生えていた。


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