炎の吐息と紅き翼   作:ゆっけ’

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4:対面

 ムクトの岩壁にてリュウとボッシュがナギ・アルと再開してから既に三日。久しぶりだった為かお互いの近況報告等をしている間に、どんどんと時が過ぎてしまっていた。ナギやアルの武勇伝も多かったし、リュウはリュウで色々と話す事が多かった為だ。

 

「そうそうこれ渡しとく。この前旧世界行った時に買ったお土産」

「お、悪ぃな……ってキャラメルかこれ? パッケージ何て書いてあんだ?」

「ジンギスカンキャラメル」

「ふーんどれどれ…………うげぁッ!? マズッ!」

「でしょ。俺もディースさんに無理矢理食わされた時ビックリした」

「んなもん土産にすんじゃねーよてめー!」

 

 リュウが提供する話題は殊更多岐に渡って豊富だった。他にもちょっとした縁で知り合ったナイスダンディ“アナベル・ガトウ(仮名)”を紅き翼の一員にどうよと推薦したり、オリンポス山中にある新築物件を是非隠れ家に使ってくれと営業活動したりと絶好調だ。

 

「さて、ではリュウが新たに覚えたという魔法や指導キーを是非拝見したいのですが」

「……」

「何だよ、覚えたんだろ? 適当に唱えて見せてくれってんだけど」

「あー、うん。忘れてた。その前に俺もう一つナギに謝る事あった。ずっと前に馬鹿にしてごめんなさい」

「?」

 

 魔法は確かに覚えたけど、複雑な呪文を唱える時はナギと同じくあんちょこを見ながら、という体たらくなリュウ。以前ナギを馬鹿にした事を素直に謝罪だ。アルはリュウが実際にあんちょこ見ながら唱える姿を見て苦笑していたが、ナギはむしろ「そーだろ?」と理解を示し、仲間が出来た事を嬉しがっていた。

 

「……」

「よし行けリュウ! フォウルに目に物見せてやれ!」

「いやいやいや無理だから!」

 

 さらにはナギによってフォウルに無理やり挑戦させられるリュウの図。仕方なく素の状態で挑んだものの、僅か数十秒で撃沈である。

 

「お前の力はその程度のものか?」

「……」

 

 どこか挑発気味にリュウを煽るフォウル。手も足も出なかった事とこの態度に少しだけ意固地になったリュウは、何とドラゴナイズドフォームに変身してリベンジ。予想をはるかに越えるリュウの底力に、本気と書いてマジになったフォウルが応戦。激闘を繰り広げた後、最終的に周囲の空間に無数の亀裂が走った為、やむなく引き分けとしたのだった。

 

 ……とまぁ他にもあるがとにかくこの三日間、リュウはかなり密度の濃い日々を送っていた。

 

「うーん、まぁ確かに以前のお前よりゃ大分強くなってると思うけどさ、まだまだ俺達のライバルっつーには物足りねーな」

「そりゃまぁ……ご尤もで」

 

 そして今は三日目の夜。夕食を摂り終えた三人+一匹で食後の雑談タイムである。そこで大体今のリュウの実力を把握したナギの評価が、そんな感じに下るのだった。確かに魔法も大分使えるようになったし、全体的な強さは以前とは段違いに上がっている。最低でも別れる前のナギと良い勝負出来るくらいには、リュウは強くなっているのだろう。

 

 しかし、今現在のナギは当然のようにその上のその又上を行っているのだった。懲りずにフォウルと何度も戦っているナギは元々の素質も手伝い、猛烈な勢いでレベルアップしているのだ。

 

「やはり梃子入れが必要なようですねぇ」

 

 今の素のリュウよりも強くはないと聞いている現時点の“炎の吐息”の面子では、“紅き翼”にとっては全くライバル足り得ない。暗にアルはそう言っていた。まぁその事は、身近に居たリュウが一番よく知っている。そもそもライバルを自らの手で育てようという考え自体が類い希な酔狂の極みであるのだが、それはこの際言わないでいる。

 

「梃子入れって言っても……何か良い方法あるの?」

「そうですねぇ……」

 

 今以上に強くならなければ、ナギが求めるライバル的存在には程遠い。リュウとしても、皆がパワーアップするのは大賛成だ。だからうーんと考えて、一つ思いついた。丁度良い機会である事だし、“炎の吐息”も全員でフォウルに師事するという方法だ。これならば時間は掛かるだろうが、確実に強くなる事が出来るだろう。

 

「……という訳で、俺達もここで一緒に修行させて貰うっていうのは」

「ダメだ」

「え、ダメって……何で……?」

「んなもん決まってら。そっちの手の内がわかっちまったら面白くねーだろが」

「……」

 

 同じ修行場で合同っぽくやってたんじゃ、いつか真面目に戦う事になった時にリュウ達の情報が筒抜け過ぎて面白くない。ナギはそう言っていた。逆に自分達の情報はリュウを通してダダ漏れでも構わない、という強気な発言もその後に追加だ。えー、じゃあどうすればいいんだよと不貞腐れるリュウは、次にナギが言ったセリフによりさらに窮地に追い込まれる。

 

「つーわけで、俺達はフォウルの元で修行する。だからお前らは別の所で修行しろ。で、尚且つ俺達に追いつけ。な?」

 

 ……と、なんとも理不尽極まりない要求をナギは突きつけてきたのだ。

 

「いやそりゃいくら何でも……無茶でしょ……」

 

 ナギやアルは既に十分な自力がある上に、天才といって良い才能を持っている。“男子三日会わざれば活目して見よ”と言うが、ナギに関してはまさにそれだ。それに対して一応強者の部類ではあろうが、“炎の吐息”の面々はナギ達ほどぶっ飛んだ才能持ちという訳ではない。普通に修行をしてナギ達レベルに追いつけと言うのは難しい。いや、難しすぎる。

 

「まぁお前ならやれんだろ。とにかく、頼んだぜ」

「……」

「た の ん だ ぜ !」

「……」

 

 リュウの顔には大きく見開きサイズで「無・理」と書かれていたのだが、それをわかっているのかいないのか、駄目押し気味に満面のスマイル攻撃で意見を押し付けてくるナギ。ハッキリ言ってこれ、今までで一番の難題だ。こうして炎の吐息リーダー就任という一つの問題が片付くと同時に、更なる難関がリュウの前に立ち塞がるのだった。

 

 

 

 

 ナギとアルとのフォウル空間生活も四日目の朝を迎え、小屋の裏手の小川で顔を洗いながらリュウは暗い顔をしていた。ナギの頼みをどうやってクリアするか、気分は先の見えない夏休みの宿題に嫌々手を付けだす学生のそれだ。そんなリュウの背後に、二つの大きな影が近づいてくる。フォウルの使い魔である狛犬二頭――青い方をオンクー、白い方をアーターと言う――である。

 

「……“拳を極めし者(ラグナライダー)”?」

「そうだ。かつて神皇様と世界を二分した御仁がそう呼ばれていた」

「未だ決着は着いておらぬ。神皇様に勝るとも劣らぬ豪の者よ」

「へー……」

 

 何かと思えば、かつてフォウルが“神皇”と呼ばれだす前に存在したというライバル。それに会ってみたらどうだと言う。どうやらリュウがナギから頼まれた事についてどこかで聞いたらしい。わざわざ助言をしに来てくれるとは、意外と優しい彼らである。ここ数日リュウが美味い飯を振舞っていたからかも知れない。

 

「……なるほど、その人に弟子入りすれば何とか……」

 

 うむむと二頭の言葉を吟味するリュウ。フォウル相手に修行するナギやアルにどうやって対抗するかと悩んでいた所へ、この情報はかなり貴重だ。何しろフォウルと同等レベルの存在が他にも居るという事になるのだ。それならそっちに修行をお願いすれば、少なくとも質だけならば、ナギ達と互角の修行が出来るという計算になる。

 

「その人がどこに居るかっていうのは……」

「知らぬな」

「だがまだ生きてはいるだろう」

「……」

 

 住所まではわからないと聞いて少し肩を落とすリュウ。生存はしているとしてもそれ以外全くのノーヒントで探すとなると、これはやはり難しい。それにフォウルと同等の強さなのに全然名が知れ渡ってないという事は、どこかでひっそりと暮らしている可能性が非常に高い。まぁ情報としてはありがたいモノなので、キープはしておくが。

 

「それにしても……拳を極めし者(ラグナライダー)なんて呼ばれた人のライバルだったなら、その時のフォウル……さんはどんな風に呼ばれてたんだろ」

 

 ふとリュウの頭に湧いたそれはただの興味だ。今でこそ神皇と呼ばれているが、じゃあ昔の呼び名はどうだったのか。するとその疑問を聞いていた二頭は少し間を置いてから、何か昔を懐かしむように口を開いた。

 

「あの頃の神皇様は“最強を求めし者(ペイルライダー)”と呼ばれ、ヒトどもから恐れ、敬われていたのだ」

「こうして戯れとは言えヒトの相手をするなど、当時を顧みれば考えられぬ。思えば神皇様も、大層丸くなられたものだ」

「そ、そうなんだ……」

 

 昔の事を思い出して目を細めるオンクーとアーター。狛犬なのに、中々人間味がある使い魔達である。そんな訳で曖昧な返事を返しつつ、ドラゴンズ・ティアから取り出したタオルで顔の水気を拭っていると、不意にポケットが振動している事にリュウは気付いた。何だと思って探ってみれば、カードの一枚がプルプル震えているらしい。掴んで取り出したカードの絵柄は、翡翠色の龍だ。

 

「ハルフィール?」

≪ねぇねぇちょっとちょっと、あんた達にお願いがあるんだけど!≫

 

 取り出したリュウの掌の上でクルクルと踊るように回るハルフィールのカード。テンションの高いハスキーボイスを耳にして、何だと顔を見合わせるオンクーとアーター。妙な事を言い出しそうな気がして、嫌な予感がビンビンなリュウである。

 

≪あんた達の主人の彼さ、あたし達と一緒に来てくれたりしないかしら?≫

「ちょっ!? いきなり何言ってんの!?」

 

 案の定飛び出したのは何とフォウル勧誘発言。それにビックリしたのはリュウだけではなかったようで、オンクーもアーターも目を見開いている。

 

「……本気で言っているのか」

「我等が主に、ヒト如きに付き従えと」

≪あたしはいつだって本気のホンキよ!≫

「ちょ、いーからちょっと! マジでそういうのやめて!」

 

 我が儘水龍による空気を読まない発言により、和やかだった筈の空気が一転して一触即発なシロモノに変わっていた。明らかに不機嫌を露わにするオンクーとアーター。嫌な予感が嫌な方向のさらに斜め上に的中したせいで、焦りまくりなリュウである。

 

「無理に決まってんでしょ! 何で突然そんな事を!?」

≪えー、だってあの彼“古龍”でしょ? あたし古龍って初めて会ったんだもん! おまけに超強いしカッコいいし! 是非お近付きになりたいじゃない!≫

 

 どうやらハルフィールはフォウルに酷くご執心であるようだ。だが当然、そんな戯言が通じる相手ではない。まず目の前の使い魔達が許容する筈がないし、万が一今のセリフが直接本人の耳に届いたとしたら、無言のうちに天災レベルの攻撃をされてオーバーキルが関の山だろう。

 

「……」

「……」

 

 狛犬二頭の顔が全く笑っていない。いやむしろズゴゴと内に力を溜め込んでいるようなプレッシャーを放ちだしている。ヤバイと察したリュウは急遽、他三体のカードを引っ張り出して、無理やりハルフィールを押さえ込むように頼んだ。

 

 幸い他三体はリュウに同調したため、何とかそれ以上の向こう見ずな発言は防ぐ事に成功。最後には「せめてサインだけでもちょーだい!」と、中々に往生際の悪さを見せるハルフィール。被疑者を確保し素早くポケットの中へ連行して、すぐさまリュウはオンクーとアーターに土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。

 

「変な事言ってすみません! お詫びに特別な料理を提供しますので、どうか今のはあなた方の主人には内密に……」

「……」

「……」

 

 伝わってくるピリピリした空気から、二頭の機嫌が簡単には直りそうもないとリュウは即座に看破。迷わず餌での懐柔を選択。リュウ本人が言った訳ではないから一度だけならば不問にしよう、とオンクーとアーターはその提案を受け入れ、何とか場は丸く収まるのだった。その後、律儀にお座りして待っている狛犬二頭の前で、リュウが朝からフライパンを動かしている姿がナギアルボッシュに目撃され、“何やってんだ?”と思われたとかなんとか。

 

 

 

 

 さらに翌日になり、リュウはオンクーとアーター、そしてフォウルに挨拶して、その空間を後にする事にした。ナギからの頼まれ事であるチームの強化を早速実行する為だ。散々悩んだ結果、手段の第一候補はフォウルの昔のライバルである“拳を極めし者(ラグナライダー)”の元での修行、となった。「うん、それ無理」と投げ出すのは簡単だったがせっかく二頭に助言してもらった事だし、一応探すだけ探してみようと思ったのだ。

 

「じゃあ俺一旦帰るね」

「おう……」

「……」

 

 そう適当にナギ達に告げて、リュウとボッシュは最初に出たあのボロボロの小屋へ向かった。その時、ナギとアルが悪巧み的にニヤリと目配せしていたのには、リュウは気付いていない。まぁそれはともかくとして。初めて来た時にはわからなかったが、よく見ると小屋の床に魔方陣のような紋様が描かれていた。聞いた所によると、この上に立つと転移が発動する仕組みになっているそうだ。早速、とリュウとボッシュはその上に乗った。

 

「……着いた。って暗っ」

 

 転移して出た場所は、ムクトの岩壁にある隠し通路の石碑の前だ。そのまま特に変化も無い洞穴を進み、浮遊魔法を唱えつつ入口にある幻の岩を通り抜ける。そして谷間へ飛び出すと、何日かぶりに本物の太陽光線の刺激を受けるリュウとボッシュ。

 

「すぅ……はぁ…………あー、やっぱお日様の下はいいねー」

「だなぁ。あの空間にずっと居るってな俺っちにゃ辛ぇぜ」

 

 何となくインドア生活だったような気がしたので大きく深呼吸するリュウとボッシュ。そしてポケットからフェアリドロップを取り出して、更なる転移の準備だ。さて今度は何が出るかと期待しつつ宝石を掲げてみる。すると……

 

「? 枯葉が……」

 

 どこからともなくザザザと枯れ葉が渦を巻いて集まりだし、それに包まれた瞬間ヒュン、とカッコよくリュウの姿が掻き消える。「忍者かよ!」とリュウが突っ込みを入れた頃には、既に目の前にスイマー城がでんと構えていた。

 

「うーん、今回のは確かに普通に格好いいな。どうしようやり直しさせるべきか……」

「それはともかくよ、あいつらぁどうしてっかね?」

「え、いやみんなしっかり城の修繕とかしてくれてるでしょ……多分……」

 

 ボッシュの呟きに生返事を返し、取り敢えずフェアリドロップはポケットにしまって、リュウは城へと向けて足を一歩踏み出――――

 

「しっかしリュウが集めた仲間って、一体どんな連中なんだろうなー?」

「そうですねぇ、私はきっと筋骨隆々の大男達ではないかと思うのですが」

 

 ――――す動作をピタッと止めた。

 

「どーだかな、実はスンゲー美女とかだったりすんじゃねーか?」

「なるほど。ああ見えてリュウは結構マセてますから、その線も有りですねぇ」

「…………」

 

 さてこの場合、今リュウの後ろには一体何が居るのだろう。まず聞えてきた会話から想像すると、リュウを知っている人物である。次に人数は複数である。そして聞えたのはリュウにとってついさっきまで聞いていた気がする非常に聞き慣れた声である。以上の事実よりリュウの中で導き出された答えは、「超後ろ見たくねぇ」という素直なモノであった。しかし願望はどうあれスルーする訳にはいかない。なので、仕方なくリュウは微妙に引き攣った顔をしてくるりと後ろを向いた。

 

「……」

「よっ」

「おやリュウ、愉快な顔をしてどうかしましたか?」

「って、何で付いてきてんの!?」

「面白そうだから」

 

 なんと、ナギとアルはリュウの転移にこっそり同乗していたらしい。リュウの作ったというチームに勿論二人は興味津々だったので、付かず離れずリュウの後を付けて来ていたのだ。どうもフェアリドロップはそんな二人を同行者と判断していたらしい。リュウの中で八つ当たり気味に作り直しが決定した瞬間である。

 

「修行は!? こっちの情報とか筒抜けじゃ嫌なんじゃないの!?」

「まぁそんなかてー事言うなって。一応どんな連中か顔くれー見とこうと思ってよ」

「私達だって、たまには息抜きも必要ですしねぇ」

「まぁいいじゃねぇか相棒。どっちみち早いか遅いかしかねぇんだしよ」

「ぐぬぬ……」

 

 三方から真っ当な意見を言われ、リュウは反論不能だ。別に見られて嫌な訳ではないのだが、例えるなら友達に別の友達を紹介する時のような感覚か。とにかく何とも言えない気恥ずかしさみたいなものがあり、それに対する心の準備が整っていないだけである。まぁぶっちゃけ半分は、ノリで突っ込みを入れているだけだったりするが。

 

「で、どこにいんだよ? その“炎の吐息”ってヤツのメンバーは――――ん?」

 

 どこだどこだとキョロキョロ周りを伺うナギは目敏く見つけた。右手方向数十メートル先。そこに城の方を向いてキャンバスを設置し、絵を描いているらしい“何か”が居た。その姿は小太りで、明らかに人間ではない緑がかった肌がチラチラと見え隠れしている。

 

「~♪~♪~」

 

 ベレー帽を被り、鼻歌交じりに絵筆をパレットとキャンバスの間で往復させているのは、ご存知フランス被れのカエル紳士だ。

 

「おあ? なんだありゃ!? でっけぇカエルだなー」

「おや、匍匐族(クロウラー)ですねぇ。こんな所に居るとは珍しい。あまり見かけない種族なのですが……」

「ふーん。まぁ見た感じ、観光にでも来てんじゃねぇのか?」

「……」

 

 ナギとアルがアレは何だと盛り上がる中、城の絵を描いていたと思われる二足歩行カエルはそこでリュウ達の存在に気付いた。そして動かす手を止め筆を置き、椅子から立ち上がってペッタペッタとリュウ達の方へとやって来るではないか。

 

「うお……」

「おーう、ムッシュ・リュウではないですか。帰ってきていたのですね。皆さん、ずっとあなたを待っていたのでした」

「あ、はい……えーと、只今帰りました……」

「……。なぁリュウ、一つ聞いていいか? まさかこいつ……」

「そのまさかだぜナギッ子」

「……マジか」

 

 凄い親しげにリュウと会話しだすカエルを見て、ナギは直感した。まさかと思って訪ねてみれば、案の定リュウの仲間の一人であるらしい。このカエルは本当にどう取り繕ってもカエルにしか見えない。流石のナギもここまで完全な亜人が仲間だとは想像していなかったから、驚くのも無理はないだろう。だがその驚きはさらに続く。

 

「おう、リュウじゃねぇか。帰ってたのか」

「あ、ランドさん」

「……!?」

 

 次にリュウ達の前に現れたのは、巨躯の甲殻族ランドだ。右肩には鍬らしき農具を担ぎ、左手にはバケツを持ち、首には手拭い、頭には麦わら帽子。……明らかに今しがた畑仕事を終え、いい汗かいた! と言いたげな風体をしている。

 

「でけぇ。……って、こいつもそうなのかよ!?」

「これはまた……想像以上に良い身体をしていますねぇ」

「…………。おいリュウ、何だよそこの連中は」

「あーその……」

 

 リュウの側でランドを見ながらうおおと唸る少年と、どこか怪しい微笑みを携えた優男の二人組。何者かと問うランドに答えようとするリュウだが、残念まだ説明の機会は訪れない。

 

「あーー!! リュウじゃん!! やっと帰ってきたんだ!!」

「うお、何だ今のでけぇ声は!?」

 

 さらに続けて現れたのは、元気爆発虎娘。ズドドドド、と土煙を上げ、彼方の方角から猛スピードでリュウ達の傍まで走って現れた。その手には人型をした“何か”が握られているように見える。

 

「ア、アネさん、ちょ、首が、キマって……く、くるし……」

 

 と、今にも消えそうな声がリンプーの持つ人型の何かから発せられている。勿論正体はステンだ。リンプーの傍若っぷりに、字面通りに振り回されていたらしくボロボロだ。

 

「おかえり! こっちは大変だったんだよ! 色々…………って、あれ? そっちの人達は? ……あ、もしかしてリュウがスカウトした新しい仲間とか!?」

「……」

 

 ハイテンションで捲くし立てるリンプーとボロ雑巾のように引き摺られているステンを、非常に怪訝な目で見つめるナギとアル。段々と二人の驚きが呆れへシフトしているような気配を感じるリュウである。

 

「今度はフーレンの女に……なんだあっちのは……猿か……?」

「ナギ、猿ではなく高山族(ハイランダー)ですよ」

「ねぇリュウ、この人達は?」

「えっとその……」

 

 リンプーその他にナギとアルについての説明をしかけるリュウ。しかし又もやそれは遮られる。城の正面でがやがやしていたためだろう。喧騒が内部にまで伝わったようで、入り口の方からさらに多数の人影が出てきたのだ

 

「一体何ー? ……あ、リュウ君。おかえりなさーい」

「……」

 

 最初に出てきたのは学者帽にピンクの長髪、間延びした声の女性が一人。そして葉っぱを加えた侍姿で、刀を持った犬男が一人。計二人の野馳り族だ。

 

「おっさん……何で俺まで引っ張り出されんだよ」

「ようやくのリーダーの帰還だ。皆で出迎えるのが礼儀だろう」

「……愉快だねぇ」

 

 次に出てきたのはどこか斜に構えた鋭い雰囲気の虎男。そしてランドに勝るとも劣らない巨躯を誇る鰐男。

 

「やれやれ、やっと戻ってきたようだね……ほらアースラ、しっかりしなよ!」

「うう……も、もうゴキ退治は嫌だ……」

 

 さらに続けて出てきたのは、青い顔をして耳を垂れ下げている狐風な女性と、その彼女に肩を貸しているふわふわした尻尾を持った女性の二人。

 

「ようやく、ですか。全くリーダーと言う立場でしたら、時間がかかる場合連絡の一つも入れて貰わないと困るのですが……」

 

 そして最後に、短い銀髪に眼鏡の光る凛とした女性が出てきたのだった。何だかリュウに対する小言が聞こえたが、肝心の本人は当然聞えぬフリである。

 

「……」

「……」

「おいおいどうしたんでぃおめぇら。元気なくなってんじゃねぇか」

 

 次々に現れる様々な亜人達の姿。いつの間にか驚く事も口を開く事もしなくなっているナギとアル。今目の前に展開している多種多様な亜人達が、皆リュウの仲間である事は最早疑いようも無い。彼らの中で唯一種族として“人間”らしく見えるのは、最後に出てきた銀髪の女性だけだ。しかし彼女にしても、よく見ると実は耳が尖っている。純粋な“人間”が一人も居ない、完全無欠な亜人ワールドここに爆誕である。

 

「いやその……何つーか……」

「ええ。よくもまぁこれだけの……」

「……何?」

「個性豊かな面子を集めたもんだな、と」

 

 最後のセリフは、ナギとアルで全く意図せずにハモっていた。それに対しリュウは一言、「まぁね」とどこか恥ずかしげな苦笑いを浮かべて答えるのだった。


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