炎の吐息と紅き翼   作:ゆっけ’

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7:羅漢

 キルゴア氏の屋敷から少し離れ、そこは通称“アム湿原”。所々に濁った沼や足場の悪いぬかるみが点在し、背の高い葦のような草や雑木が辺りを囲む平坦な空間。年中をどんよりとした灰色の空気に包まれて、人も動物もほとんど寄り付く事のない広大な湿地である。

 

「さーて、用意はいいか青坊主」

「……」

 

 ジャック・ラカンとリュウは今、二人だけで決闘の為にこの場所へと移動していた。キルゴア氏邸宅の周辺で存分に暴れられる場所はないかとラカンが希望したのだが、周辺の開けた土地は大抵畑などになっていたので、この陰気な場所ぐらいしか空きがなかったのだ。

 

「おい何だ、自分から俺に勝負を申し込んだ癖に緊張でもしてんのか?」

「……いえ、大丈夫ですからご心配なく」

 

 リュウとラカンの周りには誰もいないが、二人の決闘の様子は逐次盗賊達にモニターされている。邸宅前の庭園のような場所に置かれた、倉庫から引っ張り出したと思われる大鏡。キルゴア氏が所有していた、遠方の状況を映し出す魔法の道具である。それにより、盗賊達は鏡に映し出されるリュウとラカンの決闘を酒の肴にして、屋外での乱痴気騒ぎを楽しもうとしているのだった。

 

「ま、お前に恨みなんざ全くねぇが前金を大量に貰ってるんでな。悪いが手加減はしねぇ」

「……」

 

 ぷらぷらと首や手を回して自分の体の調子を確かめるラカン。確認などせずとも一部の隙もなく万全な状態なのは、リュウからすれば一目瞭然であった。そのリュウは今、この男を相手に“変身”を使わないままで、どうやって攻めようか必死に頭を回転させている。こうして相対したからこそ、確信した。自分は、今の力ではラカンのレベルには達していない。だから全ての攻撃を全力で行う事は只の前提条件でしかない。その前提に立った上でどうやるか、だ。

 

「……」

 

 正直に言えばリュウはあまり絡め手は得意でないが、馬鹿正直に正面から戦ったら苦戦……どころか一方的に負ける可能性があるからそれも考えざるを得ない。最悪自分が死なない為にもそうだし、遠くで見ている盗賊達の目を引き付ける事にも繋がる。目的を違えてはならない。真の勝利とはあちらに居るボッシュやリンプー達がデイジイを救出し、盗賊共をぶっ飛ばす事だ。この勝負は、要は格上相手に己の身を餌にした壮大な釣りなのだ。

 

「ふーむ、しかしいざ始めるにしてもこんな色気のねぇ場所じゃあ合図もへったくれもねぇな」

「……?」

 

 固い表情のリュウを前に、大して重要ではなさそうな事をわざとらしく悩んで見せるラカン。何を言い出すのかと警戒するリュウに向けて、悪戯を思いついたようにニヤリと笑みを浮かべる。

 

「……よし、坊主、お前に先手は譲ってやる」

「え……?」

「一人でこの俺に挑むお前の勇気に免じての出血大サービスだ。俺は最初の一発だけ動かねぇでいてやるから、好きなタイミングで攻撃してきな。それが決闘の合図代わりだ」

 

 そう言うと両手を広げて闘気も抑え、自ら無防備な体勢を作るラカン。本気でリュウに最初の一撃を譲るつもりらしい。願ってもないチャンスだが、流石のリュウも余裕綽々で上から目線のラカンに少しだけカチンと来た。リュウを子供だと思って舐めているのか。それとも自分の力に絶対の自信があるからか。あるいは……その両方か。

 

「……一応確認しますが……良いんですか?」

「ああ構わねぇよ。別に罠だとかじゃねえから安心して存分に打って来い。お前のその、気とも魔力とも違う妙な力でな」

「……」

 

 ニッ、と楽しそうに笑うラカン。そういう事かとリュウは思った。すっかり忘れていたが、実力者にはリュウの持つ“龍の力”に対する違和感がバレているのだった。なるほど、それが気になったから自分のような子供の挑戦をあっさりOKした訳だ。そしてやはり、コイツもナギ等と同じ戦闘狂の類だなとリュウは理解した。

 

「じゃあ……そういうことなら……!」

 

 しかしどう仕掛けるかと色々考えていたリュウにとっては、これはまたとない絶好の機会だ。ラカンはその自信から最初の一発だけは、絶対に避けようとしないだろう。そうとなれば予定変更。普段なら一定以上の実力者にはほとんど当てられないような、隙の大きい威力の高い術を一番手に持ってくるのが得策である。

 

≪ボッシュ、そっちは頼んだ!≫

 

 相棒とリンプー達が上手くやってくれる事を信じて、リュウは最強の傭兵相手に勝負を仕掛けるのだった。

 

 

 

 

 その頃、湿原から離れた屋敷前の庭園では。

 

「お、ようやく始まるようだな。……おら、お前等の身代わりに無敵の傭兵の餌食になる可愛そうなガキの末路を、しっかりとその目で見届けろよ?」

 

 盗賊の頭領はそう言って、ニヤついた顔を縛られている面々へと投げかけていた。盗賊集団は一人残らずその場に呼び出され、湿原のリュウとラカンを映し出す大鏡の前で待ち切れずに酒を呷り大層盛り上がっている。屋敷の中で騒いでいた連中は最初からへべれけだ。そしてその連中の後ろに、縛られたリンプー達が居た。見張りの男が一人とデイジイ、キルゴア氏もだ。

 

「リュウ、大丈夫かな……」

「おーう、ムッシュ・リュウに、今こそ元気の出るワタクシの歌を聞かせてあげたいのですね」

「……。タペタってさ、今の状況わかってる?」

「?」

 

 どこまでも呑気なタペタにジト目を送るリンプー。何故かタペタもリンプー達と一緒に縛られて並ばされているのだが、本人はそれを全く気にしていない。

 

「旦那、この縄何とか千切れませんかい?」

「無理だな。俺の体格も考えてかなり固く縛ってやがる。中々頭の切れる連中だぜ」

「……」

 

 ステン、ランド、サイアスはひそひそと、どうにかこの場を打開する術がないか相談していた。しかし盗賊達の卒の無い行動と、視界の隅に映る未だ捕われのデイジイとキルゴアのため、身動きが取れないでいる。

 

「よぅし、あのガキがどれくらい持つか賭けでもするかぁ? 当てた奴には百万ドラクマくれてやろう!」

「おー! さすがお頭! 太っ腹だぜぇ!」

「あんなガキじゃぁ十秒持てばいい方ですぜ頭ぁ!」

 

 騒ぐ盗賊。それに対し何も出来ずに居るリンプー達。このまま手をこまねいて見ているしかないのか。そう思った彼女らは、すぐそこに逆転への芽が顔を出している事にまだ気付かない。今この時を狙って、サイアスの懐に居るリュウの相棒がもぞもぞと動き出していた。

 

「おう、おめぇら」

「!」

 

 小さいが、その声はしっかりとリンプー達の耳に届いた。

 

「ボッシュ?」

「相棒があいつ等の目を引き付けたら、俺っちがその縄切るからよ。それまで待っててくんな!」

「ん? 何だ? 何か言ったかお前ら」

「!」

 

 タペタを含めた囚われている数人には、ボッシュの言葉は確かに聞こえた。こうなったら動けない今、ボッシュを信じるしかない。端的ではあったが、全員が先程の言葉で己のやるべき事を察したのだ。そして同時に、ボッシュの声は頭領にも聞こえてしまったらしい。すぐさまボッシュは盗賊達に見つからない様、またサイアスの懐に潜り込む。

 

「そういやさっきから何をこそこそと喋ってやがんだ? どうにもお前ら、自分達の立場が分かってねぇようだな……?」

「……お、応援しただけさ」

「あ?」

「だから、ジャック・ラカンと戦うリュウをおいら達なりに応援してただけだよ。それくらい別にいいだろ?」

「……。は、さっきまで無言だったくせに今更応援かよ。しかもそんな小せぇ声たぁ随分薄情な連中だなぁてめぇらはよぉ!」

「……」

「まぁ何を企んでいようが、そうしている限りお前らにはどうしようもねぇだろうがな!」

 

 頭領の言葉を聞いて、釣られたように馬鹿笑いする盗賊達。そしてやはりこの頭領本人だけは、どこか油断がならないとリンプー達は理解した。咄嗟のステンの誤魔化しも、コイツにだけは通用していない。

 

(ま、せいぜい今のうちに笑ってりゃいいさ)

 

 そしてサイアスの懐からその光景を覗き見て、不敵に笑うフェレット一匹。

 

 

 

 

 そして再び、場面はリュウとラカンに移る。

 

「……」

 

 リュウは最初の一歩に戸惑っていた。今リュウがしなければならないのは、なるべく派手な攻防を行って鏡を通して見ている筈の盗賊の目を引き付ける事。つまり死ななければ負けてもいいと言えばいい。まぁ勝てればもちろん言う事はないが。

 

「……」

「おいおいどうしたどうした。ホレどっからでもかかって来ていーんだぜ?」

 

 くいくいと、リュウを招く様に手を動かすラカン。挑発ですらない只の催促だ。わかっている。わかっているが、わざと隙を作っているのだろうにリュウからは全然そう見えないこのプレッシャー。流石に百戦錬磨の傭兵だと言うしかない。

 

 そしてだからこそ、リュウが慎重になる初手は重要だった。ラカンはリュウに最初の一撃を譲り、動かないと言う宣言までした。リュウはこの貴重なチャンスに、確実に相手の体力を奪わなければならない。その成否が、後の攻防にも大きな影響を与えるだろうから。

 

「……っ!」

「お、やっと決心がついたようだな」

 

 キッと、リュウの目が鋭くなる。いつまでも迷っていたって仕方がない。“変身”を除き、今自分に出来る最良と思える戦法を決めると、リュウは対峙するラカンの頭上に掌を向けた。まだそこに何も変化はない。最初の一撃に選んだ術は、以前ディースに教わった技の一つだ。

 

「……行きます!」

「は、よぉし、来な!」

 

 リュウはディースに教わったように、ラカンの頭上に向けて魔力を放出した。それは徐々に一つの塊となり、だが不安定なアメーバのような状態で留まっている。そして準備が整った所へ、リュウは発動の為のキーワードと共に、一気に向けていた手のひらを振り下ろした。

 

「ド・ブンバ・ラァ!!」

「!! おぁ!? な、なんだぁこりゃぁ!?」

 

 ラカンの真上に集中していたリュウの魔力が、突如として巨大な鉄球へと変化した。それは見る見るうちに膨れ上がり、直径百メートルを超えた辺りで、真下に落下を始める。ラカンは動かないと宣言した手前避ける訳にもいかず、仕方なく落ちてきた鉄球を両手でガッシリと受け止めた……が。

 

「ふぬぅぅっ!? な、何だこの重さは……っ! うおぁっ!?」

 

 トンの単位すら軽々と耐えるラカンのパワーを持ってしても、想像を絶するあり得ない超重量を持つその鉄球には勝てなかった。程なくドォンという大きな音ともに押し潰されたのを、リュウは確認する。

 

 ド・ブンバ・ラ。それは対象となる相手の“体力”により、大きさ・形が変動する魔法の鉄球を召喚する技である。召喚された鉄球の重量は対象物の体力に比例して増していき、直撃した時、対象の総体力の丁度半分のダメージを与えるのだ。

 

「しかし今の大きさは……やっぱりラカンって事か」

 

 リュウ自身予想していたとはいえ、今のは流石にデカかった。ド・ブンバ・ラで召喚する鉄球は通常、対象の身長の二倍程度の大きさが普通だ。直径百メートルを超えるほどの巨大さは、対象が人間サイズならまずあり得ない。それはつまりジャック・ラカンの人並み外れた体力の多さを物語っている。

 

「よし……!」

 

 リュウが初手にこの技を選んだ理由は、最初の一撃に使うのが最もダメージを与える効率が良いと言う事が一つ。そしてもう一つは、発生から直撃までのタイムラグにより非常に避けやすいという欠点がこの技にはあるからだ。ラカン自ら動かないと宣言したからこそ、使う事にしたのだ。

 

「くおおおおっ!」

 

 僅かに気を良くしたが、すぐにリュウは頭を振って次の動作に移った。鉄球はラカンを押し潰した後、音もなく消えていく。勿論あの一発で勝負が決まるとは欠片も思っていない。ドラゴンズ・ティアから痛んだカッツバルゲルを取り出し、逆手に持って後ろ手に構え、瞬動と浮遊魔法の最大戦速で持って突撃する。

 

戦いの歌(バトルソング)!」

 

 身体強化。さらにはギガート、ハサート、カテクトという三種の固有強化魔法も重ね掛けする。そして剣に伝わる、大地斬・海破斬・空裂斬の三つの力。攻撃目標は、変わらずそこに立っている。やはり。ならばこれより自分は、全力で特攻を掛けるのだ。ド・ブンバ・ラはラカンがサービスを言い出した為に使用したのであり、本来ならばこれから行うように、己の持つ多数の技で一気に畳み掛けるのがリュウの作戦だ。

 

「ぬぅ……! 妙な魔法を使いやがる……!」

 

 ラカンは頭を押さえながら、ほんの少しだけふらついていた。見た事もない奇妙な魔法に思った以上のダメージを受けた。しかしそれは“起き上がろうとしたら柱に頭を強打した”程度の物であると正確に分析する。自分ならば大した時間も掛からず回復するだろう。そしてラカンは目前に迫る剣を振り被ったリュウを見て、すぐさま表情を引き締めた。

 

「テラ・ブレイクッ!!」

「気合防御!!」

 

 リュウが振り下ろした渾身の一撃。それは避ける素振りすら見せなかったラカンの胸を確実に捉え、ギィンと言う金属音と共に振り抜かれた。いや待て……振り抜けた? リュウはその事に疑問を持つ。

 

「!?」

「中々の一撃だが……」

 

 リュウの視界に、キラキラと輝く何かが飛び込んできた。金属の様な細かい破片。ふと手元に感じる違和感。カッツバルゲルが軽い。そしてようやく気付いた。カッツバルゲルは折れるでもなくひしゃげるでもなく、ただ粉々に砕け散ったのだと。

 

「く……!?」

 

 着地し、間合いを取り、ラカンの方を振り返る。良く見れば、テラ・ブレイクはラカンの服だけは切り裂いていた。そしてそこから覗く筋肉が赤くなり、ミミズ腫れのようになっているのがわかる。しかしそれだけだ。ハッキリ言って、ダメージとすら言えない。剣への負担が大きいから折れる可能性も考慮してカッツバルゲルを使ったのだが、しかしリュウはここまで一方的に剣の方が砕けるとは思っていなかった。驚愕の防御力だ。

 

「一発目はサービスだったから生身で受けてやったがな。悪ぃが二発目は防御させてもらった。しかしさっきのは中々面白ぇ魔法だったが、もうあんな大味なのが通用するたぁ思うなよ……坊主!」

「っ!」

 

 やはり、そう上手くは行かない。リュウがギッと睨んで次の手に移ろうとしたその時、ラカンから猛烈な気の圧力と殺気が放たれた。既にド・ブンバ・ラの直撃したダメージが……リュウにとってのアドバンテージが、意味を無くしてしまっている事を理解出来てしまう。そう、唯の闘気の解放という現象だけで。

 

「ふぬん!」

「うぉあっ!?」

 

 ラカンは、気合を込めて腕を振り上げた。たったそれだけで周囲のぬかるみごと、リュウは空中へ吹き飛ばされる。そして舞い上がる途中に聞こえたヒュンという瞬速の風切り音。ラカンの巨体が吹き飛ぶ自分を追い抜き、すぐ上に移動している事に気付く。視界が悪い。体勢も悪い。チラリとラカンを見ると、まるでバレーのスパイクのように左腕を振り被っている。

 

「これくらいは耐えられるよなぁ!」

「!!」

「秘技! ラカンスマァッシュ(今命名)!」

「大防御……ッ!」

 

 両腕をクロスし、最大級のガードの姿勢で衝撃に備えるリュウ。ラカンのそれは、何ら特殊な技術は使っていない、腕を振り下ろすだけという力任せの一撃。だがそれでも、両腕の交差した箇所で受けるパワーは尋常ではなかった。

 

「おぐ……っ!」

 

 振り下ろされた腕は、強力無比な必殺技と言えるだけの威力を誇っていた。しかしかろうじて頭部への直撃は防いだ。大防御が間に合ったから、腕にも大した被害はない。このまま地面に叩きつけられなければ、特にダメージはない筈。すぐに受け身を取り、足場の悪い地面に着地するリュウ。大丈夫、行けると思った矢先、ポタッとぬかるみに一点赤いシミが出来た。

 

「……っ!?」

 

 鼻血が出ている。顔の前でクロスした腕が、衝撃を吸収しきれず顔を押し潰したらしい。それはつまり、大防御でも完全には防御出来なかったという事。その威力に驚嘆するリュウ。もしも闇の福音の修行が無かったとしたら、今の時点で勝負は着いていただろう。接近戦はヤバい。遠距離で、一気に畳み掛けるしかないと改めて思い直す。

 

「おおおっ!」

 

 リュウは体勢を立て直すとまだ滞空しているラカンに手を掲げ、その周りを囲むように光り輝く五本のマインドソードを作り上げた。切っ先を落下するラカンに向け、そしてすぐさま解き放つ。

 

「むっ!」

「伍獣葬!!」

 

 五本の精神力の剣に躊躇いはない。宙空のラカンを串刺しにするべく一気に襲い掛かる。ズドドドド、と剣はラカンに当たった。操るリュウにも確かな手応えが返って来る。…………しかし、ラカンの薄皮一枚。剣はそこから先へは進んでいない。皮膚を越えた所でピタリと止まり、どれだけリュウが力を込めても刺さる気配が全くない。当たった五箇所からは一筋の血が流れたが、それもすぐに止まった。

 

「こ、このおっさん……マジで剣刺さんねぇのかよ……!」

「ハッハー、まぁ悪かねぇが……五十点ってとこだな!」

 

 ラカンは何事もなく地面へ着地すると、「フン」と適当に気合いを発し、刺さり損ねた五本のマインドソードを容易く吹き飛ばした。リュウは消えていく剣達を唖然と見ながらも、攻撃の手を緩めない。次の技を繰り出すべく、ポケットへ手を入れる。

 

「ぅおりゃぁっ!!」

「あん?」

 

 放たれたのは散烈拳と居合拳の合成技、ショットガン。拳圧ではなく“龍の力”で構成された超高速の弾丸の嵐。当然手加減無しの全力投球。そのあまりの数は最早“点”でなく“面”での攻撃だ。避けようとしても絶対に幾つかは当たるはず。これならどうだとリュウが内心で呟く程の剛弾幕が、ラカンへと飛来する。

 

「次は物量ってかぁ!」

「!」

 

 だがラカンは避けようとすらしなかった。それどころかざっと肩幅程度にスタンスを広げ、その場に両足を固定したのだ。そして。

 

「フンフンフンフンフンッ!」

「!?」

 

 何とラカンは、居合いのスピードで自らに殺到する常人ならば逃げ場の無い弾幕を、一つ残らず払いのけていた。勿論、素手で。只の一発すら漏らすこと無く全弾を。飛来する全ての弾道を見切って捌いているのだ。

 

「! こ……どんだけだよこの野郎っ!!」

 

 リュウは悟った。この程度では駄目だと。そしてそれならちょっと早いが、切り札の一つを使って一泡吹かせるしかない。もう一度ポケットへ手を入れ、今度はそこから一枚のカードを取り出す。

 

「お願い!」

≪心得た!≫

 

 カードを頭上に掲げ、その名を叫ぶ。すると眩い光と共に、リュウの頭上に青い龍が現れた。

 

「ほぉ? 今度はドラゴンの召喚か。おめー中々芸が広いじゃねーか」

 

 ショットガンを払い終えたラカンは、次に飛び出たリュウの切り札の一つに不敵な笑みを浮かべた。手加減はしないと言ったがそれはそれ、この坊主がどこまで出来るのか見てからでも遅くはない。自らを睨む青い龍に睨み返しながら、そんな事を考えていた。

 

「サイフィス! アレよろしく!」

≪承知!≫

 

 リュウの声を聞き届けた青い龍は、その周囲を高速で回りだした。ゴウと渦巻く激しい風を巻き起こし、それは次第に魔力を帯びて、巨大な力の収束をラカンに予感させる。

 

「……ふぅんむ、なるほど」

 

 ラカンは顎に手をやり、リュウが何をするつもりなのか大まかに察した。そしてならばと自分もビシッとポーズを決め、両腕を左右に、水平に広げた。

 

「そう言う事ならいっちょ……力比べといくか!」

 

 そしてラカンは何と腕を広げたまま、まるで独楽かドリルのようにその場で激しく回転を始めたのだった。徐々に速度が乗り出し、回転のスピードが上がっていく。それに加えて本人の気が風に混じり、とてつもない威力の暴風が渦巻きだしている。そう、サイフィスのそれとほとんど同じように。

 

「ぬうううううっ!!」

「! まさか、あんな適当な技で……!?」

 

 腕を広げてその場でひたすらぐるぐる回る。そんな馬鹿げた方法で、今からやる自分の技に対抗しようというのか。流石に冗談じゃない。リュウは憤り龍の力を己の周囲に、サイフィスが作り出した風の渦へとぶつけた。

 

≪頃合いだ≫

「了解!」

「うし、勝負と行くかぁ!!」

 

 リュウの周りの風の渦はサイフィスの魔力と龍の力が擦れあい、高熱を帯びていた。ここまではこれから放つ技の布石だ。そしてラカンも独楽の様な回転が極大に達した所で、ピタリと動きを止めた。当然その周りには、ラカン本人の気を多量に含んだ風が、渦潮のようになって溢れ返っている。そして二人は、全くの同時に攻撃へと移った。

 

「飛竜! 昇天破ぁ!!」

「必殺! 風塵羅漢撃ぃ(今命名)!」

 

 リュウは氷の魔法の射手を腕に纏わせて。ラカンはただ己の気を込めて力任せに。両者とも相手方向へ向けてねじり込むようなアッパーを繰り出す。するとまるで足並みを揃えたように、それぞれの起こしていた風の渦は巨大な竜巻へ姿を変え、そして激しく衝突した。あらゆる物体を切り刻む無慈悲な風の暴力。それが普段は無風なアム湿原に、いきなり二本も現れたのだ。

 

「うおおおおっ!」

「ふんぬぅぅぅぅぅっ!」

 

 互いに無遠慮であり、ほとんど同規模の巨大な竜巻同士。それは自然の摂理のように、強い方が弱い方を呑み込む力と力のぶつかり合い。争う二本の竜巻は猛烈な嵐を巻き起こし、周辺の雑木や岩、沼のことごとくを天高く巻き上げていく。ぬかるみはどんどん削り取られ、天は真っ二つに割かれ、湿原を蹂躙していく二本の竜巻。とても人が起こす事象とは思えない。

 

「おおお……おあっ!?」

「うぬぅっ!?」

 

 いつまで続くのかと思われた暴虐は、突如として終焉を迎えた。二つの竜巻は互いの力に打ち消され、全くの同時に弾け飛んだのだ。それぞれの中心に居たリュウとラカンは、その余波で吹き飛ばされていた。しかしそれ自体のダメージはない。いきなり風が消えた事で、巻き上げられた物体全てが支えを失い、辺り一面に土砂降りのように降り注ぐ。凶悪なまでの二つの暴風に切り刻まれた、慣れの果てとして。

 

「く……ていうか……マジであんなので相殺されるとか……」

「おっととと……坊主おめぇ……まぁまぁやるじゃねぇか……この俺の今作った必殺技と互角たぁ……あーくそ、まだ目が回る……」

 

 回転の影響で少し目を回し気味なラカンと、強引な力技で切り札の一つを破られたリュウ。そのリュウは、精神的なショックがかなり大きかった。今の所、ラカンにはほとんどダメージを与えられていない。数々の技と竜召喚を使ってまでも。それに引換え自分は大分力を消耗してきている。こうなると残る手段は何があるか。どうすれば良いか。だがそれを考えさせてくれるほど、勝負モードに入ったラカンは甘くなかった。

 

「さてと……どうした坊主、もう種切れか? ならそろそろ……決めちまうぜ!」

「!!」

 

 瞬間、ラカンの姿がリュウの前から掻き消えた。

 

(はや……!!)

「オラァ!」

 

 次にラカンの姿を認めたのは、リュウの真正面僅か一メートル先。ほんの一瞬で間合いを詰められたリュウはすかさず瞬動で後方へ飛び退く。打ち下ろしのラカンの拳は寸前で空を切り、湿原のぬかるみへと突き刺さった。ドバン、と衝撃で深くぬかるみが陥没する。

 

「フンッ!」

「っ!?」

 

 だがラカンはそれも織り込み済みだ。間髪入れずに自らも虚空瞬動で空を蹴り、後方に飛んだリュウの目前にまた現れたのだ。再びリュウは、その拳の射程に入った。

 

「くっ!」

「お?」

 

 負けじとリュウは虚空瞬動と浮遊魔法を駆使し、今度は上へと退避する。それでもラカンは、リュウの空を蹴る予備動作を見切ってあっさりその後を追随。右へ行けば右へ、左へ行けば左へ。ラカンはリュウを、拳の射程に捉えて離さない。

 

「逃げ方が甘ぇ」

「!?」

 

 逃げられない。リュウが次にどちらへ飛ぶか迷った一瞬の隙。それを当然のように見逃さなかったラカンは悪魔のような笑みと共に、その肉厚な掌低をリュウの腹に押しつけた。

 

「!! ッ……大ぼ……」

「羅漢! 破裏剣掌っ!」

 

 まるで何かをねじ切るかのように振られる、リュウの腹に押し付けられたラカンの掌低。尋常でない衝撃がリュウを襲い、そしてその小さな体は枯れ葉の様に、さらなる上空へと打ち上げられた。

 

「あ……が……っ!?」

 

 まともに喰らった。防御が間に合わなかった。内部破壊的な衝撃が全身を突き抜け、内臓を直接抉られた様な激しい痛みをリュウの脳が認識する。そしてラカンは、それだけでは終わらない。手加減しないと言ったからには、きっちり仕留める。遥か高くに舞い上がり、キリモミ回転の只中に居るリュウの頭上に、既にラカンは居た。

 

「いくぜぇ!」

「っっ!!」

 

 巨竜をも倒すと言われる、ラカン必殺の右ストレート。それが無情にも、全く無防備なリュウの体に直撃した。猛烈な勢いでゴムまりのように地面へ叩きつけられるリュウ。ぬかるみに、隕石が衝突したかのような窪みを形成する。その中央に突き刺さるように埋もれ、リュウは横倒れていた。喉の奥から、大量の血がこみ上げる。

 

「ゴフッ……!」

 

 中空に濁った血を吐き出し、遅れて襲ってくるあまりの激痛で逆に意識がハッキリしてくる。息が出来ない。足も腕も、上手く動かない。

 

(……洒落に……なら…………っ)

「ほぉう、まだ意識はあるか」

「う…………っ」

 

 窪みの淵に立ち、ほとんど無傷で見下ろすラカン。窪みの中央で倒れたままのリュウ。技の乱発による疲れと痛み。そして攻撃のことごとくを跳ね返すラカンからの心理的プレッシャー。リュウは精神的にも肉体的にも、大きな痛手を受けていた。死んではいないし、いっそこのまま負けでもいいかと、そんな弱気な考えが浮かんでくる。

 

「……」

 

 けれどリュウは、その考えを受け入れなかった。何とか動く片腕をぬかるみから剥がし、自分へ向けて治癒魔法を発動させる。流石にこの大きなダメージには回復が追い付かない。だが四の五の言ってはいられない。まだ戦意を失った訳ではないのだ。リュウは痛みを無理矢理抑え、少しずつ、立ち上がった。

 

「おいおいそんな状態でもまだやる気か? ガキの割に根性あるこたぁ認めてやるが……」

「ゲボッ…………ハァ……ハァ……」

 

 息をするのも苦しい。立ち上がるだけで辛い。出来れば、これ以上こんな馬鹿げたヤツとは戦いたくない。けれど……。リュウはまだ自分が、こいつの相手をしなければならないと考えていた。ボッシュから、皆を救出したという報告がないからだ。それまでは、こいつと戦うのが自分の役目。だから立ったのだ。そしてそこには、このまま一矢報いる事が出来ずに終われるか、という意地の方が多く含まれている事に、リュウ本人はまだ気付いていない。

 

「ハァ……ハァ……こう……なったら……」

「ん?」

 

 ラカンはリュウに対して久々に相対する骨のある相手だと感心し、そこそこ楽しめたと思っていた。だがこれ以上は本当に命を奪ってしまいかねない。それは流石に勿体ないし、さてどうしたもんかと思っている所へ、リュウは行動に出る。もしもこれが通じないなら最悪の場合、盗賊達に見られようと“変身”も辞さない事を決めて、ポケットからカードを…………二枚、取りだしたのだ。

 

「ラグレイア! ザムディン!」

 

 暴挙。掟破りの二体同時召喚。眩い光と共に、リュウの頭上に赤い龍と黄の龍が現れる。それと同時にリュウは、自分の中から大量の龍の力が抜けていく感覚を味わわされた。やはり二体同時の召喚は、想像以上に負担が大きいらしい。

 

「ぐ……うう……ぐ……っ!」

「ふん、まだ召喚する余裕があるのか」

 

 ラカンはボロボロのリュウがまだ戦う姿勢を崩さない事に感心しながら、いつ何が来ても動けるよう体勢を作る。ラカンはプロだ。情けで攻撃を食らうような馬鹿な事はしない。

 

(い、一か……八か……)

 

 リュウは自分でも珍しい、先の見えない賭けに出る事を選択した。いつもならここまでの無茶はそうはしない。それだけ、リュウは“自分だけの力”に対して心の中で意地を張っているのだ。そしてさらに、ドラゴンズ・ティアから刃が零れてボロボロのスクラマサクスを取りだした。

 

「あぁ? おい何だその剣は。そんなんじゃ俺様じゃなくても通用しねーぞ」

「んな事……言われなくても……!」

「……?」

 

 意地からか、イラついたようなタメ口。リュウはもう形振り構っていなかった。これからやるのが、今の“自分”の全力。この剣の役割は依り代の様なものだ。だからボロボロでも構わない。リュウはスクラマサクスを両手で握り、切っ先を天に向け、頭上に掲げた。

 

「ラグレイア! ザムディン! 頼む!」

≪いいわよ。最近呼んでくれなくて、寂しかったのよね≫

≪……俺は呼ばれなくても良かったんだけどな≫

 

 リュウの掲げた剣に、ラグレイアから赤く輝く炎の力。ザムディンから黄色く輝く地の力。二つの光が一つに集い、収束しだしていく。只でさえ強力な竜召喚。さらに二体の力を同時という、本来なら反発して暴発してもおかしくない強大な力。それをリュウは自らの魔力と、残り少ない龍の力を全開にして、無理やり剣に抑えつけていた。

 

「くお……おおおおお……っ!」

「……でけぇな。つまりはこれが、最後の一撃って訳か……!!」

 

 ラカンはリュウの剣に収束する力を感じ取るとニヤリと笑い、その覚悟に敬意を表して最後の真っ向勝負をする事に決めた。自分も右腕を腰溜めに構え、強大な気を集中し始める。僅か三秒で全開までいく溜めの早さは、どこまで行ってもラカンである。

 

「ぬぅぅぅぅ……っ!!」

「集え……! 森羅万象の力ぁぁ!!」

 

 リュウの叫びと気合いと共に、剣に収束していた炎と地の力は融合を果たした。それは二つの属性を継承した“爆裂の力”へと。リュウにとって、竜召喚二体は初めての試みだ。当然その力は全くの未知数。さらに今、組み合わせて使うつもりのスキル“絶命剣”も、かつて闇の福音の修行中に数度使っただけ。まさにほとんどぶっつけ本番の、一発限りの大勝負だ。

 

≪いいわよ≫

≪……じゃぁな≫

 

 二体の龍から送られる、力の供給完了の合図。それを受けてリュウは、遠くの相棒に念話を飛ばす。

 

≪ボッシュ、ちょっとそっちまで被害行くかもしんないけど…………後頼む!≫

 

 一方的に無責任なメッセージを相棒へ送りつけ、リュウは鋭くラカンを見据えた。その筋肉バカが腰に構えた右腕に、膨大過ぎる気が溜まっている事を確認する。そしてリュウは力の収束した剣の切っ先を、真下の地へと向ける。同時にラカンは愉悦の笑みを浮かべながら、今にも力を放とうとリュウから視線を逸らさない。

 

「必殺!」

「必殺!」

 

 リュウとラカン。期せずして、二人の声が重なる。

 これが今、リュウが変身せずに出来る最大の一撃。

 

「竜ぅ! 陣っ! 剣っ!!」

 

 その名と共に、リュウは全力で剣を地面へ突き立てた。広がる大地に解き放たれる爆裂の力。それはリュウを中心とした巨大な魔法陣となり、湿地一帯を駆け巡る。そしてその中心のリュウの剣から、爆裂の力を宿した環状の“衝撃波”が放たれた。触れた雑木を炭化させ、岩礁は細やかな砂粒に還され、沼は瞬時に水分を消し飛ばされる。あらゆる物を“爆砕”するその衝撃波が、音の速度を超えて陣の内側から外側へと暴走していく。

 

「ラカン・インッパクトァッ!」

 

 そしてリュウが攻撃を放つのと同じくして、ラカンも右腕の力を解放した。一点突破の尋常ならざる膨大な気の波動。ラカン渾身の気弾が、リュウへと迫る。

 

 一点集中のラカンの気弾に対して、リュウのそれは広範囲を殲滅する衝撃波だ。両者とも申し分の無い威力だったが、違いはその密度。衝撃波とぶつかった気弾は多少その勢いを殺がれたものの、波を突き破りリュウへと直進する事を止めない。

 

「ハ、悪いが坊主、この勝負もら……!」

「う……おあああっ!!」

「! ……何!?」

 

 ……だが、密度の違い。そんな物はリュウにもわかっていた事だった。裂帛の気合いと共に剣から放たれる衝撃波が、二、三、四。同威力の物が都合四発。魔法陣の上を暴走して広がり、衝撃波達はあらゆるものを薙ぎ倒して行く。二体同時召喚の力は伊達ではない。

 

「ぐおぁぁっ!?」

 

 ラカンは、リュウの放った衝撃波をまともに浴びていた。最大の一撃を放った直後という、最も隙の出来るタイミングで襲い来る四発もの大波。流石のラカンも次々とその直撃を許し、全身に大きなダメージを負っていく。

 

「うぐぁっ!?」

 

 そしてリュウにも、弱まったラカンの気弾は直撃していた。やはり腐っても最強の傭兵ラカンの一撃。どれだけ相殺を重ねて勢いが殺がれようと、それでもリュウを吹き飛ばすだけの威力を失っていなかったのだ。同じく最大の一撃を放った直後のリュウは抵抗出来ずに魔法陣の中心から弾き飛ばされ、それにより周囲一帯を覆い尽くしていた陣は味気なく消えていく。

 

「うっ……く……」

「ぐ……ぬ…………」

 

 後には傷だらけの二人の男と、衝撃波で湿原の面影が彼方へと消え失せた、荒野のようにただれた景色だけが残った。

 

「う……」

 

 リュウは、身体を起こすのがやっとという有り様だった。二体同時召喚による後遺症とでも言うべき疲労。そしてほとんどの龍の力と魔力の消耗。さらにそれまでのダメージがプラスされ、最早立っている事も、剣を握っている事すらも覚束ない。そして持っているスクラマサクスに至っては根元が融け、切っ先部分は蒸発し、柄だけがかろうじて残っている。

 

「はっ……まさか……この俺に、ここまでのダメージを与えるたぁ……」

 

 リュウの一か八かの奥の手、“竜陣剣”の直撃を受けたラカンは、全身至る所から出血を起こし重症のように見えた。けれど、未だ倒れず両足は地面に根付いている。まさか目の前に居る子供が自分の本気の一撃を真正面から相殺し、なお且つ自分にここまでの傷を負わせたという事態に、素直に敬意を表す。そして同時に、だがそれでも自分の勝ちは揺るぎないという確信も抱いていた。

 

≪相棒! 終わったぜ! 相棒!≫

「!」

 

 疲れからまともな思考も難しいリュウの頭に、待ち侘びた相棒の声が響いた。その一言で自分の役割を全う出来た事を察したリュウは、力なくラカンへと告げる。

 

「……もう…………終わり、みたいですよ……」

「ああ? ……あぁ……なるほどな、最初からそれが狙いだった訳か」

 

 ただれた景色の遥か向うから、捕えられていたはずの面々が走ってくるのがラカンの目に映った。その中には正気を取り戻したらしいキルゴアの姿と、引きずられるように引っ張られてくる、気を失った頭領の姿もある。

 

「フン。だがこの勝負は、俺様の勝ちだな?」

「……」

 

 血だらけで、ニヤリと笑うラカンの問いに、リュウは答えない。無言はその言葉を肯定しているに過ぎない事はわかっていたが、それでも、認めるのは悔しいという気持ちがリュウにはあった。

 

「……。まぁ……何とか……なった……し……」

 

 リュウは遠方から近付いてくる面々の姿を視界に納めると、自分自身に言い聞かせるようにそう呟き、悔しさと安堵の気持ちを抱えたまま意識を手放すのだった。


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