このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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大変長らくお待たせしました!

今月に入ってからうちのパソコンが起動しなくなりまして、更新どころか何もできない状況になっていました。
悪戦苦闘の末に内臓されてるボタン電池を交換したらアッサリ動くようになりましたが、シロウトの自分にとっては恐ろしいトラブルでした……。
致命傷じゃなかったのは良かったけど、電池切れくらい分かり易く教えてくれよ!


第9訓 美女には裏の顔がある

 ジャイアント・トード討伐クエストをクリアしてアクセルまで戻ってきた銀時たちは、真っ先に公衆浴場へと向かった。アクアと長谷川は生臭い身体と衣服を一刻も早く洗浄したかったし、めぐみんもまたマジックペンでおでこに書かれた『肉』の字を消したかったからだ。

 

「おいお前ら、風呂に入るまでは俺に近づくんじゃねぇぞ。こっちまで変態プレイ仲間だと思われたくねぇからな」

「「「こいつ……いつか絶対に泣かす!!」」」

 

 汗を洗い流すために同行してきた銀時は、彼らの神経を逆なでするような暴言を吐く。1人だけ仲間外れになるのが寂しくてついてきたクセにドSな口撃をしてくるとは、非常にめんどくさいツンデレ野郎である。

 とはいえ、クソリーダーとケンカするのは後でいい。アクア達は早歩きで公衆浴場に到着すると、無言のまま中へ入っていく。

 もちろん混浴ではないので男女別々だ。開放的な気分になったアクアとめぐみんは、女性専用の脱衣所で人目を気にせず服を脱ぎだす。

 

「先に行ってるわよ~、めぐみん!」

 

 早く汚れを落としたいアクアは、素早く真っ裸になるとヌルヌルの服を放置したまま風呂へと駆け込む。

 一方、置いていかれためぐみんもおでこに書かれた文字が気になるため、急いでパンツを脱いでから彼女の後を追う。

 

「私も早く呪いの刻印を消さなくては」

 

 銀時にやられた悪戯書きを洗い落とすべく洗い場へと向かう。そこでは先に入ったアクアが髪を洗っており、めぐみんはその隣に座って目の前にある鏡を覗き込む。

 

「まったく、花も恥じらう乙女の額に『肉』などという生々しい文字を書き込むなんて、頭がおかしいとよく言われる紅魔族の私ですら理解不能ですよ……」

 

 大人気ない銀時の行動に対する怒りを再燃させためぐみんは、自虐的な文句を言いながら髪を掻き分けておでこに書かれている文字を確認する。するとそこには図形のような左右対称の文字が書かれていた。

 

「……あれ? 確か、ギントキは『肉』と書いたと言ってましたけど……」

 

 どう見てもこれは彼女が思っていた『肉』の字ではない。それどころか、彼女の知っている文字ですらない。それもそのはず、銀時が書いた文字はこの異世界で使われていない漢字だったからだ。

 しかし、元ネタのキン肉マンはおろか漢字そのものを知らないめぐみんにはまったく意味が通じなかった。漢字で書かれた『肉』の字は彼女にとって未知の物で、侮蔑の意味が込められているなど分かるはずもない。それどころか、中二病的な効果のある魔法文字のように見えた。

 

「こ、これは……選ばれし者にのみ現れる特殊なルーン文字のようでカッコイイじゃないですか!」

「ぶふーっ! まさか、そう来るとは思わなかったんですけど! 流石はネタに生きてる紅魔族ね!」

 

 予想外の反応を示すめぐみんがおかしくて隣に座っていたアクアが噴き出す。まさか、キン肉マンから生まれた往年のイタズラネタを気に入る者が現れるとは。元ネタを知っている彼女が笑ってしまうのも無理はなかった。

 しかし、事情を知らないめぐみんにとっては面白くない。よく分からない理由で笑われるのも不愉快だし、笑った拍子にプルプルと揺れる大きな胸が余計に忌々しい。

 

「ぐぬぬ~! ご立派な『肉』を持っているからって調子に乗らないでもらいたいですねっ!」

 

 ちょっぴりムカッと来ためぐみんは、自分には無い豊満な2つの塊をムンズと鷲掴みにする。なんですかこれは……まさに圧倒的じゃないですか。アクアの巨乳を直に触って敗北感を抱いてしまうめぐみんだったが、それ以上に嫉妬の炎が燃え盛る。

 

「アクアの『肉』は大きすぎてだらしないですから、もっと引き締めたほうがいいと思いますよ!」

「あいたぁー!? ちょっとめぐみん! 私の胸になにしちゃってくれてんのよ!? そんなに強く掴んだら、ちょー痛いんですけど!? 握りつぶしても引き締まったりしないんですけど!?」

 

 爆裂娘に胸を揉みしだかれて悶絶する水の女神。ご覧のように、この時間の女湯は賑やかかつ艶やかな雰囲気に包まれていた。

 一方その頃、男湯の方ではマダオ2人がむさいオッサンたちと共に汗を洗い流していたが、描写しても誰得なのでバッサリと省略する。

 

 

 風呂から上がった一行は、洗濯した服が乾いた後にギルドへやって来た。クリアしたクエストの報酬を受け取るためだ。初歩的な内容だけに金額は少ないものの、冒険者として初めての稼ぎなのでちょっぴり嬉しい瞬間である。

 

「では、ジャイアント・トードの買い取りとクエストの達成報酬を合わせまして11万エリスとなります。ご確認下さいね」

 

 顔馴染みとなった受付嬢のルナから現金を受け取る。これに昨日貰った報酬を合わせて、今回の収入は合計12万エリスとなった。銀時のパーティは4人なので、山分けすると丁度1人3万エリスとなる。命懸けの仕事にしては安い金額だったが、モンスターが身近にいるこの世界の社会背景を考えればこんなもんだろうと納得もできる。

 そもそも、このパーティの連中が懸念すべき所はそこではなかった。金にがめつい銀時が報酬を分配する点にこそ問題があったのだ。

 

「それじゃあ、各人の取り分を発表しまーす。アクアは3回カエルのエサになったから3000エリス。長谷川さんは1回エサになって1匹倒したから6000エリスってところだな。で、5000エリスの損害を出しためぐみんは、その分賠償してもらうとして、残りは全部俺のモンな」

「「「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」」」

 

 あまりに横暴なリーダーにアクアたちが怒りだす。普段はやられっぱなしな彼らも金が絡めば黙っちゃいない。

 

「なによその偏りまくった分け方は!? あれだけ身を挺した私の報酬がたったの3000エリスだけなんて、どう考えてもおかしいでしょ!?」

「あぁ? なに贅沢言ってんだてめぇは。カエルのエサ代なんざ1回1000円もありゃ十分だろーが」

「私の命めっちゃ安っ!? 高貴な女神をお手ごろ価格な消費アイテムとして扱うなんて、あんたどこまでゲスなのよ!?」

「そーだぜ銀さん! 俺だって結構命張ったのに、なんでカエルの肉代しか貰えねーんだ!?」

「そんなことより賠償ってどーいうことですか!? 爆裂魔法が撃てれば食費と雑費だけでもいいとは思っていますが、流石にマイナスは納得できませんよぉー!?」

 

 アクアのツッコミを皮切りに長谷川とめぐみんも反旗を翻す。こうなりゃもう肉体言語で交渉するしかない。

 受付にいるルナが呆れた様子で見つめる中、4人のバカによる激しい討論(ケンカ)が始まる。

 

「このぉぉぉぉぉ! そのお金をよこしなさいっ!」

「へっ、誰がやるかバカヤロー! これは全部俺のモンだー!」

「あのぉ~、こんなところで暴れられたらとっても迷惑なんですけど……」

 

 困ったルナが控えめな言葉で注意をしてみたものの頭に血が上っているバカ共が聞くわけも無く、野蛮な話し合いはしばらく続いた。

 

「今だ、アクアちゃん!」

「私たちが抑えている間に必殺の一撃を!」

「行っけぇぇぇぇぇ!! ゴッドドライブシュート!!」

「って、それ銀さんのゴールデンボールぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!?」

 

 最後はアクアが動きを封じられた銀時の金た○を蹴って決着がついた。金に目が眩んだ愚かな男は金○まをやられて悶絶し、勝利者となったアクアたちは大事な給料を奪い取ることに成功した。危ない所だったが、今回の報酬は無事に山分けされたのである。

 

「ち、ちくしょう! 俺の持ち金だけでなく金○ままで奪おうとしやがって! テメェら、どんだけ金に汚ぇんだ!」

「それはこっちのセリフだよ! 報酬を独り占めするお前の方がよっぽど金に汚ぇじゃねーか! 碌に洗ってねぇ金○ま並に汚れまくってんじゃねーか!」

 

 まったくもってその通りである。大体、金の使い方が汚い【遊び人】に報酬の管理を任せること自体が間違いなのだ。

 

「ええい! たったの3万ぽっちじゃババァだらけの三流キャバクラでしか遊べねぇ! こうなりゃ次は、もっと高額報酬が貰えるクエストをやんぞ!」

 

 金的攻撃から復活した銀時は、ヨコシマな欲望に燃えながら掲示板へと足を向ける。痛い目に遭ったばかりなのにまったく悪びれていないようだ。アクアたちはその様子に呆れながらも、彼の後についていく。彼女たちもまた自分の欲望を満たすためにクエストを望んでいるのだ。

 

「さぁて、次はどれにするかねぇ……」

「ここは思い切って、一番報酬の良いやつを選びましょうよ!」

「でもよぉ、そういうのってすげぇ危なそうなのばっかだぜ?」

 

 掲示板に張られた紙を見た長谷川がアクアの意見に待ったをかける。手頃な難易度のクエストはすべて午前中に取られてしまっているので、今は碌な物が無いのだ。すべて危険なものばかりで、とてもではないが初心者ができるものではない。

 しかし、自身の使う爆裂魔法に対して絶対的な自信があるめぐみんは、あえて無謀なクエストを選択する。

 

「ギントキ、ギントキ! これにしましょう! 最近人里の近くで目撃されているという巨大熊の討伐クエストを……」

「バッキャロウ! テメェは熊の恐ろしさをまったく理解しちゃいねぇ! 熊ってヤツはなぁ、少しでも対処法を間違えれば命取りになるほどヤベェんだよ! 【しろ○まカフェ】や【く○みこ】の末路を見ればその恐ろしさがよく分かんだろ!」

「いや、【しろ○まカフェ】や【く○みこ】というものがそもそもよく分からないのですが……」

 

 何やら危険な臭いのするクエストなので全力で却下する。大体、熊と戦うなんておっかねぇじゃねぇか。俺は坂田銀時であって、ガキの頃に熊と相撲した坂田金時じゃねぇんだぞ。なんて事を思いながら、楽して儲けられそうなものを探す。

 

「それよりもこっちの方がいいだろ」

 

 そう言って銀時が指差した紙には『魔法実験の練習台探してます。要強靱な体力か強い魔法抵抗力に自信のある方』と書かれていた。

 

「これならバカなアクアでも簡単にできるし、俺たちも安全だぜ?」

「ええそうね、なんて言うわけないでしょ!? 私だけ滅茶苦茶危険なんですけど、なんで私ばっかりこんな役なの!?」

「そりゃあ、お前が転生特典として手に入れた【道具】だからに決まってんだろ? ちゃんと俺のアイテム欄にお前の名前が表示されてるぜ? ダメガミ・アクアってな」

「なにそのドSなウインドウ!? この私がアイテム扱いだなんて、いったいどーいうことなのよ!? 女神の私に人権は無いの!? ホイミンどころかやくそう程度の扱いなの!? というか、ファミコン風のカタカナ表示が余計にイラッと来るんですけど!?」

 

 改めて現実を突きつけられたアクアは、元気にツッコミを入れながらも恐怖する。このままではこのドS野郎に身も心もしゃぶりつくされてしまう。天邪鬼な銀時としては『生活力ゼロなお前の面倒を見てやってんだからそれなりに恩を返せ』と思っているだけなのだが、表面的な態度だけを見ていると鬼畜なクズ野郎でしかないので、アクアが危機感を抱いてしまうのも無理はなかった。

 更に迷惑なことに、彼らの会話を聞いていた長谷川たちが良からぬ妄想を抱いてしまう。

 

「あっ、やべぇ……銀さんがアクアちゃんを【道具】として使ってる様子を想像したら、なんだかムラムラしてきた……」

「ま、まさか!? ギントキとアクアはそんな爛れた関係だったのですか!?」

「ちょっ!? 違うわよ!? 2人がナニを勘違いしたのかは詳しく聞かないけど、私たちはとっても清い関係だからね!? 私は高貴な女神様で、こいつはしがない下僕だからね!!」 

「という設定で、強者と弱者の立場が逆転するってシチュエーションのSMプレイを楽しんでいるんだぜ?」

「……不潔ですね」

「そんな分かりやすい嘘をあっさり信じないで欲しいんですけど!?」

 

 劣勢に追い込まれたアクアは、めぐみんから送られてくる軽蔑の視線に焦る。

 違うのよめぐみん! この私は清らかなる水の女神なんだからね! ポカリ○エットのようにちょっと濁った水じゃなくて、どこまでも透き通った汚れ無き天然水なんだからね!

 そう言い訳しようかと思ったが、諸悪の根源をどうにかしなきゃ意味が無い。水の女神としてのプライドを懸けて魔王のようなドS野郎に立ち向かう。

 

「とにかく私は、あんたなんかに束縛されたりしないわよ! 我々は、ジャイアン以上に横暴なリーダーに対して待遇の改善を要求する!」

「あっテメッ、神様のクセに俺との契約を破るつもりか!?」

「そんな契約、結んだ記憶はありません~!」

「コイツっ、都合が悪くなった政治家みてぇなこと言いやがって! それでも女神かコノヤロー!!」

「あんたこそ、女神の私を魔法の実験台にしようとするなんて! それでも主人公かバカヤロー!!」

 

 売り言葉に買い言葉で口汚いケンカを始める2人。非常にみっともない光景だったが、誰も止めようとはしない。長谷川にとってはいつものことだし、変態プレイの一環だと思ってるめぐみんは変な想像をして顔を赤くするばかりである。

 しかし、そんな近寄り難い空間に自ら飛び込む勇者が現れる。

 

「ならば私が、あなたの代わりに魔法の実験台となろう」

「……ほぇ?」

 

 凛とした女性の声が聞こえたのでそちらに顔を向けると、そこには金髪の女騎士・ダクネスがいた。数日前、焼きそばパンを買いに行かせたきり音沙汰が無かった彼女が再び舞い戻ってきたのだ。

 銀時たちにとっては久しぶりの再会で、めぐみんとは今回が初めての顔合わせである。当然気になったので、いきなり現れたダクネスについて聞いてくる。

 

「ねぇギントキ、この人は何者ですか?」

「何者もナニもコイツはタダの通りすがりの変態だ。知り合いと思われたくねぇから全力で無視しとけ」

「了解です。道端に転がっている石コロだと思うことにします」

「くはぁんっ!? 2人揃って見事なまでのドS口撃!!」

 

 もはや師弟の関係になりつつある銀時とめぐみんのドS対応に悦んでしまうダクネス。辛辣な行動も彼女にとってはご褒美でしかなかった。ぶっちゃけ、ロックオンされている銀時としてはこれ以上係わり合いになりたくない人物である。だが、魔法の実験台にされそうなアクアにとっては渡りに船だった。

 

「ところでダクネス。私の代わりに魔法の実験台になってくれるって話は本当かしら?」

「ああ本当だとも! 私は防御系と挑発系のスキルに全振りしているからな。たとえ爆裂魔法の直撃を受けても耐えられる自信があるぞ!」

 

 危険を承知で名乗り出たダクネスは、アクアの質問にイイ笑顔で応える。ドMな彼女にとっては爆裂魔法でさえ快楽を得るための手段でしかなかったのである。しかし、愛する魔法を軽く見られためぐみんにとっては聞き流せる話ではない。

 

「ほう、それは聞き捨てなりませんね。我が最強の爆裂魔法に耐えられる者がいるなど、到底信じられません」

「ならば直に確かめてみるか?」

「ふっ、望むところです!」

「いや、むしろ私の方こそ望むところだ! 最強の攻撃魔法と謳われる爆裂魔法を受けた私は、今だかつて味わったことのない痛みを強いられることだろう! 更に、鎧や衣服は魔法の衝撃で無残にも吹き飛び、裸同然となった私の身体は周囲で見物していたむくつけき男達のいやらしい視線に晒されて心すらも辱しめられてしまうのだ! ああっ、想像しただけでもゾクゾクするっ!!」

 

 爆裂魔法を食らった状況を想像して身悶えるダクネス。その様子を見た長谷川は、ちょっぴり興奮しながら銀時に忠告する。

 

「なぁ銀さん。この子、想像以上にヤバイんじゃね!? エロい妄想が少年誌の限界を突破しそうなんだけど!?」

「ああ、どうやら俺たちは異世界のエロ文化を舐めていたかもしれねぇな。触手プレイとか普通にやってそうだから、もしかするとTo LOVEる以上にエロい展開も有り得るぜ」

「おいマジかよ!? 小学生すら裸にしちまうTo LOVEる以上にエロくなったら、もはやR-18作品じゃねーか!?」

「ああそうだ。俺たちは今、エロ表現の先駆者である矢吹健○朗を超えて少年誌の限界に挑戦するのだ!」

「そんな挑戦、この私がやらせないわよ!?」

 

 いい年こいて中学生みたいな話題で盛り上がるオッサンどもにアクアが噛み付く。自称女神としては、悪魔っぽい美少女が活躍する漫画を認めるわけにはいかないのだ。

 まぁ、現時点で気にするべきは別の意味でR-18作品にしてしまいそうなドM騎士の動向についてなのだが。

 

「それにしても、我が主に会いに来た矢先に爆裂魔法で吹き飛ばされる機会が訪れようとは、何たる僥倖! やはり、我が主にこの身を捧げることを選んだ私の決心に間違いはなかった!」

 

 銀時たちが言い争っている間に我に返ったダクネスは、自身に舞い込んだ幸運を喜ぶ。彼女もまた、めぐみんと同じくポジティブ思考のメンドイ女だった。

 

「おい、メス豚! 俺はテメェを下僕にすると認めた覚えはねぇぞ? こちとら既に駄女神一匹飼ってんだからな! 焼きそばパンすら買ってこれねぇ役立たずを養うほどの余裕は無ぇよ!」

「ちょっ!? 私ってば飼われてたの!?」

「アイテム扱いよりはいいだろ? 物から生物にクラスチェンジ出来たんだから」

「まったくもって良かないわよ!? アイテムからペットになったところで根本的にアウトでしょ!?」

 

 勝手に話を進めるダクネスにムカッとして銀時が言い返す。そのセリフに対してアクアが何かを言っているが、彼女のたわごとを聞いている場合ではない。

 考えてみて欲しい。もし猿飛あやめが神楽並に出番があったら……銀魂は変態仮面並みのアブノーマル漫画と化してしまうだろう。流石の銀時もパンティーを被るような主人公と同列にはなりたくない。

 

「(俺の面子を保つためにも、コイツをレギュラー化するわけにはいかねぇ!)」

 

 思いっきり自分のために並々ならぬ決意を固める。しかし、事態は彼の思い通りには進まなかった。

 

「それならば問題ない。私はあなたの命令通りにヤキソバパンを手に入れて来たのだからな!」

 

 そう言うとダクネスは、右手に持っていたバスケットを持ち上げた。そして、上にかかっている布を取ると、そこには焼きそばパンが3つ入っていた。それも、銀時たちがいた世界の物とまったく同じに見えるほどの完成度である。

 

「えっウソ、ホントに買って来ちゃったの!? 冗談で言ったのに、マジで焼きそばパンが存在してんの!? そんなの出てきたらファンタジー感台無しなんですけど! 昼休みのハイスクール感丸出しなんですけど!」

 

 あまりに意外なアイテムの出現に銀時は驚く。まさか、冗談で言った物が本当に売っているとは思わなかった。異世界にも炭水化物と炭水化物を合体させるクレバーなヤツがいるんだなと変なところで感心してしまう。だが、よくよく考えれば特に不思議な話でもない。恐らくは、焼きそばパンを知っている他の転生者が作ったのだろうと思いつく。

 実際は少し事情が異なるのだが、そんな事など知るよしも無い銀時たちは勝手に納得して話を進めていく。

 

「何だかとってもイイ匂いですね~。初めて見ますが、この食べ物はなんですか?」

 

 うろたえる銀時を他所にバスケットを覗き込んでいためぐみんが興味深そうに尋ねてくる。ちょっぴり腹ペコキャラの属性もある彼女は、食欲を刺激する匂いに反応してすぐさまロックオンしたのである。

 更に、食い意地の悪さに定評のあるアクアも狙いを定めてきたからさぁ大変。食欲に逆らうことなく目の前の獲物に手を伸ばす。

 

「へぇ、美味しそうな焼きそばパンね。味の方はどうなのか私の舌で確かめてあげるわ!」

「とか言いながら全部持ってくんじゃねぇ!?」

「そうですよアクア! 独り占めなんて許しません!」

 

 暴挙に出たアクアに銀時とめぐみんが怒って、ついに焼きそばパン争奪戦が勃発してしまう。

 

「オラオラァァァァァ! 俺の焼きそばパンを返しやがれぇぇぇぇぇ!」

「うりゃうりゃぁぁぁぁぁ! 私のヤキソバパンを返してくださいぃぃぃぃぃ!」

「うにゃーっ!? ほっぺたいひゃいぃぃぃぃぃっ!?」

 

 ケチな銀時と腹ペコなめぐみんにほっぺたを引っ張られる駄女神アクア。それでも、手に掴んだ焼きそばパンを必死に守る彼女に流石の長谷川も呆れてしまう。しかし、2人のSに攻められているアクアを見たダクネスは逆にテンションを上げまくる。

 

「くぅっ! アクアばかりずるいぞ! この私の顔も激しくつねりまくってくれ!」

「ちょっ、君だけ目的違うんですけど!? 焼きそばパンそっちのけで快楽というご馳走を貰いたがってるんですけど!?」

 

 ドM騎士の参戦により掲示板の前は更にカオスな状況になっていった……。

 

 

 数分後。不毛なケンカに疲れた3人は、仲良く1個ずつ分け合うことで決着を付けた。最初からそうしろと言いたいところだが、バカに正論を言っても『この世は弱肉強食なんだよバーロー』と返されるだけである。

 しかし、焼きそばパンを食べ終えた3人は、憑き物が取れたように満ち足りた表情になった。

 

「「「大変美味しゅうございました」」」

「あれ、なんかキャラまで変わってね?」

 

 先ほどまでの殺伐とした雰囲気などどこへやら、急に行儀が良くなった銀時たちを不審がる。一体彼らにナニが起こったのだろうか。

 

「あの……さっきは焼きそばパンを独り占めしようとしてゴメンね」

「いや、今更謝らなくてもいいさ。あれだけ美味い焼きそばパンなら全部食いたくなる気持ちも分かるぜ」

「それに、最後は仲間全員で幸せを共有できたのですから結果オーライじゃないですか」

「ええそうね! 美味しい焼きそばパンのおかげで私たちの絆は更に深まったわ!」

「ああ、俺たち3人は最高のパーティだ!」

 

 同じ感動を味わって感極まったバカどもは、イラッとするほど爽やかな笑顔を浮かべて手を重ねあう。その様子を見ていた長谷川は、さりげなく仲間はずれにされていることに気づいて憤慨する。

 

「おーいっ!? そのパーティの中に俺が入っていないんだけど!? 爽やかなフリして仲間の1人をハブってるんだけど!? マダオにだって寂しいって感情はあるんだから、そーいうの止めてくんない!?」

「私はむしろ放置プレイのようで心地いいぞ!」

「ドMと一緒にすんじゃねぇよ! 俺はこれでもノーマルなんだ! 好きで永遠の夏休みという地獄を満喫してるわけじゃねーんだぁぁぁぁぁ!!」

 

 ドMから羨望の眼差しを向けられて自身の境遇を嘆く長谷川であったが、そんなことはどうでもいい。哀れなマダオを無視して焼きそばパンの入手先に興味を持ったアクアが新たなアクションを起こした。

 

「ねぇダクネス、この焼きそばパンはどこで買ったの?」

「ああ、そのパンはこの街にある【ウィズ魔道具店】というところで購入したんだ」

「え……魔道具店? なんで魔道具店なんかで食べ物が売ってるの?」

 

 いざ聞いてみたら怪しげな展開になってきた。主に対モンスター用のアイテムを扱っている魔道具店で売っている食べ物なんて、どう考えても怖すぎるだろう。

 

「なぁめぐみん。魔道具店って人間の食べモンも売ってんの?」

「いいえ、そんな話は聞いたことがありません。でも、小型のモンスターやネズミを駆除するための毒エサは売ってますね……」

「おぉぉぉぉぉい!? さっきの焼きそばパン大丈夫なのかよ!? やたらと美味かったのは変なモンが混ざってたせいじゃねぇのか!?」

「ちょっ、変なモンってなんですか!? まさか、本当に毒が入ってたというのですか!?」

「イヤぁぁぁぁぁ!? 焼きそばパンで死んだ女神とか後世に語られたくないんですけどぉぉぉぉぉ!?」

 

 恐怖に駆られたバカどもが仲良く焦りだした。確かめる術が無ければ根も葉もないデマも真実となってしまうのである。

 

「こんの駄女神ェェェェェ!? テメェがみんなで分けようなんて言い出すから、俺まで食っちまったじゃねぇかぁぁぁぁぁ!?」

「えぇぇぇぇぇぇ!? なんで私のせいにされるわけ!? 元々アレはあんたの物でしょ!?」

「違いますー! テメェが手に持った時点で所有権はソッチにありますー!」

 

 さっきまで仲良くやっていたのに一瞬ですべてが台無しとなってしまった。残念ながら、こいつらの友情などこの程度であった。

 とはいえ、このまま暴走させっぱなしでは話が進まないので、ダクネスが助け舟を出す。

 

「落ち着けみんな! それには毒など入っていない! 私も期待して店主に聞いてみたのだが、普通のパンだと言っていたぞ!」

「いや、どこに期待してんだテメェは!? もうそれドMを超えちゃってるだろ! 画面が緑色になるだけじゃ済まねぇだろソレ!」

「でも、毒が入ってないことが分かって一安心です……」

 

 さりげなく危険なことを言っているダクネスはともかく、焼きそばパンの方は安全らしいので何よりである。

 

「それにしても女神の私に死の恐怖を与えるなんて、一言文句言ってやらなきゃ気が済まないわ!」

 

 女神らしからぬ醜態を晒す羽目になったアクアは魔道具店の主に怒りをぶつける。すべての原因はアークプリーストの力で毒を中和できることを忘れていた自分のせいなのに、とんだクレーマーである。

 

「まったく、転生者のクセに恩ある私を困らせるなんて……」

 

 大人気無いアクアは身勝手に責任転嫁して愚痴り続ける。その時、自分で言った言葉にハッとなった。そうだ、あの焼きそばパンを作ったヤツは転生者かもしれないのだ。そしてソイツは、チート能力を与えてあげた女神様に迷惑をかけた。

 

「(これはもう、私に対して誠心誠意の謝罪(慰謝料)が必要よねぇ……)」

 

 悪知恵を働かせたアクアは、いやらしい笑みを浮かべる。茂茂の時は失敗したけど、被害者(?)となった今度は上手くいくはずだ。もう既にたかる気満々となった駄女神は、すぐさま行動に移る。

 

「銀時! 明日のクエストは中止して、その魔道具店に行くわよ!」

「あぁん? なんだよ急に? もしかして、さっきの焼きそばパンが気に入ったのか? 仲良し高校生じゃあるめぇし、んなもんテメェだけで買って来いよ。俺はもう、焼きそばパンなんざとっくの昔に卒業してんだからよ。つーか俺、購買のパンを自分で買いに行ったことなんて一度も無いし~? 大体、ヅラとか辰馬に行かせてたし~?」

「こいつ! 今、さらっと昔の悪事をぶっちゃけやがった!」

 

 アクアと違って魔道具店の主に興味がなかった銀時は、鼻をほじりながら適当に答える。確かにあの焼きそばパンはクセになりそうなほど美味かったが、食いたくなったらパシリ1号のダクネスを買いに行かせればいいだけだ。

 

「ちなみにお前はパシリ2号な」

「私に拒否権は無いのでしょーか!? っていうか、そんなことはどうでもいいわ! 今は大金をゲットできるチャンスなんだから!」

「あぁ? そりゃどーいう意味だ?」

「考えてもみなさいよ! 転生者の可能性が高いその魔道具店の主は店を持てるほど金持ちなのよ? たぶん、私が与えたチート能力で荒稼ぎしたからに違いないわ! つまり、この私には感謝してもしきれないほどの大恩があるわけだから、私が頼めば喜んで資金援助をしてくれるはずだわ!」

「おお、なるほど。お前、結構頭良いな」

「ふふ~ん! 当然の賛辞ね!」

「いやいや! ものすげぇ頭の悪いアイデアだよソレ!? 女神じゃなくて悪魔が考えそうなことだよソレ!?」 

 

 クズ過ぎる仲間たちに長谷川のツッコミが入る。こいつらマジで最悪だよ。一緒にいるだけでも恥ずかしい史上最低な兄妹だよ。

 

「ところでギントキ。さきほどから転生者という単語が普通に出ていますが、そんな存在が本当に実在するのですか?」

「ああいるぜ。何を隠そう、この俺様は大魔王バーンを倒した伝説の勇者が転生した姿なのだ!」

「ウソつけぇぇぇぇぇ!? なんでダイが天パのマダオに転生すんだよ! お前なんか、ダイが出した大便みてぇなモンだろーが!」

「んだとコラ!? マジでウ○コそのものになったテメェと一緒にすんじゃねぇよ!」

「あーそれ言っちゃう!? 忘れようとしてたのに、人のトラウマ掘り返しちゃう!?」

 

 めぐみんの質問を切欠に汚いケンカを始めるマダオたち。その様子を見た彼女は説明を聞くのが面倒くさくなり、結局、転生者の存在はうやむやになるのであった。

 ただし、魔道具店の主に会うことは決定した。どうしてもいい思いをしたいアクアが駄々をこねたため、明日の朝からウィズ魔道具店へ行くことになったのである。

 そして、店までの案内役としてダクネスも同行することが決まった。

 

「では改めて、今日からパーティに加わることとなったダクネスだ」

「はい、これからよろしくお願いします!」

「私の従者として歓迎するわ!」

「いやぁ、ドMなのはアレだけど、オッパイ担当としては合格だぜ!」

「って、勝手にドMを迎え入れてんじゃねぇ!?」

 

 何だか知らないうちに不条理な強制イベントが発生していたらしいが、こうして銀時パーティに厄介な仲間が加わってしまった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 時間は飛んで翌日の朝。ギルドに集まった銀時たちは、朝食を取ってからウィズ魔道具店へ向かう。昨日までは興味の無かった銀時だが、店主と上手く付き合えればキャバクラ代くらい奢ってくれるかもしれないと思い直したのである。

 ちなみにカズマは、桂たちとパーティを組んで初クエストに挑戦しているためこのイベントには参加していない。恐らくは、桂の強運が引き寄せたトンデモイベントに巻き込まれることになるだろうが、ギャグ補正があるから死にはしないだろう。

 

「ヅラっちはああ見えて面倒見が良いからな。カズマ君もしっかり鍛えてもらえるだろ」

「ああそうだな。アイツがバカの仲間入りする日もそう遠くないだろう」

 

 店へ向かう道すがら、この場にいない桂パーティを話題にして盛り上がる。寝坊した銀時たちを置いて先にギルドへ来ていためぐみんも出発する前の彼らと出会ったらしく、話のネタを提供する。

 

「エリザベスの話ではかなり報酬の良い仕事らしいですよ。カズマの顔が恐怖で引きつってましたから、相当ヤバイ内容なのでしょう。でも、カツラたちが一緒にいるから何が起きても大丈夫だと思います。なにせ、モンスターすら魅了してしまうほどの実力を持っていて『ドラゴンも股を広げる』と噂されていますから」

「ちょっ、なにそのアブノーマルな逸話!? なんかドラゴン発情してんだけど!? 金持ちにロックオンしたキャバ嬢みたいになってんだけど!? そこは『ドラゴンもまたいで通る』的な話じゃないの!? スレイ○ーズ的なオマージュするとこじゃないのーっ!?」

 

 めぐみんからもたらされた情報はあまり聞きたくないものだった。桂たちの武勇譚(?)はこの異世界でも着実に広まりつつあるようだ……。

 そして、そんなバカどもと行動することになったカズマは酷い目にあっているらしい。変人の無茶振りに付き合わされるはめになった彼はいと哀れだった。しかし、彼らと同じくらい変人な銀時たちが、この程度のことで同情するわけが無い。それどころか、まとまった金が入る予定の彼らにたかる気満々である。

 

「まぁ、ヅラがモンスターとナニしようがどーでもいいとして、クエストの報酬が良いってんなら今日の晩飯はあいつらの奢りだな」

「ええそうね。丁度帰ってくる時間を狙ってギルドに戻りましょう」

「ダメだこいつら……どいつもこいつもナチュラルにクズだぜ」

「そこが2人の良いところではないか!」

「ドMの常識なんて聞いてねぇよ! つーか、このパーティに常識あるヤツ1人もいねぇ!」

 

 店へ向かう道すがらバカな会話で盛り上がる。ちょっと聞いただけでもコイツらの駄目さ加減がよく分かる内容である。そんなバカどもに目を付けられた魔道具店の主もかなり幸運が低いようだ。ダクネスの説明では20歳くらいの美女らしいが……。

 

「みんな、店に着いたぞ」

 

 桂たちの奢りで何を食うか話し合っていると、ダクネスから声がかかった。彼女が指差す先には、確かに小さな店がある。それは、同じような作りの建物が立ち並ぶ路地裏にぽつんとたたずむ【ウィズ魔道具店】だった。

 

「ここがウィズとかいう女のハウスね!」

 

 目的地に着いた途端、アクアがすっごい活き活きとしてきた。流石は悪名高きアクシズ教の御神体である。身勝手な理由で恨みを晴らしにきたこの少女が本物の女神さまだとはエリス教の信者には到底信じられまい。

 

「ふぅん……思ってたより儲かってなさそうだけど、出来る限りふんだくってやるわ!」

「お前絶対女神じゃないだろ? 言動が、かぶき町にいる女共と一緒だもん」

 

 とても人様には聞かせられないセリフを吐きながら店のドアを開ける駄女神。

 

「覚悟しなさい、女神の怒りが篭ったありがた~い天罰を直に味わわせてあげるんだから!」

 

 実に迷惑極まりない事を言いながら店内を見ると、品出しをしている1人の女性が目に映る。ウェーブのかかった長い茶髪と素晴らしい巨乳を持った儚げな印象の美女だ。見るからに優しい雰囲気を醸し出しており、まるでアクアとは正反対な存在である。

 

「いらっしゃいませ~!」

 

 その巨乳美女は、アクアたちに気づくと朗らかに挨拶してきた。どうやら彼女がこの店の主を務めているウィズらしい。そう判断したアクアは、話が早いとばかりに早速文句を言おうとした。しかし、その直前にとある異常に気づいて目を見開く。

 

「あ―――――――――っ!?」

 

 何かに驚いたアクアは、ウィズと思われる女性店主を指差して大声を上げる。この女はまさか……!

 

「どうした駄女神。そこにいる巨乳美女を見て、いかに自分が汚れているか思い知ったか?」

「そんなんじゃないわよ!? っていうか、アイツの方が汚れまくってるんですけど! 心はおろか魂までも汚れまくってるんですけど!」

 

 銀時に茶化されたアクアがおかしな事を言い出した。普通に聞けば苦し紛れの悪態でしかないが、彼女の言っていることは半ば当たっていた。

 

「人間的にも社会的にも死んでる【リッチー】が白昼堂々街の中に現れるとは不届きなっ! 女神である私の手で成敗してやるっ!」

「きゃああああああああああ!?」

 

 何を思ったのか、とうとうアクアが暴挙に出た。有無を言わせず店主の襟元を掴むとガクガク揺さぶり始めたのだ。

 

「やめてぇぇぇぇぇ!? 乱暴はやめてくださいぃーっ!?」

「リッチーの分際でナニ言ってくれちゃってんの!? やめてと言われてやめてやるほど神様は甘くはないわ! 大体、女神たるこの私が不浄なアンデッドを見逃すはずはないでしょう! 悪魔に魂を売っておいて神には1エリスもよこさない背信者なんか、女神の拳で消しとば……」

「落ち着け駄女神ェ!!」

「ぱぎゅっ!!?」

 

 興奮してゴッドブローを放とうとしたアクアの頭部に銀時のゲンコツが振り下ろされる。

 

「せっかくの金づるに何してくれちゃってんだテメェは!? 確かに、貧乏なテメェがリッチなヤツを見ただけでイラッと来るのは分かるけど、いきなり殴りかかるのは大人げ無ぇだろ! 暴力だけでは何も解決しないってことをいい加減理解しやがれ!」

「問答無用で私を殴ったアンタに言われたくないんですけど!? っていうか、コイツはリッチじゃなくてリッチーなのよっ!? タダの金持ちじゃなくてリッチーなのよぉっ!!」

 

 痛む頭をさすりながら店主の正体をバラすアクア。それを聞いた本人も激しく動揺しているので、どうやら駄女神の言っていることは当たっているようだ。

 

「あわわわ、どうしましょう! おっかない人にバレちゃいました……!」

「えっ……バレたということは、本当にあなたはリッチーなのですか!?」

「はいそうです……私はリッチーのウィズといいます」

 

 正体が発覚してしまったウィズは、めぐみんの問いかけに対して正直に答える。いきなりアクアに襲われて動揺したものの、本人は特に隠す気など無いようだ。どうやら見た目の印象通り素直な性格らしく、事情がよく分かっていない銀時と長谷川は好印象を抱いた。

 

「なんだ、アクアちゃんは悪魔みたいなヤツだって言ってたけど、話してみたら結構良い子じゃねぇか。オッパイもでかいし」

「ああそうだな。ナイスバディの美女だから不二子ちゃん的な小悪魔系なのかと思ったけど、人当たりも良くて最高の女じゃねぇか。オッパイもでかいし」

「いやぁぁぁぁぁ!? 堂々と私の胸見て変なことを語らないでくださいぃぃぃぃぃぃ!?」

「っていうか、こんなだらしないデカ乳ごときで私の言葉を流さないでほしいんですけどっ!?」

 

 エロ心丸出しのオッサン共にアクアがつっこむ。マダオたちにとっては巨乳美女の姿であれば大抵はオッケーなのだ。しかし、相手の恐ろしさを知っているめぐみんとダクネスは、セクハラを注意するのも忘れて体を震わせる。

 

「まさか……冒険者の拠点である街の中にリッチーがいるなんて……」

「どうしためぐみん。リッチーとやらが街にいたらマズイのか? エリザベスがいる時点で何でもアリだと思うんだけど」

「それとこれとは話が別です! 大体、リッチーというのはアンデッドの王と言われる伝説級のモンスターですよ? 高レベルの上級職が束になっても勝てるかどうか分からないような存在が何で魔道具店を経営しているのか分かりませんが、いざ襲われたら私たちなどひとたまりもありません!」

「なん……だと……」

 

 詳しく聞いてみたらとんでもない話だった。それが事実なら彼女たちが恐れるのも頷ける。あのダクネスすらも震えているのだから相当な大物なのだろう。

 

「私としては、手も足も出せず無残に敗北するのもアリだと思うが!?」

「ドMは黙って筋トレしてろっ!」

 

 ダクネスが震えていたのは、恐怖からではなく変態的な悦びを感じていたせいらしい。彼女を基準に行動したらこちらの身がもたなそうだ。

 実際、リッチーとは恐ろしい存在なのだ。歴戦の勇士である銀時は、めぐみんのセリフからその気配を感じ取っていた。

 

「ところでお前、さっきアンデッドとか言わなかった?」

「はい言いましたよ? リッチーはノーライフキングとも呼ばれる最強のアンデッド……ようするに死者たちの王様です!」

 

 めぐみんから説明を聞いてリッチーの正体を理解した銀時は顔を青ざめさせた。ぶっちゃけると彼は怪奇現象の類が極度の苦手なのだ。つまり、ホラー的な存在であるウィズは彼にとって天敵とも言える女性だった。しかも、女神が敵意をむき出しにするほどの危険なモンスターだというのなら、一切躊躇することはない。やられる前にぶっ飛ばすのみである。

 

「金持ちと幽霊は俺の敵じゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? なんですか、その偏見に満ちた敵意の向け方!? それに私はお金持ちじゃありませんってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 急に手の平を返してきた銀時に襲われるウィズ。彼は自分の嫌いな物に対してまったく容赦が無かった。

 必死に無抵抗を貫くウィズに銀時の洞爺湖が迫り来る。本来なら駄女神の暴力から守ってくれる主人公に攻撃された彼女の運命やいかに!

 


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