このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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第4訓 ブリーフ派でも胸を張れ

 世界すら超えた腐れ縁によって桂小太郎との再会を果たした銀時一行は、更にもう1人の知り合いと対面する。その人の名は徳川茂茂。江戸時代末期の将軍として激動の時代を生き、志半ばでこの世を去った傑物である。

 

「「しょ……将軍かよォォォォォォォォォ!!?」」

 

 予想もしていなかった邂逅に銀時と長谷川は驚く。しかし、その大半は喜びでもあった。それも当然だ。最後を看取ることもできずに死に別れた友と再会できたのだから。

 

「どうだ銀時、俺の言った通り驚いたであろう?」

「ああ……こいつぁ、チョコボールで金のエンゼルが出るよりも驚きだぜ」

「その例えはどうかと思うけど、これには俺もビックリだよ……」

「さもありなん。生きて死人と再会するなど青天の霹靂だからな。かく言う余も、桂と再会した時は狐につままれた心地になったものだ」

「それはこちらも同じこと。あの時は、異世界転生モノが時間逆行モノになったのかと思ったぞ」

「女神にツインファミコン頼んだお前は精神だけタイムスリップしちゃってるよ! 『僕街』の悟みたいにリバイバルしまくってるよ!」

 

 空気を読まない桂につっこみを入れつつ茂茂の方を見る。相も変わらず真面目な彼は、過去の記憶と同じようにバカ丁寧な口調で答える。

 

「(間違いねぇ、確かにこいつは将軍さまだ)」

 

 生前と変わらないやり取りに懐かしさを感じて柄にもなく感傷的になる。しかし、自身の頭髪と同じく捻くれ曲がった性格をしている銀時は、いつもの腑抜けた顔で小さな笑みを浮かべるだけだった。

 それに今は、現状について聞きたいことがたくさんある。

 

「ところで、さっきから気になってしょうがねーんだけど、なんであんたはドラクエⅢの勇者みてーな格好してんだ? もしかして、上様はロト派だったの? 俺たち天空派のライバルだったの?」

「いいや。余もまた、お前と同じく天空シリーズを愛好している。だが、Ⅲの勇者の父君であるオルテガ殿には、同じブリーフ派として特別な思い入れがあってな。息子である勇者の格好をすることで、偉大な彼を超えてみせるという決意を表現してみたのだ」

「リスペクトの仕方間違ってるよ!? オルテガなんてパンツ一丁の変態じゃねーか! 勇者の父親っつーより覆面パンツの露出狂じゃねーか!」

 

 理由を聞いてみたら微妙な答えが返ってきた。よりにもよってパンツ怪人をリスペクトした結果だったとは……。

 ちなみに、彼がイメチェンした理由には、この世界に髷を結える人物がいなかったことも大いに関わっている。その事実を確かめて、異世界であるここに侍は存在しないと実感した彼は、武家の証である髷を切ると決心した。

 

『たとえ髷を失おうとも、武士としての誇りは我が魂と共にあり続ける。ならば、それで十分だ』

 

 国を守護する征夷大将軍ではなく、徳川茂茂という一介の冒険者としてこの異世界の人々を守っていく決意を固めた彼には、もう髷など必要なかった。ただし、彼のコスチュームがドラクエⅢの勇者へ行き着いたのは武士とか将軍とかまったく関係なくて、彼個人のブリーフに対する異様な愛着ゆえだったが。

 

「ったく、あんたのブリーフ好きは筋金入りだな。ここまで来ると、刹那のガンダム愛すら敵わねぇよ。もはや愛を超え、憎しみも超越し、『俺はブリーフだ』状態だよ」

「ふっ。代々もっさりブリーフ派の徳川家にとっては最高の褒め言葉だ」

「こりゃマジで、とんでもねぇブリーフバカだな……」

 

 流石の銀時でも呆れるほどに茂茂とブリーフは切れない因果で繋がっている。異世界に転生しても彼のトレードマークは健在だった。

 

「しかし、銀時。お前ほどの男が死んでしまうとは、一体何があったというのだ? 桂からは江戸の治安も落ち着いたと聞いていたが……」

「えっ? えーっと、それはですねぇー…………あっ、そうそう! ある日突然、かぶき町を消滅させようと画策した破面(アランカル)虚圏(ウェコムンド)から攻めて来ましてね? 主人公の銀さんは、最終決戦を前に習得した『最後の月牙天衝』で奴等の首領・藍染惣右介を見事討ち取ったんだけど、代わりにすべての霊力を使い果たしてそのまま死んじまったってわけなんですよねぇー!」

「なんと……この2ヶ月の間にそのようなことが起きていたのか」

「いやいや、騙されちゃダメだよ将軍さま!? そいつら来たの空座町だから! かぶき町にはピッコロっぽい酔っ払いしか来てないから! つーか、銀さんの死亡原因はそんなオサレなもんじゃねーだろ! 俺よりダサい最後だったろ!」

「あっ、てめっ、俺が咄嗟に考えたオリジナルストーリーを台無しにすんじゃねーよ! 久保○人先生みてーな力作だったのによぉ!」

「みたいっつーか、まんまBLEACHだったじゃねーか!」

「そーいうのはオマージュって便利な言葉で誤魔化しゃいいんだよ! 大体、そんな細けぇこと気にしてたら、パクリ上等の銀魂なんか欠片も作れねーじゃねーか! レギュラーキャラなら空気読んでスルーしろや! ゴリラ原作者もそう思ってるから!」

「それ主人公が言ったら一番ダメなヤツじゃね!?」

 

 奇跡的な再会だというのに、いつものバカ騒ぎを始めるマダオたち。そんな彼らの後ろで呆れた表情をしていたアクアは、頃合だとばかりに前に出てくる。

 

「はいはい。くだらないコントはその辺にして、そろそろ私にも話をさせなさいよ」

「あぁ? まさか早速、ハニートラップでも仕掛ける気か?」

「違うわよ!? 私は真面目に挨拶しようとしてんの! ……彼のことはちゃんと覚えていたからね」

 

 そう言うとアクアは、本当に真面目な顔で茂茂と対面する。

 

「久しぶりね、徳川茂茂」

「恐悦至極にございます、アクア様。よもや再び、ご尊顔を拝し奉るとは思いもよりませんでしたが、ご鄭重なる御言葉を賜り、身に余る光栄です」

「ふふ、そう畏まらなくてもいいのよ?」

 

 なんと、茂茂と話すアクアはとっても女神らしかった。外見だけは完璧な美少女なのでイラッと来るほど様になっている。しかし、彼女の本性を知ってしまった銀時たちにとってはギャグ以外の何者でもなかった。

 

「ぶふー! 救いようのない駄女神が、救いの女神を演じてやがるぜ! ついさっきまでピーピー泣きながら『銀さん助けてー』とか言ってたクセに、まったくとんだ茶番だよなぁ? つーか、女神さまなら星矢たちを頼ればいいじゃん。神すら倒せるあいつらだったら魔王なんか瞬殺だぜ?」

「いやいや、それは有り得ねぇよ銀さん。仮に星矢たちのような聖闘士(セイント)がいても、アクアちゃんみたいな駄女神の下にいたらまともに育つわけねーだろ? いてもせいぜい、3巻でかませになったユニコーンの邪武(じゃぶ)程度だよ」

「それもそーだな。アクアと比べちゃ、アテナさまに失礼過ぎるぜ」

「あんたたち……黙って聞いてりゃ好き勝手言ってくれちゃってぇ! これでも私はれっきとした女神なのよ!? アテナみたいに偉くて尊い存在なのよ!?」

 

 あまりに無礼な銀時たちにプリプリと怒るアクア。しかし、その様子を見た茂茂は、何故か納得顔で頷く。

 

「ほう。女神でさえも友の契りを結んでみせるとは、流石は銀時だな」

「って、勘違いしないでよね! こいつらとは友達でも何でもないんだからね! っていうか、私を天界から拉致って来たクズヤローなんですけど! 神の裁きを受けるべき極悪人なんですけど!」

 

 微妙な勘違いをしている茂茂にイラついたアクアは、これまでの経緯を説明する。この機会に、自分が被害者であることを印象付けて彼の同情を得るつもりなのだ。

 

「(すっごいお金持ってる将ちゃんを味方につければ怖いもの無しだわ!)」

 

 この女神は、銀時にも負けないほどのクズだった。しかし、アクアの嘘はすぐにバレた。絶対的に有利な立場にあった彼女を連れてこれた時点で天界のルールに反していないことは明らかだからだ。無論、その程度の事は茂茂も理解しており、彼女の策略は無駄に終わるのだった。

 

「うぅ、私の素敵な未来予想図が……」

「ったく、とんでもねぇ女だぜ。何で将軍の時だけ猫っかぶりしてんのかと思ったら、同情を買って金を無心する気だったとはな。このキャバ嬢は、一見さんの客に何て酷ぇことしやがんだ」

「あんたが媚売れって言い出したんでしょ!? っていうか、天界をキャバクラ扱いしないでほしいんですけど!」

 

 立場が悪くなったアクアは、さりげなく責任転嫁してきた銀時に言い訳する。

 

「大体、私は将ちゃんのことを結構買ってるんだから、あんたが思ってるほど酷いことなんてしないわよ!」

「あぁ? おめぇに将軍の何が分かんだよ? ブリーフの臭いから股間の足軽まで知り尽くしてるこの俺に勝てると思ってんのかぁ?」

「そんな勝負いつしてたっけ!? そもそも、表面で分かるような話をしてるんじゃないわよ!」

 

 妙な所で競争心を掻き立てられた銀時と争う気になったアクアは、過去の出来事を話し始めた。彼女の後輩女神であるエリスから感謝されることになった出来事を……。

 

 

 今から2年ほど前。毒を盛られて命を落とした茂茂は、アクアによって天界に召喚された。状況としては銀時たちとほぼ同じだったが、実を言うと、これは彼女の意思ではなかった。

 

「本来のルールだと二十歳前の若者だけなんだけどさぁ、彼のブリーフネタを気に入っちゃってる先輩に、上手いこと転生させろって頼まれちゃったのよねぇ。『茂茂のような逸材を失うことは【娯楽を司る女神】として許せない』とか訳わかんないこと言っちゃってさぁ。言う事聞かないと【ももパーン】すんぞとか脅してくるし、ほんと迷惑な話だったわ」

「意外に体育会系だなぁオイ!? つーか、うちらの将軍さま笑いのネタにされてんですけど、そんな理由で異世界転生させられたの!?」

「ちなみに、あんたたち全員そうよ」

「「なんて無慈悲な女神さまなの!?」」

 

 回想シーンの冒頭でさりげなく判明した裏事情に銀時と長谷川がつっこむ。しかし、桂だけは違う反応を示す。

 

「ほう。よもや天界にまで我が名声が轟き渡っていたとは。しがない武家の子せがれに過ぎなかったこの俺が随分と偉くなったものだ」

「確かに偉ぇよ。マジすげぇよ。お前らぐらいのバカチャンピオンじゃねぇと天界公認にはなれねぇからな。ノーマルな俺じゃあ、とても敵わねぇよ」

「ちょっ、なに自分だけ『この人たちとは違います』みてーなフリしてんの!? あんたもしっかりバカ認定されてるからね! 間違いなくドSネタ要員にされてるからね!」

 

 長谷川の言う通り、アクアを含めた全員が、何らかの形で突出しているバカの集まりだった。

 しかし、バカという欠点を補って余りある才能を持つ者も多く、茂茂には政治や経済面で秀でた力があった。その能力を垣間見れる光景が転生特典を授けるシーンで起きた。

 

『さぁ選びなさい。あなたに一つだけ、何者にも負けない力を授けてあげましょう』

『では、貴女が用意できる限りの資金を所望いたします』

『資金? ……あなたにとってお金なんかが何者にも負けない力なの?』

『左様でございます。武士(もののふ)としての資質が無い私などが神の御業によって生み出されし宝具を手にしたところで、結局は宝の持ち腐れとなりましょう。されど、この身には征夷大将軍という大任を仰せつかった経験がございます。傀儡なれども(まつりごと)に関わり、多少なりとも国の発展に貢献できたと自負しております。なればこそ、豊富な資金こそが私にとってもっとも強き力となるのです』

『…………え……えーっとぉ…………な、なるほど! あなたにとってお金こそが、自分の能力を最大限に活かせる武器になるってわけねっ?』

 

 アクアは、自分の想像と違う回答に冷や汗を流す。お金を要求された時は、将軍だったクセに俗っぽいヤツだと蔑んだ目で見ていたのだが、俗っぽいのは彼女自身の方だった。

 

『金というものは【水】と同じです。多すぎても少なすぎても毒となり、心と身体を蝕みます。しかし、バランス良く循環させることが出来れば、生命を支える恵みとなります。私は、女神様より授かる資金を、異世界の民を生かすための水として使いたいのです。それこそが、私に出来る魔王討伐への近道であると存じますゆえ、ご配慮頂きますようお願いいたします』

『……そうですか。あなたは水というものを正しく理解しているのですね。分かりました、あなたの願いを叶えましょう』

『ははっ! ありがたき幸せ!』

 

 茂茂の説明を聞いたアクアはちょっぴり嬉しくなった。何故なら彼女は水を司る女神だからだ。おかしな信者しかいないアクシズ教の御神体にとって、これほどまっとうな理解者は初めてであり、必要以上に尊い存在であると感じ入ってしまったのだ。このやり取りのおかげで彼に対する好感度がすこぶる上がり、銀時たちよりも扱いが良くなっているわけだ。

 

 

 何はともあれ、アクアとの交渉に成功した茂茂は、潤沢な資金を持って異世界に転生することになった。その額は『転生特典を貰っていれば稼げるだろう討伐報酬を合計したもの』だった。調子に乗って大盤振る舞いしたアクアは、魔王を含めたボスクラスにかけられている報酬を全部まとめて渡してしまったのである。そんな無茶をしたもんだから、この世界を担当しているエリスから散々文句を言われたのだが、意外な茂茂の活躍によって事態は思わぬ方向へと変化していくことになる。

 

「冒険者となった彼は、私から貰ったお金を元手にして精力的に活動したわ」

 

 回想を続けるアクアは、茂茂が転生してから辿った経緯を語る。

 無難にレベルを上げながらほぼすべての都市を調査した彼は、冒険者というちっぽけな立場から人の世を眺めて、将軍という立場からでは分からなかった社会の現実というものを学んだ。それを踏まえた上で魔王討伐という理想を掲げ、自分の成すべきことを見出すために思考を重ねた結果、彼の精神は目覚ましい成長を遂げた。天導衆の圧政によって日の目を見ることがなかった『人の上に立つ者』としての素質がようやく開花したのである。

 こうして、自分でも気づかぬうちに世間知らずのお坊ちゃんから稀代の名君へとレベルアップした彼は、女神より授かった資金を効率良く活用するために経済活動の基盤となる会社を作ることにした。

 まず始めに、人や物を瞬間転移させることが出来る【テレポート】という魔法に目をつけて、それを用いた物流業を始めた。テレポートを使える魔法使いを高給で雇い、世界中を結ぶネットワークを構築して、あらゆる商品を瞬間的にお届けするファンタジーな卸問屋を立ち上げたのである。もちろん、似たようなことをやっている組織は他にもあったが、近代的な知識を持っている茂茂はより充実したサービスを展開してあっという間に業界ナンバー1へのし上がり、莫大な利益を生み出すまでに至った。

 それと同時に、優れた技術を持つ武器・防具職人を各地より選び抜いた彼は、交渉と融資を進めて信頼を深めあい、強力な装備品を大量受注する代わりに価格を引き下げることに成功した。そうして買い入れた装備品をテレポートで各地の販売店に卸していき、結果的に冒険者たちの戦力強化に繋げていったのである。

 

「そのおかげで冒険者の死傷率が徐々に減少してきて、この世界を担当してる後輩から『アクア先輩でもたまには役に立つんですねー』って感謝されちゃったのよ!」

「それ絶対感謝されてねーよ。あからさまにバカ扱いされてるよ」

 

 おバカなアクアは、エリスの真意に気づくことなく胸を張る。そんな彼女に呆れながらも、地味にすごい茂茂の活躍に舌を巻く。エリスという女神が喜ぶのも納得できる功績であり、バカな願いをしたマダオたちとはえらい違いだった。

話を聞き終えて、あまりに情けない選択をしたことを恥じた銀時は、あからさまに目を泳がせながら言い訳する。

 

「ははは……やっぱ上さまは俺たち一般人とスケールが違うねぇー! 股間は足軽でも心は征夷大将軍だよ!」

「ああ。俺の見込んだ通り、将ちゃんの器はでかかったようだ。今更ながら、物欲に負けてツインファミコンを頼んでしまった自分を恥ずかしく思うよ」

「確かに恥ずかしいよ! 世界よりゲーム機を取るてめぇの選択には竜王様もがっかりするよ!」

 

 何と言うか、とっても無様な光景だが、内心では自由に人生を謳歌している茂茂を見て喜びを感じていた。この世界にいる彼は、誰かの傀儡ではなく自分の意思で生きているのだ。

 しかし、褒められている当人は、静かに頭を振るだけだった。

 

「余を褒め称えてくれるのは嬉しいが、それほど大層なことをしている訳ではないさ。所詮は他人の猿真似であるからな。それに、冒険者としての実力はお前たちに遠く及ばぬ」

「ったく、あんたに謙遜されたら、駄女神なんて持ち込んじまったこっちの立つ瀬がないっての」

 

 銀時は、アクアを連れてきてしまったことを改めて後悔した。確かに彼女はクソの役にも立たなそうなので、この先は自分たちの力で未来を切り開いていくしかないだろう。そういう彼自身も、今はしがない遊び人でしかなかったが……。

 

「ところで、将軍の職業って何なんだ? そのまんま将軍なのか?」

「いいや。余の職業は【ブリーフマスター】だ」

「それってただのブリーフ好きじゃね!? つーか、一体ナニをマスターしてんの!? ブリーフのナニを極めちゃったの―――っ!?」

 

 話の流れで聞いてみたら、とんでもない回答が返ってきた。まさか、こんな形で彼の個性が現れてしまうとは。

 

「将ちゃんの職業はすごいぞ銀時。過去の英雄が使用していた【伝説のブリーフ】を装備すると【ブリーフソウル】というパッシブスキルが発動して、その者の特性を完コピできるのだ」

「発動条件、酷すぎだろソレ!? アブノーマル感が変態仮面以上なんですけど!? 他人のブリーフ穿かなきゃダメとか、罰ゲーム以外の何者でもないんですけど!?」

 

 全力で笑いを取りに行ってるとしか思えない職業とスキルにツッコミを入れる。得られる能力がまともな点だけ救いがあるものの、改めて考えるとアクア以外はすべておかしな職業ばかりである。

 

「ぷぷー! 流石は先輩の選んだ『導かれしバカたち』ね! もはや存在自体が笑えるレベルなんですけど!」

「おめでとう駄女神。俺の逆鱗に触れることができたお前に爆裂究極落としを食らわせてやろう」

 

 KYなアクアは、銀時のヘイト値を順調に溜めていく。その報いを受ける時が来るのはそれほど遠くないだろう。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 一通り現状を語り合った一行は、仕事の話をするために作業現場を回ることにした。外に出た銀時たちは、先を歩く茂茂から簡単な説明を受ける。

 

「この砦は魔王軍の侵攻に対抗する軍事拠点として作り始めたものだが、新人冒険者を育成する訓練施設も兼ねた設計をしている。完成した暁には、桂に剣術を始めとする武芸全般の指南役を担当してもらい、エリザベスにはレベルアップに使うザコモンスターの繁殖を任せることになっている」

 

 そう言いながらしばらく歩き、たった今話に出て来た【モンスター牧場】へ辿り着く。牧歌的な作りをしている牧場の中ではつぶらな瞳のスライムたちが跳ね回っており、先回りして準備していた桂とエリザベスが慣れた手つきでスキンシップをおこなっていた。

 

「よーしよしよし! いい子ですね~! とても元気にプルプルしてますね~!」

<皆さん、ここを見てください。この子たちは機嫌が良いと頭の先がフニャッとなるんですよ~>

「「「何かムツ○ロウの動物王国みたいになってんですけど―――っ!?」」」

 

 まるで愛玩動物のようにスライムを可愛がるバカどもに銀時たちがつっこみを入れる。

 

「ちょっと待て! 何か目的変わっちゃってるんですけど!? とってもピースフルな関係築いちゃってるんですけど!? つーか、こんなもん見せられたら、もうあいつら倒せないよ!? 流石の俺でも会心の一撃繰り出せないよ!?」

「その通りだ銀時。元よりそんな必要などは無かったのだ。憎む心ではなく愛をもって接すれば、モンスターたちの方から仲間にしてくれと言ってくるのだからな。そんな彼らを倒そうとするなど、人でなしのやることだ!」

「いや、モンスターに肩入れしてるお前の方が人でなしだろ! 魔王サイドに堕ちちゃってるだろ!」

 

 どうやら桂は、スライムの可愛さに負けて本来の主旨を放り捨ててしまったようだ。

 

「ったく、こんなに飼い慣らしてんならスライムレースやった方がいいんじゃねーか? 経験値よりゴールド稼げるほうが嬉しいしな」

「おっ、それいいな銀さん! カジノがあれば一攫千金も狙えるからな!」

「ちょっと、あんたたちも魔王サイドに堕ちちゃってるわよ!? 欲望という名の悪魔になっちゃってるわよ!? ……でも、あんたたちがどーしてもって言うなら、この私も賛成してあげるわ」

 

 結局、パーティ全員が欲望に負けてしまった。どうやら、モンスター牧場は別の目的に使われることになりそうだ。

 

「……とりあえず、ここの説明はこのくらいにしておいて、次は砦の中に行くとしよう」

 

 勝手に自分の計画が変えられていく状況で1人取り残されてしまった茂茂は、空気を変えるために場所を変える。

 数分後。モンスター牧場から移動して砦の正面に来た銀時たちは、改めてその外観を観察する。かなりチープなデザインをしており、奥行きのある作りをしているようだが……。

 

「ん~? この砦、何かどっかで見たことあるよーな気がすんなぁ……」

「銀さんもそう思う? 実は俺も気になってたんだけど、どこで見たのかなぁ?」

 

 答えが分からない2人は、怪訝な顔で砦を見上げる。そんな彼らの反応に満足した桂は、得意げな表情をしながら疑問に答える。

 

「ふっ。お前たちに見覚えがあるのは当然だ。この砦は、かの有名な『クッパ城』を参考に作られているのだからな!」

「「最初の街のご近所に大魔王の城作ってたんかぁ――――いっ!!?」」

 

 桂からもたらされた答えは予想の斜め上を行っていた。まさか、魔王軍の攻撃に大魔王の城で対抗しようとしていたとは。

 

「いやね、将ちゃんから砦の設計について相談された時に、フワッと思いついちゃったんだよねぇー。『今こそ、子供の頃からの夢だったリアルスーパーマリオを実現する時じゃね?』ってな!」

「やっぱお前の仕業かよ!? つーか、将軍利用して自分の欲望叶えてんじゃねーよ!」

「人聞きの悪い事を言わないでもらいたいな。難攻不落の砦を作りたい将ちゃんの想いと難攻不落の砦を攻略したい俺の想いは見事に合致しているではないか!」

「まるっきり真逆じゃねーか! お前は単にリアルマリオやりたいだけだろ! さっき自分で暴露してたろ!」

 

 結局のところ、それが本音だった。とはいえ、まったく的外れな話でもない。ゲームと同じように手強いトラップが多数仕掛けられているため、魔王の軍勢に対しても効果を発揮するからだ。

 

「論より証拠、この砦の凄さをその目でじかに確かめてみるがいい!」

 

 重厚な門を開けた桂は、得意げな表情をしながら銀時たちを促す。そんな彼にイラッとしながらも砦の中に入っていくと、早速見慣れた光景が視界に飛び込んできた。マリオをもっとも殺してきたと思われる底なしっぽい穴、炎を纏った回転棒、定期的に上下する吊り天上、トゲのついた動く石など、ゲームで見たことのあるトラップが、魔法と科学の融合技術で再現されていたのである。残念ながら用意できなかった溶岩は熱したタバスコで代用しているが、他のトラップだけでも十分脅威だ。

 

「見たか銀時、この素晴らしい再現度を! これほどの出来栄えならば、流石のマリオも死にまくること請け合いだ!」

「お前は誰と戦ってんだ!? マリオなんてどこにもいねぇよ! しがない配管工はゲームと思い出の中にしかいねぇんだよ!」

 

 桂と銀時は大好きなマリオネタで盛り上がる。それほどまでにこの砦がスーパーマリオしているからだが、あの配管工でさえも苦戦するトラップならば、十分魔王軍にも通用する……と思われる。少なくとも茂茂はそう確信しており、自信満々で説明の補足をおこなう。

 

「この砦には更に仕掛けがあってな、『トレーニングモード』にすれば、冒険者の訓練施設としても使えるのだ」

「もうソレただのアミューズメントパークじゃね?」

「いいや、そうでもないぞ。実際に余が試して見せるゆえ、じっくり観察するといい」

 

 そう言うと茂茂は、近くに設置されている魔法式マイクのスイッチを入れ、最奥部の管制室にいる部下にモード変更の指示を出す。

 

「これで準備は整った……徳川茂茂、いざ参る!」

 

 気合を入れた茂茂は、力強く走り出した。2年も先に転生してきている彼のレベルはかなり高く、身体能力も銀時たちに匹敵していた。

 

「おっすげー! Bダッシュ使えるようになってんじゃん」

「いや、これは普通に走っているだけだ」

 

 銀時の問いに答えながら危険な道を駆け抜ける。どうやら何度も試しているようで、巧みにトラップを回避していく。しかし、タバスコの海を飛び越えた先で悲劇に見舞われることになる。綺麗に着地してからトラップの見当たらない通路を走り抜けようとしたその時、両側の壁に空いている穴から強力な火炎が噴出してきたのである。

 ズゴォォォォォ―――――ッ!!

 

「「「ショォォォォォグゥゥゥゥゥ――――ン!!?」」」

 

 いきなり火炎に飲み込まれた茂茂を目撃して、銀時、長谷川、アクアが叫ぶ。

 

「あっそーいえば、午前中に魔法式の火炎放射器仕込んでおいたことを、ついウッカリ伝え忘れてたなぁ。スマンスマン!」

「スマンじゃ済まねーだろコレ!? 将軍めっちゃ燃えてるんですけど!? ヨガファイヤー食らったみてぇに全身火ダルマなんですけど!?」

 

 派手に燃え盛る茂茂にビックリしつつ、KYな桂にツッコミを入れる。だが今は、バカに付き合っている場合ではなかった。

 

「まってろ将軍、今助けに行くぞ――っ!」

「アクアちゃんも、早く回復魔法かけてあげなきゃ!」

「あっそうね!」

 

 流石に焦った銀時たちは、倒れている茂茂の元へ駆け寄る。煙でよく見えないが、恐らく大やけどを負っているはずだ。そう思っていたところで、意外に元気そうな声が返ってくる。

 

「安心しろ皆の者。余は無事であるぞ」

「「「えっ?」」」

 

 予想外のセリフに驚いて注目すると、薄れゆく煙の中からブリーフ一丁の茂茂が現れた。

 

「なぁ、将軍。めっちゃ燃えてたクセに、何で服以外は無傷なんだ?」

「それはこの【魔法のブリーフ】のおかげだ。これは英雄として名を残しているアークウィザードが使用していた一品でな、装備している間は魔法耐性が大幅に上昇するのだ」

「もう既に中古ブリーフ装備してた―――っ!? つーか、魔法の鎧みてーな名前がムカつくんですけど! 魔法というより阿呆なんですけど!」

 

 あまりに残念なタネ明かしを聞いて、銀時たちは引いてしまう。どうやら【ブリーフマスター】のスキルが発動して助かったようだが、その代償はかなり大きい。すごい昔の中古ブリーフを身につけなければならないなんて、あまりに嫌過ぎる。

 ただ、スキル効果だけは抜群だったため今回は助けられた。

 

「まぁ、なんだ。とりあえず、怪我が無くて何よりだぜ」

「あ、ああ。一時はどうなることかと思ったけど、服が燃えただけで済んだからな」

「これもブリーフの女神より授かりし加護のおかげだな」

「そんな女神いないわよ」

 

 茂茂の周囲に集まった男たちは、パンイチ姿を無視する形で話を進める。一方、紅一点のアクアだけは不快な表情をしていた。そりゃあ、男のパンイチ姿なんか見ても楽しくないから当然だが、それに加えて変な臭いを感じたからだ。

 

「ねぇ、何か臭くない? 焦げた臭いに混じってイカっぽい臭いを感じるんですけど……」

「ああそれね。んなもん、原因はアレしかねーだろ」

 

 アクアの感じた臭いの原因を知っている銀時は、茂茂のブリーフを指差す。

 

「将軍って涼しそうな顔してっけど、股間は蒸れやすい体質みてーでさ。あんだけはしゃげば、十分臭くなるさ」

「なるほどな。将ちゃんと一緒に銭湯行って服脱いでる時に『コイツ何か臭うなー』っていつも思ってたんだけど、そういうことだったのかー」

 

 銀時の説明に納得した桂も茂茂の体臭をディスってくる。それを聞いた本人は、雪山で遭難した時に受けた古傷を思い出して、その目に涙を浮かべてしまう。

 

「……(悲)」

「おーい!? 何か将軍泣いちゃってるよ!? オナラしたことを茶化された小学生みたいな泣き方しちゃってるよ!? あぁ、やめて! もう見てらんないから、これ以上攻めないであげてぇぇぇぇぇ――――っ!」

 

 この中では一番まともな長谷川だけは庇ってあげるものの、蔑むようなアクアの視線が茂茂の心に痛恨のダメージを与える。

 

「……余は身体とブリーフを洗って来る。後のことは桂に任せよう……」

 

 悲しそうな声でそう言うと、傷心の茂茂は猛ダッシュでこの場を去っていった。

 

「おい駄女神! てめぇのせいで気まずくなっちまったじゃねーか! 仕事始め初日から上司の機嫌を損ねやがって! フリーザさまを怒らせたせいで故郷の惑星ごと滅ぼされたサイヤ人の失敗を忘れたかぁ?」

「んなもん知らないわよ! っていうか、あんたたちも臭いって言ってたじゃない!」

「当然だろう。たとえ上司であっても人として直すべきところは具申する。それが真の忠義というものだ」

「さらっと嘘をつかないで欲しいんですけど!? 私らに便乗して、さりげなくディスってただけなんですけど!?」

「はぁ……こいつら全員、デリカシーって言葉とは無縁だわ」

 

 せっかく再会した茂茂を泣かしてしまった一行は、仲良くケンカすることで責任をなすり付け合う。転生しても彼らの関係は変わりそうになかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 仕事を終えた銀時たちは、今日の日給を貰った後にアクセルの町へ戻るとギルドの酒場へ集まった。奇跡的な再会を記念して歓迎会をおこなうことになった。茂茂のおごりで用意された豪華な夕食を前に、クリムゾンビアという名のビールが注がれた金属製ジョッキを掲げる。

 

「では……志を共にした友との再会に」

「命を預けあった戦友との再会に」

「腐れ縁でつながった悪友との再会に」

「そして、新たな絆を紡いでいく友たちとの出会いに」

「「「「「乾杯!!」」」」」

<乾杯!!>

 

 カチン!

 皆で大きなジョッキをぶつけ合い、それを豪快に飲む。

 

「ゴクッ、ゴクッ、ぷはぁーっ! くーっ! やっぱ、働いた後の一杯は格別ねっ!」

「なぁ、長谷川さん。冒険ファンタジー物のヒロインがこんなんで喜ぶヤツがいると思うか?」

「まぁ、エロければいいんじゃね? 一応見た目は可愛いし、ノーパンノーブラというお色気要素もあるし」

「………………」

「おい、ノーパンノーブラに反応した将軍が、アクアの胸元見まくってるんだけど。思いっきり堪能しまくってるんだけど」

 

 どうやら、へっぽこヒロインのアクアにも需要があったようだ。

 駄女神が暴飲暴食する様を童貞の少年みたいに見つめる茂茂に、再び懐かしさを覚えてしまう。

 

「転生しても将軍のムッツリスケベは相変わらずか」

「ふっ、人間の性質はそう易々と変わりはしないさ。それはともかく、余のことは茂茂と呼んでくれ。たとえ性質は変わらなくとも、立場は変わっていくものだからな」

「いいや、そいつは聞けねぇ話だな。後にも先にも、俺が将軍と認めた男はあんただけなんでね、このまま将軍と呼ばせてもらうさ。あんたの言う通り、人間の性質はそう易々と変わんねぇもんだからな。俺にとっちゃ、立場なんざどうでもいいのさ」

「相分かった、お前がそう望むのならば是非もない」

 

 茂茂は、これほどまでに自分のことを認めてくれている銀時に感謝する。桂の時にも同じようなことを言われており、その時は後ろめたい気持ちになったものだが、実績を上げつつある今なら胸を張って受け止められる。

 

「さぁ、湿っぽい話はこのくらいにして、今夜は大いに楽しんでくれ。我らの門出を祝うために」

「ああ、遠慮なくそうさせてもらうよ」

 

 互いの気持ちを確かめ合った男たちは2人で乾杯しなおすと、アクアの大食いによって盛り上がっている宴に加わる。

 

 

 銀時たちが騒ぎ始めた頃、窓際の静かな席にいる1人の女性冒険者が彼らのことを観察していた。盗賊を生業としている彼女は、露出度の高い格好をした美少女だ。胸がとても慎ましいせいで美少年と間違われることが多々あるのだが、もちろんそれは禁句である。そんな少女が意味ありげに銀時パーティを見つめている。

 

「ふぅん……これから面白いことになりそうね」

 

 頬杖をついた少女は、そうつぶやきながらニヤリと笑う。それを不思議に思ったのか、彼女の前に座っている人物が声をかける。

 

「おいクリス。さっきからどこを見ているのだ?」

「……ん?」

 

 クリスと呼ばれた盗賊の少女は、目の前にいる友人に意識を向ける。18歳程度に見えるその女性は豊満な身体つきをした金髪碧眼の美少女で、名はダクネスという。今日はクリスの方から彼女を誘ってここに来ていたのである。

 

「ああ、話を止めちゃってごめんねダクネス。ちょっと気になる人たちがいてさ」

「なに、私のことなら構わないさ。放置プレイには慣れている」

 

 ダクネスは、見た目通りに包容力のある様子(?)で答える。クルセイダーである彼女はきらびやかな鎧を華麗に着こなし、年齢以上に大人っぽい雰囲気を発している。一見すると子供みたいなクリスとは対照的なのだが、2人の仲はとても良い。

 

「ところで、気になる人たちというのはあの連中のことか?」

 

 クリスの視線を追ったダクネスは、銀時たちに当たりをつける。

 

「うんそうだよ。何か面白そうでしょ? あの人たち」

「確かに、変わった格好をした連中が多いな。というか、あの白い鳥の化け物みたいなヤツは何だ?」

 

 観察しているうちに、アクアと肉の取り合いをしているエリザベスの存在に気づいて驚く。奇妙な姿をした彼はアクセルにいる子供たちの間で密かに人気を高めているのだが、普段は街にいないことが多いためダクネスが見たのは今日が初めてだった。

 

「まさか、あんな生物が存在していたとはな。あの無表情な顔で、一体どのような攻めをしてくるのだろうか……はぁ、はぁ……」

「おーい、ダクネスー? ヨダレが垂れてるわよー?」

 

 変な想像を膨らませてしまったダクネスは、急に息を荒げ始める。ぶっちゃけると、彼女は極度のドMだった。

 ゆえに、この出会いは必然だったのかもしれない。

 

「それにしても風変わりなパーティだな。あの男に至っては木刀を携帯しているぞ」

 

 おかしな武器を携えた男に興味を持ったダクネスは、彼の顔を見つめた。その銀髪の男は死んだ魚のような目をしており、一見するとただのマダオだった。しかし、彼女の視線に気づいた男が、その死んだ魚のような目を向けてきた瞬間にすべてが変わった。

 

「はうぅ―――――んっっっ!?」

「えっ!? 急に変な声出してどうしたの!?」

 

 状況が分からないクリスが驚く中、ダクネスはブルブルと震える。男と視線が合った瞬間にドMの直感を刺激され、これまでに経験したことがないほどの衝撃を受けたのである。

 

「な、なんだあの男は……。アイツの目を見た瞬間に私の身体が歓喜に震えた! まるで汚いメス豚を見るようなあの目は……私が求め続けていた絶対的強者(サディスト)のものだ!」

 

 一瞬でその男――銀時の性格を見抜いたダクネスは、一気に興奮してしまった。アブノーマルな感情に身をゆだねたその姿は、彼に対して悪質なストーカー行為をしていた猿飛あやめと重なって見えた。

 

「あぁっ、エリス様! こんなにも素敵な出会いを与えて下さったことを心より感謝します!」

「ほぇっ!? 私に感謝って、いきなり何言ってるの!?」

 

 突然、エリス教の御神体へ祈りを捧げ始めたダクネスにビックリするクリス。その際に思わず危険な発言をしてしまったが、幸いにもダクネスが気づくことはなく、そのまま話を続ける。

 

「すまないクリス。私はこれよりあの方の元へ赴いて一世一代の告白をする」

「ちょっ、告白ってまさか!?」

「そうだ。今から私は、あそこにいる銀髪の男性に告白するのだ。このメス豚のご主人様(マスター)になってくださいとな!」

「告白ってソッチの方!? っていうか、いきなりそんなことしたら嫌われちゃうよ!?」

「それはむしろ望むところだ!」

「もうわけがわからないよ!?」

 

 突如始まった友人の暴走を必死に食い止めるクリス。ちょっぴり気になる彼らの様子を偵察しておこうと思っただけなのに、どうしてこうなった!

 

「と、とりあえず、ダクネスが犯罪者になることだけは阻止しなきゃ! 友人として!」

「はぁっ、はぁっ! 大切な友人に告白の邪魔をされるなんて……心が苦しくて気持ち良いーっ!」

 

 何かもう手遅れな気がするものの、この場はダクネスを酔いつぶして無力化することに成功するのだった。

 

 

 一方その頃、すべての元凶である銀時は、ダクネスからロックオンされてしまったことも知らずに、アクアとエリザベスから横取りした肉を美味そうに頬張っていた。

 

「あーん! 私のお肉がー!」

「ふははは! たとえ女神だろうと、弱肉強食という世界のルールから逃れることは出来ないのだ!」

<くっ、人間のクズめ!>

「てめぇは人間ですらねーじゃねーか!」

 

 まるで子供のようにケンカする2人と1匹。のん気なバカヤローどもは、外野の喧騒に気づくことなくバカな戦いを繰り広げていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 今夜の寝床を確保するため早々に歓迎会を終えた一行は、ギルドの前で解散することになった。

 

「本当にいいのか? 今宵の宿代ぐらい余の金で支払うが……」

「いや、そいつは遠慮しておくよ。これ以上、あんたの邪魔はしたくねぇからな。その金はもっと有効に使ってくれや」

「そうか……そこまで言うのならば、お前の意思を尊重しよう」

 

 銀時は、自分で作ったつまようじを使いながら茂茂の提案を断った。タダ飯上等な彼としては珍しいことだが、元の世界で茂茂を守りきれなかった悔恨が少なからず影響していた。この男は自国の民を想って必死に足掻き、志半ばで死んでいったのだ。そんな彼がこの異世界を救うために選んだ力が金だというのなら、それを無駄遣いさせるわけにはいかない。

 

「じゃあな将軍。良い夢見ろよ」

「ああ、お前たちもな」

 

 銀時の意志を聞いて納得した茂茂は、軽く片腕を上げて砦に帰っていく。そんな彼を静かに見送っていると、これまで黙っていたアクアが不満顔で突っかかってくる。

 

「ちょっと、なにやってんのよ銀時! せっかく将ちゃんが宿代をくれるって言ってくれたのに何で断っちゃうのよ!?」 

「うるせーぞ女体化クリフト。お前みてーなザラキ厨に宿屋なんざ勿体ねぇんだよ。ブライやトルネコと一緒にずっと馬車で揺られてろ」

「女神に向かってなんたる暴言!? っていうか、女体化クリフトってどーいうことよ!? ドラクエⅣで例えたら、当然私はミネアでしょーが!?」

 見苦しいほどにダダを捏ねるアクアに流石の銀時も呆れ果てる。この哀れな駄女神は心の芯まで情けなかった。

 

「それより銀さん。今日はどこで寝るつもりなんだ? 流石にアクアちゃんを野宿させんのはマズイだろ」

「その点は心配すんな。こういう時は無料の馬小屋を利用すればいいんだよ。さっき将軍から場所を聞いておいたから、そこに行けばなんとかなんだろ」

「えぇーっ!? 馬小屋なんかに泊まる気なのーっ!?」

「今は明日の朝飯代しか無ぇんだからしょうがねぇだろ。それに馬小屋はすげぇんだぞ? なんと、あそこに泊まれば歳を取らないんだぜ?」

「それは本当か銀時!? もしその話が事実なら、最高のアンチエイジングとなるではないか!」

「そんな効果あるわけねーだろ!? つーか、そんなウィザードリィの定番ネタなんざ、今日日の子供にゃ伝わんねーよ!」

 

 古のゲームネタで話を濁す銀時であったが、一応、当座の寝床をどこにすべきかは考えていたらしい。それを聞いて納得した桂は、自分たちの寝床へ帰ることにした。

 

「それでは、ここでお別れだな」

<グッナイ、バカども!>

「……そーいえば、お前らはどこに泊まってんだ?」

「あそこに見える大きな宿だ。砦の建設に参加することになってからずっと借りていてな、今は2人部屋を1ヶ月分キープしてある」

「ほう、2人部屋を1ヶ月分ねぇ……」

 

 その話を聞いた途端、銀時の目がキラリと光った。何やら良からぬことを思いついたようだが、果たしてそれは何なのだろうか?

 

「おいヅラ。ちょっとだけ宿のカギを見せてくれよ」

「うん? 別に構わんが、何の変哲も無いタダのカギだぞ?」

 

 奇妙な頼みに首を傾げつつも素直にカギを渡してしまう桂。その途端に銀時の態度が豹変する。

 

「やったぞアクア! ようやく『俺たちが借りてる2人部屋』のカギが見つかったぞぉー!」

「え…………あぁ! 良くやったわ銀時! これで『私たちが借りてる2人部屋』に入れるわねぇー!」

「って、おぉ―――――いっ!? それ俺たちのカギィ―――ッ!?」

 

 なんと、銀時が思いついた作戦は、桂たちの借りてる部屋を奪い取ることだった。

 

「ちょっと待ってよ銀時君! それ俺たちのだから返してくんない!?」

「はあぁ? このカギがお前たちのモンだって証拠がどこにあるっつーんだよ?」

「そーよ、そーよ! 名前だって書いてないじゃない!」

「いやでも、ほんとにソレ俺たちのだから……」

<盗んだ物を返しやがれ!>

 

 ジャイアン以上の横暴行為に当然のごとく抗議する桂とエリザベスだったが、ゲスな銀時が聞く耳を持つ訳がなかった。

 

「ええい、つべこべうるせーんだよ、バカヤロー! 勇者王のお前は、若い女性を馬小屋に泊まらせてもいいと思ってんですかぁ!?」

「まったくもってその通りよ! 女神である私に部屋を譲れることを光栄に思うといいわ!」

 

 更に無茶苦茶なことを言い出した2人は、必死に抵抗する桂たちをボコボコにする。

 

「オラオラオラァ! 素直にしてれば痛い目見ずに済んだのによぉ!」

「ぐおっ! いてっ! やめてっ!」

「食らえ―――っ! ゴッドブロー乱れ打ちぃ!」

<ちくしょう! こいつ意外に良いパンチ持ってやがる!>

 

 桂は銀時から執拗なももパーンを食らい続け、エリザベスはアクアにマウントポジションを取られてタコ殴りにされてしまう。まさに地獄絵図である。

 

「けっ、これに懲りたら二度と逆らうんじゃねーぞ、カス!」

「ふん、私たちの部屋で預かってるあんたたちの荷物は後で取りに来なさいよね!」

「ふぁい、ほんとしゅみませんでした……」

<これで勝ったと思うなよ……グフッ>

「ひ、酷ぇ……なんてドゲスな奴らなんだ……」

 

 あまりに凄惨な光景を前に唖然とする長谷川を無視して、勝利を手にしたゲス野郎どもは宿屋へ向かって去っていく。

 

「おい、大丈夫かヅラっち?」

「ああ、問題ない……。それにしても銀時め、憧れのファンタジー世界に来たからといって、子供のように浮かれおって」

「今のアレは浮かれてたってレベルじゃねーだろ!?」

 

 あれだけボコられても平気へっちゃらな桂にツッコミを入れる。心の広い(?)彼は、さきほどの暴虐行為を子供のイタズラとして許すようだ。

 

「こうなったら仕方がない、俺たちは馬小屋へ行くとしよう」

「え? ヅラっちたちは金持ってんだろ? 今から部屋を取ればいいじゃん?」

「いいや。長谷川さんだけで行かせるのは酷だからな、しばらくは付き合ってやるさ」

「うぅ。あんた、ほんとに良い人だな……」

「そんなことは気にするな。馬小屋で泊まると歳を取らないという特典もあるらしいからな。最近、抜け毛が気になってたから丁度良かった」

<俺も、ベジータみたいにハゲてきたから何とかしたかったんだよね>

「お前ら、揃いも揃って髪の毛のこと気にしてるだけじゃねーか!?」

 

 未だに銀時のウソを信じている桂は、エリザベスと長谷川を伴いつつ、アンチエイジングのために馬小屋暮らしを始めるのだった。

 

 

 一方、桂から宿のカギを奪った銀時とアクアは、宿屋の主人と話をつけた後に部屋へ向かった。

 

「えっとぉ……私たちの部屋はここね」

 

 番号を確かめたアクアが部屋の前に立つ。当分ここが2人の拠点となるわけだ。

 

「とりあえず、まともな寝床が手に入ったな」

「ええそうね。初日から馬小屋暮らしにならなくてほっとしたわ」

 

 まったく悪びれる様子の無い2人は、サムズアップをして成果を喜び合う。幸運の低い彼らがこれほど上手くいっている理由は、幸運マックスな桂の恩恵を受けたおかげだった。無論、どこかで報いを受けることになるのだが、今はベッドで眠れる幸せを噛み締めるのみである。

 

「何はともあれ、これで宿代の心配は無くなった。後は将軍のところで当面の生活費を稼ぐとして……ある程度金が溜まったら、冒険を始める前にもう1人ぐらい仲間を探すか」

「えっ? なんで?」

「そりゃあ4人パーティがRPGの基本だからな。丁度、俺たちには魔法使いがいねぇから、ビアンカみたいに美人で優秀な人材を探すぞ」

「あんたほんとにビアンカ好きね……。私はイオナズンが使えるフローラの方がいいと思うんですけど? この世界で一番強力な魔法はエクスプロージョンっていう爆裂魔法だし……」

「はっ! この駄女神はなんも分かっちゃいねぇなぁ。一見するとイオナズンを使えるフローラは優良物件に見えっけど、実際は『お嫁さんにしたいヒロインナンバーワン』のビアンカに花を添えるためのかませ犬に過ぎねぇんだぜ? 大体、最後はメラゾーマが使えりゃいいんだから、爆裂魔法なんざ必要無ぇよ」

 

 どこまでもビアンカ派を貫き通す銀時は、イオナズンっぽい爆裂魔法を否定する。その直後だった。少女の怒声が聞こえてきたのは。

 

「その暴言、聞き捨てなりませんね!」

「「!?」」

 

 怒気を含んだ声に驚いた2人は、聞こえてきた方向へ顔を向ける。すると、宿の廊下を歩いてこちらに近づいてくる人影が見えた。その声の主が何者なのか確かめてみると、典型的な魔法使いの格好をした美少女だった。特徴的なトンガリ帽子を被り、黒いマントと赤いローブを身につけた中学生ぐらいのチビッ子が目の前までやって来る。そして、手に持った大きな杖を銀時に向けた。

 

「我が最愛の爆裂魔法を侮辱するなんて……たとえ女神エリスが許しても、この私が許しません!」

 

 ビシッと中二病的なポーズを決めながら勇ましく啖呵を切る。見るからに厄介そうな人物だが、彼女は一体何者なのだろうか。

 

「何だてめぇは?」

「ほう、あまりに強大ゆえ世界の理すら凌駕せしめる我が魔力を前にしても退かぬとは良い覚悟だ。その蛮勇に免じて我が真名を教えてやろう!」

 

 銀時の問いかけに応じた少女は再び中二病的なポーズを決めと、格好良さげなセリフで名乗りを上げる。

 

「我が名はめぐみんっ! 史上最強のアークウィザードにして、最上無二の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」

 

 ドオォォォォォンッ!!

 めぐみんと名乗った少女は、奇妙な効果音が聞こえてきそうな勢いで自身の存在をアピールする。その際に、くいっと顔を上げたため、左目に十字の模様が入った眼帯をつけているのが見えた。やべぇ、こいつは本物だ。自分の世界に生きている中二病少女と出会った銀時は、かめはめ波が撃てると信じていた子供の頃を思い出してイラッとした。

 


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