このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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第3訓 バカは死んでも治らない

 駆け出しの冒険者の街・アクセルに転生した銀時、長谷川、アクアの3人は、ギルドにて冒険者の登録を済ませた。これでモンスターを討伐したり募集されているクエストをこなせば、難易度に応じたお金と経験値が貰える。しかし、事はそう簡単には運ばない。現在、アクセル周辺のザコモンスターは粗方討伐され尽くしており、初心者に優しい仕事はほとんど残っていなかった。つまり、ドラクエ序盤で必ずおこなう『スライム狩り』が不可能になっていたのである。

 ギルド内で仕事を探している最中にその事実を知った銀時は、不条理な怒りに燃える。

 

「チッキショウ! みんなのアイドル・スライムさんを、てめぇらの都合だけで全滅させちまうだなんて……許さんぞ冒険者どもぉぉぉぉぉ!!」

「さっきまでスライム狩る気満々だった奴の言うセリフじゃないんですけど!」

 

 クエスト掲示板の前で騒ぎ出す銀時と、それにすかさずつっこむアクア。迷惑極まりない行為だが、一応納得できる理由はある。武器すらまともに用意できない状況で初心者に適した仕事を奪われてしまったのだから憤るのも無理はない。簡単なクエストをクリアして今日の夕食と宿代だけでも稼ごうとしたのだが、現在受付中のクエストはどれも厄介な物ばかり。現時点でアクアの回復魔法を当てにするのはあまりにも無謀なので、いきなり危険な冒険は避けたいところである。

 

「こりゃまいったな。どのクエストもすっぴん状態じゃクリアできねぇよ……」

「今ある装備は【マダオの棒】と【駄女神の盾】ぐらいだからな。実質、俺1人で戦うようなもんだぜ」

「なんだそのドS装備は!? 俺らを武器に戦うとか、一体どーいう発想してんの!? そんなことされたら、俺らの方が傷ついちゃうから! トラウマという名の傷を負っちゃうから!」

「そーよそーよ! 女神の私を盾にしようだなんて、あんたどんだけ鬼畜なのよ! ノーブラ派の私は防御力低いんだからね! 神ならぬ紙装甲なんだからね!」

「なんか再び女神らしからぬ単語が聞こえたんですけど!? つーか、女神さまなら下着くらいつけてください!」

 

 またしてもアクアが問題発言をして、それに反応したオッサン2人は彼女の胸元を凝視してしまう。うん、よく見ると確かにノーブラです。重力に逆らうことなく自由に存在感をアピールなさっております。

 

「「良いモン見させてもらいましたっ!!」」

「??」

 

 思わず手を合わせてお礼を言ってしまう。とはいえ、これから一緒に行動するのならパンツくらいは穿いてもらわないと困る。仲間が痴女ではアレなので、早々にパンツを手に入れなければならない。

 だが、そのパンツを買うお金を稼ぐことすら困難だった。ギルドで得られる仕事はほとんど日雇いバイトのようなもので、収入はまったく安定しない。しかも、命がけになるような内容ばかりのクセに報酬はスズメの涙というブラックぶりであった。もちろん、難易度に見合った高額報酬を貰えるクエストもあるが、現時点ではクリアなど到底不可能である。

 

「ったく、やってらんねぇぜ。ギルドに登録したっつっても、これじゃあ万事屋と変わんねぇじゃねぇか。ファンタジーっつーくらいだから『ジャンプ読むだけで金が貰える』みてーな夢のある仕事があると思ってたのに、やれペット探しーとか、やれ害獣駆除ーとか、デジャブを感じる雑用ばっか。この世界にゃ夢も希望もジャンプも無ぇよ」

「それ夢でも希望でもねーから! 中坊レベルの欲望だから! つーか、いい加減ジャンプのことは諦めろよ! もう続きは読めねぇんだから」

「あー! あー! なんも聞こえませーん! そんな現実認めませーん!」

 

 銀時は、ジャンプが読めなくなったことに未練を感じて子供のように駄々を捏ねる。その様子を見たアクアは、上から目線で嘲笑する。

 

「ぷぷー! そんな幼稚なことでヘコんでたなんて、転生してもマダオはマダオね! いい年こいてジャンプなんか読んでるから、まともな大人になれないのよ!」

「よーし、駄女神そこに立て。爆裂究極拳食らわせてやっから」

 

 自分とジャンプを侮辱された銀時はアクアに制裁を加えようとする。しかしそれも現実逃避でしかない。仲良くケンカしたところで、お金が無いという事実は変わらない。

 

「そんなことより、どーすんだよ銀さん。このままだとメシも食えずに野宿することになっちまうぞ?」

「えぇ――っ!? そんなのダメに決まってんじゃない! 女神さまを夕食抜きで野宿させるとかマジで有り得ないんですけど! 男だったら、こういう時に甲斐性見せてみなさいよ!」

「あー、そーいうこと言っちゃうんだ? 男女平等が叫ばれてる時代に、女神さまともあろうお方がパワハラ発言しちゃうんだ? 口だけ偽善者はこれだから困るんだよねー。割り勘すると嫌な顔する女とか全然平等じゃねーし。クリリンと18号の戦闘力ぐらい不平等だし」

「尊い女神とケチな女性を一緒にするな! っていうか、18号だって好きで強くなったわけじゃないでしょ! 戦闘力のインフレに翻弄された悲しき被害者の1人でしょ!」

 

 のらりくらりと言い訳してアクアの八つ当たりを受け流すが、このまま野宿するのは銀時自身も御免である。ならば、あの手を使うしかない。

 

「はぁ……。マダオとケンカしたところで、結局お腹が空いちゃうだけ。なのにご飯を食べるお金が無い……。あーんっ! これからどーすればいいのよぉー!」

「まぁ待てアクア。ここは一先ず落ち着いて冷静になるべきだ。そうすれば、新たな道も見えてくるさ」

「あぅぅ~。新たな道って、そんなものが本当にあるの?」

「ああ、俺たちにはまだできることがある。こういう時に、かつての勇者たちが必ず行ってきた定番の解決法がな」

「えっ、マジで!?」

「なんだよ銀さん。良い方法があるのにもったいぶるなんて、あんたも人が悪いぜ」

 

 いつになく頼もしげな銀時にアクアと長谷川が期待の眼差しを送る。果たして、自信ありげな彼が思いついた方法とは一体何なのだろうか。

 

「では明かそう。俺の思いついた解決法を。古より数多の勇者を救いし禁断の技を」

「ごくり……」

「その解決方ってのは?」

「窮地に陥った勇者たちを何度も救ってきたその方法。それは……」

「「それは?」」

「街中の家に入って、タンスやツボから金目の物を頂戴することだぁぁぁぁぁ――――っ!!」

「「それただのドロボ―――ッ!!?」」

「おいコラてめーら、人聞きの悪いこと言うんじゃねーよ。ドラクエの勇者たちなら、全員もれなくやってることじゃねーか。新しい街に来たら『しらべる』すんのは基本じゃねーか。だったら俺らがやってもなんら問題ねぇはずだ……。そーだよ、冷静に考えれば最初からそうするべきだったんだよ。お前らだってそう思うよなぁ? うぇへへへ……」

「いやいや、それ普通に犯罪だから! ゲームの中だけで許される行為だから! つーか、お前の方こそ冷静になれよ! 魔王と戦う前に自分の悪意に負けてんじゃねーよ!」

 

 なんと、頼もしいことを言っていた銀時は内心で超テンパっていた。

 

「ちょっと銀時! ドロボーなんて、女神である私が許さないわよ! そんなことして捕まったら、牢屋で臭い飯を食べなきゃならなくなるじゃない! 美食家の私には耐えられない屈辱よ!」

「って、全然女神関係ねーし! 気にしてるのメシだけだし!」

 

 こんな時でもブレないアクアは女神とは思えない発言をする。そんな彼女を銀時の甘い言葉が誘惑する。

 

「分かってねぇなぁアクアさん。女神のお前が自分の家に降臨したとなりゃ、街人のみなさんにとっちゃ最高に光栄なことじゃねーか。だったら、そのお礼をいただいたとしても何ら問題無ぇだろぉ? 見事なまでのギブアンドテイクなんだからよぉ?」

「あ…………そ、そう言われるとその通りかもしれないわね! なんたって私は、この世界でもっとも尊き女神さまなんだから! 神に捧げられし物を頂戴しても、まったく全然構わないわよねぇ……」

「って、早まるなアクアちゃん!? 悪魔の甘言に騙されちゃダメだぁーっ!? そのまま行ったら悪堕ちしちゃうから! エッチな衣装の堕女神になっちゃうからぁ―――っ!」

 

 なんと、甘い誘惑は女神にも有効だった。このままでは、開始早々に主人公の悪堕ちエンドに陥ってしまいそうだ。

 しかし、彼らのピンチを救ってくれる男が唐突に現れる。

 

「ったく、バカなこと考えねーでお前ら地道に働けぇ―――っ!!」

「ならば、俺たちの仕事場で働かないか?」

「「「……え?」」」

 

 やたらと男前な声で話しかけられた3人は動きを止める。ほとんどの冒険者が近寄ろうとしなかったほど厄介そうな彼らに話しかけるなんて、一体どんな男なのだろうか。気を引かれて見てみると、ソイツは銀時たちよりも厄介なヤツだった。黒い長髪に端正な顔立ち。そして、青い着物と白い羽織を華麗に着こなすその男は……

 

「「ヅラじゃね―――かぁぁぁぁぁ―――っ!!?」」

「ヅラじゃない、桂だ!!」

 

 お決まりのフレーズで突っ込み返すロン毛の男。現れた人物とは、銀時と共に日本の窮地を救った立役者の1人である桂小太郎だった。更にその傍らには、いつも一緒に行動している白いペンギンのような宇宙生物・エリザベスもいる。どうやら彼らもこの異世界に転生してきたらしいが、相も変わらず神出鬼没なヤツラである。

 

「久方ぶりだな2人とも。壮健そうで何よりだ」

「この不自然極まりない状況で普通に挨拶してんじゃねーよ! つーか、なんでお前らがここにいんだよ!? まさかお前らも死んじまってここに転生してきたってのか!?」

「ああそうだ。今から2ヶ月ほど前に俺は死んだ。『黄色い悪魔』に襲われたことをきっかけにしてな……」

「あぁ? 黄色い悪魔だと?」

「アンタほどの手練れを死に追いやるなんて、一体何者なんだ?」

 

 ここにいる理由を聞いた途端に桂の回想が始まった。あまりに唐突だったものの、事情を知りたい銀時たちは静かに耳を傾ける。

 

 

 現在より時を遡ること半年前。平穏を取り戻した日本で新たな形の攘夷活動を始めた桂は、自分なりの世直しを進めるため、相棒のエリザベスと共に各地を旅していた。志半ばで散っていった徳川茂茂や仲間達の意思を受け継いだ彼らは、平和を脅かすすべての歪みを絶ち切らんと全国行脚を続ける。旅の途中で手に入れた初代たまごっちをプレイしながら。

 

『まったくお前ってヤツは、やたらとウンコをしまくりおって。少しは掃除をするこちらの身にもなれ。だがしかし、世話がかかるからこそ、より愛着が湧くというもの』

「って、攘夷活動そっちのけでゲームやってるだけじゃねーか! しかも今頃たまごっち!?」

「最近、巷で流行っていると噂に聞いてな。試しにやってみることにしたのだ。攘夷志士たるもの、たとえ子供のおもちゃであっても時代の流れに乗り遅れるわけにはいかんからな」

「時空を超えて乗れてねぇよ! 相変わらず時代の流れについていけてねぇよ!」

 

 真面目に活動していると語り出したクセに、歩道を歩きながらゲームで遊んでいる桂。そんな隙だらけの彼に不幸が起きる。

 

「確かに俺は油断していた。ようやく進化に成功した『おやじっち』の世話に追われて、周囲の警戒を怠っていた。その時だ、奴が奇襲をかけてきたのは」

「そりゃあ奇襲も容易だろーよ! スマホ時代にたまごっちやってる視野の狭いヤツなんか、どうとでもなるだろーよ!」

「そう、確かにお前の言う通りだ。平穏というぬるま湯に浸っていた俺の目は曇っていた。それゆえに気づくのが遅れてしまったのだ。足元から忍び寄って来たヤツの存在に!」

 

 たまごっちに集中しながら歩道を歩いていた桂は、足元に落ちている【バナナの皮】に気づかずに思いっきり踏んでしまった。その結果、ギャグマンガのように足を滑らした彼は、受身を取ることもできずに引っくり返って後頭部を強打してしまった。

 

「ええい、忌々しい黄色い悪魔め! 一般市民が往来する公共の場に罠を仕掛けるとは、なんて卑劣なヤツなんだ!」

「って、不注意なバカがバナナの皮踏んだだけじゃねーかぁぁぁぁぁ―――っ!!?」

 

 真面目に話を聞いていたら、予想以上に残念なオチだった。

 

「それじゃあなにか? 結局、お前はバナナの皮で死んだのか? コントみてーにスベって転んで死んじまったってのか?」

「いいや違う。その時俺は、かろうじて一命を取り留めた。エリザベスが適切な処置をしてくれたおかげでな。しかし、こいつの努力も空しく、俺の意識が回復することはなかった……。俺の頭を治すことは、従来の医術では不可能だったのだ」

「そりゃあ当然だろ。お前の頭は死んでも治ってねぇんだから」

 

 その指摘はもっともだったが、この場合は治すべき場所が違う。当時の桂は、物理的にダメージを負って意識不明の重体となっていたのだ。

 病院に運び込まれた桂は、静かな病室で時が止まったように眠り続ける。その傍らで世話を続けるエリザベスは、ある日一つの決心をする。例えどのような手を使っても、必ず桂を目覚めさせてみせると。

 

「そして、海外にまで調査の手を広げたエリザベスは、とある人物に目をつけた。ドクターゲロという名の天才医師に!」

「ちょっと待てぇぇぇぇぇ―――っ!? その人、医者じゃないんですけど!? マッドなサイエンティストなんですけど!?」

「何を言う。確かに名前はアレだと思うが、レッドリボン・クリニックでは最高の名医として知られるお方だぞ」

「いやいや、お前絶対騙されてるから! レッドリボンって軍隊だから! 人造人間的なものに改造されちゃうトコだから―――っ!」

 

 話を聞いた銀時は、この後、桂の身に起きたことを悟った。そしてそれは大体当たっていた。

 

「俺は幸運だった。地球最高の名医に治療してもらえたおかげで、奇跡的に意識を回復する事が出来たばかりか、超サイヤ人以上の戦闘力を手に入れていたのだからな」

「やっぱ改造されてるぅぅぅぅぅ―――っ!? え、マジで? ホントに人造人間になっちゃったの? ロン毛の17号的な残虐超人になっちゃったの―――っ!?」

 

 思わずセル編の悲劇を思い出した銀時は焦る。しかし、銀魂世界のドクターゲロはそんなに悪い人ではなかった。素質のある患者を見ると、ついつい超戦士に人体改造してしまう癖のある風変わりなお医者さんだった。無論、おバカな桂は、彼の事を命の恩人だと思い込んでいるため、何の迷いもなく反論する。

 

「失礼なことを言うな銀時。あの方がそんな物騒なことをするわけがなかろう。かなりの悪人面で初見は恐怖を感じたものだが、今思えばお茶目で楽しい人だったぞ?」

「そんなハートフルな思い出話で済まねぇよ!? あのオッサンは、顔面通りにアブナイ奴だよ! あぶない刑事(デカ)よりアブナイ科学者(ドク)だよ!」

 

 あまりに都合良すぎる思い出に銀時のツッコミが決まる。しかし幸いな事に、彼が危惧した洗脳は施されておらず、桂の頭は改造されないまま治療され、数ヵ月後に無事退院した。身体の方は超戦士に改造されてしまったが。

 

「何はともあれ、命を取り留めると同時に強大な力を得た俺は一先ずかぶき町に戻り、身の振り方を改めて考え直した。この圧倒的な戦闘力をどのように活かすべきか。小一時間ほど思考を重ねた結果、俺は一つの答えを導き出した。そうだ、『趣味でヒーローでもやってみっか』と!」

「答えがめっさ軽いなオイ!?」

 

 銀時は、あまりにのん気すぎる桂にツッコミを入れる。それと同時に、ニュータイプ的な電撃が脳裏を走る。彼の語る動機から、とあるマンガの主人公を連想したのだ。

 

「こうして決心を固めた俺は、ヒーローっぽい衣装を用意した。そして、悪のはびこるかぶき町をパトロールし、数多の悪人を懲らしめるようになったのだ。その際、必ずパンチ一発で仕留めてしまうことから、まもなくこう呼ばれるようになった。『ヅラを被ったワンパンマン』とな!」

「思いっきりパクリじゃねーか!? しかも、さりげなく自己主張してんのがムカつくんですけど!」

「俺が言い出したことではないのだから仕方なかろう。その証拠にしっかりと訂正している。ワンパンマンじゃない、『カツパンマン』だと!」

「まったく訂正しきれてねぇよ! ちゃっかり便乗しちゃってるよ! つーか、やんなら徹底しろよ! そのヅラ取ってハゲも再現しろよカス!」

「ヅラじゃない、最近抜け毛が気になっている桂だ!」

       

 調子のいいことを言う桂に怒りが湧き上がり、口汚く罵る銀時。とはいえ、カツパンマンが正義の味方として功績を挙げていた事実は間違いなく、かぶき町の新たなヒーローとしてそれなりに名前も広がっていた。実際、新八や神楽も情報を仕入れており、生前の銀時に話している。

 

「そうか。あいつらが言ってた全身タイツの変態野郎ってのはお前のことだったのか」

「ヒーローは正体を隠さなければならぬものだからな。例え竹馬の友であっても秘密を明かすことは出来なかったのだ。許せ銀時」

「いや、別にどーでもいいし。俺には変態の友達なんていねーから」

    

 どっちかって言うと万事屋の商売敵だったため、イラッとしながら受け答える。

 しかし、無敵と思えたカツパンマンにも終焉を迎える時が来てしまう。桂とエリザベスは、自身の最後を思い出して沈鬱な表情になる。

 

「あれは静かな夜のことだった。俺とエリザベスは、とあるキャバクラで仕入れた情報をもとに、閑静な住宅街で張り込みをしていた。何でも、貧乳ながら見目麗しいキャバ嬢がゴリラのような風貌の変態男にストーカーされているというのだ」

「あれ、そこはかとなく聞き覚えのある話なんだけど、それお妙と近藤のことじゃね?」

 

 銀時が察した通り、桂たちは『志村』と書かれた表札のある屋敷の近くで張り込みをしていた。すると、屋敷の中から女性の悲鳴が聞こえてきた。

 

『交尾の相手が欲しいなら、動物園で探して来いやぁぁぁぁぁ――――っ!!』

『うぎゃぁぁぁぁぁ――――っ!!?』

『これは!? 助けを求める乙女の悲鳴!』

「今のドコでそう思った!? 乙女よりもゴリラが助けを求めてるパターンだろコレ! ゴジラのよーなキャバ嬢にゴリラのよーなストーカーがぶっ飛ばされてるパターンだろコレ!」 

 

 中で起きただろう惨状を予想してツッコミを入れると、案の定、涙を流したゴリラが塀を乗り越えて逃走してきた。キャバ嬢に蹴りを入れられたケツの穴に手を当てながら。

 その様子を見たカツパンマンは、隣に控えるエリザベスに指示を出す。

 

『よし。後を追うぞ、ジェノザベス!』

<了解です、カツタマ先生!>

「いや、ジェノザベスってなんだよ!? オサレなヅラまで被りやがって! オバQの分際でジェノス役とか、図々しいにも程があんぞ!」

 

 イケメンサイボーグであるジェノスの格好をしたエリザベスは、確かにムカツク絵面だったが、回想にツッコミを入れても仕方が無い。

 兎にも角にも、張り込みをしていたコスプレ野郎どもは、逃走するゴリラストーカーを追いかける。しかし、彼らの健脚を持ってしても中々追いつけない。リビドーを発散できず悶々としたエロパワーを溜め込んでいるゴリラストーカーは、憎たらしいまでに速かったのである。

 

「このままでは逃げられてしまう。そう判断した俺は、ジェノザベスを担いで高速移動することにした。その時だ、奴が奇襲をかけてきたのは」

「はぁ? こんなどーでもいい場面で第三者が割り込んで来たってのか?」

「そうだ。奴は獲物を狙う毒蛇のように俺たちがやって来る瞬間を待ち構えていたのだ。足元から襲い掛かるためにな!」

 

 この時、カツパンマンは、ゴリラストーカーに追いつこうとしてショートカットできる路地裏へ入った。するとそこは生ゴミの集積場となっており、間が悪いことに回収し損ねたバナナの皮が落ちていた。暗がりだったせいでそれに気づかなかったカツパンマンは、高速移動中に思いっきり踏んづけてしまい、担いでいたジェノザベスごと引っくり返って、2人仲良く後頭部を強打してしまった。

 

 

「こうして俺とエリザベスは、波乱万丈な一生を終えたのだ」

「「結局、バナナの皮かよぉぉぉぉぉ――――っ!!?」」

 

 やたらと長い回想の結末は『バナナの皮でスベって死ぬ』だった。

 ちなみに、彼らが死んだことは世間には知らされていない。桂が常に携帯していた遺言状に『我らの魂は消えることなく、未来永劫、悪の敵となり続ける。故に、この死は仮初であり、公言することまかりならん』と記してあったため、すべての真相は事後処理をした真選組が隠蔽してしまった。そのせいで、付き合いの長い銀時も彼らが死んでいたことを知らなかったのだが、改めて聞いたその経緯はあまりにツッコミ所満載だった。

 

「人生の最後に何やってんだテメーは! 仮にも組織のトップを務める男がドリフのコントみてーな死に方してんじゃねーよ! ネタがあまりに古過ぎて、オチまでスベってんじゃねーか!」

「つーか、人造人間なのに、このくらいで死んじゃうのかよ!」

「さしものドクターゲロも、繊細すぎる俺の頭は強化出来なかったようだ」

「そりゃ、弱点だらけのお前の頭じゃ、誰でも匙を投げるだろーよっ!」

 

 壮絶におかしな死に方をしてもまったく変化の無い桂にオッサン2人は呆れ果てる。

 

「確かに、お前たちが呆れるのも仕方ないほど呆気ない死に様だった。友との約束を道半ばで果たせなかった無念の死でもあった。しかし、死すべき時は共にと誓い合ったエリザベスと一緒に逝けるなら、それもまた本望。故に俺は、何ら後悔することなく死後の世界へと旅立つことが出来たのだ。もちろん、お前も同じだろう、エリザベスよ」

 

 自分に酔いしれた様子の桂は、優しい眼差しを相棒に向ける。しかし、当のエリザベスはご立腹の様子である。

 

<お前のせいで俺まで死んじまったのに、良い話だった風に誤魔化してんじゃねぇよ!>

 

 と書かれたプラカードを手に持ち、桂の頭を激しく殴る。

 ガスッ! ガスッ! ガスッ!

 

「はっはっは、まったくエリザベスは照れ屋さんだな。これが最近流行っているツンデレというものか」

「いや、それ普通に怒ってるだけだから。デレの要素は微塵も無いから」

 

 照れていると勝手に決め付けて朗らかに笑う桂だったが、その無神経さがエリザベスの怒りを増大させる。

 

<嫁と子供を残してきた俺の無念を思い知れや、このクサレ外道!>

 

 と書かれたプラカードを手に持ち、桂の頭を激しく殴る。

 ガスッ! ガスッ! ガスッ!

 

「はは、ホントにお前は天邪鬼だな。いくら人前だからとて、そんなに恥ずかしがらずともいいではないか…………おい、そろそろ本気で止めなさい。プラカードの角が刺さって頭皮にダメージ出ちゃってるから。不自然なまでに出血しちゃってるから」

 

 そろそろ黙っていられなくなった桂が注意する。それでもエリザベスの折檻は止まらない。

 ガスッ! ガスッ! ガスッ!

 

「いや、だから、俺の言うことを聞いて……俺の言うことを……聞いて…………いい加減、聞けやゴラァ!! お前、さっきから怒ってるフリしてっけど、ホントは俺に隠れて道具屋のリンダちゃんとヨロシクやってんの知ってんだからな、俺! 深夜にハッスルしてんの知ってんだからな、俺!」

 

 さっきまでの紳士的な態度はどこへやら。仲良しアピールをしていた桂は、その友情をかなぐり捨てて、反抗的なエリザベスと殴り合いのケンカを始めた。

 

「なぁ長谷川さん。『バカは死ななきゃ治らない』なんて言葉があるけど、ありゃ嘘だな。転生してもバカはバカだ」

「まぁ、俺たちも似たようなモンだけどな」

 

 期せずして懐かしい光景を見ることになった銀時と長谷川は、嬉しい気持ちを感じると同時にやるせない気分になる。

 一方、桂が現れてからずっと黙ったままだったアクアは、これまでのバカなやり取りを生暖かい目で見つめていたが、彼のロン毛とエリザベスを眺めている内に、とあることを思い出した。

 

「あ―――――っ!? あんたたちのこと思い出したわ!」

「おお。そういうあなたは、やはりアクア殿であったか。先ほどから見覚えのある少女だと思っていたが、その節は世話になったな」

 

 いつの間にかケンカを止めていた桂は、ボコボコになった顔をアクアに向けて微笑む。

 

「なんだよ、こいつらを転生させたのもお前だったのか?」

「ええそうよ。いつもだったらすぐに忘れちゃうんだけど、この人たちは強く印象に残ってたから思い出せたわ」

 

 いつになく真面目な顔で答えるアクア。一体、桂は何をやらかしたというのだろうか。気になった長谷川は質問してみた。

 

「強い印象って、何があったんだよ?」

「それは天界で転生特典を選んでもらう時の話よ……」

 

 そう言いながら静かに目を閉じたアクアは、本日2度目の回想を始めた。

 

 

 バナナの皮が原因で死んでしまった桂とエリザベスは、銀時の場合と同じくアクアに目を付けられて異世界への転生を強要されていた。

 

『……ってなわけで、異世界に転生してもらう人には、大サービスとして何か一つだけ好きな物を持っていける権利をあげるわ。強力な武器や、とんでもない才能。誰にも負けないオンリーワンの力をあなたに授けてあげちゃうわよ?』

『ふむ。女神から与えられし力か。それはさぞかし凄まじいものなのだろうな』

『そりゃ当然よ! どんなマダオも勇者になれる伝説級の宝具や英雄級の能力ばかりなんだから!』

 

 褒められたアクアは、したり顔で悦に入る。しかし桂の真意は、彼女が思っていたものとは全然違った。

 

『ならば俺は、その権利を放棄しよう』

『はい了解~。権利を放棄しますっと…………え? 放棄? 今、放棄するって言った?』

『ああ言った』

『えぇ―――っ!? なぜなにどうして!? こんなチャンス、二度と無いのに!』

『ふっ。何故かと問われたならばこう答えよう。この俺が侍だからだと』

『……侍だから?』

『そうだ……。確かに、魔王打倒を実現するには、あなたの施しを受けるべきなのだろう。だがそれは、俺の定めた武士道に反することだ。武士たる者、戦う術は己の力で手に入れるべきである。武器も技術も、そして仲間も。すべては己の意思で道を切り開き、己の腕で掴み取らなければ意味がない。尽力無くして手に入れた力など、驕りという刃で己自身を傷つける諸刃の剣でしかない。そのようなまがい物では、真の力となりはしないのだ』

『は、はぁ……そですか』

 

 恐ろしく真面目なことを言い出した桂に、さしものアクアも毒気を抜かれる。安っぽいヒーローみたいな格好をして、ふざけたペットを連れているクセにカッコイイこと言うじゃない。

 

『そこまで言い切るなんてすごいわね。あなたみたいに物欲の無い人はかなり珍しいわ』

『いや。俺とて人の子、人並みに欲しいものはあるさ。それほど高価なものではないがな』

『へぇ、それってどんな物なの? もし叶えられることだったら、さっき言った特典の代わりに用意してあげるわよ?』

『なんと!? それはありがたい! 実を言うと、あれを入手出来なかったことが唯一の心残りとなっていたのだ』

 

 珍しく気の利いた提案をするアクアに桂は喜ぶ。気まぐれな女神さまは、この奇妙な男が欲しがっているものを知りたくなっただけなのだが、果たしてその正体とは何なのだろうか。

 

『それじゃあ聞かせてちょうだい。あなたが欲しい物を』

『では、遠慮なく頼ませてもらおう…………あのファミコンとディスクシステムが一体化した超高性能ゲーム機【ツインファミコン】を!』

「神さま相手に何頼んでんのぉぉぉぉぉ―――っ!?」

 

 

 アクアの回想を聞いてみたら、案の定、おバカな内容だった。

 結局、桂はすごいお宝ではなく、ツインファミコンを貰って転生してきたのである。ちなみに、宇宙生物でペット扱いのエリザベスは特典の対象外だったため、何も貰っていない。貴重な願いは、本当にツインファミコンだけで終わってしまったのだ。

 

「ぶふ―――っ!! 今思い出してもウケるんですけどっ! あそこでツインファミコンって、流石の私でも予想できなかったんですけどっ!」

「そりゃ誰でもできねーよ! つーか、おめぇはどんだけツインファミコン欲しがってんだ!? オヴェー編の後もずっと探してたのか―――っ!?」

「うむ、どうしてもマリオの奴と再会したかったのでな」

「だからなんでファミコン限定!? もっといい機種出てんだろーが! そもそもここじゃあ、ツインファミコンどころかテレビすら使えねーよ!」

「確かに、そこが盲点だった」

「普通に分かれよそんくらい!? つーか、んなもん貰って魔王退治はどーすんだよ! ツインファミコンの角で魔王の頭カチ割る気ですかコノヤロー!!」

 

 確かに銀時の言葉にも一理ある。女神の特典を貰った転生者は大勢いるのに依然として魔王が存在していることを考えれば、ツインファミコンなどをゲットしている場合ではない。しかし、当の桂は自信満々の表情で反論する。

 

「その心配は無用だ銀時。ギルドに登録した俺は、魔王の天敵である史上最強の職業に就くことが出来たからな。この絶大なる力があれば、魔王など恐るるに足らん!」

「なっ!? ま、まさか……お前みてーなバカ野郎が、あの【伝説の勇者】に選ばれたというのか!?」

「そう! 運命の女神は、魔王を滅ぼす正義の力をこの俺に授けたもうた! それは、最強の破壊神。それは、勇気の究極なる姿。我々が辿り着いた、大いなる遺産。その名は……【勇者王】カツガイガー!!」

「それ勇者じゃなくて勇者シリーズッ!!?」

 

 話を聞いてみたら、とんでもない答えが返ってきた。なんと桂は、ロトとか天空の勇者ではなく【勇者王】になっていた。

 

「このバカ! いくらサンラ○ズ繋がりだからって、なんてシロモン持ち出してきやがったんだ! タ○ラト○ーにケンカ売る気かコノヤロー!」

「そーだぜヅラっち! アニメやマンガだったらクレーム来ちゃうレベルだから! 流石の集○社でも庇いきれないレベルだから!」

「ふん、何を弱気なことを。目の前にある壁を乗り越えようとしなければ、その先にある未来を掴むことなどできはしないぞ!」

「社会常識という壁を壊してお偉さんに怒られる未来なんかノーセンキューだよ、バカヤロー!!」

 

 あまりに不条理な職業を引き当てた桂にオッサン2人が憤る。

 ただ、このような事態になった理由はちゃんとある。人造人間に改造された桂の戦闘力はあまりに強大過ぎたため、転生する際に【世界の修正力】が働いて彼自身は元の人間に戻った。しかし、【世界最強の人間】という因果情報はそのまま反映されてしまい、それが職業やステータスに現れてしまったのである。ちなみに、彼の選べる職業が【勇者王】になったのは、桂が最強の勇者とイメージしていたせいだ。

 

「まぁ、なっちゃったモンはしょーがないわね。それに、【冒険者(仮)】とか【遊び人】より強そうだし、結果オーライじゃない」

「かーっ、これだからバカな女は嫌だねぇ。『職業に貴賎無し』って言葉すら知らねーなんて。そんなオツムじゃ、まともな社会人になれやしねーぜ?」

「いや、ただの遊び人に言われても説得力無いんですけど」

 

 自分よりカッコイイ職業になれた桂に嫉妬して減らず口を言う銀時に、ジト目を送るアクア。

 

「それはそうと、エリザベスの職業は何なんだ?」

「うむ。コイツの職業もすごいぞ。なんと、ドラクエⅤの主人公と同じ【魔物使い】だ」

<無職同然のお前らとは出来が違うんだよ!>

「魔物の分際で人間さまを見下しやがって、何様だコノヤロー!? つーか、魔物が魔物使いってどーいうことだよ! ドラクエⅤの主人公をテメーなんかにやらせてたまるか! ビアンカは俺のモンだぁぁぁぁぁ―――っ!!」

「落ち着け銀さん! このパーティにビアンカなんていないから! クリフトみたいな駄女神しかいないから!」

「そうそう、まったくその通り……って、クリフトみたいな駄女神ってなによっ!?」

 

 もう無茶苦茶である。元の世界で『狂乱の貴公子』と呼ばれていた桂は、異世界でもおかしな混乱を巻き起こす迷惑極まりない存在だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 桂と奇妙な再会を果たしてから1時間後、彼のおごりで昼食を取った一行は、アクセルの街の外に来ていた。現在、街から2キロほど離れた場所に【砦】を建設しており、桂はそこの現場監督を任されていたのである。

 

「それじゃあなにか。【勇者王】のお前は冒険もしねぇで、ドラゴンクエストビルダーズやってんのか?」

「言葉の意味はよく分からんが、ビルダーという点は当たっている」

 

 桂の説明を聞いた銀時は呆れながらも納得する。この異世界はゲームと違ってごく普通の職業もある。それなら命がけでなくてもお金を稼げるので、ビギナー冒険者の銀時たちを雇うことにしたのである。

 

「しかし、昼休み中に赴いた酒場でお前たちと遭遇するとは思わなかったぞ。これも女神であるアクア殿のお導きといったところかな?」

「ふふーん! やっぱり、この私から溢れ出る女神パワーが幸運を引き寄せたのね! 私のおかげで良いバイトにありつけるんだから、ほんと感謝しなさいよねー!」

「こいつ、俺より幸運低いクセに調子こきやがって……いつか必ず、ノーパン派のてめぇに使用済みブリーフ穿かせてピーピー泣かせてやらぁ!」

「仕返しの方法がえげつねぇよ銀さん……」

 

 とまぁ、楽しく談笑しながら平原を歩いていき、十数分後に砦の前までやって来た。

 近くで見るとかなり頑丈な作りをしているようで。未完成ながら威風堂々とした佇まいを見せている。

 

「ふぅん、私の知らない間にこんなもの作ってたんだ~」

 

 アクアは、自分の知識に無い建造物を見て首を傾げる。

 

「でも、なんでこんな辺境の街に砦なんて作ろうと思ったのかしら?」

「それはここが冒険者の出発地点だからだ」

「ん~、つまりどゆこと?」

「そんなことも分からんのか? ラダトーム、ローレシア、アリアハン……勇者が最初にいる街には必ず城が存在している。だからこそ、彼らは安心してスライム狩りに勤しむことが出来るのだ。その教訓を参考に、この地の防御も強くする必要があると考えたお方がこの砦を作ったわけさ」

「なるほど。確かに、天空シリーズで『主人公と馴染み深い村が襲われる』のは定番だからな。そいつは中々分かってるぜ」

「お前ら、そろそろドラクエ脳で会話すんの止めてくんない?」

 

 銀時たちはドラクエ的な会話をしながらこの砦の情報を手に入れた。どうやら、かなりの金持ちがバックにいるらしい。そして、その人物は桂と知り合いでもあるというのだ。

 

「いいかお前ら。上手く取り入れば、良いパトロンになってくれるかもしれねーお方だ! 誠心誠意、媚を売れよ!」

「そ、そうね! 女神である私がそんな惨めったらしいことするのは非常に不本意だけど、私の魅力で虜にしてやるわ!」

「銀さんとアクアちゃんって、実は生き別れの兄妹なんじゃね?」

 

 こういう時だけ息が合うバカどもたちに、長谷川さえも呆れてしまう。しかし、彼ら以上にバカな桂はそんなことなどまったく気にせず、砦の中に招き入れる。ここの所有者と顔合わせするのだ。

 

「銀時よ。今の内から覚悟しとけよ? あのお方と出会ったらビックリするはずだからな」

「あぁ? そりゃどーいうこった?」

 

 前を歩く桂が、背中越しに意味深なことを言ってくる。一体どういう意味だろうか。それを尋ねる前に、砦の所有者が住んでいる小屋に着いた。砦はまだ建設中なので、今はこちらが拠点になっているようだ。

 

「さぁみんな。こちらのお方がこの砦の所有者だ」

 

 そう言って桂が手の平を向けた人物は、豪華な椅子から立ち上がると、銀時たちに顔を向けた。ドラクエⅢの勇者みたいな格好で、ベジータみたいに逆立った髪をしている。どこから見てもドラクエマニアのコスプレ野郎だが……その凛々しい顔には見覚えがある。それは当然だ。彼は銀時にとってかけがえのない【友】なのだから。

 

「……久しいな銀時。よもや異世界で再び合間見えようとは思わなかったが……友と再会できたことを、余は心より嬉しく思うぞ」

 

 その男は優しい笑みを浮かべて、懐かしい友との再会を喜ぶ。まさかこのような出会いが実現するなんて。忘れもしないその表情に、さしもの銀時も目を見開く。バカ丁寧な喋り方。やたらと男前な声。そして、強い意志を感じさせる鋭い眼光。間違いない、彼は……この侍は……

 

「「しょ……将軍かよォォォォォォォォォ!!?」」

 

 そう。非業の死を遂げた悲劇の将軍・徳川茂茂その人だった。

 


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