このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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平成が終わる前に、もう一回投稿できました。

今回は冬将軍が活躍するお話です。
そこはかとなく設定が変わってるので、原作よりもヤバいです。


中二病でも魔女がしたいっつーんなら、他の魔法も覚えやがれ
第28訓 氷属性のキャラクターは性格もクールガイ


 時は巡って秋が終わり、冬が始まろうとしていた。

 この季節になると、弱いモンスターは冬眠して手強いモンスターしか活動しなくなってしまうため、クエストの難易度も必然的に高くなる。無論、それだけ命の危険も増してしまうため、ベテランの冒険者ですら街の外に出ようとしない過酷なシーズンなのである。

 飢えたモンスターだけでなく、大自然の脅威まで容赦無く襲い来る天然の地獄。そんな危険地帯にあえて出向くバカ野郎は、チート能力を持った転生者か、借金まみれで金が欲しい銀時達のような連中だけだ。

 ギルドの掲示板を見て仕事を探す借金王は、碌なクエストしか無いことを確認してため息をつく。

 

「白狼の群れに一撃熊の討伐か……。どれもめんど臭ぇから、冬の間は、アクアをキャバクラで働かせて食いつなぐとするか」

「ちょっ!? なんで私がキャバ嬢なんてやらなくちゃいけないのよ!? 尊くも麗しい水の女神たるこの私を一体なんだと思っているの!?」

「なんだもナニも、お前は水商売の女神なんだから、キャバ嬢なんて天職だろ?」

「はい、そー来ると思ってました! もうソレ私のあるあるネタになってますけど、水の女神とキャバ嬢を同列扱いしないでよ!? そもそも、話が理不尽過ぎでしょ!? なんで私がアンタに代わって稼いでこなくちゃ行けないのよ!? 甲斐性無しのマダオのためにキャバクラで働く女神とか、古今東西、どの話でも聞いたことがないんですけど!?」

「黙れや駄女神!? テメェが自爆装置を使わなきゃこんなことにはならなかったんだから、神らしく責任とってキャバ嬢でもなんでもしろや!?」

 

 意見の相違でケンカを始めた銀時とアクアが恒例の茶番を繰り広げる。周りの冒険者達も慣れたのか、興味を示そうとすらしない。

 その気持ちは仲間であるめぐみん達も同様で、バカな二人を放っておいて話を進める。

 

「それにしても困りましたね。狼や熊などといった雑魚ばかりしかなくて、1000万以上の報酬がある高難易度クエストが一つもありませんよ」

「困り方が俺達と違うお前の方が困るわ!? ベルディアなんて大物とやりあったばかりなのに、そんなクエストやりたかねぇよ!?」

「だけどよぉ、カズマ君。そんくらい稼がなきゃ10億なんて払えないぜ?」

「ハセガワの言う通りだ。現状を打破するためには、たとえ危険なことをしてでも高額な報酬を稼がなければならないだろう。もちろん、私はなんでもするぞ。どんなに危険な仕事だって喜んで受けてやる!」

「それはお前がやりたいだけだろ!? このパーティの女性陣はたくまし過ぎてヘドが出るぜ!」

 

 こんな時でもマイペースなめぐみん達にカズマも呆れてしまう。

 それでも、お金が欲しいという点だけは残念ながら同意せざるを得ない。

 10億という金額は銀時パーティに課せられた罰でもあるので、自力で稼いだ報酬でしか返済することができない。ようするに、茂茂などから無利子で借りたお金で返すといったインチキができないのである。

 すべてを返済し終えるまでは報酬からゴッソリと天引きされ続けることになり、貯金なんて夢のまた夢。まさしく悪夢のようなその状況は、馬小屋で暮らしているカズマと長谷川にとって死活問題であった。

 

「ったく、冗談じゃないぞ! これから本格的な冬が始まるってのに、いつまでも馬小屋で生活なんかしてられるか! 今朝なんか、起きたらまつ毛が凍ってたんだからな!?」

「まぁ、俺は真冬でも裸で暮らせるほど耐性ができてるけど、実家に引きこもってたカズマ君には厳しいかもなぁ」

「アンタも結構人間離れしてんな……」

 

 同じ境遇のマダオは耐えられそうだが、か弱いカズマはマジでヤバい。

 これは本気でなんとかしなければ、フランダ○スの犬みたいな悲劇が起きてしまう……。凍死して天に召される想像をしてしまったカズマが最悪の結末を危惧していると、馬小屋仲間の新入りである近藤が陽気な様子でやって来た。

 

「おう、朝っぱらから元気が無いなぁ、カズマ君。サムライだったら、こういう時こそ気合いを入れて、緩んじまったケツの穴を引き締め直すもんだぞ」

「いや、サムライとケツの穴は関係ないと思うけど。借金の無い近藤さんには、俺の惨めな気持ちなんか理解できやしねぇんだ!」

「まぁまぁ、そういじけんなよ。お金が欲しいお前達にちょっとした朗報を持ってきてやったんだから」

 

 そう言うと近藤は、手に持っていた紙を掲げた。

 

「……なんすかソレ? 雪まつり? 何か雪ダルマ的な絵が描いてあるけど、もしかして雪像を作る気ですか?」

「ああ、そうだ。これは以前、かぶき町で行われたことがあるマイナーな行事なのだが、それを知っていた将軍様がこの地でもやってみたいと仰せになってな。っつーわけで、【第一回チキチキアクセル雪まつり】を開催することになった」

「はあああああああああ!?」

 

 意外なイベントを持ってきたゴリラに、気分を害した銀時がつっかかる。

 

「おいこらテメェ、借金を将軍に払ってもらった分際で調子に乗んなよクソゴリラ。不当に背負わされた借金でヒイヒイ言ってる俺達に、雪と戯れているような余裕があるとでも思ってんのかぁーっ!? つーか、その雪まつりは、銀魂の初期にやった奴だろ!? 俺が作ったネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲で盛り上がった神回だろ!? そん時の成功を再現する気なんだろうが、そうは問屋が卸さねぇ! 借金王の俺達には、金にもならない雪遊びをやってるヒマは無ぇんだよ!」

「フン、金にもならないお遊びだと? 早とちりをする前に、この部分をよく見ろ。グランプリを取れば、賞金として1000万エリスが進呈されると書いてあるだろうが」

 

 言われて見ると、確かに1000万エリスが進呈されると書いてある。

 

「このイベントは、慈悲深い将軍様がお前達のためにわざわざ用意してくださった、貴重なチャンスなんだぞ? ウィズさんとイチャコラしながら楽しそうに準備していたのは正直言って腹が立ったが、お前らは感謝して参加するべきだろう」

 

 微妙な裏話にイラッとしつつ、雪まつりの開催理由を聞き入れる。グランプリを取る必要があるとはいえ、確かにこれはオイシイ話だ。

 この手の作業に自信があるアクアは元より、日本の文化を受け継いでいる紅魔族のめぐみんも話に乗ってくる。

 

「ねぇねぇ、銀時! 私達もこのお祭りに参加しましょうよ! 芸術でお金を稼ぐなんて私の主義に反するから、グランプリ級の一品を無料で提供してあげるわ!」

「何で無料にしてんだよ!! お前はすでに目的自体が間違ってんじゃねぇーか!?」

「フッフッフッ! 雪像とは、まさに行幸! 空腹を誤魔化すために雪でご馳走を作り続けて身に付いた造形技術を、今こそ活かす時が来た!」

「お前に至っては、内容すべてがお祭りっぽくねぇんだよ!? 黒歴史があまりに悲惨で流石の俺でもドン引きするわ!」

 

 二人の思惑はちょっとばかりおかしかった。とりあえず、何時ものようにツッコミを入れる銀時だったが、こんなバカな奴らでも今回だけは頼りにしなければならない。コイツらが本気を出せば、マジでグランプリを取れるかもしれないのだ。

 こうして、第一回チキチキアクセル雪まつりに参加することにした一行は、気乗りしないカズマを除いて盛り上がっていくのであった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 時間は過ぎてお祭り当日。アクセルの正門前に作られた会場で雪まつりが行われていた。

 アクセルの周辺にはまだ雪が積もっていなかったものの、街から離れた雪原地帯からウィズのテレポートで運んできた雪が辺り一面に敷き詰められて、アクセルの正門前だけ雪景色となっていた。

 これだけ近ければ一般人も参加できるため、祭りの会場は1000万を求める挑戦者で溢れかえっていた。

 そんな中、やる気が出ないカズマさんは参加を拒否してブラついていた。

 

「はぁ~……。俺は参加してないのに、なんでわざわざ寒い外に出て来なけりゃならねぇんだ?」

《もう。なに言ってんだよ、カズマ君。もっとポジティブに行動しなきゃ、あそこにいるバカップルのような明るい未来は掴めないぞ!》

「バカップルなんてなりたかねぇよ! つーか、あの二人は将軍様とウィズじゃないか。この祭りの主催者なのに、参加しちゃってんのかよ」

 

 文化祭の準備で盛り上がる高校生のようなテンションになった彼らは、審査の対象外という形で雪像作りに加わっていた。

 ちなみに、主催者側の一人である近藤は、ゴリラ警備員として真面目に働いており、現在は会場でナンパ行為を繰り返しているダストと揉めている最中だ。そんな彼がいるからこそ、このバカップルも安心してイチャイチャしていられるのだ。

 

「あら、カズマさんじゃないですか。もしかして、私達の作品を見に来てくれたのですか?」

「えっ、あーうん、大体そんなとこだけど……二人はお互いの雪像を作りあっているのか」

「ああ、そうだ。こういう作品は、作りたいと思った物を素直に作るべきだからな」

「は、はい……私も素直に作りたいと思ったからシゲシゲさんを作りました」

「あーもう、お前ら爆裂しろ」

 

 同棲を始めたばかりの初々しいバカップルは、ムカつくほどにイチャついていた。一人もんのカズマとしては居心地が悪いってもんじゃない。

 

「あ、あの~、シゲシゲさん。私の雪像の胸なんですが、大きくし過ぎじゃありませんか?」

「そういうウィズ殿だって、余の雪像の股間部分をモッコリさせ過ぎではないか?」

「えっ、あっ、きゃーっ!? これはそんなつもりじゃなくて!? 立派な仕事をしてらっしゃるシゲシゲさんならアソコも立派じゃないかなぁーとか、ちょっぴり想像してたというか!? あーん、私はナニ言ってるのぉーっ!?」

「……バカップルの作品はもう十分堪能したな」

《うんそうだね、カズマ君。バカップルは放置して、次行ってみよー》

 

 これ以上見ちゃいられないので、他の場所へ行くことにする。

 ちょっぴりやさぐれたノルンと一緒にオラつきながら歩いていると、今度はめぐみんと遭遇した。彼女は自分をモデルにした雪像を作っているらしく、中二病のようなポーズを取った女性像が出来上がりつつある。

 

「あっ、カズマ。結局、ここに来たのですか。今日はギルドでダラダラしてるとか言っていましたが、やはり私の作品が気になったようですね」

「えっ、あーうん、大体そんなとこだけど……その雪像って、お前なのか?」

「はい、そうです。魔王を討伐した最強の私をイメージして作りました。その名も勇者に相応しく【そして伝説へ】と名付けました!」

「うむ、どっかで聞いたことがある題名に突っ込みたいところだが、それよりも雪像自体に大きな問題があるな」

「ほう。素人の分際で我が傑作に文句を言うとは片腹痛い。まぁ、私の仕事にミスがあるなんてことは万が一にもあり得ませんが、あなたの言う問題とやらを聞かせてもらおうではないか?」

 

 上から目線で突っかかってくるめぐみんにイラッとしつつ、カズマは雪像の胸を指差す。

 

「ならば、あえて言わせてもらおう! リアルなお前のおっぱいはあんなにボインじゃねェェェェェッ!!」

「コンチクショォォォォォォッ!? せっかく、私がバレないようにこっそり盛っていたというのに、思いっきりバラすなんて、あなたは悪魔ですかぁーっ!?」

「まったくこっそりできてねぇーよ!? おんぶしても無感触で『あなたの胸は一体どこあるんですか?』と問いかけてしまいそうになるくらいの貧乳をウィズみたいな巨乳に盛るとか、エリス様のパッドよりも悪質じゃねぇーか!?」

 

 雪像の造形に理想を盛りまくっていたのを知って、いたたまれない気持ちになる。バカにされためぐみんは『ぐぬぬ』と言って悔しがるが、これ以上突っかかられてもメンドイので移動する。

 今度は、彼女の向かい側で作業している銀時の作品を見るとしようか。

 彼が作っているのは、二つの玉の真ん中に先が膨らんだ棒を立てた……

 

「つーかソレ、チ○コじゃねぇーか!? 子供も参加してるのに、アンタはなんつー下品なもんを迷いもせずに作ってんだ!?」

「ったく、お前も新八と同じかよ。思春期のクソガキは、いっつもいやらしいことばっか考えてやがっから、棒とか玉を見ると下品な想像しかしやがらねぇ」

「じゃあ、そのチ○コにしか見えないブツは何だっていうんだよ!?」

「えっ、マジでコレが分からないの? コレはアレだよ。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲と見せかけて、Vガンダムに登場したビッグキャノンだよ」

「結局、どっちもチ○コ型の卑猥な大砲じゃねぇーか!? つーか、これを読んでる人にビッグキャノンって伝わるの!?」

 

 予想外の変化球にカズマも対応仕切れない。これまでのやり取りを見て『ビッグキャノン? なにソレおいしいの?』って思った人は【カイラスギリー】でググってみてね。

 

「『ググってみてね』じゃねぇーだろオイ!? なんかこっちが恥ずかしいから、こんなチ○コは壊してくれるわ!」

「ちょっ、コラ止めろ!? その玉を作るのに何時間かかったと思ってるんだコノヤロー!?」

 

 暴走したカズマが片玉を蹴り飛ばして、卑猥なビッグキャノンが破壊される。

 そんな騒ぎが起こる中、数件となりで作業をしていた長谷川がやって来る。

 

「なんだよオイ。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲と見せかけて、Vガンダムに登場したビッグキャノンじゃねぇーか。完成度高ぇなオイ」

「こんなもんでどうして分かんだ!? お前はマジでニュータイプか!?」

 

 もはや定番となった一連のネタを何の捻りもなくやってくるマダオに突っ込む。

 

「それより、そっちは終わったの? 何か余裕ぶってるけど」

「ああ、一通り完成したから、カズマ君達も見てみるか? こっちも結構、完成度高ぇぞオイ?」

 

 やたらと自信ありげな態度で、銀時とカズマはイラッとしたが、それならばと見に行ってやる。

 案内されて目的地に着くと、そこには長谷川をモデルにした3メートルくらいの雪像が立っていた。デザインを説明すると、背中に翼が生えたマダオが何故か全裸で片足を上げて飛び上がろうとしているようなポーズを取っている。

 

「つーか、アンタも自分の像かよ。どいつもこいつも自己主張が激しいなぁ」

「へへへ……我ながら恥ずかしいけど、以前失敗した【飛翔】って作品をリメイクしたくなってな。タイトルも【飛躍】に変えて再挑戦してみたんだよ」

 

 照れ笑いを浮かべる長谷川は、自信ありげに説明する。確かに、完成度高ぇなオイと言っても過言ではない出来映えである。

 だが、彼は昔と同じ過ちを繰り返してしまっていた。どうしても彼の中の美意識に逆らうことができず、前に銀時の怒りを買ったチ○コまで再現してしまったのだ。

 

「なんだあの粗末なチ○コは!? またテメェは性懲りもなく変なもんをぶら下げやがって! こんな汚ぇ棒と玉を人様の前で見せんじゃねぇって銀魂でも言ったでしょーがっ!」

「確かに言っていたけどさぁーっ!? 芸術にはこのくらいの自由な表現が……って、俺が弁解してる間に雪玉をチ○コに当てんじゃねぇーっ!?」

 

 銀時に投げられた雪玉が連続してマダオ像の股間に当たり、衝撃に耐えられなくなったチ○コがもげてしまった挙げ句に、うっすら曇った空に向けて勢いよく飛んでいく。

 

「ああああああっ!? 俺の『マジでダンディーなおいなりさん』略してマダオがァァァァァァッ!?」

 

 長谷川の悲鳴が響き渡る中、マダオ像からもげたチ○コは放物線を描いて飛んでいき、隣でアクアが作っていた女神像の頭に刺さった。

 

「きゃああああああっ!? 私のチャームポイントにマダオのチ○コが刺さったァァァァァァッ!?」

 

 女神像の髪の毛がクリンと結ばれている場所に下品な髪飾りが加わってしまい、アクアの悲鳴が響き渡る。もうお分かりだとは思うが、アクアもまた自分をモデルにした雪像を作っており、そこにチ○コを刺されたら当然ながら激怒する。

 

「あんたって人はァァァァァァッ!? 神聖なる女神の頭に何てことしてくれてんのよっ!?」

「はぁ? ナニをしたって見りゃ分かんだろ。頭がスッカスカな女神像をせめてゴージャスにしてやろうと思って、スタイリッシュに飛ばしたチ○コをオサレに飾ってやっただけだ」

「チ○コをオサレに飾っちゃうアンタの頭がスッカスカなんですけど!?」

 

 どこまでもしらを切る銀時にムカついて、プンプンと怒ったアクアが突っかかっていく。

 客観的に見れば当然の流れだが、実を言うと、彼女の作った女神像にも大きな問題が存在していた。

 ちょっとした出来心でスカートの中の作り込みを確かめてみたカズマが、その問題に気づいてしまう。まるで動き出しそうなほどに作り込まれた傑作だけど、ソコの部分まで本物ソックリだと、いろんな意味でヤバ過ぎる。

 

「なぁ、アクア。お前の雪像も、本物と一緒でぱんつをはいていないのだが?」

「そんなの当たり前じゃない。私は完璧主義者だから、もちろんノーパン状態も完全再現しているわ! ドヤァーッ!」

「ドヤァーッ! じゃないわ、この痴女がァァァァァァッ!? 何かモザイクかかってるから、ひょっとしてーと思っていたけど、マジでやらかしやがったぁーっ!?」

 

 倫理に反する超危険な雪像を作っていたアクアに対して、男達が血相を変えて立ち向かっていく。

 

「そっ、そうだ! となりにあるマダオ像をぶっ倒して、駄女神像の股間部分を隠すんだ!」

「ええい! 長谷川さんには悪いけど、非常事態だからやむを得まい!」

「えっ!? ちょっ!? 止めてっ!? 俺の最高傑作をそんな理由で壊さないでェェェェェッ!?」

 

 長谷川の制止も聞かず、銀時とカズマによって足を破壊されたマダオ像は、となりにある駄女神像に向けてゆっくりと倒れかかる。その結果、負荷に負けた駄女神像も一緒に倒れてしまい、最終的には、仰向けに倒れた駄女神像の股間にマダオ像の顔面が覆い被さるような形になってしまった。

 

「ふぃーっ、危ないところだった。これなら駄女神像の○○○も見えねぇし、このSSもR-18化しなくて済むな!」

「ああ、これにて一件落着だな!」

「「これのどこが一件落着なんだァァァァァァッ!?」」

「つーかコレ、ヤバいよね!? お前達が暴れたせいで、余計に卑猥な状態になっちまってる感じだよね!?」

「うっせー黙れやチ○コ野郎! このくらいのエッチぃ構図はTo LOVEるだったらよくあることだ」

「あっ、そーいえばあるわねって、納得できるかぁーっ!?」

 

 自慢の像を破壊されて、アクアと長谷川が怒り出す。自信作を台無しにされた点は同情するが、だったら最初から股間を隠しとけと言いたい。

 そもそも、あんなR-18指定の作品では審査すらしてもらえない。

 

「何なんだよこの展開。審査する前から脱落者が続出しまくってるじゃねぇーか……」

《今のところ、まともに見てもらえるのはめぐみんの作品だけだね。後はダクネスが残ってるけど……》

 

 どう考えても不安要素しかない。何となくオチが読めてしまった二人は、互いに顔をしかめてしまう。

 すると、噂をしていたダクネス当人がベルディアの頭を持ってやって来た。

 

「おお、これは! アクアに襲いかかるハセガワを見事に再現しているな!」

「ほう、痴女と痴漢のコラボでくるとは。興奮度高ぇなオイ」

「いや、そんなもん作ってねぇから!? 二人そろって気持ち悪い勘違いしてんじゃねぇーよ!?」

 

 もはや、お友達状態になっているドMコンビに精神攻撃を受ける。

 

「ダクネスはともかく、ベルディアのオッサンまで参加してたのかよ」

「フン。俺だって、こんな幼稚なイベントに参加する気は無かった。しかし、ダクネスがどうしても協力して欲しいとお願いするから、仕方なく手伝っただけなんだからなっ!」

「生首のオッサンがツンデレしてんじゃねぇーっ!?」

 

 ダクネスの手の上でモジモジしているベルディアを蔑むように突っ込む。頭だけでどう手伝うんだよという疑問が沸き上がったが、聞いても気持ち悪い答えが返ってきそうなので無視する。

 

「で、お前らの作った作品はどんな感じなんだよ?」

「フッフッフッ、私達の合作もかなりのものに仕上がっているぞ」

「我らが技術を刮目し、驚き叫べ人間共よ!」

「ほう、そこまで言うなら、見せてもらおうじゃねぇか。ドM共の技術とやらを!」

 

 ドヤ顔で語ってくるベルディアにイラついて、銀時達までついてくる。

 果たして、人間とデュラハンによるコラボ作品はどんな風に仕上がっているのか。僅かな期待と大きな不安を抱きながら見てみると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。

 

「さぁ、見るがいい! 敗北した女騎士に襲いかかる魔王の幹部を表現した私達の合作。その名も【くっ殺】だ!」

「「「はいアウトォォォォッ!?」」」

 

 やっぱりこんなんなりました!

 半裸状態になったダクネスに襲いかかるベルディアなんて、どう考えてもアウトである。

 

「これのどこがアウトなんだ!? 淫らな格好をした女騎士が目の前にいたら普通は襲いかかるだろう!?」

「そう思うお前自体が普通じゃねぇって理解しろや!?」

「やはり、お前らもそう思うよな!? 普通は逆に魔王の幹部が勇者パーティにボコられて、気持ち良くなるパターンだもんなぁ!?」

「テメェの普通も普通じゃなくて、アブノーマルでしかねぇーじゃねぇーかぁーっ!?」

「ぶるぁぁぁぁぁっ!?」

 

 変なところに食いついてきたベルディアに堪忍袋の緒が切れた銀時は、彼を掴んで放り投げた。まさに手も足も出ない状態で自分の雪像に命中し、頭だけで必死に作った自信作も粉々に壊れてしまう。

 

「ふぃーっ、危ないところだった。これなら、半裸の痴女が寝そべっているだけになるから、『ストリーキングしてますけど、それが何か?』的に誤魔化すことができるな!」

「全然誤魔化せてねぇっつーか、別方向でヤバいだろソレ!?」

「そこが素晴らしいのではないか! 破壊から新たな可能性を生み出すとは、流石だな我が主!」

「カッコいい言い方しても、誤魔化せてねぇーからな!?」

 

 やっぱり、変態達からは変態的なものしか生まれなかった。

 結局、めぐみん以外は戦力外状態となり、1000万を手に入れる可能性はほぼ無くなった。何故なら、必勝のデザインを仕入れた桂が参加しているからだ。

 

「まったくもって、相も変わらず騒がしい連中だな。その程度の覚悟でグランプリを狙うなど、甘過ぎるにもほどがある。芸術とは自身の心を写し出す鏡のようなものであり、心が定まらぬ未熟者には名作など作れぬと、ゴリラ原作者も言っていただろう?」

「くだらねぇウソついてんじゃねぇーよ!? アニメの最終回で『チーズ蒸しパンになりたい』とかほざいてたゴリラ野郎にそんな名言は無ぇ! つーか、なにしに来たんだ、ヅラ!」

「ヅラじゃない、カツランジェロだ!」

 

 某有名な彫刻家を気取った桂が唐突に挑発してきた。

 

「カツランジェロでもアスラン・ヅラでもどうだっていいが、お前もこの雪まつりに参加してんのか?」

「当然だろう。祭りと聞いて参加せぬ攘夷志士がどこにいる。そんなわけで、俺達も素晴らしい作品を用意した」

 

 あからさまなドヤ顔が銀時達の怒りを誘う。

 とにかくすごい自信だが、どうせコイツが作ったものなど、たかが知れているだろう。いつものようにバカにしながら確かめに行ってみると、そこには期待を裏切るような傑作が待っていた。まるで、時代劇に出てくるサムライのような姿をしたその雪像のモデルは……

 

「紳士的な振る舞いと端正な顔立ちで、この世界の奥様方にも絶大な人気を誇る【冬将軍】だ!」

「「「冬将軍って何だァァァァァァッ!?」」」

 

 いきなり出てきた出オチキャラに銀時達がビックリする。

 

「何でテメェは冬将軍を勝手にデザインしてんだよ!? つーかコレ、どう見ても松○健なんだけど!? 冬将軍っつーよりも、暴れ○坊将軍的な感じになってんじゃねぇーかっ!?」

 

 冬将軍の雪像を見た銀時は、桂のボケだと思い込んで突っ込みを入れる。しかし、それは間違いであり、真相を知っているアクアがドヤ顔で説明する。

 

「待ちなさいよ銀時。あのマツ○ンそっくりの冬将軍は、桂の妄想なんかじゃないわ。この世界に実在する冬の精霊よ」

「はぁーっ!? 冬将軍が精霊って、どこまでふざけた世界なんだよ!?」

 

 アクアの話を聞いても納得できなかったが、真実なのだから仕方がない。この異世界の精霊には、冬将軍なんてふざけたモンスターを生み出してしまう厄介な能力があるのだ。

 本来の精霊とは、実体を持たないデジタルデータのような存在なのだが、接触した人間達が想像した【自分の姿】を読み取ることで不確定だったデータが固まり、その姿へと実体化することが可能となる。

 ようするに、この世界にいる冬将軍は、冬の精霊と出会ったどこかのバカが『冬と言えば冬将軍。将軍といえば松○健。それを合わせて暴れん坊冬将軍って感じになったらマジウケる』と連想して生まれた存在だった。

 話を聞いて状況を理解したカズマが、元凶と思われる人物を指摘する。

 

「つーか、コイツを生み出したのは、アクアが送った転生者だろ?」

「ええ、そうよ? 真冬にクエストをやるようなバカなんて、チート能力を持った転生者ぐらいしかいないもん」

「結局、お前の仕業じゃねぇーか!?」

 

 オチまで聞いたら最終的にアクアへと行き着いた。冬将軍とやらがどれだけ強いのか分からないが、コイツは魔王軍より厄介な敵を作りまくっているんじゃないかと思わずにはいられない……。

 バカらしい真実を知ってしまった銀時達が呆れる中、騒ぎを聞き付けた茂茂達とめぐみんまでやって来た。

 

「おお、これは! 昨日出会った冬将軍の像ではないか。完成度高ぇなオイ」

「なにそのキャラを無視した反応!? 将軍は冬将軍と会ったことがあんのか!?」

「ああ、そうだ。よもや、この異世界で尊敬すべきご先祖様と出会えるとは思わなかったぞ」

「いやいや、それは違うから! コイツはマツ○ンのパチもんであって、アンタのご先祖じゃないからね!?」

 

 暢気なことを言う茂茂に銀時も呆れてしまう。

 とはいえ、本物の冬将軍とエンカウントしたという話は、あまり穏やかではない。そこが気になっためぐみんは、茂茂に質問した。

 

「ちょっといいですか? どうやら昨日、冬将軍と遭遇したようですが、もしかしてその時に討伐したのですか?」

「いいや、討伐はしておらぬ。というより、できなかったという方が正しいな」

「ほう、冬将軍ってのはそんなに強いのか?」

「ああ……情けないことに、余は一瞬でやられてしまってな。詳しいことは、共に戦った桂の方が知っている」

「無様に逃げ帰った話など聞かせるものではないのだが、反省の意味も兼ねて語っておこうか……」

 

 目を閉じた桂は、思い出すように回想を始めた。

 

 

 あれは昨日の出来事だった。

 将ちゃん、ウィズ殿、近藤の三人は、雪まつりに使う雪を集めるために、街から離れた雪原地帯へと足を運んでいた。俺とエリザベスは、彼らの手伝い兼護衛として同行し、男共が必死こいてかき集めた雪山をウィズ殿のテレポートで転送するという地道な作業をひたすらこなしまくった。

 そうして、必要な雪を確保し終えた頃。ようやく一息ついた俺は、周囲を漂っている白い毛玉に気を取られていた。ウィズ殿の話によると、雪深い雪原にしか現れない雪精という名の弱いモンスターらしいのだが、何故か無性に気になったのだ。

 

『何ていうか、あざといまでに狙いまくった可愛い系のデザインが返ってムカつくな(怒)』

「って、気になるとこがおかしくね!?」

 

 確かに、お前の言う通りだ。たとえ、あざといキャラだとしでも寛容な心でもって見逃してやるべきだった。だが、その時の俺達は、長時間に渡る過酷な労働によってワーカーズハイな状態になっていた。

 その結果、高揚した気分に流されるままに、雪精共を一匹残らず皆殺しにしてしまったのだ。

 

「オィィィィィッ!? どう見ても、生態系を壊してるクソ野郎なんだけど!? 少しぐらいは自分のキャラを守るようにしてくれよ!?」

 

 確かに、お前の言う通りだ。たとえ、面倒臭くても勇者王という己のキャラを守り通すべきだった。だが、調子に乗った俺達は、ドラクエの勇者みたいに好き勝手に暴れてまくって眠れる獅子を怒らせた。

 その災厄は、雪精が全滅した後に音も無く出現した。疲れていたせいで俺達の凶行を止められなかったウィズ殿は、最悪の事態になったことを悟って必死に知らせてきた。

 

『皆さん早く逃げてください! あれは冬将軍という名の恐ろしいモンスターです!』

『なに!? あれが冬将軍だと!?』

『はい、そうです! 通常なら謝れば見逃してもらえますが、守護している雪精をあれだけ倒してしまったら、恐らく許してもらえません! だから、早くここから逃げて!』

 

 サムライのような姿をしたソイツは、ウィズ殿の言葉を肯定するように、凄まじい殺気を放ちながら歩み寄ってくる。リッチーが恐れるほどの力を持ったモンスター。それがこの、松○健にそっくりな冬将軍だった。

 

『まっ、まさか!? かの有名な冬将軍の正体が松○健だったとは!?』

「テメェはどこに食い付いてんだよ!? 今はそういう場合じゃねぇーだろ!?」

 

 確かに、お前の言う通りだ。たとえ、松○健にそっくりでも敵であることを忘れてはいけなかった。だが、不意を突かれた俺達は、松○健みたいな容姿に惑わされて戦闘体勢に移るのが遅れた。

 その迷いが、致命的な隙となって、近くにいた将ちゃんと近藤は、なすすべもなくやられてしまう。

 

『ぐはぁーっ!? なんで異世界で暴れ○坊将軍にやられるんだァァァァァッ!?』

『がはぁーっ!? 流石は余のご先祖様、見事なまでの暴れっぷりに感服しました!』

「って、将軍とゴリラがマツ○ンにやられたァァァァァッ!? つーか、なんで切られたのにパンイチで済んでんだよ!? もしかして冬将軍は、つまらないものを切りたくない五ェ門的なキャラなのか!?」

 

 いや、この世界はそこはかとなくゲームっぽい感じだから、ルパンネタというよりは、魔界村のようなシステムでも働いたのだろう。

 だからと言って、二度目以降もギャグが効くとは限らない。気絶した将ちゃん達に止めを刺そうとしている冬将軍を止めるべく、俺とエリザベスは立ち向かった。

 

『相手はあの松○健だ! 油断するなよ、エリザベス!』

〈大丈夫ですよ、桂さん! あんなパチもん、マツ○ンサンバを踊りながら成敗してくれるわ!〉

 

 俺達は、威風堂々としたマツ○ンの存在感に圧倒的されながらも奮戦した。

 しかし、奴は、想像以上に強かった。こちらも全力で戦ったが、浅い傷をつけるのがやっとで、ほとんど防戦一方だった。

 

『くっ! なんと!? これではこちらがマツ○ンサンバを踊らされているようではないか!?』

「何か返って余裕を感じるんだけど!?」

 

 お前の目は節穴か。どう見ても勇者王がピンチに陥っている感じじゃないか。

 頼みの綱であるウィズ殿のテレポートも、冬将軍を足止めできなければ使うことができず、八方塞がりの状態に陥りかけていた。

 そんな時だった。藁にもすがる思いだった俺は、雪原に横たわる将ちゃんと近藤を見て起死回生のアイデアを唐突に思い付いた。銀魂・第344訓【拙者をスキーに連れてって】のアレを使えば、絶体絶命なこの状況も打開できるんじゃね?ってな。

 

「えっ、344訓って、まさかお前……」

 

 ああ、そうだ。貴様が想像した通り、俺達は動いた。

 んまい棒・混捕駄呪(コーンポタージュ)の煙幕で冬将軍の視界を奪うと、慌てるウィズ殿を小脇に抱えて、うつ伏せに倒れている将ちゃんの背中に乗った。こうして【人間ボード】をゲットした俺は、軽やかに雪原地帯を滑走して、その場から脱出したのだ。

 

「やっぱ、ソレかよォォォォォッ!? コイツ、マジで人間ボードを再現しやがったぁーっ!?」

 

 しかも、一人だけじゃないぞ。エリザベスも後に続いて、ゴリラ型の人間ボードをぶっつけ本番で乗りこなし、俺達は危ういところで難を逃れたのだ。

 

「約二名は別の意味で難を逃れてねぇじゃねぇーか!?」

 

 

 桂の長い回想は、やっぱりおかしな内容だった。

 ただ、命からがら逃げのびて来たという話は本当らしく、めぐみんの証言もその事実を裏付けていた。

 

「まさか、カツラほどの達人でも敵わないほどの手練れだとは。国から高額の賞金をかけられるだけはありますね」

「ほう、高額の賞金ってどれくらいだ?」

「えっとですね……確か今は、2億くらいだったと思いますけど」

「よーし、分かった! 今からソイツを倒しに行こうぜ!」

「さっきの話を忘れたのかよ!? ヅラっちでも逃げ出すような化けモンとやり合うなんざ、俺ぁゴメンだぜ!?」

 

 桂の回想を聞いてビビったマダオは、賞金に釣られたリーダーに文句を言いながら冬将軍の雪像を見る。

 松○健に似てるってだけでも厄介なのに、マジで暴れ○坊将軍のように強いなんて、これ以上は関わり合いになりたくない。

 

「……って、あれ? なんか冬将軍の雪像がもう一個増えてんだけど? こんなに完成度高ぇもんをもう一個作ってたのかよ、ヅラっち?」

「ヅラっちじゃない、桂だ! というか、雪像は一個しか作ってない……ぞ……」

 

 おかしなことを言う長谷川に言い返そうとした桂は、雪像の方を向いて言葉を失う。なんと、そこには、もう一体の冬将軍が立っていたのだ。

 もちろん、それは桂達が作った雪像などではない。冷たい殺気を静かに放つあの白いサムライは……本物の冬将軍だった。

 

「くっ、ヤベェッ!!」

「へっ?」

 

 いち早く異変に気づいた銀時が、長谷川の襟首を掴んで後ろに引っ張る。その勢いで彼の身体が動いた直後に、冬将軍が振り上げた白刃が通り過ぎていく。

 どうやら切られずに済んだようだが、何故か長谷川は倒れたまま動かない。たまたま近くにいたカズマが恐る恐る確認すると、彼は無傷のままで絶命していた。

 

「長谷川さんが死んだァァァァァッ!?」

「「「「「「「えええええええええええっ!?」」」」」」」

 

 いきなりの異常事態にみんなで驚く。

 一体、長谷川の身に何が起きたのだろうか。その答えは、彼が立っていた足元を見てすぐに分かった。そこには、冬将軍の刀で真っ二つにされたグラサンが落ちていたのである。

 

「くっ、しまった!? 長谷川さんの本体を殺られちまったぁーっ!」

「えっ!? ウソ!? マジで!? アッチが本体だったのぉーっ!?」

 

 今まで半信半疑だったカズマは、色んな意味で悲惨な扱い受けているマダオに同情した。

 だが、今は、長谷川の死を悼んでいる場合ではない。

 仲間を殺されたことで高ぶった銀時達の闘気が、冬将軍の真なる力を呼び覚ましてしまう。その変化にいち早く反応したダクネスが叫んだ。

 

「みんな気を付けろ! 冬将軍の様子がおかしいぞ!?」

「なっ、なんですかアレは!? 冬将軍の全身が氷で覆われて……見たこともない甲冑姿に変化しましたよぉーっ!?」

 

 めぐみんが言うように、冬将軍の身体が一瞬で変化して、松○健の姿から日本風の甲冑を着た鎧武者の姿になった。

 それと同時に、放たれる殺気も禍々しくなり、慣れていないカズマは身体が固まってしまう。

 

「なん……だと……。マツ○ンからさらにパワーアップするなんて……」

《どうやら、銀時達の強い闘気に刺激を受けたみたいだね。普段は貧乏旗本の三男坊として雪精をいじめる悪人共を懲らしめているけど、本気で戦うべき好敵手と出会った時は、征夷大将軍として合戦の支度を整えるんだ》

 

 ノルンは冬将軍の状態を簡潔に説明した。

 サムライに擬態している冬将軍は、本物のサムライである桂達と出会ったことで本能が刺激され、今は頭に血が上った興奮状態にあった。普段は来ない街の前までわざわざ追ってきたのも、武器を持たない長谷川を躊躇せずに切ったのもそのためだ。

 無論、桂にとっても想定外な事態であり、楽しい祭りを台無しにした冬将軍を罵る。

 

「ええい、なんたることだ! よもや、ここまで陰湿なストーカーであったとは! まるで、近藤のように気持ち悪いヤツめ!」

「そこで俺をディスんじゃねぇーと抗議したいところだが、そんなことより、将軍様! この場は俺達が引き受けるので、ウィズさんと一緒に一般人を避難させてください!」

「相分かった。余が戻るまで死ぬでないぞ」

「了解しました! もう誰一人として死なせはしません!」

 

 騒ぎを聞きつけて来た近藤と入れ替わるように、茂茂とウィズが離れていく。

 すると間もなく、状況を知った者達が次々と騒ぎ出して、この場から逃げ出した。

 

「ほほほほ、本物の冬将軍だァァァァァッ!?」

「きゃーっ!? 殺されるゥゥゥゥゥッ!?」

「わわわわ、私もみんなと逃げなきゃ……」

「駄女神はここに残ってホイミを使いまくってくれや」

「ええっ!? しょんな~っ!?」

 

 DOGEZAしても見逃してくれないと悟ったアクアが騒ぎに紛れて逃げ出そうとするが、すぐに気づいたカズマによって未然に阻止される。蘇生魔法が使える彼女を後方に逃がすのも強ち間違いではないのだが、コイツだけを安全な場所に行かせるなんて我慢ならねぇ。

 第一、もう冬将軍の攻撃が始まってしまったので、迂闊に逃げ出す方が危ない。

 

「どうやら、コイツぁ殺る気満々のようだぜ!」

「ならば、こちらも全力で立ち向かうまでだ!」

 

 銀時と桂が真っ先に飛び出して、襲ってきた冬将軍と激しい戦闘を繰り広げる。そこに近藤とエリザベスも加わって、サムライ同士の激しい死闘が異世界で幕を開けた。

 無論、そこにダクネスも加わろうとするが、それはあまりにも無謀だった。

 

「我が主! 私も共に戦うぞ!」

「お前は来るんじゃねぇっ! ドMなら言うこと聞いて、お預けプレイをしてやがれっ!」

「くっ……我が主がそう言うなら、悔しいがお預けすりゅしかあるまい!」

 

 止められたダクネスは、ちょっぴり喜びに震えながらも銀時の本意を察する。只でさえ実力不足な上に、ベルディア戦で失った鎧も新調していない状態では、自分から殺されに行くようなものだからだ。

 それほどまでに本気を出した冬将軍の戦闘力は凄まじく、実際に戦っている銀時達も苦戦している。今はまだアクアの援護で持ちこたえているが、薄氷を踏むようなバランスがいつ壊れてもおかしくない。

 このままではマジでヤバいぞ。焦ったカズマは、何とか現状を打開するべくアイデアを振り絞る。

 

「なぁ、めぐみん。お前の爆裂魔法で冬将軍を倒せないか?」

「残念ながら、それは無理です。見た目こそ人型ですが、あれの正体は精霊ですから。元々が魔力の塊みたいな存在ですし、魔法防御も半端無いので、恐らくは一撃で倒しきることができないはずです」

 

 一番有効だと思われた方法は、速攻で否定された。

 こうなったらもう、ノルンに頼るしかない。彼女はそこそこスパルタであり、余裕がない時以外はほとんど手助けしないのだが、助けを乞えばドラえもんの如く出てきてくれる。

 

「(おい、ノルン! アイツを倒す方法を教えてくれっ!)」

《よろしい、ならば教えよう! アイツを倒す方法は……》

 

 早速ノルンから攻略法を聞き出すと、急いで銀時達に知らせる。

 

「銀さあああああんっ! 何とかして冬将軍の首を刎ねてくれ! 実体化した精霊は弱点もコピーしてるから、サムライがもっとも【死】を意識する首を刎ねた状態にすれば、矛盾を感じた肉体が不安定になる! その時にめぐみんの爆裂魔法を叩き込めば、冬将軍を倒すことができるはずなんだ!」

「よっしゃ、分かった任せとけェェェェェェッ!」

 

 勝機を得たサムライ達は、さらに力を増していく。

 それでも、冬将軍の首を取るのは至難の技であると、ダクネスの手に乗ったベルディアは懸念する。

 

「まさか、冬将軍がこれほどまでの手練れだったとはな……。俺を倒したギントキと言えども、ヤツの首を刎ねるのは容易ではないぞ。後もう一手、冬将軍を攻める手段があれば……」

 

 戦況を分析したベルディアは悔しそうに呟いた。彼の言う通り、もう少しで冬将軍の隙を作れそうなのだが……。茂茂が戻ってくるまで、みんなは耐えられるだろうか。

 この時カズマは、自分の非力さを痛感してうなだれた。

 

《そこでボクの出番だね! 運命を見通す力で明るい未来を切り開こう!》

「(なんだその胡散臭い勧誘みたいなアピールは? 普段は俺が頼んでも『この力はくだらん願いに使うものではない』とか中二病みたいなことを言って、全然使わせてくれないクセに)」

《そりゃあ仕方ないでしょう。どんなに万能な力にも弱点はあるからね。個人的な欲望を満たすために力を使って未来を変えたら、その分どこかに歪みが生じて、思いもよらない悪影響が返ってくることがあるんだ。只でさえ銀時やアクアといったトラブルメーカーがいるんだから、余計な不安要素は極力減らすべきでしょ?》

 

 『今頃それを説明するの?』とカズマは呆れてしまったが、一応筋は通っている。

 銀時やアクアがいるせいか、運命を見通す力にもおかしな影響が出てしまい、不確定なアクシデントを警戒したノルンは、あまり力を使わないように心掛けていたのだ。今回の騒動を事前にキャッチできなかった理由がそこにあるのだが、そうせざるを得ない事情もあったというわけだ。

 

《たとえば、前回起こったアクアの自爆をボクの力で止めていたらどうなっていたと思う? 金持ちになった銀時がさらにカジノで一山当てて、調子に乗った両さんみたいに働かなくなっちゃうんだ。その結果、彼が本来倒すはずの強敵達が生存しまくり、最悪の場合は、この国が魔王軍に負けていたかもしれないんだよ。だからボクは、安易な気持ちで未来を変えられないんだ。たとえ、君達の未来にボンビーという運命が待ち構えていてもね》

「なんかそれっぽく言ってるけど、俺達にボンビーを強いているだけじゃね!?」

 

 今の説明は、イマイチ納得できなかった。

 それでも、ここは彼女の力を頼るしかない。この戦いを生き残るには、多少のリスクも覚悟する必要がある。

 

《とりあえず、冬将軍を倒さなくちゃならないからね。ノルンの言うこと聞いて欲しいな、お兄ちゃん?》

「(よーし分かった、カズマお兄ちゃんに任せとけ!)」

 

 不審がるカズマだったが、最後はあざとい妹アピールで陥落した。

 どちらにしても、ノルンと共闘するしかないのだ。前に彼女の力を頼って髪の毛をむしり取られた経験があるものの、今はただ、これ以上の不幸が起きないことを祈るしかない。

 

《それじゃあ、作戦を説明するよ。まずは、アクアをごにょごにょごにょ……》

「ふむふむなるほど……」

 

 銀時達と冬将軍が激しい戦闘を繰り広げる中、こっそりと打ち合わせをしたカズマは早速行動を開始する。

 ノルンから言われた通りにアクアの背後から近づいて、彼女の肩をガシッと掴む。

 

「うきゃあああああああっ!? って、なにすんのよエロニート!? こんな時にセクハラなんて、アンタはどこまでエッチなのよ!? カズマさんからエロマさんに変態でもする気なの!?」

「誰がエロマだコノヤロー!? つーか、これはセクハラじゃねぇ! お前に頼みがあって来たんだ!」

「はぁ? 頼みって何なのよ? お金だったら絶対に貸してあげないわよ?」

「お前から借りようなんざこれっぽっちも思ってねぇよ!? そんなことより、俺の話を聞きやがれ!」

 

 ムカつく反応ばかりする駄女神に怒りながらも、伝えるべきことを急いで話す。

 

「いいか、アクア。俺がいいと言うまでは、ここで動かずじっとしてろ。これは決してフリじゃねぇぞ。笑いのフリと勘違いしてダチョ○倶楽部のように笑いを取りにいきやがったら、お笑いレベルなお前の頭が笑えない感じになっちまうから、マジで頼むぜ!」

「えっ!? えっ!? なにそれ、どういうこと!? 私の頭をディスりながら不吉なことを言ってますけど!? 一体、私にナニする気なのぉーっ!?」

「お前には何もしねぇよ! とにかく、ここでビシッと立ってろ! 上手くいったら今日の晩飯奢ってやるから!」

「えっ、ほんと!? お酒の飲み放題も追加してくれたら、やってあげないこともないわ!」

「ああもう、分かった! 酒でも何でも追加していいから! 絶対にそこから動くなよっ!?」

 

 ノルンの指示に従ってアクアのポジションを固定する。

 こんな時に意味不明なことをして、一体何を始めるのか。めぐみんとダクネスは、怪訝な顔でカズマの奇行を見ていたが、今度はその彼女達にも声がかかる。

 

「おーい、めぐみん。お前はすぐに爆裂魔法の安全圏まで後退して、詠唱をしていてくれ」

「えっ!? あっ、はい! 了解しました!」

「そんでもってダクネスは、長谷川さんのオッサン部分と本体のグラサンを持って、めぐみんと一緒に下がってくれ」

「う、うむ、分かった! こちらは任せろ!」

 

 唐突にリーダーっぽくなったカズマに対して感心しながら動き始める。無意識の内に女子の好感度を上げる辺りは、コイツも十分ラノベの主人公である。

 

「よーし、準備はこれで終了。後は、俺の幸運次第だな」

 

 そう言いながら、アクアの少し後方にゆっくりと移動して、背負っていた弓矢を装備する。一応、街の外に出るので、いつものように武器を持ってきたのだが、これぞまさしく、備えあれば憂いなしだ。

 

《それじゃあ行くよ、カズマ君。チャンスは一度きりだけど、君なら絶対成功するよ!》

「ありがとよ、相棒! ロックオン・カズマトス、目標を狙い撃つぜ!」

 

 調子に乗ってガンダムマイスターを気取りつつ、装備した弓を構える。

 狙うは、アクアの向こうにいる冬将軍の目。

 

《……今だっ!!》

「【狙撃】ッ!!」

 

 タイミングを計っていたノルンの合図で必殺の矢を放つ。

 カズマの幸運によって命中率が上がった矢は、アクアの頭上にある髪の毛の輪っかを通過して、その先にいる冬将軍へと真っ直ぐに向かっていく。

 標的である冬将軍は、銀時の猛攻を回避した直後であり、タイミング良く顔を上げた瞬間に矢が飛び込んできた。完全に虚を突いた攻撃であったため、流石の冬将軍でも避けられず、飛んできた矢が無防備な右目に突き刺さる。

 ぶっちゃけると、アクアは照準であると同時に目隠しでもあったのだ。

 

「きゃーっ!? 私のチャームポイントを何かがかすめていったぁーっ!?」

 

 暢気なアクアが騒いでいるけど、彼女の尊い犠牲(笑)は無駄ではなかった。

 予期せぬ攻撃が決まったことで冬将軍の動きが鈍り、その一瞬が致命的な隙となった。

 これぞまさしく、千載一遇の好機。ギリギリのところで勝機を得た桂は、迷いもせずに踏み込んで、刀を持った右腕をすれ違い様に切り落としていく。

 

「今だ行け! 一気に畳み掛けろォォォォォッ!」

 

 冬将軍の前方を駆け抜けながら桂が叫び、入れ違うように突撃して来た近藤とエリザベスが、冬将軍の足と胴を切り裂いていく。

 

「これでしばらく動けまい!」

〈この間に殺っちまえ!〉

 

 全身傷だらけの戦友達が、銀時に見せ場を譲る。そんな彼も血まみれだったが、眼光は鈍るどころか鋭さを増していた。

 

「2億エリスをゲットするため、お前の首を取らせてもらうぜっ!!」

 

 いろんな意味で目の色を変えていた銀時は、妖刀・星砕を振り抜いて、動けなくなった冬将軍の首を刎ねた。

 すると間もなく、冬将軍の身体が崩れていき、人の形を保っていられなくなっていく。

 

「よっしゃ、予定通りだ! 今の内にここから離れて、アイツを爆裂しようぜ!」

 

 カズマの声に合わせるように銀時達は駆け出した。いつ復活するかも知れないので、早く止めを刺すべきだろう。

 準備をしていためぐみんは、みんなの期待に応えるべく最後の仕上げに取りかかる。

 

「まさか、冬の精霊まで爆裂する機会が巡ってくるとは思ってもいませんでしたが、最強を目指す私にとっては望むべき好機です! 乗るしかない、このビッグウェーブに!」

「いいから、さっさとやれぇーっ!?」

 

 何やら恍惚の表情を浮かべてクネクネしているめぐみんを急かす。お願いだから、余計なフラグを立てないで、この一発で決めてくれ。

 

「【エクスプロージョン】ッッッ!!」

 

 カズマ達の祈り込めて最強魔法が爆裂する。通常の状態なら二、三発食らっても耐えられるが、実体化した身体が【死んでいる】と認識している今の状態ではひとたまりもない。

 業火に焼かれ肉体を失った精霊は、実体の無い元の姿に戻って冬の空へと消えていった。精霊自体は不死だから、その内どこかで復活するのだろうが、もう二度と関わることはないと願うばかりである。

 

「ふぃーっ! やっぱ、暴れ○坊将軍は伊達じゃねぇな……」

 

 やっとのことで死闘を終えて安堵した銀時は、長谷川の様子を見ているアクアの元へ歩いていく。

 

「何にせよ、ボスキャラは倒したから、後は死んじまった長谷川さんを生き返らせるだけだな。つーか、お前のザオリクって壊れたグラサンにも効果あんの?」

「そんなの私にだって分からないわよ。とにかく、やってはみるけど……」

 

 銀時に返事をしようとしたアクアは、彼の方を振り向いた。

 その直後にとんでもないアクシデントが起きてしまう。空から降ってきた冬将軍の刀が銀時の頭に突き刺さったのだ。それは、冬の精霊が勝利者を称えて残していたドロップアイテムなのだが、ドロップの仕方が鬼畜だった。

 派手に血を吹き出しながらぶっ倒れた銀時を見てみんなが呆然とする中、いち早く正気に戻ったカズマが叫ぶ。

 

「銀さんが死んだあああああああああっ!?」

「「「「「ええええええええええっ!?」」」」」

 

 あまりにあり得ない主人公の死に様に全員が驚く。ボスを倒した後のイベントで仲間が死ぬとか、普通は感動的な演出で盛り上がるところなのに、なにこのしょっぱい空気感。

 悲しいのに悲しめない複雑な心境の仲間達は、みんなで顔をしかめながら銀時の死体を見つめた。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 死んでしまった銀時が意識を取り戻してみると、辺りの景色が一変していた。

 彼が立っている場所は、先ほどまでいた雪まつりの会場ではなく、アクアと最初に出会ったような不思議な空間だった。そう思うのは当然で、ここは異世界を管轄している天界の施設だからだ。

 もちろん、彼の眼前にはあの時と同じように女神が椅子に座っている。銀色の長い髪が特徴的な、見目麗しい女神様が。

 

「坂田銀時さん……。ようこそ死後の世界へ」

「はあ? いきなり出てきてなに言ってんの? 囲碁の世界にゃ興味ないって、前にも言ったと思うんだけど?」

「いや、あなたの方こそ、初対面の私になにを言っているんですか!? そもそも、囲碁じゃありませんし、前に言った相手ってアクア先輩ですよね!?」

 

 アクアと同じく初登場を台無しにされた女神様がプリプリと抗議する。

 カズマなら可愛らしく怒っている美少女を見てホッコリしているところだが、性格が歪んだドS野郎は、相手が完璧美少女であってもキャバ嬢と接するような反応しかしなかった。

 

「つーか、ココはどこなんだよ? 随分とまぁ悪趣味な場所に瞬間移動させやがって、おもてなしの精神が無いんですかコノヤロー」

「なっ、悪趣味とはなんですか!? ここの作りは上層部の意向であって、私の趣味ではありません! 私だったらもっとこう、誰もがホッとできるような素敵なお部屋に……」

「ちょっと待てや、銀髪ネーチャン。お前の趣味を聞いた覚えはこれっぽっちもないんだけど。そこまでガッツリ食いつくとか、お前も不満があったんじゃね?」

 

 正体不明な美少女の意外過ぎる反撃に銀時の方が押されてしまう。

 しかし、不思議と違和感がない。理由はよく分からないが、この奇妙な少女とは初対面な感じがしないのだ。

 

「なぁ、お前。どっかで俺と会ったことがあるんじゃねぇか?」

「ギ、ギクッ!? そそそそそ、そんなことはありませんよぉー!? 私とあなたは、ここで初めてお会いした初々しい関係ですっ!」

「えー、そっかなー? お前の顔にも見覚えあるし、声もすんごい聞き覚えがあるんだが……」

「あ、あははははっ! 興味深いお話ですけど、それは私じゃないですからねっ!? 世の中には、同じ顔をした人物が三人いると言いますからっ!? たぶん、私のソックリさんと勘違いしてるだけですよぉーっ!?」

 

 変なところで鋭いドSに女神は冷や汗を流す。

 この人にバレると色々面倒になる気がするので、なんとか誤魔化さなくては……。

 

「とっ、とにかく! その話は置いといて、本題に入らせていただきます!」

 

 これ以上突っ込まれてはたまらないと、無理やり話題を変えて疑いをそらす。

 

「……では、改めていきましょう。私の名はエリス。英霊となったあなたに新たな道を案内する、幸運の女神です」

「はぁはぁ、なるほどそうですか。あなたがあの、胸にパッドを入れてるという噂のクリスさんですか」

「パッドはもう入れてませんよぉーっ!? 今はブラで寄せて上げ……って、胸の話はどうでもいいでしょ!? そんなことより、名前ですよ!? 私の名はエリスであって、クリスではありませんからっ!? 変な誤解はしないでくださいっ!?」

 

 なんだかもう、思いっきりバレてる気がしないでもない。

 それでも、自分からぶっちゃけるのは負けてしまった気がするので、向こうがしらを切っている間は、こちらも知らんぷりしておこう。

 

「ところで話は変わるけど、ちょいとばかりエッちゃんに聞きてぇことがあるんだが……」

「ちょ、エッちゃんってなんですか!? いきなり愛称で呼ばれるなんて、恥ずかしいというか照れるというか……」

「なんでそこでモジモジすんだよ? こっちが真面目に聞いてんだから、女神だったらちゃんとしろよな」

「あなたも少しは私のことを敬ってくださいよ!? ……で、聞きたいこととはなんですか?」

「ああ、いやね。さっきお前は俺のことを英霊とか言ってたけど、もしかして俺ってばFateに出てくる英霊的な存在になっちゃったの?」

「いや、Fateというのは関係なくて、戦死したあなたを敬ってそうお呼びしているだけです」

 

 とぼけた質問をしてくる銀時に呆れつつ、これまでの経緯を説明した。

 

「はぁ、俺が死んだぁーっ!? それじゃあなにか!? 主人公であるこの俺が、ドロップアイテムを食らった結果、人生からもドロップアウトしちまってことですかぁ!?」

「は、はい……残念ながらそうなります」

 

 ようやく自分の状況を知って大人げなく取り乱す。

 そんな彼を嘲笑って、先に来ていたあの男がこれ幸いと茶化してくる。

 

「ププ、ダッセェーッ! 少年マンガの主人公のクセに、鳥のウンコが当たって死んじゃうファミコンのキャラみてぇに呆気なく死んでやんの!」

「うっせぇーマダオ!? グラサン切られて死んだバカに俺を貶す権利は無ェェェェ……ってアレ? 長谷川さんが見当たらねぇけど、一体どこにいやがんだ?」

「何言ってんだよ、ここだよここ! お前の足元にいるだろぉーが!」

「いや、ここだよって言われても、足元にはグラサンしか落ちてないんだけど……。まさか、コレが長谷川さんってわけじゃねぇよな?」

「残念ながら、そのまさかだよ」

「う、うん、そうか……。なんていうか、その……強く生きろよ長谷川さん」

「いや、強く生きろと言われても、死んでこんなんなってんだけど!?」

 

 天界で再会した仲間は、随分と変わり果てた姿になっていた。

 

「つーか、なんで魂までグラサンになってんの!? 俺は一体何者なのか、教えてくれよエリス様!?」

「そんなことを聞かれても私にだって分かりませんよ!? 恐らくは、元の世界に帰れば直ると思いますけど……」

 

 喋るグラサンと話している内に、エリスは徐々に落ち込んでいく。このままでは、銀時とお別れしなければならないからだ。

 通常の場合、死んでしまった転生者は、魂のまま天国で暮らすか、生まれ変わって赤ちゃんからやり直すかの二択を選ぶことになるのだが、それを実行してしまうと銀時という人間は完全に消えてしまう。

 

「(でも、本当にそれでいいの? 魔王を討伐するためには、彼らの助けが必要……ううん、そういうことじゃない。あたしは、お兄様と会えなくなってしまうことが悲しいんだ……)」

 

 一瞬だけクリスの気持ちになったエリスは、本心に気づいてしまった。もしばらくの間だけでも、銀時達と一緒にバカ騒ぎがしたいのだと自覚してしまったのだ。

 たとえ、それが神の倫理に反するような罪であったとしても。幸運を司る自分が望んだ最善の選択だから……。

 

「何も迷うことなどありませんね」

「ん、なにか言ったか?」

「いいえ、何でもありません。あなた達にはこれからも、魔王討伐のために必死こいて働いてもらおうと思っただけです」

「必死こいて働けって、顔に似合わずブラック思考だなぁオイ」

「こう見えても、裏では結構やんちゃなこともしてますから」

 

 そう言って微笑んだエリスの表情はとても美しかった。

 ぶっちゃけ、彼女は色々と吹っ切れた状態なのだ。どうせ、もうすぐあの先輩が、銀時達を生き返らせようとするに違いない。そうなれば、立場の弱い自分は言うことを聞くしかないのである。

 

「ええ、そうです。私がやんちゃをしちゃうのも、すべてはアクア先輩がいけないのですよ……。ふふふふふ……」

「なぁ、銀さん。何だか、エリス様から黒いオーラが出てるんだけど?」

「黙れやマダオ! 俺達のエリス様が仰っているのだから、アクアがすべて悪いのだ! 何のことかは知らんけど!」

 

 異様な気配を放つエリスに銀時達はビビった。こうなったのも、全部アイツのせいなのか。なんて言うか、アレはもう疫病神そのものだな。

 居心地の悪い空気感に男達が参っていると、タイミングが良いのかどうか、諸悪の根元であるアクアの声が聞こえてきた。

 

『さあ、帰って来なさい銀時! 高額の借金が残ってるのに、一人だけ逃げようだなんて死んでも許してあげないんだから! フェニックスの一輝みたいに何回でも甦って必死こいて働くのよ!』

「向こうの駄女神はもっとブラックだったあああああああああっ!?」

 

 大音量で響き渡る迷惑なセリフにウンザリする。

 もちろん、彼女の声はエリスにも聞こえており、望み通りの展開になったことを心の中で喜びつつも、悪びれる様子もなく天界規約を破った先輩に呆れてしまう。蘇生魔法が使えるのは一人につき一回までなので、本来なら一度生き返っている転生者は復活できないのだ。

 

「はぁーっ……。そんなことをしたら、私が後始末をしなきゃいけないというのに。問題ばかり持ってくる先輩には困ったものです」

 

 アクアみたいに規約を破ってしまったら、上司からの説教をたっぷり受けるだけでなく、大量の始末書を作る羽目になったり関係各所に謝罪行脚を行ったりと、様々なペナルティーを受けなければならない。神の社会も世知辛いのだ。

 

「でも、これでお兄様も生き返ることができます……」

 

 彼を救うためならば、その程度の代償など受けたって構わない。

 無難な生き方をしている女神だったら割に合わないと思うだろうが、エリスにとっては十分以上にやる価値があるやんちゃなのだ。慈悲深い彼女はそれほどまでに人を愛し、銀時という存在を心の中に受け入れていた。

 

「どうやら、予想外のお迎えが来たようですね。本来なら、あなた達は生き返ることができないのですが、これまでに見せてもらった功績を考慮して、今回は特例として蘇生を許すとしましょう」

「えっ、マジで!? ありがとうございます、エリス様!」

 

 グラサン状態から脱出したい長谷川としては喜ぶべき展開だ。

 一方、銀時はというと……いつの間にか見つけ出したエリスのオヤツを食べながら、女神達の願いを無慈悲に拒絶する。

 

「ったく、冗談じゃねぇぞ駄女神共。この俺に断りもなく何度も蘇生しやがって。そういう設定を作っちまうと『戦闘シーンに緊張感がなくなるから止めろやボケ』とか思われるって、ドラゴンボールの時にも論争になったことを忘れたのかぁーっ? っつーわけで、俺はこのままリタイアして、エリス様に寄生するヒモのように暮らしていくんで、そこんとこ夜露死苦!」

「『んなもん夜露死苦できるかああああああああっ!?』」

 

 アクアとエリスが仲良くハモって、アクエリアスのように水とミネラルが合わさった。

 

「っていうか、私が後で食べようと思って用意したチーズケーキを勝手に食べるなんてあんまりです!? そのようにドSな人は、反省の意味も兼ねて向こうに戻ってくださいっ!!」

「なっ!? ちょっ!? 止めろ!? 俺のケーキを返せェェェェェッ!?」

 

 怒ったエリスは、神通力を使って銀時の手からチーズケーキを奪い返す。その行為にバカなドSが気を取られている間に、地上へと繋がる門を開いて、愚かな男達を容赦なく吸い込んでしまう。

 

「チッ、チクショォォォォォォッ!? せめてそのチーズケーキを最後まで食わせてくれェェェェェッ!?」

「お前はどんだけスイーツに気を取られまくってんだよ!? 甘党の座を奪っていった斉木楠雄と張り合うつもりか!?」

 

 死んでいるのに往生際の悪いバカ共が地上へと戻っていく。

 その姿を見届けながらエリスはつぶやいた。

 

「本当に変な人達ですね……。この先が思いやられます」

 

 楽しそうに文句を言って苦笑いを浮かべる。そう言う自分も、変な人達の仲間に入ってしまったと自覚しているからだ。

 それでも後悔はしていないと、スッキリとした気分になって、食べかけのチーズケーキを口に運ぶエリスであった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 銀時が瞼を開けると、笑みを浮かべたアクアの顔が真っ先に見えた。彼女はずっと膝枕をしており、後頭部から人肌の暖かい温もりが伝わってくる。客観的に見ればヒロインらしい行動だが、本性を知っている銀時にとっては違和感しか存在しない。

 やはり、膝枕をしてもらうなら、もっと清楚で気品のある、あの人がいい……。

 

「結野アナとチェンジしてくれ」

「エリスじゃなくて結野アナ!?」

「ケツの穴とチェンジって、どーいうことだ、我が主!?」

 

 紛らわしい人物名にアクアとダクネスが食いついてくる。

 感動的なシーンがいきなり台無しになったものの、何とか無事に復活できたようだ。

 涙を浮かべためぐみんが無言で身体を抱き締めて、ケツの穴発言に興奮していたダクネスも彼女の横から慌てて抱きつく。その際に、放り出されたベルディアも、いろんな意味でウルッとしている。

 

「チ、チキショウッ! 臨死体験ができるなんて羨ましいぞ、ギントキよっ!」

「お前だけ感動の仕方が気持ち悪ぃんだよ!?」

 

 受け方こそ色々あれ、全員がリーダーの帰還を喜んでいるのは間違いない。

 ちなみに、長谷川も生き返っており、真っ二つに切られたグラサンも何故か元通りになっていたが、ハーレム状態の銀時と違って誰も祝ってくれないので、仲間達との絆が切れてしまった感じがした。

 

「へっ! どうせマダオの俺なんか、壊れたグラサン程度の存在でしかないんだ!」

「まぁまぁ。そう拗ねるなよ長谷川さん。俺らはちゃんとアンタの帰還を祝ってやるからさぁ」

「近藤の言う通りだ。戦友との再会を喜ばぬはずがないだろう」

〈なにはともあれ、お帰りなさい長谷川さん〉

「みっ、みんな……。そう言ってくれるのは嬉しいけど、俺から奪ったグラサンに話しかけてんじゃねぇーっ!」

 

 もはや、完全に本体扱いとなったグラサンに対して奇妙な嫉妬を覚えてしまう長谷川であった。

 それにしてもとカズマは思う。今回の戦いは本気でヤバかった。間違いなく、冬将軍はベルディアよりも強かったのだ。戦利品である白い刀を手に取って見つめながら、改めてこの異世界のデタラメさを思い知った。

 

「もしかして、魔王よりも強い野良モンスターがいるんじゃないだろうな?」

《もしかするといるかもね。ボクの力でも見通せない、カグヤちゃんの影響がどれだけ出るか分からないから。本当に、マジでヤバいよ……》

「(オイオイ、冗談はよしてくれよ。いつもみたいに俺をからかっているんだろ? ねぇ、ちょっと聞いてんのかよ。そこでいきなり黙られたら、すんごい不安になるでしょーがっ!?)」

 

 いつになく真剣なノルンの様子に恐れおののく。冬将軍がやたらと強くなっていたのは、彼女にとっても予想外だったのだ。

 その原因が、あのカグヤだとすれば……今後出てくる強敵にも超迷惑な強化フラグが立っているかもしれない。

 

「よし、分かった。考えても仕方がないから、考えるのはよそう。そんなことより、銀さーん! エリス様ってどんな子だった?」

《ふーやれやれ。結局、こんなオチですか》

 

 イヤなことから逃げたカズマは、まだ見ぬ女神に救いを求めるのであった。

 ちなみに、雪まつりの方は、めぐみんの爆裂魔法で会場がぶっ飛んだため中止になりましたとさ。


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