このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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なんとか、平成が終わる前に投稿できました……。
今回でようやくこのすば一巻の内容が終わります。
ベルディアとの最終決戦を存分にお楽しみください。

次回からは、いよいよ二巻に突入しますぜ!


第27訓 魔王の幹部じゃ大魔王の城は落とせない

 ミツルギキョウヤとのイベントがあった翌日。辺境の街アクセルに最大級の危機が訪れようとしていた。

 茂茂の呼び掛けによってギルドに召集された冒険者達は、司会役を任された近藤から説明を受ける。

 

「集まってくれた冒険者の諸君。これから皆に恐ろしい事実を伝えなければならないが、心して聞いてくれ。俺達が調べた結果、今日中にベルディアが攻めて来ることが判明した」

「よっしゃ、ラッキー! 億万長者になるチャンスが向こうからやって来るぜぇーっ!」

「やったわね銀時! これでようやく私達も勝ち組の仲間入りよ!」

「って、喜ぶとこじゃねぇーだろうが!?」

 

 最悪の状況に冒険者達が青ざめる中、銀時とアクアのバカ兄妹が空気を読まずに大はしゃぎする。彼らにとってはお宝情報でも、普通に考えれば凶報である。

 そもそも、この情報は本当なのだろうか。冒険者を代表してめぐみんが聞いてみると、近藤の隣にいる桂が代わりに答えてきた。

 

「ベルディアが来るというのは間違いないのですか? この間の戦闘で、身体的だけでなく精神的にも大ダメージを与えていたので、この短期間の内にリベンジしてくるとは思わなかったのですが……」

「残念ながら間違いない。この俺が自分の目で確認したからな」

 

 そう言うと桂は、ベルディアと遭遇した際の回想を始めた。

 

「あれは昨夜の出来事だった。捕獲したモンスターをバカ皇子に届けた後、貴族達の住む地域からアクセルに戻ろうとした俺達は、久しぶりに深夜のドライブを楽しもうと思い立って、守護霊の【カローラ】に乗って帰ることにした」

「守護霊のカローラって一体なんだァァァァァァッ!? 車が守護霊ってどーいうことなの!? しかも、なんで運転できんの!?」

「まぁ、その辺の詳しい話は【ポロリ篇】の最終話を参照してもらうとして、とにかく俺とエリザベスは、華麗にドリフトをキメながら爽快に草原地帯を爆走しまくっていた。そうしてしばらく進んでいると、不幸中の幸いと言うべきか、偶然にもアクセルへと向かっている魔王の軍勢を発見することができたのだ。これもきっと、幸運の女神による加護のおかげだろう。まったくもって、浄水器にしか使えないウンコの女神とは偉い違いだ」

「ウンコの女神って私のことなの!? 確かに、昨日はゴリラのウンコがちょっとばかり付いちゃったけど、私自身をウンコ呼ばわりするなんて絶対に許せないわ!? 訂正して! 私はウンコの女神じゃないって、今すぐに訂正して!」

「あーもう話が進まねぇーっ!? ウンコが付いたエンガチョ女神はウンコのように黙ってろ!」

 

 案の定、桂の説明は色々とおかしかった。それでも、魔王の軍勢がアクセルに向かって来ていることは間違いなさそうである。

 

「なるほど……。カローラとかいう謎多き乗り物がものすご~く気になりますが、とにかくカツラは、ベルディアの姿を見たのですね?」

「その通りだ、めぐみん殿。軍勢の先頭に、首が取れるアラレちゃん的なキャラを目撃した俺は、あれこそまさに将ちゃんが言っていたベルディアであると確信した。同時に、銀時や将ちゃんを罵倒する様子から、奴らの目的が復讐であることも容易に分かった。それゆえに、自慢のカローラをかっ飛ばして、進路上にいたベルディアを撥ね飛ばしていきながら、急いでここに戻って来たというわけだ」

「オィィィィッ!? ここへやって来る前にベルディア殺ってるんだけど!? ゾンビランドサガみたいに冒頭から殺ってんだけど!? ボスを殺られた魔王軍は、もうここに来ないんじゃね!?」

 

 回想を聞いたカズマは、ボス戦を台無しにしやがった桂にツッコミを入れながら、登場する前に殺られたベルディアに同情した。

 だがしかし、カローラに跳ねられても魔王の幹部は生きていた。桂の知らせを受けた茂茂が再度偵察したところ、怒鳴り声をあげながら元気に進軍を続けているベルディアの姿が確認されたのである。

 

「残念ながら、ベルディアは健在だ。カローラで受けたダメージはほとんど見られず、侵攻速度も落ちてはいない。ウィズ殿の見立てによると、以前戦った時よりも力を増しているようだ」

「ま、マジかよ!? RPG的にはありがちな展開だけど、やられた後に強くなるとか、設定がサイヤ人じゃね!?」

 

 茂茂の追加報告に冒険者達はざわめきたつ。無論、その中には長谷川も入っていたが、不安そうな表情を浮かべながらも強がりを言う。彼にはまだ希望があるのだ。

 

「ま、まぁ、こっちには銀さんがいるんだから、中ボスがパワーアップしたところで問題は無ぇだろ! たとえ、コイツが、完結できないままジャンプから追い出されたハミ出し野郎だとしても、一応主人公だからなぁーっ!」

「あぁ!? バカ言ってんじゃねぇぞハミチン野郎! 俺は決してジャンプから追い出されたハミ出し野郎なんかじゃねぇ! 二日酔いで気分が悪いゲロ出し野郎だオボロロロロロ!」

「なんでいきなり吐いてんだァァァァァァッ!?」

「ったく、こちとら頭が痛ぇってのに大声出してんじゃねぇーよ。アクアの奢りで明け方まで飲んだくれた状態で、無理矢理起こされて来てんだから仕方ねぇだろーが……。っつーわけで、今日の俺のステータスは二日酔いという名の毒をもらった状態なんで、バトルの方で過度の期待はしないようにお願いしまーす」

「お願いしまーすじゃねぇーだろうが!? 冒頭で見せてたハイテンションは、いったいどこに行ったんだよ!?」

 

 殺る気満々だった冒頭とはうって変わって、二日酔いの症状が悪化した今の銀時はゾンビのような顔色をしていた。しかも、それは相棒であるアクアも同じだった。

 

「ちょっと、しっかりしなさいよ! 目の前で吐かれたら、私も我慢がオボロロロロロ!」

「アクアの方まで吐き出したァァァァァァッ!?」

 

 彼女もまた銀時と同様に重度の二日酔いだった。作戦を練り始めたばかりだというのに、戦う前から主力となるべき二人の勇者(笑)が脱落してしまった。

 ベルディアの討伐をするはずだったミツルギが不在となった今、彼に勝った銀時が戦わなければならないのに、結果はこのザマである。情けない理由で希望を失った冒険者達は、あからさまに落胆し、それを見たダクネスは、使えない仲間達を庇うために奮起する。

 

「どうしたみんな、しっかりしろ! 我が主が全力で戦えない状態とはいえ、完全に勝機を失ったわけではないぞ! ここは私が囮となって、我が主が復活するまで時間稼ぎをしてやろう!」

「ば、バカな!? そんなことをしたらアンタが死ぬぞ!?」

「ふん、私とてクルセイダーの端くれ、そう簡単に死にはしない! いやむしろ、奴等はたっぷり時間をかけて女騎士の熟した肢体をいたぶって来るはずだ! 心に誓った人のため、私はこの汚れなき肉体を卑劣なるモンスターに捧げることになるのだっ! ああ、なんという至高の恥辱! 悔しがる仲間達に見られながら無惨にも寝取られてしまうなんてっ! そんなの! そんなの! 興奮してしまうだろォォォォッ!?」

「なんでお前が興奮すんだよ!? 囮にそんな要素は無ぇーぞ!?」

 

 妄想を拗らせたダクネスの作戦は当然ながら脚下された。

 そもそも、銀時一人に頼らなくても対抗できる術はある。それを準備してきた茂茂がみんなに伝える。

 

「安心するがいい皆の衆。時間稼ぎなどせずとも、ベルディアを倒す方法はある」

「なっ!? その話は本当かよ、ブリーフマスター!?」

「ああ、本当だ。余が作り上げたあの砦は、このような時のために用意したものだ。たとえ魔王の幹部とて、大魔王の城を攻め落とすことはできん」

「「「「「おぉぉぉぉぉっ!! 流石だぜ、ブリーフマスター!!」」」」」

 

 自信満々な茂茂を見て、冒険者達が歓声を上げる。大魔王の城とか不穏なことを言ってた気もするけど、この人の仕事なら問題無いだろう。実際は、桂が考案した仕掛け満載の鬼畜なクッパ城なのだが、それを味わうことになるベルディアと仕掛けを操作することになるカズマ以外にとっては知らなくてもいい話である。

 

「待て待て待てぇーい!? なんかさらっと俺が操作することになってんだけど、どこでそんな流れになった!?」

「なにも不思議じゃないだろう。適任だった銀時が役に立たなくなった今、あれほどのドS装置を使いこなせるのは、女の子であってもドロップキックを食らわすことができるクズマさんの他にはおるまい」

「そんな理由で選ばれたのかよ!? 確かに俺なら言いそうだけど、このSSでは言ってねぇーだろ!?」

 

 桂の無茶振りによって変な役目を押し付けられたカズマは文句を言う。

 だが、冷静に考えると間違った判断でもない。戦闘力の低いカズマを後方支援に回すのは定石であるし、ゲームに精通した彼は、いくつかの仕掛けを作るのに協力しているため、操作にも慣れているのだ。

 それに、これは女の子達にアピールするチャンスでもある。

 

《ここでズバッと活躍してアクセルの街を守りきれば、キミに対する好感度も急上昇間違いなしだよ☆ (サキュバスの店を利用してる常連達の好感度が)》

「ふっ、こうなりゃ俺もやるっきゃねぇな! アクセルにいる女の子は絶対に守ってみせる!」

「いや、女の子だけじゃなくてオッサンとかも守ってくれよ!」

 

 ノルンの言葉を信じたカズマは、女の子にモテるために戦う決意をする。

 こうして、銀時と戦う気満々なベルディアに予想外な強敵が出現することになった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 冒険者達の作戦会議が終了してから3時間後、とうとうアクセルの街にベルディアの軍勢が到着した。カローラに跳ねられて更に怒った魔王の幹部は、異様なオーラを放ちながら正門へと向かっていく。

 だが、そこに待ち構えていると思っていた人間達の姿はなかった。

 

「……これは一体どういうことだ? 魔王の幹部が正面から攻めて来たというのに、迎え撃つべき冒険者どころか門番すらいないとは! この俺をバカにする気か!?」

 

 あまりにも無警戒な様子に、侮辱されたと感じたベルディアは憤る。

 すると、彼の怒りが伝わったのか、巨大な門が徐々に開いて中から人が出てきた。その人物は、巨大な黒馬に乗った冴えない顔の少年で、彼の後ろには髪の長い綺麗な女性が相乗りしているようだ。少年には見覚えがあり、銀髪の剣士と一緒にいた仲間だと分かったが、後ろにいる女性は……

 

「まっ、まさか!? あの女はウィズじゃないか!? こんなところにまで出てきやがって、またしてもその巨乳で俺の心を惑わすつもりか!?」

 

 ウィズのストーカーであるベルディアは、おっぱいを見ただけで彼女を識別できた。その気持ち悪いスキルのせいで、愛馬の存在に気づくのが巨乳店主の後になってしまう。

 

「っていうか、アイツらが乗ってる馬にすっげー見覚えがあるんだけど……。あの馬ってもしかすると、行方不明中だったパトリシアじゃね!?」

 

 あまりに予想外な再会に度肝を抜かれる。

 うん、どう見ても頭が無いし、パトリシアに違いない。

 

「いつまで経っても帰ってこないなーと思ってたら、こんなとこにいたのかよ!?」

 

 次々と襲い来るサプライズに混乱したベルディアは、数十メートル先で止まった馬を食い入るようにガン見する。魔に属するパトリシアが、なぜ人間なんかを乗せているのか。愛馬を奪われた飼い主は新たな疑問にぶち当たり、騎乗している少年――カズマに向かって問い質す。

 

「おい、小僧! 俺の愛しいパトリシアに一体なにをしやがった!? 貴様ごとき人間風情に気位の高いパトリシアが騎乗を許すなんて、絶対に有り得ん!!」

「はぁ~? 有り得んって言われましてもご覧の通りなんですが? お宅の可愛いパトリシアちゃんは、キモいストーカーのお前より、ナイスなお尻のウィズの方を選んだようだぜぇ~?」

「なっ、なにぃーっ!? そんな理由でこの俺を裏切っていただとぉーっ!? 世界でもっとも心を許せる相棒だと思っていたのに! こんな……こんな……ウィズの尻に敷かれるという俺の夢を叶えやがって、羨まし過ぎるぞパトリシアァァァァァッ!?」

「なんでそこで羨ましがっているんですかー!?」

 

 カズマの挑発に引っ掛かったベルディアは、おかしな方向に怒りを燃やす。風雲再起よりもウィズのお尻に食いついてきたのは想定外だったものの、一応は作戦通りに行っている。

 

「あ、あの~カズマさん。なんだかベルディアさんの様子がとっても気持ち悪いのですが、大丈夫でしょうか?」

「うん、ソレは元からなんでウィズはなんも気にするな。とにかく今は、アイツを砦の中に誘導することだけに集中してくれ」

 

 心配そうに話しかけて来るウィズを説得するように返事する。

 今回、彼女に協力してもらった理由は、確実にベルディアを砦へと誘い込むためである。だからこそ、他の冒険者達を一般人と一緒に避難させて、こちらだけに注意を向けさせるようにした。

 

「アイツの目的が銀さんと将軍だってことは分かっているが、念には念をいれないとな……」

 

 気まぐれにアクセルを滅ぼせる存在に対して気を抜くわけにはいかない。

 そのために、口の上手いカズマ自身が失敗の許されない交渉役を買って出たのだが、もちろん十分に勝機があっての判断だ。ウィズと一緒にいれば、彼女に片思いしているベルディアも容易に襲いかかれないし、いざという時はテレポートで逃げることもできる。

 さらに重要なポイントは、彼女になついている風雲再起も自由に操ることができることだ。

 

「(ウィズが言うには、闇属性との相性が良いウィザードに惹かれてるんじゃないかって話だけど、元の変態飼い主みたいに可愛い女が好きなだけじゃね?)」

 

 めぐみんやウィズになついている風雲再起に疑いを抱くものの、今はその性質を利用してやればいい。

 桂に冒険者の基礎を叩き込まれて馬にも乗れるようになっていたカズマは、ベルディアを誘い込むのに風雲再起が利用できるのではないかと思い付き、エリザベスから乗りこなす方法を教えてもらっている内に、ウィズという最高の協力者まで得ることができたのだ。

 その成果こそが今の状況である。

 

「取り返したい風雲再起とエロいことをしたいウィズをエサとしてぶら下げて、首無しの変態野郎を砦の中へと誘い込む……。名付けて【飛んで火に入るストーカー】作戦だ!」

「私ってエサだったんですかーっ!?」

 

 本当の役目を知って驚くウィズであったが、想い人である茂茂のためにも、ここは一つ我慢してもらうしかない。

 

「(この間の件もあるし、銀さんの同類である桂さんや近藤さんに頼りきるのもアレだからな。あの砦を利用して俺が何とかするしかないだろ……)」

《だいじょーぶだよ、カズマ君。クッパ城とクズマという鬼畜なコラボが実現すれば、悪どい魔王の幹部ですら無抵抗のマリオみたいなもんだから!》

「(うん、それバカにしてるよね? 俺を持ち上げているようで、どん底まで落としてるよね?)」

 

 カズマは否定するものの、ノルンが認めるくらいに凶悪なことをやろうとしているのは間違いない。

 それでも、人類の天敵である魔王の幹部に遠慮はいらない。アクセルを守るためにも、女の子にモテるためにも、ベルディアを地獄へと誘導しなければならないのである。

 

「おい、お前ら!! さっきからこそこそと何を話し合っている!? まさか二人で悪口を言って『あのデュラハン、こんなとこまでストーキングしてくるなんて、マジキモいんですけど』とか、罵倒しているのではあるまいな!?」

「いや、ソレほとんど事実じゃねぇーか!? そもそも、こっちはお前をバカにしに来たわけじゃないぞ」

「はい、そうです。私達は、シゲシゲさんの挑戦状を届けに来たのですよ」

「なっ、なに!? シゲシゲの挑戦状だと!?」

 

 意外な展開にベルディアが驚く。姿が見えないと思っていたら、そういう理由だったのか。

 

「つーか、これっておかしくね!? 攻めて来た相手に挑戦状って、一体どういうことなんだよ!? 普通は逆だと思うんだけど!?」

「まぁ、細かいことは気にすんなよ。とにかく、俺達はベルディアに対して挑戦状を叩きつける。果たしてお前は、難攻不落の我らが砦を攻略できるかな~?」

 

 そう言ってカズマが指差した方向に視線を向けると、場違いに立派な砦が建っていた。

 

「あれってシゲシゲの砦だったのぉーっ!? こんな辺境にあんな物を建てるなんてバカだなーと思っていたが、やはりお前らだったのか!?」

「なにを言うんですかベルディアさん! あれは全然バカな物じゃありませんよ!? あの砦のおかげで、私はシゲシゲさんという素敵な男性と出会えたのですから……(ポッ)」

「コンチクショォォォォォォッ!? 挑戦状など無くたって、今すぐアレをぶち壊しに行ってやらぁーっ!?」

 

 ウィズのお惚気は効果抜群だった。この様子なら、ベルディアは喜んで砦に突っ込んでいくだろう。

 とはいえ、相手も並ではない。戦いの準備を整えているのは彼の方も同じなのだ。

 

「ふっふっふっ! どうやら、あの砦にはかなりの戦力を用意してあるようだが、それはこちらも同じこと! さぁ、刮目して見るがいい! 魔王様より頂いた新たな鎧と我が力を!!」

「いや、刮目して見ろって言われても、前と同じデザインの鎧が金ピカぴーになっただけじゃん。それってゲームで良く見かける、モンスターの色だけ変えて使い回すセコい手と同じだろ?」

「セコいとか言うんじゃねぇーよ!? 変わったのは色だけじゃなくて、ちゃんと中身も変わってますぅーっ!」

 

 ドラクエ的な見方をすると若干間抜けになってしまうが、これでもちゃんとパワーアップはしている。今の状況では、グラムを持ったミツルギでも勝つことは難しい。

 

「しかも、変わったのはそれだけではないぞ! 我が不死の軍団も精鋭を連れて来た! アンデッドナイトよりも強力なアンデッドジェネラル! 死してもなお最強のプレデターとして君臨するドラゴンゾンビ! そして最後に、過去の時代で猛威を振るった魔王であると伝えられるバラ○スゾンビだぁぁぁぁぁっ!」

「ちょっと待てぇぇぇぇぇいっ!? 明らかにおかしいのが最後に混じってるんだけど!? それって下手すりゃ幹部のお前より強いんじゃね!?」

 

 いきなりぶっこまれて来たドラクエ要素に困惑する。魔王軍の方は銀時達よりまともだろうと思っていたら、とんでもない色変えモンスターが出てきてしまった。他にも、ドラゴンゾンビなんて大物までいるし、はっきり言って、正面から立ち向かうのは無理ですと言わざるを得ない。

 ただ、幸いなことに、こっちにも切り札はある。彼女の力をもってすれば、攻撃呪文に耐性が無いファミコン版のバ○モスゾンビなど恐れることはない。

 

「なんでこの世界にいるんだよって突っ込みたくなるモンスターが出て来たのはビビったが、そんなこたぁどうでもいい。どっちにしろ、ソイツらはここで全員リタイアだ」

「ふん、全員リタイアだと? 雑魚の分際で、随分とデカイ口を叩きおって……」

 

 挑発を受けたベルディアが素直に言い返してくるが、その際に生じる隙がカズマの狙いだった。ベルディアが余計なことに意識を向けている間に風雲再起を反転させて、そのまま猛然と正門の方へ駆けて行く。それと同時に、離れた場所にいる仲間へ向けてこう叫んだ。

 

「やれ、めぐみん! 開戦の合図を盛大にブチかませぇぇぇぇぇぇっ!」

「その大役、見事に果たして見せましょう! ドラゴンゾンビだけでなく魔王のゾンビまでいるなんて、何という絶好の爆裂シチュエーション! 雑魚掃除に回されて不貞腐れていましたが、今はメチャクチャ感謝していますよ、カズマ!」

 

 呼び掛けに応じて正門の頂上に姿を現したのは、魔法の詠唱を終えて待機していためぐみんだった。

 事前の偵察によってアンデッド軍団を引き連れて来ているのは分かっていたので、一ヶ所に集まっている間に爆裂魔法で一掃してしまおうと最初から決めていたのだ。

 ベルディア自身は、魔法耐性の強い鎧を着ているおかげで爆裂魔法にも耐えられるが、ボロい装備しか身に付けていない他の奴らはそうもいかない。怒りのせいで爆裂魔法に対する警戒を忘れていたベルディアが、ニヤリと笑うめぐみんを目撃した時点で何もかもが遅かった。

 

「えっ!? ちょまっ!?」

「問答無用の【エクスプロージョン】ッッッ!!」

 

 制止の言葉も空しくアンデッド軍団は爆裂された。恐怖を振り撒くはずだった死者達の群れは塵に還り、バラ○スゾンビも呆気なく消滅してしまった。

 後に残されたベルディアは、薄れていく爆煙の中で呆然と立ち尽くす。自慢していた軍団を速攻で消されたのだから少しだけ同情するが、メンタルダメージが回復する前にこちらの作戦を進める。

 容赦ないカズマさんは、視界が戻り始めた直後に風雲再起を突進させて、棒立ちになっていたベルディアを容赦無くぶっ飛ばした。

 

「ぐはぁーっ!?」

「オラオラ、どうしたベルディアさんよぉーっ? ぼーっとしてるとケガするぜぇ?」

「くっ、クソォォォォォォッ!? こちらが親切にアンデッド軍団の説明をしてやっている隙に爆裂魔法を撃つなんて、汚いマネをしやがって! お前ら、それでも人間か!?」

「デュラハンのお前が言うんじゃねぇよ!? 大体、最初に攻めて来たのは、そっちの方からじゃねぇーか! 俺達との戦いはもうすでに始まってんだ! お前が惚れてるウィズ姫を将軍様から寝取りたければ、あの砦をたった一人で攻め落として見せるんだな!」

「な、なにぃーっ!? あの砦を攻め落とせば、ウィズ姫を寝取れるのかっ!?」

「ちょっ!? なんでいきなり寝取るとか、そんな話になるんですか!? そもそも、私は姫じゃなくて魔道具店の店主ですから!?」

 

 ウィズを犠牲にしつつもベルディアの気を引くことに成功する。これで、めぐみんに向けられていたヘイトも解除できただろう。カズマの策略に引っ掛かり欲望を刺激されたベルディアは、砦の方へと駆け出した風雲再起の後を追ってアクセルから離れていく。

 

「やりましたね、カズマ。ここまでは、すべて計算通りです」

 

 魔力を使い果たしてぐったりとしていためぐみんは、徐々に小さくなっていく仲間の姿を見送りながら武運を祈る。

 

「後のことは頼みましたよ。あなたなら、私の期待に応えてくれると信じてますから……」

 

 ヒロインを自称するめぐみんは、ちょっぴり気になる少年に声援を送る。

 とはいえ、ここはギャグ寄りのふざけた世界。爆裂娘がまともなことをしても、失敗フラグを立てているようにしか思えなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ベルディアの誘導に成功したカズマ達は、風雲再起をかっ飛ばして砦の前までやって来た。遥か後方に置いてきたベルディアもじきにここへやって来るので、すぐさま制御室に行って迎え撃つ準備を整えなければならない。

 とはいえ、時間には余裕がある。門の前には、桂とエリザベスのツーマンセルが待ち構えており、たとえ魔王の幹部であっても簡単には通れないだろう。

 それどころか、この二人が本気で戦えば、ここで決着が着くかもしれない……。

 

「よくやったぞ、カズマ君! 後は俺達に任せておけ!」

〈奴はここでゲームオーバーだぜ!〉

「あーはい、せいぜいがんばって」

 

 すれ違い様に桂達から頼もしい言葉をかけられる。普通なら彼らの活躍に期待するところだが、それに対するカズマの態度は何故か非常に冷めていた。

 

「あ、あのー、カズマさん。さっきのアレを注意しなくて良かったんでしょうか?」

「んー? なにを言っているんだ、ウィズさん? あそこにいるのはバカの他人だ、俺達には関係ねぇ!」

 

 桂達の様子を見て、ウィズはおかしな不安を抱き、カズマは無視することにした。

 銀時に次ぐ戦力であるはずの彼らが、なぜそのようなしょっぱい扱いになっているのか。砦の前までやって来たベルディアが、すぐに答えを知ることになる。

 

「ふん、砦というより城だなこれは。冒険者の作ったものだと先ほどまでは舐めていたが、こいつは想像以上に落とし甲斐がある……ん、なんだ? あの変な奴らは?」

 

 砦に気を取られていたベルディアは、道を塞ぐように立つ奇妙な存在に気づいて注目する。

 近づくにつれて、ソイツらがおかしな姿をしていることが分かってきた。自分を待ち構えていた人間かと思ったら、どうも人の形をしていない。いや、片方は人の顔が出ているから人間だとは思うけど、外見は茶色いキノコの形をしたモンスターと言わざるを得ない……。

 

「つーか、なんだよその格好!? これから戦おうって時に、なんでキノコになってんの!?」

「貴様こそ何を言っているのだ。スーパーマリオの最初に出て来る敵といったら、定番のクリボーに決まっているではないか」

「そんなもん知らねぇよ!? スーパーマリオとかクリボーなんて激しくどうでもいいっつーか、間抜けな姿の二人だけでこの俺に向かって来るとか、どう考えてもふざけてんだろ!?」

「ふざけてなどいるものか! 自分を倒すための仕掛けをわざわざ用意するほどに優しい大魔王クッパが、ヒゲのオッサン一人を相手に、各ステージのボスを集めて襲いかかるなんて卑怯なマネをやるわけなどないだろがぁーっ!?」

「いや、大魔王なら卑怯なマネをやったっていいんじゃね!? 大体、俺はヒゲのオッサンなんかじゃねぇーし、大魔王クッパって誰!?」

 

 突っ込みどころしかない桂との遭遇に、ベルディアのツッコミ芸が冴え渡る。クッパ城に初めて挑戦者が来たことで浮かれた桂は、こんなこともあろうかと密かに用意していたクリボーの着ぐるみを持ち出して来ちゃったのである。そこまでふざけていられるほどクッパ城の仕掛けに自信があるということなのだが、どう考えてもバカとしか言いようがない。

 

「何はともあれ、いよいよここからクッパステージが始まる。かなりの難易度に仕上がっているから、心して挑むがいいぞ、首無しマリオよ!」

「誰がマリオだコノヤロー!? 俺の名はベルディアだ!」

「ええい、魔界村の主人公みたいな格好をしているからってマリオを愚弄しやがって! マリオ的な役なんだからマリオを素直に受け入れろや! そんでもって、無警戒にBダッシュしてクリボーに悪質タックルをかましてしまい、いきなり残機を減らすというお約束を無様に再現するがいいわ!」

 

 頭のおかしいキノコ野郎が、マリオあるあるで絡んで来た。意味はよく分からないけど、ムカつく上にウザったい。

 

「いいだろう! 貴様らの望み通り、俺の悪質タックルでぶっ飛ばしてやらぁぁぁぁぁぁっ!」

「ごふぅーっ!?」

〈ぶるぁーっ!?〉

 

 ベルディアのタックルによって桂とエリザベスがぶっ飛んでいく。クリボーの着ぐるみを着ているため、まさに手も足も出ない状態で地面に叩きつけられる。

 

「はっ、バカめ! 我が剣で切るまでもないわ!」

「ぐ、ぐはぁっ! やはり、当たっただけで死んでしまう繊細なマリオのように、魔王の幹部を倒すことはできなかったか!」

「魔王の幹部をバカにすんなよ!? 当たっただけで死ぬわけねぇーだろ!? つーか、そのマリオって奴、どんだけ体力無ぇんだよ!?」

 

 どこまでもスーパーマリオ的なノリを続ける桂にウンザリする。パトリシアに乗っていたクソガキといい、頭のおかしい爆裂娘といい、コイツらの相手をしていると精神的に疲労する。

 

「こんな茶番にいつまでも付き合っていられるか! 貴様ら雑魚など放っておいて、さっさと砦を落としてやる!」

 

 我慢の限界に達したベルディアは、バカを放置して先を急ぐ。結局、戦闘をすることなく素通りさせることになったが、この結果は桂の予定した通りでもあった。

 

〈無傷で行かせてしまったけど、本当にこれで良かったんですか?〉

「ああ、これでいいんだよ。ベルディアを倒す役目は、この地で生きていく覚悟を決めた将ちゃんと、未来を担うことになるカズマ君達であるべきなのだ。戦い終えた老兵は、新たな勇者を育てるために、頼りない道化役を演じていればいいのさ」

〈桂さん、あんた最初からそのつもりで……〉

 

 ナチュラルで道化のクセに、なにを言っているのやら。バカはバカなりに考えて行動していたらしいが、返って状況を悪化させているだけのような気がしないでもない。

 

「恐らくは、銀時やアクア殿も同じことを考えながらゲロを吐いていたはずだ」

〈アイツらはナチュラルに二日酔いで吐いてただけじゃね?〉

 

 ほら、やっぱりバカ達が勝手に自滅しているようにしか思えない。こんなんで、ベルディアを倒すことができるのだろうか。

 

「近藤は甘いから普通に手助けするだろうが、それはそれで構わない。後は、結果がどうなるか。首無しマリオがクッパ城を攻略できるか見ものだな」

 

 絶対にクリアできないことを確信しつつ、遠ざかっていくベルディアの後ろ姿を見送る。クリボーの格好でなにカッコつけてんだよと文句を言いたいところだが、もうコイツに突っ込んでいる時間はない。ベルディアは砦の目前まで迫っており、彼の力で攻撃すれば、頑丈に作られた門ですら容易に破壊できてしまう。

 

「こんなもので魔王の幹部を止められるものかぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 いよいよ門まで500メートルを切り、ベルディアの気合いも高まっていく。

 しかし、彼が攻撃する前に門の方が先に開いた。もちろん、この行動も作戦の内であり、門の内側で待機していたネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を使用するためにあえて開いたのである。

 その決戦兵器を操作しているのは、弱い自分でも戦えるからという理由で志願した長谷川と、個人的な目的のために参加したクリスだった。

 

「頼んだぜ、クリスちゃん! 一発限りのアタックチャンスを活かせるかは、君の幸運次第だ!」

「そいつは責任重大だね! でも、当ててみせる!」

 

 大まかな準備を整えた長谷川に代わって、クリスが砲手を任される。狙撃スキルが無いとはいえ、彼女の高い幸運があれば、かなりの高確率で命中が期待できる。

 この日のために開発した新型の砲弾を当てることができれば、たとえ爆裂魔法に耐えられる強敵であっても多少のダメージは与えられるはずだ。

 

「(本当はこんなことやったらいけないんだけど、アクアさんやお姉様も自由にやってるんだから、今更あたしが混じったって文句は言わせないんだからね!)」

 

 やんちゃした子供のように、心の中で言い訳する。絶大な力を有する神は、天界規約によって地上における活動を制限されており、人間社会に大きく影響を与えるような干渉は基本的に禁止されているのだ。

 遥か昔、悪魔達との抗争を繰り返していた神々は、信仰心によってパワーアップするために人間の信者を増やす計画を行った。しかし、その計画が世界を危機に陥れる事態を招くことになった。神の威光を広めようとして奇跡を大盤振る舞いした結果、楽園と化した環境に慣れてしまった人間達がどんどん堕落してしまい、全人類がニート化するという最悪な状況に陥ってしまったのだ。

 これに懲りた神々は、今回の失敗を教訓にして『アイツらは甘やかすとすぐ調子に乗りやがるから、適度な感じの放置プレイで締めて行こうぜ』というルールを作ったのである。それが足枷となって、エリス自身の力で魔王を排除できなくなり【神器を与えた転生者を代わりに送る】という回りくどい救済をやる羽目になっているのだ。

 ちなみに、アクアは【銀時の所有する神器扱い】なので、女神の力を使ってもルールに反していない。ただし、彼女自身がポンコツなせいで一切ありがたみを感じられず、天界規定に縛られているエリスとしてはもどかしい限りである。生真面目な彼女はルールを破ることができず、これまでは神器を回収する程度の小さな干渉にとどめていたのだ。

 

「(だけど、もう関係ないよね!? あのカグヤ先輩まで、こんな物を持ち込でるし! っていうか、みんなあたしの管轄世界で好き勝手にやり過ぎじゃない!?)」

 

 やんちゃ過ぎる先輩達に振り回されて、クリスはちょっぴりやさぐれていた。

 とはいえ、これは願ってもないチャンスでもある。この大砲さえあれば、女神の力が使えなくても魔王軍に対抗できる。

 

「(デザインが卑猥だとか色々問題だらけだけど、今は人類を救うための剣として使う!)」

 

 銀時に感化されているエリスは、たとえ規約を破ってでも愛する人間達のために戦う決意をする。

 それに対するベルディアは、初めて見る大砲に驚きつつも前進していく。

 

「なんだあのチ○コみたいな物体は!? あんな物でナニをする気か分からんが、一気に突破してくれるわ!」

 

 若干警戒したものの、あれが何をするものなのか理解出来ず、結局はそのまま突っ込んでいく。この世界には、大砲はおろか銃すら存在しないので、避けるという考え自体がベルディアの頭に無かった。形状からバリスタのような射撃武器である可能性は考えたが、その程度なら問題なく防げると判断したのである。

 

「よっしゃ、いいぞ! カズマ君の予想通り、まっすぐこっちに向かって来るぜ!」

「あれなら簡単に狙い撃てる!」

 

 まさに千載一隅の好機。ペロリと唇を舐めたクリスは、このチャンスをものにするべく、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を操作する。

 

「エネルギー充填120%! 照準調整完了確認!」

「ファイアーッ!」

 

 長谷川の合図と同時に砲口から火を噴く。

 そこから飛び出した砲弾は、以前ウィズが購入したユニコーンジャスタウェイを6個も搭載しており、着弾地点に発生する瞬間的な破壊力は、めぐみんの使う爆裂魔法すら凌駕する。

 そんな物騒な代物が、クリスの幸運による影響を受けてベルディアの急所に直撃する。男にとって最大の弱点であるチ○コの部分に……。

 

「うぎゃああああああああああああああああっ!!?」

 

 クリスの放った一撃は、いろんな意味で想像を絶する恐ろしいダメージを与え、その衝撃に耐えられなかったベルディアは……ショック死してしまった。

 

「クッパ城に入る前にベルディアが死んだぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 予想外の結末に驚いた桂の絶叫が響き渡る。まさか、丹精込めて作り上げたクッパ城をお披露目する前に決着がついてしまうとは。長谷川やクリスにとっては嬉しい大金星なのだが、桂にとっては計算外の状況である。

 

「やっ、やったぁーっ! ベルディアのチ○コを狙い撃つなんて、やるじゃねぇか、クリスちゃん!」

「えっ、いや、別に、狙い撃ったわけじゃないんだけど!? たまたま玉に当たった弾がクリティカルヒットになるなんて、あたしにとっても予想外だよ!? でも、魔王の幹部を倒せたんだから、方法がアレでもまぁいいか」

「まったく全然良かないわぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 勝利を喜ぶクリス達に対して怒りを抱いた桂が叫ぶと、昇天しかかっているベルディアの元へエリザベスと共に走っていく。傍迷惑な目論見が外れて焦りまくったマリオバカは、クリス達が予想もしていなかった迷惑行為に走ってしまう。

 

「急ぐんだ、エリザベス! チ○コを失ったマリオが消えてしまう前にザオラルで生き返らせろ!」

〈下手くそなプレイヤーにコンティニューさせてやるなんて、桂さんは優しいな〉

「そんな優しさいらないんだけど!? なんで敵のクリボーがマリオを助けてやってんの!?」

「そ、そうだよ!? せっかく倒した魔王の幹部を生き返らせるなんて、どういうことさ!?」

「それを言うのはこっちの方だ! 主役が活躍する前にボスキャラを倒すなんて空気を読まないマネをしおって、一体何を考えている!? ただでさえ、『銀魂の奴らがでしゃばり過ぎ』とか『出番を取られたカズマさん達が可哀想』とか思われてんのに、メンタルの弱いバカ作者を助けてやろうとは思わんのか!? ここはわざと弾を外して、舞い上がる土煙を前に『やったか!?』とつぶやいて失敗フラグを構築し、不適な笑みを浮かべながら現れる敵を見て『あ……あぁ……』と言葉に詰まり、ドラゴンボール的に絶望感を演出するところでしょーがっ!?」

「なんでアニメの引き延ばしみてぇなことを俺らがやらなきゃならねぇーんだよ!? バカ作者のメンタルなんかに配慮してる場合じゃねぇーだろ!?」

 

 あり得ない暴挙に対してクリス達から文句が出る。その間にエリザベスが3回目のザオラルを唱えて、死にかけていたベルディアが復活してしまう。意識はまだ戻っていないので、今なら弱い長谷川達でも攻撃し放題だが、クッパ城を使わせたい桂達が邪魔をする。

 

「ちょっとちょっと、困るよ君達。二人の戦闘シーンはこれで全部お仕舞いなんで、さっさと退場するー。気絶しているマリオの方は、この後こっちで砦の中に放り込んでおくから、君達は使った道具を片付けといてー」

「えっ、えぇぇぇぇぇっ!? せっかく、あたしが勇気を出して魔王の幹部を倒したのに、この扱いは何なのぉーっ!?」

「まぁ、ヅラっちが絡んでくると大体いつもこんな感じだからなぁ……。こうなりゃもう諦めるしかねぇよ、クリスちゃん」

「あーん! ヅラっちのバカーッ!」

「ヅラっちじゃない、ヅラボーだ!」

 

 銀魂世界の理不尽な洗礼を受けたクリスは、涙を浮かべて悔しがった。一応これでも、勇者を育てるためにやっていることなのだが、女神であるエリスでさえバカ達の目論見を見通すことはできなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 気絶していたベルディアが目を覚ますと、そこは先程までいた場所ではなかった。辺りを見渡してみると、どうやら建物の中らしく、石造りの通路に仕掛けられた拷問器具のようなトラップがあちらこちらで動き回っていた。

 

「なんだこのドSな悪魔が作ったような悪趣味な迷宮は!? 確か、俺は外でやられたはずだが……まさか、ここは地獄というわけではあるまいな!?」

 

 つい先程まで昇天しかけていた上に、目覚めたら景色が一変していたのだから、混乱するのも当然である。

 制御室にいるカズマは、ファンタジーな映像システムを見て慌てふためく彼に気付き、状況を説明するためにファンタジーな音響システムを使って話しかけた。

 

「はぁーっはっはっはっ! 魔王の幹部ベルディアよ! クッパ城改め、風雲カズマ城へよくぞ来た!」

「むっ、その声はさっきの小僧!? 貴様がいるということは、ここはあの砦の中か!? つーか、風雲カズマ城って何!? 風雲の意味が分かんねぇし、カズマなんてダッセェ名前、紅魔族みたいで恥ずかしくね?」

「ええい、黙れや変態野郎! お茶目な俺の冗談を完膚なきまでにディスりやがって、もう容赦しねぇぞゴルァ!?」

 

 桂達がやらかしたせいでキレ気味だったカズマさんは、空気を読まないベルディアの言葉でさらにキレて殺気立つ。

 

「(これまでは援護に回って、将軍様と近藤さんにとどめを任せようと思っていたが、もう止めだ! こっからは、俺の手で殺っちまうつもりで行かせてもらうぜ!)」

《うん、いいね! 桂のおかげで活躍できて良かったんじゃん、カズマ君!》

「(確かに、活躍できるけれども、良かったなんて思ってねぇよ!? ヅラのせいで、リアルなマリオをやらされてるだけだからな!?)」

 

 おかしな方向にスパルタな勇者育成の被害者となったカズマは、ちょっぴりやさぐれていた。

 それでも、これはチャンスである。こうなりゃもう、女の子にモテモテな未来のために全力を尽くすしかない。

 

「つーわけで、俺の名前をバカにしたストーカー野郎には地獄を見せてくれるわ!」

「ほう? 地獄とは大きく出たな。人間ごときが作った罠など、この俺に通用するか。それよりも我が力に恐れをなして、貴様ら自身が地獄を見ることに……ん? うわ、いきなりなんだ!? 床が勝手に動いてるぅーっ!?」

 

 余裕を見せて話している途中で、床に仕掛けた【ベルトコンベア】が始動する。強制的にスタートされて慌てたベルディアが向かう先には、途中で床が無くなっており、その下には熱したタバスコで作られたニセマグマが待ち構えていた。

 

「オイオイオイオイ、これはヤバいぞ!?」

 

 パワーアップしたベルディアと言えども、あの中に飛び込んでしまったらタダでは済まない。重い鎧を着ているせいで、ろくに泳ぐことができないのだ。

 そんな状態を狙われてやられるなんて御免だし、タバスコまみれになること自体がそもそも嫌だ。

 

「ちっきしょーっ!?、こんな間抜けなトラップに引っ掛かってたまるかぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ならば、全力でBダッシュして、あの【リフト】までジャンプしろ!」

「なっ、あの板に飛び移るだと!? ギリギリだが、やるしかない!」

 

 危機一髪のタイミングで隣を走る女騎士から的確なアドバイスを受け、ぶっつけ本番のギリジャンを試すことにする。Bダッシュとやらがよく分からないが、ベルトコンベアによる加速を活かして勢い良く飛び上がる。

 

「よ、よっしゃあーっ! なんとか飛び乗れた……って、今度は落下してるんだけど!?」

「次の【リフト】へ早く飛べ! この仕掛けは、乗った瞬間に落下するから気をつけろ!」

「な、なるほど! 落ちる前に飛び移るのか!」

 

 またもや女騎士からアドバイスを受け、間一髪で難を逃れる。

 しかし、奇妙な幸運は流石に続かなかった。リフトゾーンを飛び越えて着地した地面から【トゲ棍棒】が飛び出してベルディアのチ○コに直撃した。

 

「ぐぎゃああああああああああっ!?」

 

 憐れなマリオの叫び声がクッパステージにこだまする。

 

「おい、カズマ! どうして、私の股間には棍棒を出さないのだ!?」

「そんなトコに棍棒出したら、俺の股間の棍棒も一緒に出て来ちまうだろーが!? つーか、なんでお前がいんだよ!? 近藤さんと協力して、将軍様のサポートをするって作戦だったよね!?」

「確かに、お前の言う通りだが、攻撃の当たらない私がいても二人にとっては足手まといにしかならない。だからこそ、私は私にできる戦いをすることにしたのだ」

「はぁ、それはなんですか?」

「ベルディアのライバルとして砦の攻略を競い合い、奴の体力を可能な限り削り取ると同時に、地獄の拷問を味わいたい私の欲求も満たすという、一石二鳥の作戦だ!」

「さらっと本音が漏れてますけど!? 結局お前もクッパステージやりたかっただけじゃねぇーか!?」

 

 さりげなく参加していた変態騎士に理由を聞いたら、案の定、ドM的な内容だった。一応、筋は通っているが、最後に言っていた本音こそが本命としか思えない。

 

「うくっ……蔑むようなカズマの視線が手に取るようにわかるぞ! だが、それでも、ここは退かぬ! 私自身のためだけでなく、ベルディアとの一騎討ちを望んでおられたシゲシゲ殿のためにもな」

「なっ、なにっ!? アイツが一騎討ちを望んでいるだと!?」

 

 股間を押さえながら転げ回っていたベルディアが、いきなり割り込んでくる。憎き恋敵とはいえ、一騎討ちを望んでいると聞いてしまっては、騎士として恥ずかしい対応はできない。

 

「シゲシゲ殿は悩んでおられた。同じ女性を愛する者として、お前とは真剣勝負をすべきなのではないのかと。その清廉潔白な精神は、貴族が見せなければならないような尊き誇りそのものであり、心にそう感じたからこそ、私はここにやって来た。決して、鬼畜なトラップを堪能してみたいとか、お前だけが楽しめるのは我慢ならないとか、思ったからではない!」

「「分かりやすいウソついてんじゃねぇーっ!?」」

 

 前半の良い話が台無しである。

 それでも、茂茂とダクネスの思いはベルディアに伝わった。魔王の幹部に対して堂々と勝負を挑んで来るとは、随分と生意気な奴らだが、そういうバカは嫌いではない。

 

「フンッ、それほど俺に切られたいなら、望み通りにしてやろう。無論、お前の挑戦も受けて立ってやる。認めるのは癪に障るが、さっきは助けられたからな……」

「うむ、その決断に感謝しよう。だが、勝負を始める前に、もう一つだけ言っておくことがある」

「ん、なんだ?」

「お前の股間が剥き出しのままでは、こちらの気が散ってしまう。だから、ひとまずこの布で隠してくれないか?」

 

 顔を赤らめたダクネスがそう言うと、持っていた布を差し出した。実を言うと、ベルディアの股間部分は、クリスの当てた砲撃のせいでチ○コ丸出しの状態になっていたのだ。

 

「えっ? ああああああああっ!? なんかやたらとブラブラするなーって思ったら、股間のマイサンが丸見えになってるぅーっ!?」

 

 慌てて隠すも後の祭り。ストーカーがストリーキングになったところで変態である点は変わらなかった。

 とはいえ、チ○コ丸出しのままでは流石に動きにくいので、ダクネスから貰った白い布をフンドシのように身につける。

 

「よ、よし! これでいいだろう!」

「う、うむ! それなら問題ない!」

「って、なにお互いに照れてんだよ!? そういう茶番はもういいから、とっとと先に進んでくれよ!」

 

 気持ち悪いやり取りを見せられて、カズマがキレる。

 なんかもう、ボス戦って感じがしないんだけど、カズマの怒声を合図にして、二人の変態によるクッパステージの攻略競争が始まった。

 まず最初に挑む仕掛けは、スーマリではお馴染みの【ファイアバー】だった。やたらとたくさん設置されており、スーパーマリオメ○カーだったら、まず間違いなく『いいね!』を貰えないイライラゾーンとなっている。

 無論、ベルディアとダクネスは何回も食らいまくった。

 

「あちちちちちっ!? 思ってたよりも長かったァァァァァァッ!? つーか、これってどういう仕組みになってんの!?」

「そこに突っ込んではダメだ! そういうのは気にしたら負けと思え!」

「くふぅんっ!? 私の衣服が炎に焼かれて徐々に失われていくぅーっ! おのれカズマめ! あらわになっていく私の肌をネットリと視姦する気か!?」

「そんな気は端から無ぇよ!? 大体、お前は、避けるどころかわざと当たりに行ってるよね!?」

 

 マリオを一撃で殺せる仕掛けも変態達には効かなかった。それどころか、返って喜ばせているだけな気がする。

 だからといって、諦めるのはまだ早い。

 今度の仕掛けは、【ドッスン】100個が連続して襲いかかる『上から来るぞ! 気を付けろぉ!』ゾーンである。

 

「うぎゃああああああああっ!? チ○コが挟まって超痛ぇーっ!? つーか、コイツもどういう仕組みで浮いてんの!?」

「だから、突っ込むなって言ってんだろーが!? ファンタジーな世界では浮くなんて常識と思え!」

「くはぁんっ!? 今度はこれで私の鎧を砕いてしまうつもりだな!? 隙間からチラリと見える女騎士の柔肌を、淫らな視線で堪能しようと考えているのだろう!?」

「いやだから、そんな気は端から無ぇってさっきも言っただろーが!? そもそも、お前は、避ける気無いだろ!? ドッスンで挟まれてんのに、めっちゃ良い顔してるもの!?」

 

 クッパを一撃で殺せる仕掛けも変態達には効かなかった。それどころか、返って楽しませているだけな気がする。

 それでも、攻撃し続けるしかない。

 今度の仕掛けは、【弾丸砲台】100基が放つ砲撃の嵐を駆け抜ける『上以外からも来るぞ! 気を付けろぉ!』ゾーンである。

 

「ぐほぉーっ!? なんで俺のチ○コばかり狙い当てて来やがんだぁーっ!? つーか、アレもどうなってんだよ!? あんな短い筒の中からどんだけ鉄球出てくんの!?」

「もう俺は突っ込まないぞ! 俺だって本当はすっごい気になってるんだからな!?」

「くほぉんっ!? 打ち付ける弾丸によって鎧はほとんど砕けてしまった! もはや、私を守っているのは、大事な部分を隠せるだけしか残っていない衣服のみ! おい、カズマ! 仲間の恥ずかしい姿を見るのがそんなに楽しいかぁーっ!?」

「全然楽しかねぇよバカ!? つーか、マジで見えそうだから、モザイク先輩が出る前にしっかりと隠してくれよ!?」

 

 本当はちょっとだけ楽しんでいたけど、これ以上はR-18になってしまうので自重する。

 それにしても、ベルディアは想像よりもタフなようだ。そこそこのダメージは与えているのに、手応えを感じない。

 

「なんと言うか、ダクネスと同じような気配を感じるんですけど、それはナゼ?」

《ふっふっふっ、ようやくソコに気づいたようだね、カズマ君》

「(な、なにぃーっ!? そいつぁ一体どういうことだ!?)」

 

 奇妙な状況を分析していると、すべてを知っているノルンが説明に入ってきた。

 

《前の戦いで銀時のスキルを食らったアイツは、Mの快感を知ってしまった。そんな時に、クリスちゃんがチ○コを爆裂させちゃったから、さぁ大変。かくして、究極の痛みを味わった変態は、カズマの鬼畜攻撃によって完全なるドMへと覚醒したのであった!》

「(やっぱ、そーいうことかァァァァァッ!? つーか、俺が止めを刺したの!?)」

 

 いろんな意味で恐れていた事態になってしまった。まさか、魔王の幹部までドM化してしまうとは。

 信じ難い話だけと、目の前の現実は受け止めなければならない。現に今も、ベルディアとダクネスは、嬉しそうにトラップを食らいまくっている。

 

「ファイトーッ!」

「いっぱぁーつ!」

「オィィィィッ!? なんかもう、相棒みたいな関係築いてるんだけど!? 変態同士で惹かれ合っているとでもいうのかぁーっ!?」

 

 意気投合し過ぎて、もはや、競争すらしていない始末である。

 このままアイツらを放置しては色々とマズイ気がする。少なくとも、ダクネスとベルディアをこれ以上仲良くさせる訳にはいかないだろう。いろんな意味で。

 

「こうなったら仕方がない! 悪いがウィズ、ちょっとの間、ここの操作を代わってくれ!」

「えっ!? ちょっと!? 代わってと言われましても、私は操作できませんよぉーっ!?」

 

 後ろで控えていたウィズに声をかけ、ダクネスを止めるためにカズマ自ら出陣する。

 慌てるウィズを放置したまま関係者用の通路を通り、ダクネス達がやって来るフロアへと先回りする。そして、二人に気づかれないように後ろから【バインド】を使い、拘束したダクネスを速攻で連れ出した。

 

「きゃっ!? カズマ!? 私を縛ってナニをすr……」

「むっ!? どうした!? って、あれ? あの女はどこいった?」

 

 何とかギリで、ベルディアに気づかれることなくダクネスを引きずり込めた。

 後は、コイツを引っ張って制御室に戻るだけだ。

 

「はぁっ、はぁっ! いきなりこんなことをするなんて、お前も中々大胆だな! 私のいやらしい姿を見て、とうとう我慢できなくなったか!」

「ドMなお前のバカさ加減に我慢できなくなったんだよ! ああもう、息を荒げてないで、とっとと歩けやエロクルセイダー!」

 

 エッチな格好をした恥女をお縄にしたカズマは、今度こそベルディアを仕留めるべく制御室へと戻っていく。仕掛けの操作法が分からないウィズが涙目を浮かべている間に、かなり先へと進まれてしまったなどとは思わずに……。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 カズマが制御室に戻ると、事態はかなり進行していた。泣いているウィズを宥めつつ、ベルディアの位置を確かめてみたら、もうほとんどゴールに近い場所にいるようだ。

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ! 私が操作できなくて、本当にごめんなさいっ!」

「い、いや、いいよ。確かめないで頼んでいった俺の方が悪いんだから」

「まったく、カズマは抜けているな。勝手に持ち場を離れるから、こういうことになるのだ」

「勝手にクッパ城を堪能してたお前が文句を言うんじゃねぇよ!?」

 

 メソメソ店主と半裸騎士は、もはや当てにはできそうにない。

 こうなれば、もう茂茂と近藤に任せるしかないだろう。なんて思っていたら、またしてもアクシデントが発生した。

 

「おい、カズマ。あそこに立っているのはコンドウではないか?」

「おいおい、まさかゴリラまで持ち場を離れてやがんのかぁ!?」

 

 巨大水晶に写し出された映像を確認すると、確かに、黒い隊服を着た近藤が立っている。どうやら、コイツもダクネスと同じように勝手な行動をしているらしく、一対一でベルディアと戦うつもりのようだ。

 闘気をみなぎらせる近藤の真意に、当然ながらベルディアも気づき、警戒しながら話しかける。

 

「ほう。急にトラップが動かなくなって不審に思っていたのだが、今度はゴリラが相手になるのか」

「俺はゴリラなんかじゃねぇーよ!? 変な呪いをかけられてゴリラに見えるようになっちまったゴリラっぽい人間だ!」

「おっと、そいつは済まなかった。バニルのようなクソ野郎が他にもいるとは思わなかったが、お前も苦労しているようだな……」

「えっ、まさか!? 魔王の幹部がこの俺に同情してくれてんの!? なんだろう、仲間よりも優しくされて、すっごい複雑な気分だよ!」

 

 変なところで共感されて、お互いに力が抜ける。

 

「なんかお前とはやりづらいな……。この場だけは見逃してやるから、大人しくそこをどけ」

「バカを言うな。将軍様に仇なす敵を通すわけがないだろう」

「将軍とはシゲシゲのことか? あの変な女から俺との一騎討ちを望んでいると聞いていたが、それは真っ赤なウソだったのか?」

「いいや、ウソなどついていない。確かに、将軍様は、お前との一騎討ちを望んでおられる。だが、それでも、ここは通さぬ。たとえ、それが将軍様の意思に反する行為だとしても、俺自身の手でお前を倒さなければならない理由があるのだ。かつて、果たすことができなかった責務を全うするためにな!」

 

 近藤は、元の世界で茂茂を死なせてしまった後悔を未だに消せないでいた。本人から許しを得たとしても、自身の心が許さないのだ。

 故に、彼はここに来た。真選組局長として。茂茂の友として。仲間の命を脅かす魔王の幹部を討ち取るために。

 

「フン、覚悟はできているというわけか。だったら、こちらも遠慮なくやらせてもらうまでだっ!」

 

 近藤の本気を理解したベルディアは、剣を抜いて向かってきた。ここまで進んで、ようやくまともに剣を使った戦いが始まった。

 今までやられっぱなしだったベルディアにとっては汚名返上の好機であり、水を得た魚のように近藤を圧倒する。

 

「はぁーっはっはっはっ! 人間にしては中々やるが、銀髪の剣士ほどの手応えは感じないなぁーっ!」

「はっ、そりゃあそうだろうよ。生き地獄のど真ん中で天人共と戦い続けた白夜叉と比べたら、俺なんざ、ジャパリパークのど真ん中でサーバルとケンカしてるゴリラのフレンズみてぇなもんさ。それでもなぁ、こんな俺にだって誰にも負けねぇものはある! お妙さんを愛する心と、サムライとしての心意気は、決して誰にも負けてねぇっ!」

 

 全身傷だらけになりながらも、近藤は決して退かずに戦い続ける。鬼気迫るその姿にカズマ達も言葉を無くすが、このままの状況では恐らく負けてしまうだろう。アクアとエリザベスの蘇生魔法を当てにするのもなんか怖いし、手遅れになる前に手を打つ必要がある。

 

「カズマさん! 早く援護をしてあげないと、コンドウさんが死んじゃいます!」

「ここは私が盾となって助けに入るべきではないか!?」

「今は行ったらダメっていうか、お前が行くと返って困るわ!? 下手に相手を増やしても、奴に本気を出させるだけだ! それなら、このまま油断してる状態を狙った方がいい!」

 

 今は動きが速すぎて手を出すことが出来ないが、余裕ぶってるベルディアならば、どこかで隙を見せるはず。格下の相手に舐めプをしたがる彼の性格を見抜いていたカズマは、獲物を狙うようにタイミングを待つ。

 すると間もなく、そのチャンスがやって来た。

 とうとう、膝をついてしまった近藤を見て、止めを刺そうとしたベルディアがゆっくりと歩いていく。その先に【トゲ棍棒】が待ち構えていることには気づかずに……。

 

「くっくっくっ、パワーアップした俺を相手に良くここまで健闘したが、これで終わりだぁーっ!」

「ああ、お前のチ○コがなっ!」

「えっ、チ○コ? って、ぐほおおおおおおおおおおっ!? コレがあったの忘れてたぁーっ!?」

 

 またしても、股間に棍棒を食らって悶絶する。優勢だったベルディアの動きが止まり、こちらに勝機が見えてきた。

 

「近藤さん! 今のうちに攻撃してソイツを倒しちゃってくれ!」

「おっ、おうよ! ナイスな助太刀に感謝するぞ、カズマ君!」

 

 危機一髪のところで逆転した近藤は、これまで温存していた切り札を使う。制限時間が短いため、使いどころが難しかったが、今こそがその時である。

 

「よし、行くぞ! スキル発動【ゴリ押しゴーリキ】ッッッ!!」

「なにそのイヤなスキル名!? なんかどっかで聞いたようなフレーズなんですけど!?」

「解説しよう! このゴリラスキルは、すべてのGP(ゴリラポイント)を消費することで発動し、56秒の間だけ格上の相手であってもゴリ押しで圧倒できる剛力を出せるのだ!」

「もう内容すべてがゴリ押し過ぎて悪意しか感じねぇよ!?」

 

 シリアスな展開が、変なスキルのせいで一気に台無しとなってしまう。

 ただ、幸いなことに、名前はアレでも効果は普通に強力だった。近藤の放った一撃に耐えられず、ベルディアは持っていた剣を手から弾き飛ばされてしまう。

 

「なっ、なんとぉーっ!?」

「うおおおおおおっ! お妙さんと再会するため、ここで死ねやジオング野郎!」

 

 絶好のチャンスを活かすべく、連続攻撃を与え続ける。これまでのダメージが蓄積してベルディアの鎧には見えない亀裂が走っており、そこへ更に近藤の攻撃が加わった結果、最後の崩壊が始まった。

 

「そんなバカなっ!? 魔王様から戴いた黄金の鎧がああああああああっ!?」

 

 ボロボロと崩れていく自慢の鎧を見て、信じられないといった様子で叫ぶ。ダクネスのドMプレイに釣られて仕掛けを食らいまくった代償が、ここで一気に現れたのだ。

 こうなればもう、ベルディアに対抗できる手段は無い。

 

「これでも食らえい! ゴリラ・ストラアアアアアアッシュッ!!」

「うぎゃああああああああっ!?」

 

 適当にパクった必殺技を放って、無防備となったベルディアを斬り倒す。ザオラルで甦って体力が半分になっていた上に、トラップでダメージを受けて弱っていた今の彼では、ゴリ押し状態の攻撃に耐えることはできなかった。

 

「やっ、やった……。やりましたよ、お妙さん! あなたの元へ帰る日が、これで一歩近づきましたぁーっ!」

「やったじゃないわボケェーッ!?」

「ぶるぁっ!?」

 

 見事な逆転勝利を喜んでいたら、いきなり出てきた桂に蹴られた。前にも見たことあるような展開に嫌な予感がしたカズマであったが、思った通りにバカ達がバカなことをおっ始めた。

 

「急ぐんだ、エリザベス! ほぼパンツ一丁になったマリオが消えてしまう前に、ザオラルで生き返らせろ!」

〈ドンキーコングごときにやられるクソッタレなプレイヤーを二度も助けてやるだなんて、桂さんは優しいな〉

「誰がドンキーコングだ、バカヤロー!? つーか、お前ら何やってんの!? せっかく、俺が苦労してボスを攻略したっていうのに!?」

「貴様が苦労をしただとう!? それはこちらのセリフだと、これよりちょっと前のパートでマダオ達にも言ったでしょーが!? スーマリの見所であるクッパ戦の目前でゲームオーバーにさせおって! お前はそれでも、マリオで楽しい子供時代をエンジョイさせてもらいまくったファミコン世代かァァァァァッ!?」

「そんな理由で生き返らせたの!? お前はどこまで俺達にリアルマリオをやらせたいんだ!? この戦いはゲームじゃなくて、命が懸かった戦争なんだぞ!?」

 

 マリオバカによる妨害行為に対して当然ながら抗議する。

 しかし、桂も、リアルマリオをやりたいという気持ちだけでこんなことをしている訳ではない。

 

「だからこそ、これから続く戦いを勝ち抜いていくために、乗り越えるべき大きな試練が俺達には必要なのだ。リアルな戦争を生き残るには、ゲーム的な経験値だけでなく、本当の意味での戦闘経験が必要だからな」

 

 これまでの経緯を考えるとムカッと来るが、桂の言い分にもそれなりに説得力があった。長期に渡って血風舞う戦場に我が身を投じてきた攘夷志士が導き出した答えが、『経験に勝るもの無し』という単純明快な事実だった。

 ベルディアには申し訳ないが、ひよっ子勇者を育てるためのスライム役になってもらう。

 

「それともう一つ。この戦いは、勘違いしたゴリラ野郎の教育にも役に立つ」

「俺が勘違いをしているだと?」

「ああ、そうだ。お前は未だに将ちゃんを護衛の対象として見ているようだが、それは大きな勘違いだ。俺達が養殖して育てまくった将ちゃんは、お前が思っている以上の成長を遂げている。もはや、彼は、昔のように守られるべき存在ではない。弱き者を守る側に進化しているのだ。それが事実であることを、最後のクッパ戦で確かめるがいい」

「……敵だったお前にそんなことを言われるなんて、正直言って悔しいな。だが、ここは、お前の口車に乗ってリアルマリオを続けるしかあるまい」

 

 桂の説得(?)によって近藤までもがこの茶番に乗ってしまう。

 果たして、バカ達が演出したリアルマリオがどのような結末を迎えるのか。突っ込み役のカズマには、盛大な失敗フラグとしか思えなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 気絶していたベルディアが目を覚ますと、またしても場所が変わっていた。その大きな部屋は、これまで通って来たフロアとは違って何もない空間が広がっており、奥には別の部屋に通じる入り口が見える。そして、その前方に、見覚えのある男が待っていた。

 

「魔王の幹部ベルディアよ。我が砦を攻略し、よくぞここまで辿り着いた」

「フンッ、分かりやすい皮肉はよせ。俺自身の力だけで来れたわけじゃない」

 

 茂茂に返事をしながら、先程の戦いで落とした剣が手元に戻っているのを確認する。

 

「ここに来るまで、俺は二度もやられているのだからな……」

 

 ベルディアは、何かを考え込むような様子で呟く。

 キノコみたいな格好をしていたバカ達を除いて、これまで戦ってきた連中は本気だったと思うのだが、二度も倒されたはずの自分が何故か消えずに済んでいる。悪意をもって弄んでいるようでもないし、どうにも意図が分からない。

 それでも、ここまで来れたのだから、わざわざ敵を蘇生するようなバカであっても感謝してやるべきか。

 

「フッフッフッ。どうやら俺は、非常識な存在にケンカを売ってしまったようだ」

「……今のそなたは、以前会った時とは雰囲気が違うな。あの時は、魔王の幹部に相応しい殺気を放っていたものだが、今はそれを微塵も感じぬ」

「フンッ、何も不思議な話じゃないさ。魔王の幹部であった俺は、この砦に入る前にチ○コを爆破されて死んだ。今ここにいる亡霊は、消え損なった敗者でしかない」

 

 騎士としてのプライドを持った彼は、一度倒された時点で潔く敗けを認め、銀時達によって滅ぼされる覚悟も固めていた。これまでの戦いで、即死効果のある【死の宣告】を使わなかったのは、敗者としてのけじめをつけたからだ。

 ようするに、女神エリスは、自分の手でしっかりと魔王の幹部を倒していたのである。

 

「ならば、何故戦い続ける? この戦は、そなたにとって何なのだ?」

「戦い続ける理由か……」

 

 ベルディアは、そこまで言って言葉に詰まる。

 敗北を受け入れた今の彼を動かしている理由。それは多分、個人的な未練を果たしたいという小さな望みなのだろう。恋敵である茂茂と敗けを喫した銀髪の剣士に対して、一矢ぐらいは報いたい……

 

「いいや、それも違うな。俺はただ純粋に、宿敵となったお前達と戦いたかっただけだ。魔王の幹部としてではなく、ベルディアという男としてな!」

「……左様であるか。ならば余も、茂茂という男として、そなたの挑戦を受けるまで!」

 

 無力な傀儡から一端の冒険者へと成長した男は、魔王の幹部から一介の騎士へと戻った男と戦う決意を表明する。

 ここからはもう立場など関係ない。正々堂々と戦って決着をつけるのみ。

 故に、茂茂は服を脱ぐ。

 

「クロスアウッ(脱衣)!」

「いや、なんで服を脱いでんだよ!? 今の流れの一体どこに、ブリーフ一丁になる理由があった!?」

「もちろん、これは変態プレイなどではなく、れっきとした訳がある。余が会得した最強スキル【ブリーフバースト】を発動するために必要な儀式なのだ」

 

 そう言うと茂茂は、ブリーフの端を引っ張りあげて、クロスするような形で両肩に引っ掛けた。分かりやすく言うと、パンティーを被っていない変態仮面みたいな状態である。

 

「このスキルは、ブリーフの寿命を対価にして発動し、肩にかけたゴムが切れるまでの間だけステータスを通常の3倍以上に跳ね上げる効果を出す、ブリーフ的にもビジュアル的にも捨て身の必殺技だ」

「恥ずかしいって自覚してんの、さらっと自白してんじゃねぇーよ!? だが、その話が本当なら実に面白い。俺の【限界突破】と同じようなスキルを使えるというのなら、こちらとしても戦い甲斐があるというものだ!」

 

 いろんな意味で変態した茂茂を前にして、ベルディアの戦意も高まっていく。

 

「いいだろう! 銀髪の剣士とやり合う前の肩慣らしには丁度良い! この俺に【限界突破】を使わせたことを誇りに思って散るがいいわ!」

「ふっ。大層な物言いだが、このスキルを使った余はそう簡単に倒せんぞ? こちらのブリーフのゴムが切れるのが先か、そなたの魔力が切れるのが先か、いざ尋常に……勝負!」

 

 スキルによって身体を紅く輝かせた茂茂と、筋肉を肥大化させたベルディアは、剣を構えて突進していく。

 紆余曲折の末に、ようやくリーダー同士の激闘が始まる……。

 なんて期待させといて、素直にやらせないのがこのSSのお約束。よりにもよってこのタイミングで、空気を読まないアイツらが復活してしまう。真のリーダーであるドS野郎と自称ヒロインの駄女神が。

 

「「ハァーッハッハッハッ!」」

「なっ!? この腹が立つ笑い声は、やっぱお前らかぁーっ!?」

 

 遅れて来た主人公(笑)に視線を向けると、奴等は隣の部屋に繋がる入り口にいた。スーマリで例えるなら、画面の端に用意されたゴール地点である。

 

「お久しぶりねぇ、ベルディアさん!」

「そして、すぐにサヨナラだぁーっ!」

 

 いやらしい笑みを浮かべたクズ共は、急におかしなことを言い出した。一体何をする気なのかとベルディア達が見つめていると、二人のバカは、側に立て掛けてあった【大きい斧】を手前に倒した。それは、クッパを倒すために都合良く用意された仕掛けであり、斧で鎖を断ち切られて支えを失った床が落ちる。上に乗っている茂茂とベルディアを道連れにして。

 

「「……え?」」

 

 一瞬だけ浮遊したかと思ったら、直後に自由落下を始める。何もできない憐れな二人が落ちていくその先には、アクアが丹精込めて作った聖水プールがあった。ノルンからベルディアの弱点を聞いたカズマが、茂茂に進言して用意した仕掛けである。

 

「まったく、銀時のイタズラ好きにも困ったものだ」

「そんなほのぼのした話じゃねェェェェェェッ!?」

 

 戦うはずだった宿敵達が、二人仲良く聖水プールにダイブする。

 ぶっちゃけると、この部屋にベルディアを誘い込んだ時点で勝敗は決していた。当初の予定では、この仕掛けを使って安全に彼を倒すつもりだったのだ。

 その作戦を今回のようなバカ騒ぎにした張本人は、『リアルマリオを見たい』という欲望に負けてしまった桂だということは言うまでもない。

 ただ、ヅラばかりを責められない間抜けな理由もあった。彼の用意した茶番劇に、他の奴らまで便乗した結果がコレなのだ。『一番活躍してモテたい』カズマや『ドMの欲求を満たしたい』ダクネスなどの代表例を上げてみれば、お分かりいただけるだろう。

 むしろ、鬼畜にしか思えない銀時達の方が本来の使い方をしているのだから、現実って奴は残酷だ。

 

「うぎゃああああああああっ!? 純度の高い聖水がチ○コの傷に沁みるゥゥゥゥゥゥッ!?」

「プークスクス! あれを見てご覧なさい! 私の作った聖水のおかげで魔王の幹部を倒せるわ!」

「ナニを言ってやがんだアクア。この俺が将軍を囮にするという苦渋の決断をしたおかげで魔王の幹部を倒せんじゃねーか!」

 

 互いに手柄を主張してケンカを始めるバカ兄妹。いきなり起こったハプニングを見て驚いたカズマ達は、事態を収拾するために急いで制御室から飛んで来た。

 

「お前ら何をやってんだぁーっ!? 数少ないシリアスシーンを台無しにしやがって、唐突に盛り下がった空気感をどうしてくれる!?」

「そんなことより、あれを見ろ! 実に羨ましいことに、卑劣な罠にはめられたシゲシゲ殿が溺れているぞ!」

 

 何故か嬉しそうなダクネスに言われて見たら、確かに溺れているようだ。

 

「きゃああああああああっ!? シゲシゲさぁーんっ!?」

「あれなんでぇ!? 確か将軍って、泳げたはずなんだけど!?」

「それはたぶん、【ブリーフソウル】の効果でカナヅチのステータスまでコピーしちゃったからじゃね?」

「弱点までコピーするとか、使えねぇスキルだなぁオイ!? 写輪眼のチート具合を見習って欲しいもんだぜ!」

「お前の方こそ、闇堕ちから復活したサスケの姿勢を見習えよ!?」

 

 ムカつく言い訳をする銀時にカズマが突っ込みを入れる中、茂茂を助けるために聖水プールへ飛び込もうとするウィズをダクネスが必死に止める。

 

「待っててください、シゲシゲさん! 今助けに行きますからぁーっ!」

「止めろウィズ!? お前があそこに入ったら、シゲシゲ殿よりも先に天へ召されてしまうぞぉーっ!? とりあえず落ち着いて、ここは私に任せておけっ!」

 

 ウィズを宥めたダクネスは、カッコ良くプールの中へ飛び込んでいく。あの様子なら茂茂は無事に生還するだろう。

 その反対に、助けの来ないベルディアは絶望的だが……。

 

「ぐおおおおおおっ!? 聖なる力に蝕まれて俺の身体が消えていくぅーっ!? あれ? でも、なんだろ? 身体に感じるこの痛みが、そこはかとなく気持ち良くなって来た気がすりゅっ!」

「ちょっと待てェェェェッ!? それはたぶん錯覚だから!? 意識をしっかり保つんだぁーっ!?」

 

 敵ながらベルディアのことが可哀想になったカズマさんは、言葉だけでも味方してやる。

 しかし、相手は魔王の幹部。たとえ、鬼畜と思われようとも、この機会に倒さなければならない。

 

「おいカズマ。水から出てるアイツの首を【スティール】でゲットしろや」

「さぁ早くやりなさいよ! 聖なる私の女神パワーで止めを刺してやるんだから!」

「お前らマジで鬼畜だな。正直言って同類と思われたくはないのだが、今回だけはやってやるさ。女の子にモテるためにな!」

《キミも十分鬼畜だよね?》

 

 欲望に忠実なクズ共の利害が一致した。

 本来、カズマとベルディアには大きなレベル差があって、通常の状態だったらスティールが効かないはずなのだが、今は聖水によって弱りまくっているので、思った通りに狙った頭を引き当てることができた。

 

「ベルディアの頭、ゲットだぜ!」

「はぁっ、はぁっ! 何故、俺を助けるんだ!? もっと苦痛を楽しみたいから、早く元の場所に戻せっ!」

「いや、助けたわけじゃねぇっつーか、苦痛を楽しむんじゃねぇーっ!?」

 

 何やらベルディアの様子がおかしいけど、そんなこたぁどうでもいい。

 彼をドM化した張本人である銀時は、一切悪びれることもなく話を進める。

 

「それじゃあコイツの希望に応えて、今から苦痛を与えまくってやるわけですが。止めを刺した功労者が報酬の半分を貰えるってことで、よろしくメカドック」

「「……へ?」」

 

 唐突におかしなルールを押し付けられてアクアとカズマがフリーズする中、ベルディアの頭を奪い取った銀時がニヤリと笑って逃げ出した。

 

「よっしゃーっ! 1億5000万は俺のもんじゃああああああっ!」

「ちょっ!? そんなルール無いんですけど!? なに勝手に捏造してんの!?」

「ついさっき俺が一人で決めましたが、それが何か?」

「なにもかもがおかしいでしょーっ!? 1億5000万をゲットするのは、この私なんだから!」

「なにさらっとお前まで便乗してやがるんだ!? ゲロを吐いてただけのお前らなんかに、オイシイところを渡してたまるか!」

 

 ドSの暴走を止めるため、駄女神とクズマまで参戦して、ベルディアの頭を巡る争奪戦が勃発する。

 最初は普通にケンカをしてベルディアの頭を奪い合っていたのだが、いつの間にか、サッカーのように足でボールを取り合うプレイスタイルになっていた。

 

「出たぁーっ、銀時君の強引なドリブルゥーッ!」

「がはぁーっ!?」

「だったらこっちも! アクア君の強引なスライディングタックル!」

「ごほぉーっ!? って、なんで俺だけ狙われてんの!?」

 

 サッカーという名を借りた暴力で友達(笑)と競い合う。

 銀時の独壇場だと思われたサッカーバトルは、金が絡んだことでパワーアップしたアクアとのガチンコバトルへともつれ込んでいく。

 

「これでも食らいなさい! ゴッド・ドライブシュート!」

「ぎょへぇーっ!?」

「ならばこっちも食らいやがれ! ドS・タイガーショット!」

「ぐぼはぁーっ!? って、だからなんでさっきから、俺ばっかりやられてんの!?」

 

 始まってからずっと被害担当になっているカズマが非難の声を上げる。

 その反対に、始まってからずっとボール担当になっているベルディアが歓喜の声を上げる。

 

「おっふ!? これイイ!? なんかイイよ!? 新たな存在意義を見出だせそうだ!!」

「どんな存在意義だよソレ!? お前はマジで、友達という名のサッカーボールになるつもりか!?」

 

 なんかもう、キャプ○ン翼をディスってるようにしか思えなくなってきた。

 しかも、そこに桂とエリザベスまで加わって、更にカオスと化していく。

 

「銀時、貴様ぁ!? 俺のプロデュースしたリアルマリオを台無しにしやがって、もうマジで許さんぞぉーっ!?」

「はっ! 許さねぇってどーすんだよ?」

「無論、サッカーで勝負するまでだ!」

 

 ノリのいい桂達は、怒りながらキャプ翼ごっこに乱入して来た。もはや、昭和の小学生でしかないが、この時、調子に乗りすぎたせいで悲劇が起こってしまう。

 アクアからボール(ベルディアの頭)を奪った桂が、エリザベスと協力して必殺シュートを放ったことで事態は急変する。

 

「さぁ、行くぞエリザベス! スカイラブハリケーン!」

〈これが俺達のサッカーだっ!〉

「あぷろばっ!?」

 

 立花兄弟のようなコンビプレーによって蹴られたシュートは、見事に銀時をぶっ飛ばした。

 それと同時に、ベルディアの止めも刺してしまったが……。

 

「……あ」

「「「ベルディアが死んだァァァァァッ!?」」」

 

 エリザベスの必殺シュートが会心の一撃となり、ベルディアは昇天した。聖水に浸かっていた身体の方も消えてしまったので、もうザオラルでも蘇生できない。

 

「ベルディアか……。今思えば、そんなに悪い奴じゃなかったな」

「ええ、そうね……。惜しいデュラハンを亡くしたわ」

「オィィィィッ!? 気まずいからって、これまでの展開を無かったことにしてんじゃねぇーよ!?」

 

 友達(ボール)が消えて、バカ達の熱が冷めた。

 ものすごく酷いオチだが、一応これで良かったのかもしれない。蹴られまくっていたベルディアの奴も、いろんな苦しみから解放されたのだから……。

 感傷的になったカズマは、ベルディアが消えた場所に視線向ける。すると、そこには……仲間になりたそうにこちらを見ているベルディアの頭があった。

 

「「「「なんでだァァァァァッ!?」」」」

「え? いやぁー! それは俺にも良く分からんが、何故か戻って来ちゃいました!」

「来ちゃいましたじゃねぇーよゴルァ!? 死に損ないは、今すぐ地獄へ送り返してやる……」

「あーっ!? ちょっと待ってよ、お兄さん!? ボクは悪いベルディアじゃないよ!」

「生首の分際で、ドラクエのスライムみてぇなセリフを言ってんじゃねぇーっ!? 心が悪くなくっても、見た目が気持ち悪ぃんだよ!?」

 

 銀時の言葉にアクア達も同意する。どうやら、エリザベスのスキルが働いて仲間モンスターの扱いになったようだが、女子のぱんつを覗くような変態生首など、いろんな意味で気持ち悪い。大体、身体が無いというなら使い道も無いだろう。

 

「つーわけで、やっぱり消えてもらおうか」

「お前はどこまでドSなんだ!? 少しは悩んでみてくれよ!?」

 

 『いいえ』しか選択肢の無いドS野郎に恐れおののく。

 そんなベルディアに救いの手を差しのべたのは、ダクネスに救助されて生還した茂茂だった。

 

「銀時よ。その木刀を納めてくれぬか」

「ああ? なんでだよ将軍。コイツはそこのゴリラと同じで、ウィズにストーカーしてるような変態野郎だぞ?」

「なんだと貴様!? 俺とソイツのストーカー行為は同じなんかじゃねぇーっ!? こっちはもっと純粋で、愛の重さが違うんだよ!」

「どっちも愛が重過ぎて犯罪行為になってんだろぉーがっ!?」

「二人とも落ち着いてくれ。ウィズ殿のストーカーという点に関しては余としても我慢ならぬが、騎士としての振る舞いを見れば、信頼するに値する男だと思う。それに、こやつは詳細な魔王軍の情報を持っているはずだ」

 

 茂茂の話を聞いてカズマは納得した。確かに、情報源としては使えるかもしれない。

 後は、素直に話してくれるかどうかだが、そこは愛しいウィズがいれば問題無いだろう。

 

「確か、人間サイズのゴーレムがどこかにあるって噂話を聞いたことがありますから、もしかすると、ベルディアさんの身体も新調できるかもしれませんよ?」

「おお、ウィズ!? こんなになった俺のことを心配してくれるなんて! やっぱ、お前は良い女だなぁーっ!!」

 

 なんかもうなついてるし、何故かダクネスまで乗り気なので『いいえ』を選ぶような空気ではなくなった。

 

「やったなカズマ! また一人、ドMの仲間が加わることになったぞ!」

「うん、それはよかったね。おれはぜんぜんよくないけど」

 

 ドMの変態ストーカーなんて増えてもダクネスしか得しねぇ。

 カズマとしては不本意な結末になったものの、魔王の幹部だったベルディアが何故か仲間に加わった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ベルディアを倒すことに成功した銀時達は、ベルディアの頭を持って砦の外に出た。敵将の死体から首級を取ってきた訳ではなく、デュラハンの頭だけを仲間にした結果である。

 外で待っていた長谷川とクリスは話を聞いたばかりで戸惑っており、ダクネスの手の上で愛想笑いしているベルディアを見てドン引きする。

 

「ヘッヘッヘッ、今後ともヨロシク~!」

「いやいやいやいや、全然ヨロシクできないから!? オッサンの生首がフレンドリーに接してくるとか、いろんな意味でキモいんだけど!? なんでジオングの頭だけを鹵獲して来たんだよ!?」

「ああこれは、ニュータイプのように変態同士で惹かれあったというか、なんというか……」

「言い訳なんて聞きたくないね! 首の無い馬はともかく、魔王の幹部だった奴まで仲間にしちゃうなんて、常識的にありえないでしょ!?」

「まぁ、そう言うなよクリス。お前の親友のダクネスが、こっちの迷惑も考えずに一番プッシュしてたんだから」

「うぐっ! なんというか、その……とりあえず、ゴメンなさい」

「おい、クリス! なんでそこで謝るんだ!?」

 

 ドMな親友のせいでカズマに言い負かされてしまった。

 それにしても、頭が痛い状況である。仮にも勇者を目指すパーティに魔王の幹部が加わってしまうなど、エリスとしては大問題だ。いくら改心したといっても、彼女の立場としては許しておけない存在なのだが……。こうなればもう、銀時とダクネスの判断を信じるしかないだろう。

 

「(もし問題が起こったら、面白がって放置していたノルンお姉様が責任を取ってくれますよねぇ~?)」

《やさぐれたエリスちゃんが暗黒面に堕ちかけてる!?》

 

 お茶目なイタズラがバレたノルンは、怒ったエリスから仕返しを受けた。

 そのように女神同士の揉め事が起きているなど露知らず、茂茂に案内された銀時達は、砦の右側に作られた庭園へとやって来た。

 その中央には精巧に作られた女神像が立っており、茂茂とウィズは、彼女に勝利を報告するため祈りを捧げた。もちろん、その女神像はアクアという名の駄女神ではなく、ウィズに合わせて茂茂も信仰するようになったエリスを模した物だった。

 

「幸運の女神エリスよ。魔王に抗う冒険者に武運を与えたもうたことを、心より感謝します」

「ああ、エリス様。大切なシゲシゲさんとお友達を守ってくださり、ありがとうございます」

「ちょっ!? なにやってんのよアンタ達!? 汗水流して働いたこの私を差し置いて、戦ってないエリスばっかりチヤホヤすんのはおかしいでしょう!? 運だけしか取り柄の無いパッド入りのあの子より、運は無いけどパッド要らずなアクア様を崇めてよっ!」

「崇める要素が無いっていうか、パッド入りは関係無いでしょ!?」

 

 後輩よりも雑に扱われたアクアは、何の罪も無いエリス教徒達に八つ当たりをしてきた。それに対して、怒ったクリスが抗議する中、エリスに同情したカズマも続いて口撃を加える。

 

「二日酔いでゲロを吐いたり、ドSとサッカーしてただけの駄女神なんか、誰も崇めやしねぇよ」

「うわああああああん! カジュマが私をイジメるゥゥゥゥゥゥッ!」

 

 ジャイアンにイジメられたのび太のように泣いたとしても、ここにはのび太を助けてくれるドラえもんはいない。彼女の作った聖水がベルディアを討伐する役に立ったのは事実だが、普段の行いが悪いせいで誰も評価してくれなかった。

 

「こんなことになったのも、あざといぶりっ子アピールで人間達を騙くらかしてるエリスのせいなんだから!」

 

 悪質な逆恨みによって怒りを燃やした駄女神は、あろうことかエリス像に八つ当たり始めた。

 

「お嫁さんにしたい女神ナンバー2になれたからって、調子に乗ってんじゃないわよ、エリス! 大体、この石像はおっぱいのサイズがデカ過ぎるわ! パッドを入れてる貧乳女神がこんなに大きい訳がないでしょ!? アンタの胸はもっとこう、ペッタンコな感じでしょーっ!?」

 

 荒ぶったアクアは、エリス像の胸を押すという大人気ない行動に出た。すると、なんだかゲームコントローラーのボタンを押したような感触が返ってきた。良く見ると、胸の辺りが別パーツになっていて、理由はよく分からないが動かせる仕組みになっているようだ。

 

「なによこれ? 私のゴッドフィンガーを跳ね返して来るなんて、エリスのクセに生意気ね! こうなったら、ファミコンで鍛えた連射スキルで、中のゴムをユルユルにしてやるわっ!」

「ちょっ、止めろ!? ソコを連射したらダメだああああああああっ!?」

 

 何故か桂が血相を変えて止めに入ったが、それよりも先にアクアの連射が打ち込まれる。

 その直後に、予期せぬ事態が発生する。信じられないことに、クッパ城が大きく揺れ始めたのだ。

 なにも知らない銀時達は天災かと思ったが、その予想は桂によって否定される。

 

「おいおい、まさか地震かぁ!?」

「いいや違う。アクア殿がやらかしたせいで、砦に仕掛けた【自爆装置】が起動してしまったのだ」

「自爆装置ってなんだァァァァァァッ!?」

 

 唐突にとんでもない事実が判明した。なんと、この砦には自爆装置が組み込まれていたのである。

 

「実を言うと、このエリス像には重大な秘密があってな。おっぱいの形をしたAとBのボタンを両方鷲掴みにしながら高橋名人ばりのテクニックで1秒間に16連射すると、コマンドが認証されて自爆装置が起動する仕組みになっているのだ」

「オィィィィィッ! 自爆装置をゲームみたいに作ってんじゃねぇーっ!? そもそも、自爆する意味が無ぇーし、それをなんでエリス様のおっぱいに仕込みやがった!?」

「そりゃあお前、マリオに攻略された砦が崩壊するのはお約束だし、女神像のおっぱいを鷲掴みにして16連射するようなバカがいるなんて、普通は誰も思わんだろう?」

「まぁ、言われてみればそうかもなって、納得するわけねぇーだろがっ!? このバカが、女神像のおっぱいを鷲掴みしにて16連射するようなバカだってことは、テメェだって知ってたろ!?」

「なによ、みんなでバカにして!? 私は決してバカじゃないわ! ちょっぴりドジでおっちょこちょいな可愛い美少女なんだからぁーっ!!」

 

 桂の説明も、アクアの頭も、バカとしか言えなかった。

 ただ、自爆装置を仕掛けた理由は、一応ちゃんとしたものがある。ウィズが持っていた情報から、魔王の幹部には物理攻撃が効かないタイプのモンスターがいると分かり、いざという時のための対抗策として自爆装置が採用されたというわけだ。

 みんなに伝えなかったのは、余計なフラグを立てないための安全策だったのだが、神レベルでトラブル体質なアクアには逆効果となってしまった。

 

「おいアクア! お前って奴ぁ、とんでもねぇことしてくれたなぁ!?」

「わわわ、私はそんなの知らないわよ!? 元はと言えば、あの石像のおっぱいがデカ過ぎたせいでしょーっ!? そうよ、そうだわ! これも全部エリスせいよ! エリスがパッドを入れてるから、こんなことになったのよおおおおおおおっ!!」

「だから、パッドはこれっぽっちも関係無いでしょーっ!?」

 

 しつこいアクアに怒ったクリスが再び抗議の声を上げる。しかし、今はそんなことをしている場合ではない。

 急いでここを離れなければ大爆発に巻き込まれてしまう。その破壊力を知っている桂は、大声で危機を知らせる。

 

「とにかく、ここから逃げるんだ! もう間もなく、【コロナタイト】が暴走して大爆発が起こるぞ!」

「なっ!? コロナタイトだって!?」

「なんだクリス。そのコロナタイトって奴が何なのか知ってんのか?」

「う、うん……。コロナタイトってのは、存在自体が幻って言われるほどに希少な宝珠なんだけど……そんなすごいお宝を一体どこで手に入れたんだい?」

「ああ、アレを手に入れたのは、銀時達と再会する前の話だ。王都のギルドから依頼を請けた俺達は、凶悪なエンシェントドラゴンを求めて過酷な旅をしていた。そん時に道端で拾った」

「全然幻じゃねぇじゃねぇーか!? そこはせめて、『エンシェントドラゴンを倒したらケツの穴から出てきた』くらいのオチにしとけや!?」

 

 まさか、オリハルコン並に希少な物を道端で拾うとは。バグった桂の強運が、とんでもないものを引き寄せたらしい。今の状況を考えると、それが幸運だったのかは微妙なところだが。

 

「将ちゃんと調べた結果、アレがすごいエネルギーの塊であると分かってな。永久機関として使えたおかげで、クッパ城を運用する目処が立ったのだ。それを失ってしまうのは正直言ってかなり惜しいが、こうなってはもう放棄するしかあるまい」

 

 文字通りの拾い物とはいえ、失いたくないお宝なのは間違いなかった。

 しかも、彼らが失う物はそれだけではない。そこに気づいたダクネスが、突然声を上げる。

 

「そ、そうだ! 倉庫にあるネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲はどうするのだ!?」

「残念ながら、回収している時間は無い。アレも一緒に放棄するしかなかろう」

「くっ、そんなっ!? せっかく、理想の拷問器具と出会えたというのにっ!?」

「いや、アレは拷問器具じゃないんだけど!?」

 

 ダクネスの希望は気持ち悪かったので、あっさりと見捨てられた。

 それよりも、今は人命を優先する時である。

 逃げ出した銀時達は、崩壊が始まった砦から離れて行き、しんがりのエリザベスが風雲再起に乗って門から出て来た頃には、暴走したコロナタイトが限界に達していた。

 

「みんな伏せろォォォォォッ!!」

 

 野生の感で危険を察した近藤が叫んだ直後に砦が大爆発を起こした。規模は非常に大きなもので、ウィズが撃てる最大出力の爆裂魔法よりも強力だった。

 無論、その光景は離れたアクセルでも確認できて、外壁の上に放置されていためぐみんもインパクトの瞬間を目撃した。

 

「えええええええっ!? アレは一体何事ですか!? 動けない私が長いこと放置プレイされてる間にナニが起きたのですかああああああああっ!?」

 

 遠くに見える爆炎にビビった声を上げてしまう。

 

「あああ、あんなの私は信じませんよ!? 私の爆裂魔法よりも強力な爆発なんて、この世にあってはいけな……じゃなくて、みんなは大丈夫なんでしょうか!?」

 

 自慢だった爆裂魔法を越えられて憤っていためぐみんだったが、もちろん仲間達の心配も忘れてはいない。あの爆発がベルディアの仕業ではないとしても、アレを使った仲間達は、果たして無事に脱出できたかどうか……。

 しかし、爆心地にいなかった彼女自身も心配していられる状況ではなかった。

 運悪く、砦の爆発によって遥か上空に舞い上げられたネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の予備弾が、あろうことかアクセルの街目掛けて降り注いで来たのである。

 

「……はて? さっきから聞こえてくる『ヒューン』という変な音は何でしょうか?」

 

 これまで聞いたことがない風切り音に怪訝な表情を浮かべる。どうも上から聞こえてくる感じがするけど、一体なにが……

 

「って、なんかこっちに飛んで来てるんですけどおおおおおおおっ!?」

 

 驚きの声を上げるめぐみんの目には、砦の残骸と一緒に落ちてくる十数個の砲弾が写っていた。このままの軌道で落ちて来たら、彼女の周辺に降り注いで来ると思われる。

 あんなものに当たったらマジでヤバい。咄嗟に判断しためぐみんは、条件反射で逃げ出そうとしたが、魔力の尽きた身体では動くことすらできない。

 

「えっ、ウソッ、ちょま!?」

 

 慌てたところでどうにもならず、無慈悲に襲いかかってきた恐るべき砲弾が、次々と彼女の回りに落っこちた。

 頑丈に作られた外壁も新型兵器の爆発には耐えられず、無惨な姿と変わり果ててボロボロと崩壊していく。さらに、飛び散った残骸によって周辺の家々にまで被害が及び、辺りは進撃の巨人を見ているような光景となってしまった。

 

「はぁっ、はぁっ……あまりに怖くて、ちょっぴりチビってしまいました……」

 

 何とか無事だっためぐみんが、涙目になりながらカミングアウトする。

 もちろん、避難が完了していた街の方にも人的被害は出ていない。

 その点はまぁ良かったと言えるのだが……ちょっぴり濡れためぐみんのぱんつと、思いっきり破壊されたアクセルの建物は、全然良くない状態だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ベルディアを討伐した翌日。戦闘に参加したメンバー全員がギルドに呼び出され、カズマと長谷川の二人は重い足取りで向かっていた。

 昨日はベルディアとの戦闘に加えて、戦後の後始末と事情聴取でメチャクチャ大変だったのだが、今日は何が起こるのやら。

 

「な、なぁに! どうせ後は報奨金を渡されるだけだって! なんたって俺達は、魔王の幹部を討伐した勇者なんだからな!」

「そ、そう言えばそうだよな! 俺達はこの街を悪から救った英雄なんだ! ギルドに行ったら、俺に惚れた女の子達が待っているに違いない!」

 

 コイツらも基本的にバカの部類に入るので、本人が思っている以上に思考パターンが雑だった。

 

「まぁ、流石にアイドルみたいな人気者になれるとは思ってないけど、何人かの女の子にモテる可能性はあるだろう。この異世界は、夢と希望がいっぱいつまったファンタジーなのだから!」

「欲と野望しかつまってないダークファンタジーになってんだけど!?」

 

 軽く妄想に耽りながらギルドに到着して中に入る。

 すると早速、カズマの期待に応えるように誰かが話かけてきた。もちろん、それはカズマに惚れた女の子などではなく、酔っぱらったモヒカンヘッドのオッサンだったが。

 

「フッ、ようやく英雄のお出ましか。一足先に、新たな伝説の始まりを祝福させてもらっているぜ」

《まぁ、ファンタジー世界でもこうなるよね~(笑)》

「そんなこたぁ分かってたけど、ヒャッハーなオッサンしか来ないってどうなのよ!?」

 

 予想通りのしょっぱい展開にカズマが嘆く。

 ギルドの酒場では、多くの冒険者達が集まって祝杯を上げているけど、カズマに近寄るような奇特な女の子なんて一人もいなかった。

 ちなみに、ベルディア討伐に参加していないモブ達には報酬など出ていない。祝杯とは言っても、自腹で飲んでいるだけの負け組でしかなかった。

 でも、自分達は違う。こっちはマジでベルディアを討伐した勇者パーティなのだから、この国からすんごい報奨金が出るはずだ。

 

「こうなったら、ゲットした大金をコイツら見せびらかしてくれるわ!」

「ああそうだな。貰った金をコイツらの前でゆっくり数えてやろうぜ!」

 

 同じことを考えていた長谷川と一緒に、悪どい表情を浮かべて笑う。

 そうとなれば、善は急げだ。女の子にモテモテ計画はとりあえず保留にして、大金を手に入れるべくギルドの受付へと向かう。

 見ると、そこには他のメンバーが揃っており、カズマと同様に浮かれていた。特に、ドヤ顔した銀時とアクアがムカつく様子ではしゃいでいる。

 

「ねぇ、億万長者の銀時さん。後で早速、お家を買いに行きましょう。お金持ちの私達に相応しいお家をね!」

「ああ、億万長者のアクアさん。それは良い提案だね。セレブらしい豪華な屋敷を現金払いで買うとしよう!」

「あ、ヤバい。なんか今、盛大な失敗フラグが立った気がする」

 

 あからさまに勝ち組気分なバカ兄妹を見て、勘の鋭いカズマの身体に不吉な悪寒が走り抜ける。

 こんな風に上手くいってる感じの時は、最後の最後でクソッタレなオチになる……。コイツらの危険性を身をもって学習したカズマはもとより、コイツらの裏事情を色々と知っているクリスもまた、同じ結論に辿り着く。

 

「うーん……変なイベントに巻き込まれる前に逃げた方がいいかなぁ?」

「何を言っているのだ、クリス。これから報酬が支払われるというのに、何故逃げる必要がある。お前だってベルディアと勇敢に戦ったパーティの一員なのだから、胸を張っていればいい」

「ああ、ダクネスの言う通りだぞ。本当の意味でこのベルディアを倒した者は、無慈悲にチ○コを爆破したお前なのだからな。その貧しい胸を堂々と張って、勝利の栄誉を受けるがいい!」

「貧しい胸って表現は必要ないでしょーっ!? っていうか、倒された本人が、なんであたしを誉めてんだよ!? 何か気持ち悪いから、キラキラした目でこっち見ないで!?」

 

 ダクネスの手に乗ってセクハラしてくるベルディアに、腹が立ったクリスが突っ込む。

 彼が仲間になった事情は昨日の内に報告しており、冒険者カードに記された証拠と茂茂の説得によって討伐リストからも削除されたため、ここにいても騒がれないのだ。

 現在の待遇は、ギルドの寛大な配慮によって冒険者扱いとなっている。桂が新たに考えている計画が成功したら、真選組の一員として正式に冒険者登録をさせるつもりだ。

 

「それにしても、昨日まで魔王の幹部だったクセに、あっさりと馴染んでやがんな」

「ええ、そうですね……」

 

 順応性がめっさ高いベルディアの様子を見て、カズマだけでなくめぐみんも感心する。

 

「何と言いますか……魔王城に引きこもっている割にはコミュニケーション能力がやたらと高いですね。コミュ障のゆんゆんも、少しは見習ってほしいものです」

「あんな劣化ダクネスなんて見習わなくていい」

 

 これ以上変態を増加されては堪らないと、カズマがすかさず止めに入る。

 

「お願いします、エリス様。もうこれ以上何も起こさないでください……」

 

 イヤな予感が止まらないカズマがエリスに向けて祈る中、その答えを言うためにギルドの職員がやって来る。彼らの先頭には顔馴染みのルナがいて、彼女が職員を代表して話を進め始めた。

 

「えっとその……本日はお忙しいところ、お集まりいただいて、誠にありがとうございます。ベルディア討伐に参加した皆様には報酬が出ていますので、まずはそちらからお渡しします」

「よくやったな、お前達! この俺を倒せたことを俺自身も祝福しよう!」

「だから、倒された本人があたし達を誉めないでよ!?」

 

 ルナの話にベルディアが乱入して一悶着起きたものの、銀時達には報酬として小さな袋が手渡された。これは、ボス戦に参加した者に与えられる報酬で、そこそこの金額が入っている。それでも、万年金欠状態の長谷川にとっては十分過ぎる収入である。

 

「うお、やったぁーっ! ファイアーって叫んだだけでお金持ちになったぜぇーっ!」

「どっかのアナウンサーみたいだな」

 

 普通の報酬を貰っただけでマダオは有頂天になっているが、この後にもっとすごいサプライズが待っていた。

 魔王の幹部であるベルディアを討伐した功績により、3億エリスという法外な額の報奨金が与えられたのだ。

 

「さ、さ、さ、さ、さんおくゥゥゥゥゥゥッ!?」

「よっしゃんなろぉーっ! 今日から俺は億万長者だ! 仕事もしなくて済むんだあああああああっ!」

「これからはカズマのように自堕落な生活ができるわね!」

「酒飲むために借金してるお前に言う資格はねぇよ!? とはいえ、コイツらの言い分にも一理はあるな。俺も今後は、冒険の数を減らしていこうと思っている。金があんのに命を懸けて冒険なんかするもんか! 俺はこのままのんびりと安全に暮らすんだ!」

 

 銀時を始めとするマダオな主人公達は、速攻で金の魔力に敗北してしまう。長谷川に至っては、嬉しさのあまりに立ったまま気絶している始末である。

 それに対して、安定した生活よりも危険な冒険を求めているめぐみんとダクネスが反論してくる。

 

「我が主よ、待ってくれ!? 仕事をしないマダオな主にお金を貢ぐ女というシチュエーションも捨て難いが、強敵と戦えないのはもっと困るぞぉーっ!?」

「ダクネスの言う通りです! 魔王を倒して最強の魔法使いになるという私の野望を、こんなにもしょっぱい形で終わらせてなるものかっ!」

「おやおや、これは困ったね。血の気の多い冒険者が野蛮なことを喚いてますよ?」

「あらあら、本当に困ったこと。私達のようなセレブにとっては無縁な話なのにねぇ?」

「コイツらマジでムカつきますね……(怒)」

「くっ、確かにムカつく態度だが、何故かそれが心地イイ!」

「俺もお前に同意する! まるで、ゴミ見るようなあの視線が実に堪らん!」

 

 こういう時だけ息が合うクズコンビに、短気なめぐみんが怒りに燃える。その反対に、ドMなダクネスとベルディアは卑猥な欲で見悶える。

 なんにしても、大金を手に入れたせいで全員がおかしな心理状態になっており、周囲の冒険者達も巻き込んでどんどん盛り上がっていく。

 しかし、その騒ぎに茂茂や桂達は加わっていない。その理由は、ルナが銀時に渡してきた紙の中に記されている。

 

「あ、あの~。皆さんで盛り上がっているところ、大変恐縮なのですが……これを受け取ってください」

「おっ、なんだ!? そいつぁまさか3億エリスの小切手かっ!?」

「なんですってぇーっ!? ちょっと、私にも見せなさいよ!」

 

 ルナの手から引ったくるように紙を受け取ると、密着してきたアクアや側に寄ってきためぐみん達と一緒に内容を確かめる。すると、そこにはゼロがたくさん並んだ数字がドォーンと書かれていた。

 ただし、それは彼らに支払われる報奨金ではなく、彼らが支払う弁償金だった……。

 

「えっと、その、なんスかコレ? 何かここに弁償代とか書いてある気がするんだけど。これは一体どういうこと?」

「は、はい……。残念ながら、そこに書いてある通りです。今回、ギントキさん一行の……アクアさんが起動させた自爆装置による影響で、アクセルの外壁が広範囲に渡って崩壊し、付近の家々にも多大な被害が出ておりまして……」

 

 そこまで聞いた瞬間に、銀時は請求書を放り捨てて逃げだそうとした。

 もちろん、無謀な逃走であり、必死なアクアやめぐみん達によって阻止されてしまう。

 

「おいコラ離せやバカヤロー!? この件に関しては、一切俺は関係ねぇから!? 後始末はテメェら自身で責任持ってやりやがれ!」

「うわあああああああんっ!? わだじのことを見捨てないでよギンドギざあああああああんっ!?」

「フッフッフッ! こうなれば、死なば諸とも! 借金を返済するまで、死んだって離れませんよぉーっ!」

「私としては、借金地獄も天国みたいなものだがな!」

「ああ、やっぱこんなオチかよコンチクショォォォォォッ!?」

 

 幸せの最高潮だった銀時パーティは、阿鼻叫喚の地獄へと一気に叩き落とされた。タイミング悪く意識を取り戻した長谷川も、最悪のオチに衝撃を受けて再び気絶してしまい、セリフすら失う始末である。

 それでも、往生際が悪い銀時は、八つ当たりするようにルナを問い詰める。

 

「これは一体どーいうことだぁ!? 魔王の幹部をブッ倒して街を救った俺達が、なんでこんな弁償金を取られなきゃならねぇんだよ、おっぱい姉ちゃん!?」

「おっぱい姉ちゃんってなんですか!? 確かに、あなた方は私達にとって命の恩人になりますけど、それとこれとは話が別です!」

「その通りだぞ、銀時よ。ここは素直に罪を認め、罰を受けるべきなのだ」

「邪魔すんじゃねぇーよ、ヅラ! 元はと言えば、自爆装置なんてふざけたもんを作りやがったテメェらのせいじゃねぇーか!?」

「そんなことは承知済みだ。俺と将ちゃんのパーティは、今回の失態を心の底から反省している。その証拠に、すぐさま現金を用意して近日中には全額返済する予定だ。その上、お金持ちの将ちゃんに至っては、さらに多額の寄付までも納めるつもりなのだぞ? それに引き換え、お前と来たら……カジノで大負けした挙げ句、真面目に働くミネアからお金を恵んでもらおうとするマーニャのように憐れなだなぁー?(笑)」

「こんの成金があああああああっ!? 俺だけでなくマーニャまでディスりやがって、一発当たりゃあ金持ちなギャンブラーを舐めんじゃねぇぞ!?」

「お前の方こそ成金思考じゃねぇーか!?」

 

 言い負かされた銀時は、バカにしてくる桂に当たる。お金を持っている茂茂達は、最初から弁償する気で昨日の内にギルドと交渉していたのだ。

 ちなみに、飛び入り参加したクリスは、茂茂のパーティに入っている扱いなので、個人的な弁償は免れている。

 

「あたしだけ助かって何か悪いね~!」

「ほんとに悪ぃと思ってんなら、テメェがこれを支払いやがれっ!」

「そんな横暴聞く分けない……って、なにこの金額!? こんなの初めて見たっていうか、10億って書いてあるけど!?」

「「「「「じゅっ、10おくゥゥゥゥゥゥッ!?」」」」」

 

 ここでようやく請求額が判明して、あまりに法外な金額にビビった他の冒険者達が、そそくさと離れていく。

 常識的に考えて、一介の冒険者が支払える金額ではない。それを請求しているルナとしても大変心苦しいのだが、冒険者登録をしている以上はルールを守ってもらわなければならない。

 

「納得出来ないかもしれませんが、これでも全額の一割以下なんですよ? 弁償金の大部分は、貴族の方々に負担していただいたのですから、ここは我慢してください……」

 

 銀時に言い聞かせるように裏の情報を打ち明ける。寄付した者の詳細は、高額の金銭が絡んでいるため、基本的には公開しないことになっているのだ。

 その点にちょっとだけ興味を持ったノルンは、因果をたどってみることにした。

 

《今時寄付をするなんて、どんな貴族様かねぇ~?》

 

 裏に何かがあるんじゃないかと疑ったノルンは、女神の力で過去を見た。すると、多額の弁償金を負担したという貴族は、ダスティネスとアレクセイという二つの家だと分かった。

 王国の懐刀と呼ばれるほどの大貴族であるダスティネス家は、とある事情によってアレクセイ家の領地であるアクセルの街に住んでいる。表側の理由としては、『有望な冒険者を多数排出しているアクセルの守護と管理を強化するため、国王直々に命じられて出張して来た』ということになっている。だが、本来の役目は、何かと黒い噂が絶えないアルダープの行動を牽制するための抑止力にあった。

 この地を治めるアレクセイ家の当主こそが悪名高きアルダープであり、今回何故か多額の弁償金を自ら進んで出している。

 

《茂茂やウィズの話だと、コイツはかなりの悪人らしいけど……》

 

 噂とは正反対の善行に疑問を覚え、さらに詳しく見ることにした。

 彼女の視点は昨日の夜へと跳んでいき、アルダープの屋敷のトイレを見ている。

 そこには、便器に座って用を足しているアルダープと、彼の前に立っている猿顔の男がいた。

 

『やぁやぁ、お久しぶりである! 悪いことができないストレスを発散するためにやけ酒を飲み過ぎて、腹黒い腹の中まで荒れに荒れまくってしまい、何ヵ月もの長い間、酷い下痢ピーに苦しんでいる、愚かなビチグソ領主よ!』

『なっ、なっ、なっ!? 貴様はルパルゴ13世!? こんなところにまで押し掛けよって、一体何しに来おった!? わしはお前に言われた通り、悪いことなどしとらんぞ!?』

『確かに、そのようであるな。ビチグソと一緒に血の涙まで流しそうな貴様の顔を見ただけで、心の中がまるっと読めるぞ。金儲けも女遊びも禁じられて苦しんでいるその様は、愉快痛快この上ない。しかし、それではまだまだ足りぬわ』

『なっ、これでもまだ足りないだと!?』

『ああ、そうだ。我輩は貴様にこう言ったはずだぞ。【きれいなアルダープ】になれとな。つまりは、悪いことをしないだけでなく【良いこと】もしなければ、契約通りとはいかんのだ』

 

 ルパルゴ13世と呼ばれた男は、ニヤリとしながらそう言うと、ジャケットのポケットから一枚の紙を取り出した。

 

『という訳で、良いことをしたいなぁ~って思ったそこのあなたに、絶好のチャンスを与えよう!』

『くっ、何が絶好のチャンスだっ!? どこまでもふざけおって、こんな紙切れが何になる……こっ、これは!? アクセルに発生した被害額の見積り書じゃないか!?』

『説明臭いセリフをわざわざありがとう! それは、先ほど届けられて貴様がガン無視を決め込んだ、復興援助の嘆願書である。きれいなアルダープを見てみたい我輩としては、被害総額の6割を可愛い孫にお小遣いを上げる感じで気前良く支払って、身も心も太っ腹であるところを示してほしいと思っている』

 

 正しいことを言うように悪魔的な脅迫をする。どう考えても理不尽な要求なのだが、それでもアルダープに拒否権は無い。

 

『被害総額の6割だとぉぉぉぉぉっ!? そんなことをしたら120億もの大金を失ってしまうではないかっ!?』

『なぁに、そのくらい問題なかろう。王都にある別荘に300億ほどの隠し財産を持っている守銭奴領主よ』

『ぐっ!? そんなことまで知っていたのか!? しかし、120億を失うなど……』

『ふむ。何やらお困りのようであるが、貴様には最初から選択肢など存在しない。何故ならば、ここへ来る途中で見かけた、ララティーナとかいう筋肉ムキムキな貴族の娘と、すでに約束しているからだ。その女は、アクセルに払う寄付金を貴様から借りようとしていたのでな。親切な我輩が貴様に化けて接触し、全額の6割を払ってやるから心配するなと言いきって、サインまでスラスラと書いてやったのだ。いやはやなんとも、我ながら機転の利いた行動だった。良いことをできるばかりか、片想いの相手にも良い人アピールできるという、一石二鳥な好プレーだったのだからなぁ。さぞかし貴様も我輩に感謝していることだろう。腹筋が割れている変態女を求め続ける物好き領主よ!』

『くっ……クソォォォォォォォォォォッ!!!!!』

『フハハハハハ! ビチグソを垂れながらクソォォォォォォォォォォッと叫んでいるクソ領主の悪感情、味噌風味で美味である!』

 

 こうして、悪い領主様は、正義の悪魔に脅されて、アクセルの街に120億エリスの寄付をしましたとさ。

 

《って、『とさ』とか言ってる場合か!? どう見ても、このル○ンはバニルのバカなんですけど?》

 

 出来心で過去を見たら、とんでもない事実を知ってしまった。

 

《あの野郎、こんなところでウロチョロして目障りったりゃありゃしない! つーか、6割って何なんだよ!? わざと全部払わせないで嫌がらせしやがって! これだから悪魔って奴はぶっ飛ばしたくなるんだよ!》

 

 ウィズの話でバニルが絡んでいることは知っていたけど、こうやって関わってしまうと腹が立って仕方がない。

 冷静に見ると、ピンチを救ってくれた大恩人(?)でもあるのだが、たたでさえ能力が被っているノルンとしては、あんな奴など見たくもなかった。

 

《あーもうムカつく! アイツのバカ面を見たせいで、イライラが止まらない!》

「(はぁ、借金のせいでノルンまでおかしくなっちまったのか? なんか、バニルがどうとか言ってた気がするのだが?)」

《ふんっ、あんな奴どうだっていいよ。地獄でサッカーやった時に、カグヤちゃんが放ったドライブシュートで住んでたお城をぶっ飛ばされたから、腹いせにアイツの黒歴史をネットで広めて悪感情を味わったけど、あまりに攻撃的なテイストなもんで10年も下痢ピーになったビチグソ野郎なんかのことは》

「(オィィィィッ!? そのカグヤって女神様、悪魔よりもヤバいんですけど!? 10年も腹を壊すって、どんだけドSな悪感情になってんだよ!? つーか、地獄でサッカーって、お前らほんとは仲良いだろ!?)」

 

 またしても神と悪魔の間抜けなエピソードが発覚し、カズマの脳裏にどうでもいい知識が書き加えられた。

 その一方で、これまでセリフが無かった近藤が、茂茂を相手にどうでもいい会話をしていた。

 

「ところで、将軍様。俺達が住んでいた家も吹っ飛んでしまいましたが、これからはどうしますか?」

「そうだな……。こうなっては、アクセルの街で家を買い、当座の拠点とするよりあるまい」

「あっ、あの……。それでしたら、私のお店に来ませんか?」

 

 いやらしいリッチーは、想い人の苦境を逆手に取ってちゃっかり同棲しようとする。そんなラブラブ空間にKYなゴリラが割り込もうとするが、恋バナに反応したアクアが乱入してくる。

 

「助かりますよ、ウィズさん! これなら、ウィザードリィみたいに馬小屋で寝泊まりせずに済みます!」

「はぁ!? なに言ってんのよ、このゴリラ!? せっかくウィズが色気を出して将ちゃんを家に連れ込もうとしてるのに、それを無駄にする気なの!? ここはしっかり空気を読んで、子作りできる環境を提供してやりなさいよ!?」

「むっ、そうか!? お二人の気持ちも知らずに図々しいことを言って申し訳ありません! 俺は馬小屋に行きますんで、将軍様はウィズさんと一緒に子作りをがんばって……」

「子作りの前に金を作れやァァァァァッ!?」

「「ぐはぁーっ!?」」

 

 多額の借金ができたというのに空気を読まないバカ共を修正する。

 

「ははははは……これはきっと夢なんだ。こち亀みたいに次回になったら、借金なんて無かったことになるに決まってるんだ……」

「そんなことあるわけねぇだろ!? 頼むから、両さんみたいに天文学的な負債を作らないで!?」

 

 これ以上、恐ろしい状況になっては堪らないと思いながら、カズマはこのろくでもない世界から脱出することを誓った。


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