このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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ようやくミツルギの話まで来れたッス。
原作よりも活躍している彼の勇姿(笑)に注目してね☆


第26訓 イケメンは性格が良いヤツほど腹が立つ

 湖の浄化を再開してから3時間後。濁りまくっていた湖水は見違えるように透き通り、浄化が無事に終わったことは誰の目にも分かった。オリの周りに群がっていたブルータルアリゲーターも、山の方へと逃げて行き、辺りの安全も確保できた。後は、オリを回収してアクセルに帰るだけである。

 でも、簡単には終わらないのが銀時パーティのお約束。今クエストの立役者であるアクアの様子が何やらおかしい。

 

「おいアクア、もうガララワニもアリゲーターもいないから、いい加減オリから出ろよ」

「イヤよ私はここにいるわ! モンスターやドSだらけの外に出るくらいなら、ゴリラやマダオと引きこもっていた方が遥かにマシよ! この中は、私にとってサンクチュアリなのよぉーっ!」

「どんだけ最低なサンクチュアリだよ!? 星矢とのクオリティー差が半端なくて切なくなるわ!?」

 

 ご覧のように、新たなトラウマを植え付けられたアクアは、頑なにオリから出てこようとしない。こうなっては仕方がないので、彼女が落ち着くまでの間は、近藤達と一緒にオリの中へぶちこんだままにするしかない。

 

「いや、なんで俺らまでぶちこまれたままなんだよ!?」

「そうだぜ銀さん! 俺らはちゃんとお務めを果たしたんだから、ムショから早く出してくれよ!?」

「はぁ? サンクチュアリを守る聖闘士(セイント)が、女神を放って外に出るとか許されると思ってんの?」

「俺らのどこが聖闘士なんだよ!? カッチョイイ聖衣(クロス)どころか、まともに服も着てないじゃん!?」

 

 とまぁ、こんな感じで少しばかりトラブルが起こったりしたものの、うるさい雑音はすっぱり無視して、帰路に着くことにする。

 しかし、アクセルの外壁が見えて来たところで新たな問題が発生した。中二病を拗らせためぐみんが、風雲再起に騎乗した姿を街のみんなに見せびらかせたいと望んでしまい、まっすぐ砦へ向かわずに街へ入ろうとしているのだ。確かに、街を突っ切った方が砦に早く着けるのだが、少女に見える駄女神をオリに閉じ込めた状態で通り抜けるのは何かと不味い。

 

「さぁ、行きますよマキバオー! 我らが勇姿を街のみんなに見せつけてあげましょう!」

「おい待てめぐみん! このまま街に入っちゃダメだ! アクアのバカを何とかしねぇと、サツの奴らが勘違いして、言い出しっぺのカズマさんがマジでムショにぶちこまれるぞ!?」

「なんで俺だけぶちこまれんだよ!? こうなったのは、全部お前らの仕業だろーが!?」

 

 責任を擦り付けてきた無責任なリーダーに怒りのツッコミを決める。

 とはいえ、彼が言うことにも一理はある。それを証明するように、未来を見たノルンが忠告してきた。

 

《カズマカズマ! このまま街に行っちゃうと厄介事に巻き込まれるって、今日の運勢に出ているよ!》

「(お前はテレビの占いか!? ってか、厄介事に巻き込まれるだと?)」

 

 運命を司るノルンが言うのだから、恐らく何かが起こるのだろう。だからと言って、暴走しているめぐみんを止めるのも面倒くさい。厄介なことに、この面子の中では、彼女しか風雲再起を操れないのだ。

 ならば、アクシデントの原因と思われるアクアをオリから出すしかない。

 

「おい銀さん! どんな手を使ってもいいから、アクアをオリから出してくれ!」

「言われなくても分かってる! こうなったらもう荒療治をするっきゃねぇ!」

「我が主! 荒療治とは一体なんだ!? 出来れば私も治療してほしいのだが!?」

「ドMを治してぇんなら精神科にでも行って来いや!?」

 

 変な所に食いついてきたダクネスに適切な助言を与えつつ行動を開始する。カズマが馬の前に出てめぐみんを止めている間に、オリを開けた銀時が無理やりアクアを引きずり出す。

 

「オラオラ、とっとと出て来やがれぇーっ! 【タートルシェル・バインド】ッ!」

「きゃーっ、イヤだイヤだイヤだァァァァァッ!? サンクチュアリの外に出たら、再び地獄に戻っちゃう!? モンスターとか取り立て屋に怯え続ける日々なんて、もうイヤなのよぉぉぉぉぉっ!?」

「取り立て屋に関しては自業自得じゃね!?」

 

 往生際の悪い駄女神を問答無用でお縄にすると、肩にかついで連れ出していく。そして、近藤と長谷川はそのままに、オリの入り口を施錠する。

 

「ちょっと待てぇーっ!? どうして俺達は、こっから出してくれねぇんだよ!?」

「はっ、聖闘士のクセに女神の心を守れなかった負け犬共が、すんなり許されるとでも思ったのかぁ? 邪武より使えねぇゴミ共は、オリの中で反省しながら小宇宙(コスモ)でも鍛えてな!」

「お前はどこまで俺達を聖闘士にしてぇんだぁーっ!?」

 

 適当な事を言って近藤達を黙らせると、泣きわめいているアクアに対して心のケアを試みる。

 

「うわぁーん! 外はイヤだぁーっ!? 早く私を楽園に、サンクチュアリに戻してよぉーっ!?」

「アレのどこが楽園なんだよ!? 動物園にしか見えねぇよ!? そもそも、お前は本当の楽園ってヤツを忘れているぜ?」

「ほぇ……? 本当の楽園?」

「ああそうだ。本当の楽園は、恐ろしい外にこそある。今からそれを強制的に思い出させてやろう!」

 

 そう言ってニヤリと笑った銀時は、懐に入れていたSM用のムチを取り出す。まさかこれは……。

 

「さぁ、存分に思い出せぃ! 快楽という名の楽園をなぁーっ!」

「あん、あん、あひぃぃぃぃぃぃんっ!?」

 

 イイ笑顔を浮かべた銀時は、亀甲縛りをされたアクアに【ラブウィップ】を叩き込む。スパルタな彼は、遊び人スキルを用いて、あらゆる痛みに耐えられるように駄女神の心を鍛えようと考えたのだ。まぁ、強くなるとは言ってもドMとして痛みに強くなるだけだが。

 

「おお、なんと素晴らしい! この私にも是非、荒療治を頼みたい!」

「お前がやっても悪化するだけじゃねぇーか!?」

 

 ダクネスだけは大絶賛するものの、他のみんなはドン引きである。とりあえず、アクアを外には出せたけど、本当の意味で立ち直れるかは甚だ疑問であった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆

 

 

 銀時がアクアのケア(?)を終えた頃、夕暮れに染まり始めたアクセルの街に一組のパーティがやって来た。王都からテレポートサービスを使って到着したばかりのミツルギキョウヤ一行である。

 転生者である彼にとっては、久しぶりの帰郷みたいなものであり、初めて来た頃を思い浮かべながら懐かしそうに辺りを見回す。魔王軍の幹部に脅かされていた影響も特に見られず、アクセルの街は相変わらず牧歌的な雰囲気に包まれたままだ。

 

「少し心配してたんだけど、どうやら杞憂だったようだね。将軍様がいるのだから、この街は安泰だ」

 

 茂茂に対して大きな信頼を置いているミツルギは、誇らしげに胸を張る。転生前はその逆で、傍若無人な天人に対して弱腰な対応しかできない茂茂に憤りを感じていたのだが、この世界で活躍する本人と出会ったことで評価が逆転した。戦いだけに特化した冒険者としてだけでなく、経済や社会基盤を強化することでこの国を救おうと尽力しているあのお方は、まごうことなき将軍なのだと、今になって実感したのだ。 

 ただ、彼の仲間であるクレメアとフィオは微妙な感想を抱いていたが……。

 

「将軍様ねぇ……。確かに、キョウヤがベタ褒めするほどにすごい立派な人なんだけど、ブリーフマスターって職業がねぇー」

「ブリーフ派っていうだけでも女子的にはアレなのに、職業までブリーフに毒されているだなんて、もはや呪いのレベルよねぇー?」

「おいコラ君達!? 将軍様とブリーフを侮辱するのは止めてくれ! ちなみに、僕はトランクス派だが!」

「この状況でトランクス派とか言ってるキョウヤも、なにげに侮辱してるよね?」

 

 結局、みんなで茂茂をさりげなくディスってしまう。残念ながら、思春期の男女が抱くブリーフの評価は低かった。男性用パンツの中では、一番チンポジを整えやすいというメリットがあるのだが、どうしても拭えないモッサリ感がマイナス要因なのだろうか……。

 何にしても、街中でする会話としては不適切なので、気まずくなったキョウヤは話題を変えようとする。

 するとその時、彼らの後方から人々の驚く声が聞こえてきた。

 

「きゃーっ、なんなのアレーッ!?」

「見たこともないゴリラと変なオッサンがオリの中にいるわよーっ!?」

「それよか、あの馬は何なんだ!? どう見ても頭が無いんだけど!?」

「まさか、モンスターの襲撃!? じゃねぇーなぁ、ありゃ……。上に乗ってるロリっ子にすっげー見覚えがあるし」

「あーアレは、頭のおかしい爆裂娘と愉快な仲間達だな」

「ったく、またあいつらかよ。あんなモンスターまでペットにしちまうなんて、頭のぶっ飛んだ連中だぜ」

 

 唐突に現れた奇妙な一団を目にして、アクセルの住人達が騒いでいる。最初こそ驚いたものの、赤い服を着た魔女っ子を見て、すぐさまシラけた空気になった。

 その元凶であるめぐみんは、周囲の会話を気にすることなくドヤ顔でふんぞり返る。

 

「ふっふっふ! どうですか、カズマ! 紅魔族を愚弄する憐れな街の住人が、魔物を従えるこの私に畏怖の念を抱いてますよ!」

「いや、あれはどう見てもバカにしてる顔だろう。頭のおかしい爆裂娘とか思いっきりディスられてんじゃん」

 

 風雲再起の隣を歩くカズマが冷静につっこみを入れるものの、浮かれた状態のめぐみんには残念ながら届かない。目立ちたくない彼にとっては居心地の悪い空間も、中二病全開なめぐみんにとっては特別な自分に変身できる傍迷惑なステージなのだ。

 ただ、意外なことに、トラブル体質の銀時がこの苦行に巻き込まれていない。執拗に駄々を捏ねまくるアクアのケア(調教)に時間がかかり、待ちくたびれたカズマ達は彼らを置いていったのだ。

 

「かなりハードなプレイを受けてて正直興奮しちゃったけど、アクアのヤツは大丈夫かな?」

「さらっと漏れてるあなたの本音が正直かなりキモいですが、まぁ大丈夫なんじゃないでしょうか。一応、ダクネスも付いていますから」

「返って不安要素でしかないんだけど、ソレ……」

 

 適当すぎるめぐみんにカズマも呆れた返事をするが、アクア達を置いてきた張本人は彼自身だったりする。近藤達もオリの中に入れっぱなしのままだし、なにげにコイツもドSである。まぁ、そこにつっこまないめぐみんも同類なのだが。

 

「なぁ、そこのご両人。万事屋もいねぇことだし、そろそろここから出してくれよ」

「うん、確かにそうしてあげたいところだけど、あんたを出すわけにはいかないな。今はまだ街の人もあんたの姿に慣れてないから、オリの中にいる方が色々としっくり来るし、いくら見た目がゴリラでもチ○コ丸出しのオッサンを外に出すわけにはいかないだろう?」

「そういうわけで、あなた達は、外界から守られたサンクチュアリの中で寛いでいてください」

「外界から丸見えなサンクチュアリで寛いでなんかいられるかぁーっ!?」

「大体、俺は近藤さんと違って服を着た人間だから、外に出ても問題ねぇだろ!?」

「いいや、違うぜ長谷川さん。本体がグラサンのあんたは、カテゴリー的には【おどる宝石】と変わんねぇから、基本的に近藤さんと同じ扱いでいこうと思う」

「俺は物質系モンスターかよ!?」

 

 残念ながら、二人のオッサンはモンスター扱いだった。まぁ、それほど間違っちゃいないので、あまり気にすることでもない。

 今はそんなマダオ達より、銀時とアクアを注意すべきだ。

 

「一番危険なあの二人がいなければ、ノルンが言っていたアクシデントもたぶん起こらないはずだ……」

 

 警戒していたカズマとしては、原因を事前に排除できてホッと一息つくところであった。

 しかし、この程度の対策で回避できるほどコイツらのトラブル体質は甘くなどない。カズマが安心したその時に、アクシデントの発端となる人物が現れる。それこそが、ミツルギキョウヤその人であった。

 騒ぎが気になったミツルギパーティが様子を見に来たことで、予期せぬイベントが発生してしまうなど、神ならぬカズマには予想もつかなかった。

 

「あーっ、見て見てキョウヤ! 本当にゴリラがいるわ!」

「へぇ~、初めて見るタイプのゴリラ型モンスターだな……」

 

 カズマが思案に耽っていると、前方からそんな会話が聞こえて来た。見るとそこには、あからさまにモテそうなイケメン剣士と二人の美少女冒険者がいた。

 

「なんだあの、少年マンガの主人公みたいなオーラを出してるイケメンは? このクソみたいなSSに、あーいうヤツはいらねぇだろ!」

 

 いきなり現れたイケメンを見て気分を害したカズマは、無視して通り過ぎようとする。単なる嫉妬心だけでなくイヤな予感がしたからだが、残念なことにその感覚は当たっていた。

 そのイケメン――ミツルギキョウヤは、オリの中にいるゴリラを見た瞬間に、ふと疑問を感じた。なんだろう、コイツの顔には見覚えがあるような……。その違和感を探るためにゴリラをガン見していると、だんだんソイツはゴリラから全裸のオッサンに見えてきた。

 

「ねぇカズマ。先程からついて来る不気味なストーカー剣士がこちらを睨んでくるのですが、私にケンカを売っていると判断すべきでしょうか?」

「そんな判断しなくていい! つーか、コイツはオリにいる近藤さんを見てるだけだろ」

「な、なに? 今、君はコンドウと言ったよな? コンドウ、こんどう……あっそうか!? このゴリラは、真選組局長の近藤勲じゃないかァァァァァァ!?」

 

 カズマのセリフからヒントを得た瞬間に、ミツルギに起こっていた認識阻害が解消された。彼もまた、銀時達と同じように近藤との接点が多少なりともあったからだ。

 ただ、近藤の方には彼との面識が無かったが。

 

「ま、まさか!? 君は俺のことを知っているのか!?」

「ええ、よぉーく知っていますよ。あなた達、真選組のことはね……」

 

 なにがなにやらサッパリだが、唐突に世界をまたいだイベントが発生した。どうやら、あのイケメン野郎は近藤のことを知っている転生者らしく、面倒な展開になりそうだと直感したカズマはノルンに文句を言う。

 

「(これは一体どういうことだ!? 銀さんとアクアを排除したのにアクシデントが発生したぞ!?)」

《くっくっく。一体いつから、アクシデントの原因がアイツらだけだと錯覚していた?》

「(お前絶対、藍染のモノマネやりたかっただけだろう!? こうなることが分かってたんなら、最初から教えてくれよ!?)」

 

 女神なのに小悪魔系な相棒にしてやられた。こういう面白いイベントが起きる場合、ノルンは止めようとするどころか逆に盛り上げようとする困ったちゃんなのだ。

 そして、彼女の期待通りに近藤達は動き出す。

 

「教えてくれ、君は一体何者なんだ?」

「そうですね。直接話すのは初めてなので、自己紹介をしておきましょう」

 

 思わせ振りに笑みを浮かべたミツルギは、困惑気味な近藤に向けて口を開いた。

 

「僕の名前は御剣響夜。見廻組に所属していた御剣拓哉の長男です」

「はぁ……ミツルギタクヤ……ミツルギタクヤ……。いやぁ~、どうにも記憶に無いなぁ。そんな名前のサブキャラなんて銀魂に出てたっけ?」

「そ、そんな!? 局長ともあろう人が僕の父を知らないなんて!? 見廻組の中でも優秀な人材ばかりを集めて作られた特務機関【スペシャル・セレブリティ・オフィシャル・ピープル】略して【SCOP】に所属していたエリート幹部ですよ!?」

「んー? スコップぅ? あーあー、あれかぁー。SM○Pの人気にあやかろうとして見廻組が作ったけど、語感がすっげーダサい上に、当のS○APが解散しちゃって、俺達真選組の間ではメンバー扱いされてたあいつらの事かぁー」

「メンバーって言うのは止めろぉーっ!? なんだか不祥事を起こした芸能人みたいになっちゃうだろう!?」

 

 いざ、答えを聞いてみたら微妙な結果に終わってしまった。

 

「と、とにかく僕は、あなたと同じ転生者だが……僕はあなたが女神様に選ばれた勇者だなんて、絶対に認めない!」

 

 初対面にもかかわらず近藤を罵倒する。転生する前から正義感の強かったミツルギは、真選組の乱れまくった風紀に対して不快感を抱いていたのだ。

 だからこそ、異世界でも全裸を晒す近藤に怒りを覚え、同じ転生者である自分の手で厳しく罰するべきであると勝手に思い込んでしまう。

 

「(異世界に転生してまでハレンチ行為をやらかすなど、女神に選ばれし勇者として許すわけにはいかないんだ!)」

 

 変態ゴリラを更正させる決意を固めたミツルギは、堂々と腕を広げて馬車の前に立ちはだかり、操作しているめぐみんに向けて止まるようにと呼びかける。

 

「御者をしている少女よ! その馬車を一旦止めて、僕の話を聞いてグヘェーッ!?」

「「キャーッ、キョウヤァァァァァァッ!?」」

「何なんですか、あなたは? いきなり前に飛び出てきたら危ないじゃないですか?」

「いや、危ないっていう前にはね飛ばしてますけど!?」

 

 行く手を遮られてムカッと来ためぐみんは、止まれなかったフリをしながらミツルギをぶっ飛ばした。『これもう普通に人身事故じゃね?』と思うところではあるが、客観的には強引に進路を妨害したイケメン野郎に過失があり、めぐみんは無罪だと街の人達は認識していた。

 それでも、彼の仲間である少女達が黙っていられるわけもなく、カエルのようにひっくり返ったミツルギに駆け寄ると、めぐみんに向けて理不尽な文句を言い始めた。

 

「ちょっとアンタ何してんの!? イケメンのキョウヤがカッコよく話しかけて来たんだから、ここは普通に空気を読んで馬車を止めなさいよ!?」

「そ、そうよ! あの状況で止まらないなんて、どう考えてもあり得ないわ! 頭の無い変な馬に乗ってるようなあなた自身も、頭がおかしいんじゃないの!?」

「ねぇカズマ。超迷惑な飛び出し野郎に惚れてる感じの女共がギャーギャーわめいてきてるのですが、今度こそは、この私にケンカを売っていると見なしてもいいですよねぇーっ!?(怒)」

「見なす前からヤル気満々なんだけど!? 確かにケンカを売っちゃあいるが、んまい棒を買うみたいに簡単に買うんじゃねぇーよ!」

 

 ミツルギがカッコつけたせいで、余計に話がややこしくなってしまった。

 望まぬケンカに巻き込まれそうになったカズマは一人で頭を抱えるが、意外なことに、やられたミツルギ本人が話題を変えてくれた。

 

「ま、待ってくれ二人共。今のは急に飛び出した僕の方が悪いんだ。それよりも、そこにいる剣士風の君に聞きたいことがあるのだが、ぜひ教えてくれないか。なんで君達は、全裸の近藤をオリの中に閉じ込めているんだ? 一緒にいるグラサンをかけたオッサンも痴漢をやりそうな風体だし。もしやこれは、進撃の変人を駆逐するイェーガー的なクエストなのか?」

「そんなクエストあるわけねぇーだろ!? 大体、俺は変人じゃねぇーっ! 全裸にされる機会が多くて、快感になるくらいに慣れちまっただけだぁーっ!」

「それなら、俺も痴漢なんて一回もやってねぇーぞ!? 俺ぁただ、その手の内容のアダルトビデオやエロ本が大好きなだけだぁーっ!」

「否定しておきながら、疑わしい性癖を暴露しちゃってますけど!?」

 

 話を振られたカズマを他所に、オリの中の懲りない面々が無罪を主張する。どう聞いても説得力皆無だが、今回に限ってはウソではないので、カズマが弁護をすることにした。誤解されそうなアクアのことは誤魔化して、捕獲クエストのくだりだけを説明する。

 

「なるほどね……。呪いによってゴリラに見えるようになった近藤を利用して、モンスターを捕獲するためのエサとして使ったわけか。君はなかなか頭がいいな。まさに適材適所だよ」

「人をエサにするなんて適材適所があってたまるか!? 大体君は、なんでそこまで俺のことを目の敵にするんだ? 見廻組の連中とは既に和解したはずだが?」

「ああ、そうだ。アンタの言う通り、見廻組と真選組は過去の遺恨を水に流して、アルタナを巡る戦いでも天人相手に共闘した。その激戦を生き抜いた僕の父は、見廻組の解散後に警察庁の幹部となって、再結成した真選組と共に今この時も江戸の治安を守っていることだろう。しかし、僕はアンタ達のすべてを受け入れたわけではない。個人的に許せないことが、真選組に対してあるんだよ!」

 

 近藤の疑問に対して答えを返したミツルギは、怒りと屈辱に満ちた表情を浮かべる。その原因を伝えるために、銀魂世界で起きた回想を始めた。

 

 

 あれはミツルギが中学生の頃だった。

 エリート一家に生まれた彼は、優秀な父と同じように見廻組の幹部となるべく、日々研鑽を積んでいた。その一環として、知識と見聞を広げるために多くの攘夷浪士が潜伏しているかぶき町へと足を運んだのだが、そこでアイツに出会ってしまった。少女に首輪を付けた挙げ句、鎖のリードで拘束し、ペットのように扱っている沖田総悟に……。

 

『よぅ、うららちゃん。俺とのデートは楽しいかい?』

『はい、もちろんですご主人様。あなたのメス猫になれて、私はとても幸せです』

「これのどこがデートなんだァァァァァッ!?」

 

 回想を聞いていたカズマが、すかさずつっこみを入れる。デート中の少女をメス猫のように扱う様を見せられたら、Sっ気のあるクズマさんでも流石にドン引きである。

 

「あー、うららちゃんがいるってことは、新八君がメインを張った【文通篇】の話かぁー。結構前のヤツだから、なんか懐かしいなぁー」

「懐かしいで済まないだろう!? 仮にも警察官となった者が、あそこまで倫理に反する野蛮な行為を人前でするか普通!? 常識を持った人間としても、見廻組幹部の息子としても、彼の蛮行を見過ごすわけにはいかなかったんだ!」

 

 正義の怒りに燃えたミツルギ少年は、無謀にも最凶のドSに突っかかってしまった。それが、彼と真選組を結ぶ因縁の始まりとなった。

 

『真選組の沖田総悟! いたいけな少女に対して、なんて酷い仕打ちを……』

『ご主人様に向かって、なに失礼な口きいとんのじゃワレェェェェェッ!』

『ぐぼはぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

「総悟じゃなくて、うららちゃんが攻撃して来たーっ!?」

 

 この時すでに調教済みだった少女は、敵意を向けてきたミツルギ少年を反射的に迎撃した。救いを求めていると思っていた当人から攻撃されて、憐れなミツルギ少年は涙目で混乱する。

 

『えっ? えっ? なんで!? どうして君が僕を殴るの!? 僕は君をドSから助けようとしていたのに!?』

『そんなことも分からねぇで突っかかってきたのかィ? これだから童貞君は女に嫌われるんでさァ』

『ご主人様の言う通りよ。心の底から喜んでメス猫になったというのに、私の気持ちも理解しないで助けようとしていたなんて、どうしようもないくらいに滑稽な坊やねぇ(笑)』

『つまりは、そういうことなんで。女を知らねぇ童貞君は、To LOVEる読んで勉強して来な(笑)』

『うっ、うっ、うわぁーんっ! 覚えてろよォォォォォォッ!』

「これでもかって言わんばかりに言い負かされてるゥゥゥゥゥッ!? こんなのされたら俺でも恨むわ!?」

 

 勝ち組かと思われたミツルギに、そのような黒歴史があったとは。いくらイケメンがキライでも、同じ童貞であるカズマとしては同情を禁じ得ない。

 しかも、ミツルギのバッドストーリーはまだ終わっていなかった。

 

「沖田総悟だけじゃない! 僕の心に傷を残した真選組のクズヤローはもう一人いるんだ!」

 

 そう言ってハンサムな顔に悔しさを滲ませたミツルギは、再び回想を始めた。

 

 

 あれはミツルギが中学生の頃だった。

 沖田によって恥ずかしい目にあわされたミツルギ少年は、反撃をするための情報集めを始めた。普段から素行の悪い真選組を調べれば、絶対ボロを出すに違いない。そう思って、彼らがよくブラついているかぶき町を探っていたら、副長の土方がコンビニでエロ本を買っている現場に遭遇することができた。

 

『とうとう馬脚を表したな、土方十四郎! 勤務中にエロ本を買うなんて士道不覚悟だぞ!』

『ああ? なんだこのクソガキは? 俺は今、エロ本を読みながら猫を探してる最中だから、土方さんに用事があんなら、只今絶賛連載中の【魂入れ替わり篇】が終わった後にしといてくれや』

「オィィィィィッ!? これってトシじゃないんじゃね!? 万事屋の魂が入ってるドSモードの偽トシじゃね!?」

 

 土方の口から吐かれたメタなセリフで近藤はティンと来た。これはアレだよ、源外の作ったカラクリのせいで銀時と土方の魂が入れ替わってしまった時のヤツだ。それに巻き込まれた長谷川も、すぐに気づいてため息をつく。

 

「あーアレかぁー。後半部分はモザイクだらけで手抜きにしか見えなかった、あの問題作かぁー。あん時はこの俺も、定春のウンコにされるわグラサンになった山崎とフュージョンするわで、随分と酷い目にあわされたっけなぁー」

「酷い目にあわされたのは僕の方なんだけど!?」

 

 今も昔も裏事情を知らないミツルギは、土方の魂が別人に入れ替わっているなどとは知らずに回想を続ける。

 

『訳の分からないことを言って煙に巻くつもりか!? お前がエロ本を買ってる姿は、この携帯で撮影してるぞ!』

『おいおい少年、それはマズイぜ。お仕事中のお巡りさんを無断でつけ回した上に、盗撮した画像を使って恐喝行為に及ぶなんて、ストーカーと変わらねぇじゃん。テメェぐらいのクソガキからそんな汚ぇマネしてっと、ウチで飼ってる近藤みてぇなゴミクズ変態クソゴリラになっちゃいますよコノヤロー』

『やっ、ヤメロォォォォォォッ!? あんな変態クソゴリラと同列に見られるくらいなら、不正行為を笑いながら見逃す方がまだマシダァァァァァァァッ!!』

「そこまで俺は嫌われてんのぉーっ!? 確かに変態ゴリラだけど、これでも局長なんだけど!? つーか、万事屋なにやってんだよ!? トシに恥をかかせた挙げ句に、さらっと俺をディスんじゃねぇーっ!?」

 

 痛いところを突かれてダメージを受けるミツルギ少年と変態クソゴリラ。エロ本を買っていた時点でアウトなのにもかかわらず、相手に罪悪感を与える言葉を重ねることで立場を逆転させてみせる。中坊レベルの優等生ではドSの口撃には敵わなかった。

 

『それよか、ソッチはどうなんだよ? 俺は大の大人だからエロ本買っても問題ねぇけど、ようやくチ○コに毛が生えてオナ○ーを覚えたばかりのテメェが買ったら、ご両親に報告もんの大問題だぜぇ~?』

『なっ、なにを言っているっ!? この僕がそんなものを買ったりなんてするわけないだろ!?』

『まぁ、テメェみてぇなムッツリスケベは、そんなところだろうなぁ。エロ本も買えねぇ童貞君は、To LOVEる読んでハッスルしてな(笑)』

『そんなに僕はTo LOVEる好きな童貞に見えるのかァァァァァァ!?』

「つーか、お前ら揃いも揃ってTo LOVEるを何だと思ってやがんだ!? 俺達のリビドーを満たしてくれる名作を敬えェェェェェェッ!」

 

 To LOVEるを褒め称えるカズマの主張はともかくとして、偶然トラウマを刺激されたミツルギ少年は、土方(in銀時)の前から逃げ出した。

 こうして彼は、至極個人的な理由により真選組に対して悪感情を抱くようになり、あいつらのようにはなるまいと自意識過剰な正義感を増長させるのだった……。

 

 

 後味の悪い回想を聞かされて、カズマを始めとする転生組はやるせない気持ちになる。また、部分的に理解できためぐみんも、ドSに溢れた真選組という組織に恐れおののく。

 

「ま、まさか、ギントキクラスのドS野郎がまだ二人もいるなんて……。ええい、真選組の隊員は化け物か!?」

「ガンダムにビビってるシャアみてぇなこと言ってるけど、半分は誤解だから!? 本物のトシの方は、ただのマヨラーだからね!?」

 

 沖田の行為は弁護不可能だが、土方の汚名だけはそそいでやる優しいゴリラであった。

 それでも、頑なに真選組を嫌うミツルギの心を変えることはできず、近藤と行動しているカズマとめぐみんを引き抜きにかかってきた。

 

「なぁ君達。こんな野蛮で変態なクソゴリラは放置して僕のパーティに入らないか? 見れば君は僕と同じ転生者のようだし、そちらの少女はアークウィザードだから、こちらとしても申し分ない。いや、この僕と君達が力を合わせて戦えば、必ずや最強の勇者パーティとして名を馳せることだろう!」

「ねぇちょっと!? グラサンをかけたオッサンがそこに入ってないんだけど!? マダオの俺は勇者の仲間に入れてくれねぇの!?」

 

 残念ながら、長谷川だけは最初からアウトオブ眼中だった。その点はお約束なので、なんら不思議なことでもないが、カズマの扱いがやたらと普通なところは意外な展開である。

 

「(アレ、なにこれおかしいな。イケメン君に誘われるとか違和感しかないんだけど。アクアのバカがいないお陰で俺の待遇が良くなった気がするのは、なぜ?)」

《ふーヤレヤレ。何を言い出したかと思えば、キミの待遇が良くなっただって? そんなことあるわけないじゃん。アクアの他にもヤバい奴がいるってのに、童貞君はお可愛いこと(笑)》

「(今の話に童貞関係無ぇーだろオイ!? つーか、今なんて言った!? アクアの他にもヤバい奴って、まさか……)」

 

 ノルンのセリフからイヤな予感がしたカズマであったが、それを察しているかのようにめぐみんがフラグを立てる。奇妙とも言えるカズマの厚待遇は、更なるアクシデントが発生する前フリだったのだ。

 

「ふっ、最強のアークウィザードたるこの私の才能に目を付けたことは誉めてあげましょう。だがしかし、私はあなたのパーティに入ることはできません。なぜならば、もうすでに最凶の遊び人とパーティを組んでいるからです!」

「……へ? さいきょうの遊び人?」

 

 唐突に放たれた奇妙な単語に首をかしげるミツルギ君。果たして、遊び人とはなんなのか。答えを求めてめぐみんに質問しようとしたその時、彼らの後方辺りから異様な騒ぎが巻き起こる。

 

「な、なんだありゃ!? あの子達はナニやってんだ!?」

「ちょっと、なにアレ? 犯罪かしら?」

「それはどうかな……。すっごい嬉しそうな顔してるし」

「もしかすると、そういうプレイなのかもしれんな」

「ま、マジかよ……実際にあんなプレイをする勇者がいるとは思わなかったぜ……」

 

 聞いてみると、おかしな情報ばかりが入ってくる。どうやら、いかがわしいプレイをしている連中がこちらに向かって来ているようだが、その予想は当たっていた。

 クズを見るような目をした観衆を左右に分けながらこちらに近づいてきたのは、顔を引きつらせた銀時だった。彼の様子がおかしいのは、一緒にいるアクアとダクネスに理由があった。なぜか二人は、銀時の隣を盛りのついたメス犬のように四つん這いになって歩いているのだ。

 

「「「オリに入れてた時よりも悪化してんじゃねぇーかァァァァァァッ!?」」」

「ちなみに、ノーパンのアクアが四つん這いになったら『R-18的なヤツがモロに見えちゃうんじゃね?』と思うだろうが、そこは心配しないでくれ。ダクネスをパシらせてゲットした水玉パンツを履かせてあるから、いつも大変お世話になってるモザイクもいらないぜ?」

「あーそれなら大丈夫、なんてならねぇーよ!? R-18は回避したけど、別の意味でアウトだろコレ!? せっかくのお色気なのにキャラ設定がクソ過ぎて、まったくムラムラしてこねぇよ!?」

 

 いち早く衝撃から立ち直ったカズマが突っ込む。その反対に、耐性が無いめぐみんやクレメア達は呆気に取られて押し黙り、沖田の時のトラウマを刺激されたミツルギはフリーズしてしまっている。

 それほどまでに、アクアとダクネスはメス犬と化していた。

 

「くぅーん、くぅーん!」

「はっ、はっ、はっ、はっ!」

「すっかり調教されてるゥゥゥゥゥッ!? オリから出せれば良かっただけなのに、どうしてこうなった!?」

「あーいやね。あれから俺は、傷ついたアクアを立ち直らせるために懸命なケアを続けていたんだけどさぁー。愛のこもったラブウィップにハマったコイツが、ムチを入れるたびにやたらとイイ反応をするもんだから、ついこっちも熱が入っちゃってねぇー……。気がついたら、こんなんなってた」

「こんなんなってた、じゃねぇーだろうが!? ただでさえ、面倒なヤツと揉めてる最中だってのに、更に燃料ぶっ込むようなマネしてんじゃねぇーっ!?」

 

 可愛らしい仕草で甘えるアクア達にイラッと来たカズマは、多少の嫉妬を込めながら銀時に怒鳴り散らす。その声で我に帰っためぐみんは、気になったことを聞いてみた。

 

「ところでギントキ、どうしてダクネスまで調教したのですか?」

「いいや、コイツにゃしてねぇよ? このドMは、アクアに対抗してるだけのナチュラルなメス犬だ」

「はぁっ、はぁっ! まさか、アクアにこれほどまでの才能があったとは! いいだろう! 今からお前を私のライバルと認めてやる!」

「そんなスポーツマンガ的な爽やかな展開じゃないんだけど!?」

 

 ダクネスの事情を聞いたら、気持ちの悪いスポ根のような話になってイラついた。

 だが、面倒なことにミツルギにとってはそれだけでは済まなかった。不意に聞こえてきた【アクア】という個人名によってトラウマから覚醒した彼は、とうとう気づいてしまった。目の前でメス犬と化している女神様の存在に……。

 

「めっ、めっ、めっ、めっ、女神様ァァァァァァァッ!? 天界にいるはずのあなたが、なぜこんな辺境の街に!? っていうか、これはどういう状況ですか!? そんな犬みたいなマネをして、あなたは一体ナニをやっているのですかぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ウゥーッ! ワンッワンッ! ガルルルルルッ!」

「まともな質問してるのに、めっちゃ威嚇されてるぅーっ!? つーか、言語の方まで犬化しちゃってるんですけど、メス犬の意味間違えてんだろ!?」

 

 変な方向にドM化したアクアにはミツルギの言葉が届かなかった。そもそも、彼女は転生者に対して道端の石ころほどの興味も無いのだが、それを知らないミツルギ君は、銀時の存在に疑いを向ける。もしかすると、女神様は、あの男によって洗脳されてしまったのではないか。そんな勝手な想像を自己中心的に思い描いた瞬間、正義の怒りを爆発させて鬼畜なドSに襲いかかった。

 

「この腐れ外道がァァァァァァァッ!? 純真無垢な女神様に一体ナニをし「ゴッドブロー・マキシマムッ!!」ぐぼはぁぁぁぁぁぁっ!?」

「女神様のフィニッシュブローがカウンターで決まったーっ!? つーかコレ、うららちゃんの時と同じオチじゃね!?」

 

 憐れなミツルギは、再び助けようとした女性にぶっ飛ばされてしまった。無謀にもドSの女(笑)に手を出そうとした報いである。

 

「残念だったな、通り魔野郎! 俺のスタンドを前にして、お前は近づくことすらできねぇ! 従順なメス犬が縄張りを構築し、そこに侵入してくるすべての敵を見境なく攻撃する。俺のスタンド【ザ・ビッチ】の能力は世界一ィィィィィィッ!」

「そんなスタンドあるわけねぇーだろ!? ドMが勝手にご主人様を守ってるだけじゃねぇーか!?」

 

 被害者ぶった銀時は、駄女神の暴力行為を適当な言い訳で正当化しようとする。実際に、半分くらいは正当防衛なのだが、クレメアとフィオから見れば銀時側の方が悪にしか見えないので、当然ながら抗議してくる。

 

「なに考えてるのよアンタ達!? 正しいことをしようとしたキョウヤを殴るなんて酷いじゃない!?」

「クレメアの言う通りよ! 公共の場でいかがわしいことをしてるアンタ達なんか、キョウヤにお仕置きされるべきだわ!」

「はぁ? そっちこそなに言ってんの? こっちの事情も確かめずに、いきなり殴りかかって来るとか、キョウヤ君とやらの方が常識的におかしいだろう? それともナニか? 君達は、ここにいるカズマ君が突然襲ってきたとしても、抵抗せずにおっぱいをモミモミさせてやんのかぁ?」

「「キャーッ!? 近寄らないで変態スケベ!?」」

「マジでヤるわけねぇーだろうが!? つーか、そんなにおっぱいをモミたそうに見えるのか!?」

 

 カズマを生け贄に使いながら、うるさい取り巻きを言い負かす。最低な内容でも一応筋は通っており、アクアに殴られた衝撃で怒りから覚めたミツルギも、歯ぎしりしている少女達を見て冷静になる。

 

「た、確かに、こちらにも非はあった。まずは始めに、そちらの事情を聞くべきだったな。では、改めて女神様にお尋ねします。なぜ、女神であるあなたが、こんなところでこんなドSとおかしなマネをしてるのですか?」

「ワン、ワワン? ああ、そうだワン! 私は女神だったワン!」

「そんなことも忘れてたのかよ!? つーか、語尾が戻ってねぇーぞ!?」

「あらあら、私としたことが……。で? そこにいる通り魔君は、女神の私がここにいる事情を聞きたいってわけね?」

「僕は通り魔じゃありませんよ!? あなたから魔剣グラムを頂いた、御剣響夜です!!」

 

 散々酷い目にあった後で、ようやくミツルギは自己紹介ができた。

 だが、肝心のアクアの方は、転生者の名前などいちいち覚えちゃいないので、適当に受け流す。

 

「あー、はいはいミツルギ君ねー。魔王退治のお仕事オッツー。そんなことより、さっきの話よ! アンタはなんか勘違いしているようだけど、私は今、喜んで銀時のドSプレイを受け入れているの! そりゃあ、初めはイヤだったわ! 転生特典として無理矢理地上に連れてこられて、何度もカエルに食われされたり、借金の取り立て屋に追いかけられたり、オリに閉じ込められてワニのいる湖に放り込まれたり、今思い返しても悲惨な思い出しかないわ!」

「なっ、なっ、なっ!? なんて酷い男なんだぁーっ!?」

「いや、借金のとこだけは冤罪なんですけど!?」

「そんな違いは些末なことよ! 冤罪だろうとなんだろうと、この男がドSのクズであるという事実は決して変わらないわ! でも、それは私にとって必然だったの。彼と共に生きていくその辛さこそが私の幸せなんだって、ようやく気がついたのよ。私は尊い女神だけど、女としての幸せを捨てることもできない罪深きメス犬……。だから消えて!? 今すぐ消えて!? 私の主を奪うヤツは、みーんなみんな消えてちょうだい!?」

「急にヤンデレ化しやがったァァァァァッ!?」

 

 ようやく会話ができるようになったものの、内容的にはお話にならない状態だった。銀時との生活を楽しんでいるのは本当なのだが、言い方がアレ過ぎて正しく伝わらなかった。

 だから、ミツルギはこう思った。やはり、このドSこそがすべての元凶であり、自分の手でコイツを倒して、騙されている女神様を救わなければならないと。

 

「女神に仇なす不埒者め! 魔剣の勇者・御剣響夜が、貴様に決闘を申し込む!」

「はぁ~決闘? めんどくせぇ……」

「もしや、おじけついたのか? この僕は、国中で有名なソードマスターだから無理もないが、女神様の命運がかかったこの決闘だけは絶対に受けてもらうぞ!」

 

 魔剣グラムを鞘から抜くと、鼻をほじっている銀時に向ける。緊張感は微妙だけど、バトルは回避できそうもない。

 

《だいじょーぶだよカズマ君。主人公から転げ落ちた君の出番は微塵も無いから!》

「(それはそれで悲しいんですけど!?)」

 

 一人静かに落ち込むカズマ。

 そんな彼を他所にめぐみんとダクネスは興奮するが、この手のイベントに懲りている近藤達は反対してきた。

 

「あんなスカしたエリート野郎、パパッとやってくださいよ! なんなら私が、爆裂魔法でトドメをさしてあげましょう!」

「我が主よ、私からもお願いする! アクアを狙う通り魔のクセに、女騎士を狙わないような非常識な者にはお仕置きが必要だ!」

「お前らの方こそ非常識じゃねーか!? 爆裂狂のロリっ子と四つん這いのドMなんか無視してくれよ、銀さん!?」

「そうだ、キョウヤ君も止めなさい! ドSなんかと関わっても、ドM以外にメリットは無いぞぉーっ!」

「ええい、外野は黙っててくれないか!? これはサムライとしての真剣勝負なんだ!!」

 

 ギャーギャー騒ぐ観客にミツルギがキレる。その時に発したサムライという単語を聞いて、気まぐれな銀時にもやる気が出て来る。

 

「そこまで言われちゃあ、サムライマンガの主人公としては黙ってるわけにもいかねぇか。だが、やる前に一つだけ聞かせろ。お前にはあるのか? 相手のすべてを奪う覚悟と自分のすべてを奪われる覚悟が」

「っ!? 奪う覚悟と奪われる覚悟……」

「決闘ってのは、戦う相手の大切なものを奪い合う行為であり、そこに慈悲など入り込む余地は無い。それでもお前は、己のすべてをかけて俺とやりあうのか?」

「……ああ、やるさ! 僕だって、サムライの家に生まれた男だ! 女神様を救うためなら、命だって惜しくはない! 無論、貴様なんかに負けるつもりは無いがな!」

「あーそうかい。だったら、いっちょーやりますか」

 

 珍しく真面目な会話をする遊び人を見て、仲間達はちょっぴり見直した。この子もやればできるじゃない。

 だが、それはヤツの罠であった。『すべてを奪ってもいい』という言質を取ることがドSの目的だったのだ。傍迷惑な決闘をこの俺に願うというなら、相応の謝礼をいただくまでだ。

 

「(だってほら、願いを叶えてやるからには代償が必要だろ? 魔法少女がキュウべぇに払っているようになぁ!)」

 

 あの白い悪魔を口実に使うとは、まさに外道である。いやらしい笑みを浮かべながら洞爺湖を構える銀時に対して、なにも知らないミツルギが自ら深みにはまっていく。

 

「なんだその木刀は!? 貴様はそんなもので魔剣グラムと戦う気か!?」

「はっ、俺がナニを使おうとこっちの勝手だろうが? グラムだかグラハム・エーカーだか知らねぇが、さっさと自慢の魔剣とやらを構えろやミッツィー」

「言われるまでもない! っていうか、ミッツィーって呼ぶな!?」

 

 煽られたミツルギが怒りながら剣を構える。その動作が終わった直後に、銀時はこうつぶやいた。

 

「【トライアングルホース】(小声)」

「ん、なんだ? 今、なにか言ったぎゃあああああああああああっ!?」

 

 銀時の怪しい行動に気づいたが、時すでに遅し。地面から飛び出してきた三角木馬が、無防備なミツルギの股間にクリティカルヒットする。

 

「「「き、汚ェェェェェェェッ!?」」」

 

 観戦していた者達全員が同じ感想を抱く。

 だが、これこそが遊び人の戦い方だ。初見殺しのような卑怯技ではあるが、スキルを使っただけである以上、たとえ汚く見えたとしてもルールには反していない。結局は、ミツルギ自身の油断が招いた失敗であり、悶絶して動けなくなった彼は、洞爺湖で頭をぶん殴られて気絶した。

 

「こーんの未熟者がぁーっ! 相手が剣士だと思い込むから、股間に隙が生まれるのだぁーっ!」

「いや、剣士じゃなくても股間を狙ったりしないんだけど!? どんだけ最低な決闘イベントなんだよコレ!?」

 

 激戦が予想されてたけど一瞬で終わりました!

 後は、敗者のミツルギから、約束通り奪い取るだけである。三角木馬から落ちて地面に寝転がったカモに向かって、飢えたケダモノと化した銀時とアクアが襲いかかる。

 

「それじゃあ俺は、敗者から魔剣と財布を奪っていくぜぇーっ!」

「だったら私は、高値で売れそうな鎧と服を奪っていくわぁーっ!」

「持ち物一式奪っていくとか、マジで容赦ねぇーっ!?」

「言わんこっちゃない。だから、あんだけ止めたのに……」

 

 嬉々として戦利品を貪るドSと駄女神の蛮行に、周囲の人々は唖然とする。

 そんな中、いち早く再起動したクレメアとフィオが止めに入った。

 

「まっ、待ちなさいよ卑怯者!? 冒険者のプライドをかけた真剣な決闘なのに、キョウヤの一番大事なトコロを真っ先に攻撃するなんて、どう考えても反則よっ!!」

「あんな決闘、無効だわ! ちゃんとした勝負ができれば、卑怯者のアンタなんかキョウヤの敵じゃないんだからっ! 彼から奪い散った物を今すぐ返しなさいっ!」

「はっ! 何を言うかと思えば……。そちらの方こそ、卑怯な言いがかりはよしてくれたまえ。俺は事前にミッツィー君が承諾した条件通りに戦って、その結果、勝者の権利として相手の物を奪い取っただけ……。ああ、そうだよ!? 奪ってやったよ!? 女神様から貰った魔剣とやらで、すっぴん装備の遊び人をぶった切ろうとした勇者様の、クソったれなプライドをなぁ―っ!?」

「プークスクス! 魔剣の力に頼りきったヘッポコ勇者には良い薬じゃないかしら? ギントキ以外に負けていたら、死んでいたかもしれないんですもの。今回は、命とトランクスを奪われなかっただけありがたいと思いなさぁい?」

「キッ、キィィィィィィッ!?」

「なんてムカつく奴らなのぉーっ!?」

 

 言い負かされたクレメアとフィオは、悔しさのあまりに地団駄を踏む。一部始終を見ていた観衆は、ドSにイビられている少女達に同情したが、ミツルギ本人が承諾していたことなので異論を挟むこともできない。今、この空間はドSゾーンの支配下にあった。

 

「よーし! 奪うもんも奪ったし、イベントも終わったから、撤収すっぞお前ら~!」

「ちょっと待ってよ銀時~! 奪い取った装備品をさっさと売っぱらいたいから、先にお店へいきましょう?」

 

 周囲の空気を気にせずにバカ兄妹が帰ろうとする。そんな彼らの様子を見て、めぐみんは肩をすくめ、ダクネスは興奮し、カズマは疲れた顔をする。

 

「マジにクズ過ぎて正直同類だと思われたくはありませんが、あのスカした野郎をぶっ飛ばしてくれたから、ちょっとだけスカッとしました」

「ああ、そうだな。人前でアソコを攻撃されるなんて、見事なやられっぷりであった。もし同じことを私もされたら、スカッとするだろうな!」

「スカッとしないでムラッとするわ!? つーか、もうツッコミし過ぎて疲れたから、さっさと帰ろうぜ……」

 

 変な原因で疲労したので、早く帰りたいとめぐみん達を急かす。

 そこへ、まだ諦めていないクレメア達が立ち塞がる。

 

「ちょっと、どこへ行くつもりよ!? キョウヤから奪い散った物を返してから行きなさいよ!」

「そうよ、置いていきなさい! アンタみたいなドS野郎がその魔剣を持っていてもまったく意味は無いんだから! その魔剣は、持ち主に選んだキョウヤにしか使いこなせないのよ!?」

「えっ、そーなの? 参ったなー。でも、剣には違いないから【なげる】のコマンドでモンスターに投げつければいいんじゃね?」

「「魔剣を投げるなァァァァァァッ!?」」

 

 とんでもないことを言い出した遊び人にクレメア達が慌て出し、思わず武器を手に取ってしまう。

 

「こ、こうなったら、私達が戦ってでも!」

「おお、なんだやる気か嬢ちゃん? カズマさんを相手にするたぁ、なかなか度胸があるじゃねぇか? コイツのスティールに狙われたら、衆人環視のド真ん中でパンツを奪われちまうぜぇ~?」

「「キャーッ!? 近寄らないでパンツ泥棒!?」」

「だから、なんで決めつけんだよ!? ドSの言葉を信じ過ぎだろ!? ケンカしてるフリしといて、実はお前ら仲良しなんじゃね!?」

 

 締めのオチに使われたカズマは、結局、原作と同じようにパンツ泥棒のレッテル(?)を張られるのであった。

 

《君の尊い犠牲(笑)によってバトルを回避できたんだから、めでたしめでたしだね☆》

「(これっぽっちもめでたくねぇよ!? 俺が変態って認識は回避できてねぇーじゃねぇか!?)」

 

 ノルンに抗議するカズマであったが、大体は当たっているので意味は無かった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 風雲再起とオリを砦に返してきたカズマ達は、風呂で汗を流してからギルドに集まった。鎧と服を売って来たアクアも後から合流して、調子に乗った勢いで祝勝会を始めた。

 

「今夜は私の奢りよ、みんな! クエストクリアの報酬に加えて、ドロップアイテムを換金して得た200万エリスもあるんだから、ジャンジャンバリバリ行くわよーっ!」

「「「「「ゴチになります女神様!」」」」」

 

 無計画な駄女神は、早速散財をやり始めた。恐らく、今回の収入も数日で消えるだろう。

 仲良くなった近藤と一緒に宴会芸で盛り上がるアクアの様子を蔑んだ目で見ていたカズマは、さっさと気持ちを切り替えて銀時に話しかけた。彼には気になることがあったからだ。

 

「なぁ銀さん。なんでその魔剣を売らなかったんだ? ミツルギってヤツ以外には使いこなせないって話だけど」

「だから売らなかったのさ。それほどまでに貴重なもんなら、あのクソガキが取り戻しに来るだろうからな。その時にぼるだけぼって、そこらの店で売っぱらうより高値で買わせてやるんだよ」

「あーなるほど、そーいうことか。普通にお店で売ろうとしてた俺よりもクズですね」

 

 ドSな企みを聞いて即座に納得する。一応、ミツルギに魔剣を返してあげようという気持ちも含まれているのだが、当然ながらタダで返す訳もない。傍で聞いていためぐみん達も、銀時らしいと同意する。

 

「リーダーとしてはアレですが、相手の弱点を容赦無く突いていく悪魔的なスタイルは、そんなに嫌いではありませんよ。人間とは、光と闇を合わせ持った歪んだ存在なのですから……」

「ああ、そうだな! やはり、我が主は最高に歪んだサディストだ! 卑怯な手で奪い取った物を奪われた当人に高額で買わせようだなんて、真のドSでしか思いつかない発想だぞ!」

「おいおい、止めろよ二人とも。そんなに俺を誉めたってオナラしか出てこねぇぞ?」

「誉めてる要素が無ぇっつーか、マジでオナラすんじゃねぇーっ!?」

 

 悪びれもしないドSに毒ガスを食らわされて、カズマ達は悶絶する。

 そんな周囲の騒ぎには参加せず、ひたすら食事を貪り食っていた長谷川は、こちらに近づいてくる人物に気がついた。

 

「随分と景気がいいな」

「ん~? 一体誰だ……って、将軍様!? それと君は、トランクス一丁にされてたミツルギ君じゃねぇーか!?」

「今はちゃんと着替えてるよ!?」

 

 声をかけられたのでそちらに向くと、そこには茂茂とミツルギパーティがいた。ウィズの店から帰る途中だった茂茂は、銀時を探していた彼らと偶然再会したのである。

 

「おいおいまさか、ドラえもんに泣きつくのび太のように、ドSなジャイアンにやられたーって告げ口したんですかぁ?」

「ちっ、違います! 将軍様とは偶然会って、事情を説明している内にあなたのことを聞かせてもらったんです!」

 

 勘違いされたミツルギが慌てて弁解する。やられる前とは違って敬語を使っているのには、もちろん理由がある。

 

「坂田銀時さん……あなたの素性は将軍様から聞かせていただきました。江戸を救った英雄にあのような無礼を働き、誠に申し訳ありませんでしたっ!!」

 

 そう言って潔く頭を下げる。その意外な光景に、宴会芸をしていたバカ達も手を休めて経緯を見守る。

 

「よせよミッツィー。俺ぁ別に英雄なんて呼ばれるようなご大層なもんじゃあねぇよ。ただ、自分らしくいられる場所を守りたくて足掻いてただけさ」

「ははっ、信女さんの言っていた通りのお方だ」

「なんだお前。あのドーナツ狂の知り合いなのか?」

「はい、父の仕事の関係で話す機会がありまして。その時に、アルタナを巡る戦争のあらましを聞かせてもらいました。あの戦いの本質は、国を救うとかいう大層な話じゃない。天パのドSと愉快な仲間が、キャバクラ、パチンコ、○○○といった自分らしくいられる場所を守るために暴れただけの単純な話だって」

「どう聞いても英雄要素が無いんだけど!? あの女、マンガに描かれてないところで、こっそり俺をディスってたのかよ!? 今度会ったら、目の前でドーナツ食いまくってやんぞクソが!」

 

 あまりに的確な説明のせいでディスってるようにしか聞こえなかった。

 それでも、ミツルギは確信した。茂茂や今井信女が信頼するこの男は、本当に英雄と呼ぶべきサムライなのだということを。

 

「動機はともかく、あなたはその木刀だけで国を救って見せた。だから僕も、魔剣の力に頼ることを止めようと思います」

「えぇっ!? この魔剣いらないの!?」

「はい、僕は決めました。魔剣に頼ってばかりいては本当の強さは身に付かない。ならばいっそ、地道にレベルを上げまくって、ひのきのぼうでも魔王を殴り殺せる勇者になってみせようと!」

「いや、そんな武器で殺されたら流石に魔王が可哀想だろ!?」

 

 魔剣を高値で売り付ける汚い目論見がハズレてしまい、遊び人が慌て始める。まさか、あのミツルギ君が、きれいなジャイアンのようになって戻って来るとは。

 しかも、きれいなミツルギは意外な願いを申し出てきた。

 

「僕は今すぐ王都に戻って、魔王軍と戦っている最前線でレベル上げをするつもりです。でも、その前に、あなたと剣で真剣勝負をさせていただきたいのです! 江戸を救ったサムライの実力を知るために!」

 

 そう言って、まっすぐに見つめてくるミツルギの視線には邪念が感じられなかった。余計なプライドを奪われて一皮剥けたのかもしれない。

 そんな彼に銀時は、新八の姿を被らせる。

 

「顔面偏差値は月とスッポンだが、童貞臭ぇ純粋さはアイツを思い出させやがる」

 

 不意に懐かしい顔が浮かび、ドSの邪念も薄らいでいく。まぁ、戦場へ行くと言うのなら、餞別代わりに剣術の練習くらい付き合ってやってもいいだろう。

 

「ったく、仕方ねぇ。希望通りに相手をしてやっからコイツを使え」

「えっ、魔剣グラムをですか!? でも、これはもう……」

「ええい、ウダウダ言うんじゃねぇーっ! ひのきのぼうで殺せるほど魔王様は甘くねぇぞ! 大体、勇者が最強の武器を捨てるとか、システム的にできねぇだろう!? いいからコイツを持ってけ泥棒! お前らは女神が認めたお似合いカップルなんだから、もう二度と別れたりするんじゃねぇーぞぉーっ!? 分かったかっ!?」

「は、はいぃーっ!? さっきは、いらないなんて酷いことを言って本当にごめんよ、グラム! 今度はもう絶対に君を放さないからっ!」

「えっ、ナニコレ!? なんで急に、恋人の仲を取り持つみたいな展開になってんの!? ってか、グラムさんを寝取ったのは万事屋自身なんだけど!? ミツルギ君はそれでいいの!?」

 

 ドラクエ的なノリで魔剣を返してしまった銀時に、近藤が突っ込む。流石に、魔剣を手放したせいで死なれたとあっちゃあ、銀時としても寝覚めが悪かったのだ。それを回避しようとした結果が今の茶番なのだが、めぐみんやアクア達はなぜか感動していた。

 

「ちょっと恐怖を感じるようなヤバい話でしたが、なぜだか心にグッと来るものがありますね。ボッチのゆんゆんも、彼のように無機物と仲良くしていましたから、いろんな意味で泣けてきます」

「その気持ちよ~く分かるわ。私の後輩のエリスって子も、胸に入れてる底上げパッドに【アンディ】と【フランク】って名前を付けてるらしいんだけど、その噂をカグヤ先輩から聞いた時は、思わず笑い泣きしたものよ!」

「な、なんと!? エリス様と同じ名を戴いておきながら、なんて罪深い後輩なんだ!? だが、同時に羨ましいぞ! そんなにも恥ずかしい秘密を他者に知られてしまうだなんて、最高に痛々しい羞恥プレイではないか!」

「お前らはどこに感動してんだ!? 俺としては、ゆんゆんとエリス様が可哀想で仕方がないわ!?」

《ちなみに、エリスちゃんの名前ネタは完全なる誤解だから!? パッドの存在を知ったカグヤが勝手に名付けたよって話を、アクアのバカが勘違いして覚えてたってオチだから!? エリスちゃんの貧乳を侮辱する巨乳共は、このボクが駆逐してやらぁーっ(怒)!》

 

 本人達の知らないところでおかしな悪評が広まっていく現実に恐怖するカズマとノルン。

 だが、テンションを下げていく彼らとは反対に、話を聞き付けた周囲の冒険者達は盛り上がっていく。

 

「なんだなんだ? ケンカでもすんのか?」

「おいおい、またあの天パ野郎じゃねぇーか」

「よっしゃあ、やったれ! 酒の肴にはもってこいだぜ!」

「ふっ、魔王の幹部を追い払った白夜叉の相手は、あの有名な魔剣の勇者ってわけか。こいつぁ、歴史に残るほどの名勝負になるかもしれねぇな」

 

 モヒカン親父を筆頭に観衆が集まってくる。騒ぎを聞き付けたルナが慌ててこちらにやって来るが、当の二人がやる気な以上は流れに乗っていくしかない。そう判断した近藤は、仕方がないといった様子でみんなの前に進み出た。

 

「それじゃあ、俺が立会人をしてやろう」

「ちょ、ちょっと待ってください!? まさか、またここで戦うつもりですか!?」

 

 勝手に話を進め始めた迷惑ゴリラに、ルナが抗議をする。そんな彼女に対して茂茂が声をかける。

 

「すまないが、あの者達の我が儘を許してやってくれないか。もし、ギルドに損害が出た場合は、余がすべての責任を取って全額弁償させてもらう」

「は、はい……。シゲシゲさんが、そこまでおっしゃるのでしたら……」

 

 信頼できる茂茂に説得されて渋々話を受け入れる。どうせ、自分ではコイツらを止めることなどできないのだ。それならいっそ、このイベントを楽しんでやろう。

 

「もう、やりたきゃやってもいいですから、死なない程度にしてくださいねっ!?」

「無論、そこまでやる気はないさ。この試合は、寸止めで一本取った方を勝ちとする。それでいいな?」

 

 ルナの許可を得て近藤がルールを決める。こうして、準備はあっさり整い、すぐさま試合が始まった。

 

「文字数が伸びすぎて作者のやる気もピンチだから、こっからは一気にいくぜぇーっ!」

「こちらこそ、望むところです!」

 

 互いに声を掛け合った直後に激しい剣舞が巻き起こる。その攻防はあまりに見事で、美しさすら感じさせた。

 特に、クレメアとフィオにとっては信じられない光景であり、ミツルギと互角以上の戦いをしている遊び人に驚愕する。

 

「なっ、なんなのよアイツは!? 本気になったキョウヤと、ここまで戦えるなんて……」

「卑怯な手しか使えないチンピラだと思っていたのに!」

「ふっふっふっ! ようやく思い知りましたか? あの程度のエリート勇者ごときでは、女神ですらメス犬にするドSの大魔王には勝てないということを!」

「勇者なんて、所詮はゲームの中だけでしか存在できない空想上の理想像。現実という名の生き地獄では、救いようのないクズの方が勝ち組になるモンなのよ!」

「オイィィィィッ!? 自慢してるようで貶してますけど!? 主人公のパーティが一番クズとかイヤ過ぎるわ!?」

 

 観戦しているめぐみん達にもおかしな熱が入って来る。

 無論、それは当事者である銀時達も同じだ。

 

「へっ! 魔剣の勇者と言うだけあって、なかなかの腕前だ! こんだけやれりゃあ、ベルディアとかいうノゾキ魔にも勝てるかもしれねぇな!」

「くっ! そう言ってもらえるのは嬉しいですが、ノゾキ魔ってなんですか!?」

 

 さりげなくベルディアの評判を下げながら、紙一重の勝負を続ける。

 銀時の見たところ、ミツルギの実力はかなりのものだ。アイリス王女の護衛をしていたクレアよりも強いのは間違いなく、剣だけの戦いならベルディアにも対抗できると思われる。

 それでもまだ、目に前にいるサムライの敵ではない。

 

「お前の実力も分かってきたし、そろそろこっちから攻めてくぜ!」

「なっ、ぐはぁ!? そんなまさか!? こうまで僕が押されるなんて!?」

 

 グラムの装備効果によって力も速さも上がっているのに、鋭さを増していく銀時の攻撃に対応しきれない。単純なステータスの違いよりも、その使い方にこそ熟練者との差があるのだ。こちらの世界のスキルシステムでは埋められない実力差が、二人の間に存在していた。

 

「確かに、お前は強かった。でも、まだまだだね!」

 

 勝機を得た銀時は、一気に勝負を決めようとする。攻撃の最中で隙を見出だし、降り下ろした直後のグラムを弾き飛ばそうとした。その動作を切っ掛けにして、思いもしない悲劇が起きる。

 パッキーンッ!!

 

「「あ」」

 

 銀時の攻撃が当たると同時に甲高い音が鳴り響き、グラムの刃が中程で折れてしまった。洞爺湖が折れたらイヤだなーと思って妖刀・星砕を使ったらグラムの方が折れちゃったのだ。

 しかも、悲劇はまだ続く。折れてしまった剣先がクルクルと回転しながら飛んでいき、観戦していた茂茂の頭に突き刺さったのである。

 

「将軍んんんんんんんんっ!?」

 

 血を噴き出しながらぶっ倒れる茂茂を見て、当然ながら大騒ぎとなる。

 

「将軍様の頭に剣が刺さったァァァァァッ!?」

「キャーッ、これマジでどうしよう!? もしウィズにバレちゃったら全員殺されちゃうわよぉーっ!?」

「そんなことよりベホマを使えや!? いいや、ここはザオリクか!?」

 

 肝心の駄女神が一番パニクってしまい、現場はさらに混乱していく。

 だが、今はギャグパート。我に帰ったアクアの魔法で茂茂は復活を果たし、なんとかギリで事なきを得た。

 

「いや、事なきを得てねぇーだろうが!? 将軍ちょっと死にかけてたぞーっ!?」

「し、心配は無用であるぞ。なんとなく、エリスと名乗る銀髪の女性と会っていたような気がするのだが、恐らくは夢だろう」

「それ多分、夢じゃないよ!? がっつりあの世に逝きかけてたよ!?」

 

 カズマが言っているように、天界へ行っていたような感じである。それでも、茂茂は生きているので、ウィズによるジェノサイドはなんとか回避できそうだ。

 ただし、折れてしまったグラムの方は流石に元には戻せない。壊れた愛剣を胸に抱きながらミツルギは泣いてしまう。

 

「うっうぅ……。ごめんよグラム。大切な君を守ることができなかったなんて……。僕はどこまで最低な男なんだぁーっ!」

「「あーん、泣かないでキョウヤーッ!」」

 

 唐突に気まずい空気になり、周囲にいた観客も静かに離れていく。

 無論、銀時達も居たたまれなくなり、みんなを代表してめぐみんが文句を言う。

 

「一体どうしてくれるんですか!? あなたが魔剣を折ったから、んまい棒のようにスッカスカなあの子の心まで折れてしまったではありませんか!?」

「おっ、俺は全然悪かねぇぞ!? アレはアレだよ!? アクアのバカがアイツに不良品を掴ませたせいだろーが!? コイツは天界の責任だから、アフターサービスってことで、お前がアレを修理しやがれ!」

「私に全部投げてキターッ!? まっ、まぁ、銀時がどうしてもって言うのなら挑戦してもいいけどさぁー? 私ってば、図工の成績1だったんですけど?」

「やっぱ止めとけ。余計に壊れる」

 

 残念ながら、どうでもいいことばかり器用なアクアなんかに神器を直せるスキルなんて無かった。あの魔剣は、天界にいる神器職人が特殊な技術を用いて作った貴重な一品なので、地上では修理をすることすら難しい。

 ただ、まったく手立てが無いわけでもない。都合良くその方法を知っていた茂茂が、救いの手を差しのべる。

 

「諦めるにはまだ早いぞ。ウィズ殿の紹介で知り合った【ロン・ベルク】という武器職人なら、あるいは神器を修理できるやもしれん」

「えっ、本当ですか将軍様!?」

「待て待て待てぇーいっ!? ロン・ベルクなんてほんとにいるのぉーっ!? ソイツに修理を頼んだら、魔剣グラムが鎧の魔剣に魔改造されちゃうぞぉーっ!?」

 

 確かに、不安は大きいと言わざるを得ない話である。あのウィズの紹介で知り合ったという点も嫌な予感しかしない。それでも、今は茂茂の情報に賭けるしかなかった。

 こうして、魔剣グラムを失ったミツルギは、新たな力を手に入れるために、伝説の武器職人を求めて旅立っていくのであった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 バカ達がギルドで騒いでいる頃、アクセルに続く草原を進軍するモンスターの集団がいた。それを率いている者は、復讐の炎に燃えるベルディアであった。

 

「フッフッフッ! もうすぐだ! この俺のプライドをズタズタに引き裂いたシゲシゲと銀髪の剣士にリベンジを果たす時が!」

 

 魔王より新たなる力を授かって、自信に満ちた魔物は笑う。

 

「今度こそ、貴様らに見せてやるぞ人間共! 本気を出した魔王軍の本当の恐ろしさをなぁーっ! ……ところで、俺のパトリシアはなんで戻ってこないんだ? アイツがいないと、行軍すんのがめっちゃ大変なんだけど……」

 

 自分が置いていった愛馬の行方を気にしつつ、ベルディアは徒歩でアクセルを目指すのだった。


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