このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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大変長らくお待たせしました!

近藤メインの今回は、銀魂展開満載です。このすば成分を浸食しまくっていますが、それなりに必要な話なので勘弁してください。

来年一月投稿予定の次回は、ようやくミツルギ君が登場します。例によって酷い目に遭うとは思いますが、しょうがないよねイケメンだもの。 


第24訓 人の縁は思ってる以上に切れにくい

 驚くべきことに、銀時達が倒したゴリラ型モンスターの正体は真選組局長の近藤勲だった。

 なぜ日本にいるはずの彼が、この異世界で野生的なサバイバル生活を強いられていたのだろうか。これだけ顔馴染みのバカ達が転生しまくっているのだから、どうせコイツもアクアの差し金で送られて来たのかもしれない。そう思って聞いてみたが、どうやら違うらしい。

 

「おいアクア。もしかして、コイツもお前が担当したってオチなのか?」

「ううん、コイツは知らないわよ? カグヤ先輩から転生させろって頼まれた覚えもないし、たぶんこれは『他ゴリラの空似』ってヤツじゃない?」

「いや、そんな慣用句聞いたことねぇし、顔見知りのゴリラなんざ近藤しかいねぇから」

 

 銀時達と同じように近藤を認識したアクアであったが、彼がここにいる理由はサッパリ分からないと言う。

 こうなると、全裸野郎が目覚めてから事情を聞き出すしかない。その当人はというと、いやらしい表情を浮かべながら気持ち悪い夢を見ているようだが……。

 

「ぐふふふふふ! それじゃあ遠慮なく、お妙さんの処○をいただきまぁーすっ!(日本語)」

「冒頭から生々しいモンいただいてんじゃねェェェェェッ!!」

 

 アブナイ寝言を言い出した近藤にイラついた銀時は、彼のチ○コに容赦なく蹴りを入れた。哀れなゴリラは、強烈な股間の痛みで強制的に目を覚まし、切ない部分を手で押さえながら地面を転げ回る。

 

「ぐほおおおおおおおーっ!? お妙さんとイク前にチ○コと玉が逝ったぁーっ!?(日本語)」

「チ○コと玉が逝く前にテメェの頭がイッてんだよ、変態ゴリラがぁーっ!」

 

 間抜けな叫び声を上げる近藤に容赦無くつっこみを入れる。それと同時に銀時と桂は、とある事実に気がついた。

 

「つーかコイツ、しつこいまでに日本語使って来やがるけど、もしかして俺達みたいに翻訳スキルが付ついてないの?」

「やはり、梅毒や淋病にかかってそうな梅淋ゴリでは、バイリンガルになれなかったか……」

「性病と転生特典はまったく関係ないんですけど!? 原因はともかくとして、彼にはこっちの世界の言葉が分からないみたいね。もしかすると、転生に失敗して頭がパーになったのかしら?」

 

 自分のミスではないと確信しているアクアは、ドヤ顔で近藤の状態を言い当てる。ただし、内心では戸惑っており、転生者に関わる仕事を長い間行っていた彼女でもそれ以上のことは分からない。駄女神のアクアでさえ転生作業に失敗したことがないのだから、近藤のような状況は本来ならあり得ないのだ。

 果たして、これはどういうことか。ある程度知識があるアクア達ですら分からないのだから、この世界の住人であるめぐみんとダクネスに至っては、さらに意味不明である。

 

「ちょっといいですか、ギントキ。いまいち状況が分からないのですが、会話から察するに、あなた達とそのゴリラは同郷の知り合いといったところなのですか? もし、そうだとすれば大変ですよ!? こんなチ○コ丸出しのケダモノがパーティに加わったら、スキンシップという名の陵辱を受けて、清らかな私の身体が汚されてしまいましゅっ!」

「前回のマゾポイントが継続して効いてるぅーっ!?」

 

 紅い瞳をグルグルとさせためぐみんがエロい妄想を言い出した。長谷川のドレインタッチでダクネスのドM成分が移ってしまったせいだ。

 その反対に心が綺麗になったダクネスは、真面目な様子でめぐみんを叱る。

 

「止めないか、めぐみん! そのように汚れた妄想を年頃の娘がするものではない! 快楽に身を任せて自分自身を傷つけている今のお前の姿を見たら、ご両親が悲しむぞ!」

「こっちは賢者モードになって、自分自身を傷つけるような説教しちゃってるぅーっ!?」

 

 一時的にマゾっ気が抜けたダクネスは、めぐみんを叱りながら自分自身にブーメランを投げつけるというミラクルな自虐プレイを披露する。ドMな性騎士は問題外だが、心の綺麗なダクネスさんも、これはこれで厄介だ。

 ただでさえ面倒なのに、これからゴリラに事情聴取をしなければならないのだから、おかしな状態のコイツらに構ってなどいられない。

 

「あーもう、お前らゴチャゴチャうるせー! 後でまとめて説明すっから、とりあえずお前らはそっちでUNOでもやってやがれ!」

「なんですかその態度は!? 放置プレイでこの私をいたぶろうという魂胆ですか!? そうか、そういうことですね!? 魔力切れの魔法使いをいやらしいモンスターに襲わせて、激しいNTR異種○プレイをみんなで楽しむつもりでしょう!?」

「お前はこのSSをR-18にするつもりか!? おいダクネス、このバカがエロいことしねぇように向こうに行って監視してろ!」

「承知したぞ、我が主。こちらのことは気にせずに、そちらの話を進めるがいい」

 

 ドMが抜けて空気まで読めるようになったダクネスは、エロい妄想に耽っているめぐみんをおんぶしてその場を離れていく。

 そんなやり取りを行っている間に股間を蹴られた近藤もダメージから回復し、ようやく正気を取り戻して辺りの状況を把握する。その瞬間、腐れ縁でつながったバカ野郎達との奇跡的な再会が実現した。

 

「なっ、なっ、なっ……なんじゃこりゃあああああああーっ!? 万事屋に長谷川さん、桂達までいるなんて!? 死んだはずのお前達がなんでここにいるんだぁーっ!?(日本語)」

 

 あまりに驚いて腰を抜かしそうになるが、それも仕方がないことだ。なにせ、目覚めた直後に死人と遭遇したのだから、これ以上の寝起きドッキリは早々ないだろう。

 

「そっ、そうか! やたらと酷い目にばかり遭うからもしやとは思っていたが、やはりこの狂った世界は地獄だったのかぁーっ!?(日本語)」

 

 パニクった近藤は、エリスが聞いたらプンプンと怒りそうな勘違いをしてしまう。確かに、彼がそう思ってしまうのも無理はない世界なのだが、転生する際の説明を聞いているならそんな間違いをするわけがない。そこに気づいた銀時達は怪訝な表情を浮かべるものの、解説担当の長谷川が彼の疑問に答えてあげた。

 

「安心してくれ近藤さん、ここはまだ地獄じゃねぇ。俺達はみんな、日本を担当する駄女神によって無理矢理この異世界に転生させられちまったんだよ」

「ちょっ、なにさらっと私をディスってくれちゃってんのよ!? 私が転生させなかったら全員地獄行きだったんだから、そこは謝礼金を出すぐらいの勢いで感謝するとこでしょーっ!?」

 

 長谷川の説明にアクアが文句を言ってくる。近藤にとっては初めて会った彼女のことも気になるところだったが、今は先ほどの会話の方が重要問題である。

 

「なにがなにやらよく分からんが、駄女神とか転生とか、とてもではないが信じられんな。第一、このふざけた世界が地獄じゃないってのが納得出来ん!(日本語)」

「納得出来んと言われても、ラノベによくあるファンタジーな異世界としか言えませんけど、そんなことも知らねぇクセに、テメェはいったいどうやってこの世界に来たんだよ?」

「それは俺にもよく分からん。気がついた時には、もうこの世界にいたからな。ただ、原因があったとすれば、あの時のアレかもしれん……(日本語)」

 

 思い当たる節があるらしい近藤は、記憶を辿るように語り出した。

 

「あれは、肌寒い風が吹く夕暮れ時だった。俺は、お妙さん達の周りをうろつく不審者を捕まえるために志村家へとやって来た(日本語)」

「はぁ? なに言ってんの? 捕まえるもなにも、お前自身がストーカーという名の不審者じゃね?」

「いや、それは違うから! 俺はストーカー的なヤツじゃなくて、英霊的な近藤勲がマスター的なお妙さんをサーヴァント的に守ってるって感じのヤツだから! その証拠にサーヴァントの俺は、お妙さんに仇なす敵をいち早く察知した。あろうことか、俺より先に侵入していた不審者と遭遇したのだ!(日本語)」

「なんだよオイ、お前の他にもお妙のストーカーなんかする物好きがいたのかよ?」

「なにもおかしかないだろう!? お妙さんほどの貧乳美女に欲情するヤツは五万といるわ! だがしかし、好きだからと言ってストーカー行為は許されん。こちらに気づいて逃げ出したそいつを、俺はすぐさま追跡した!(日本語)」

「ストーカーがストーカーにストーキングしちゃってますけど!? なにかとストーカーが集まってくる人気者の志村さん家は、どんだけ変態ホイホイなんだよ!?」

 

 話を聞いている内に変なキャラが登場してきた。どうやら、ソイツは志村家でなにかをやっていたらしいが、果たして近藤は捕まえられたのだろうか。

 

「お妙さんを害する者はなにがなんでも排除する。そう覚悟を決めて必死に追跡したのだが、その途中で予期せぬ事故が起こった……。マイケル・○・フォックスにソックリな少年が運転するデロリアンの暴走に巻き込まれて、気づいた時にはもうすでに見知らぬ森の中へと跳ばされていたんだァァァァァッ!(日本語)」

「違うんですけど!? アンタだけ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』的な別件に巻き込まれてんですけどぉーっ!?」

 

 いざ真相を聞いてみたら、さっぱり事情が分からないカズマでさえつっこまずにはいられないほどに予想外なオチが待っていた。なんと近藤は、死んだ後に女神と会って転生して来たわけではなく、生きたままこの世界にぶっ跳んで来ていたのである。

 

「なんか色々おかしいだろオイ!? なんでそこで唐突に異世界転移してんだよ!? 普通は未来にタイムスリップして猿だらけの惑星に辿り着き、ボス猿戦争を勝ち抜いて『コング王に俺はなる!』って盛り上がるところだろうが!?」

「どんだけクソな映画だよソレ!? なんでバック・トゥ・ザ・フューチャーに巻き込まれた俺が猿の惑星に流れ着いてワンピース的にキングコング目指さなきゃならねぇーの!?(日本語)」

 

 二人共に混乱してバカな言い合いになってしまう。みっともない光景だが、アクアやノルンですらサッパリ分からないのだから仕方がない。

 

「(なぁノルン。あの人はどういう理屈でこの世界に来たんだよ? 転生しないでぶっ跳んでくるとか、この作品の設定が色々台無しなんだけど?)」

《ファッ!? えっとぉ~……ただ今データを検索中デス、もうしばらくお待ちくだサイ》

「(あっ、こいつ逃げやがった!)」

 

 カズマの質問に答えられなかったノルンは、神器の中に引っ込んでこの現象を調べ始めた。

 一方、カズマ達がそんなことをしている内に落ち着いた銀時達は、なにも知らない近藤にこれまでの経緯を説明した。

 

「つーわけで俺達は、元の世界に戻るために、カジノで一山当てようと奮闘してるってわけだ」

「なんでいきなりカジノが出んだよ!? ついさっきまで魔王を倒すとか壮大なストーリーを語ってたよね!? しかし、とても信じられんな。この青髪の子が女神様で、魔王を倒すためにお前達を異世界へ転生させただなんて……。これではまるで、頭の悪いバカが作った二次小説みたいじゃないか(日本語)」

「まぁ、ぶっちゃけその通りなんですけど、それはもう女神の私ですら変えようがない事実だから、ジャンプの発行部数が減りまくっているという悲しき現実と一緒に受け入れなければならないわ」

「女神様が現実に完全屈服してんじゃねぇーっ!? ジャンプはまだ完全に燃え尽きちゃいねぇんだよ! きっといつかは、ドラゴンボールが連載してた頃のような輝きを取り戻すよ!(日本語)」

 

 ようやく自分の状況を把握出来た近藤は、知り合いと出会えた安心よりも戸惑いの方を感じてしまう。そしてそれは、自分の死後の話を聞いた銀時も同じだった。気にしていないフリをしつつも、内心では仲間のことが気がかりだったのである。

 

「ところで、向こうはどうなってんだ? さっきも変なストーカーキャラが勝手に増えてやがったし、お妙か新八が変なゲストに絡まれたりしてんのか?」

「ふっ、やはり気になるか。まぁ、俺の見たところ、危害を加える気は無いようだったがな……。その辺りの説明をするついでに、お前が死んだ後の話もここでしておくか。せっかく本人に会えたことだし、お前の最後を盛大に見送ったバカ達の想いを伝えよう……(日本語)」

 

 小さく笑みを浮かべた近藤は、空を見つめながら語りだした。坂田銀時という名のサムライが消え去ったかぶき町の話を……。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 今からおよそ一ヶ月前、今にも雨が降り出しそうな曇り空の下で万事屋の葬式が行われた。今日この日、お前と縁を結んだ者達は、かぶき町の英雄を盛大に見送るために、それぞれの想いを込めた最高の舞台を用意した。

 メインの式場は、お妙さん率いるキャバ嬢軍団が手配して、お前の葬式にふさわしい賑やかな飾りで彩られていた。

 

『これなら銀さんもキャバクラで遊んでる気分を味わいながら安らかに逝けるでしょう……』

「こんな不謹慎な状況で安らかに逝けるかぁーっ!? あまりにケバい装飾で、新装開店したばかりのキャバクラみてぇになってんだろーが!? いやらしいネオンの光で寝てなんかいられねぇよ! 眠らない夜の街に安らぎなんざねぇんだよ!」

 

 と、いうような万事屋のつっこみが今にも聞こえてきそうなほどに、お妙さんの仕事っぷりは実に見事だった。流石は俺のお妙さん、つっこみメインの万事屋を最後の時まで引き立てる素晴らしい気配りです。

 

「どこにも誉める要素は無ぇよ!? どう見ても、もてなす客をバカにしてるクソなキャバ嬢なんだけど!? なにさらっと地の文でアイツの弁護しちゃってんの!?」

 

 ええい、うるさい! お妙さんのやることはすべてが正しいことなのだ!

 その証拠に、月詠を始めとする吉原の女達が用意した特製の棺桶と見事なコラボを実現していた。

 

「コラボっつーか、俺の棺桶がエロアイテムにまみれて風俗店っぽくなってるゥゥゥゥゥッ!?」

『気に入ったか銀時よ。吉原からの感謝を込めた最高の棺桶だ。これに入って見送られれば、悪さばかりしていた主でも天国に行けるだろうさ』

「いやソレ、別の天国にイきそうだけど!? テメェは、なんつー下品なもんであの世に送ろうとしてんのぉーっ!? ちょっと待てオイ、俺の棺桶全体にモザイクかけられちゃってんだけど!? 清い道具のはずなのに、わいせつ物扱いだよコレ!?」

 

 これぞ吉原の美的センス。絵にも描けないほどに艶やかなデザインで、万事屋を想う真心を込めた立派な棺桶に仕上がった。

 

「絵にも描けないどころじゃなくて、描いちゃいけない状態ですけど!? コイツのどこに仲間を想う真心があるんですかぁーっ!?」

 

 無論、人によっては不謹慎だと憤るかもしない。だが、これもこの町の住人らしい優しさの形であり、ここまで豪勢に見送ってもらえるのなら万事屋も寂しくなかろう……。

 しかもここには、同じ日に亡くなった長谷川さんも一緒にいる。彼の葬式も関係者の同意を得て合同で行われることになったのだ。

 

「えっ、マジで!? 路上生活者の俺なんかのために葬式までやってくれたの!? なんか、すっげぇ嬉しいなぁ……」

 

 万事屋のとなりに安置された質素な棺桶には、彼の本体であるグラサンの他に、愛用していたオッサン部分も副葬品として納めてやった。

 

「なんで俺のオッサン部分が副葬品扱いなんだァァァァァッ!?」

 

 そういう設定なんだから致し方なかろう。本人達がどう思おうと、これで準備は整った。後は出席者が揃うのを待つのみだが、そこへお妙さんの親友である柳生九兵衛がやって来た。

 

『遅れてすまない、お妙ちゃん。今からで悪いが手伝おう』

『いらっしゃい、九ちゃん。お手伝いの方は大丈夫だから、あそこにいる銀さんに挨拶してあげて?』

『ああ、そうさせてもらうよ……』

 

 お妙さんの言葉を素直に聞いた九兵衛は、棺桶の元へ歩み寄ると、中にいる万事屋へその視線を向けた。するとそこには、まるで王に付き添って殉葬される妃のように万事屋の遺体に抱きつく猿飛あやめがいた。

 

『おい猿飛、そんなところでなにをしている? 挨拶の邪魔だから、さっさとどいてくれないか』

『イヤよ、絶対離れないわっ! 私はこのまま銀さんと愛の炎で燃え尽きて、一緒に地獄へ逝くのよぉーっ! そんでもって、襲いくる悪魔共を二人で仲良く駆逐して、地獄の帝王となった彼と共にドMのパラダイスを作るのォォォォォッ!!』

「ちょっと、こいつマジでヤベェよ!? 地獄にまでついていってストーカーする気満々だけど!? ダクネスのマゾプレイが可愛い遊びに思えるくらいに闇が深くてドン引きだよ、オイ!?」

 

 愛する者を失った悲しき女ストーカーは、見るからに自暴自棄となっていた。一見すると「あまり普段と変わらないんじゃね?」と思うかもしれないが、彼女の想いは本物であり、このまま放っておくわけにはいかない。そこで、彼女の気持ちを理解出来るストーカー仲間のこの俺が、抵抗する猿飛を止めるために立ち向かった。

 

『止めて、よして、触らないで! 私は銀さんと一緒に逝くのぉーっ!』

『いい加減に目を覚ませ! 仲間の命を何よりも大切にしているあの男が、そんな空しいことをして喜ぶとでも思うのか!? 確かに、お前の気持ちも分かる! 俺だって、お妙さんという大事な人に先立たれてしまったとしたら、同じことをするかもしれん! そんでもって、天国まで追いかけた俺の熱意にお妙さんも惚れちゃって、その勢いで交際を始めて数カ月後にめでたく結婚、初夜を迎えたお妙さんの○○○や○○○に俺の○○○を○○○○しまくって身も心も天国に逝ってしまかもしれn『お前一人で一足先に天国逝って来いやァァァァァッ!!』

 

 お妙さんの愛がこもった鉄拳を食らった俺と、それに巻き込まれた猿飛は、空中をぶっ飛びながら大切なことに気づいた。この苦しくも心地よい痛みこそが、万事屋に救われた世界に生きる命の証し。それは決して無駄になどしてはいけない、かけがえのない輝きなのだと!

 

「ソレっぽいこと言ってっけど、ストーカーと変態ドMがぶたれて悦んでるだけじゃねぇーか!?」

 

 ったく、痛めつけるだけしか能が無ぇドS野郎はこれだからイヤだねぇ~。あの一発は、命の尊さを教えようというお妙さんの優しさなんだよ! 

 それを証明するように、猿飛の暴走行為はお妙さんの活躍によって未然に防がれ、問題を取り除いてもらった九兵衛は改めて万事屋に話しかけた。

 

『やぁ、銀時。いよいよ君ともお別れだな。覚悟はしていたはずなのだが、いざこうやって現実を前にすると、寂しいという感情が心から溢れてしまう……。だからというわけでもないが、形見として君のチ○コを譲り受けようとも考えた。でも、あの世にチ○コを持って行けなかったら君が寂しいだろうから、移植の件は止めておくよ』

「オイこいつ、なんかさらっととんでもないこと言ってんだけど!? この後に及んで俺のチ○コを狙ってたのかよ!?」

 

 彼女の願いは切実なれど、粗末で汚いチ○コとて本人の同意がなくては取ることが出来ない。九兵衛と一緒に来ていた柳生四天王の東城歩は、移植の断念に安堵しながら万事屋に語りだした。

 

『はぁまったく、あなたには最後まで面倒をかけられますね。だがしかし、もう二度とプリチーな若の姿を見られなくなったことには深く同情いたします。そんなわけで、私から素敵な餞別を差しあげましょう。この私が制作した【ちょっとエッチな柳生九兵衛の抱き枕カバー】です。これさえあれば、いつでも若と添い寝が出来る……』

『お前はそんなものを抱きながら寝ているのかァァァァァッ!?』

『ぶげらっ!?』

 

 いかがわしいアイテムを持ってきた東城にすぐさま天罰が下った。キャバ嬢としての魅力溢れるお妙さんの抱き枕なら、俺も九兵衛も喜んで受け入れたはずなのだが、JKにしか見えないような眼帯ツインテボクっ子では倫理的にアウトだろう。

 

「いや、なにもかもがアウトですけど。俺の葬式邪魔してるし、本人に断りもなく抱き枕を作るとか、倫理的って話以前に犯罪行為なんですけど」

 

 愛する者がいるヤツは、みんなそろって罪人さ。俺もお前も、大事なものを守るためなら天下の大罪人にだってなれるだろう?

 いや、俺達はすでにやらかしていたな。誇り高きサムライとして歪んだ権力に立ち向かい、絶望をもたらす者達からこの国の未来を守った。

 だからこそ真選組は、新たな戦場へと旅立つお前を見送るためにここへ来た。俺達もいずれは逝くことになるだろう修羅道へと向かう者に、トシと総悟はいつものごとくぶっきらぼうに話しかけた。

 

『よう、万事屋。お前が地獄に直行する様をわざわざ拝みに来てやったぜ。俺らもその内そっちへ逝くが、それまでせいぜい地獄の鬼共をシメまくって、ちったあ住みやすくしといてくれや。俺はそこでタバコとマヨネーズの生産工場を作らなきゃならねぇからよ』

『まぁ、そんなわけで、こっちのことは俺らに任せて安心しながら逝ってくだせぇ。しばらく旦那とバカ騒ぎ出来ねぇのは正直言って残念ですが、俺が逝ったあかつきには、一緒に地獄を攻め落として【ドエスニィーランド】でも築きましょうや』

「ねぇちょっと!? この人達、地獄に逝ってナニする気なのぉーっ!? ニコチン野郎の起業話は百歩譲って許すとしても、沖田君の計画は完全にアウトだろソレ!? ドエスニィーランドって、千葉にある夢の王国が地獄にある悪夢の帝国に魔改造されちゃってるよ!?」

 

 いや、それは違うぞ万事屋。ふざけているように聞こえるだろうが、ヤツらの言葉は戯れ言ではなく再会の約束だ。サムライとして、ライバルとして、信頼出来る友として。命を懸けて共に戦い、熱い絆で結ばれた男達は、地獄での再会を改めて誓ったのだ。俺達はもう敵ではなく仲間となったのだから……。

 

『ほぉーら、最後の晩餐に、たらふくマヨネーズを食わせてやるぜ』

『待ってくだせぇ土方さん。ここは土方スペシャルじゃなくて、旦那の好物だった宇治銀時丼を食わせてやるところでさぁ』

「オイゴリラ、この光景のどこらへんに仲間なんて意識があんだよ!? なんでコイツら俺の顔にマヨとアンコをぶちまけてんの!? やってることは地味だけど、これまでの中で一番腹立つ行為だよコレ!?」

 

 そう言ってやるな。不器用なあいつらは、普段通りにツンデレを演じることで心に渦巻く悲しみを必死に押し殺していただけだ。

 しかし、お前に近しかった者達は感情を抑えきれん。万事屋の部屋で遺品整理をしていたお登勢さん、キャサリン、たまの3人は、悲しみを隠すことなく式場にやって来た。

 

『おいババア! 涙と鼻水で化粧が溶けまくって腐ったババアになってるヨ!』

『なに言ってんだい! お前だって、腐って地面に落ちた木○実ナナみてぇになってるじゃないか!』

『お二人共、落ち着いてください。どちらも腐った者同士なのですから、ケンカをする意味はありませんよ?』

『『誰が腐った者同士だぁーっ!?』』

「泣いちゃあいるけど、こいつらも普段通りじゃね!?」

 

 非戦闘員とはいえ、彼女達もかぶき町に住む剛毅な者達の一員だからな。涙は見せても心は折れず、気丈にお前を見送る気なのだ。

 無論、カラクリであるたまは涙を流していないが、お前の死を悲しむ心は俺達人間と変わらない。

 

『お待たせしました銀時様、万事屋から遺品を持って参りました。あなたが大事に保管していた結野アナのフィギュア及び、アダルトビデオやエロ本などのお宝の数々は、ここにまとめてございます。これであの世に逝ったとしても心残りはないでしょう……』

「心残りありまくりだよ!? なんでこんな目立つ場所で人の恥部を晒してんのぉ!? これもう公開処刑じゃねぇーかよ!? ああ、お願いだからマジで止めて!? 俺の性癖バラさないでぇーっ!?」

 

 掃除中にエロ本を見つけても怒って捨てずに残しておいてあげる。それはまるで、やんちゃな息子を慈しむお母さんのような優しさだった。

 すると、今度は親友である坂本辰馬が陸奥を伴ってやって来た。決してここに来ることはない桂と高杉の分まで、今生における友との別れを華々しく行うために。

 

『アハハ! アハハ! よぉ久しぶりだな、きんときぃ! 親友の坂本辰馬が見送りに来てやったぜよオボロロロロロロッ!!』

「来て早々、棺桶の中にゲロ吐いたァァァァァッ!?」

 

 とまぁ、このようなハプニングが起こったりしたものの、万事屋と縁のある者達の参列はこの後も続いていった。

 

『えっ!? ワシの出番これで終わりぃーっ!?』

『セリフがあっただけでもありがたいと思え』

 

 陸奥の言う通り、進行上の都合により、他の者達の描写は省略することにした。星海坊主、寺門通、平賀源外、今井信女、幾松、村田鉄子、そよ姫様、ジャッキー、ウイルス・ミス、R4……。その他大勢の関係者が、お前の死を悼んで最後の別れに来てくれた。

 

「オイ、なんか最後の方に面識無い人混じってますけど!? そんなどーでもいいのより、肝心のあいつらは、どこでナニをしてんだよ!? 新八と神楽のヤツは、どっかで遊んでやがんのかぁ!?」

 

 心配するな万事屋。無論、あの二人は最初から式場にいた。

 ただ、新八君だけはお前の死を受け止めきれず、ショックを引きずったままだった……。

 

『うっ、うぅっ……銀さぁん……』

『いつまでメソメソ泣いてやがんだ、みっともねぇぞ新八ィィィィィッ!』

『ぶふぅーっ!? って、なにすんのさ神楽ちゃん!? 葬式中に泣いてる僕をなんでいきなり殴ってくるの!? ここは普通、故人を想って悲しみに暮れるところでしょうが!?』

『なに甘っちょろいこと抜かしてるネ! 人生の中で泣いていいのは、タンスの角に足の小指をぶつけた時と、ギャンブルで大負けしてスッカラカンになった時と、余裕ぶって深夜にジャンプを買いに行ったら予想に反して売り切れてた時だけだって銀ちゃんが言ってたアル!』

『そっちの方がみっともないわ!? つーかあの人、主人公のクセに、なんてくだらねぇ言葉を残してんの!? 主人公のクセに、あっさりと死んじまったヤツが……』

 

 ああ、そうだよ。この物語の主人公は、もうこの世界にいないんだ。改めて現実を思い知った新八君の目から再び涙がこぼれ出る。

 それでもチャイナ娘は絶対に泣かない。その目元は痛々しく真っ赤に染まっていたが、泣きに泣いて涙を出し切った彼女は、この時すでに万事屋の意志を受け継ぐ覚悟を心の中で固めていた。

 

『よく聞け、新八! いくら心が否定しても銀ちゃんはもういない! ほじくり出した鼻クソのようにあの世へ飛んで逝ったアル! でも、ここに! 私達の魂に! 銀ちゃんの想いは生きているアル! だから、しぶとく顔を上げろ! 無様に抗いて先へと進め! 私達は万事屋として、銀ちゃんの後継者として、この世の万事を守るアル!』

「……神楽、お前……」

 

 子供だと思っていた少女は、大切な人の死を乗り越えて目覚ましく成長していた。そんな姿を見せられては、お父さんのメガネである新八君も奮い立たずにはいられない。

 

『……ああ、そうだね神楽ちゃん! これからは僕達二人が、銀さんの代わりに万事屋となるんだ!』

『そして、この銀魂の新たな【主役】に君臨するアル!!』

「それがほんとの狙いかァァァァァッ!?」

 

 逞しく育った子供は、白髪のお父さんが持っていた主役の座を手に入れる野望を抱いていた。万事屋が死んだ今、他のキャラにも主役になれるチャンスが来たのだ。

 

『つーわけで、BORUTOみたいな新タイトルを早速考えてみたアルが、やっぱり人気マンガの続編と言ったら、ケツにZの文字を付けた【ギンタマボールZ】で決まりアル!』

『単なるドラゴンボールZのパクりじゃねぇーか! ボールまで付いてきて、なんか余計に卑猥なもんになってるでしょーが!? そんな企画を出したって絶対に通らないよ!』

『それじゃあZつながりで【機動戦士Zギンタマ】なんてどうアルか?』

『さらに銀魂から離れちゃったよ!? なんでZに着目してZガンダム持って来た!? そのZは銀魂じゃなくてドラゴンボールに付いてたヤツでしょ!?』

「ねぇ、コイツらなにやってんの? 俺の葬式そっちのけで続編の話を始めちゃったよ? やる気があるのは良いことだけども、やりゃあいいってもんでもないよ?」

 

 確かに、お前の言う通りだ。彼らはあまりに気負いすぎて、過剰な挑戦を始めてしまった……。

 

『もう、ダメだよ神楽ちゃん。機動戦士Zギンタマなんて、絶対にスポンサーからクレームをつけられちゃうよ?』

『そんなもん気にしなくてもまったく全然問題無いアル! 主役機の交代はサン○イズの定番だから、逆に大ウケ間違いなしネ! さぁ行け、ウッソ! こんなこともあろうかと、カサレリアから持って来たV2ガンダムで、主役の座に返り咲くアル!』

『誰がウッソだコノヤロー!? つーか、お前はなんつー時にブイツーなんて出して来てんだ!? 画が無いSSだからって無茶しないでよ神楽ちゃん!?』

 

 なんと、万事屋を失って暴走しだしたチャイナ娘は、モノホンのガンダムを持ち出してしまったのだ!

 

「えぇーっ!? ちょっとコレ、どーゆうことなの!? いくら新八の中の人がガンダムの主役やってたからって、主役機まで持って来たら、もうこれタダのVガンダムじゃね!?」

 

 そう、これは銀魂がガンダム化してしまう危機だった。なぜなら、ガンダムを持ち込んで来たのは彼女だけではなかったからだ。

 

『ちょいと待ちな、お二人さん。主役の交代ならこの俺も立候補させてもらうぜ? このデスティニーガンダムを改造した【ドエスティニーガンダム】でなぁ!』

『サン○イズに怒られそうなブツがもう一機増えたァァァァァッ!?』

『ちょっと、総悟なにやってんの!? ドエスティニーガンダムってお前、そんな世界が違う物をいったいどっから持って来た!?』

『ああこれは、地球圏で暴れていた座太族を逮捕しに月へ出張した時に、転がっていたコイツをたまたま見つけて、ちょいと拝借したんでさぁ』

「えっ、なにソレ!? なんか微妙にガンダムSEED DESTINYっぽい設定が混ざり込んでるんだけど!? いったいいつからこのSSは多重クロスになってたの!?」

「むっ、あれは! カツラン・ヅラと名乗った俺がインフィニットジャスティスのパイロットをしていた頃に、座太族との月面決戦であっさりと撃墜した負け犬シンのガンダムじゃないか!」

「なんで、さらっとテメェまでガンダムに乗ってんだァァァァァッ!? つーか、今までの展開全部、中の人のお話だよね!? 石田君がアスラン・ザラを演じた時のお話だよね!?」

「石田君じゃない、桂だ!」

 

 まさか、ガンダム化の浸食がそこまで及んでいようとは。それならば、この後の展開も納得せざるを得ないだろう。彼らはとうとうガンダムで主役の争奪戦を始めたのだ。

 

『あのドS野郎、種死で無様に主役を盗られた中の人の悲しき無念をここで晴らすつもりアルな!?』

『ええい、ちくしょう! こうなりゃヤケだ! ウッソ・エヴィン! V2ガンダム、行きまぁーす!!』

 

 もはや誰にも狂気を止めることは出来ず、葬式場の上空でモビルスーツ戦が勃発した。

 

『アンタって人はァァァァァッ!!』

『おかしいですよカテジナさん!!』

「いや、アンタって人達は全員そろっておかしいですよ!? なんでお前らそんなに上手くガンダム操縦してんのぉーっ!?」

 

 どうやら、あいつらの身体までガンダム化が浸食して、ニュータイプとコーディネーターになってしまったようだ。

 ここまで来たら、もう誰にもヤツらの戦いを止められない。この世界はもうガンダムになってしまうだろう。皆がそう思い諦めかけたその時、天から女神が降臨した!

 

『ばああああああくねつぅ、ゴッドフィンガァァァァァァァッ!!!』

「明鏡止水を極めたお妙が、ゴッドガンダムに乗ってキタァァァァァッ!?」

「あっ、あれは!? 私がカグヤ先輩とガンダムファイトした時に、うっかり空き地に置き忘れてきた機体だわ!」

「テメェまでこの茶番に絡んでたのかよ、駄女神ェェェェェッ!?」

 

 なっ、なんと!? 俺の女神と本物の女神が奇跡のタッグを組んでいたとは!?

 やっぱり、俺が惚れたお妙さんは最高のヒロインだ。それを証明するように、女神のガンダムファイトによってすべてのガンダムは破壊され、銀魂の続編がガンダム声優共のテコ入れでガンダム化してしまう危機は無事に終わった……。

 

「いや、そんな話じゃなかったよねコレ!? ガンダムファイトで何もかもが滅茶苦茶になってますけど、主人公の葬式シーンでふざけ過ぎにも程があんじゃね!?」

 

 ああ、そうだな。普通に考えれば、不謹慎この上無いと叱られても仕方がない。

 だが、なぜか俺達は皆、お前が死んだという気が持てなかった。死体もあるし検死もした。それでも、お前がその内ひょっこり帰って来るのではないかという期待感が心のすみから離れなかった。

 その原因の一つには、万事屋の葬式をやる前から関係者に送られ始めた【怪文書】にあった。

 

「はぁ? なんだよその怪文書ってのは?」

 

 結局詳細は不明のままだが、お前も聞けば納得するほどそれは奇妙な内容だった……。

 

【~親愛なる銀魂キャラへ~ 信じられないかもしれないけど、銀ちゃんとマダオはなんと、最近流行りの異世界転生しちゃったアル。魔王の野郎をぶっ倒して、その内そっちに帰るから、みんな楽しみに待ってるアル】

 

 最初にこれを読んだ時は、あまりにイタイ作り話だと皆で同情したものだが、今思い返してみると本当のことだったのだな。

 

「いやいや、なんかおかしくね!? 絶対書いたの神楽だろコレ!? だって、語尾がアルだもの! 今時、使うのヤツだけだもの! なんであいつが俺達のことを知ってたのかは謎だけれども、もしかしてアクアのバカが変な電波を送ってたのかぁーっ!?」

「さらっと私を電波系のイタイ女にしないでよ!? アクシズ教の御神体は、身も心も清らかな完璧美少女なんですぅーっ!」

「はっ、女神がウソをついてんじゃねぇーよ! お前は電波を出してんだろう!? アクシズ教という名の毒電波をよぉーっ!?」

 

 おい、慌てるなよ二人共。アクアちゃんは無実だし、チャイナ娘のアリバイもすでに立証されている。

 しかも代わりに、お妙さん達の周りをうろつく不審者が目撃されて、怪文書の容疑者として急浮上したのだ。

 

「ああ、なるほど。それが最初に近藤さんが言ってた不審者につながんのか」

 

 その通りだよ長谷川さん。

 万事屋の葬式後、不審者の情報を解析した俺は、日課のストーキングがてら志村家の敷地内で待ち伏せすることにした。そいつはなぜか、チャイナ娘と志村姉弟の周りにばかり集中して現れるのだ。その行動は、万事屋に関する情報を親身に伝えようとしている感じなので、むしろ3人は会いたがるほどに興味を抱いていたのだが、その人物が怪しいストーカーであるという事実だけは変わらない。

 そこで俺の出番となり、地道な張り込みが功を奏して、夕暮れ時に現れたヤツと遭遇することに成功した。

 

『おい貴様! 住居侵入罪及び、お妙さんに対するストーカー行為で逮捕する!』

『ええい、ちくしょう!? ストーカーゴリラに見つかってしまったアル!?』

 

 覆面を付けた不審者が聞き覚えのある声でそう叫ぶと、即座に逃走を始めた。

 

『聞き覚えがあるっつーか、今のは神楽の声だよね!? ちょっと大人な感じだけど、完全に釘宮さんとおんなじボイスだったよね!?』

 

 そう言われると声は似ていたようだったが、ヤツの体型はチャイナ娘とは明らかに違ったぞ。不審者のオッパイはとんでもなくボインだった!

 

「あー、だったら絶対、神楽じゃねぇーわ。あいつの胸はめぐみんと大して変わらねぇからな」

「そこで判断するのかよ!? 語尾のアルとか、ゴリラを知ってるとか、気になるところが他にもあんだろ!?」

 

 もちろん、長谷川さんの言うように、チャイナ娘との関係性については俺も気づいて疑っていた。もしかすると、彼女はあいつの親類かもしれないが、相手があの夜兎族ならば、ヤツの真意を確かめないと皆の安全は保証出来ん。

 ゆえに、俺は不審者を捕まえるために追跡を開始した。ヤツは人間離れした身体能力を持っていてどんどん距離を引き離されたが、途中で会った名探偵コ○ンっぽい少年からスケボーを借りたおかげで、後もう少しというところまで追い詰めることに成功した。

 

「なんやて工藤!? じゃなくて近藤!? 見た目はゴリラ、中身はストーカーのお前が犯人を逮捕出来たのかぁーっ!?」

 

 いや、結論を先に言えば逮捕は出来なかった。前を走っていた不審者が、わき道から大通りに出た瞬間に眩しい光を発生させて、驚いた時にはもうすでに彼女の姿はそこになかった。どういう仕掛けか、人間一人がいきなり消えてしまったのだ……。

 しかも、その直後にさらなるアクシデントが起きてしまった。呆然としていた俺は地面に落ちていた【バナナの皮】を踏んでしまい、スベって転んだ勢いでモロに車道へ飛び出して、運悪く暴走して来たエネルギーバリバリのデロリアンにはねられてしまったのだ。

 

「最後のオチがヅラと丸カブりじゃねぇーかァァァァァッ!?」

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 やたらと長い回想を聞いたら間抜けな結末が待っていた。実を言うと、近藤が踏んだバナナの皮は、例の不審者が慌てたせいで持っていた食べ残しを落としてしまったものなのだが、まさかそれで桂と同じような目に遭うことになろうとは……。

 

「なっ、なんだとっ!? それじゃあお前も、バナナの皮でスベった拍子に異世界転移したのかぁーっ!?(日本語)」

「んー、まぁ、大体そんなところだ(なに言ってんだコイツ? バナナの皮がきっかけで異世界転移するとか、テンプレだらけで芸の無い『な○う小説』ですら使われねぇよ)」

「括弧の中でディスってるけど、ブーメランとなって返ってきてるよ!?」

 

 長らく出番が無かったカズマが、ここぞとばかりにつっこみを入れる。なんて言うかもうね、こいつら全員バカだよね。

 

「それにしてもどうなってんだ? この近藤って人が転生してないのは間違いないみたいだが?」

《それは全部、カグヤのバカが日本に行ったせいだよチクショウ!》

「(うお!? ビックリさせんなよ、ノルン!?)」

 

 カズマが頭を捻っているとプンプン怒ったノルンが出て来た。

 

「(つーか、なんで怒ってんだよ? そのカグヤってヤツは前にも話に出てきたけど、今度の事件に関わってんの?)」

《関わってるもなにも、あのバカが主犯だよ! 語尾にアルを付けた釘宮ボイスのボインなんて、あいつしかいないからね!》

 

 真相を知ったノルンは、カズマにも分かるように説明を始めた。

 神楽という少女は女神カグヤの血縁者であり、銀時の死で苦しんでいる神楽達を放っておけなかったカグヤは、彼が異世界で生きていることをコッソリ伝えようとした。そのちょっとした気遣いがアクシデントの原因だという。

 

《近藤に見つかったカグヤちゃんは慌てて天界に転移したんだけど、そのタイミングが悪過ぎたんだ。世界を移動する女神スキル【セイクリッド・ワールド・ゲート】の入り口が完全に閉じ切る直前に、デロリアンにはねられた近藤が飛び込んで来ちゃったんだよ。しかも不運が重なって、身にまとった時空転移エネルギーが閉じかけてた入り口をこじ開ける効果を生んで、そのままスポーンと吸い込まれてしまったというわけさ》

「(運の悪さがミラクル過ぎて、逆に感動しちまうよ!? 天文学的な超常現象を連続で食らってますけど、どんだけツイてないのこの人!?)」

 

 あまりに不憫な展開にカズマは本気で同情するが、そんな彼の反応に対してノルンはやんわりと否定する。

 

《ううん、それは少しだけ違うよ。もし普通の人間が【セイクリッド・ワールド・ゲート】に迷い込んでしまったら、ランダムで異世界に放り出されちゃうんだよ。でも、幸いなことに、この世界には彼の友達がたくさんいる。はっきり言って滅茶苦茶もいいとこだけど、彼らの間に結ばれた切っても切れない【腐れ縁】が運命を変えたのかもね?》

 

 そう言うとノルンは、誰もが見惚れてしまうほどに綺麗な笑みを浮かべた。その姿は神々しくて、女神と呼ぶにふさわしい美幼女に求めていた義妹の理想像を見たカズマさんは、思わずドキッとしてしまう。『俺は決してロリコンではない』と無駄な言い訳をしながら……。

 一方、カズマ達が脳内会話をしている間に周りの状況も変化していた。マゾポイントの効果が切れためぐみんとダクネスが様子を見に戻って来たのだ。

 

「どうですか、ギントキ。ゴリラとの話し合いは無事に終わりましたか? なぜゴリラと話せるのかは不思議でならないのですが」

「ん~まぁ、一通りは話したけどよ。それよりすっげぇ気になんだけど、お前はマジでこのゴリラがゴリラにしか見えねぇの?」

「そんなの当たり前じゃないですか。これほどまでに立派なゴリラはなかなかお目にかかれませんよ」

「めぐみんの言う通りだ! これほどまでに立派な一物を持っているオスならば、ゴリラに間違いないだろう!」

「お前はどこに注目してんだ!? チ○コのサイズで人かゴリラを判断してんじゃねぇーっ!?」  

 

 ダクネスの意見は参考にならなかったが、めぐみんの証言から大体のことは分かった。理屈はともかく、この世界の出身者は、近藤を人間として認識出来ないようだ。

 

「(そういやぁ、なんでゴリラにしか見えないんだ? 知り合いの銀さん達もすぐには分からなかったようだし……)」

《ああ、銀時達もバグの影響を受けてたけど、元の姿を知ってたおかげか、ボコった時の衝撃でちゃんと見えるようになったんだよ》

「(昔の家電製品みたいな直し方なんですけど!? 近藤さんは人間なのに、バグっていったいどういうことだよ?)」

 

 いきなりおかしなことを言い出したノルンに怪訝な表情をしてしまう。果たして、バグとは何なのか。彼女の口から明かされた真相は、彼の想像を遙かに超えるとんでもない内容だった。

 

《こうなってしまったのは、この世界の概念が【ゲームっぽい】のが原因なんだ。ようするに、近藤という異世界のデータがあまりにイレギュラーな方法でダウンロードされてきたもんだから、読み込む際にエラーが出ちゃって、『なぜかこの人、上手くロード出来ないんだけど、ゴリラっぽい情報だけはビシバシと伝わってくるから、とりあえず【ゴリゴリの実を食べたゴリラ人間】として表示しとけばいいんじゃね?』ってことになって、近藤のキャラ映像がバグっちゃったんだよ》

「(オィィィィィッ!? なんでそこでワンピース風に妥協されてんだぁーっ!? ゴリラっぽいからゴリラにするって雑過ぎるにも程があるだろ!? この世界の概念は、どんだけスペック低いんだよ!?)」

 

 あまりに出鱈目な話だが、実際に起きているのだから受け入れるしかない。この世界に存在するものはハードディスクに記録されたデータのような物であり、それに異常が発生すれば銀時達のようにステータスがバグったり、近藤のようにキャラ表示がおかしくなったりするわけだ。

 まさにクソゲーそのものだが、真実を聞いてしまったカズマ以外は知ったこっちゃない話である。幸せな銀時は、そんなことなど知る由もなくなく暢気に話を進めていく。

 

「ところで、アクア。このゴリラの語尾に付いてる(日本語)をどうにかしろや。さっきからうっとおしくて、すっげーイライラしてっから」

「いや、そんな無茶を言われても、どうすることも出来ないわよ? 翻訳スキルは転生する時にしかインストール出来ないんだから」

「かぁーっ、この駄女神は情けねぇーなぁ!? 口を開けば出来ねぇばっかで、お前はどこぞののび太かよ!? ドラえもん的ポジションだった優秀なアクア様も、今では無能なのび太君まで格下げされちゃいましたかぁ!?」

「誰がのび太よ、ドSジャイアン!? ドラえもんで例えるなら、優等生で美少女のしずかちゃん的ポジションでしょう!? 入浴シーンが多いから、水の女神にピッタリなのよ!」

 

 またしてもバカ兄妹による不毛なケンカが始まった。周りもすでに慣れたものだが、バカにはつき合ってらんねぇと、二人を無視した長谷川が勝手に話を進めていく。

 

「こうなったら、普通に勉強するっきゃねぇな。まぁ、言うなれば、アメリカで英会話を覚えるみてぇなもんだ」

「え~、今さら外国語の勉強なんてするのぉ~? 中学生に戻った気分で、まったくやる気が出ないんだけど……(日本語)」

「あんたの気持ちはよく分かるけど、やる気がなくてもやるしかねぇだろ? この俺が安心価格で家庭教師してやるからさ!」

「あ、ああ……収入源が無い俺から容赦なく金を取ろうとしてる点がすっげぇ引っかかるけど、とりあえず礼を言うよ……(日本語)」

 

 カジノで金を失った長谷川は、近藤の弱みにつけ込んできた。そんな悪意に罰が当たったのか、彼の目論見は桂によって速攻で潰される。

 

「大丈夫だよ、ゴリ太君。外国語を覚えたい君に、もってこいな魔道具があるよ!」

「なっ、なに!? それは本当か、ヅラえもん!?(日本語)」

「ヅラえもんじゃない、カツえもんだ!」

 

 アクアの代わりにドラえもん的ポジションになった桂は、着物の懐から怪しい瓶を取り出した。

 

「テレレテッテレー! 【翻訳コニャック】~!」

「なんかどっかで聞いたような秘密道具出してきたぁーっ!?」

 

 例の曲と共に登場した魔道具は明らかに胡散臭かった。止めときや、近藤はん。これ絶対、飲んだらヤバいパターンやで。

 

「説明するよ、ゴリ太君。この翻訳コニャックを一気飲みすると、暁な○めという名の創造神が仕事を楽にするために世界の言語を統一しようと考えて作ったと言われる翻訳魔法が発動して、あっと言う間に【このすば語】がペラペラ話せるようになるんだ!」

「やっぱりヤバいヤツだったァァァァァッ!? なんかもう世界の垣根を飛び越えまくってんだけど、なんでそんなオーパーツを都合良く持ってんだ!?(日本語)」

「勘違いをするな、これは別にご都合主義の産物ではない。この魔道具は、エリザベスのスキルでゲットした仲間モンスターと円滑なコミュニケーションを図るために『ひょいざぶろー殿』と協力して完成させたものだからな」

「えっ、私の父とですかぁーっ!?」

 

 唐突に親の名が出て、完全に油断していためぐみんは驚いた。そして、彼女の反応は桂にも伝染する。

 

「なんと、ひょいざぶろー殿は、めぐみん殿の父君であったか」

「ええ、そうです! ひょいざぶろーは我が父にして最高の発明家なり! それにしても、まさかカツラが私の父と顔見知りだったとは! いやはやなんとも、世間ってヤツは狭いものですねぇ~」

「いやいや、待ってよお二人さん!? 世間話は後でいいから、早くこっちを進めてくれよ!(日本語)」

 

 雰囲気で会話の内容を把握した近藤が的確につっこんで来た。このままヤツらのペースにはまって、得体の知れない怪しい酒を飲まされてたまるか。

 

「つーか、そのコニャックは安全確認してあんのかよ?(日本語)」

「当然だろう。マウスを使った実験では、見事に言葉を発していたぞ」

「それはすごいじゃないですか! マウスで効果があるのなら、ネコだって喋れるようになるってことですよね!?」

「恐らくはいけるだろうが、あまりオススメは出来んな。コニャックを飲んだマウスはみんな重度のアル中になってしまって、交わされる会話がすべて泥酔したオッサンと化すという悲惨な結果に終わったからな」

 

 ようするに、人間以外の生物が飲むと、言葉を話せるようになる代わりにアル中と化してしまうというクソアイテムだった。

 

「そんなもんをこの俺に飲ませようとしてんじゃねェェェェェッ!?(日本語)」

「心配は無用だ、近藤。アルコールに強いヤツならアル中にはならないから」

「いや、だから! 俺はアル中の心配をしてんじゃなくて……(日本語)」

「おのれ貴様!? 俺の酒が飲めんと言うのか!? 絶対に旨いから、つべこべ言わずにさっさと飲めやァァァァァッ!!」

「ちょっ、おまっ、止めてっ!? おぼがぼぉーっ!?(日本語)」

 

 逃げようとした近藤だったが、背後に回っていたエリザベスに羽交い締めにされてしまい、結局は強制的に翻訳コニャックを飲まされた。ひょいざぶろーと桂も飲んで害が無いことは確認済みだが、それを知らない面子にとってはほぼ拷問にしか見えない。

 流石に銀時も気になって、桂に文句をつけに行くが、そこに目を輝かせたダクネスまで加わわってきた。

 

「ちょっとお前、なにやってんの? コニャックを飲まされた近藤さんが昏倒しちゃってるんだけど?」

「確かに恐ろしい手際であった! あれほど見事な水攻めを受けては、屈強なゴリラでも耐えられまい! だが、私はそうはいかんぞ? なんなら今すぐ試すがいい! さぁ、早く! この口に、堅いモノを突っ込むがいい!」

「テメェは堅い荒縄でエロい口を塞いでやがれ! 【タートルシェル・バインド】ッ!」

「ふぉっ!? ふおぉぉぉぉぉんっ!?(あぁ!? この圧倒的な恥辱感が亀甲縛りの威力かぁーっ!? こんなにも卑猥な姿を晒されたらクセになりゅ!)」

 

 ダクネスの暴走は遊び人スキルで止められた。だが、今度は酔っぱらった近藤が暴走を始めた。

 

「グヘヘヘヘヘッ! ○○○丸出しのお妙さんがお花畑で手を振ってりゅ~☆」

「記念すべき初会話がピー音から始まったァァァァァッ!?」

「むっ、いかん! この症状は急性アルコール中毒だ! アクア殿、急いでヤツに水を飲ませてやってくれ!」

「ええ、いいわ! 水のことなら任せてちょうだい! 【クリエイト・ウォーター】! 【クリエイト・ウォーター】! 【花鳥風月】からの【クリエイト・ウォーター】!」

「あぼがばぁーっ!?」

 

 調子に乗ったアクアによって、しこたま水を飲まされた近藤は再び昏倒してしまう。だが、水の女神による水攻めを受けたおかげでアル中とならずに済んだのは不幸中の幸いだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 とりあえず問題を片づけた一行は、正気に戻った近藤を連れて帰ることにした。途中で立ち寄った砦にネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を戻してから、桂達と一緒にアクセルへ帰還する。

 街の中へ入っていくと、ゴリラに見える近藤は明らかに浮いてしまい、行き交う人々全員がモンスターと勘違いして、当然ながら騒ぎ出した。

 

「きゃーっ!? 街の中にゴリラがいるわよ!?」

「な、本当だ!? ゴリラ型のモンスターが街に入ってきたぁーっ!?」

「ああっ!? ギャーギャー騒ぐな街人共! こいつはゴリラのフレンズだから、ジャパリまんを食わせときゃ、なんも悪さはしねぇーんだよ!」

「誰がゴリラのフレンズだァァァァァッ!? そんなフレンズ見たことねぇし、ジャパリまん以外の物も食わないと暴れますぅーっ!」

 

 周囲の騒ぎにイラついたバカのフレンズ達がケンカを始めて、恥ずかしくなっためぐみんとカズマは他人のフリをする。

 

「それにしても不思議ですね、人間であるコンドウの姿がゴリラに見えてしまうなんて。もしや、彼は悪魔によって呪いをかけられてしまったのでしょうか?」

「まぁ確かに、ゴリゴリの実を食べたゴリラ人間って扱いだから、悪魔に呪われてると言えばその通りだよな……」

「ほう、それは興味深いですね。カズマ達の故郷にはゴリゴリの実なる危険な果実が存在しているのですか?」

「存在しねぇよ、そんなもん!」

 

 変なところに興味を持っためぐみんにつっこむものの、数奇な運命によってゴリラ人間にされた男がそこにいるのだから頭が痛い。元の近藤を知っている者達だけは正常に見えるのだが、こちらの世界の住人には悪魔の実の能力でゴリラになってる獣人にしか見えないのである。

 しかし、実際の姿は人間なので、当然ながら本人は全裸状態であることを気にしていた。

 

「なぁ、万事屋。すっげぇ今更なんだけど、そろそろ服を貸してくんない? 前回から全裸のままで、心もチ○コも落ち着かないんだけど……」

「んー? そんなもん気にすんなよ。なんかよく分からねぇけど、この世界の人間にはゴリラにしか見えねぇようだし、どうせ全裸で歩いても『ゴリラのフレンズが散歩してる』と思われるようになるだろうよ」

「いやだから、ゴリラのフレンズなんかどこにもいねぇし、街でゴリラが散歩するとかドラクエですら見たこと無ぇよ!? 大体、俺は人間だから! ぱんつは絶対必須だから! せめて、オルテガぐらいの装備をこの俺に与えてくれよ!?」

「ったく、このゴリラは贅沢なこと抜かしやがって。しょーがねぇから、アクアのつけてる羽衣をちょっくら貸してやれよ。見た目もフンドシみたいだし、チ○コ隠しに丁度良いいだろ?」

「ちっとも良くないんですけど!? 神聖な羽衣をフンドシにしようだなんて、あんたどんだけドSなのよ!? これは私の大切な一張羅なんだから!? ゴリラのチ○コ隠しなんかに使わせたりはしないわよぉーっ!?」

 

 鼻をほじりながら適当なことを言う銀時に、ゴリラと駄女神が文句をつける。すると、彼らの様子を見兼ねたダクネスが説得にやって来た。

 

「とりあえず落ち着け、コンドウ! ドMやゴリラが全裸なのはとても自然な状態だし、エリス教徒の私がいるから、街の皆の警戒心もすぐに消えてなくなるだろう!」

「いや、ドMの全裸は自然じゃないし、亀甲縛りされたままはぁはぁしてる君自身も警戒されてるんだけど!?」

 

 亀甲縛りを気に入ってそのまま解かずに歩いている変態ドM騎士からは、エリス教徒の信頼など一切感じられなかった。

 いずれにしても、こいつらは服を貸してくれそうにない。この手の展開に慣れている近藤は、すっぱりと諦めて別の話題を振ることにした。

 

「それはそうと、これからどこに行こうとしてんだ? 俺に服を貸すよりも優先するようなことなのか?」

「ああ、そうだ。お前にとっては、汚ぇフンドシをゲットするよりあいつに会う方が大事なはずだぜ」

「……? あいつとはいったい誰だ? もしかして、お前らの他にも俺の知人が来てるのか?」

「おう、近藤さんがあの人に会ったら絶対にビックリするぜ?」

 

 銀時の意図を悟って、長谷川までが思わせぶりな言い方をして来た。事情を知らない近藤は怪訝な表情を浮かべるが、今はとにかく彼らの後についていくしかない。

 

 

 

 人気の無い道を進んで行き、目的地であるウィズ魔道具店に到着する。近藤に会わせたい人物はこの店の中にいて、恐らくは巨乳店主とイチャイチャしていると思われる。そう思ったら腹が立ってきたので、全裸の変態を最初に送り込むことにした。

 

「ほら行けよ。この中にあいつがいるから、先に入って挨拶しろや」

「おい待て、万事屋。今の俺はチ○コ丸出しの最低な格好をしているのだが、このままの状態でその人の前に出ても本当に大丈夫なのか?」

「そんな今更なに言ってんだ。全裸はほら、お前にとっての普段着みてぇなもんだろうが」

「普段着どころか、なんも着てないんだけど!?」

「あーもう、うるせーっ! ゴチャゴチャ言わずにとっとと入れや!!」

 

 躊躇する近藤に業を煮やした銀時は、店のドアを乱暴に開けると彼のケツを蹴飛ばした。その頃、店内では茂茂とウィズの二人が仲睦まじく談笑していたのだが、そんな楽しい空間に全裸野郎がヘッドスライディングをかましてきた。

 

「きゃああああああっ!? 変なゴリラが私の店に!?」

「もしや、魔王軍の襲来か!?」

「そんなんじゃねぇよ将軍。パッと見すっとゴリラだけど、そいつはあんたの知り合いだ」

「む、それは誠か銀時?」

 

 銀時の言葉を聞いて、転がっているゴリラの顔をまじまじと凝視する。始めはゴリラにしか見えなかったが、だんだんと慣れてくると見知った人物の姿に変わった。

 

「おお、なんと! このゴリラは近藤勲ではないか! そうか、お前もこちらに来たのか……」

 

 近藤の姿を確認した茂茂は、嬉しく思うと同時に残念な気持ちも湧いた。彼ならば、新しく生まれ変わった日本を正しい方向へ導いてくれると期待していたからだが、この地に来てしまったのなら残念がっても仕方がない。今は頼もしき戦友との再会を素直に喜ぶべき時だ。

 

「よく来たな、近藤よ。余は、お前と再会出来たことを心から嬉しく思うぞ」

「っ!? このお声は……まっ、まさか!?」

 

 我に帰った近藤は、慌てながら顔を上げて声の主を確かめた。するとそこには、かつて仕えていた主君の凛々しい姿があった。

 

「あ、あ、ああっ……将軍様っ!?」

 

 懐かしき主の顔をその目で確認した瞬間、近藤の目頭に熱い物が湧いてくる。しかし、それは真選組局長として、決して見せてはならぬ物だ。

 そう、今は感傷を押し殺してでもやるべきことがある。ゆえに近藤は、茂茂の前で潔く土下座した。

 

「この近藤、恐れながら申し上げたき儀がございます! 将軍様より真選組局長という大役を仰せつかっておきながら、大恩ある御身の命をお守りする使命も果たせず、あまつさえ、先の戦争による混乱の末に徳川将軍家の終焉を招くことになってしまい、誠にっ……誠にっ……申し訳ありませんっ!!!」

 

 茂茂が亡くなった時から心に溜まっていた物を一気に吐き出した。彼が暗殺されたと知らされた瞬間から、これまでずっと後悔し続けていたのである。

 しかし、茂茂本人はそんなことを望んでいない。近藤が謝る必要など、茂茂にとっては微塵も無いのだ。その気持ちを伝えるべく、膝をついた茂茂は、近藤の肩に手を置いて穏やかに語りかける。

 

「面を上げよ、近藤。余は、お前の働きに対して微塵も不満は抱いておらん。いや、それどころか、大いに感謝しているのだ。お前達がいたからこそ、余は本当の徳川茂茂として、あの世界に道を記せた。ゆえに、今こそ言わせてもらおう。ありがとう、近藤勲。これからも余の友として、よろしく頼むぞ」

「っ!? しっ、承知しました、将軍様っ! この近藤、全身全霊をかけて、あなたの信頼に応えられるような友となりましょう!」

 

 茂茂の想いを知った途端、近藤は涙を流した。銀時と桂もこの時ばかりは静かに見守り、長谷川とダクネスは雰囲気に流されて貰い泣きする。

 そんな中、カズマだけは、全裸のオッサンが土下座で泣いているというシュールな光景に引いており、となりにいるめぐみんも、みんなとは違う感動をしていた。

 

「何がなにやらサッパリですが、友達と再会出来て本当に良かったですね。彼らの関係を見ていたら、万年ボッチのゆんゆんに、もう少しだけ優しく接してあげようかなと思いました」

「ボッチのゆんゆんってどこの誰!? 同年代みたいだけど、ボッチと認識してんならもっと普通に接してやれよ!?」

 

 変な場面でボッチだということを暴露されたゆんゆんとやらに、カズマは深く同情する。いつかゆんゆんと出会ったら、俺も優しく接してやろう……。

 ただしアクア、テメェはダメだ。茂茂と近藤がイベントを行っている間に、ウィズを脅してお茶を催促するような駄女神には慈悲などない。

 

「ちょっと、このお茶薄いんですけど? お客にこんなものを出すなんて、サービス悪過ぎなんじゃないの?」

「ごめんなさい! ごめんなさい! すぐに入れ直します!」

「なにやってんだ駄女神ェェェェェッ!? テメェの態度が悪過ぎて、リッチー以上にモンスター化してんじゃねぇーか!?」

 

 空気を読まずにクレーマーを始めたアクアを銀時が叱り飛ばす。その怒声がきっかけで、しんみりとした気配も吹き飛び、気を取り直した茂茂は別の話題を始めた。

 

「いやしかし、奇遇なものだ。ウィズ殿とあの件について語り合っている時に近藤がやって来るとは。これもまた、天の采配やもしれんな……」

「ん? あの件ってなんだよ将軍? まさかウィズと○○○○しちゃって、とうとうオメデタですってか?」

「な、なんと!? 将軍様とそちらの女性は○○○○をしちゃうような、すんごい仲なのですかぁーっ!?」

「きゃーっ!? ナニ言ってるんですか、ギントキさぁーん!? 違う違う!? 違いますから!? 先のことは分かりませんけど、今はまだまだそんな仲じゃありませんってばぁーっ!?」

 

 銀時の勘違いにより、近藤とウィズがパニックになって茂茂が鼻血を垂らす。もちろん、茂茂が言っていたあの件とはウィズのオメデタなどではなく、普通に仕事の話だった。

 

「余は近々、未来を担う冒険者を育成するための【教導隊】をこの地に設立する予定でな。将来的には、世界中から集めた有望な人材を育て上げ、国を支える勇者候補として送りだそうと考えている。その隊名は【真選組】。真なる勇者になるべく選ばれた者達を育成する組織だ」

「真選組……」

 

 話を聞いた近藤は不思議な感覚に襲われる。まさか、地獄かと思っていた異世界で馴染み深いあの組織が作られようとしていたなんて……。いや、それほどおかしな話でもないか。俺達は全員、地獄に逝ったら同じものを作ろうとしていたからな……。

 

「実に素晴らしいお考えだと思いますよ、将軍様」

「うむ、そう思ってくれるか。ならば、この機会に提案するとしよう。お前には是非とも初代局長の座についてほしい」

「えっ、この俺にですか!?」 

 

 あまりに展開が急過ぎて思考が追いつかない。なにせ、ついさきほどまで野生のゴリラと化していたのに、とんとん拍子で就職まで決まるなんて長谷川に申し訳ない。それに、他にも様々な問題がある。

 

「将軍様、非常にありがたいお話ですが、正直難しいところです。今の自分は、なぜかこの世界の住人からゴリラと認識されているので、ヘタに関われば返って足を引っ張る事態になりかねません。それならば、こいつらの方が俺よりも適任かと……」

 

 そう言って銀時や桂に視線を向けると、二人は揃って拒否してくる。

 

「あー、俺はそんなの御免だぜ。こっちはこっちでやることあるし、遊び人のスキルなんざドラクエ以外に需要が無ぇよ」

「すまんが、こちらも同様だ。俺はあくまで将ちゃんの協力者でしかないからな。正式な役職に就く気などは元よりないさ」

「あっ、なんならこの長谷川泰三が代わりにやってやるけど……」

「「「お前には聞いてねぇよ、万年無職はすっこんでろ!」」」

「ちょっとふざけてみただけなのに、そこまで言わなくてもいいんじゃないの!? 俺だってちょっとくらい夢見たい時もあらぁ! お前らの上に立って碇指令をやりたくもならぁ!」

 

 長谷川のお茶目なギャグで脱線してしまったものの、めぐみんやダクネスがすかさずフォローに入る。

 

「私達も協力するので、そんなに心配しないでください。ゴリラの呪いを受けた男が隊長をやるだなんて、バックストーリーに闇を感じてなかなか素敵じゃありませんか!」

「いやいやいやいや、ゴリラ隊長のバックストーリーに闇なんてどこにもないから! 確かにストーカーはしていたけれども、闇っぽいのはそこだけから!」

「それだけでも十分に闇を感じると思うのだが、慕うべき主のいる今の私には、あなたの気持ちが分かる気がする。だからこそ、この私もあなたに協力させてもらおう。その際には、是非ともストーカースキルを伝授してほしい!」

「君はいったいなんてもんを教わろうとしちゃってんの!? 大体、ストーカースキルなんて俺も習得してねぇーよ!?」

 

 新しい仲間の応援はあまりまともではなかった。それでも、会ったばかりのゴリラを信じ、後押ししくれた心意気には応えたくなってくる。

 残念ながら駄女神だけはイラッとすることしか言ってこないが。

 

「もう、ウダウダウホウホ言ってないで、ちゃっちゃとやるって言っちゃいなさいよ。お風呂でゆっくりしたいんだから早くしてよねー?」

「ねぇ、この子さっきからすっごい自由なんだけど、こんな腹立つ女の子が本当に女神なの?」

 

 茶菓子を頬張る駄女神に呆れた視線を向けるものの、確かにこれだけ後押しされて答えないのは男が廃る。

 

「分かりました将軍様! 真選組初代局長の任を謹んでお受けします!」

「うむ、引き受けてくれたことに感謝する。では早速、お前に支給品を授けよう。ウィズ殿、例の物で一番大きいサイズを頼む」

「はい、シゲシゲさん」

 

 笑顔で返事をしたウィズは、カウンターの裏に置いてあった何かを持ってきた。彼女の手から茂茂に渡された物は真っ黒な洋服で、近藤にとってはとても見慣れたものだった。

 

「そっ、それは真選組の隊服!?」

「実を言うと、昨日完成したばかりの試作品でな。ウィズ殿に作ってもらった物を見定めていた最中なのだが、とりあえず裸のお前はこれを着るといいだろう」

「あっ!? いや、ははは……ありがとうございます!」

 

 改めて指摘されて急に恥ずかしくなった近藤は、恭しく隊服を受け取ると、早速その場で着衣した。すると、全裸のオッサンからいつもの近藤の姿になった。

 

「うむ、やはりお前にはその格好がよく似合う。これからは、この世界の真選組局長として冒険者の育成に尽力してほしい」

「はっ! 粉骨砕身の覚悟をもって職務を全ういたします!」

 

 ゴリラ隊長が茂茂に向かって敬礼をした瞬間、この世界にファンタジーな真選組が誕生した。果たして、ここではどのようなメンバーが揃うことになるのだろうか。チンピラの槍使いやボッチな魔法使いといったクセの強い連中が集まって来るかもしれない……?

 


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