このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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大変長らくお待たせしました!

一話分のつもりで作っていた『ゴリラ人襲来編』ですが、予定よりボリュームアップしてしまったため、前後編に分けることにしました。
ゴリラが異世界に来た理由は次回の話で明かされますので、もう少しだけ待っててください。



第23訓 たとえゴリラにソックリでも全裸で外を徘徊したら公然わいせつ罪

 偶然ながらもベルディアの撃退に成功した銀時達は、思わぬ収入を得ることになった。討伐までには至らなかったものの、街を滅ぼしかねない強敵を追い返した功績が評価されて、ギルドから特別に報奨金を貰ったのだ。さらに、そこへ弁財天白竜王大権現(偽)の討伐報酬も加わり、活躍した連中は300万エリスという大金をゲットすることになった。

 ちなみに、クソの役にも立たなかったアクアと長谷川は討伐報酬を大幅カットされたものの、棚ボタで手に入れた報奨金のおかげで100万以上の収入を得ることに成功した。

 

「マ、マジかよ……。マダオの俺が100万も稼げるなんて、夢オチなんじゃねぇだろうな?」

「確かに、それは有りうるから、ぶっ叩いて確認しよう」

 

 バキッ!

 

「ぶふぅーっ!?」

「私も不安になって来たからゴッドブローで確かめとくわ!」

 

 ズガッ!

 

「ぐはぁーっ!? って、なんで俺がボコられてんの!? 夢みたいな現実が悪夢と化してるんだけど!?」

 

 このように、夢オチ疑惑が持ち上がるほどビックリな展開である。もちろん、大金に縁の無いマダオ達は思わぬ幸運に狂喜乱舞し、調子に乗った勢いでどこかへ遊びに行ってしまった。

 

 

 

 銀時・長谷川・アクアの3バカトリオが行方知れずとなって数日が経ち、ギルドでダラダラとしていたカズマは、めぐみんとダクネスから不満をぶつけられていた。

 

「さぁ、カズマ! 今日もまた爆裂魔法の標的を探しに行きますよ! こうむしゃくしゃしていては、手当たり次第に爆裂させなきゃやっていられません!」

「お前はむしゃくしゃしてなくても爆裂しまくってるよね!?」

「だが、お前だって私達の気持ちが分かるだろう? ドSな主に放置プレイを強要され、淫らな声で鳴くことしか出来ない哀れなメス犬の悲しみが!」

「俺にはお前が喜んでいるようにしか見えねぇよ!」

 

 バカなリーダーのせいで、いらぬストレスを受けるハメになった。ノルンの能力によると、あの3バカ達は今日帰って来るらしいが、それはそれでストレスを受けそうでイヤだ。

 

「(はぁ~……あいつらが帰って来た途端に変なイベントが始まる気がするのはなんでだろう?)」

《それはキミがギャグ世界の住人だから仕方ないよねー。ぶっちゃけて言えば『運命』って感じ?》

「(運命の女神が適当なこと言ってんじゃねぇーっ!?)」

 

 近い未来を嘆いていたら、運命の女神から残酷な(?)宣告を受けてしまった。しかも、それを肯定するようなタイミングで銀時達が帰って来た。なぜか暗い表情で……。

 

「あっ、ギントキ! ようやく帰って来ましたね! 別に心配してたという訳ではありませんが、これまでいったいどこで遊んでいたのですか!?」

「バッキャロウッ! 俺達は決して遊んでたわけじゃねぇーっ! あの戦いは、己のすべてを賭けた真剣勝負だったんだよっ!」

「な、なにっ!? 我が主がすべてを賭けるほどの真剣勝負だと!? 私達の知らぬ間に、それほどすごい戦闘があったというのか!?」

「ああそうだ、今思い出しても震えるほどに熾烈な戦いだった……。いくら戦力を注ぎ込んでも砂漠にまいた水のようにあっけなく飲み込まれていく地獄のような戦場で俺達は戦い抜いたが、持てるすべてを使い果たしても我が身を守ることしか出来なかった。あの恐るべき【カジノ】という戦場ではなっ!」

「ただギャンブルで負けただけじゃねぇーかァァァァァッ!?」

 

 いざ話を聞いてみたらしょっぱいオチが待っていた。このマダオ共は、テレポートサービスで隣国のエルロードまで足を運び、アイリスに教えてもらったカジノで遊んでいたのである。その結果、せっかく手に入れた大金をあっさりと失ってしまった。やはり、こいつらは筋金入りの貧乏野郎だった。

 

「なるほど、そういうことですか。カジノで負けてすっからかんになったから暗い顔をしてるのですね」

「ばっ、ちっげーよ! 俺らは別に負けてねーし!? カジノという名の銀行に貯金してきただけだっつーの!」

「ええ、そーよ! 心の広い私達は無利子でお金を預けただけよ!」

「無利子どころか無一文になってますけど!?」

 

 大人気無い言い訳にめぐみん達は呆れてしまう。手に入れた大金をすぐさまギャンブルで失うなんてマダオにも程がある。

 それでも、済んでしまったものは仕方がない。この手の逆境に慣れた長谷川は、よくある話だとヘラヘラしながら次のイベントを持ちかける。

 

「まぁ、イヤな過去はさっさと忘れて、今は地道に仕事をしようぜ!」

「ええ、そうね! 早くお金を稼がないと、あの忌々しい取り立て地獄が復活しちゃうもの!」

「両さんみてぇにツケを溜めなきゃいいだけの話じゃね!?」

 

 カズマの指摘はもっともなれど、それが出来たらアクシズ教の御神体などやってはいられない。

 どのみち、持ち金ゼロとなった駄女神には仕事をするしか選択肢が無く、50万エリスほど残しておいた銀時も損した分を挽回すべく掲示板へと足を運ぶ。

 

「よーし、お前ら気合いを入れろー! いつまでも、休日気分でダラダラしてんじゃねぇぞ、ゴルァ!」

「カジノ帰りのお前が言うなよ! まるで説得力が無ぇんだよ!」

 

 バカなリーダーにつっこみつつ、ぞろぞろと付いていく。なんだかんだと言いながら、カズマも暇を持て余していたのだ。

 

「まぁ、そろそろ頃合かな。魔王の幹部はいなくなったし、俺達向きの簡単なクエストも復活してるだろ」

「ふん、なに甘っちょろいことを言っているのですか。今回も高難易度のクエスト以外に選択肢はあり得ません。ドラゴンスレイヤーとなった私は、簡単なクエストでは満足出来ない身体になってしまったのですから、責任をとってもらわなければ困ってしまいますよ!」

「頭のおかしい欲求をエロい感じに言うんじゃねぇーよ!? そんな理由でモジモジされても、こっちの方が困るわ!」

「まったく、カズマは甲斐性無しだな。鈍いと言われる私ですら、めぐみんの気持ちがよぉーく分かるぞ。あれほどまでに荒々しい被虐行為を味わったら、もはや並の代物では満足出来ないだろうからな! 私も、もっと激しい恥辱を受けられるクエストを望んでいりゅ!」

「こいつに至っては、本当にエロい意味で欲求不満だしよぉーっ!? そういうプレイをクエストに求めないでお願いだから!」

 

 道すがら中二病とドMがふざけたことを言って来るが、こんな奴等は無視だ無視。今度こそ、命の心配がない安全なクエストをのんびりだらだら楽しむんだ。そう思いながら掲示板を見てみると、彼が望んでいるような易しい仕事は一つも無かった。

 

「あれ、おかしいな。魔王の幹部がいなくなったのに、高難易度のクエストしか出てないぞ?」

 

 これはいったいどういうことだ。ギルドのお姉さんから聞いた話では、ベルディアにおびえて隠れていたモンスターも次第に戻ってくるらしいのに……。

 予期せぬ状況にカズマ達が困惑していると、まるで狙っていたかのようなタイミングで桂とエリザベスが現れる。

 

「それについては、この俺が説明しよう」

「ああ、ヅラか。なんか久しぶりだなぁ。俺ぁてっきり、引きニートのカズマに出番を取られたから、出づらくなって引きこもってたのかと思ってたぜ」

「ヅラじゃない、桂だ! そもそも、俺をこのような引きニートと一緒にするな。出番が無い間、大いに暇を持て余した俺達は、どうにかツインファミコンを使えないかと任○堂的な技術を求めて世界中を駆け巡る摩訶不思議アドベンチャーを繰り広げていたのだからな」

「確かに引きこもっちゃいねぇけど、アクティブ過ぎてこっちが引くわ!? つーか、お前ら、俺達が魔王の幹部と戦ってる時にそんなことやってたのぉーっ!? もっと他にやることあんだろ!? 勇者王の仕事があんだろ!? 大体、いつまでツインファミコンに捕らわれ続けてやがんだよ!?」

 

 相変わらずバカなことしかしていないバカコンビに怒鳴り散らす。

 しかし、これでも社会人、茂茂から頼まれていた仕事はしっかりやり遂げていた。

 

「落ち着け、銀時。そのようなこと、貴様に言われるまでもない。ツインファミコンに対する熱意は元より、仕事の方も抜かりは無いさ」

「いや、どう見てもツインファミコンの方に気を取られまくってるけど」

「ふっ、そんなことはないぞ。その証拠に、俺と将ちゃんが完成させた超兵器をみんなに披露してやろう」

「ああ? 超兵器だぁ?」

 

 なんだか話がおかしな方向に向かいだした。確かに、そんな伏線が大分前からあったけど、こいつらが絡むとなると碌なことにならない気がする……。カズマがそう思った途端に、奴等の同類であるめぐみんが食いついて来た。

 

「ほほう! 超兵器とは、なんともロマンを刺激される素敵な言葉ですね! それはいったい、どのようなものなのですか?」

「論より証拠、興味があるなら直に見るといいだろう。実を言うと、これからソレをぶっ放すつもりなのだ」

「ぶっ放すって、試射でもすんのか?」

「ああ、そうだ。その標的として、この街のクエストに悪影響を及ぼしているという新種のモンスターを選択した」

 

 そう言いながら、桂は掲示板の一カ所を指差した。見るとそこにはギルドからの依頼書が張り出されており、近くにいたダクネスが内容を確認してみた。

 

「どうやら、こいつが元凶で間違いないようだな……。異様なオーラを放つモンスターがベルディアと入れ替わるように近隣の草原地帯に住み着いてから、弱いモンスター達が隠れてしまったという観測データが出ているようだ。さらに、そいつの戦闘力も想像以上に強力で、討伐に向かった者達は弄ばれるようにあしらわれて、ことごとく敗走していると記されている……んくっ!」

「お前今、モンスターに『弄ばれる』ってところで興奮しただろ?」

「っ!? していない!」

 

 ジト目になったカズマは、頬を赤らめて否定するダクネスを睨みつつ考える。クエストの異常が続いている理由は、ベルディアと入れ替わるようにやって来たモンスターのせいらしい。しかも、そいつはかなり強くて、冒険者は元よりギルドの方でも困り果てているという。幸い死人は出ていないが、アクセルの住人に被害が出る可能性は当然否定出来ないため、それを知った桂達が超兵器の試験も兼ねて討伐する気になったのだ。

 

「ルナ殿の話によると、俺より先にダストというチンピラが討伐依頼を受けたらしいが、『どうせ負けちゃうと思いますから、彼らがトラウマを背負う前に助けてやってください』と快く頼まれたぞ」

「可哀想なダストさん。どんな奴かは知らないけど、同情を禁じ得ないよ……」

 

 あまりに哀れなチンピラ冒険者の扱いに、カズマは奇妙な親近感を覚えてしまう。

 一方、金のことしか眼中にないアクアと銀時は、抜け駆けしているダストに向けてあからさまな敵意を抱く。

 

「他人に厳しいカズマさんが、なに甘っちょろいこと言ってんのよ! ヤムチャがベジータを超えるくらいの超絶ミラクルが起きて、そのチンピラが勝っちゃったら、私の高額報酬が全部パァになっちゃうのよ!?」

「んなもん、許しちゃおけねぇだろう!? そうなる前に、そいつごと超兵器でぶっ飛ばしてやるっ!」

「強欲なるチンピラよ! 己の罪を悔いながら、審判のいかづちを受けるがいい!」

「お前らの方こそ強欲だよね!? 罪にまみれた守銭奴だよね!?」

 

 高額報酬に目が眩んだバカ達は、勇者らしからぬことを言い出した。

 

「(ダスト、逃げて! 超逃げて! 早くしないと悪魔が来るよ!?)」

《だいじょーぶだよ、カズマ君! ダストとかいうヤツは、超兵器を使う前にヤられちゃうから!》

「(まったく大丈夫じゃないんだけど!? いったいナニをヤられちゃうの!?)」

 

 急速に進展していくおバカなイベントに一抹の不安を感じてしまう。しかし、超兵器とやらを見てみたい欲求にはカズマも勝てず、結局みんなで『謎のモンスター討伐クエスト』に参加することになった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 アクセルから出て砦に到着した一行は、門前の広場で桂達が来るのを待っていた。奥にある倉庫から、馬を使って超兵器を移動させているのである。

 

「どのような代物なのか、とってもワクワクしますね! 超兵器と言うほどですから、さぞすさまじい威力があるイカした魔道具なのでしょう!」

「おいおい、めぐみん。あんま期待し過ぎてっと後で激しく後悔すんぞ? あのバカのことだから、予想以上に使えねぇゴミ兵器に決まってるぜ。たとえば、時速160キロの球が投げれるロボピッチャとかな」

「それはそれで凄いんじゃね!?」

 

 身も心もお子様なめぐみんは素直に期待し、身も心も汚れちまった銀時は端から期待の欠片もない。果たして、どちらの予想が当たるか。みなが答えを求める中、渦中の兵器を取りに行った桂が馬を引いて戻ってきた。

 

「さぁ、心して見るがいい! これこそが魔王に対する人類の希望だぁーっ!」

「なんだよオイ。【ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲】じゃねーか。完成度高けーなオイ」

「予想以上の珍兵器が出て来やがったあああああああああっ!?」

 

 あまりにも笑撃的な出会いに銀時が驚く。この男性器にしか見えない卑猥なデザインは、間違いなくネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だが……。まさか、アレの実物を異世界で見ることになろうとは!

 

「つーか、なんでコイツを作った!? こんな卑猥な大砲よりも、ギャリック砲とかカッコイイのがもっとたくさんあんだろう!?」

「なんだと貴様!? 人類の希望として作られし大砲を、サイヤ人編だけしか出番のなかったギャリック砲よりもかっこ悪いとほざくかぁーっ!?」

「お前らどっちもおかしいんだよ!! チ○コ型の兵器とか恥ずかしくて使えねぇーし、ギャリック砲に至っては兵器ですらねぇーだろう!?」

 

 頭の悪いサムライ同士が頭の悪い論争を始めた。そりゃまぁ確かに、期待していた超兵器が超卑猥なチン兵器だったのだから、銀時が荒ぶるのも無理はない。

 ただ、いちゃもんをつけているのは彼だけで、女性陣からの反応は残念ながら好評だった。変な感性を持っためぐみんは、楽しそうに玉の部分をペタペタ触りまくっており、変な性癖を持ったダクネスは、竿の部分に頬摺りしながらナニかを連想して興奮している。

 

「これはいい、すごくいいです! この絶妙なテカり具合といい、ビンビンと身体に感じる膨大な魔力といい、なんと見事な玉でしょうか! どうやら、かなり濃いモノが溜まっているようですねぇーっ!」

「はぁっ、はぁっ! よもや、これほどまでにいやらしい拷問器具が存在していようとは!? こんなにも巨大なモノで激しく責められまくったら、私の身体はいったいどうなってしまうだろうかっ!?」

「ちょっと待てぇーっ!? そこまで生々しいヤツはジャンプ的にアウトだから!? それ以上はやめてくれぇーっ!?」

 

 R-18な内容になりそうだったので、慌てて長谷川が止めに入る。そもそも、見た目がすでにヤバいよ。どう見ても2人の美少女が巨大なチ○コと戯れているようにしか見えないんだけど、画的に大丈夫なのかコレ?

 卑猥な大砲に興味津々な女子共にカズマ達が引いていると、その騒ぎに加わっていなかったアクアが珍しく真面目な様子で言葉を発した。

 

「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲……まさか、こんなものが地上に持ち込まれていたとはね……」

「えっ、なにソレ? なんか唐突に思わせぶりなこと言い出したけど、もしかして、お前もあのわいせつ物を知ってんの?」

「ええ、あの日の光景を忘れることなんて絶対に出来ないわ……。私がまだ美幼女だった頃に勃発した第7億4687万5289次神魔大戦。その時初めて実戦投入されたあの大砲によって地獄軍は敗退し、私達天界軍は栄光ある『優勝旗』を手にすることが出来たのよ!」

「ハルマゲドンかと思いきや、世紀末的な運動会じゃねぇーかああああああっ!?」

 

 壮大かつ間抜けな回想にカズマが怒声を上げる。神と悪魔がバイオレンスな運動会を楽しんでいたという話もアレだし、そこであの大砲が活躍していたという事実にもつっこまざるを得ない。特に、アレをこの世に生み出したと自負している銀時にとっては晴天の霹靂である。

 

「これはいったいどーいうことだぁーっ!? なんで卑猥な雪像が、時空を超えて神様の兵器になってるワケ!? 大体、ヅラはこんなモンをどこから見つけて来たんだよ!?」

「ああ、それはウィズ殿の店で売っていた設計図を元に再現したものだ」

「あの店は天界の兵器まで売りさばいていたのかよ!?」

 

 まさに、死の商人である。

 ぶっちゃけると、茂茂を手助けするためと称してカグヤが密かに持ち込んだものであり、真相を知ったノルンは呆れてしまう。

 

《またアイツの仕業かよ!? アクアがバラ巻いたチートアイテムだけでも厄介なのに、カグヤのヤツまで加わったらエリスちゃんの胃が持たないよ!?》

「(どうしたノルン!? なんかいきなり叫びだしたが、カグヤっていったい誰だ!?)」

 

 急に荒ぶりだした相棒を見て、なにも知らないカズマは驚く。なんとなく真相を明かさない方がいい気もするけど、プンプンと怒る美幼女を眺めながらトークをするのはいいものだ。現実逃避を始めたカズマは、イイ笑顔を浮かべて目の前に浮かぶノルンを見つめる。

 そんな奇妙な空気の中、砦の中にある小屋から茂茂が出てきた。

 

「なにやら朝から賑やかだな」

「おお、将ちゃん。どうやら、そっちも出かけるようだな」

「うむ、ウィズ殿に用事があるゆえ、これから魔道具店に行って来る。ところで、そちらは何用だ?」

 

 これだけ騒げば当然事情が気になるわけで、質問してきた茂茂にこれまでの経緯を説明する。

 

「とまぁ、かくかくしかじかで、試し撃ちをしたいから、この大砲を使わせてもらうぞ」

「相分かった。お前がそう望むのであれば是非もない」

「えっ、人類の希望とか言ってたのに、そんな適当でいいの!?」

 

 純粋な茂茂は、一度信じた人間にはどこまでも寛大になれるので、ちゃらんぽらんな桂の行動も許されてしまった。

 それでも、一つだけ注意しておかなければならないことがある。

 

「念のために言っておくが、撃ちすぎには注意しろよ。特殊な素材を用いているゆえ、1発につき5000万エリスもかかってしまうからな」

「あんなの撃つのにそんなかかんのぉーっ!?」

 

 あまりの高さにカズマが叫ぶ。確かに、近代兵器は億単位の値段がつくものばかりだけど、あんなものにはかけたくねぇ。

 とはいえ、アレでも絶大な攻撃力を持った決戦兵器であることには違いない。その性能を確認するべく、銀時達は戦場へと向かっていった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 謎のモンスターが出没するという草原地帯に急行した一行は、数キロ先で戦闘をしている複数の人影を発見した。先行しているダストのパーティが謎のモンスターと交戦しているらしい。

 遠目が利くようになる【千里眼】というスキルを使えるカズマは、戦況をいち早く確認する。

 

「あっちの4人がダストってヤツのパーティで、あのゴリラっぽい顔をした全裸のオッサンが例の迷惑モンスターか……って、全裸のオッサン!?」

 

 謎のモンスターの正体を知って思わず二度見してしまう。

 

「つーか、モンスターじゃないよねアレ!? 身体は全裸の人間だもの! 顔以外はオッサンだもの!」

「はぁ? なに言ってんのお前? ありゃあ、どう見たってゴリラ型のモンスターじゃねぇーか。ドラクエとかでよく見るようなゴリラ面してんだろ?」

「確かにゴリラ面だけど、ゴリラなのは面だけだよね!?」

「ゴリラヅラじゃない、ジャニ○ズ顔の桂だ!」

「テメェの話はしてねぇんだよ!? 昭和臭ぇバカ面野郎!」

 

 遠目が利かないせいか、銀時と桂は、あの全裸野郎をゴリラだと言い張る。そして、それを肯定するようにダスト達は戦い続ける。理由は分からないが、彼らもアレをモンスターと認識しているらしい。

 

「こいつぁマジでどういうことだ!? みんなと違うものが見えるとか、ものすげー怖いんだけど!? まさか俺は邪王真眼の使い手に覚醒しちまったのかぁーっ!?」

「いったい、なにごとですか!?」

 

 テンパったカズマが発狂したように叫び出して、となりにいためぐみんを不必要にビビらせる。彼だけゴリラに見えない理由はノルングラスをかけているおかげなのだが、事情を知っているノルンの方は一切説明することなく人間観察に熱中していた。

 

《へぇ~。あのダストって人、ただのチンピラじゃなかったんだー》

 

 彼の過去を少しだけ見て面白い事実が分かった。あのチンピラは、軽薄な見た目に反して意外な特技を持っており、偶然それを見ることになった銀時も一目で高い評価をつける。

 

「ほう、あの金髪の槍捌きはなかなかのもんだな」

 

 巧みに槍を使いこなすダストの実力は、戦歴豊富なサムライから見てもかなりのものだった。

 皮肉なことに、ダストが本来の力を出せるようになったきっかけは銀時にあった。遊び人が起こしたバカ騒ぎのせいで酷い目に遭わされまくったダストは、溜まりに溜まった悔しさから一方的に対抗意識を抱くようになってしまい、ベルディアの件でさらに差をつけられたことに焦った彼は、分が悪いと言わざるを得ないこのクエストを受けてしまったという訳だ。

 それでも今は勝てそうな空気感を出しており、ダクネスですらドMを忘れて素直に感心する。その反対に、報奨金を取られたくないアクアは因縁をつけてくるけど。

 

「まさか、あれほどの実力者がアクセルにいたとはな……」

「確かに、チンピラとは思えない戦いっぷりですけど、『ランサーは噛ませ犬』というお約束には決して抗えないわ!」

「がんばってるランサーさんに失礼なこと言ってんじゃねぇーよ!?」

 

 駄女神の心無い言葉を叱りつける。あいつらだって真剣なんだよ。脚本の犠牲になっても一生懸命戦ってんだよ。

 しかし、アクアの言葉が呪いとなったのか、ダストの攻勢が終わってしまう。

 

「あっ、ゴリラに槍を奪われました」

 

 めぐみんの言う通り、槍を掴まれた瞬間にダストはゴリラに蹴り飛ばされて、頼みの武器を失った。こうなってはもう勝ち目などなく、地面に転ばされた彼はその場から逃げようとする。

 だが、そこで更なる悲劇に襲われる。なんと、起き上がる途中で四つん這いになった瞬間に攻撃を受けてしまい、丁度いい感じの高さにあったケツ穴に槍の石突を突っ込まれてしまったのである。

 

「ダストの出すとこが槍でヤられたァァァァァッ!?」

 

 ノルンが予言した通り、ダストはゴリラにケツ穴をヤられてしまった。ケツに槍を刺したまま仲間に運ばれていく様はとても悲しい光景で、流石のアクアも思わず祈りを捧げてしまう。ただ一人、ダクネスだけはイイ笑顔を浮かべていたが……。

 

「くふぅんっ! 仲間の前であれほどまでの恥辱を与えるだなんて、どこまで鬼畜なヤツなのだ! こうなれば、クルセイダーとして私が仇を取らねばなるまい! いいや、止めても私は行くぞ! たとえヤツに敗北し、みなの前でア○○○○○○クされたとしても、必ず耐え抜いてみせりゅからっ!」

「今この瞬間にも耐えられてないんですけどぉーっ!? つーか、テメェが騒いだせいでゴリラ野郎に見つかったぁーっ!?」

 

 逃げていくダスト達に興味を失ったゴリラは、数キロ先で騒いでいる銀時達の存在に気づいてしまった。命を狙われ続けた今の彼にとって人間はすべて敵でしかなく、いっさいの迷い無く防衛行動を始めた。

 

「お妙さんのペチャパイをこの目で拝むまで、俺は死ねないんだああああああああっ!!(日本語)」

「なんか、気持ち悪いこと叫びながらこっち向かってキタァァァァァッ!?」

 

 怒りとエロスに精神を支配されたゴリラは、ドス黒いオーラを放ってこちらに接近してくる。見た目は全裸の変態だけど、鬼気迫る雰囲気は凶暴なモンスターのそれであり、魔王の幹部に匹敵するスーパーゴリラだと言えなくもない。

 だが同時に、カズマはあれが人間であると確信する。

 

「だって、今おもいっきり日本語で喋っていたもの! はっきりとペチャパイって卑猥な単語が聞こえたもの! 分かりやすく(日本語)とかあざとい語尾になってたし、あの人は俺達と同じ転生者かもしれないぞ!?」

「はぁ? なに言ってんだよカズマ君。確かにペチャパイとか言ってた気もすっけど、ありゃどう見てもモンスターじゃねぇーか」

「そうだぜカズマ。そりゃあ、異世界なんだから、日本語話すゴリラくらいいてもおかしかねぇーだろう?」

「いるわけねぇーだろ、そんなゴリラ!? つーか、アレ、ゴリラじゃねぇーし! ゴリラみたいなオッサンだから!」

「こんな時にふざけるな! 黙って聞いてやっていれば、頭のおかしいことばかりほざきおって! 不可視境界線があるとか妄想してるイタイ中二病の戯言などに構ってなどいられぬわっ!」

「誰がイタイ中二病だ!? 俺の頭はめぐみんと違って至極まともだぁーっ!」

「おい、それはどういう意味だ!? 爆裂魔法を詠唱しながら聞かせてもらおうじゃないか!」

 

 カズマが必死に訴えてもマダオ達には伝わらず、挙げ句の果てには、めぐみんの怒りまで買ってしまう始末になった。

 第一、凶暴化したゴリラは止める必要がある。そのために来た桂達は、カズマを無視して立ち上がる。

 

「さぁ、いくぞエリザベス! 波動砲用意!」

〈了解! 波動砲発射用意!〉

「そんな下品な波動砲があってたまるかぁーっ!? つーか、これヤバいんだけど、このままやらせていいのかぁーっ!?」

 

 良いも悪いも、走り出したバカ共を止める手段はカズマに無い。ようやく完成したネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の実戦射撃を成功させるべく準備を進めていく。

 

〈目標、正面! ゴリラ型モンスター1体! 距離、2300! 高速で我が隊に接近中!〉

「照準合わせ! 目標、正面のゴリラ型モンスター! 対ボスキャラ榴弾装填! ヤツのどてっ腹に食らわしてやれ!」

 

 なんかそれっぽい号令を言ってテンションを上げていき、それに釣られたノルンもまた、カズマの頭上でかっこつける。

 

《見せてもらおうか、地上の技術で作られた、超兵器の性能とやらを! 天界のヤツは波動砲だったからバニルのバカも一発でぶっ飛ばせたけど、こっちのはどうかなー?》

「(オリジナルは本当に波動砲だったのぉーっ!? つっこみどころ満載だけど、バニルってヤツはどうなってんだ!? ウィズの友達とか言ってたけど、波動砲食らってんのになんでピンピンしてんだよっ!?)」

 

 本来の力を発揮した神と悪魔の出鱈目さを知って、カズマは一人戦慄する。まさか、運動会で本物の波動砲をぶっ放していただなんて、撃ってたこいつも死なないバニルもどうかしてるぜコンチクショウ。

 

「ってことは、あの巨大チ○コは、マジで波動砲なのかぁーっ!?」

《だいじょーぶだよ、カズマ君。流石の桂でもイスカ○ダルの技術は再現出来なかったから、火薬の代わりに魔力を使ったファンタジーな野戦砲に改造したみたいだよ?》

 

 ノルンの言うように、あの大砲は、実体弾を撃ち出す野戦砲だ。

 2つの玉に納めた高純度のマナタイトから魔力を抽出して薬室に送り、圧縮したそれを使って砲尾に仕込んだ【爆発魔法】のスクロールを複数同時に起動させ、その圧力で実体弾を発射する。従来の科学技術に魔法の力を合わせた仕組みである。

 もちろん、弾の方にも工夫があって、対ボスキャラ榴弾の中には改良型ジャスタウェイが6個も内蔵されており、運動エネルギーを合わせると部分的な破壊力なら爆裂魔法に匹敵する。

 コストが高くて量産出来ない上に、デザインについても問題だらけだが、性能に関しては折り紙付きで、銀時達も興味が湧く。

 

「見てろよ女子共! いよいよ、巨大なチ○コから熱いものが飛び出すぜぇーっ?」

「お前はなんつーこっ恥ずかしいセクハラしてんだァァァァァッ!? 好きな子にイタズラする小学生みたいで痛々しいから、そういうのはいい加減卒業しろよ、頼むから!?」

 

 内心のワクワクを隠せない遊び人とマダオが大人気無い会話ではしゃぐ中、その瞬間は訪れる。

 

〈魔力チャンバー内、圧力上昇! エネルギーチャージ、120%!〉

「よーし、テェーッ!」

 

 桂の合図に従って、本来ならもっと未来で開発されるはずの近代的な矢が放たれる。回転しながら飛び出したソレは猛スピードで空を飛翔し、激走しているゴリラに向かって流星のように落下していく。

 これは間違いなく直撃だ。自分の技術に自信があったエリザベスは、撃った直後に勝利を確信する。

 だが、彼の予想した歓喜の瞬間がやって来ることはなく、代わりにとんでもない事態が起こった。なんと、ゴリラは超反応でとっさに身体を一回転させ、体勢を整えた直後に飛び込んできた砲弾をこちらに蹴り返してきたのである。

 

「当たらなければどうということはない!(日本語)」

「シャア的なセリフを言いながら弾を蹴り返したあああああああーっ!?」

 

 まさに非常事態である。この世界に来て以来、命懸けの戦いを強いられ続けたゴリラは、砲弾を蹴飛ばせるくらいに強くなっていたのだ。

 

「つーか、こっちに飛んで来るけど、これってすっげーヤバいんじゃね!?」

「総員退避ィィィィィッ!! あれはもうじき爆発するぞっ!!」

 

 桂が指示を出すや否や銀時達は逃げ出した。幸い、弾は大きな放物線を描くように飛んでいるので、逃げる時間はかろうじてある。その代わりに、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲は諦めなければならないが、今は人命を優先する時である。

 だがしかし、自分の命よりも世界平和を優先するダクネスは、卑猥な大砲を守るように両手を広げて立ちはだかった。

 

「こんなことで人類の希望を破壊されてなるものかっ! この巨大なチ○コこそ、我らを更なる快楽へ導いてくれる救世主! それをお守り出来なくてドMを名乗っていられるかァァァァァッ!!」

「そんなもん、命懸けで名乗ることじゃないんだけどぉーっ!?」

 

 つっこんだ銀時は、こんな時でもまったくブレないダクネスに呆れつつも、無謀な彼女を助けようと自然に身体を反応させる。砲弾が当たる前に妖刀・星砕を投げつけて爆発させたのである。そのおかげで直撃するよりかは被害を押さえられたものの、それでもダクネスは大ダメージを受けてしまった。

 

「ああ……快・感!」

「こいつぁやべぇ! 爆発の衝撃で感覚が狂ってやがる!」

「いや、その症状は元々あったものだから。その人は、登場した時からナチュラルに狂ってるから」

 

 唐突に始まったSMコンビのコントに、カズマが冷静なつっこみを入れる。

 幸いゴリラは、素足で弾を蹴ったせいで、すねを痛めて止まっているが、のんびりとコントをしている余裕などはない。

 

「今のうちにダクネスの治療を頼んだぞ、衛生兵……じゃなくて、エセ女神!」

「誰がエセ女神よ、引きニート!?」

 

 せっかくの出番にケチをつけられたと、幼稚なアクアが突っかかってくる。そんなことをするよりも、さっさと回復してやれよ。イラついたカズマが心の中でぼやいていると、彼女の役目が奪われるという珍事が発生してしまう。

 

「エリザベスよ。ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を守ってくれた礼に、アレをかけてやってくれ」

〈オッケー分かった。【ベホマ】ッ!〉

「おお、なんということだ!? あれほどのダメージが一瞬で全快したぞ!?」

「世界のルールをガン無視してドラクエの呪文使ったぁーっ!?」

 

 エリザベスはベホマをとなえ、痛みを楽しんでいたダクネスを一瞬で回復させた。まさか、あの超有名な回復呪文をこの目で見ることになろうとは。ファミコン時代からお世話になっている銀時と長谷川は興奮し、若手ゲーマーのカズマもまた便利なスキルに笑みを浮かべる。その反対に、アクアだけは恐怖で真っ青になっているけど……。

 

「これはいったいどういうことよ!? なんでアンタがベホマなんて高等呪文を使えるの!? 大体、ドラクエの呪文なんて存在しないはずですけど!?」

〈はぁ? ナニ寝ぼけたことぬかしてんだよ。【魔物使い】の俺がベホマ覚えんのは当たり前だろーが〉

「そういやぁ、そんな設定で登場してきやがったけど。まさかお前、ドラクエ5の主人公と同じ呪文を使えんの?」

〈ベホマやバギクロスは元より、ルーラやパルプンテなども使えますが、それがなにか?〉

「そんなのウソでしょ!? ねぇ、神様!?」

「お前がその神様じゃね?」

 

 予想外の事実を知り、アクアの危機感メーターが急上昇していく。このままでは『回復魔法が使える』という唯一の長所を奪われてしまう!

 

「うわあああああああんっ!? こんなオバQのパチもんなんかに、回復キャラの座は渡さないんだからぁーっ!!」

〈やんのか駄女神!? この前は後れをとったが、今日こそ決着つけてやらぁ!〉

「こんな時に、醜い仲間割れしてんじゃねぇーっ!?」

 

 しょーもない理由でケンカが始まってしまった。その様子に呆れつつ、カズマは冒険者カードを取り出す。

 

「あの駄女神、ほんっとバカだぜ。エリザベスだけじゃなくて、俺と長谷川さんもベホマを習得出来んのに……。よし、あった! 【ベホマ】500万ポイント……って、遊び人スキルと同じオチかよっ!!」

 

 思惑が外れたカズマは、冒険者カードを地面に叩きつけた。バカな存在はアクアだけではなかったことを失念していた彼のミスだ。そのせいで、彼の周りにいるバカザムライ達からも絡まれてしまうハメになる。

 

「おいカズマ、なにやってんだ! あまりにもヒマだからって遊戯王ごっこしてんじゃねぇーよ! それっぽいアクションしても、ブルーアイズホワイトドラゴンは召喚出来やしねぇーぞ!?」

「そんな遊びしてねぇよ!? つーか、もうこんなの止めない!? あのゴリラ人間だし……」

「この後に及んで、まだそんな戯言を言うか! 大砲から放たれた弾を蹴り返す人間がどこにいる!? あれほどまでに立派なゴリラが、ゴリラじゃないわけないでしょーがっ!?」

「確かに、アレを人間と認めたくないのは俺も同じだけれども! ゴリラだって大砲の弾を蹴り返したりしないよね!?」

 

 銀時と桂による割と理不尽な口撃がカズマを襲う。真面目な話をしただけなのに、どうしてこうなった!

 ただ、視点を桂に変えてみると、そちらもまた真面目な思惑があった。

 

「とにかく、今は出来る限りのデータを集めて、後に王都で結成する【モーレツ爆裂砲撃隊】の稼働率を少しでも高めねばならんのだ。ゆえに、ここは俺に任せて、君は大人しくしているがいい」

「なにそのダサい部隊名!? 熱意が微塵も感じられない適当さなんだけど!? 『モーレツに頭のおかしい爆裂狂』はコイツですでに間に合ってるから、そっちはもっとカッコいい名前にしてくれよ!?」

「おい、お前達っ! 大人しく聞いていれば、偉大なる爆裂の名を私とセットでバカにして! いったいどれだけこの私を怒らせるつもりですか!? いいえ、もはや限界です! 我慢強いと評判の私もマジでキレてしまいました! こうなれば勝負です! あんな卑猥な大砲よりも、私の爆裂魔法こそが遙かに上だということを、愚かなるあなた達に思い知らせてあげますよ!」

 

 バカ二人の相手をしていたら、めぐみんが乱入してきた。大砲の威力が想像以上に強力だったせいで爆裂魔法の存在意義を脅かされてしまい、アクアと同じような危機感を抱いてしまったからだ。

 それゆえに、俄然気合いが入ってしまう。

 

「大砲などなにするものぞ! 我が誇りし爆裂魔法は、神すら恐れる魔弾にして、決して逃れる術のない無慈悲なる業火なり! それは、魂までも焼かれる火刑! それは、死しても安らげぬ火葬! その血、その肉、その骨の、一片までをも決して漏らさず、一切合切、汝のすべてを怒りの炎で焼き尽くさん! これが運命! 避け得ぬ宿命! 己が不幸を呪いながら、醒めない悪夢に飲まれて果てろっ!!」

「お前はどんだけあのゴリラに八つ当たりする気満々なんだよ!?」

 

 やたらとおっかない内容の詠唱を唱えるめぐみんは、カズマのつっこみを無視して必殺の魔法を放つ。

 

「【エクスプロージョン】ッ!!」

 

 めぐみんの叫び声が響いた直後に眩しい光が発生し、それからまもなく届いてきた爆音と衝撃波がカズマ達を襲う。

 これはヤバいよ。マジヤバだよ。流石のゴリラも今度ばかりは助かる見込みが無いだろう……。

 

「(おい、ノルン。めぐみんのバカがとうとうヤっちまったんだけど、この後いったいどうすりゃいいの?)」

《だいじょーぶだよ、カズマ君。ギャグパートをやってる時は、どんなにヤバいことが起きてもギャグで済むのがお約束だから、危ない日でも安心だよ☆》

「(そういう危ない説明されても『そうですね』って言えねぇーよ!?)」

 

 残念ながら、ノルンの説明にはまったく説得力がなかった。その証拠だとでも言うように、煙が晴れた爆心地にはゴリラの姿が見あたらない。

 

「やっぱり、ヤっちまったか?」

「そんなの当然、ヤったに決まっているじゃありませんか! なにせ私の、怒りと悲しみと愛しさと切なさを込めた渾身の爆裂魔法だったのですから!」

 

 言葉の意味は分からないが、とにかくすごい自信があった一撃なのは間違いない。魔力が尽きて地面に寝転がっためぐみんは、満足そうに笑みを浮かべる。

 しかし、彼女の満足感はすぐに消し飛んでしまう。なんと、爆心地の土中から無傷のゴリラが飛び出してきたのである。

 

「この程度の攻撃など、お妙さんの想いが詰まった愛のムチには遠く及ばんっ!(日本語)」

「そそそそそ、そんなバカなああああああああああーっ!?」

 

 予想外の展開にめぐみんが悲鳴を上げ、銀時や桂までもがゴリラの活躍に目を見張る。

 

「まっ、まさか、こんなことが!? あの野郎、【あなをほる】で爆裂魔法に耐えやがった!」

「そ、そうか! 【あなをほる】で地面に潜ることによって、地下へ与えるダメージが少ない爆裂魔法を無効化したのか!」

「ちょっと待てぇーっ!? なんで急にポケ○ンみてぇな展開になってんの!? 生存本能刺激されて、ゴリラからゴーリキーに進化でもしたのかよ!?」

 

 バカなことを言うバカ二人につっこみつつも、殺人事件にならなくてホッとするカズマさん。その真逆に、必殺技を破られためぐみんは大いに取り乱してしまう。

 

「おっ、おのれーっ! よもや、あのような力技で爆裂魔法が破られるとは! いいえ、まだです! 私はまだ、本気を出してなどいません! さぁ、カズマ! ヤツがここへ来る前に魔力を回復してください! 次こそ必ずあのゴリラを、我が魔法で消し炭に……」

「ああ、いやスマン。今日はそういう気分じゃないから、また今度誘ってくれよ」

「飲み会を断るサラリーマンですか!?」

 

 これ以上面倒な話は御免だと、めぐみんの頼みを男らしく断る。好感度は下がるけど、いつまでもこんな茶番に付き合っていられるか。

 

「(魔力を補給しなければ爆裂魔法も使えないし、とりあえず、ゴリラの爆殺だけは防ぐことができるだろ……)」

 

 なんてことを、ちょっと前まで思ってました。それなのに、空気を読まない長谷川がカズマの代わりを申し出て、さらに面倒なことにダクネスまでが加わってきた。

 

「安心しろ、めぐみんちゃん! カズマ君がやらねぇなら、この俺に任せとけ! 覚えたばかりの【ドレインタッチ】でバッチリ回復してやるよ!」

「ならば、魔力の提供はこの私に任せてもらおう! アクアはまだケンカ中だし、むさ苦しい男達より、いやらしい身体をした女騎士から奪う方がハセガワも嬉しいだろう?」

「そりゃあ確かにそうだけど、もうちょいオブラートに包んでくれよ!?」

 

 どうやら、ダクネスには別の思惑があったようだが、とにかく今は時間が無いので魔力の回復を急ぐ。めぐみんとダクネスの首元に触れると、長谷川はすぐさまスキルを使った。

 

「よーし行くぞ! 【ドレインタッチ】ッ!」

「ほう、これがドレインタッチというものか。魔力が吸われていくごとに、なんだか心が清められて、これまでの私が酷く汚れていたような気がしてくる……」

「はぁっ、はぁっ! これはどういうことですか!? 急にエッチな気分になって、あのゴリラに弄ばれたい衝動が止まらにゃいれすっ!!」

「なんでだァァァァァッ!? どうして『マジックポイント』じゃなくて『マゾポイント』が移動してんだ!? 確かにどっちもMPだけど、どういう理屈でマジックポイントがマゾポイントに変化してんの!? つーか、マゾポイントってナニ!?」

 

 幸運がバグってるマダオは、ドレインタッチで変な物を吸ってしまった。カズマにとっては幸いなことに、めぐみんの爆裂魔法は間に合わなくなった。

 しかし、まだゴリラの方が解決したわけではない。このままでは、やたらと強い変態と白兵戦になってしまう……。

 なんてことを、ついさっきまでは思ってました。銀時と桂の二人が突撃して来たゴリラ野郎をフクロにするまでは。

 

「オラオラ、くたばれクソゴリラッ!!」

「恥を知らぬフルチン野郎が、人間様をなめんじゃねぇぞ!!」

「ぐぎゃああああああああーっ!?(日本語)」

「あんだけ散々やらかしといて、最終的にはボコ殴りかよっ!?」

 

 なんやかんやと騒いでみたけど、結局最後は通常攻撃で事が済んでしまいました。やっぱり、RPGの戦闘は会心の一撃を決めるのが一番気持ち良いよね。

 

「はぁ……なんにせよ、犠牲者が出なかったことだけは喜ぶべきだな」

 

 空しい内容だったものの、敵味方共に被害は軽微で戦闘が終わった。後は戦後の処理だけだと、カズマは一人安堵する。

 しかし、まだイベントは終わってなどいなかった。気絶したゴリラの顔を改めて確認した銀時は、信じられない事実にようやく気づいたのである。

 

「あれ、よく見たらこのゴリラ、近藤にソックリじゃね?」

「おお、そう言われると、近藤さんにめっちゃ似てるなぁ」

「確かに、この見覚えのあるゴリラ面は近藤と瓜二つだな」

「「「つーかコレ、本人だ……」」」

「えぇーっ!? その人、あんたらの知り合いなのぉ!? どういう仲か知らないけど、ボコる前に気づいてやれよ!?」

 

 あまりに酷い再会シーンにカズマの疲労が一気に増した。知り合いの人間をゴリラ型モンスターに見間違えるとか、普通はあり得ないよね。ノルンのおかげで【真実の姿】が見えるカズマだけはそう思ったが、銀時達が近藤に気づけなかった理由には、彼の想像を遙かに超えたトンデモ現象が関わっていた。

 


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