このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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大変長らくお待たせしました!
体調不良とか色々ありまして、しばらく休んでおりました。近頃ようやく落ち着いてきたので、ぼちぼち進めたいと思います。


第21訓 城の宝を勝手に持ってく勇者って正直どうかと思うけど仕方がないよね人間だもの

 弁財天白竜王大権現(偽)を討伐した帰り道、アクアは森の中で熊さんに出会った。もちろんソイツはファンシーなゆるキャラではなくデンジャーな野生動物なので、すぐさま逃げる。

 

「うわああああああん!! なんで私ばっかりこんな目に遭うのよぉおおおおおおおっ!?」

 

 綺麗なフォームで走りながら自身の不幸を嘆く。ついさっきドラゴンに追いかけられたばかりなのに、この展開はあんまりじゃないかしら。メインヒロイン(笑)にあるまじき扱いに怒りを燃やすが、今はそんな場合ではない。

 

「だずげで銀時さあああああああああんっ!!」

 

 プライドよりも命を取ったアクアは、ちょっと前にケンカ別れしたばかりの銀時に助けを求めた。なんだかんだと言いながらも強敵を倒してきた彼だったら熊くらいどうってことないはず……。

 

「おい銀さん、熊がこっちにやって来るよっ!? ボ○トみたいに綺麗なフォームの二足歩行で爆走してるよっ!?」

「魔力が切れた今の私はただのか弱い美少女ですから、リーダーのギントキがなんとかしてくださああああああいっ!?」

「おおお、落ち着けお前らっ! こういう時は死んだフリだっ! 俺が半殺しにしてやっから、後は上手く演技しろっ!」

「それもう演技じゃ済まねぇーだろう!? お前の方こそ落ち着けよ!?」

 

 こいつはダメだ、戦う前から負けてるよ。アクアの期待に反して銀時はすでにヘタレていた。

 その逆にダクネスはやる気に満ちた顔をするが、やられる気満々なドMに端から期待など出来やしない。

 

「壁役もダメだというなら、どうするつもりだ我が主!?」

「んなもん逃げるに決まってんだろ! 9秒台を切るつもりで必死に走れえええええええっ!」

「熊を切るより無理なんだけど!? そういうボケはもういいから、アイツをさっさと倒して来いや!!」

 

 何故か熊を警戒しまくっている銀時にしびれを切らした長谷川は、逃げようとする彼を捕まえて強引に押し出した。逃げるなんて主人公として許されない選択だし、このままだとアクアがヤバい。

 

「コンチクショーッ! こうなりゃ自棄だ! りら○くまだろうがくま○ンだろうがぶっ飛ばしてやらぁーっ!!」

 

 ようやく覚悟を決めた銀時はアクアをすばやく抜き去ると、彼女の背後に迫っていた熊に先制攻撃を食らわせた。目にも止まらぬ速さで洞爺湖を振り下ろし、相手の反撃も許さないまま一撃で昏倒させる。腐ってもジャンプマンガの主人公、やれば出来る子である。

 

「けっ、ビビらせやがって! いざやってみたらなんてこたぁねーじゃねーか! この熊公がっ!」

「銀時さあああああああん! 助けてくれてありがとぉ~っ!」

「うわ汚ねっ!? 俺の服で鼻水ふくんじゃねーっ!?」

 

 仰向けに倒れた熊に蹴りを入れていたら感極まったアクアが感謝のハグをしてきた。普通は喜ぶところだが、相手が普通じゃないので逆に嫌な気分になった。

 さらに、間の悪いことにアクアが逃げてきた辺りから別の熊が現れてこちらに近づいて来るのが見える。この駄女神はとことん疫病神らしい。

 

「おいおい、ここは熊牧場か!? 遭遇率高過ぎだろコレ!」

 

 不自然なほどのエンカウントぶりにうんざりしてしまう。まさかこのまま野生の熊と戯れ続けることになるのか。そう思っていた所で、目敏いめぐみんが異常を見つける。

 

「待ってください。あの熊おかしくありませんか?」

「ああん? そういやぁ、ここの熊は二足歩行が異様に上手いな……」

「そんなとこではありませんよ!? あいつの胸元を見てみてください! あの熊公、ケダモノの分際で見事な巨乳をぶら下げてやがるんですよっ!」

「お前はどこに注目してんだ!? 熊の胸にコンプレックス刺激されてんじゃねぇーよっ!」

 

 頭がおかしいと言わざるを得ないめぐみんの指摘に思わずつっこんでしまう。しかし、その指摘は意外にも的確だった。彼女の言うようにあの熊には『人間の女性みたいなおっぱいの膨らみ』があるのだ。というか、よく見ると体型だけでなく走り方や仕草などが妙に色っぽい。

 

「あれ、なにこの違和感。嫉妬に燃えるめぐみんに賛同すんのはアレだけど、やっぱあの熊おかしくね?」

「あ、ああ。なんかやたらとセクシーで、見てるとムラムラしてくるような……」

 

 銀時の問いかけに長谷川がアブノーマルな意見を返す。まさか、重度のケモナーに目覚めてしまったのかとカズマは密かにドン引きするが、もちろんマダオがおかしな性癖に覚醒したわけではない。

 なんと、走ってくる熊の頭が後ろにめくれて、中からウィズが現れたじゃーありませんか!?

 

「はぁはぁ、待ってくださいギントキさん! 【私達】は熊なんかじゃありませぇーんっ!」

「へっ、私達?」

 

 どういう理由か分からないが、熊の毛皮を着込んだウィズはこちらに向かって走りながら気になる言葉を叫んだ。私達というのはもしかして、さっきまで蹴りまくっていたこの熊のことかなぁ?

 嫌な予感を抱きつつ倒れた熊の頭をめくる。すると、中から白目を剥いて気絶している茂茂の顔が出てきた。

 

「将軍かよおおおおおおおっ!?」

 

 予想通りの展開にお約束の台詞を叫ぶ。なんと、銀時がぶっ倒した熊は、着ぐるみのような毛皮を着た茂茂だった。

 

 

 

 意外な形でウィズと合流した銀時達は、くわしい事情を聞く前に気絶した茂茂を運ぶことになった。彼女の案内で森の中をしばらく歩くとテントが張られたキャンプ地に到着する。どうやら二人はここでナニかをしているようで、想像の翼を広げたアクアが鋭く言い放つ。

 

「こんな人気の無いところで熊のコスプレをした男女がケダモノのように汚れた遊びをしてるだなんて……。とんでもない変態プレイをやっちゃってくれたわね!」

「そんないかがわしいことは一切やっていませんよぉーっ!?」

 

 アクアの想像はまったく当たっていなかった。

 もちろん茂茂達がこんなことをしているのにはちゃんとした訳があり、意識が戻った本人からくわしい事情を説明される。

 

「で? 変態プレイじゃねぇんなら、将軍達はここでなにをしてたんだ?」

「うむ……そなた達も聞いておろうが、あの丘に見える廃城には魔王軍の幹部がいてな。そやつに怪しまれぬよう偵察するためにこの格好をしていたのだ」

「ほう、それは見事な作戦ですね!」

「これっぽっちも見事じゃねーよ!? こんなことしなくても盗賊スキルで十分だよね!?」

 

 変なところに力を注ぐ茂茂とそれに共感するめぐみんにカズマがつっこむ。それなりに効果はあるし照れてるウィズが可愛いのでまったくの無駄ではないけれども、やっぱこれはおかしくね?

 

「でも待てよ。つーことは、まさか将軍も幹部の討伐報酬を狙ってるっていうことか?」

「いや違う。余の目的は、あの廃城に隠してある【財宝】の回収だ」

「財宝の回収ですって!?」

 

 金目の話題が出たところでアクアが元気に食いついてくる。

 

「ねぇ将ちゃん! もしかしてあの城に徳川の埋蔵金が眠っているのかしら!?」

「はいそうです。以前お話したアルダープの財宝をあの地に封印したのです」

「なに、アルダープの財宝だと!?」

 

 興味を惹くようなドM要素も無くこれまで静かに聞いていたダクネスが宿敵の名を聞いて勢いよく反応する。

 

「それはもしや、例の作戦で奴の屋敷から奪い取ったと言っていた物か?」

「ああそうだ。あの時は時間が無くて隠し場所を用意できなくてな。急場しのぎとして、あの廃城の地下室を利用することにしたのだ」

 

 ダクネスに頷いた茂茂は簡潔に説明する。数十年も前から荒れ果ててモンスターの住処となっているあの廃城に近づく物好きはほとんどいないため、財宝を隠すにはもってこいな場所だったのだ。もちろん見つかる危険はあるため密かに別の隠し部屋を用意していたが、そこの準備が整う前に魔王軍の幹部が引っ越してきてしまい、急いで回収しなければならない状況になったのである。

 

「ウィズ殿に張ってもらった結界があるゆえ容易に手出しは出来ないだろうが、魔王軍の幹部を相手に楽観などしておれぬ。こうして入念に準備を整え偵察しているのもそのためだ。そんな時にアクア様を偶然お見かけしてな。幹部を討伐しに来られたのなら互いに協力出来ると考え、思わず追いかけてしまったのだ」

「だったら最初に一声かけてほしいんですけど!? 協力以前に対話力が必要なんですけどぉーっ!?」

 

 無駄に怖い思いをさせられたと知り、アクアはプンプン怒り出す。どうやら、声をかけ忘れるくらい茂茂も焦っているようだが、いかなる理由があろうとも女神を泣かせた罪は重い。

 

「これはもう慰謝料を払わなきゃ済まないほどの大罪よ! さあ出して! 女神にドッキリかました罪を償うためにお金を出して! 埋蔵金を差し出せば許してあげないこともないから!!」

「徳川の埋蔵金に目が眩んで暴走してるぅーっ!?」

 

 唐突に当たり屋みたいなことを言い出した駄女神に周りのメンツがドン引きする。流石の銀時もここまでがめつくはないだろう……。

 

「ふざけんなよ駄女神! 埋蔵金ってのは最初に見つけた奴のモンだ! いーや、俺のモンだぁーっ!」

「こいつもゲットする気だったああああああああっ!?」

 

 残念ながらこの男も埋蔵金の魅力に心を奪われていた。

 だからといって、アクセルの住人へ返すことになる財宝をやるわけにはいかないので、代わりのチャンスを用意する。

 

「あの財宝は譲れぬが、そなたらが協力してくれるというのであれば、仕事に見合った報酬を存分に支払うぞ」

「ま、まさか、魔王軍の幹部がいるというあの城に忍び込むつもりでしょーか?」

「うむ、そうだ。アクア様のお力を貸していただければ奴等など恐るるに足らん」

「ふっふふーん! 流石は将ちゃん、私のすごさを誰よりも理解しているわ!」

 

 恐る恐るカズマが聞くと、さも当然とばかりに茂茂が頷く。普通にアクアを敬っている彼は偶然女神と出会えたことを好機と捉えてしまい、誉められた駄女神も乗り気になってしまったのだ。

 や、やべえ。この展開はマジやべえ。嫌な予感がしたカズマはすぐさま抵抗を始める。

 

「おい銀さん! 将軍様はこう言ってるけど、めぐみんはガス欠だし俺達も疲れてるから今日のところは止めとこうって説得してくれよ!」

「バッキャロウ! 俺達の将軍様が乗り込むって言ってんなら黙って一緒についてくのが筋ってモンだろーが!? 信念を貫く侍として、勇気を誇る冒険者として、目の前にある困難から逃げ出すわけにはいかねぇんだ! そうして、ついには幹部を倒し、億万長者に俺はなるっ!!」

「やっぱ金かよコンチクショウ!?」

 

 恐れていたことが現実になってしまった。どうせ近いうちにこうなるとは思ってたけど、なにこのウルトラハードモード!?

 

「はあ……童貞を卒業する前に第二の人生も終わっちまうのか……。ごめんよ、未来のハーレム達! 恋する前に逝ってしまうこの俺を許してくれ!」

「ったく、なにが未来のハーレムだよ、ムレムレ包茎チ○コ野郎。ギャーギャー心配しなくても、いきなりボスとは戦わねぇよ。大体、ボスなんざ勇者が話しかけるまで何も出来ない悲しき存在なんだから、目の前で屁ぇこいたって素通り出来るぜ」

「いやそれゲームの仕様だから、マジでやったらアウトだよ!? つーか、俺は包茎じゃねぇーっ! ちょっぴり鞘に入ったエクスカリバーだっ!」

 

 ドラクエ感覚で語る銀時の話にはまったく説得力が無かった。それを聞いていた長谷川もカズマと同じ心境だったが、頭のおかしい女性陣は逆にテンションを上げていく。

 

「ふっふっふ! 敵の拠点に乗り込むなんて素晴らしいシチュエーションです! あの城を見た時から爆裂魔法をお見舞いしたいと思っていましたから幹部と一緒にぶっ飛ばしてあげますよ!」

「ピクリとも動けずにテントで寝てる奴が頭のぶっ飛んだことほざいてんじゃねぇーっ!?」

「確かに、魔力が尽きためぐみんを連れていくわけにはいかないが、私は絶対ついていくぞ! なにしろそこは魔王軍の幹部が手ぐすね引いて待ち受けているとても危険な場所だからな! 女騎士に襲いかかるイヤらしいイベントが大いに期待出来るだろう!」

「お前も趣味に走んじゃねぇーよ!? エロいイベントは見たいけど!」

 

 相手は世界中から恐れられている幹部だというのに、こいつらは相変わらずマイペースにふざけやがる。頼もしいというよりも、頼むからマジ止めて。

 

「(なぁノルン。俺はこのイベントを生きてクリア出来るのか?)」

《まぁ、大丈夫なんじゃない? ギャグキャラってのは死んでも死ねない概念みたいな存在だから》

「(なにその『まどマギ』みたいな理屈!? もはや悪質な呪いじゃねーかっ!?)」

 

 可愛い女神に慈悲を求めたが、そこに救いは無かった。

 そんな悲嘆に暮れるカズマに楽しそうなウィズの声が聞こえてくる。

 

「みなさーん! お昼の準備が整ったので、ひとまず休憩いたしましょう!」

 

 呼ばれてそちらに目を向けると、場違いに暢気なバーベキューが用意されていた。なんでそんな物が都合良くあるのかと言えば、茂茂と二人きりでお出かけ出来ることに浮かれたウィズが張り切って用意し過ぎた結果だった。銀時達が加わるというハプニングは起きたものの、友達と一緒に楽しく食事をするのもいい。トングを持ちながらニコニコと笑っている魔王の幹部は、とても友好的だった。

 

「よっしゃーっ! 肉は全部いただきだぁーっ!」

「あっ!? ちょっと待ちなさいよ! あんただけにお肉は渡さないわぁーっ!」

 

 食欲に忠実な遊び人と駄女神が真っ先に反応して早速肉を焼き始める。もちろん長谷川も後に続き、タダ飯をむさぼりだした。その光景を見てため息をつきつつ、カズマはあることが気になった。

 

「なぁ銀さん。盛大に煙が出てるんだけど、これって幹部に気付かれるんじゃね?」

「あぁ? んなもんいちいち気にすんな! 近所でバーベキューしてるくらいでキレてきやがったら逆ギレすりゃあいいんだよ!」

「そういう話じゃないんだけど!? 生死を懸けた問題をご近所トラブルみたいに言うんじゃねぇーっ!?」

 

 ダメだ、やっぱり話にならねぇ。こんなところで暢気に肉を食っている銀時達といい、偵察するのにバーベキューセットを持ってきてるウィズ達といい、こいつらまとめて頭が変だよ。

 とはいえ、自分も肉を食べたい。腹が減っては戦はできぬとも言うし、とにかく今は腹を満たして気分を落ち着けるとしよう。心の中で言い訳しつつ、カズマもバーベキューに参加する。動けないめぐみんをテントに残して。

 

「おおおおおおおおい!? さりげなく私を放置しないでもらおうかっ!? ていうか、お願いですから助けてください! 私もお肉を食べたいので、なんとかしてくださいぃーっ!」

「そういや、お前動けなかったな。仕方がない、カズマお兄ちゃんが『あーん』してやろう」

「えっ、ちょっ、それは待ってください!? なんだか恥ずかしいといいますか、まだ早いといいますか……」

「ったく、ノリが悪いなぁ。せっかくだから『義妹』とイチャイチャする気分を満喫しようと思ったのに」

「邪な欲望がさらっと漏れてますけど!?」

 

 危うく義妹プレイを強いられそうになっためぐみんは鳥肌を立たせる。そんな彼女の窮地を見て、ウィズが助け船を出す。

 

「すみません、めぐみんさん! 昼食に気を取られて、回復させてあげるのをすっかり忘れてました!」

「おおウィズ、助かりましたよ! お肉が全滅する前にちゃっちゃと回復しちゃってください!」

「分かりました。【ドレインタッチ】で魔力を補給しましょう」

 

 そう言うとウィズは傍にいるカズマに声をかけた。

 

「あの~カズマさん、ちょっとだけでいいですから魔力をいただけませんでしょうか?」

「えっ、まぁ別に構わないけど、魔力を吸うんだったらアークプリーストのアクアから吸った方が効率良いんじゃないか? あれでも一応女神だし」

「うっ、アクア様から吸うのですか?」

 

 カズマに正論を言われてアクアの方に目を向ける。リッチーなウィズにとって天敵である彼女にはまだまだ強い苦手意識があるのだ。当の駄女神は、となりのドSと大人気無いやりとりをしていたけれど……。

 

「おいアクア。そのご立派なキノコはなんだ?」

「あらあらやっぱり気になるかしら? なんとこのキノコは、ここに来る途中で運良く見つけた松茸よ! 街に帰ってからこっそり食べようと思ってたけど、どうせならあんた達に見せびらかせながらいただこうと……って、なに勝手に食べてんのよっ!?」

「女神のクセにケチケチすんな! 2本あんだから1つくらいいいだろう?」

「まったく全然よくないわよ!? 神聖なる女神の松茸を盗んだ不届き者よ! 我が必殺の拳を受けてその罪を購いなさい!」

「上等だよ! やれるもんならやってみやがれ!」

「「……」」

 

 二人そろって同レベルのバカ共は、しょーもない理由でケンカを始めた。

 しかし、これはチャンスでもある。銀時を誘導してアクアを拘束してしまえば余計な面倒をかけずに済む。

 

「銀さーん! 俺もアクアにあんなことしたいから、ちょっくら捕まえといてくれよーっ!」

「よぉーし分かった任せとけぇーっ!」

「えぇ!? あんなことってどんなことっ!?」

「そんなこたぁ知らねぇが、つべこべ言わずに観念しなっ!」

 

 アクアが狼狽えている間に背後を取った銀時は羽交い締めにして彼女を拘束する。流石はドS、女神が相手でも容赦がない。

 

「うきゃーっ!? 超絶可愛い女神様になんてことしてくれてんのぉーっ!? 逮捕よ逮捕! 痴漢罪で逮捕よぉーっ!」

「うっせー駄女神! 存在自体が公然猥褻罪みてぇな奴に非難されるいわれはねぇ!」

「くぅっ! ぱんつをはいてないだけであそこまで徹底的に侮辱されるなんて、アクアの奴が羨ましいぞ!」

 

 なんかドMまで騒ぎだしたけど、とにかく準備は整った。

 めぐみんを背負ったカズマは身動き出来ないアクアへ近づくと、後から付いてきたウィズに無慈悲な指示を出した。

 

「今だウィズ! アクアのアレを奪っちまいな!」

「は、はいぃ~っ! ごめんなさいアクア様!」

「まっ、待ってよウィズ!? 親友の私にナニする気って、ああああああああああーっ!?」

 

 なにをされるか分からなかったアクアは、なんの抵抗も出来ずにおもいっきり魔力を奪われた。彼女の胸に触れた右手から魔力が吸われていき、めぐみんの首元に触れた左手から送り込まれていく……。

 

「ふおおおおおおおおーっ!? キテますキテます、魔力がキテます!!」

「ど、どうですか、めぐみんさん? 身体に問題ありませんか?」

 

 異様に興奮しているめぐみんの様子が気になりおずおずと聞いてみるが、身体よりも頭を心配する方が適切な気がする。

 

「ヤバイです、これはマジでヤバイですよ! ノーパンで女神を自称するヤバイアクシズ教徒だとは思ってましたが、魔力の方までヤバイとは! これなら過去最大級の爆裂魔法が使えます! なんなら、今すぐあの城を一発ドカンとやっちゃいますか?」

「やらんでいい」

 

 アクアの犠牲によって復活を果たしためぐみんは、カズマの背中から降りた途端におかしなことを言い出した。城の外から攻撃してボスを倒すとか、もうそれ只の爆破コントだよね?

 

「……まぁ、とりあえず爆裂魔法は置いといて、俺達も飯を食おうぜ?」

「おっと、そうでした! 魔力の次はお肉の補給をしなくては!」

 

 あまり調子に乗らせると本当にやりかねないので、ここは適当に話を流してひとまず落ち着かせよう。

 めぐみんの世話を終えてようやくバーベキューを始めたカズマは、育て中の焼き肉を互いに奪い合っているバカ共を無視しながら静かに野菜を食べまくる。そんなボッチの彼に、となりでなにかをやっていた長谷川が話しかけてきた。

 

「おい見ろよカズマ君! もしやと思って確認したら、リッチーのスキルも冒険者カードに表示されてるぜ!」

「えっマジで?」

 

 教えられて見てみると、確かに【ドレインタッチ】の文字がある。どうやら、人間以外が使うスキルも習得出来るようだ。

 

「こいつぁもう覚えるっきゃねーだろ? なんたってリッチー固有の特殊スキルだし、触るだけで相手を弱体化出来るんだから、最弱職の俺達にとっちゃ相性抜群だぜ!」

「そう言われるとそうだな……。よし、決めた習得しよう」

 

 カズマ的にも気に入ったので即座にスキルを覚えてしまう。ちなみに、スキルポイントが足らない長谷川は、後で習得することになる。

 

《女神であるボクとしては反対すべきなんだけど、今回は特別に許してあげるとしよう。アレが使えないとカズマのクズっぷりも中途半端になっちゃうからね。やっぱクズマさんは、ドレインタッチがあってこそだよ!》

「(俺の価値はクズさにあんの!? クズマさんがお似合いなのぉ!?)」

 

 相棒想いなノルンは、自分の役目に反してまで彼のアイデンティティーを尊重してやるのだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 騒がしい昼食を終えて財宝回収作戦を開始した一行は森の中を歩いていた。目的の廃城は断崖絶壁のようにそそり立った丘の上に建っており、城の周囲まで続いている深い森を利用して気づかれぬように進んでいく。

 

「おい将軍、このまま門前まで行くとして、その後はどうすんだ?」

「うむ、余が敵を引きつけるゆえ、お前達はその隙に目的を果たしてくれ。なに、こちらのことなら心配無用だ。熊の格好をしていれば怪しまれぬからな」

「どう考えても心配要素しかないんだけど!? 熊が出たら怪しい以前に大騒ぎになるんだけど!? どうしてそんなに自信があんだよ!? 相手の幹部はクロコダインか!? 百獣魔団が来てるのかぁーっ!?」

 

 そんなダイの大冒険的な設定は当然ながら存在しない。

 だったらなぜ茂茂達は、こんなに異様なペアルックをしているのだろうか。もちろん、そこにはちゃんとした理由があり、変な誤解をされていることを察したウィズが慌てて説明する。

 

「何やらみなさん呆れた顔をしてますけど、ふざけてるわけじゃないですよーっ!? あの城を守っている敵は知能が低くて、生きた人間以外には基本的に襲いかからないので、この姿ならある程度ごまかすことが出来るんです!」

「プークスクス! なにそのおバカなモンスター! こんな手に騙されるなんて、頭が悪いにもほどがあるんですけど!」

「お前もさっき騙されたよね? めっちゃビビって泣いてたよね?」

 

 鳥頭なアクアは、過去の醜態をすでに消去していた。

 それにしても、駄女神レベルに知能が低い敵とはいったいどんな奴等だろうか。ちょっとだけ気になったが、アクア程度の奴なんかどうでもいいかと思い直す。

 そうして静かに歩みを進め、数十分後にようやく城の前まで来た。

 

「さぁて、量産型アクアの正体を拝んでやるとすっかな」

「はあ? 私の量産型ってどーいうことよ?」

 

 遮蔽物に隠れた銀時は、絡んでくるアクアを適当にあしらいながら門番をしている敵の姿を確かめた。すると、そこには腐った死体が立っていた。

 

「どうやら、門番をやっているのはアンデッドナイトのようですね」

「百獣魔団じゃなくて不死騎団だったああああああああーっ!!」

 

 めぐみんの説明によって嫌な現実を理解してしまう。よりによって、もっとも苦手なホラー系が来ていたとは!

 

「あらあら、銀時さんったら冷や汗出まくりなんですけど? もしかしてあいつらを怖がっているのかしら!」

「バババ、バッキャロウ!? この俺があんな奴等にビビるわきゃねぇだろう!? 大体、あいつら不健康で痩せちゃってる人間だしぃ~! 肌荒れが酷いのもそのせいなんだよバカヤローッ!」

「いや、不健康を通り越して死んじゃってますけど!?」

 

 銀時の幼稚な悪あがきにアクアが呆れた声を上げる。すると、それに反応したのか、門番をしていた2体のアンデッドナイトが彼女めがけて突進してきた。

 

「ぎゃーっ!? 腐った死体がこっちキターッ!?」

「ちょっ!? 主人公のクセにヒロインを置いて逃げないでほしいんですけどぉーっ!?」

 

 恐怖に負けた銀時は、あっさりアクアを放置して一人で逃げてしまった。こうなったら、自分の力であいつらを返り討ちにするしかない。

 

「プークスクス! アンデッドの分際で女神にケンカを売るなんて、身のほどをわきまえなさい!」

 

 意外なことに、アクアはまったく怯んでいない。それもそのはず、神聖魔法のエキスパートである女神にとってアンデッドは雑魚にも等しい敵なのだ。茂茂が彼女の協力を欲したのもそれが理由であり、仲間の期待に応えるべく、ドヤ顔をしたアクアがターンアンデッドを放つ。

 

「魔に墜ちた死者達よ、聖なる力に抱かれながら安らかに眠りなさい!」

 

 勝利を確信して決め台詞を叫ぶ。

 しかし、魔法は効かなかった!

 

「えっ、なんで!? 私の魔法を食らったのに、どうして成仏しないのぉーっ!?」

 

 信じられない光景にアクアはパニクってしまう。どういう仕掛けか分からないが、唯一の取り柄である神聖魔法がほとんど効いていないらしい。

 

「予想以上に使えねぇーっ!?」

「なにやってんだ駄女神ェーっ!?」

 

 アンデッド一匹すら倒せない女神様にマダオ達が失望する。しかし、そんな彼女に救いを手を差しのべる奇特な男がここにいた。

 

「女神に仇なす物の化め、天に代わって成敗いたす!」

 

 アクアの前に躍り出た茂茂は、勇ましく啖呵を切ると愛剣を振りかざして襲いくる敵に立ち向かう。熊のコスプレをしたブリーフマスターは見た目に反してクルセイダーの力を得ており、瞬く間にアンデッドナイトを倒してみせた。

 

「切り捨て御免!」

「きゃーっ! 流石ですシゲシゲさん!」

 

 時代劇の主役みたいな台詞をキメる茂茂に、頬を赤く染めたウィズが賞賛を送る。客観的には二匹の熊がじゃれあっている感じでアレだけど、こんなんでもアクアにとっては恩人だ。ここは尊い女神として、彼の活躍を称えてやるべきだろう。

 

「よくやったわ茂茂! 熊の毛皮で汗が蒸れて吐き気をもよおすほどに臭いから正直参ってたんだけど、これまでに受けた精神的苦痛はチャラにしてあげるわ!」

「あのバカ、感謝する体を装いながら将軍の体臭をディスりやがった!? 一応雇い主だから、気を使って必死に我慢してたのに!?」

「お前も普通にディスってね!? 確かにあれはキツいけど!」

 

 KYなアクアに便乗して銀時と長谷川まで本音を漏らし、哀れな茂茂をヘコませてしまう。見張りを排除したここからが本番だと言うのに、なにをやっているのやら。

 アルダープが絡んでいるため意外に真剣なダクネスは、辺りを警戒しながらバカ野郎共を窘める。

 

「おいみんな、今はシゲシゲ殿の体臭を気にしている場合じゃないだろう。すぐ間近には、我らが宿敵である魔王の幹部がいるのだぞ。敗北した女騎士に、果たしてどれほどハードコアな変態プレイを要求するか、考えるだけで興奮すりゅっ!!」

「お前も変態ドMプレイを気にしてる場合じゃねーだろ!?」

 

 どうやらコイツは、魔王の幹部という燃料をぶっこまれていつも以上にドMの炎を燃え上がらせているらしい。

 

「めぐみんはめぐみんで今にも爆裂魔法を暴発させそうだし、ホラーが苦手な銀さんは逆にテンション下げてるし、こんな奴等と突入して大丈夫なんでしょうか?」

 

 この先の展開にカズマは不安を覚えたものの、熊やドM達は気にすることなく進んでいくので仕方なく付いていく。

 するとその時、なにかに気づいたアクアが鋭い声で呼び止めた。

 

「ちょーっと待って! この廃城、生意気にも結界が張ってあるわ!」

「はあ、結界? それってアレか? 魔王の城にも使ってるATフィールド的なヤツか?」

「まぁ、大体そんなとこよ。あれは根暗な魔王軍が引きこもりたい時に使う心の壁みたいなものだからね!」

「そういう例えは止めてやれよ!? なんだかとっても魔王軍に親近感が湧いちまうから!」

 

 明らかに嘘だと分かる説明につっこむものの、結界があるという話は本当だ。そのことはウィズも事前に気づいており、くわしい事情を語りだした。

 

「恐らく、その結界は爆裂魔法を警戒したものでしょう。以前、私が魔王の城へ行った時に爆裂魔法の連発で無理矢理結界を破壊しましたから、ベルディアさんにとってはトラウマになっているのかもしれませんけど、なんだか懐かしいですね」

「とんでもなく物騒なことを楽しい思い出みたいに語らないでくんない!?」

「なにを言っているのですか! 爆裂魔法の素晴らしさが存分に伝わってくる、とってもハートフルな思い出話じゃないですか!」

「ハートフルどころか、ベルディアのハートがフルボッコになってんだけど!? つーか、ベルディアってどこの誰!?」

 

 めぐみんの感想はともかく、ウィズのせいで面倒が増えてしまっていたらしい。

 だが、ここには結界を壊せるアクアがいる。神の力を持った彼女であれば、この程度の障害などどうということはない。

 

「ふっふっふ! とうとう、この時が来たようね! 偉大なる女神の力をあんた達に見せる時が!」

「いや、だいぶ前からたくさんありましたけど?」

 

 どうしても自分のヘボさを認めたくない駄女神は、カズマのつっこみを聞き流しながら仲間の前に進み出る。見てなさいよあんた達、今度こそ私が出来る子だってことを思い知らせてあげるんだから!

 

「忌まわしき障壁よ、神の前より消え去りなさい! 【セイクリッド・ブレイクスペル】ッ!」

 

 ノリノリのアクアが中二病のような言葉を叫ぶと、彼女の周囲に複雑な魔法陣が浮かび上がり、構えていた手の平に光の玉が出現する。それをかめはめ波のような動作で撃ち出して、行く手を阻む結界にぶち当てた。

 

「うお、すげぇーっ!? かめはめ波的なエネルギーが結界に当たって、目に見えない膜のような物が一瞬だけ抵抗したけど、結局は力負けしてガラスみてぇに砕けやがったぁーっ!?」

 

 解説役の長谷川がやたらと詳しく説明する。どうやら、今回の魔法は無事に効いたらしく、憎たらしいまでにドヤ顔をしたアクアが自画自賛を始める。

 

「あらあら、そんなに驚いちゃって! 私のすごさを理解して今更後悔してるのかしら?」

「いや別に? どっちかっつーと爆裂魔法の方が見栄え良いし、お前のアレは『凍てつく波動』を思い出すからなんかイラッとくんだよなー」

「なにその感想!? あんなに活躍しちゃったのに、なんで誉めてくれないの!? 大体、凍てつく波動ってなによ!? 高貴な私をドラクエのボス扱いしないでほしいんですけど!?」

 

 ちゃんとした成果を出しても難癖をつけられるとっても哀れな女神様。しかし、この駄女神はそうされても仕方がないことを既にやらかしていた。

 なんと、必要以上に放出された神聖な気配に引き寄せられて、城の中にいたアンデッドナイトがすべて出て来てしまったのだ。

 開いた門の向こうから大挙して押し寄せてくるゾンビの大群に全員が青ざめる。

 

「バカな女神がハッスルしたらバイオ○ザード起こったああああああああっ!?」

 

 間抜けな叫び声を上げると、一番ビビった銀時がまっさきに逃げ出して、他の連中も蜘蛛の子を散らすようにその場を離れていく。しかし、壁役を買って出た茂茂とダクネスだけは後に残って武器を構えた。

 

「ここは我らで押し止めるぞ!」

「当然、私に異論はない! このような絶体絶命のシチュエーションを見逃す手などないからなっ!」

 

 仲間のピンチを救うため、二人のクルセイダーが立ちはだかる。ダクネスの方はおかしな欲望丸出しだけど、仲間を助けたいという気持ちは嘘偽りの無い本物だ。

 

「さぁ、かかってくるがいい! たった一人の女騎士に集団で襲いかかり、その醜く朽ち果てた身体で淫らに汚してみせるがいいーっ!」

 

 なんかもう目的が変わってきた気もするが、幸いなことに(?)彼女が望むようなエロゲー展開にはならなかった。襲いかかってくるかと思われたアンデッドナイト達は彼らの横を素通りすると、なぜかアクアだけを追いかけ始めたのだ。

 

「わああああああーっ!? なんで私ばっかり追われるのぉーっ!? 私は清い女神なのに! 日頃の行いも完璧だし、世界の愛されキャラなのにぃーっ!?」

「くぅーっ!? アクアばかりずるいぞ! 私の方こそ本当に日頃の行いが良いはずなのに! どうして私にはアンデッドが襲いかかってこないんだ!?」

「いや、日頃の行いが良いから襲ってこないんじゃね?」

 

 欲求不満なダクネスは、お預け状態に興奮しながらアクアに抗議する。彼女の言い分は正直どうでもいいのだが、アクアだけ追いかけられている点は確かにおかしい。

 

「(ノルンは分かるか、ああなる理由?)」

《そりゃまぁもちろん分かるけど、アレは仕方ないんだよ。女神から発せられる神聖な気配は、成仏したいアンデッドを引き寄せちゃうからさー。例えるなら、異性を惹きつけるフェロモンみたいな感じ?》

「(どちらかと言えば誘蛾灯じゃねーか!?)」

 

 女神の意外な欠点を知ってカズマはガッカリしてしまう。幸いノルンは分霊なのでアクアほど酷くはないが、アイツ一人だけでも十分に厄介だ。

 

「っていうか、いつまで私を放置する気!? そろそろ本気でヤバイから、早く私を助けなさいよおおおおおおーっ!?」

「ったく、しゃーねぇなあ。おいウィズ、こんなところじゃ爆裂魔法は使えねぇから、お前のマヒャドでアイツ等を氷漬けにしてやれや」

「あの、申し訳ないのですが、私は手助け出来ません。以前、魔王に中立でいる条件をつけまして『戦闘に携わる者以外の人間を殺さなければ干渉しない』ことになっているので……」

「このパーティの魔法使いは揃いも揃って使えねぇーっ!?」

 

 魔法が使えない魔法使いに怒りが湧いてくる。最初から期待していないめぐみんはともかく、ウィズまで戦力外とは……。

 

「どうすんだよ銀さん! このままだとアクアちゃんがゾンビの仲間に入っちまうぜ!?」

「ええい、こうなりゃもうヤケだ! リアルなバイオ○ザードをやってやろうじゃねぇーかぁーっ!」

 

 覚悟を決めた銀時は洞爺湖を抜いて走り出した。考えてみれば死体自体は見慣れているし、アンデッドには物理攻撃が効くので幽霊ほど怖くはない。だったら後は、ゴリスのように暴れてやるのみだ。

 

「ゴリス役は近藤の方がお似合いだけどなぁーっ!」

 

 その本人が意外なところにいるとも知らず、ヤケクソになった銀時はアンデッドナイトの群れに飛び込んでいった。

 


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