このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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第18訓 ロリっ子は変態共を引き寄せる

 降って湧いた臨時収入に浮かれた銀時は、キャベツの収穫から二日ほど経った今も自堕落な生活を満喫していた。桂に妨害されたとはいえ、たった一日で100万以上も稼いだのだ。取引に時間がかかるためギルドからの支払いは後日となっているが、もうすでに勝ち組気分の銀時はおもいっきりだらけていた。

 

「なんかさ、金稼ぎが楽勝過ぎて世知辛い日本に帰りたくなくなって来たんだけど、魔王討伐とかもうどうでもよくね?」

「まったく全然よかねーよ!? スライムどころかキャベツ倒しただけで勇者止めないでくんない!?」

 

 冒頭から主人公を放棄しようとする銀時に長谷川がつっこむ。クエストに行きたいめぐみん達は、渋る銀時をギルドに連行して『いい加減に働けやコラ』と催促している最中なのだ。

 

「もうしっかりしてくださいよ! せっかくパーティを組めたのに、クエストに行かなければ意味がないじゃないですか! リーダーならば、もっと私に爆裂魔法を撃つ機会をください! この身体から溢れ出る黒き衝動を満足させる機会をくださいっ!!」

「お前の方こそしっかりしろよ!? アブナイ願望をぶちまける犯罪者みてーになってんぞ!?」

 

 爆裂魔法が撃てず欲求不満なめぐみんは、かなりストレスを貯めていた。そこに魔王討伐を進めたいアクアも加わり、さらに銀時を責め立てる。

 

「マジでダメダメなクセになに言い訳しちゃってるのよ。おバカな銀時は、回復魔法のエキスパートであるこの私をまったく活かしきれていないもの。どうせなら、私が全力を出せるほどのクエストをバンバンこなしてくれないかしら?」

「はっ! ナニ言ってやがんだ尻出し女神が! キャベツ相手に自分の尻ばかり治療してたテメェなんざ、天才リーダーの俺でさえも活かすことは出来ねぇよ」

「ひぐっ!?」

 

 銀時よりもおバカなアクアは一瞬にして言い負かされてしまった。幸運が低いせいかキャベツにお尻を狙われ続けた彼女は、半泣きになりながらお尻の治療をしまくるハメになっていたので、そこを突かれてはぐうの音も出ない。

 しかし、アクアよりもダメージを受けたダクネスは、鎧を修理に出すハメになりながらも満たされた様子で話しかけてくる。

 

「我が主よ! この私なら剣として役に立つぞ! 今なら生身でダメージを受けられるから、さらに私も気持ち良くなる!」

「お前も普通に懲りてくんない!? そんな薄着で振り回したらモザイク必須になっちゃうから!」

 

 今のダクネスはタイトな黒いスカートに黒いタンクトップという普通にエロい格好なので、キャベツ狩りの時のように振り回したら色々すんごいものが出てしまう。

 その姿を想像してしまったカズマは、内心のムラムラを隠しつつも会話に加わる。

 

「なぁ銀さん。こいつらの言い分はともかく、そろそろマジでクエスト行こうぜ? せっかく装備も整えたし、レベル上げもしたいからさ」

 

 お金を持っているカズマは昨日の内に新しい装備を買い揃えていた。桂から貰ったホワイトウルフと一撃熊の討伐報酬で購入したのだ。もちろん、すべてを使いきってはおらず半分以上は残っているが、装備を一新したからにはクエストをやってみたくなるってもんだ。

 

「あぁ!? 金に物を言わせて装備を整えやがった課金野郎が偉そうに意見しやがって、スッピンの遊び人をなめてんじゃねーぞゴルァ!? つーか、自然に紛れ込んでやがっけど、なんでカズマがここにいんだよ? お前は攘夷志士という名の犯罪者予備軍としてヅラのパーティに入ったんだろ?」

「誰が犯罪者予備軍だ!? 俺は別に桂さんのパーティに入ったわけじゃねーし、攘夷志士にもなってねーよ!」

 

 あんな奴等と一緒にされては堪らないとすかさず否定する。何かと面倒を見てもらっているので感謝はしているけど、アレと同列には扱われたくねぇ。

 それに、こっちの方が女っ気がある分だけ遙かにマシだし……。

 

「? なんですかカズマ、さっきから私のことをジロジロと見て。もしや、最強のアークウィザードたるこの私に見取れていたのですか?」

「ばっ、ちっげーよ!? お前みたいなチンチクリンの膨らみかけに欲情したりするわきゃねーだろ!?」

「なっ!? 言いましたねっ!? あなたは今、『チンチクリンの絶壁フラット貧乳ロリっ子』と私を罵倒しましたねっ!? いいでしょう! 紅魔族は売られたケンカを買う種族です! あなたの股間を叩きまくって粗末なアレを縮めてやるっ!」

「おいコラ待てや中二病!? いくら頭に来たからって、勝手に話を盛るんじゃねーよ!! 怒りのあまりに本音が漏れて盛大に自爆してんぞ!?」

 

 密かに意識していたことを本人に指摘されたせいで、友達に好きな人がバレた中学生のように取り乱してしまう。彼女の容姿は慎ましやかな胸を除けばトップクラスの美少女なので、ロリコンではないと自負しているカズマも無意識の内に惹かれていたのだ。中二病で爆裂マニアというマイナス要素は正直言ってかなり痛いが、それを差し引いてもすんごい美少女であることは間違いない。バカなロン毛とキモいオバQとでは比べるべくもないだろう。

 

《がんばって、カズマ君! ここでパーティ入りを逃したら、めぐみんとお近付きになるどころか攘夷志士Aという名のモブになっちゃうぞーっ!》

「(ちょっ、メタな煽り方しないでくんない!? 割と本気で恐ろしいから!)」

 

 相棒からの怪しいアドバイスに身震いしながらも素直に従うカズマ君。

 実を言うと、彼が銀時パーティに入ろうとしている理由は、めぐみんが気になるというだけではない。ぶっちゃけると、ノルンから進言されたからだ。出来れば無難にまともな奴等と組みたかったけど、ノルンが言うには彼らと組むのが一番『楽しい』らしい。『楽しい』という表現からしてどうにも胡散臭いが、お兄ちゃんとしては可愛い妹の言うことを聞いてやるしかあるまい……。

 

「とにかく、俺はフリーだからこっちのパーティに入れてくれよ! そもそも、桂さん達は将軍様と出かけちゃってこの街にいないしさぁ」

「あっ! そういやぁ、今日は試作兵器の進捗確認してくるとか言ってたなぁ」

 

 話を聞いていた長谷川は、馬小屋から出かける際に伝えられた内容を思い出す。彼の言う通り、桂達は別の街で制作中の試作兵器を視察しに行っており、アクセルには不在だった。

 

「まぁ、ヅラっち達もいねぇことだし、ここは俺の顔に免じて仲間に入れてやってくれよ」

「その意見には私も賛成してあげるわ! 一見すると、ぱんつ泥棒が上手いだけのヒキニートだけど、こんなんでも何かしらのチート能力を持っているはずだから、たぶんどこかで役に立つと思うの!」

「うむ、応援してくれるのはありがたいが、バカにすんのは止めろよ駄女神。キャベツに尻をしこたまぶたれてピーピー泣いてたお前なんかに、俺をディスる権利なんざ微塵も無いんだからよぉ?」

「うわぁああああああん!? カズマにまでバカにされたーっ!」

 

 偉そうなアクアにイラッとしてついやり返してしまったものの、彼女達の援護はカズマ的にグッジョブである。

 その上、キャベツ狩りの時に助けてやっためぐみんと彼の性格にドM心を刺激されたダクネスまで援護してきた。

 

「あのギントキ、私からもお願いします。カズマにはぱんつ泥棒の前科がありますけど、それを補って余りある狡賢い知略がありますから、きっと活躍してくれるはずです」

「ああそうだ。カズマには、我が主とはまた違うクズ人間の素質がある。彼ほどの手腕があれば、この私を淫らに使いこなしてくれるだろう!」

「お前ら、援護するフリして貶してんだろ!?」

 

 半分ほどバカにされてる感じがして腹が立つ。それでも、彼女達の願いは銀時に届いたらしく、仕方がないといった様子でパーティ入りを了承する。

 

「ったく、しゃーねーなぁ。特別サービスで補欠の馬車要員として入れてやっけど、俺の報酬はビタ一文も譲らねぇから、そのつもりでいるよーに」

「それじゃあ、俺の報酬は?」

「んなもん、言い出しっぺのこいつらが出すに決まってんだろーが。ただでさえ人数が多くて分け前が少ねぇんだから、カズマの分はお前らでシェアすんのが筋ってもんだろコノヤロー」

「えぇっ!? ……や、やっぱりカズマさんは、攘夷志士という名の犯罪者予備軍がお似合いだと思うの」

「金の話出されただけで裏切ってんじゃねーよ駄女神ぇっ!?」

 

 報酬が減ることまで考えていなかったアクアはあっさりと寝返った。だがそれも、長谷川の説得によってすぐに解決する。

 

「大丈夫だよアクアちゃん。カエルの時のように銀さんをぶっ飛ばして、6人全員で報酬を分ければいいじゃん」

「そうか、その手があったわね! 私達の力を合わせて、パワハラドSリーダーに正義の裁きを受けてもらうわ!」

 

 内緒話で制裁行為に合意したマダオと駄女神は互いにサムズアップする。この後しばらくの間、報酬を受け取る度に彼らの醜い争いがギルドで目撃されるようになる……。

 

 

 なんやかんやでカズマの飛び入り参加が決まった後、銀時達はギルドの掲示板前に集まっていた。駄々をこねていた銀時もアクア達のしつこさにようやく折れて、これからクエスト選びをすることになったのである。

 中でもレベルが低い長谷川が一番乗り気になっており、ゲームの知識を頼りに持論を述べていく。

 

「やっぱ序盤は金稼ぎよりもレベル上げが優先だろ。次のイベントに進むには、最低でもレベル6ぐらいはないと危険だしな」

「ああ、そうだな。スライムどころかキャベツにすらやられちまうんじゃ話にならねーもんな」

「ぐはぁっ!? それは言わないでお願いだから!?」

 

 流石の長谷川もキャベツ相手に惨敗したことがかなりのショックとなっていた。一応何匹か倒してレベル3に上がったけれども、その代償に人として大事な何かを失った気がして止まない。

 そんな悲劇を繰り返さないためにもレベル上げは必要だろう。

 

「いいぜ長谷川さん。俺もその意見に賛成してやるよ。この駄女神もキャベツに尻をスパンキングされて無様に泣かされてたし、お前らを鍛えねぇとまともな仕事も出来やしねぇ」

「うわぁあああああん!? 女神の私が無職のマダオと同列扱いされたぁーっ!!」

 

 キャベツとドSのダブルパンチでアクアのプライドもズタズタにされてしまった。マジ泣きしている彼女がとっても哀れでやるせない気持ちになる。それでも、銀時の意見が正しいと思ったダクネスは解決策を提示する。

 

「ならば、まずはアクアのレベル上げがしやすいクエストを選ぶべきだな」

「ほう、このバカにでも勝てる雑魚が都合良くいやがんのか?」

「ああ、聖なる力を宿したプリーストの魔法はアンデッドに有効なのだ。神の理に反して不死と化したモンスターは、回復魔法を受けるだけで身体が崩れて滅んでしまう。だから、攻撃手段に乏しいプリーストはアンデッドを好んで狩るのだ」

 

 ダクネスの説明を聞いてカズマと長谷川は納得する。

 

「あー、あるあるそういうの。ファンタジー物のゲームやラノベでちらほら見かける設定だよな」

「ゾーマがベホマでダメージ食らうのと同じ理屈だな」

 

 ちょっと違うけど大体そんなところである。それならアクアでも何とかなりそうだし、銀時がいれば長谷川の養殖作業も出来るだろう。

 

「なぁ銀さん。ここはひとまず、ダクネスちゃんの提案で行ってみようぜ? ほら、掲示板にも『共同墓地に湧くアンデッドモンスターの討伐』なんておあつらえ向きなクエストもあるし、これはもう決定じゃね?」

 

 目敏く掲示板をチェックしていた長谷川が即座にアンデッド絡みのクエストを見つけ出す。それは確かに彼らの要望を満たす内容で、他の面子にも異論はない。ただ一人、顔を青ざめた銀時だけは違ったけれど。

 

「ババババ、バッキャロウ!? わざわざ夜中に墓場まで行って、そんな胡散臭ぇ仕事なんざやりたきゃねーっつーのっ!! 大体、この世に幽霊とかアンデッドなんて存在してませんしぃーっ!? どーせソレも墓場でバカなガキ達が肝試しやってるだけに違いねーよっ!! はい論破完了ぅっ!!」

 

 あからさまに狼狽した銀時は、滅茶苦茶な言い訳をしながらアンデッド討伐を拒絶する。その情けない姿をジト目で見ていた一同は、ドS野郎の弱点を知って一斉にほくそ笑む。

 

「あらあら銀時さんったら、そんな必死に抵抗しちゃって! もしかして、いい大人のクセに幽霊ごときが怖いのかしら? プークスクス!」

「まぁ、人には苦手な物が一つや二つはあるものですから、私は別に気にしませんよ?(笑)」

「くっ、私も我が主のようにお化けの類が苦手ならば、アンデッドと遭遇した時にもっと興奮出来るのに!」

「おいコラお前ら、勝手に人をビビり扱いしてんじゃねーぞっ!? 俺は別にアンデッドなんざこれっぽっちも怖かねーしっ!? ドラクエ5でも、腐った死体のスミスさんと仲良く冒険してましたぁーっ!!」

「説得力皆無だろソレ!? そこはせめてバイオ○ザードぐらいにしといてくれよ!?」

 

 なめられたくない銀時は小学生のような悪あがきをする。うん、どう見ても幽霊がダメなんですね、分かります……。

 

「とにかく、俺は行かねーからなっ!? お前らだけでそこに行って、スタンド使いに呪われてしまいやがれっ!!」

「いや、相手はスタンド使いじゃなくてゾンビメーカーなんですけど!」

 

 どうしても行きたくないので大人げない抵抗を続ける。流石の銀時もホラーの類だけはダメなのだ。

 すると、それを察したように突然背後から彼を助けるような声がかかる。

 

「だったら、あたしと二人で宝探しに行かない?」

「えっ?」

 

 聞き覚えのある声に反応して振り向くと、そこにはニヤリと笑みを浮かべた女盗賊がいた。

 

「ああ、なんだクリボーか」

「なにその踏まれただけでやられそうなネーミング!? あたしの名前はクリボーじゃなくてクリスだよ!?」

「あーそうそう、お前の名前はセイラ・マスの親戚のクリス・マスだったな」

「いやいや!? セイラ・マスなんて人は知らないし、私の名前もそんなお祭りっぽい感じじゃないから!」

 

 可哀相なクリスは登場直後にいじられまくる。せっかく助け船を出してやったのにとんだ災難である。彼女が先ほど言っていた宝探しのお誘いは本当のことなのだ。

 この件に関してはダクネスも初耳で、奇妙な行動を始めた親友に訪ねる。

 

「おいクリス、宝探しとはどういうことだ? そもそも、なぜ私ではなく出会ったばかりの我が主を誘うのだ」

「ゴメンねダクネス、これには理由があるんだよ。初めて会った日に、宝探しの約束をおにぃ……ギントキとしちゃったからさ。遊び人スキルでおかしくなっていたとしても、敬虔なエリス教徒としては守らないと気が済まなくてね。こうして改めておにぃ……ギントキを誘いに来たってわけさ!」

「『おにおに』とうざったいな!」

 

 どうやら『お兄様』呼びがクセになってしまったらしいクリスは、ちょっぴり頬を赤く染めながら銀時に返事を迫る。

 

「とまぁ、そんなわけで! どうかな、ギントキ? あなたの手を借りたいんだけど、一緒に来てくれるかな?」

「フッ、可愛い妹が頼ってきたなら、返事はイエスに決まってんだろ?」

 

 願ってもないお誘いに異論などあるはずも無く、二つ返事で引き受ける。ゾンビなんかと戦うより宝探しの方が断然良いに決まっている。

 しかし、それは他の奴等も同じなので、アクアがすかさず噛みついてくる。

 

「あーずっこいっ!? 一人だけ宝探しなんて羨まし過ぎるんですけど!? アンデッド狩りなんて後回しでいいから、私もそっちに連れていってよ!」

「えっとゴメンねアクアさん。これはギントキ用に探してきた特別な仕事だから、申し訳ないけどキミ達を連れてくことは出来ないんだ」

「ふははははははっ! 残念だったな愚か者共! 主人公とその他では扱いが違うんだよ!」

「ええいっ! メインヒロインたる私をその他大勢扱いするとは、なんたる屈辱でしょうか! ここまで露骨に存在意義を侮辱されたのは生まれて初めてですよ!」

「くふぅんっ! 所詮、エロ担当の女騎士などゴミのように扱われる脇役でしかないというのか!」

 

 先ほどの劣勢から形成逆転して、今度はめぐみん達が地団太を踏む。それでも、クリスがダメだというなら大人しく引き下がるしかない。

 

「それじゃあ、数日はギントキを借りることになるから、しばらくみんなで頑張ってね!」

「えっ!? 二人っきりでお泊まりすんの!? なんて羨ましいことをっ!!」

「クッ、クリス!? そそそそそ、それはあまりに軽率じゃないかっ!?」

「出会ったばかりだというのに、いきなり二人で外泊なんて破廉恥にもほどがあります!!」

「ああ、余計な心配すんじゃねぇよ。これまでだってアクアと一緒に泊まってたし、少年マンガの主人公はラッキースケベ以上のことは絶対に出来ねーから」

「そんなメタな説明されてもはいそうですかと納得出来るか! 大体、ヨゴレのアクアちゃんと清純なクリスちゃんじゃ比べもんにならねーよ!」

「ちょっ、何で私がヨゴレなのよ!? 本当のヨゴレは銀時とイチャイチャしようと企んでる貧乳盗賊の方でしょーっ!?」

「そんな企みしてないよっ!? っていうか、貧乳盗賊ってなんだよっ!?」

 

 クリスのトンデモ発言に色めき立って全員が突っかかる。銀時は適当に受け流しているけど、クリスはちょっぴり意識しているようで女性陣は面白くない。

 だからといってドSな銀時が繊細な乙女心(?)に気を使うはずもなく、さっさと話を進めてしまう。

 

「っつーわけで、俺が不在の間は新人のカズマ君に臨時リーダーを任せまーす」

「えっ、俺がリーダー!? さっきは補欠の馬車要員とか言ってたクセに!」

「はいそこのヒキニート、つべこべ言わないでリーダーの言うこと聞きやがれ。お前ってよく見りゃ、そこはかとなくラノベの主人公っぽいから、そんなこんなで後は頼むわ」

「おぃいいいいいっ!? 選び方が雑っつーか、こいつらのリーダーなんて絶対やりたくないんだけどぉ!?」

 

 恐ろしい役目を背負わされたカズマは、無責任野郎に突っかかる。

 その間を利用して、ノルンがクリスに話しかけた。

 

《流石は幸運の女神、実に良いタイミングで銀時を動かしたね》

「(えっ? 良いタイミングってどういうことですか?)」

《詳しいことは秘密だけど、今回エリスちゃんが持ってきた宝探しは、もっと大きな宝を作り出すことになるかもしれないよ?》

「(は、はぁ……もっと大きな宝を作り出す、ですか?)」

 

 ノルンの言葉に皆目見当がつかない。どうやら悪い話ではないようだけれど、意味ありげに口元を歪めているノルンを見るに、彼女好みのアクシデントが起こるに違いない……。

 それが何なのか気になったクリスはノルンに話を聞こうするが、空気を読まない銀時がその機会を奪ってしまう。

 

「おいクリス、さっさと行くぞ! こいつらが暴れ出す前に!」

「えっ!? ちょっ、待って!? まだ話がっ!?」

《バイバーイ、エリスちゃん! 油断するとえらい目に遭っちゃうから気を付けてねぇー!》

 

 銀時に腕を捕まれたクリスは強制的に走らされ、ノルンの言葉に返事をする間も無く遠ざかっていく。

 果たして、ノルンはクリス達の未来になにを見たのか。こうなってはもう自分の目で確かめるしかなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 ギルドから飛び出した銀時達は、ひとまず事情を話したいというクリスに従って人気の無い路地裏に来た。

 

「で、俺に言いたいことってなんだ? 事情というからには、ただの宝探しじゃないんだろ?」

「流石に察しが良いね。申し訳ないんだけど、これから手に入れる予定のお宝はギントキにあげるものじゃないんだ。もちろん、あなたにあげるお宝はちゃんと別に用意してあるけどね」

 

 当然、ウソをつくつもりはないので、彼に見合ったお宝はしっかりとあげるつもりだ。

 ならば、彼女が手に入れようとしているお宝とは何なのだろうか?

 

「ここから話すことは他言無用にしてほしいんだけど、あたしは訳あって【神器】と呼ばれる物を集めているんだ」

 

 まっすぐに銀時を見つめるクリスは、神妙な表情で語りだした。

 神器とは、神が作ったと言われている超強力な装備や魔道具の総称であり、その正体はアクアが転生者に与えまくったチートアイテムだ。クリスはその辺りの事情を大まかに理解しているらしく、フワッとした内容で説明してくる。

 

「つまり、神器と呼ばれる物は、あなた達みたいに『変な名前』の人達だけしか手に出来ない特別なアイテムで、他の人には使いこなすことすら出来ないんだよ」

 

 今の話を聞いて天界でのやり取りを思い出す。どうやら彼女は、転生者が持っているチートアイテムに興味があるらしい。

 しかし、捻くれ者の銀時はどうでもいいところに意識を向ける。

 

「あぁん? 俺の名前が変だって? 坂田銀時のいったいナニが変なのか、もっと詳しく教えてくれよクリ○○スさんよぉ?」

「ちょっ!? なんてところを伏せ字にしてんの!? あたしの名前はそんなじゃないし、言ったらイケナイ単語ですけど!?」

「はぁ? 『クリス・マス』のどこらへんが言ったらイケナイ単語なんだよ? もしかしてお前、なんかすんごい卑猥なヤツと勘違いしたんじゃねーの? 俺が思うに、お前が想像したのはクリt「うわぁあああああっ!? 変な名前って言ったことは謝るからもう許してぇええええええっ!?」

 

 銀時の卑劣な罠にはまったクリスは真っ赤になって恥ずかしがる。心の清い幸運の女神は下ネタに弱かった。

 

「こほん……話を戻すけど、神器というのは本来なら、あなた達のような個性的な名前の人だけが所有してる物なんだ。でも、本来の持ち主から別の人に手渡ってしまう場合がたまにあって、それを悪用する輩もいるんだよ」

 

 残念ながら、クリスの言う通りのことが実際に起きている。何らかの理由で転生者の元から離れた神器をこの世界の人間が偶然手に入れ、その特殊な力で悪事を働くといったケースが度々起こっているのだ。以前、茂茂から聞いたアルダープの件がそうであり、今回彼女が仕入れてきたお宝情報もその一つだった。

 

「つまり、あたしが狙ってるお宝ってのは、本来の持ち主じゃない人が所有してる神器なんだ。アレは選ばれた者にしか使いこなせないから、他の人が使ってもほとんど力を発揮出来ない。でも、中には使い方次第で恐ろしい結果を招いてしまう物もある。だから、あたしはそういった神器を回収して二度と悪用されないように封印しているんだよ」

 

 ここまでの説明で、ひとまず彼女の目的は分かった。真意はどうあれ、義賊のようなことをしているようだ。

 

「しかし、どうにも腑に落ちねぇな。なんで盗賊のガキンチョが命懸けで正義っぽいことしてんだよ? 普通、盗賊って奴は、盗んだ物を売ったり使ったり匂いを嗅いだりするもんだろ?」

「匂いを嗅ぐっていったい何の!? じゃなくて、あたしは確かに盗賊だけど悪いことはやらないよ! 敬虔なエリス教徒として、クリスという人間として、この世界を守るために作られた神器を悪用されるのが許せないんだ!」

 

 クリスの言葉は嘘偽り無い本心であり、銀時にもそれは分かった。一点の曇りも無くまっすぐ見つめてくる彼女の瞳がその事実を雄弁にもの語っている。まだなにか裏がありそうな気もするが、少なくとも神器の扱いに関しては本当のことを言っているだろう。

 

「ったく、盗賊のクセにまともなことをほざきやがって。ブラジャーも必要無ぇほどの貧乳が、いっちょ前に心のキレイな不二子ちゃん気取りかよ」

「バストサイズは関係ないし、不二子ちゃんってどこの誰さ!?」

 

 胸をネタにされてプンプンと怒るクリスに笑みを浮かべながら考える。彼女の熱意は理解出来るし、仕事の内容次第では手伝ってやってもいい。ただ、一つだけ不可解なことがある。

 

「なぁクリス、この件はダクネスにも秘密にしてるみてぇだが、どうして知り合ったばかりの俺なんかに話を持ちかけやがったんだ?」

 

 そこだけがどうにも理解出来なかった。親友にすら黙っていたことを、なぜこんなドSの遊び人なんかにあっさりと明かしたのだろうか。クリスの真意を確かめたくて素直に聞いてみると、彼女の方も素直に答えてくれた。

 

「……それはもちろん、ギントキのことを信頼しているからだよ」

 

 とても綺麗な笑顔を浮かべて、とても意外な気持ちを明かす。その言葉を聞いて銀時の疑問はさらに深まってしまったものの、彼女がそう思う理由はしっかりと存在していた。

 

 

 キャベツ狩りの後、遊び人スキルの効果が切れたエリスは、恥ずかしさに耐えられず天界の床を転げ回った。

 

『きゃあ、きゃあ、きゃああああああああっ!? 私は何て恥ずかしいことをしてしまったのぉおおおおおおっ!?』

 

 調子に乗ってメス犬宣言したり、大胆になって銀時に抱きついたり……思い返すだけでも顔が火照ってしまう。

 それでも、なぜか悪い気はしない。あんなに酷いことをされたのに、なんだか楽しかった気さえしてくる。

 

『……も、もしかして、私はダクネスと同じ性癖を持っていたのでしょうか?』

 

 そう思うと、ちょっぴり落ち込んでしまいそうになる。こんなしょっぱい事実なんて知りたくありませんでした!

 

『まったくもう! こうなったのも、すべて銀時さんのせいですからね!』

 

 落ち込みから一転してプリプリと怒り出したエリスは、諸悪の根元であるドS野郎を思い浮かべる。

 

『坂田銀時さんか……』

 

 少しだけ気になりだした男の名をつぶやいてみる。カグヤ先輩やお姉様に気に入られるほどの変わり者で、達人クラスの実力を持った最強の侍。これだけでもエリスの興味を引くには十分だった。

 

『……ちょっとだけ調べてみようかな』

 

 何気なくそう思い、仕事の合間に地球のデータを閲覧してみた。そして、彼女は彼の生き様を知った。

 確かに彼は善人ではない。見方を変えれば、悪人と呼ぶべき側にいるとさえ言えるだろう。人を斬り殺しては返り血で真っ赤に染まり、アダルトビデオを鑑賞しては垂れる鼻血で真っ赤に染まり、パチンコでボロ負けしては金欠で真っ青に染まる……。そのような素行を見れば、誰もが彼をクズ野郎だと蔑むはずだ。

 でも、それは彼の一部であってすべてではない。

 

『そう。彼の本質は、大切なものを護り抜くという揺るぎない覚悟にあります』

 

 これまで彼は多くのものを護ってきた。命を、誇りを、家族の愛を。奪われ、失い、傷つきながらも、決して退かずに護り続けた。

 なぜなら彼は【万事を護る者】だから。

 

『そうして彼は、とうとう世界まで救ってみせたのですね……』

 

 真相を知ったエリスの心は、言葉にしがたい感情に溢れていた。この気持ちは【尊敬】……いや、【憧憬】と言い表すべきだろうか。自分の力で魔王を排除することも出来ず自責の念に駆られているエリスにとって、地球を救うという偉業を成し遂げた銀時は、兄のように慕い、敬うべき存在であるように思えた。

 

 

 銀時の過去を知り、信頼すべき存在だと再確認したクリスは、神器回収のパートナーとして彼を選択した。しかし、女神の裏事情など知るよしもない銀時は、唐突に臭いセリフを言い出したクリスを笑いものにする。

 

「ぷぷーっ! 遊び人を信頼するとか、アクア並にバカだろお前? 自分で言うのもなんだけど、俺のどこにも信頼なんて要素は無ぇぞ?」

「フフーン、それはどうかな? 遊び人スキルの効果を堂々とバラしたのは、自ら悪用出来ないようにしたからでしょ? 黙っていれば、悪いこともやりたい放題だったのにね?」

「はっ、なに勘違いしてやがんだヘソ出し野郎。俺ぁただ、使いたいように使っただけだ。こんな感じでなぁああああああっ!」

「いやぁああああああっ!? お願いだから今は待ってぇ!? お宝探しが出来なくなっちゃう!?」

 

 ムチを振り回し始めた銀時から必死に逃げる。これから大事な仕事をやるというのにドM化されては堪らない。

 

「そういやぁ、まだ宝探しの内容を聞いてなかったな」

「はぁ、はぁ……今更過ぎて呆れちゃうけど、興味を持ってくれたようだし本題に入るとしようか。あたしが今回見つけた神器は【年齢や性別を自在に変化させるステッキ】でね、何者かがそれを使って犯罪を起こしてるから、何とかして奪い取りたいんだよ」

「なるほどな。つまり、変化の杖でイタズラしてるバカをぶっ飛ばせってことか」

「まぁ、大体そんなとこだけど、その男は本当に酷い奴なんだ! 幼い女の子に化けたそいつは、標的にした少女を騙して人気の無い場所に連れ込み、逃げ場を奪ったところでお医者さんごっこを強要する最低最悪な奴なんだよ!」

「神器まで使っといて変態ロリコンプレイかよ!?」

 

 残念ながら、どこの世界にも変態はいてクソったれなことをしているようだ。

 

「最近、王都で同じような事件が何回か起きててさ。幼女にしか化けられないことまでは分かったんだけど、カツラや服で変装されて未だに逮捕出来ないんだよ」

「なにそのハイブリッドな変態プレイ!? ロリコンだけじゃ飽きたらず女装趣味までこじらせてんのぉ!? 大体、変化が幼女限定ってのがおかしいよね!? 変態野郎が幼女になるとか、どんだけ最低な魔法少女なんだよソレ!?」

 

 あまりにもおぞましい犯罪者に鳥肌が立ってしまう。そんな外道は、クリスに言われなくともぶっ飛ばしたくなるってもんだ。

 

「これであたしの説明は終わりだけど、手伝ってもらえないかな? 必要経費はこっちで持つから、変態退治に協力してよ!」

「ああ、いいぜ。せっかくお宝まで用意してくれたんだ、【万事屋銀ちゃん】としては引き受けるしか道はねぇよ」

「うん、ありがとう! ギントキならそう言ってくれると思ってたよ!」

 

 嬉しくなったクリスは、思わず銀時の腕に抱きついてしまう。

 何はともあれ、話はすべてまとまったので、ただ今から宝探し改め神器回収クエストが開始される。

 

「それじゃあ早速【テレポートサービス】で王都に行こうか」

 

 やる気満々なクリスは、すぐさま現場に向かおうとする。

 彼女の言うテレポートサービスとは、テレポートを使った運輸業で、一瞬の内に遠く離れた街へ行ける便利な移動手段である。ただし、値段が高いといったデメリットも目立つため、時間に余裕のある客は馬車を利用する場合が多い。

 その辺りの事情を茂茂から聞いている銀時は、金も時間もかからない方法を思いつく。

 

「待てよクリス。俺の知り合いにテレポートを使える奴がいるから、まずはそいつに頼んでみようぜ」

「おっ、いいね。そうしてくれると助かるよ!」

 

 クリスにとっても魅力的な提案なので、迷わずに賛成する。こうして、幸運の女神とぽんこつリッチーの奇妙な出会いが実現することとなった。

 

 

 魔道具店に入ると、客のいない店内でウィズが掃除を行っていた。悲しいかな、他にやることがないのだろう。

 

「あっ、ギントキさん! いらっしゃい!」

「ようウィズ、相変わらず繁盛してんな」

「やって来て早々にあからさまなウソは止めてください!?」

 

 挨拶代わりに軽くからかっておく。彼女と会うのはこれで二回目だが、茂茂という共通の知り合いがいるおかげか妙に親しみを感じる。

 

「ところで、そちらの女の子はギントキさんのお仲間ですか?」

「うん、そうだよ。あたしはクリス。よろしくね!」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。私はこの魔道具店を営んでいる店主のウィズと申します」

 

 女神とリッチーは、互いの正体に気づくことなく朗らかに挨拶する。本来なら天敵同士であり、アクア以上に悪魔を嫌っているエリスが知ったらプチハルマゲドンが起こりかねない危険な状況である。

 ただ、幸いなことに、クリスの姿の時は女神の力が無いので、今は互いに普通の人間として認識していた。

 

「店主さんのことは前から知ってたけど、ギントキの知り合いだとは思わなかったなー」

「実は最近知り合ったばかりなんですけどね。……それはそうと、今日はアクアさん達とご一緒じゃないんですか?」

 

 ちょっぴりアクアが苦手なウィズは、キョロキョロと警戒しながら訪ねてくる。

 

「ああ、今日はこいつに依頼されて俺だけ借り出されてな。これから王都に行って捜し物をしなきゃならねーんだわ」

「はぁ、王都で捜し物ですか……。あっ! もしかしたら、私のテレポートで送ってほしくてここにやって来たのですね?」

「ご名答だよウィズさん。正解したあなたには、賞品としてこのジャスタウェイを差し上げましょう!」

「あの、それは賞品じゃなくてウチの商品なんですけど!」

 

 近くにあったジャスタウェイを使って再びウィズをからかってみる。リアクションする度に豊満な巨乳がプルプルと揺れて実によろしい!

 

「ちょっとギントキ!? さっきからどこ見てるのさ!?」

「そうだな……あえて言うなら、『男のロマン』かな?」

「そんなロマンは捨ててしまえっ!!」

 

 ウィズの巨乳をガン見してたら、いろんな意味で嫉妬したクリスに怒られた。

 

「なんだよもう! 店主さんの胸が大きいからって、あんなにデレデレしちゃってさ! ここまで格差を感じるほどに巨乳が偉いのかーっ!?」

「ま、まぁまぁ、落ち着いてくださいクリスさん。テレポートの件は快くお受けしますから」

「えっ、いいの? ありがとう店主さん!」

「いえいえ、どういたしまして」

 

 ウィズの心遣いによってクリスの機嫌も少しづつ回復していく。流石はベテラン店主、相手をするお客は少なくてもトーク術に長けている。

 

「それにしても残念ですね。明日になったら私も王都へ買い物に行くので、クリスさんの探し物をお手伝い出来たのに」

「いやいや、そこまでしてもらうわけにはいかないよ!」

 

 予想外な気遣いを見せるウィズに慌てて遠慮する。ありがたい申し出だけど、神器を回収していることを無闇に広めるわけにはいかない。

 

「俺はウィズに手伝ってもらった方がいいと思うがな。腐っても商人だから王都の事情に明るいだろうし、なによりこの二つのボインが疲れた俺の癒しになる!」

「お兄様は少し黙っててくれるかな?」

 

 ちょっぴりヤンデレっぽくなったクリスは、銀時の首元にダガーを突きつけて強制的に黙らせる。リッチーの巨乳に魅了される銀時に対して女神の勘が働いたのか、はたまた単なる女の嫉妬か。どちらにしても、彼にとってはとんだ災難である。

 

「ほら、ギントキも武者震いするほどやる気満々だから、店主さんは全然気にしなくていいよ!」

「は、はぁ……別の意味で震えているような気もしますけど、とにかく分かりました……」

 

 なぜかクリスの微笑みに恐怖を感じたため大人しく引き下がる。リッチーの本能が彼女に逆らってはいけないと警鐘しているような気がする……。

 

「そ、それじゃあ、準備はよろしいですね?」

「うん、いいよ。パパッと王都に送っちゃって」

「それではいきます、【テレポート】ッ!」

 

 助けを求めるような目をした銀時から視線をそらせて二人を王都に送り出す。

 

「ごめんなさい、ギントキさん。無力な私にはこうするしかなかったんです……」

 

 心優しいウィズは哀れな銀時に懺悔しつつ、彼らの無事をエリスに祈った。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 王都に到着した二人は、犯人の手がかりを掴むために人が集まる商業地域へ足を運んだ。

 

「ほう、この国の首都だけあってなかなか立派な作りじゃねーか」

 

 銀時の眼前には、アクセルとは比べ物にならない規模の街並みが広がっている。特に、全国から人が集まる商業地域の盛況ぶりは目を見張るものがあった。

 しかし、激しい人の交流が仇となってロリコン犯の周知を徹底出来ず、外から来た観光客などを狙うケースが増えていた。

 

「それで、これからどうすんだ? 俺をここまで引っ張って来たからには、なんか考えてあるんだろ?」

「まぁ一応はあるけど、基本的には運任せだね。盗賊スキルの【宝感知】で神器の反応を探るか、怪しい行動をしている幼女にあたりをつけるかってところかな」

 

 なんとも楽観的なことを言うクリスに怪訝な表情を向ける。

 確かに、普通に考えれば成功の望みは薄い。【宝感知】は有効範囲が限られる上にノイズが多い街中では使い勝手が悪過ぎる。ましてや、変装している犯人自体をこの人混みから特定するなど至難の技だろう。だが、世界でもトップクラスの幸運を持つクリスならば、奇跡のような結果だって引き寄せることが出来る。

 

「じゃあ俺まったく必要なくね?」

「そんなことはないよ。暇な時はあたしの話し相手になるし、ダクネスが忠誠を誓うほどのドSだから変態の相手も手慣れてるでしょ?」

「けっ、お前一人で変態野郎と絡みたくないから俺を連れて来たってわけかい」

「うん正解! こう見えても、あたしはか弱い少女だもん」

「か弱い少女は首元にダガーを突きつけたりなんてしません!」

 

 クリスの本音に呆れた銀時は大人気なく抗議する。

 その時だった。通り過ぎようとしていた店を覗いた銀時の目にアンビリバボーな光景が飛び込んで来たのは。

 

「えっウソマジで!? こんなミラクルほんとにあんの!?」

「ん? どうしたのギントキ? なんか気になるものでも見つけた?」

「ああそーだよ! ジャンプでハンターハンターが載ってるのを見かけるぐらい信じられねーもんを見つけちまったよ!」

 

 興奮気味な銀時は、意味不明なことをわめきながら目の前の服屋を指差した。そこになにがあるのかと興味を抱いて見てみると、店の中には見覚えのある服がズラリと陳列されていた。

 

「これはいったいどーいうこった!? なんでズンボラ星人のジャージがこんなところで売られてやがんだ!?」

 

 あまりに奇妙な発見に驚きを隠せない。どう見ても、彼のトレードマークであるズンボラ星人のジャージとまったく同じデザインをしているが、なぜアレがここにあるのだろうか。まさか、この世界にも天人が来ているのか。そう思った銀時は少しだけ緊張するが、実際には心配する必要などこれっぽっちも無かった。

 

「違うよギントキ。アレはジャージとかいうものじゃなくて【ズンボラ族のパジャマ】だよ」

「なにその微妙なクロス要素!? 被り方が雑過ぎて紛らわしいったりゃありゃしねぇーっ!? つーか、これパジャマだったの!? なんでそんな改変してんの!? これじゃあ俺は、パジャマでうろつく不審者みてーに見られちまうよっ!?」

 

 真相を聞いてみたら別の心配をするハメになってしまった。やっぱ、この世界っておかしいよね。イラッとさせられることがやたらと多過ぎるよね。

 

「まぁ、今回はまだマシか。とにかく、これで着替えを調達出来るようにはなったから、ここは良しとしといてやらぁ。実を言うと、結構困ってたんだよねぇー。主人公的には、安易に服のデザインを変えるわけにもいかないからさ」

「ふ、ふぅ~ん……。良く分からないけど良かったねぇ~……」

 

 キャラ的にメタ発言との相性がすこぶる悪いクリスは苦笑しながらやり過ごす。

 こんな感じで、賑やかなやり取りをしながら神器の探索を進めるものの、ロリコン野郎の動く気配は一切捉えることが出来ず、大した収穫も得られないまま一日目が終了した。結局、今日は二人で観光しただけになってしまい、ズンボラ族のパジャマというしょーもない戦利品を手に宿探しをするのだった。

 

 

 宿を決定した銀時達は、二人部屋で一緒に泊まることとなった。今日は一人客が多いらしく、一人部屋の空きがどこにも無かったのである。

 

「ううっ、なんか緊張しちゃうなぁ……」

 

 ベットに腰掛けたクリスは、あからさまにソワソワとした様子でつぶやく。これまで男性と二人きりでお泊まりしたことが無かったからだ。

 

「ね、ねぇギントキ。あたしってこういうことは初めてだからさ、もし変なことしちゃっても絶対に笑わないでね?」

 

 銀時を意識しまくったせいで誤解を招きかねない言い方をしてしまう。しかし、当の相手はというと、ベットに寝転んだ直後に爆睡していた。

 

「んごぉー、んごぉー……」

「脇目も振らずに眠ってるぅーっ!? もうなんだよ! 普通こういう時は男の方がムラムラしちゃうところでしょーっ!? 実際にされても困るけどっ!」

 

 自分と一緒にいることをまったく意識していないドS野郎に腹を立てる。えっちぃのはダメだけど少しぐらいはドキドキしたい、愛情と友情の間で揺れる純情な感情と言ったところか。

 

「はぁ……。そういえば、アクアさんと一緒にいても大丈夫とか言ってたっけ……」

 

 性格はアレでも容姿は女神なアクアに手を出さないというのであれば、この状況にも納得出来る。

 少しだけ先輩よりも魅力があると思われたかったけど、これはこれで良かったのかな?

 

「ギントキって普段はタダのお子様だよね~」

 

 昼間は繁華街でバカ騒ぎして、夜中は酒場でバカ騒ぎ。挙げ句の果てには、相棒を放っておいて勝手に熟睡する始末。

 それでも、一緒にいて居心地が良いと感じてしまうなんて本当に不思議な人だ。

 

「はぁ……。人の気も知らないで暢気に熟睡しちゃってさ。あたしのお金であんなに飲み食いしたんだから、明日はもっとバリバリ働いてもらうからね」

 

 そう言うとクリスは、いたずらっぽい笑みを浮かべて銀時のそばに近づいた。ちょっとだけ恥ずかしいけど、どうせ眠っていて聞こえはしないだろうからおもいきって言ってしまおう。意を決して、眠っている銀時の顔に自身の顔をそっと寄せると、優しい声でつぶやいた。

 

「それじゃあ、お休みなさいお兄様」

「ああ、お休みなさいマイシスター」

「……きゃあああああああああああああっ!!?」

 

 眠っていたと思っていた銀時からいきなり声をかけられてビックリする。このドS野郎はクリスにドッキリを仕掛けるために眠ったフリをしていたのだ。

 

「ふはははははっ! 一体いつから眠っていると錯覚していた?」

「うわぁあああああっ!? めっちゃムカつくのに言い返せないーっ!!」

 

 藍染気取りの銀時に騙されたクリスは、怒りと羞恥で身悶える。頼れる兄のように慕っていたらこの様だよコンチクショウ!

 結局、クリスのドキドキ感は台無しにされてしまい、仲良く兄妹ゲンカをしながら初日の夜が過ぎていった。

 

 

 翌日。宿を出た二人は、再び商業地域へやって来た。クリスの勘では、この付近で次の事件が起きると感じており、幸運の高い自分とトラブル体質の銀時がいれば犯人達の方から近寄って来てくれるだろうと踏んでいた。はっきり言って行き当たりばったりな作戦なのだが、ノルンの言葉から推測するに、恐らく上手く行くはずだ。

 

「さぁて、今日から真面目に探していくよー!」

「はいはい、真面目に探しますよー。俺好みの良い女をね」

「んなもん探すなっ!」

 

 やる気に満ちたクリスに反して、けだる気な銀時は鼻をほじりながら不真面目なことを言う。トラブルを引き寄せることを期待されている彼は、動きがあるまでやることもないのだ。

 しかし、ジャンプを代表するトラブルメーカーは、すぐさま力を発揮した。なんと、目の前からウィズがやって来るではないか!?

 

「あーっ! ギントキさんとクリスさん! こんなところで偶然出会えるなんて運が良いですね!」

「えっ、あーうん、そーだねぇー!」

 

 銀時達に気づいたウィズは、胸を揺らしながら駆け寄って来ると嬉しそうな笑顔を見せる。確かに、二人のことを気にかけていた彼女にとっては運の良い出来事だろう。そのおかげで困った状況になってしまった幸運の女神としては苦笑するしかないけれど。

 そう言えば、昨日会った時に王都へ行くと言っていたが、まさか現地でばったりと再会してしまうとは。

 

「それで、クリスさんの探している物は見つかったのですか?」

「う、ううん、残念ながらまだ探してる途中なんだ」

「それなら、昨日言った通り私もお手伝いいたします。ここで二人に会えたのも、きっとエリス様の思し召しだと思いますし」

「(私はそんなこと思し召したりしてませんけど!?)」

 

 女神を過大評価しているウィズに心の中でツッコミを入れる。人々の暮らしを見守る女神と言えども、そんなに細かいところまでは見てませんから!

 大体、今のウィズは、人の手伝いなんてしている場合じゃないほどに疲れているように見える。

 

「あ、あの~、店主さんの方こそ具合が悪そうだけど大丈夫かな? 顔色がすごく悪いように見えるんだけど……」

「ああ、そういやぁそうだな。普段も血色悪い顔してっけど、今はなんかデスラ○総統みてぇに不自然なくらい真っ青だぜ?」

「はぁ……。デ○ラー総統という方は存じませんが、顔色が悪いのは自覚しています。実は昨晩、アクアさん達と一悶着あったもので……」

「えっマジで? あいつらなんかやらかしたの?」

 

 銀時の問いかけに対してウィズは乾いた笑みを返す。

 事の真相はこうだ。銀時抜きでゾンビメーカー討伐クエストを行ったカズマ達は、現場となっている共同墓地でウィズと遭遇してしまった。迷える魂達の声が聞ける彼女は無償で彼らを成仏させていたのだが、善行をするリッチーに逆ギレしたアクアがウィズごと浄化魔法をかけて色々台無しにしやがったのだ。最終的には、暇なアクアが定期的に墓場の浄化を行うということで解決したものの、ウィズにとって大変疲れるイベントだったのは言うまでもないだろう。

 

「(私を消す気は無かったみたいですけど、リッチー相手に手加減まで出来るなんて、とんでもなくおっかない人です……)」

 

 昨夜の悪夢を思い浮かべて冷や汗を流したウィズは、不思議そうな顔をしているクリスから突っ込まれないように話をごまかす。

 

「そ、それにしてもアクアさんはすごいですよねー! とても人間とは思えないくらい神聖な力を持っていますよ!」

「そりゃあ、あんな奴でも一応女神だからな。ありがたみは微塵も無ぇけど、それなりに小宇宙(コスモ)はあんだろ」

「あ、あの~……『一応女神』とおっしゃいましたが、ひょっとして本物の女神様だったりするのですか?」

「残念ながらその通りだ。確か前に、ア・バオア・クー教団の御神体とかほざいてたぜ?」

「それを言うならアクシズ教団でしょ!?」

「ヒィッ!?」

 

 クリスのツッコミを聞いた途端におびえ出したウィズが小さな悲鳴を上げる。よりにもよって、アクシズ教の女神だなんて!

 

「どうしたウィズ!? 顔色が悪化し過ぎて、デスラ○化が進んでんぞ!?」

「だ、だって……アクシズ教団の人は頭のおかしい人が多くて、関わり合いにならない方がいいというのが世間の常識なのに、アクシズ教団の元締めの女神様と聞いたら怖くなるのは当然ですよ!」

「(せ、先輩……あなたの教団は悪魔のように恐れられていますよ……)」

 

 悲しい現実を見せつけられたクリスは、女神なのに恐怖の存在と化している先輩に対して同情した。

 

「やっぱりなー。あいつが崇められるなんておかしいなーとは思ってたけど、アクシズ教ってのは救いようもねぇバカの集まりだったわけか」

「たとえそうでも、そこまで言い切るのはやめてあげて!? というか、今はアクシズ教をディスるよりこっちの話を進めないと!」

 

 クリスとしてはウィズの方も問題だ。彼女の善意を無碍にはしたくないけど、神器のことは広めたくないし、犯罪行為に巻き込むわけにもいかない。そう思ったクリスは、銀時の耳に唇を寄せてコソコソと相談する。

 

「……ねぇ、ギントキ。善良な店主さんを巻き込めないから、上手いこと言って止めさせてよ」

「あぁっ? 俺は善良じゃねーから巻き込みやがったんですかぁーっ? つーか、こいつもみんなが思ってるほど善良じゃねーから気にする必要は無ぇよ。これでも昔は【氷の魔女】とか呼ばれるほどのヤンキーだったらしいし、将軍とは外でぱんつを見せ合うほどの淫らな仲だから十分に不良だぜ?」

「きゃあーっ!? そんなことをクリスさんに言わないでくださぁああああああいっ!?」

 

 銀時に恥ずかしい過去を暴露されて涙目になるウィズさん。確かに、アクセルでは凄腕の魔法使いとして有名で戦力としては申し分ないのだが、やはり参加を許可するわけには……。

 

「っつーわけで俺が許可する! 粉骨砕身の覚悟で精進してくれたまえ!」

「わ、分かりました! 誠心誠意がんばります! でもその前に、買いたい魔道具があるので、少しだけ時間をください。すぐに終わらせますから」

「オッケー分かったすぐ行こう!」

「って、なに勝手に決めちゃってんのーっ!?」

 

 一人で考えている間にウィズの飛び入り参加が決まってしまった。

 当然クリスは納得出来ず、銀時の腕を引っ張ってウィズから距離を取ると小声で抗議を始める。

 

「あーもう、いきなりなにやってんの!? 事情も知らない人を巻き込むなんて、なにを考えてるんだよ!?」

「なにって別におかしかねーだろ? 人手は多いにこしたこたぁねーし、スリーマンセルで動いた方が隙も減って助かるしな。大体、あいつはエリスを信じて手伝うと言ってんのに、エリス教徒のクリスさんが拒否したらダメなんじゃね?」

「うぐっ!?」

 

 そう言われては、クリスに言い返す言葉などない。

 結局、銀時に言い負かされたクリスが折れる形で話はまとまり、まずはウィズの用事を済ませることになった。

 

 

 数分後。ウィズに案内された二人は【ジオン商会】という名の卸売り店にやって来た。どこかで聞いたことがあるような胡散臭い名称はともかく、商売内容は至ってまともで、おもに魔道具を取り扱っているウィズの仕入れ先の一つだ。

 

「おはようございます、ラルさん」

「おお、ウィズ。よく来たな!」

 

 店に入ると、ごつい体格をしたヒゲ親父が現れた。全体的に青を基調とした服を着ているその男は、あの有名な大尉にソックリだった。

 

「あれ……どっからどう見てもランバ・ラルなんだけど。なんであんたがここにいんの?」

「ええい、うかつな奴だ! ワシの名は『ランバ・ラル』ではなく『ルンバ・ラル』だ!」

「一文字違いでロボット掃除機みてーな名前だったぁああああああああっ!?」

 

 またしても微妙なパクりキャラが出て来た。はっきり言ってランバ・ラルと瓜二つだが、それでも彼はこの世界の住人であり、顔馴染みのウィズが簡単に紹介する。

 

「この方は【青い巨星】の異名を持つほどのベテラン戦士で、現役を引退した今でも魔王軍が襲撃してきた際には必ずお呼びがかかるほどなんですよ」

「なぁに、今やどこも人手不足だからなぁー!」

 

 ウィズに誉められたラルさんは真っ赤になって照れまくる。良い年こいたオッサンの照れ顔なんざ見たかねぇよ。

 

「ところで、そちらのお嬢さん。君に似合う商品が丁度入荷しているぞ」

「えっ、あたし?」

 

 ふざけた展開に銀時が苛立つ中、クリスの容姿に目を付けたラルさんは、とある商品を薦め始めた。

 

「君にはこの【小悪魔のスク水】をオススメしよう! これには【チャーム】の効果があって、胸の慎ましい美少女が着ればさらに魅力が倍増するぞ!」

「すんごいセクハラ行為な上に余計なお世話なんですけど!? 大体、小悪魔扱いするとか失礼にも程があるでしょ! これでもあたしはれっきとした女神系女子だよっ!」

 

 小悪魔的に見られた女神はプンプンと怒ってしまう。

 それでも懲りないラルさんはウィズにまでちょっかいを出す。

 

「ならば、この【リッチな下着】をウィズに薦めよう。これには【ブレッシング】の効果があって、身につけているだけで運が上昇するから、貧乏店主と呼ばれる君にはまさにうってつけだろう!」

「こっちもセクハラ行為な上に余計なお世話ですよーっ!? 確かに私は貧乏で、ちょっぴり心引かれますけど、流石にそこまでスケスケなのは着ることなんて出来ません!」

 

 クリスに続いて犠牲となったウィズは真っ赤になって顔を隠す。スク水はギリセーフだとしても下着はばっちりアウトである。ラルさんとて欲には勝てず、巨乳美人と貧乳美少女が同時にやって来たせいでつい浮かれてしまったのだ。

 

「青い巨星がナニやってんのぉ!? ランバ・ラルかと思いきや、単なるスケベなオヤジじゃねーかっ!? 今度セクハラしやがったら、白い悪魔をけしかけてこの店潰してやんぞゴルァ!!」

「このルンバ・ラル、商売の中で商売を忘れた!」

 

 激怒した銀時につっこまれて、暴走していたラルさんもようやく反省した。

 

「気に入ったぞ小僧! それだけハッキリものを言うとはな!」

「うっせーよスケベ野郎! もうガンダムネタはいらねーから、さっさと話を進めやがれ!」

「ふははははは! 一本取られたな、この小僧に! それで、このルンバ・ラルにどのようなご用かな?」

「はい。今日は、ジャスタウェイシリーズの新型を見せてもらいに来たんです」

「んなもん買いに来てたのかよ!? それだけのためにここまで来るとか、どんだけアレを気に入ってんだ!? つーか、ジャスタウェイシリーズっていったいなぁーに!? そこまで出すほど需要があんの!? ガンプラ的な人気があんのっ!?」

 

 やっと話が進んだと思ったら、またもやおかしな展開になって来た。

 ウィズの言う新型とやらは本当にあるらしく、注文を聞いた途端にラルさんの瞳がキラリと光る。

 

「ほう。あの新型を所望するとは、いい目をしているな。よろしい、ならば見せてやろう! ジオン脅威のメカニズムを!」

 

 暑苦しくそう叫ぶと店の奥へ歩いていき、それほど大きくない木箱を手にして再び戻ってくる。その蓋を開けて中を見ると、頭部にツノが付いたジャスタウェイがずらりと並んでいた。

 

「高純度のマナタイト・フレームを全身に組み込んで爆発魔法に匹敵するほどの威力を実現した最強の携帯兵器……その名も【ユニコーンジャスタウェイ】!!」

「ふざけんじゃねぇええええええっ!? こんな奴にツノ付けてユニコーンとか無理があんだろ!? どう見てもシャアザクですけど! 指揮官用のザクですけど!」

「ええい! ザクとは違うのだよ! ザクとはっ!」

「はいはい、言うと思ったよっ! せっかくだから言わせてやったよっ!」

 

 ジャスタウェイの魔改造っぷりに流石の銀時もビックリする。しかし、元ネタを知らないクリスにとってはどうでもいいことなので、さっさと話を戻そうとする。

 

「と、とにかくすごい魔道具だねー! こんな安っぽい人形が爆発魔法並の威力なんて!」

「確かに性能は良いのだがな、いかんせんコストが高くて使い勝手は良くないのだ」

「良いものってのは値段が高くなるからね。で、これはいくらで売ってるの?」

「こいつは1つ500万エリスだ」

「高ぁああああああいっ!? 使い捨てアイテムをなんでそこまで高価にしてんの!?」

 

 あまりにおかしな値段を知って驚愕してしまう。これを買うぐらいなら高レベルのアークウィザードを雇った方が遙かに安上がりであり、そんなことはこの世界に来て日が浅い銀時ですら分かっている。それなのに、ウィズさんは迷うことなく買っちゃいました!

 

「じゃあ、それを20個買います!」

「おぃいいいいいいっ!? こんなもんに1億も使うとか、商才が無ぇーってレベルじゃねーぞ!? これはもう呪いなんじゃね!? 爆発物を爆買いするって呪いがかかってるんじゃね!?」

「そんなものはかかっていません! それにこれはシゲシゲさんと共同販売するものですから、私の支払いは5000万だけですよ!」

「それでも十分高いんですけど!? お前ら二人は、どんだけジャスタウェイ欲しがってんだ!?」

 

 あくまでアレを買うつもりなウィズに呆れてしまう。なぜか茂茂も協力しているらしく、ユニコーンジャスタウェイの購入は避けられそうにないようだ。

 

「こうなったら仕方ねぇ。後はどこまで値切れるかだな」

「えっ、値切りなんてするのですか?」

「んなもん当たり前だろーが? 標準価格っつーのは基本的にぼったくりみてーなもんだからな、それを上手くディスカウントすんのは商売の常識だぜ? っつーことで、ここのゼロを一つ減らせや」

「ほ、ほぅ……思い切りの良い値切りだな! 手ごわい! しかし!」

「あーもう、そーいうのいいから! 俺の言うこと聞かねぇと、さっきこいつらにセクハラしたことを内縁の妻であるハモンさんに言いつけんぞ!」

「いや、内縁の妻なんて元々いないし、ハモンさんって誰!?」

 

 滅茶苦茶な交渉で理不尽な要求を突きつけてくるクズ野郎にラルさんは追い込まれる。ゼロを一つ減らすなんて絶対に無理なんですけど、下手に逆らったらセクハラ店主という風評を巻き散らされちゃうかもしれない。

 

「ええい、分かった! 思い切ってここは1割……いや、2割引きでどうだ!?」

「よぉーし、今すぐハモンさんのところに行くか」

「ああーっ!? こうなりゃもう3割引きでいいから、セクハラの件は内緒にしてっ!?」

 

 激しい攻防の末、歴戦の勇士であるラルさんがドSの前に陥落した。やっぱり、変態という名のニュータイプには勝てなかったよ……。

 

「見ておくがいい! 商談に破れるとはこういうことだぁあああああっ!!(泣)」

「ごめんなさい、ごめんなさい! なんかとにかくごめんなさい!」

 

 申し訳なくなったウィズはペコペコと謝罪する。それでも、契約書にはしっかりとサインする辺り、彼女も結構バカ共に毒されて来ていた……。

 

 

 コントのような商談を済ませて表に出てきた銀時達は、こちらの事情を何も知らないウィズにこれまでのあらましを説明した。すると、彼女は激しく怒ってクリスの行動に共感する。

 

「神器や魔道具を悪用して女の子にイタズラするなんて、絶対に許せません! 私も全力でお手伝いしますので、必ず犯人を捕まえましょう!」

「うんでも、無理はしなくていいよ? あたし達は、用意してある一週間分の軍資金を使いきるまでねばってみるけど……」

「ああ、宿泊費のことなら問題ありませんよ。私はいつでもテレポートで帰れますから。それに、お店の方もめったにお客さんなんて来ませんから、数日くらいお休みしたって全然へっちゃらです!」

「いや、全然へっちゃらじゃねーだろソレ。永遠にお休みするほど追い込まれてんだろソレ」

 

 クリスに余計な心配をさせないように気を使ったら、逆に自分を追いつめる結果になってしまった。

 

「え、永遠にお休み……」

「店主さんの顔色がさらに悪化しちゃってるぅーっ!? ちょっとギントキ!! これからって時になんてことしてくれてんだよ!?」

「ったく、あの店の経営状況なんざ今更気にすることでもねーだろ。なんせ、お前はリッチな将軍とラブラブなんだからよぉ。もういっそのこと結婚して玉の輿に乗っちゃいなYO!」

「きゃあああああああっ!! 私とシゲシゲさんが、けけけけけ、結婚だなんて、ナニ言ってるんですかぁーっ!? 確かに、ちょっぴり夢見ちゃったりはしてますけど! 子供は二人がいいですねとか夢想しちゃったりしてますけど! まだ出会って間もないですし、心の準備が出来てませんよぉーっ!!」

「いや、滅茶苦茶ヤル気満々じゃぶるぁっ!!?」

 

 照れ隠しに放たれたウィズの右ストレートが銀時の顔面にクリーンヒットする。予想以上に意識していた気持ちを突っ込まれて、羞恥心がマックスまで跳ね上がってしまったのだ。そのおかげでへこんでいたウィズが復活したものの、殴られて鼻血を吹き出している銀時にとっては災難以外の何者でもない。

 

「はは……胸だけじゃなくパンチまでいいもん持ってんじゃねーか。これだけ強くて覚悟もあんなら、クリスも安心出来んだろ?」

「その代わりに、ふらついちゃってるギントキの方に不安を感じるけどね!」

 

 ロリコン野郎とやりあう前にダメージを負ってしまったドS野郎をジト目で睨む。本当にこの人は地球を救った英雄なのでしょうか……。

 

「はぁ……なんかどんどんおかしな状況になって行くけど、あたしの幸運はちゃんと仕事してるのかなぁ?」

 

 ペコペコ謝るウィズに鼻血を拭いてもらっている銀時を見つめながらため息をつく。このままの調子でドタバタと騒いでいたら、神器の回収に失敗してしまわないかしら……。悲観的になったクリスは思わず不安を感じてしまう。

 だが、幸いなことに、その心配はまったくの無用だった。繁華街にて探索すること一時間後、クリスの【宝感知】に大きな反応が現れる。間違いない、これほどの力を放つのは神器だ。

 

「出たよギントキ! ロリコン野郎か勇者候補かは分からないけど、神器を持った奴がいる!」

 

 興奮気味に叫びながら反応のある方へ走り出し、それを見た銀時とウィズもすかさず追随する。

 

「これは……メインストリートから路地裏に高速で移動してる!?」

「もしかして、犯人が女の子を連れ込もうとしているのではないですか!?」

「てめぇら、全力で走りやがれっ!」

 

 銀時が叫ぶと同時に走る速度を上げていく。

 相手の動きから推測するに、勇者候補の転生者よりロリコン野郎である可能性の方が高い。しかも、犯行の真っ最中となれば絶対に阻止しなければならないだろう。

 

「あそこの路地裏に出たらもっと速度を出すよ! 相手はとなりの道を直進してるから先回りをするんだ!」

 

 クリスの指示に従って、人気の無い路地裏をひたすら爆走する。運動神経が良い銀時やクリスは言うに及ばずだが、不健康っぽく見えるウィズも意外に足が早く、あっという間に目標を追い抜くことに成功する。

 

「はぁ、はぁ! アクア様に浄化されかけた後の全力走はとってもきついです~っ! 流石の私も力尽きて死んじゃいそうですよぉ~っ!」

「ええい、こんな時に弱音を吐くな! 誰だって、死にもの狂いできつい現実と戦ってんだよ! 死にそうな目に遭ってんのはお前だけじゃねぇんだよ! つーか、そもそも死んでんじゃね!? お前はすでに死んでんじゃね!?」

「ちょっ!? 店主さんの顔色がゾンビ以上にヤバいからって、お前はすでに死んでいるとか言っちゃダメでしょーっ!?」

 

 疲れのせいで警戒が緩んだウィズがうっかり正体をバラしそうになるものの、ロリコン野郎に気を取られているクリスは気づくことなくスルーする。次の十字路で先回りすれば相手の前に出られるのだ。

 

「準備はいい? そこを右に曲がったら神器を持った奴がいるよ!」

「おう、一発で当たりを引けるといいがなっ!」

 

 幸運を祈りつつカーブを曲がりきる。すると、目の前から走ってくる三人の男が見えた。子分のような二人は黒装束に覆面を付けたいかにもな風体をしており、主犯と思しき男は、身体を縛られた少女を右腕に担いで先頭を走っている。クリスの幸運のおかげか銀時のトラブル体質のおかげかはどうあれ、一発でロリコン野郎を引き当てることが出来たらしい。

 

「つーか、なにあのムキムキ野郎!? パツンパツンの子供服を窮屈そうに着てるけど、なんで変態ロリコン野郎がゴンさんになってんだぁああああああああっ!?」

 

 全速力で接近しつつ先頭の男にツッコミを入れる。そんな銀時の姿を涙目で見た少女は、美しい碧眼を見開きながらこう思った。銀髪の勇者様が助けにきてくれたと。

 


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