このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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第14訓 女神みたいな女だって裏では結構ヤンチャしてる

 カズマ達と出会ったクリスは運命を司る女神ノルンの分霊と予期せぬ遭遇をしてしまい、あっさりと正体を見破られてしまった。なんと彼女は、幸運を司る女神エリスだったのだ。

 

《へぇ~、エリスちゃんショートヘアにしたんだ~。胸元はスレンダーだし全体的にショタっぽいから、ジャニ○ズ顔負けの美少年に見えるねっ☆》

「(あの、誉めてるフリして貶してますよね!? 私の女子力、全否定してますよね!? そりゃ確かに私の胸は小さいですけど、ノルン先輩よりは大きいですし、こんな胸でもお嫁さんにしたい女神ナンバー2になれるんですよっ!)」

 

 ノルンのウィットなジョークにイラッときたクリスは自虐的に反論した。優秀な先輩であり【特別なつながり】もある彼女のことは心の底からリスペクトしているのだが、お互いに気にしているバストサイズのことでは会う度に衝突してしまう面倒な間柄でもある。

 ちなみに、クリスのショートヘアは神の力を使って変装した姿であり、ロングヘアだった彼女が髪を切ってイメチェンしたわけではない。永遠の存在である女神には散髪もヅラも必要ないのだ。

 ただし、持って生まれた貧乳も永遠なので、胸の大きさを気にしている彼女はパッドを使ったりしているのだが……。

 

「(って、今は髪とか胸の話をしてる場合じゃないでしょ!)」

 

 とにかくここはノルンと話し合う必要があるだろう。ダクネスと友達になりたくて人間のフリをしているクリスは自分の正体がバレてしまうことを危惧しているのだ。もちろんノルンがそんなことをするとは思っていないが、中には崇められたくて自分から女神であることをアピールしまくる輩もいるので、一応確認しておかなければ安心できない。

 

「(まぁ、そんなことをするのはアクア先輩ぐらいだと思うけど……)」

 

 色々と思案している間にさりげなくアクアをディスる。あの駄女神には散々迷惑をかけられているので、クリスがそう思ってしまうのも仕方がない。何はともあれ、ここにいるのが彼女じゃなくて本当に良かった……。

 

「(って、安堵してる場合じゃないでしょ!? とりあえず、ノルン先輩にこっちの事情を説明しなきゃ!)」

《だったら、別の場所に移動して二人きりで話をしようか》

「(え? 二人きり?)」

《だって念話じゃ落ち着かないし、久しぶりの再会だもん。せっかくだから、お邪魔虫のいないところで秘密の女神トークと洒落込んじゃおう!》

「(は、はぁ……【お姉様】は相変わらずマイペースですね)」

 

 脳天気なノルンの言葉を受けて心が落ち着いたクリスは思わずプライベートな呼び方をしてしまう。彼女達はそれだけ特別な関係であり、二人きりになりたいと言われたら喜んで受けるしかない。

 なので早速カズマから神器を借りるべく行動に移る。出会ったばかりで不自然に思われるかもしれないが、依り代となっているオサレメガネを持っていかないとノルンは移動できないのだ。

 

「えっと、キミ! 確か名前はシンパチだっけ?」

「誰だよソイツは!? なんとなくシンパシーを感じるけれども、俺の名前はカズマだよ!!」

 

 かっこよく名乗ろうとしていたところで出鼻をくじかれたカズマは憤慨するが、今は彼に気を使っている場合ではない。

 

「ああゴメン、カズマだね? あたしはクリス、よろしくね! で、突然なんだけど、キミのメガネを貸してくんない? 後でちゃんと返すから!」

 

 ちょっぴり焦り気味なクリスは、かなり話をすっ飛ばしてきた。そんな慌てん坊の後輩を見てヤレヤレと肩をすくめつつ先輩のノルンが助け船を出す。

 

《ねぇカズマ。彼女にメガネを貸してあげなよ。ちょっとお洒落して歩きたいだけみたいだからさ》

「(いやでも、そりゃあ危険だろ? ダクネスの友人で俺好みの美少女とはいえ、初対面のヤツに大事なお前を貸すなんて……)」

「ねっ、お願い! このお礼は後でちゃんとしてあげるからっ!」

「オッケー分かった! もってけ泥棒!」

《ボクとの絆が目先の欲望にあっさり負けたーっ!?》

 

 美少女に顔を近づけられて可愛らしくお願いされたら童貞少年に抗う術は無い。ノルンにとっては面白くない結果になったが、とりあえず当初の目的は達成できた。

 何故かいやらしい笑みを浮かべるカズマに引きつつメガネを受け取ったクリスは、適当なことを言ってその場を離れる。

 

「それじゃ、あたしはこのメガネをかけて街をブラついてくるから! カズマはダクネスと一緒にギルドで待ってて!」

「お、おう、分かった……」

 

 有無を言わせぬ勢いに気圧されたカズマが弱々しく返事をすると、クリスはいずこかへと駆けだしていった。

 期せずして放置される形となったダクネスはちょっぴり悦びつつも、初めて見る友人の奇行に首を傾げる。

 

「急にどうしたんだあいつは? メガネをかけたいだけならこの場でもいいだろうに……」

「きっと俺達に見られるのが恥ずかしかったのだろう。『メガネは顔の恥部』とも言うし、彼女にとってはパンツを見られるように感じたのかもしれんな」

「それを言うなら『メガネは顔の一部』だろーが!? 何でメガネがパンツみたいな扱いなんだよ!? 俺たちゃ全員パンツを被った変態仮面かっ!?」

 

 世界中のメガネユーザーにケンカを売るようなことを言う桂にグラサンユーザーの長谷川がつっこむ。メガネを愛用なさっておられる皆様、ほんとどうもすみません。

 こんな感じで真相を知らないバカ達が間違いだらけの解釈をする中、それに感化されたダクネスもいかがわしい妄想に耽る。

 

「な、なるほど! メガネを下着に例えるとは、なかなか斬新なアイデアだな! 常にパンツを晒しているようなものだと想像したら、とっても興奮するではないか!」

「斬新すぎて悪質な変質者になってんじゃねーかっ!?」

 

 どんなネタでもドMにつなげてくるダクネスに心底呆れたカズマがつっこむ。変態の会話につき合うのはマジ大変だぜ……。

 

「しかし、パンツは俺も好きだ。クリスのお礼とやらにパンツを頼むのもアリかもしれんな!」

 

 自分では気づいていないが、彼もまた変態の一人だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 ノルングラスを貸してもらったクリスは、カズマ達の元から離れて人気の無い路地裏へとやって来た。

 

「ここなら大丈夫ですよ、お姉様」

《オッケー、エリスちゃん。早速【リアルバージョン】になるからメガネを外して》

「はい分かりました」

 

 頼まれたクリスは、かけていたメガネを外して手の上に置いた。するとそれが空中に浮かんで彼女の手前にフワリと進み、まばゆい光を放ちながら子供の形に姿を変えた。その眠そうな目をしたツインテールの美幼女は、元の姿のまま実体化したノルンである。彼女は霊体だが、神器を核にすることでバニルと同じようにその辺の土くれなどから疑似的な肉体を作り出すことが出来るのだ。

 

「ふぅ、エリスちゃんのおかげでようやく実体化できたよ。ボクみたいな完璧美幼女を連れていたら、いかにも不審人物なカズマがタイーホされちゃうからね」

「はいそうですね……。こんなに可愛いらしいお姉様を見たら、誰だってお持ち帰りしたくなっちゃいますもの……」

 

 そう言うとクリスは膝立ちになり、愛しむようにノルンの体を抱きしめた。

 

「うふふ……、お姉様の抱き心地はいつも最高ですねぇ~」

「ああもう、やっぱこーなるのかーっ!」

 

 路地裏にノルンの叫びがこだまする。小さい先輩が大好きなエリスは彼女と会う度にスキンシップを求めてくるのだ。妙に熱を帯びた視線がそこはかとなく妖しいが、もちろんヨコシマな心があるわけではない。

 実を言うと彼女達には血縁よりも強いつながりがある。それは二柱が共通して【運】にまつわる属性を司っているからだ。運命と幸運は切っても切れない関係にあり、お互いが必要不可欠な概念であるため、それがノルンとエリスの関係にも反映されているのである。

 

「えへへ~、いつまでもこうしていたいです~♪」

「ちょっコラやめろっ!? 貧乳を押しつけられると何だか切なくなってくるからっ!! 五十歩百歩のこっちまでやるせなくなっちゃうからあああああああっ!!」

 

 ノルンの抵抗も空しく、興奮状態になったクリスのなすがままにされる。困ったことに彼女の親愛表現はちょっぴり百合っぽかった。だが、アクアとは違って常識を持ち合わせているので、これ以上アブノーマルな展開にはならないだろう。たぶん……。

 ちなみに、アクアとノルンは同世代なのだが、頭の良いノルンが飛び級して出世したので、心の狭い駄女神はせこい嫉妬を抱いている。そんな背景があるため、もし彼女と再会したらさらに面倒な騒動が起こるだろうが、今はおバカな同級生など気にせずに可愛い後輩と話し合う時だ。

 

「うふふふ、お姉様~♪」

「って、何かトリップしちゃってるし、話し合える状況じゃないんですけど!?」

 

 執拗にほっぺすりすりしてくるクリスに呆れながらツッコミを入れる。

 

「もう、ボクを抱っこしたままでいいから話を進めるよ?」

「はい、分かりました~!」

 

 小学生と接するように頭を撫でてくるクリスにイラッとするが、ここはお姉ちゃんらしくグッと堪えて本題に入る。

 まずはこの地の担当者であるエリスの事情から説明してもらうことにする。過去を見通せば聞かなくても分かるが、お喋り好きなノルンはスキルを使わず直接たずねる。

 

「どうしてエリスちゃんはおヘソ丸出しのえっちぃ格好で地上に出歩いているんだい? まさか、ノーパンアクアに影響されて羞恥心を捨てちゃったのかな?」

「あの方と一緒にしないでくださいっ!? この格好はちゃんとした盗賊装備だし、パンツだってはいてますから!!」

 

 とんでもない誤解を受けては堪らないと必死に否定する。いくらアクアが先輩とはいえ、あんなノーパン痴女と同類にはされたくない。

 

「アクア先輩のようにハレンチな格好をマネしようとするわけないじゃありませんか……。この格好だって慣れるまではかなり恥ずかしかったんですよ?」

「それは分かるよ。そこまで軽装だと愛用してる胸パッドが使えないしね!」

「私の胸を恥部扱いしないでくださいっ!?」

 

 これまでのお返しとばかりに貧乳ネタで攻撃するが、お互いにダメージを受けてしまうのでこの話題はここまでにしておく。何故か【運】に関する属性の女神はみんな貧乳なのだ……。そのことを改めて思い出した彼女達は、気まずい空気をごまかすように本題へ戻った。

 

「そ、それでは説明しますね……。私がクリスとなって地上で活動している理由は二つあります。一つは、本来の所有者がいなくなった神器を回収するため。そしてもう一つは……熱心に教会へ通い詰めて冒険者仲間が欲しいと私に願い続けていたダクネスの想いに応えてあげたかったからです」

「ふむふむなるほど。ダクネスと一緒にいたのはそういう事情があったからかー。ボクはてっきり、アクアに悪影響を受けたキミが露出趣味に目覚めてドMの彼女と意気投合しちゃったのかと思ってたけど……」

「だからそれは誤解ですよ!? 本当ですから信じて下さいっ!!」

 

 少しばかり認識にズレがあったようで、クリスがすかさず反論する。基本的にノルンは他者のプライバシーを尊重して無闇に過去を見通すことはしないので、今回のように事実を間違えることもある。まぁ、清純派だった後輩がグレて露出狂の盗賊になってしまったなどというぶっ飛んだ勘違いをするのはどうかと思うが……。

 

「と、とにかく、私の事情は理解していただけたと思いますので、今度はお姉様の事情をお聞かせください! なぜ神器のフリをしてこの地にやって来たのですか!?」

 

 露出狂と思われて取り乱したクリスは、話を変えようと慌ただしくたずねる。

 意外に思われるかもしれないが、エリスはこの異世界に持ち込まれた神器の存在をすべて把握しているわけではない。資料をまとめる作業を面倒だと思ったアクアが『私にすべて任せときゃいいのよ!』とごまかして何も教えてくれないからだ。そのせいで彼女がばら巻きまくった神器は管理不能になり、エリスにとっては魔王についで厄介な悩みの種となっていた。

 

「(でも、今回は事情が違うみたい……)」

 

 やたらとプライドが高いあの先輩が、一方的にライバル視しているノルンの関与を許すはずがない。だとすれば、ノルングラスはアクアによって送られてきたものではないのかもしれない。聡明なクリスはそう考えたが、その予想は見事に当たっていた。もっとも、その真相は聞かなきゃ良かったと思うような内容だったが。

 

「え~っとねぇ、コッチの事情は話すと長くなるんだけどぉ……ボクがここにいるのは【カグヤちゃん】に頼まれたからなんだよねぇ~」

「えっ……ま、まさか!? あの悪名高きカグヤ先輩が絡んでいるのですかーっ!?」

 

 ノルンからもたらされた情報を聞いてクリスが仰天する。よもや、この異常事態に【娯楽を司る女神カグヤ】が関わっていたとは……。納得すると同時に大きな不安が広がっていく。果たしてノルンは、アクア以上の問題児であるカグヤから何を頼まれたというのだろうか。それを説明するには、ノルンが銀時達と関わるきっかけとなった出来事から語る必要がある……。

 

 

 事の起こりは銀魂本編が始まる少し前のことだった。

 その日ノルンは、早めに仕事を終えて時間を持て余していた。そんな気の緩みが、一人きりの部屋でイケナイ遊びをさせてしまう。

 

『か~め~は~め~波ァアアアアアッ!! 今のはちょっと脇が甘かったな……』

 

 ご覧の通り、あまりにヒマだった彼女は、つい魔が差して【かめはめ波】の練習をやってしまった。イケナイ遊びといってもR-18的なものではなくて黒歴史に属する類のものだった。

 まぁ、どちらにしても他人に見られたくない姿なのだが、そんな最悪のタイミングで来客が訪れた。

 

『か~め~は~め~……』

『ノンちゃん、そろそろ止めるアル。じゃないと回想が進まないネ』

『……うぎゃあああああああああああ!!?』

 

 いつの間にか部屋に入っていた知り合いに声をかけられて悲鳴を上げる。この意地が悪い少女こそが娯楽を司る女神カグヤであった。見た目はオレンジ色のロングヘアと青い瞳が特徴的な18才程度の美少女なのだが、エセ中国人風の胡散臭い喋り方で中身が残念なことがうかがい知れる。

 

『カカカカカ、カグヤちゃん!? 一体いつからそこにいたのぉ!?』

『ノンちゃんが、かめはめ波をやるかギャリック砲をやるかで悩んでるところからずっといたアル(ニヤリ)』

『ほぼ全部見られてるぅうううううう!?』

 

 無慈悲なカグヤの答えを聞いてノルンはものすごい羞恥に襲われる。まさか、あのこっ恥ずかしい行動をすべて見られていたとは!

 

『あまりに面白かったからこっそり動画も撮っておいたネ。これをエリスちゃんに見せれば高値で買ってくれるから、まさに一石二鳥アル』

『こんのド腐れ女神がぁあああああああっ(涙)!?』

 

 さらに黒歴史を拡散しようと企てる情け容赦の無いカグヤに涙目でツッコミを入れる。この女、まさに外道である。

 

『うわーん!! どうせボクは見た目も心もお子様なんだ!! コ○ンみたいに頭脳は大人な小学生にはなれないんだぁーっ!!』

『そもそも年齢的に無理アルからな。1000才以上の小学生とか、サバを読むにもほどがあるネ』

 

 アクア以上に女を捨てちゃっている感じのカグヤは、女神にとってタブーとされている年齢ネタでツッコミを入れた。いくら女神が永遠に老いることのない存在だとしても実年齢は残酷なまでに加算されていくのだ。その事実を認めたくないアクアなどは『天界と地上では時間の流れが違うのよ!』と中二病のような言い訳をしているが、彼女が銀時達より遙かに年上だという事実は変えようがない。無論それは永遠のロリっ子であるノルンも同じで、ロリババア扱いされることを大いに嫌がっているのだ。

 しかし、数字が増えるだけの話などに興味が無いカグヤは、ヘコんでいるノルンに構うことなく話題を変えてきた。

 

『そんなことより、私の話を聞いて欲しいアル。実はノンちゃんにお願いがあってここに来たネ』

『ボクのハートを完膚無きまでに打ちのめしといて、図々しいにもほどがあるよね!? ……で、お願いって一体何さ?』

 

 面倒見の良いノルンは、散々酷い目にあわされながらも話を聞いてやることにした。こんなやり取りをしていても二柱の仲は結構いいのだ。

 

『流石ノンちゃん、話がわかるぅー! ノンちゃんの半分は優しさで出来ているネ!』

『ああそうかい!? ボクをバファ○ン扱いするなら、頭痛のタネとなってるキミをぶっ飛ばすべきだよねぇー!?』

『ふーやれやれ。ノンちゃんはヤンチャアルなー』

 

 再びからかわれたノルンがついに殴りかかり、それをカグヤが軽くいなす。仲がいいからこそ仲良くケンカするのだが、これでは話が進まないのでようやくカグヤが本題に入る。しかし、彼女の話は実際のパンチ以上に衝撃が強かった。

 

『私がお願いしたいこと。それは……私の【子孫】を助けるためにノンちゃんの力を貸して欲しいネ』

『ふーん、子孫を助けるためにねぇ…………って子孫!? 今もしかして子孫って言った!?』

『そうアル。子供な孫悟空じゃなくて子孫アル』

 

 カグヤはあっけらかんと答えてくるが、これはかなりのスキャンダルだ。娯楽を司る女神がアダルトなことをしていただなんて、エロ同人のネタを公式扱いするようなものだからだ。

 

『えっウソ!? カグヤちゃん子供いたの!? っていうか、子孫までいるなんて、どんだけ昔の話なのぉ!?』

 

 とんでもない話を打ち明けられて取り乱したノルンがつっこみながら問いただす。

 

『こんちくしょーっ!! 出産経験があるからこんな巨乳になったというのか!? 子供と旦那に吸わせるためにこれほどボインになったのかぁあああああああっ!?』

『つっこむところはそこアルかっ!?』

 

 驚きのあまりテンパってしまったノルンは、思わず目の前にある巨乳に八つ当たりをし始めた。しかし、カグヤの双丘に往復ビンタを食らわせている内にとある疑問が湧いてくる。

 

『あっそうだ! 子孫がいるってことは旦那さんがいるんだよね! でも、そんな相手は見たことないなぁ……』

『そりゃ当然アル。私が最初に所帯を持った男は人間だったアルからな。まぁ、もっと正確に言うと【宇宙人】だったアルが』

『へっ!? 宇宙人!?』

 

 これまたぶっ飛んだ話が出てきた。『奥様は女神だったのです』というだけでもえらいこっちゃなのに、まさかダーリンまで只者ではなかったとは……。

 

『ああ、なにもかもみな懐かしい……。当時の私は、女神としても社会神としてもまだまだ若かったアルよ』

 

 遠くを見るような瞳をしたカグヤは、思い出深い過去を思いだしながら語り出す。

 今から1000年以上前、彼女はアクアの前任として日本を担当する女神の仕事を務めていた。しかし、アクアを超えるほどにおバカな彼女は、まともに仕事をすることなく遊びまくっていた。

 

『あの頃の私はマジでイケイケなヤングギャルだったアル。ナウい服を着こなして地上に出かけては、現地のダチと【カブトムシ狩り】をしまくっていたネ』

『って、やってる遊びが全然イケてないんですけど!? めっちゃヤング過ぎるんですけど!?』

 

 このエセ中華女神は昔から無茶苦茶なことをしていたらしい。それを知ったノルンは呆れてしまうが、当然ながら当時の天界でも問題視されており、ある日上司に呼ばれたカグヤは大目玉を食らってしまう。

 

『ああもう、今思い返しても腹が立つネ! あのクソ真面目野郎、可愛いらしい私のほっぺに2回もビンタかましたアルよ!? パピーにもぶたれたことないのにっ!!』

『そりゃあキミが10年間も仕事サボってカブトムシ狩りに熱中してたらぶっ叩きたくもなるでしょうよっ!?』

 

 どう解釈しても全面的にカグヤが悪いとしか言いようがなかった。それでも当時のカグヤは反発してしまい、自分を叩いた上司に腹パンを決めた後に天界から家出してしまう。

 

『大神(おとな)の敷いたレールからはみ出した私は盗んだバイクで走り出したアル。そして、着の身着のまま土地感のある日本へ転がり込み、一人の女として生きていこうと覚悟を決めたネ』

 

 とはいえそれは、言葉で言うほど簡単なことではない。ほぼ不老不死の女神と言えども衣・食・住が必要なのだが、願えば何でも手に入る天界と違って、地上ではすべてを自分で確保しなければならないのだ。

 

『まずは、寝床をゲットするためにタイミング良く竹取りに来たジジイを騙くらかすことにしたネ。ジジイが切ってる竹の中に小人サイズの分霊を潜りこませて、竹が切れたら『なに勝手にワイの家壊してくれとんのやワレ!?』と因縁つけて代わりの住処を要求する作戦アル』

『どこかで聞いたことあるっていうか、女神にあるまじき所行ですけど!? これってまさかアレじゃないよね!? 【本当はクズだったかぐや姫】ってオチじゃないよね!?』

 

 賢いノルンは冒頭を聞いただけでティンと来たが、まさにその予測は当たっていた。カグヤはこの後もどこかで聞いたことがあるような行動を取り続けたのだ。

 

『何はともあれ、ジジイとババアの家で世話になることになった私は、あいつらへの恩返しに悪徳貴族からぶん盗ってきた金銀財宝を与えてやったネ。そしたら二人とも大喜びして『流石はカグヤの姉御だぜ! 同業者同士、今後とも仲良くやっていきましょうや』と私を可愛がってくれるようになったアルよ!』

『いやいやいやいや!? 竹取り爺さんが金盗り爺さんになってますけど!? 盗人女神を仲間に入れて盗賊団を作ってますけど!? なにこの最低なかぐや姫!?』

 

 確実に改悪されていく物語にツッコミを入れるノルンであったが、かぐや姫の真歴史にはまだまだ続きがあった。

 

『ジジババと組んでスリーマンセルとなった私達はしばらく盗賊稼業で荒稼ぎしていたアルが、次第に警備が厳しくなってきたから、今度は私の美貌を活かしてバカな貴族共に貢がせる【婚約したきゃ金出しな】作戦にシフトしたアル』

『なんかもう、かぐや姫の原型とどめてないんですけど!? そこから貴族の求婚話につながってくのぉ!?』

『その通りネ。高価なお宝をガッポリと貢いでくれるイケメン貴族をほべらして、まさにヘヴン状態だったアル。でも、調子に乗ってたらバカ貴族共に訴えられちゃって全国に指名手配されたから、とうとう私は誰も追ってこれない宇宙へと逃亡をはかったアル』

『最後までクズ過ぎでしょコレッ!? もはや、子供に読ませられない有害図書になっちゃってるよ!! っていうか、さりげなくSF要素ぶっ込んでるけど、どうやって宇宙に行ったの!?』

『こんなこともあろうかと、恒星間航行が出来るヤ○ト的な宇宙戦艦を用意してたネ』

『もう世界観まで滅茶苦茶じゃないか!? ご都合主義が暴走し過ぎて真田さんもビックリだよコレ!!』

 

 何というか、あまりにツッコミ要素満載の前振りだった。まだ本題に入っていないのにノルンはもう疲れてしまった。

 ちなみに、地球へ残ることにしたジジイとババアは、一連の経験をおもいっきり改算して竹取物語という名のラノベを作り、それが大ベストセラーとなって後世にまで伝わっているのだが、そんなことはどうでもいいから本題に入るとする。

 

『こうして、地球から追い出されるように宇宙へと旅だった私は、これまでの行いを省みて大いに反省したアルよ。もっと自分が強ければ、無様に逃げることなく国ごとぶっ飛ばせたのに、ってネ!』

『いや、まったく反省してないんですけど!? どうしてそんな答えになるわけ!?』

『それは私が破壊神としての血をパピーから受け継いでいたからアル。頭がハゲ散らかる前の若かりしパピーは、地獄へ殴り込みに行ってはストリートファイトに明け暮れて身体を鍛えまくってたネ。だから私は、パピーを見習ってサイヤ人的な戦闘民族とガチでドッカンバトルしてやろうと考えたアル』

『動機も行動も頭おかしいとしか言いようが無いんだけど!? 本当にサイヤ人と会ったりなんてしてないよね!?』

 

 本題に入って早々に話が怪しくなってきた。これはまさかのサイヤ人編に突入か?

 

『もちろん、そんなことあるわけないアル。所詮サイヤ人なんてサンタクロースやデーモン○暮と同じ空想の産物ネ。でも、その代わりに【夜兎族】というサイヤ人のパチもんには出会えたアル』

『えっ、マジで!? カブトムシ狩りをきっかけにして宇宙人と接触するとか、波瀾万丈にもほどがあるでしょっ!?』

 

 冗談でつっこんでみたらそれを肯定するような答えが返ってきた。すべての事象を娯楽と化してしまうカグヤの強運は、時として運命すら無視した結果を呼び込むことがあるのだ。ただし、それが良い話になるとは限らないのだが、その時は運良く彼女の希望通りにいったようだ。

 

『星の海を渡り徨安(こうあん)という名の惑星にたどり着いた私は、そこに住まう夜兎族と出会ったアル。彼らは宇宙最強を誇る戦闘種族であり、まさしく私が求めていた強者そのものだったアルよ』

 

 そう言うと、当時の興奮を思い出して嬉しそうな笑みを浮かべる。彼女の中に流れる破壊神の血が心と身体を熱くさせるのだが、その笑顔の中には愛しさと切なさも含まれていた。

 

『ようやくまともに戦える相手を見つけた私は、喜び勇んで地獄の特訓を繰り広げたアル。血で血を洗い、肉を切り裂き、骨を砕きあうこと10年間、私と奴等は仲良くケンカし続けたネ』

『これっぽっちも仲良さげな絵が脳裏に浮かんでこないんですけど!? そんなバイオレンスな過去を学生時代の思い出みたいに笑顔で語らないでくんない!?』

 

 確かにその通りだったが、この後カグヤに学生時代のような甘酸っぱい出会いが起きた。

 

『特訓開始以来、一度も敗北することなく常勝を続けた私は、いつ頃からか【天の覇王】と呼ばれ畏怖と畏敬の念を抱かれる存在となり、次第に勝負を挑んで来る者達も減っていったアル。戦闘種族とはいえ所詮は人間、神と肩をならべられる者など現れるはずもない。不満足な結末に悲嘆した私はその星から去ろうと決心したネ。そんな時に不屈の闘志を持ったアイツが現れたアル……。はっきり言って、アイツに勝機などは微塵も無かった。毎回私にボコられては色んな意味で昇天しそうになってたアル。それでもアイツは諦めることなく立ち上がり、私にこう言い続けたネ。『お前に惚れた! お前が欲しい! だから俺の女になれ!』と!』

『なんか目的変わってますけどっ!? 恋が生まれる要素なんて今のどこにあったというの!? 世紀末な展開から、なんでその人求婚してんの!?』

 

 頭の打ちどころが悪かったのか、ただのドMだったのかは定かではないが、その青年は勇気とチ○コを奮い立たせてカグヤに勝負を挑んではプロポーズをし続けた。そして数年後、決して折れない青年の心とチ○コに根負けしたカグヤは、ついに乙女心を動かされてプロポーズを受け入れた。

 

『バカな奴ほど可愛いというか母性本能を刺激されたというか、なんでそういう気持ちになったのか自分自身でもよく分からないけど……結局私も女だったということアルな。やっぱり、惚れた男のチ○コには勝てなかったヨ……(恥)』

『ちょっとおおおおおおお!? 最後のオチがあまりに下品ですべて台無しなんですけどぉ!? そこんところはチ○コを省いて惚れただけにしといてくんない!?』

 

 アダルトなノロケ話を聞かされてしらけたが、とにかくカグヤはその青年と結ばれて一人娘を授かった。

 そしてさらに時間は過ぎて、その娘の子孫から【江華】という名の女が生まれ、後に宇宙最強の掃除屋と呼ばれる【星海坊主】と結ばれることになる。

 そんな二人が天より授かった娘こそが、奇跡的な遺伝子継承によってカグヤと瓜二つの存在となった……

 

『超絶最強美少女ヒロイン神楽ちゃんの爆誕ネ!』

 

 なんと彼女は銀魂レギュラーの一人である神楽のご先祖様だった。ゴリラ原作者もビックリな裏設定である。

 ただし、この時点ではまだ変わった血筋の少女に過ぎないので、ノルンは特に反応することなく話を進める。

 

『なるほどねぇ~。つっこみどころ満載の説明だったけど、カグヤちゃんに子孫がいるって話は分かったよ。で? その子がどうかしたの?』

『うん……。実は今、神楽ちゃんが地球に来てるんだけど、頼れる大人や友人もいないからかなり苦労してるアルよ』

 

 そう言うとカグヤは不安気な表情になる。どうやら本当に困っているらしく、真剣に力を貸す気になったノルンは神楽の過去を見通してみた。天界にいる場合は能力を最大限まで発揮出来るので、本人が目の前にいなくてもすべてを見通せるのだ。

 

『……ふむふむ。出稼ぎするために地球へ密航して来たけどまっとうな働き口が無くて、仕方なくヤクザの用心棒をしてるのか……』

 

 不法滞在な上に知り合いもいないため、アウトローな道へ進むしかなかったようだ。これではカグヤが心配するのも無理はない。

 

『こんなの絶対おかしいアルよね!? 激かわヒロインの神楽ちゃんが、何でこんなしょっぱなからしょっぱい扱いされてるアルか!? 普通だったら、ラブ○イブを目指す美少女JKとかシン○レラガールズに選ばれた美少女アイドルになってるとこだヨ!?』

『んなもん元から無理なんですけど!? 著作権とかジャンルとか、なにもかもがアウトじゃないか!!』

『でもでも私は神楽ちゃんを幸せにしてあげたいアルよ!! あの子の未来が明るくあれと強く望んでいるアルよっ!!』

 

 いつになく真面目な態度で本心を吐露するカグヤ。すでに他界している母親の代わりをしたいのか自分に似ている彼女に感情移入しているのか。真意は分からないが、その気持ちはわからなくもない。

 

『もうしょうがないなぁ……。とりあえず、神楽ちゃんの未来がどうなるか見通してみてあげるよ』

『ありがとうノンちゃん! やっぱりノンちゃんは最高のツンデレ貧乳美幼女アルな!』

『誰が貧乳ロリだゴルァ!?』

 

 KYなカグヤのせいでちょっぴりやる気が失せたものの、実際にツンデレなノルンは神楽の未来を見通してやった。

 

『……う~む。どうやら神楽ちゃんは無闇に人を傷つけることに嫌気がさして用心棒を止めるようだね。でも、無収入になってお腹を空かしているところを狙われて、敵対していたヤクザ達に復讐されちゃうみたいだよ。完璧な殺人計画を練った犯人は『酢昆布をあげるから』とウソをついて腹ペコの神楽ちゃんを断崖絶壁におびき出し、渡された酢昆布に気を取られた彼女を崖の下へ突き落としてしまうんだ!』

『なにそのサスペンスドラマ的展開!? いったいどこでヤクザ物から火サスに変化しちゃったアルか!? というか、崖から落ちた神楽ちゃんはいったいどうなってしまうアルかーっ!?』

『大丈夫、何とか一命は取り留めて孫悟飯って名前のお爺さんに保護されるみたいだよ。でも、頭を強く打った影響で記憶と一緒に夜兎族の凶暴性まで消えちゃうから、その後は平凡なモブとして平凡な一生を過ごすようだね!』

『えぇえええええええ!? 途中から初期のドラゴンボール的な展開だったのに、どうしてモブになっちゃうアルか!? 神楽ちゃんはブルマどころかランチさんにもなれないアルかーっ!?』

 

 予想外な結末に流石のカグヤも取り乱す。

 

『うがぁああああああっ!! 神楽ちゃんがモブなんて、そんな未来は認めないアル!! あの子は絶対、ジャンプで一番きゃわわなヒロインとして君臨しなきゃいけないアルよぉおおおおおおおおっ!!』

『えぇええええええっ!? そんな無茶振りをボクに言われてもーっ!?』

 

 興奮したカグヤに理不尽な要求をされてノルンが困惑する。しかし、彼女には実際に【未来を変える力】があった。正確に言うと【運命を変える力】なのだが……。

 

『ノンちゃんお願いアル!! ノンちゃんの【縁結び】で神楽ちゃんをヒロインにクラスチェンジしてあげてヨ!!』

 

 ノルンに抱きついたカグヤは運命を司る彼女だけが使えるスキルの使用を求めた。

 【縁結び】とは、対象者の縁を操って人生の岐路となる要因と巡り会わせ、その後の運命に大きな影響を与える女神スキルだ。運命の女神に愛され導かれた者達は、英雄や偉人と呼ばれる傑物に成長して後の世に名を残す。カグヤはその力を神楽に使ってほしいと願っているのだ。

 

『そりゃあ確かに【縁結び】を使えば神楽ちゃんをヒロインにすることも出来るけどさぁ……あの国はアクアが担当してるから、ボクが干渉しようとしたら絶対いちゃもんつけてくるよ?』

『ああ、そんなことは問題無いアル。アクアは私と仲良しだから『つべこべ言うならモモパーンすんぞ』と説得すればきっと快く承諾してくれるはずだヨ』

『それ説得じゃないんですけど!? 肉体言語を用いた脅迫なんですけど!? ここまでリアルにの○太的な扱いされてるなんて、流石にアクアが不憫に思えてきたよ……。でもまぁ、今回の件はアイツにとっても悪い話じゃないからいっか』

 

 この国の未来を知っているノルンは、アクアの意志を無視して勝手に納得する。

 彼女には見えたのだ。神楽をヒロインにする運命を持った人物がこの星の歴史を動かす姿を……。

 神楽にはその男が必要であり、彼もまた神楽の力を必要としていた。愛すべきこの国を守るために。腐れ縁で結ばれた悪友たちと生き抜くために。そして、失われた家族との絆を取り戻すために。

 その男……坂田銀時と神楽の縁を結ぶことは必然だったのかもしれない。

 

『(まったく、運命を司るボクが自分の運命に弄ばれるとはね……。なんかムカつくけど、こうなったらやるしかないか)』

 

 覚悟を固めたノルンは、ため息をつきながらも【縁結び】を使う決心をする。その結果として色気もクソも無いガキンチョヒロインが誕生しちゃうんだけど、後のことは知ったこっちゃない。絶対に正統派ヒロインになどなれないギャグマンガの世界でせいぜい足掻いてみせるがいいさ!

 

『分かったよカグヤちゃん。キミの可愛い神楽ちゃんをヒロインにしてあげる。これから始まる物語の主人公と縁を結んでね』

『なっ!? マジアルか!? ストレートヘアのイケメンで目元が涼しい王子様的な主人公とイチャイチャパラダイスするアルね!?』

『ううん。天パのフヌケ顔で死んだ魚みたいな目をしたマダオ的な主人公とグチャグチャバイオレンスする話だよ』

『まるっきり真逆じゃないかぁっ!? 私はチェンジを要求するネ!!』

 

 もちろんそんなワガママは却下して、ノルンは【縁結び】の力を神楽と銀時に使った。

 こうして運命を変えられた神楽は、崖から落とされる未来を回避して銀時と出会うことになり、銀魂のヒロイン的ポジションを獲得するのだった。

 

 

 そこまで話し終えたノルンは一旦回想を止めると、呆れ顔で聞いていたクリスの反応を確かめる。

 

「とまぁ、カグヤちゃんが持ってきた無茶振りイベントがすべての始まりなんだよね~」

「な、なるほど……。お姉様とギントキ達の間にはそんなつながりがあったのですか……。でも、お姉様がここに来た理由がまだ見えてきませんね。カグヤ先輩はいったい何をお姉様に頼んだのでしょうか? それに、なぜお姉様はカズマという少年と一緒にいるのでしょうか?」

「うん……。ぶっちゃけ、こうなった原因は全部カグヤちゃんのせいなんだけど……。あのバカの不祥事レベルは、お茶の間に半ケツ晒したアクアすら超えちゃってるね!」

 

 怒りのあまりメタ発言をかましてしまったノルンは元凶であるカグヤを罵る。果たして彼女はいったいナニをやらかしたのだろうか。

 

 

 再び問題が発生したのは今から2週間ほど前のことだった。

 その日ノルンは、早めに仕事を終えて持て余した時間にマンガを読んでいた。かめはめ波の練習は前回の件で懲りたため、今回はちょっぴりえっちぃTo LOVEる

を見てアダルトな雰囲気を楽しんでいた。

 

『うわぁ~。これもうアソコが見えちゃってるじゃん。矢吹○太朗マジパネェ!』

 

 まるで性に目覚めたばかりの中学生みたいな反応である。ある意味かめはめ波以上にこっ恥ずかしい状況なのだが、間の悪いことに以前と同じようなタイミングでカグヤが飛び込んできた。

 

『うわーんっ!! ノルえもーんっ!!』

『うぎゃああああああああああっ!!?』

 

 またしても恥ずかしい場面を見られてうろたえるノルン。

 

『ちょっ、おまっ、なにやってんだよ!? 部屋に入る時は必ずノックしろっていつも言ってんだろっ!? べ、別に見られちゃイケナイことなんてしちゃいないけどさぁ~? ボクだってお年頃の女の子なんだから、ほんとマジで勘弁してよねっ!』

『ええい、お黙り!! 今はノンちゃんが、エロに目覚めたばかりの中坊みたいにTo LOVEる見てたことなんてどうでもいいアル!! そんなことより私の頼みを黙って聞きゃあいいんだよゴラァ!!』

『どう見ても頼みにきた奴の態度じゃないんですけど!? 今度はいったいなんなのさ!?』

 

 理不尽な扱いにイラッときたものの、いつになくテンパっているカグヤの様子が気になったので話を聞いてやることにした。普段はノルンのことを我が子のように可愛がっているのに、今は何があったのかそれどころではないらしい。そんな彼女を見て、こりゃまたとんでもない問題を持って来たなと予感したが、娯楽を司る彼女の起こしたトラブルは想像の範疇を超えていた。

 

『ノ、ノンちゃん!! 私はまたとんでもないことをやらかしてしまったアル!! 私のせいで銀ちゃんとマダオが死んじまったアルよぉおおおおおおおおおっ!!』

『ふぅん、そうなんだ~って、えぇええええええええええええっ!?』

 

 運命を司る彼女ですら予期できぬアクシデントに度肝を抜かれる。まさか銀魂の主人公とレギュラーキャラを同時に二人も殺っちまうとは!

 

『とっ……ととととと、とりあえずもちついて、何があったか説明してよ!?』

『う、うん……。すべての原因は、夜のかぶき町で私と銀ちゃんが出会ってしまったことにあるネ……』

 

 その日銀時は、運良く手に入れた臨時収入で久しぶりに酒でも飲もうと夜のかぶき町にくり出していたのだが、たまたま同じ日にかぶき町へ遊びに来ていたカグヤが彼と偶然出会ってしまった。

 

『その時すでに出来上がってた私は、銀ちゃんと一緒に飲みたい衝動に駆られて、つい思わず声をかけてしまったアル。神楽ちゃんがいつも世話になってるから、そのお礼もしたかったアルよ』

 

 しかし、この遭遇はカグヤにとって問題のあるものだった。神楽に激似な自分の素性をつっこまれると色々面倒なので、これまでは彼女の関係者と接触することを極力避けていたのだが、その努力は偶然の出会いとお酒のコンボによって台無しとなってしまった……。

 案の定、カグヤの容姿が気になった銀時は神楽との関係を疑っており、星海坊主が浮気して作った異母姉妹ではないかと邪推していた。もしそうだとしたら気まずいなんてもんじゃないと、一旦は誘いを断ろうとする。だが、結局最後は奢ってくれるという旨い話に負けて彼女と共に馴染みの飲み屋へ行くことにした。

 

『そこまでは一昔前に流行ったトレンディードラマとかでよく見る感じのあるある話だったアル。でも、悲劇は楽しい酒宴の後に待ちかまえていたネ。やっぱり、私と銀ちゃんは出会ってはいけない運命だったアル!』

『あーもう、そういう昼ドラ的なあおりはいいから、早く話を進めてくんない!?』

 

 テンパっているクセにいつも通りボケて来るカグヤにイラッとしつつも、いよいよ判明する銀時達の死の真相に緊張感が増していく。

 

『すべては調子ぶっこいた私がいけなかったアル!! あの時、銀ちゃんにアルコール度数96%のスピ○タスを一瓶丸ごと一気飲みする勝負を挑んでしまったばかりに、泥酔したアイツは路上で寝ゲロして窒息死しちゃったアルよぉおおおおおおおおおおおっ!!』

『ほんとにキミはナニやってんのぉおおおおおおおおおおおおっ!!?』

 

 いざ聞いてみたら色んな意味で酷かった。

 

『しかも、悲劇はそれだけでは終わらなかったネ! あの時、イイ感じに盛り上がってた私と銀ちゃんに絡んできたピッコロっぽい天人をしこたまフクロにしていなければ、その八つ当たりでマダオが魔貫光殺砲を食らうことも無かったアルよぉおおおおおおおおおおおおっ!!』

『なにそのとんでもない展開!? しょーもない不幸に巻き込んだ挙げ句、魔貫光殺砲を死因にさせちゃうとか、人の運命ねじ曲げるにもほどがあるでしょっ!?』

 

 やはりと言うべきか、長谷川に起きた惨事もかなり酷かった。

 

『というか、マジでナニしてくれちゃってんの!? 生存力の高い彼らは天寿を全うするはずだったのに、どうしてこんな惨たらしい死に様晒しちゃってるわけ!?』

『そんなこと私に言われてもよく分からないアル! あっでも、今年は私の【厄年】だから、そのとばっちりを受けたのかも……』

『それで他人が死んじゃうとか、どんだけ迷惑な厄なんだよ!?』

 

 どうやら、娯楽を司る女神の力が厄年の効果に余計な影響を与えたらしい。そこまで不条理な要因で銀時達の運命に変化が起きてしまっては、流石のノルンでも見通せない。

 創造神の母を持つカグヤはそれほどまでに特殊な女神であり、【現実世界を舞台にした壮大な娯楽】を創り出すデタラメな存在なのだ。破壊と創造という相反する属性を混ぜこんだら、世界の常識を壊してギャグマンガ風に創り変えてしまうトンデモ女神が生まれてしまったのである。

 そして今、パルプンテのようなその力が厄年の影響で暴走しているらしい。主人公すら死なせてしまうこの厄災を放置したら世界の運命まで台無しにされかねない。

 

『いいかいカグヤちゃん! 今年のキミは、一護すら超える最凶の死神と化してるんだ! いや、それどころかデスノートを手に入れたライト並に危険な状態だと言えるだろう! だからこそ、これ以上被害を拡大しないように、銀魂関係者とのエンカウントは絶対に回避するんだ!』

『……ごめんよノンちゃん。せっかく、ジャンプ的な解りやすい説教で私の罪を食い止めようとしてくれたけど、実はすでに犠牲者は出ているアル』

『なん……だと……?』

 

 これまた予想外な展開になって来た。せめて、悲劇の連鎖を食い止めようとしたら、すでにコンボは始まっていた。

 

『あれは今から半年ほど前のことアル。なんとなくヒマぶっこいてた私は、旅をしてるヅラ達のことを思い出してちょっくら見物しに行ったアル。そこであんな悲劇が起こるなんて夢にも思わなかったアルよ……』

 

 その日、桂達の様子を見に行ったカグヤは、好物のバナナを食べながらこっそり彼らを観察した。旅の目的そっちのけで初代たまごっちにハマっているバカな彼らを見て大いに満足した彼女は、機嫌良くその場を離れた。しかし、カグヤが立ち去った数分後にそこを通った桂は、彼女が捨てたバナナの皮ですべった拍子に頭を強打し、意識不明の重体となってしまう。

 その後、桂はエリザベスの適切な処置によってカツパンマンとして復活するが、それも長くは続かなかった。ヒーローとして活躍し始めたカツパンマンに興味を抱いたカグヤが、またしても好物のバナナを食べながら彼らの行動を楽しんでいたのだが、ゴリラストーカーを追跡していた彼は不運にも彼女が捨てたバナナの皮で再びすべって頭を強打し、今度はジェノザベス共々帰らぬ人となってしまった。

 

『私がブームに乗ってバナナダイエットなんかにハマっちまったばかりに、ヅラとエリーを殺っちまったアルよぉおおおおおおおおおおっ!!』

『アンタ、マジでナニやってんのぉっ!? あまりに不幸を呼び込みすぎて、もはや悪魔と化してますけどっ!?』

 

 さらっと打ち明けられた衝撃的な事実に驚愕する。どうやら、桂達の死は不幸な事故として隠ぺいする気だったようだが、とうとう罪悪感に負けたらしい。

 

『(まぁ確かに、バナナの皮で二回も転ぶカツラもどうかと思うけど……。カグヤちゃんの厄災効果は、もはや呪いのレベルだよ!)』

 

 このままでは厄年が終わる前に銀魂のレギュラーキャラが全滅しかねない。彼女自身には悪意など無いのだが、ある意味ラスボスよりも恐ろしい存在と化していた。

 

『とっ、とにかく!! 他のメンバーを死なせないように、あと半年だけはじっとしててよ!! 死んじゃったギントキ達はもうどうしようもないけど……』

『そんな、じっとしているなんて私には出来ないネ!! 悲しむだろう神楽ちゃんの為に、私は銀ちゃん達を必ず生き返らせてみせるアルよ!!』

 

 これでも責任を感じているらしいカグヤはとんでもないことを言い出した。確かに、神の力をもってすれば死んだ人間を生き返らせることも可能なのだが、天界のルールでは魔法などによる蘇生手段に成功した場合に限るため、そういった能力が存在しない地球では不可能なことだった。その代わりに不老不死すら実現する【アルタナ】というエネルギーが存在するが、そんなものに頼っても新たな悲劇を生み出すだけだし、そもそも天界で手続きを終えた者は何をしても手遅れである。

 

『なに言ってんだよカグヤちゃん? ドラゴンボールじゃあるまいし、死んだ人間を生き返らせるなんてホイホイ出来るもんじゃないでしょ。出来てもせいぜい、別の人間に転生させることぐらいしか……』

 

 そこまで言って、その奇跡を可能とする裏技を思い出す。確か、エリスの担当している世界で猛威を奮っている魔王を別世界出身の転生者が倒せば、神々から送られる褒美で元の世界に生き返ることも出来るはず……。

 

『なるほど。魔王討伐の特典を利用するとは、考えたねカグヤちゃん』

『流石はノンちゃん、もう気づいたアルか。心の相棒であるアクアにお願いして、銀ちゃん達の転生はすでに済ませているアルよ』

 

 以前、茂茂が死んだ時にアクアとつるんで無理矢理転生させたことがあり、桂や銀時達も同じ手でチャンスを作り出したわけだ。これはアクアにとってもオイシイ話で、英雄クラスの転生者を送れば魔王を倒してくれる可能性が上がるし、もしそうなれば上層部から感謝されて棚ボタ的に彼女の神格がアップする。だからこそ、あの駄女神も喜んで協力しているのだが……

 

『でもあれは、若くして死んだ少年少女だけが対象のはずだけど?』

『もちろん、その辺も抜かりは無いネ! マヌケな上司を欺くために年齢の記録を詐称しといたから、ヤツラはみんな老けた顔した永遠の17歳アル!』

『もうそれ普通に犯罪だよね!? 女神にあるまじき悪意をもって罪を重ねまくってるよね!?』

 

 確かに、女神がやってはいけないことのオンパレードではあったが、彼女達駄女神のおかげで銀時達は生き返るチャンスを得られた。こうなったら、後は彼らの努力次第である。

 

『っていうか、そこまでお膳立てしてるなら、ボクに助けを求める必要なんて無いんじゃないの? アクアから貰えるチートアイテムもあるし、ギントキやカツラほどの実力者なら魔王を倒すことも十分に可能でしょ』

『問題はそこアルよ! 銀ちゃん達はチートアイテムを貰わずにクソアイテムを持って行っちゃったから、私は心配してるアル!』

『えっ、クソアイテムっていったいなにさ?』

『お金を選んだ将ちゃんはまだまともだけど、ヅラのバカはツインファミコンなんてしょーもない物を頼みやがったし、銀ちゃんはなにをとち狂ったのかアクアを持っていったアル』

『うん、確かに両方ともクソアイテムだね……って、アクアを持っていったのぉーっ!?』

 

 まさかの展開にツッコミを入れるが、それでは確かに心配になる。

 

『そこでノンちゃんにあいつらのサポートを頼みたいアル! 運命を見通せるノンちゃんがいれば、運無し金無しパンツ無しのアクアがいてもどうにかなるネ!』

『はぁなるほど、そういうことね……』

 

 やたらと時間がかかったが、ようやくカグヤの作戦が分かった。

 

『でも、それは出来ないよ。ボクにはやらなきゃいけない仕事がたくさんあるから、ヒマなカグヤちゃんと違って天界を離れられないもん。それに、アクアと会ったら絶対絡んでくるだろうし……』

『ふっふっふー。その対策もバッチリしてるネ! マミーの部屋からパクって来たこのオサレメガネにノンちゃんの分霊をしこんで【なんちゃって神器】を作れば、ノンちゃんの本体が行かなくてもいいしアクアのバカとも会わずに済むアル。後は生きの良い死人が来るのを待って、ソイツにノンちゃんを選ばせればいいだけネ』

 

 確かに、神器クラスの寄り代があれば分霊単体でも活動出来るし姿を隠すことも出来る。そして、ノルンの【縁結び】を使えば、次の転生者に自分が宿った神器を選ばせることも可能である。

 

『でもそれじゃあ、自由に神器を選べなくなる転生者に悪いじゃないか!』

『もちろん、それも大丈夫ネ! ちゃんとノンちゃんみたいな貧乳美幼女にただならぬ興味を持ってるロリコン野郎を選ぶから!』

『それ別の意味で大丈夫じゃないんですけど!? そこはせめて健全的なシスコンとかにしといてくんない!?』

 

 確かにノルンが嫌がるのも無理はなかったが、結局はカグヤの熱意に押し負けて彼女の計画に巻き込まれてしまった。その直後に、主役の座を持っていかれたカズマが送られて来て、彼の運命を見通したノルンが相棒として選び抜いた。

 

『可愛い義妹を欲してるような変態シスコンだけど、真性ロリコンよりはマシかな……』

 

 判断基準は微妙だったものの、とにかくカズマが選ばれてノルンと共に異世界へ転生することとなった。幸か不幸か、カグヤのワガママによってカズマの運命まで書き換えられてしまったのだ。担当女神がいないと異世界転生が中断されるので、本来ならそのまま地球で転生して無難な人生を送るはずだったのだが……結局彼は過酷なファンタジー生活を強いられることになった……。

 

 

 頭が痛くなるような回想を聞かされたクリスは、口元をHの形にしながら顔をしかめる。もちろん厄介事に巻き込まれたノルンも同じ心境で、やれやれと肩をすくめながら締めくくる。

 

「ってな感じで、カグヤちゃんの尻拭いをするためにボクはここにいるってわけさ」

「は、はぁ……。なんと言いますか、その、お疲れ様ですお姉様……」

 

 とりあえず、災難をもろに受けたノルンを労っておく。お互いにとんでもない先輩を持ってしまいましたねお姉様……。

 

「それにしても驚きましたよ。ギントキ達が転生してきた事情が私の想像とまるで違っていただなんて……」

 

 これまでクリスは彼らのことを上層部の粋な計らいで送られてきた優秀な人材だと思っていたのだが、実際は不良女神の独断行為によって紛れ込んだマダオだった。サムライとしての実力は折り紙付きとはいえ、あのカグヤが気に入った人間なのだと考えると『アイツら絶対、禄でもないことしでかすんじゃね?』という予感しか湧いてこない。

 

「しかも、共犯者のアクア先輩までこの世界に来てるだなんて、不安を抱かずにはいられませんよ……」

「だいじょーぶだよエリスちゃん! もしアクアが胸をパッドで底上げしてることを言いふらしてもエリス教は不滅だから!」

「そんな心配してませんけど!?」

 

 見当違いな気を使うノルンにツッコミを入れる。確かに、胸を底上げしていることを言いふらされるのは困るが、それよりも彼女に自分の正体がバレないように気をつけないと……。

 

「お姉様もうっかり漏らさないように注意してくださいね?」

「分かってるってばエリスちゃん! こう見えてもボクは口が堅い方だし、アクアはバカだからどうせ気づきゃしないよ」

 

 そこはかとなく失敗しそうな雰囲気を感じるが、未来を見通せるノルンが言うのだからまず間違いないだろう。

 

「それはそうとエリスちゃん。だいぶ話が長引いたから、そろそろギルドに行かないと」

「え、ええ……。名残惜しいですけど、これ以上ダクネスとカズマさんを待たせてはいけませんからね……」

「とか言って、めっちゃすりすりしてくるのはなぜ?」

「今の内にお姉様成分を補充しておきたいんです~♪」

 

 妹好きなカズマに劣らず、クリスもかなりのシスコンだった。

 

「まったく、エリスちゃんは甘えん坊だなー。ところで話は変わるけど、カズマにお礼をするって約束したのは覚えてる?」

「うっ……もちろんちゃんと覚えてますよ……」

 

 お礼の件を思いだしたクリスは困ったような表情を浮かべる。あの時はとっさに言ってしまったが、改めて考えるとなにをすればいいか……。

 

「あっそうだ! 武器系の神器を貰っていないのなら、このダガーを差し上げるというのはどうでしょうか? 魔法がかかっている強力な一品ですし、かなりの値打ち物ですから換金するのもありですよ?」

「うん、確かにそれも良いんだけど、今回はエリスちゃんが習得してる盗賊スキルを教えてやってくれないかな? 【潜伏】と【敵感知】は最弱職の冒険者にとって有効なスキルだし、幸運だけやたらと高いカズマには【窃盗】も効果的だからさ」

 

 ノルンが提示してきた案は実に簡単なものだった。そのくらいのことなら、ギルドにいる冒険者達に頼んでも気軽に教えてもらえるはずだが……。

 

「お姉様がお望みなら喜んで教えますけど、そんなに簡単なことでいいのですか?」

「うん、いいのいいの。その方がボクにとっても楽しいことになるからねぇ~」

「は、はぁ……。お姉様の笑顔からドス黒いオーラが出ていて、とってもイヤな予感がするんですけど……」

 

 この時クリスは、何かが起こると思われるノルンの提案を警戒したが、姉に対する愛情ゆえに彼女の頼みを聞いてしまう。その判断があのような惨事を招くことになるとも知らずに……。   

 


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