このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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第11訓 美女には素敵な彼がいる

 銀時とアクアに攻められたウィズがピンチに陥ったその時、一人の男が颯爽と現れ、店の中に入ってきた。ドラクエ3の勇者のような格好をしたその人物は、銀時たちが良く知る徳川茂茂だった。

 

「将軍かよぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」

「ん? そういうお前は銀時か? なぜ、そなたらがここに……」

 

 先客の正体に気づいた茂茂は、軽く驚いた表情を浮かべる。実を言うと、彼がここに来た目的は『ウィズに会う』ことだったので、仲間に知られるのは少々気まずかったのである。

 しかし、そうとは知らないウィズは、良いタイミングでやって来た茂茂に、これ幸いと助けを求める。

 

「うわぁ~ん! シゲシゲさぁ~ん!」

 

 表情を輝かせたウィズは、自分を取り囲んでいたクズ兄妹を押し退けて茂茂の元へと駆けていく。そして、躊躇することなく彼の右腕に抱きついた。

 

「ものすごく良いタイミングで来てくださって、本当にありがとうございますぅー!」

「なに、ウィズ殿が求めるならば、いついかなる時でも馳せ参じてみせるぞ」

「なんてカッコイイこと言ってっけど、鼻の下は伸びまくりだよ! 右腕から伝わる巨乳の感触を、思う存分堪能してるよ!」

 

 銀時の指摘している通り、むっつりスケベな茂茂は、鼻息を荒げながらウィズの柔らかさを味わっていた。

 そのように卑猥な空気が漂う中、茂茂のことをよく知らないめぐみんが事情を聞いてくる。

 

「あのギントキ、先ほどあなたはこの人のことを将軍と呼んでいましたが、一体何者なのですか?」

「何者もナニも、こいつは俺たちの国で将軍やってた男だよ。今はこの国で冒険者から成り上がった大商人をやってるがな」

「ほほう、それは何とも風変わりな経歴の持ち主ですね。なにやら、怪しい組織が暗躍している気配がプンプンします。もしや、裏で国を操る悪者達に暗殺されそうになり、すべてを失った彼は、新たに再起するためにこの地へ流れてきたのでは?」

「中二病的発想が不自然なまでに当たってるーっ!?」

 

 簡単な説明を聞いためぐみんは、赤い瞳を光らせながらやたらと鋭い妄想を述べる。妙に楽しそうなのは、将軍という肩書きが紅魔族の琴線に触れたからだ。

 無論、隣で聞いていたダクネスも茂茂の正体に興味を引かれた。彼女の場合は【立場的】な事情もあるからだが、その関係で仕入れた情報からある程度の予想がついた。

 

「確か、街のそばで砦を建設している商人がそのような経歴であると聞き及んでいるが……もしや、この方が噂に名高い【ブリーフマスター】か!?」

「よりによって、そっちの名前で有名なのぉっ!? どう聞いてもブリーフマニアの変態扱いなんだけど!? もうそれただのイジメなんじゃね!?」

 

 どうやら、銀時が思っている以上に茂茂の存在は知れ渡っているらしい。とはいえ、今はブリーフマスターの活躍ぶりを気にしている場合ではない。

 ラッキースケベの衝撃から立ち直った茂茂は、ウィズに何らかの問題が起きていると察して、一番の当事者だと思われる男に事情を訪ねた。

 

「銀時よ。ウィズ殿が泣いておられるようだが、ここで何が起きたというのだ? 事と次第によっては、余も腰の物(刀)を抜く覚悟があるぞ?」

「とか言って、腰の物より先に股間のモノを抜いてますけど!? ズボンを突き破らんばかりに臨戦体制になってますけど!?」

 

 銀時は、ウィズに抱きつかれて元気になった茂茂のち○こにツッコミを入れる。正直な性格の将軍様は、股間の反応も正直だった。だがしかし、モッコリした股間の間抜けさとはウラハラに、彼の視線はマジである。

 

「(こいつぁやべぇ……股間の足軽が大将軍に見えるほど怒ってやがるぜ……)」

            

 茂茂から発せられる覇気のようなモノを感じて焦った銀時は、慌てて言い訳を始める。

 

「い、いやね? 俺たちはただ、ウィズのぼったくり行為に気づいたから、清く正しい社会人として注意してただけなんだよねー!」

「なに、彼女がぼったくりを?」

「そうよ将ちゃん! その女は、庶民的な焼きそばパンを5000エリスという高額で売りさばく、血も涙も無い極悪人……いいえ違うわ! 超極悪なリッチーなのよ!」

 

 空気を読まない駄女神は、勢いに任せてウィズの正体をバラしてしまった。茂茂が持っている莫大な資産を狙った彼女が、エロい身体を使ってスケベな彼を籠絡しているのではないかと疑ったのだ。

             

「ほう。アクア様は、ウィズ殿がリッチーであると仰せになられるのですか?」

「ええそうよ! 女神の私が言うんだから絶対に間違いないわ! しかも、アンデッドのクセに店まで持って、私よりもいい暮らしをしているの! これはもう、神に対する冒涜よ! ナメクジの親戚みたいなリッチーの分際でこんな贅沢しているなんて、どう考えても許せないもの! こうなったら、水の女神の名において懲らしめるしかないわよねぇ!?」

    

 自分の正当性を主張しきったアクアは、イイ笑顔を浮かべながら茂茂に同意を求める。その内容は、ほとんど八つ当たりでしかなかったが、おバカな彼女はわりと本気でそう思っていた。

 

「(もう大丈夫よ、将ちゃん。卑怯な色仕掛けであなたのお金を騙し取ろうとしている腐れリッチーの野望は、この私が食い止めてみせるわ! ああ、お礼の方は遠慮なくいただくわよ? なんたって、私はあなたの恩人なんだから!)」

 

 良いことをしていると思い込んでいる駄女神は、厚かましいことにお礼まで貰うつもりでいた。しかし、愚かな彼女の企みは、当然ながら成功しなかった。

 

「アクア様。実をもうしますと、ウィズ殿がリッチーであることはすでに存じ上げております。その上で、公私を問わず、親密なつき合いをしているのです」

「えっ、なんで!? どうしてそこで仲良しこよしになっちゃうの!? 普通、リッチーが出たら、ゴキブリのように容赦なく駆除するのが常識なんですけど!?」

「ちょっ!? アレと同じ扱いは酷すぎですよっ!?」

 

 茂茂の意外な答えにアクアが驚き、そのリアクションにウィズがつっこむ。確かに、アクアの例えはかなり酷いが、的外れとも言い切れない。もしリッチーが住み着いていることが知れ渡れば、アクセル以外の都市であったらほぼ必ず討伐対象となるはずだからだ。ウィズもそれを知っているからこそ正体を隠し続けているのだが、なぜ茂茂にだけ打ち明けたのだろうか。

 

「まさかもう腐れリッチーのハニートラップにかかって、洗脳されてしまったの!? ああ、なんていやらしいのかしら! そのデカ乳を揉み揉みさせて、将ちゃんの童貞ハートをガッチリキャッチしちゃったんでしょ!?」

「そんないかがわしいことはしてませんっ!? シゲシゲさんは、私の尊敬する【お師匠様】ですから、嘘はつきたくなかったんです!」

 

 エッチな妄想を押しつけて来るアクアに対して、顔を赤らめながら反論するウィズ。その様子は面白かったが、彼女のセリフに出てきた場違いな単語の方が気になる。銀時は、旗色が悪くなったアクアからさりげなく距離を取りつつ、その詳細を尋ねた。

 

「何なんだよ、そのお師匠様ってのは? まさかお前、ブリーフマスターになりたいのか?」

「そういうことじゃありませんよ!? 私は、一介の冒険者から一流の商人として成功したシゲシゲさんに憧れて弟子入りしたんです!」

 

 そう言いきったウィズの目は、茂茂に対する尊敬の想いに溢れてキラキラと輝いていた。確かに、これまでの状況を見れば、二人が師弟関係であるという話も納得できる。ただ、焼きそばパンのせいで起きた騒動を考えると、弟子入りした成果はあまり出ていないようだが……。

 

「プークスクス! アンタが将ちゃんの弟子ですってぇ~? じめじめリッチーは、冗談までしけってるわね。普通なら500エリス以下の焼きそばパンを5000エリスで売っちゃうようなポンコツ店主のクセになに言ってるのかしら~?」

「うぐっ! た、確かに修行の成果はあんまり出てませんけど、すべて本当のことなんです!」

 

 アクアに痛い所をつっこまれたウィズは、心にダメージを受けながらも懸命に訴え続ける。そんな愛弟子の苦境を見かねて、師匠の茂茂が助けに入る。

 

「アクア様、彼女の言っていることはすべて事実でございます。我々は半年ほど前に出会い、師弟の契りを結んだのです」

「えっマジで? ロン毛の不良が改心して熱血バスケットマンになるくらい有り得ないんですけど。本当にマジで?」

「はい、それはもう大マジです! 私は、大出世してこの街に戻ってきたシゲシゲさんに、おもいきって弟子入りを申し出たんです!」

 

 我慢強いウィズは、何を言っても突っかかってくる意地悪なアクアにめげることなく、過去の出来事を語りだした。どのように二人が出会い、師弟の間柄となったのかを……。

 

 

 時を遡ること半年前。魔道具店を営むウィズは、開店以来、延々と続いている赤字に頭を悩ませていた。

 

『はぁ……私にもシゲシゲさんのような商才があったらなぁ……』

 

 自分の不甲斐なさを痛感したウィズは、近頃有名になってきた茂茂に対して羨望の念を抱く。このころ彼は、テレポートを大規模かつ効率良く活用することで実現したネットショッピングのような商売を大ヒットさせて、黒字を増やし続けていたのである。

 実を言うとこの成功は、部下であり悪友でもある松平片栗粉のおかげだった。

 前世の茂茂が真選組の屯所を視察した時、同行していた片栗粉から近藤の使っているパソコンを見せられた。ネットでエロいページばかり見ているパソコンを……。

 

『ほぉ~ら将ちゃん、こいつの仕事っぷりをよ~く見てくれぃ。このゴリラはなぁ、空いた時間が出来る度にこいつを使って、年がら年中エロ~いページをパトロールしてるんだぜぇ~? それもよぉ、エロ~いニート以上に巡回しまくってるっつーんだからぁ、マジで感服しちまうよなぁ? ここまで熱心に仕事をされちゃあ、毎日キャバクラ通っちゃってる俺の立つ瀬がねぇってモンだぜぇ。なぁ近藤ぅ?』

『ちょっとぉぉぉぉぉ!? なんて恐ろしいタイミングで人の恥部を暴露してんのぉ!? これもう、お母さんにエロ本見られるレベルを超えちゃってるよ!? 好きな子にオ○ニーしてるとこ見られるぐらいのレベルだよ!?』

『なぁーにぬかしてやがんだ小僧ぅ! 実際お前はこいつを使ってぇ、毎日シコシコやってんだからぁ、なぁーんも問題無いっしょいぃ!』

『いやいやいやいや!? 問題ありまくりなんだけど!? 社会的ダメージが、元気玉食らったベジータ並なんだけど!? ほんとマジでどーすんだよコレ! 今日から俺は、オニの副長ならぬオ○ニーの局長として生きていかなきゃならねぇよぉぉぉぉぉ!?』

 

 大恥をかかされた近藤は、顔を真っ赤にしながらツッコミを入れる。しかし、当の茂茂はエロいページとインターネットビジネスの仕組みに興味津々となっており、職場でいかがわしい行為をしていたゴリラは処罰を受けずに済んだ。

 何はともあれ、その際に学習したネットの知識をこの異世界で活かしたのだ。

 そんな感じで、事の経緯はかなりバカらしかったりするのだが、それでも彼の努力が成功をもたらしたという事実に違いはない。現に、彼の功績が認められて、辺境にいるウィズにまでその名が広まっていたのである。

 

『少しでも良いからお話をしてみたいな……』

 

 アークウィザードを辞めて小さな店の主となった彼女は、冒険者でありながら巨大な会社を繁盛させている茂茂を心の底からリスペクトしており、機会があれば教えを請いたいと思っていた。

 

『でも彼は、王都で活躍している大商人。そんな人と会える機会なんて早々無いわよね……』

 

 カウンターで頬杖をついたウィズは、客のいない店内を眺めてため息をつく。

 しかし、心の清い彼女の願いが天に通じたのか、思いもかけない幸運が訪れる。新人冒険者育成用の訓練施設をアクセルのそばに建設しようと計画した茂茂が、この街に引っ越して来たのだ。

 これぞまさしく、千載一遇の好機。吉報を耳に入れたウィズは、意を決して会いに行くことにしたのである。

     

『ファイトよ、ウィズ……ダメダメ店主を卒業するため、今こそチャンスをこの手に掴むのっ!』

 

 茂茂が住んでいる借家に向かう道中、自分に言い聞かせるように気合いを入れる。それほどまでに緊張しているからだが、そうなるのも仕方がない。商才が微塵も無いと言い切っても過言ではない彼女にとって、大出世を果たした彼は雲の上にいる神様のような存在だからだ。

 

『トクガワ・シゲシゲさんか……紅魔族の人達みたいに変わった名前だけど、どんなお方なのかしら? あれだけ立派な仕事が出来るんだから、きっと素敵な人だと思うけど……』

 

 目的地が近づくにつれて緊張感だけでなく期待感も高まってくる。もし上手くことが進めば、魔道具店を始めて以来ずっと続いている赤字地獄から脱出できるかもしれない。

 

『うふふ……このチャンスをものにできれば、憧れの黒字生活も夢じゃありません! そうすればもう、貧乏店主とかポンコツ店主などと言われずに済みます!』

 

 意外に楽天的なウィズは、明るい未来を妄想してニコニコと笑顔になった。

 しかし、そんな幸せも長続きしなかった。その時、不意に強い風が巻き起こり、それによって飛ばされてきた何かがウィズの顔にへばりついたのだ。

 

『わぷっ!?』

 

 いきなり視界が真っ白になって慌てたウィズは、バランスを崩して尻餅をついてしまった。浮かれていた彼女にも隙があったとはいえ、まったくもってついていない。

 

『もう! 一体何が飛んできたの?』

 

 お尻に受けたダメージで涙目になりながら、顔にへばりついた物体を取る。すると、解放された彼女の視界に一人の男性の姿が映った。それは凛々しい顔立ちをした冒険者風の男で、足早にこちらへ近づいてくると、なぜか突然謝罪してきた。まったくの偶然だが、この男こそ今から会おうとしている茂茂だった。

 

『まことに申し訳ない。余の洗濯物のせいで迷惑をかけてしまった』

『えっ』

 

 一瞬何のことかと思ったが、すぐにその意味が分かった。今右手に持っている柔らかい物体は、彼の洗濯物だったようだ。状況を理解したウィズは、立ち上がって話を進める。

 

『それって、これのことですか?』

『ああ……拾っていただき感謝いたすが、そなたの身体に怪我はないか? もし痛むのであれば、完治するまで治療費を支払うゆえ、遠慮なく申し出てくれ』

『いえいえ! そこまでしていただかなくても結構ですよ!? なんたって、私は不死身ですから、このくらいへっちゃらです!』

『……なるほど、不死身であるか。確かにそれなら、治療費は無用だろうな』

 

 手厚すぎる対応に慌てたウィズは、ついうっかり自分の秘密を漏らしてしまうが、人の良い茂茂は、彼女が気を使ってくれたのだと解釈した。そんな奇妙で優しいやり取りが面白くて、お互いに笑ってしまう。

 

『ふふふっ。何だかおかしな会話になっちゃいましたけど、ここはひとまず一件落着ということにしておきましょう?』

『相分かった。そなたの優しさに甘えさせてもらうとしよう』

 

 円満に話をまとめた二人は、再び笑顔を浮かべながら見つめ合う。

 

『(誠実で思いやりのある人ですね……)』

『(包容力に溢れた魅力的なお方だ……)』

 

 まだお互いの素性を知らない状況なのだが、偶然出会ったこの瞬間からお互いに好意を抱き始めていた。まぁ、ウィズの巨乳をガン見している茂茂にはヨコシマな感情が含まれているのだが、幸いなことに彼女はそれを右手に持った洗濯物に向けているのだと勘違いした。

 

『あっそうだ。これをお返ししなくちゃいけませんね』

 

 照れたウィズは、気恥ずかしい空気をごまかすように話題を変えると、右手に持ったままだった洗濯物を広げた。しわくちゃのまま返すのは失礼だと思って綺麗にたたもうとしたのだが、それが何なのか分かった途端に彼女の動きが止まる。

 

『あの……白くて、もっさりとして、前の部分に穴があって、後ろの一部が茶色くなってるコレってまさか……』

『それは余の使用済みブリーフだ』

「って、おぉぉぉぉぉい!? あんだけ話を盛り上げといて、最後は結局ブリーフオチかよっ!?」

 

 あまりの落差に呆れた銀時がツッコミを入れる。ちょっぴりラブコメ風の話だったので茶化さず聞いてやったのに、肝心のオチが想像以上に酷かった。

 

 

 おかしな回想を聞き終えた銀時たちは、哀れむような表情を浮かべた。どう考えてもアレは、男女の出会い方としては最悪の部類に入るだろう。そう思ったからこそウィズに同情したのだが、当の本人はなぜかニコニコとしていた。

 

「それにしても、初めて会いに行った日にあんな偶然が起きるなんて、改めて思い返すと、すごく運命的な出会いですよね!」

「アレのどこでそう思ったのぉ!? あんなの全然、運命的な出会いじゃねーよ! うんこ付きブリーフと出会った的な話だったよ! つーか、将軍泣いてんだけど!? 恥ずかしい過去を掘り返されて涙目になってんだけど!? あーもうゴメンね! さっきの話は聞かなかったことにしとくから! ブリーフのウン筋をウィズに見られちゃったことは、綺麗さっぱり忘れちゃってぇ!?」

 

 器用な銀時は、変なスイッチが入ったウィズにツッコミを入れつつ、傷ついた茂茂のハートも気遣う。どうやらウィズは、汚いブリーフに関する思い出すらも美化してしまうほどに茂茂のことを尊敬しているようだが、今はそれがかえって仇となってしまった。

 

「まぁなんだ! とにかくこれで、二人が最高の師弟コンビだっつーことがよぉ~く分かったよなぁ、アクア?」

「えっ、ええそうね! それは私も認めてあげるわ! よくよく考えれば、リッチーとブリーフマスターってヨゴレ者同士だし、とってもお似合いだと思うの! 人を見る目がある私が言うんだから安心して! 二人の相性は、あんパンと牛乳並にバッチリよ!」

「ほぉーら将軍、今の聞いたか? ヨゴレ仲間の駄女神からも太鼓判をもらえたぜ? これでお前ら三人は、俺公認のヨゴレトリオだ!」

「って、さりげなく私をまぜないで欲しいんですけど!? 芸達者なこの私を、ダチ○ウ倶楽部的に扱わないで欲しいんですけど!?」

 

 これまでの悪逆非道をうやむやにしたい銀時は、アクアを上手く利用して強引に話をまとめた。とはいえそれは、話題を変えたい茂茂にとっても好都合だったので、彼の茶番に乗ることにした。

 

「っつーわけで、仲直りの印に自己紹介でもしとこうぜ。将軍もこいつらとは初対面だし丁度良いだろ?」

「ああ、そうだな」

 

 気を取り直した茂茂は、初めて会っためぐみんとダクネスに挨拶すべく姿勢を正す。

 

「では、改めて名乗らせてもらおう。余の氏名は徳川茂茂。冒険者を生業とするかたわらで商人としても活動している変わり者だ」

 

 先ほどまで涙目だった人物とは思えないほど凛とした声で自己紹介する。話した内容は簡潔だったが、彼から発せられる雰囲気が只者ではないことを物語っている。そんな茂茂に貴族の風格を感じたダクネスは、めぐみんよりも先に前へ出ると、相手を敬うように名乗りを上げる。

 

「初めましてシゲシゲ殿。私はクルセイダーを生業としているダクネスという者です。貴方の噂はかねがね聞き及んでおりまして、いつか挨拶したいと思っておりましたが、このような機会に恵まれて感激の極みです」

「ほう、余に関する噂などというものが広まっているのか?」

「はい、そうです。何でも、貴方が建設している砦の中は世界中から集められた拷問器具で埋め尽くされており、無謀な侵入を試みた者は地獄のごとき苦しみを味わえるとか! もしそれがまことであるなら、ぜひ私も試してみたいっ!!」

「お前はどこに注目してんだ!? 将軍なんかそっちのけでアブナイ遊びに夢中じゃねーか! バカなことは考えないで、ほんとマジで止めとけって! あの砦は、99機も命があるヒゲオヤジを殺せる場所だぞ!? SMプレイじゃ済まねぇほどに鬼畜な仕掛けが待ってんぞ!?」

 

 無茶なことを言うダクネスに銀時がつっこむ。無限増殖出来るマリオでも全滅しかねないクッパ城に一度限りの命で挑ませるなど、たとえドMであってもやらせる訳にはいかない。あの配管工のマネをしていたら命がいくつあっても足りないのだ。

 こうなったら、厄介な展開にならない内にダクネスを引っ込めて、めぐみんに出番を回そう。

 

「よーし、ドMはここでターンエンド! 次は爆裂バカの番だ!」

「おい、それは私に言っているのか!? もしそうなら表に出ろ! 爆裂バカの爆裂魔法をバカなあなたにおみまいしてやる!」

 

 何か余計に厄介な事態になった。どいつもこいつもマジで面倒くさい連中である。

 そんなバカパーティの一員であるめぐみんは、銀時への報復を誓いつつ、中二病という個性を遺憾なく発揮した名乗りを行う。

 

「こほん……では、気を取り直して……我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」

 

 案の定、お馴染みの名乗りを上げて銀時達をしらけさせる。イタイ中学生の黒歴史をリアルタイムで見せつけられては、どうしてもやるせなくなってしまう。だがしかし、意外にも茂茂は動じていない。

 

「その特徴的な名乗りと紅い瞳……もしやそなたは紅魔族か?」

「いかにも! 我は紅魔族随一の魔法の使い手にして、いずれは魔王を討伐する者! ゆえに我が名を、その頭に刻むがいい」

 

 可愛らしい容姿とはウラハラに勇ましいセリフを吐くめぐみん。それに対して茂茂は、親しみを込めた笑みを浮かべる。

 

「なるほど、まだ幼くとも紅魔族の一員だな。【もょもと】や【トンヌラ】と雰囲気が似ている」

「えっ、あなたはあの二人を知っているのですか?」

「うむ。以前、紅魔の里を訪ねた時にからまれてな。愚痴を聞いてやっている内に何故か懐かれてしまって、現在は余の下で熱心に働いている」

「なんと!? それはすごいですよ! 生まれた時点でレベル48もありながら、名前が発音出来ないという理由でどこにも雇ってもらえず、すっかりやさぐれてしまった【もょもと】と、悪質なアクシズ教団に無理矢理入会させられた挙げ句、10年も奴隷のような社畜生活を強いられて、すっかりやさぐれてしまった【トンヌラ】を更正させてみせるとは! あなたはかなりのやり手ですね!」

「なにその哀れな二人組!? お笑い的な名前に反して、人生ハードモードだよ!?」

 

 確かに、彼らの青年期はドラクエの主人公みたいに過酷だったようだが、今は楽しく暮らせているようでなによりだ。

 ちなみに、建設中の砦が一ヶ月ほどで形になったのは彼らのおかげなのだが、銀時にとっては知ったこっちゃない話である。

 

「まぁ、名前だけのモブなんざどーでもいいとして……今度はウィズに俺達の紹介すんぞ」

「はい、お願いします」

「では改めて、俺の名前は坂田銀時。こいつらのリーダーやってる、しがない遊び人だ。で、このバカは、ノーパンノーブラの露出狂で自称女神のアクア様だ」

 

 親切な銀時は、所有物扱いのアクアも一緒に紹介してやった。しかし、その内容はノーマルなウィズにとって驚くべきものだった。

 

「へ……変態さんだぁーっ!?」

「ちょっまっ、違うの!? その解釈は間違いよ!? 私はマジで女神だから、出してる方が正しいの! だってほら、ミ○のヴィーナスとかモロ出しでしょう!? あんな感じで、超自然的な女神には下着なんて必要ないの! ていうか、つけてる方が邪道なの! それなのに、この私を変態扱いするなんて、あんたたちは酷すぎるわ! 貧乳を底上げしてるエリスの方が、どう見たっておかしいのにぃ!!」

「このバカ、世界的な美術品をダシにして、とんでもねぇこと言いだしやがった!? その上、エリスって女神の恥ずかしい秘密まで暴露するなんて、こいつぁ酷ぇ悪魔だぜ!」

「私を勝手に堕天させないでほしいんですけど!?」

 

 面倒になりそうなのでアクアの紹介を代わりにしたら、話が余計にこじれてしまった。とはいえ、それほど的外れな紹介でもなかったので、この場は【女神を夢見るイタイ子】という解釈で収まった。

 

「よーし、これで全員の紹介が終わったな。それじゃあ、今後ともヨロシクっつーことで……」

「おぉぉぉぉぉい!? ちょっと待てぇぇぇぇぇ!? まだ俺がやってないんだけど!? 長谷川の紹介だけバッサリカットされてんだけどっ!?」

 

 銀時に無視されそうになったため、これまで黙ったままだった長谷川がようやく喋る。

 

「なんだ、いたのかよ長谷川さん。まったく会話に入ってこねぇから先に帰ったのかと思ってたぜ」

「絵が無ぇからっていい加減なこと言ってんじゃねぇよ! 2話も前からずっといただろ!? 華麗にツッコミ決めてただろう!?」

 

 喋るチャンスがなかなか無くて大人しく出番待ちをしていたというのに、ようやく機会が来たと思ったらコレである。不幸すぎる長谷川は、自己紹介すらまともにやらせてもらえなかった。

 

「すまねぇウィズ。一人紹介し損ねてたぜ。このグラサンかけた冴えないオッサンはマダオっていうんだ」

「嘘つけぇぇぇぇぇ!? 確かにそれでも通用するけど、本名は違うからね!? こんな俺にだって長谷川泰三っつーイケてる名前があるんだからねっ!?」

「は、はい……ハセガワさんですね?」

 

 何とか名前だけは伝えられたが、ウィズに与えた印象は、結局『まるでダメなオッサン』であった。

 

 

 何はともあれ、茂茂のおかげでウィズに対する誤解が解けて、彼女は新たな仲間となった。大金を手に入れる計画が水の泡と消えたアクアとしては面白くない結果となったが、銀時の方には思わぬ収穫があった。それは、茂茂とウィズの関係である。

 

「(ウィズと話してる将軍の顔がやたらとツヤツヤしてんだけど、アレって絶対気があるよね?)」

 

 つまりはそういうことだ。ウィズの反応も満更ではなさそうなので、上手くすれば恋人同士になれるかもしれない。ならばここは、仲間として恋のアシストをしてやるべきだろう。

 

「なぁ将軍。あんたの持ってるその箱はウィズに持ってきたんだろ?」

「ああ、そうだ。色々あって渡しそびれていたが、ようやくこれの話が出来るな」

 

 銀時は、あの箱の中身がウィズにあげるプレゼントであると当たりをつけて話を進める。確か茂茂は『頼まれていた品が届いた』とか言っていたが、恐らく間違いあるまい……。

 

「さぁウィズ殿、注文通りに出来ているか確かめてみてくれ」

「わぁ~、ようやく完成したのですね!」

 

 輝くような笑顔を浮かべたウィズは、茂茂から手渡された箱を抱いて喜ぶ。しかし、根性が捻くれたアクアは、自分に対する貢ぎ物が無いことが不満で理不尽な言いがかりをつけてきた。

 

「なによ将ちゃん。女神の私には何も無いのに、こいつなんかに特注のプレゼントを渡しちゃって! 常識的に考えて、おかしいんじゃないかしら? そうよ、何かがおかしいわ! もしかして、エッチな下心でもあるんじゃないの? それをあげる代わりに、こいつの巨乳を揉み揉みさせろってことじゃなモガフッ!?」

「バッ、バッキャロウ!? 将軍はそんな奴じゃねぇよ! すっげームッツリスケベだけど、そこまでエロいことはしねぇよ! やってもせいぜい、エロ本のヌードモデルにウィズの顔写真を張り付ける程度だよ!」

「オイ、それフォローになってねーぞ!? 女子たち全員ドン引きだよ!?」

 

 余計な邪魔をしてきた駄女神の口を塞ぎながら、茂茂を弁護(?)する。

 

「(この駄女神ェ! 恋のキューピッドにうんこ投げつけるようなマネしやがってぇ!)」

 

 額に血管を浮かべた銀時は、空気を読めないアクアに怒る。しかし、この件に関しては彼自身も間違えていた。

 

「あの~、お二人は何か勘違いしてるみたいですけど、これはプレゼントではなくて、お店に出す商品ですよ?」

「「えっ、そーなの?」」 

 

 ウィズからありきたりな答えを聞いて、一気に拍子抜けするバカ兄妹。その逆に、魔道具に興味があるめぐみんが食いつく。

 

「それじゃあ、その箱の中身は魔道具なのですか?」

「はいそうですよ。しかも、出来たてホヤホヤです」

 

 嬉しそうに返事をしたウィズは、めぐみんに促されるように箱を開けた。すると中には、真っ赤な色の女性用装備が入っていた。

 

「こ、これは……!」

「じゃじゃ~ん! この商品は、装備するだけでバストサイズがアップする【戦士のビキニ】で~す!」

「よし買ったぁ!!!!!」

「迷わず即答!? そこまで巨乳に憧れてたの!?」

 

 商品の効果を聞くや否や、購入を即決するめぐみん。やたらと自信家な彼女だが、平均以下の貧乳だけは唯一の欠点だと思っていたのだ。しかし、それも今日までだ。

 

「ふっふっふー! とうとう私の時代が来ました! これでもう、無駄にデカく成長した【ゆんゆん】の胸を見ても敗北感を抱かずに済みます!」

「いや、ニセ乳でごまかしても負けは負けだろ」

 

 銀時が正論でつっこむが、浮かれているめぐみんは右から左に聞き流した。負けず嫌いな彼女は、ゆんゆんという名の少女に胸の大きさで負けていることを根に持っており、この魔道具でリベンジするつもりなのだ。

 とはいえ、こんなきわどいデザインのビキニにそんな効果があるのだろうか。気になった長谷川がウィズに頼んで貸してもらうと、いやらしい手付きで調べ始めた。

 

「触った感じは普通のビキニと変わんねぇけど……どういう原理でオッパイがデカくなるんですか、上様?」

「うむ、それには筋力に作用する類の支援魔法が複数込められていてな、その効果がビキニを基点に強く現れ、胸囲が驚異的に上昇するのだ」

「なんか思ってたのと違うんだけど!? バストアップというより大胸筋がビルドアップしてるだろソレ!? 女の魅力っつーよりも男の色気が増しちゃうだろソレ!?」

 

 詳しく聞いてみたら、売りにしている効果の意味に偽りがあった。確かに胸は大きくなるようだが、グラビアアイドル型ではなくてボディビルダー型だった。

 一瞬で夢破れためぐみんは、目からハイライトを消してつぶやく。

 

「どうやらソレは、アークウィザードである私には不必要な物ですね。むしろこれは、筋肉ムキムキなダクネスにこそふさわしい代物です」

「なっ、何を言うんだめぐみん!? 私の身体は、それほど筋肉質ではないぞ!? むむむ、胸だってちゃんと柔らかいし、腹筋だって割れてないぞ!?」

「ドMのクセに、そーいう所は気にすんのかよ!」

 

 意外に純情な所があるダクネスは、自分の身体が筋肉質だということを気にしていた。苦痛を味わうために筋トレを続けている結果なので、おもいっきり自業自得なのだが……変態の乙女心は、複雑を通り越して混沌と化していた。

 だが今は、ドMの乙女心などどうでもいい。ここで注目すべき問題は、頭のおかしい商品ばかりを出してくるウィズの商売センスにあった。

 

「何だよこの欠陥品は!? こんなの詐欺と一緒じゃねーか! エリスの底上げパッドよりよっぽど悪質じゃねーか!」

「ど、どこが悪質なんですか!? 胸のサイズで悩んでいる女性はたくさんいるから、絶対需要があるはずですよ!?」

「そのオッパイが筋肉製じゃなければって話だけどねっ!?」

 

 怒り狂った銀時は、ずれたことを言うウィズの致命的な間違いを指摘する。

 

「男の夢がいっぱい詰まったオッパイを、筋肉なんて酸っぱいモンでごまかすなんざ、絶対に許せねぇ! お前の巨乳は筋肉なのか!? 直接揉んで確かめようかぁ!?」

「きゃあぁぁぁぁぁ!? ごめんなさぁぁぁぁぁい!?」

 

 ようやく自分のミスに気づいて反省するウィズ。もちろん彼女に悪気があったわけではなくて、色々とアイデアを考えている内に迷走してしまい、最終的には『バストサイズと同時に攻撃力も上がれば一石二鳥ですよね!』なんておバカな答えに行き着いてしまった結果の産物なのだ。そんなダメ企画を茂茂の所へ持ち込み、彼女に甘い彼が実際に作ってしまったのが、このビキニだった。

 

「なぁウィズさんよぉ。貧乳の気持ちが分からねぇ巨乳のせいで、ウチのめぐみんがすっげぇ傷ついちゃったんですけどぉ? この落とし前はどうつけてくれんですかねぇ?」

「あーん、本当にすみませぇーん!!」

「まぁ待て銀時、あまり彼女を責めないでやってくれ。余も間違っているとは思っていたが、その失敗が彼女を育てると思ったのだ」

「いや、間違ってるって分かってんなら止めてやれよバカ師匠!? コイツがちゃんと育つ前に、絶対この店潰れちまうから!」

 

 茂茂の教育は、甘党の銀時ですらツッコミを入れるほどに甘かった。いわゆる『惚れた弱み』という奴だが、ウィズの暴走を止められないのはいただけない。実際、そこに目をつけたアクアが早速からんできた。

 

「プークスクス! 流石の将ちゃんも、性根の腐ったリッチーをまともに教育することはできなかったようね! やっぱり、腐ったミカンは周りの人まで腐らせるのよ! これでよく分かったでしょう? アンタみたいな腐れリッチーは、ダンボールの片隅にすら存在しちゃいけないの! 悪魔だらけの不良中学でスケバン張ってる方がお似合いなのよっ!」

「ひ、酷い!? なにもそこまで言わなくても!?」

 

 意外に年を食っているアクアは例えがいちいち古臭く、元ネタを知っている銀時たちから冷笑を浴びせられた。それでもウィズはかなりのダメージを受けているようなので、見かねた長谷川が助けに入る。

 

「まぁまぁ、悪口もそこまでにしときなよアクアちゃん。確かに、焼きそばパンとそのビキニは失敗作かもしれねぇけど、他の商品は大丈夫だろ」

 

 そう言いながら、身近にあった品物を手に取る。それは赤い液体が入った小さな瓶だった。

 

「ほら見ろ。これなんか、いかにもゲームに出てくるポーションみたいじゃねーか。たぶん、飲むと体力が回復したりする奴だぜ?」

「あっ、それは強い衝撃を与えると爆発しますから気をつけてくださいね」

「飲むと体力減るじゃねーか!」

 

 弁護しようと思ったら、いきなり危険物を引き当ててしまった。これでは余計に心象が悪化してしまう。

 

「そ、それじゃあ隣のこれは、飲むと魔力が回復する……」

「それはフタを開けると爆発します」

「だったらこれは毒消しの……」

「水に触れると爆発します」

「じゃあもうこれはエリクサー!?」

「温めると爆発を……」

「そんな危険物を店頭に並べんじゃねぇぇぇぇぇ!!」

「きゃあぁぁぁぁぁ!? ごめんなさぁぁぁぁぁい!?」

 

 あまりの酷さに味方していた長谷川もキレた。

 

「何でこんなに爆発物がこれみよがしに置いてあんの!? まさかコレ、爆破コントの前振りじゃないよね!? 俺に使えってことじゃないよね!? これだけあるとアフロになるだけじゃ済まないんだけど!? 流石の俺も死んじゃうけどっ!?」

「ももも、もちろん、そんなつもりはありませんよ!? その棚の爆発シリーズは、この後、奥にしまっておきます!」

 

 長谷川のリアクション芸でようやくその棚の危険性を理解したウィズは顔を青ざめさせる。本当にこれまでよく無事で済んだものだ。呆れた銀時は、爆発シリーズとやらを見回しながらそう思った。

 その時、やたらと見覚えのある物が目に写り、思わず動きを止めてしまう。

 

「おいウィズ。そこにある雑な作りをしたこけし人形みたいな奴も爆発すんのか?」

「はい、そうですよ。それは【ジャスタウェイ】という名の目覚まし時計で、アラームが鳴ると同時に爆発します」

「もうソレただの時限爆弾! つーか、なんで目覚まし機能をつけやがった!? 目覚めた直後に永眠するだろっ! 次の朝は来ねぇだろ!?」

     

 もしやと思って聞いてみたら、ウィズの答えはかなり笑撃的だった。まさか、異世界でコイツと出会うことになるとは……。

 

「どうなってやがんだコレは? 作者や集○社に断りもなくパチもんを売り出しやがって! リッチーには著作権を守る義務が無いとでも思ってんのかぁ!?」

「つっこむ所はそこじゃねーだろ! 世界を跨いでクレームつけんな!」

 

 銀時の訴えは速攻で却下された。

 

「大体、本物を知らないウィズさんには作れねーだろ、こんなモン」

「はい、そうです。ハセガワさんのおっしゃる通り、そのジャスタウェイは私が作ったものではなくて、別の街で買ったものです」

「それじゃあ、コイツはどこから湧いて出たんだよ? もしかして、別の転生者が作ってんのか?」

「それは余にも分からん。時々このように我らがいた世界の物が出回ることがあるのだが……」

 

 茂茂はそう言うと、アクアの方に視線を向けた。色々と見聞を広げた彼は、これまでアクアがばらまきまくった【神器】に原因があるのではないかと睨んでいた。実際、それらの中には、本来の所有者の手を離れて悪用されているケースがあるのだ。

 しかし……

 

「余は、そのジャスタウェイを使って悪人を懲らしめることが出来た。ゆえに今更、出所などにはこだわらぬ」

「へぇ~、ブリーフ一丁にされるたびによく泣いてた将軍が悪人退治ねぇ。しばらく会わねぇ間に、随分と男らしくなったじゃねぇか」

「いやいや!? ここは関心するより、誰かを爆破したことにつっこむトコじゃね!?」

 

 確かに長谷川の言う通りである。なぜ茂茂が人間を相手にしてジャスタウェイを使うことになったのか。長谷川の疑問を聞いて【あの事件】の詳細を話しておいた方が良いと判断した茂茂は、この機会に打ち明けることにした。面識が無いめぐみんとダクネスに関しては懸念すべき所なのだが、あの銀時が認めた者たちならば心配するだけ無駄だろう。

 

「銀時とその仲間たちよ。皆を信じて【とある秘密】を打ち明けるが、今から話すことは他言無用にしてもらいたい」

「ああん? なんだよ急に。面倒そうな予感しかしねぇけど、俺らが聞いた方がいいことなのか?」

「ああそうだ。これからする話は、この街の領主をしている【アルダープ】に関することだからな……」

「なにっ!? アルダープだと!?」

 

 茂茂の口から出た人物名を聞いてダクネスが驚く。

 

「どうしたダクネス。もしかして、その【アレ脱糞】とかいう奴のことを知ってんのか?」

「い、いや……奴に関する悪い噂を耳にしたことがあったから、やはりそうかと思っただけだ。それと、奴の名はアルダープであって、脱糞しちゃった人ではないぞ」

 

 いきなり真剣な表情になったダクネスは、当たり障りのない返答をする。さっきまでは銀時のドS調教に悦んでいた変態メス豚だったのに、今はまともな美少女騎士に見える。

 

「真性ドMをここまでシリアスにしちまうなんて、その【アル中シムラがだっふんだ】って奴はそんなにヤバイ相手なのか?」

「もはやアルしか合っていないが……ともかく、その【変なおじさん】は、かなりの悪徳貴族でな。余は、砦の建設に関して奴と敵対することになったのだ」

 

 皆の注目を集める中、茂茂は語り始める。それは、ウィズと協力して成し遂げた愛と友情の大作戦だった……。

 


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