このみすぼらしい万事屋に祝福を!   作:カレー大好き

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『この素晴らしい世界に祝福を!』を見ている内に思いついたので、とりあえず1話だけ作ってみました。
もし反応が良ければ、のんびり続けようかと思っています。

ちなみに、銀魂世界の設定は、原作がハッピーエンドで終わって、ほとんどの主要キャラが元の生活に戻れた状態となっております。


ああ、駄女神さま、頼むからぱんつをはけ
第1訓 死後の世界も甘くはない


 その日の深夜。坂田銀時は、しこたま酒を飲んでいた。久しぶりにまとまった収入が入ったので、ついハメを外してしまったのである。その結果、もれなく悪酔いした。

 

「オェ―――ッ!!」

 

 開始早々いきなり吐いて、モザイクのお世話になる。それほどまでに今の彼は酔っ払っていた。

 

「あ~、気持ちわりぃ~……。ったく、何でこーなると分かってんのに、酒なんか飲んじまうのかねぇ。俺ってドSかと思ってたけど、実はドMなんじゃね? 苦痛という名の美酒に酔いしれて悦びを感じてんじゃね?」

 

 気分の悪さをいつもの軽口で誤魔化そうとする。無論それには何の効果も無く、時間が経つに連れて更に酔いが回っていく。そうして千鳥足を進めているうちに段々と意識が遠のいていき、ついに路上へ寝転がってしまう。

 

「もーダメだわ。目の前に裸の美女がいたって、体もアソコも起きねーわ」

 

 ボロい街灯が照らす薄暗い路地に仰向けになって寝転んだ銀時は、急激に強まっていく睡魔に負けてその身を預ける。

 

「ちょっとだけ、一休み……」

 

 そう言って静かに目を閉じる。眠りにつく前に見た最後の景色は、かぶき町を穏やかに照らす綺麗な星空だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 次に目が覚めた時、銀時は異様な空間にいた。足元には白と黒のチェック柄をしたパネルが並び、周囲は見渡す限り真っ黒な空間が広がっている。そんな異様過ぎる場所に2つの椅子が対面するように置いてあり、質素な作りの方に銀時が座っていた。なぜ自分がこんなところにいるのだろうか。はっきりいって意味不明である。

 

「……あれ、なにこれ。なんで俺こんなトコにいんの? 酔っ払って路上にぶっ倒れた記憶はあるけど、一体どのタイミングで瞬間移動しちゃったの? つーか、瞬間移動なんてスキル持って無いんですけど。ヤードラット星で修行なんてしたことないんですけど」

 

 銀時は、なんとなーく嫌な予感を抱きながら今の状況を整理する。自分の意思で来た可能性が低いとなれば誰かの手で連れ込まれたという結論になるが、こういう場合は、ほぼ間違いなく厄介ごとに巻き込まれる。

 

「ぜってー酷い目に遭う気がするのは気のせいだと思いたいけど、そーはいかねーよな……」

 

 これまでの人生を振り返って、この後に起こるだろうトラブルを危惧する。その直後に、彼が思い描いていた未来をもたらしそうな人物が現れた。銀時の後方に突然現れた少女が静かに歩きながら近づいてきたのである。

 

「(こいつ、いつから後ろにいた?)」

 

 これまでまったく気配が分からなかった銀時は、若干緊張する。そのファンタジーな格好をした少女は、完璧とも言える容姿をしており、水色の髪と瞳が彼女の神秘性をより高めていた。

 そこまではいい。色んな変人と関わってきた銀時にとっては、『変わった格好のねーちゃん』程度の認識である。しかし、その可愛らしい少女から思いもしなかった言葉を告げられてしまう。

 

「坂田銀時さん。ようこそ死後の世界へ……」

「はぁ? なに言っちゃってんのお嬢さん。囲碁の世界なんざこれっぽっちも興味ないんですけど。ヒカルの碁が流行った時も影響されなかった俺に囲碁クラブの勧誘なんて意味ないから、今すぐ元の場所に帰してくんない?」

「って、そんなんじゃないわよ! 囲碁じゃなくて死後よ死後!」

「ああ、なるほど死語のほうね。たまにキャバクラで使うと意外にウケたりするよねー。でも、そっちも既に間に合ってるんで、ここから速やかに帰してくんない?」

「あなたワザと間違えてるでしょ!? ひねくれ過ぎて友達少ないタイプでしょ!?」

 

 おバカなことを言って現実逃避する銀時のせいで、少女の神秘性はあっけなくぶっ飛んでしまった。というか、元々の地が出てしまった。

 

「だ・か・ら! あなたは既に死んでいるの! ベロベロに酔いつぶれて路上でぶっ倒れてる間に寝ゲロして、そのまま窒息死しちゃったの!」

「嘘だと言ってよバーニィ!!?」

 

 取り繕うことを止めた少女は、とんでもない事実をぶっちゃけた。何となく理解し始めていたが、やはり最悪の結果になっていたらしい。

 

「まさか、主人公である俺さまがドラゴンボールの無い世界で死んでしまうなんて……。つーか、寝ゲロで窒息死ってなんだよ!? 少年マンガの主人公にあるまじき死に様なんですけど! あまりに意外すぎて逆にセンセーショナルなんですけど!」

「プークスクス! よーやく自分の置かれている状況が分かったよーね! 世にもマヌケな死に様をさらした己の愚かさを!」

 

 せっかくの登場シーンを台無しにされた少女は、ここぞとばかりに銀時を罵る。しかし、彼女は知らなかった。大人気無い彼は、少女ですら容赦しないドSであるということを。

 

「黙って聞いてりゃ、ざけんじゃねーぞクソガキがぁ―――っ!」

「きゃうっ!?」

「このままあっさり死んでたまるか! つーか、たった1回死んだくらいで何だってんだ! クリリンが何度生き返ったと思ってんだコノヤロー!!」

「ぐえぇ―――っ!? 首が絞まるぅぅぅ―――っ!!」

 

 急に荒ぶりだした銀時は、少女の胸倉を掴んで支離滅裂なことを言い出した。

 

「たとえてめぇが死神でも、この命は狩らせねー! それどころか、逆に尸魂界(ソウルソサエティ)まで乗り込んで、死神全員あの世送りにしてやらぁ!」

「って、私は死神じゃないんですけどっ! もっと神々しくて、アイドル的な存在なんですけど!」

 

 もう無茶苦茶である。

 我を失った銀時に恐怖を感じた少女は、焦った様子で自分の正体を明かす。

 

「私は女神! 死んだ人間を導く女神様よ!」

「なるほど、やっぱ死神じゃねーか!」

「ぐほぉ―――っ!? 何でそーなるのよ! 私は卍解なんてできないから! オサレな斬魄刀なんて持ってないから! 外見で察しなさいよっ!」

 

 そう言われればそうかもしれない。必死に訴えてくる少女を見て落ち着きを取り戻した銀時は、とりあえず詳しい話を聞くことにした。

 

「こほん……それでは気を取り直して。私の名はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ」

「死んだ人間を導く? つーことは、死神じゃなくて閻魔大王ってところか」

「例えが気に食わないけど概ねそーよ。華麗で優美なこの私があなたのよーなオジサンの相手をするのはヒジョーに不服なんですけど? 今回は、地球の歴史に一定の功績を残した低級英霊として特別にサービスしてアゲルわ~☆」

 

 やたらと偉そうに説明する女神――アクアを見て、銀時はイラッとした。しかし、嘘を言っているようには思えない。これまでの状況から判断すると、やはり自分は死んでしまったのだろう。

 

「認めたくねぇが、俺はもう生き返れねーんだな」

「ええそうよ。現世のあなたは、薄汚れた路上でゲロまみれになって無様に死んでしまったのよ! まるで哀れな野良猫のよーにねぇ! プークスクス!」

「この駄女神ェ、傷ついた俺の心にマヨネーズを塗り込むよーなことをズケズケと……」

 

 可愛い見た目に反してゲスなアクアに、銀時のヘイト値が溜まっていく。

 

「でも悲しまないで。これからあなたの友達も呼んであげるから」

「はぁ? 俺の友達ぃ?」

「ええそうよ。たまたま偶然あなたと同じ日に死んじゃったから、ついでのオマケで私が水先案内してあげることにしたのよ。ほんとに光栄なことなんだから、全力で感謝しなさいよねー」

「え……マジで俺の知り合い死んじゃったの?」

「もちろん大マジよ。残念だけど、運命には抗えないわ」

「そんな、なんてこった……」

 

 急にもたらされた驚くべき事実にショックを受ける銀時。一体誰が死んだというのだろうか。新八、神楽、お妙、それに一応ヅラ……。あいつらは殺しても死ななそうな連中ばかりだが、その筆頭である自分が死んでしまったのだからあるいは……。

 などと考えている間に、準備を整えたアクアがその人物を召喚する。そして、神妙な面持ちをした銀時の横に1人の男が現れた。

 

「あれぇ? 銀さんじゃねーか。あんたも一杯やってたの?」

「って、長谷川さんかよっ!!?」

 

 意外な人物の登場に銀時がつっこむ。その、ちょっと高めなグラサンをかけた冴えないオッサンは長谷川泰三だった。

 

「なぁ、銀さん。この変な場所は一体ドコだ? 確か俺は、かぶき町の歓楽街をぶらついてたんだけど?」

「なにのん気なこと言ってんだよ長谷川さん。もしかして、自分が死んじまったことに気づいてねぇのか?」

「たぶんそうね。いきなり事件に巻き込まれて死んた場合に記憶が曖昧になることはよくあるのよ」

「はぁ? 死んだとか事件とか何のこと言ってんの? つーか、この嬢ちゃんは一体誰よ?」

 

 1人だけ状況が分からない長谷川は、2人の会話についていけず疑問符を浮かべる。そんな彼にこれまでの経緯を説明すると、銀時と同じように驚いた。

 

「あなたは、ピッコロさんっぽい天人(あまんと)の放った魔貫光殺砲に身体を貫かれて死んだわ」

「なんでだ―――――――――――――――!!?」

 

 こんな超展開に巻き込まれたら誰でも驚愕するだろう。

 

「かぶき町で飲み歩いてただけなのに、どーしてそんな事態になったー!? つーか、一体何をやったら死因が魔貫光殺砲になるんだよっ!!」

「はぁ、記憶が無いんじゃ先に進めないから原因を教えてあげるわ」

 

 やれやれと肩をすくめたアクアは、長谷川が死ぬことになった原因を話し始めた。

 

 

 今から数時間前。バイトをして久しぶりにまとまった収入が入った長谷川は、しこたま酒を飲んでいた。かぶき町の歓楽街にある小さな酒場で安い酒を飲みまくった彼は、ほろ酔い気分で外に出た。

 

「うぃ~! 酒が飲めるって幸せだなぁ~。生きてるって実感できるなぁ~」

 

 長谷川は、小さな幸せを噛み締めながら、住処にしている近場の公園へと足を向ける。

 今日は久方ぶりに良い気分だ。今夜はこのまま現実を忘れて眠りにつこう。そのように思いつつ歩みを進めると、前方から酷く酔っ払った男が近づいてきた。かなりふらついていて今にも倒れそうだ。

 

「お~い、大丈夫かいアンタ。少し休んだほうがいいんじゃねーか?」

「うっせーぞオッサン! 偉そうに説教なんざ垂れてんじゃねー!」

 

 親切に声をかけたら乱暴に拒絶された。しかし、人の良い長谷川は、その男の顔色が非常に悪いことを心配してさらに話しかけてしまう。

 

「確かに俺なんかがどうこう言える立場じゃないけどさ。そんなに顔色が悪くなるまで飲むのは身体に毒ってモンだぜ?」

「てめぇ、黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって……。この顔色は生まれつきだぁ――――――――――っ!!!!!」

 

 しつこい長谷川にキレた酔っ払いは、思わず必殺技を放ってしまった。頭痛を我慢する際に指で眉間を押さえているうちに魔貫光殺砲のエネルギーが溜まっていたのである。その酔っ払いこそがピッコロさんっぽい天人(あまんと)であり、長谷川のお節介がきっかけとなって溜め込んでいたストレスが爆発してしまった。その結果、不運な彼は胸を貫かれて絶命した。

 

 

「……ってなわけよ」

「えぇ―――っ!? そんなことで魔貫光殺砲撃たれたの―――っ!? ピッコロさんの沸点低すぎなんですけど! 悟飯と接して手に入れた優しさが微塵も感じられないんですけど! ってか、なんでピッコロさんがかぶき町ぶらついてんの!? 何があって我を失うほどに酔いつぶれてたの―――っ!?」

「その理由なら俺にも分かるぜ。登場時は最強のライバルキャラだったピッコロさんも、今じゃヤムチャと同格扱いだからな。たまには何もかも忘れて酒に溺れたくなる時もあらぁ。やるせない憤りを魔貫光殺砲に込めてぶっ放したくもならぁ」

「そんな理由でキレてたのかよ!? メンタル普通過ぎるんですけど! 後輩の出世に嫉妬してるしがない中年サラリーマンと同レベルなんですけど!」

 

 あまりに理不尽な話に流石の長谷川も怒る。確かにその通りだったが、実際に起きてしまった結果は変えられない。彼らは本当に死んでしまったのだ。

 

「コンチクショー! 再就職する前に死んじまうなんて……。結局、俺はマダオ(まるでダメなオッさん)のままで終わるのか」

「そんなことより、エログッズを処分しないまま死んじまったのが痛過ぎるんですけど! 遺品整理してる時にあんなモンが出てきたら、コントみたいになっちまうじゃねーか! 愛しさと切なさよりも気まずさと馬鹿らしさが勝っちまうじゃねーか!」

「あんたたち、死んで一番気にすることがソレなの?」

 

 ある意味、落ち着きまくっている2人のマダオを見て呆れるアクア。

 

「まぁ、なんだ。死後の世界まで来ちまったんなら仕方ねー。この際、残してきたエログッズのことは綺麗サッパリ忘れて、さっさと天国に連れてってもらおうや」

「あ、ああ、そうだな! 天国に行けば、大手を振って『永遠の夏休み』を満喫できるもんな!」

 

 持ち前のお気楽さで色んな問題を無視した2人は、これから訪れるだろう幸せを夢見る。なんたって目の前に女神様がいるのだから天国行きは間違いないだろう。のん気な2人は、微塵も疑うことなく楽しい天国ライフを期待する。しかし、こういう流れでアクシデントに巻き込まれるのはお約束である。

 

「ああ。まだ言ってなかったけど、あなたたちは地獄行きよ」

「「え? なんで?」」

「そりゃそーでしょう? 殺人、暴行、痴漢にのぞき、更には公共の場での無断宿泊に糖分の過剰摂取。あなたたちの罪を数えたらキリがないわ」

「って、最後のだけはおかしくね? そのくらいのプチ贅沢は許してくれてもいいんじゃね?」

 

 銀時は無駄な悪あがきをしたが、アクアの言っていることは概ね当たっている。これだけ立派な罪状があっては地獄行きも仕方ないかもしれない。

 だがしかし、長谷川が来る前はもう少し好意的だった気がする。

 

「でもよぉ、さっきは『英霊として特別にサービスしてアゲルわ~☆』とか言ってなかったか?」

「そうね、低級を付け忘れてるけど確かに言ったわ」

「それでも地獄行きだってのかよ?」

「いいえ。本来ならそうなるトコだったんだけど、それを回避するチャンスをあなたたちに与えてあげようってことなのよ」

「はぁ? チャンスだと?」

 

 どうせ碌な展開にならないだろうと予測しながらも、得意げな表情のアクアに聞く。もちろん彼の読みは当たっており、美しい女神様は悪魔のような笑みを浮かべながら当初の目的を告げる。

 

「あなたたちには異世界で暴れている魔王を退治してもらうわ!」

「異世界? 魔王? なんじゃそりゃ」

「魔王ってアレか? 竜王とかハーゴンとかバラモスみたいに世界征服企んじゃってるヤツのことか?」

「ええそうよ。あなたたちは異世界を救う勇者として選ばれたのよ!」

 

 バーッと両手を広げたアクアがおかしなことを言い出した。

 

「その世界は長く続いた平和が魔王の軍勢によって脅かされていた! 人々が築き上げてきた生活は魔物に蹂躙され、魔王軍の無慈悲な略奪と殺戮に皆、怯えて暮らしていた! いたぁ!」

 

 まるで演劇のように大げさな身振りで異世界の危機を伝える。しかし、彼女の真の狙いは別の所にあった。

 

「そんな世界だから、皆、生まれ変わるのを拒否しちゃって人が減る一方なのよ」

「そりゃ当然だ。はたらく魔王さまがいるってのに、好き好んで村人に生まれ変わりたいとは思わねーだろ。ドM以外は」

「例えがアレだけど、大体そんなところよ。で、他の世界で死んだ人なんかを、肉体と記憶はそのままで送ってあげてはどうか、ってことになったの。ゲームで言うところの【強くてニューゲーム】ってヤツね」

 

 静かに拝聴していたら、とんでもなく身勝手な内容だった。

 

「えっと……つまりその、魔王とやらを倒してアンタの悩みを解決しろと?」

「ぶっちゃけるとそういうことね」

「おいおい、そりゃあ無茶振りってもんだろ。俺たちゃ別に勇者の子孫でもねーし、竜の騎士でもねーから。ただの一般ピーポーだから。魔王退治なんて土台無理に決まってんじゃん。それに、ゲームを取り扱った話は本編で何度もやってるんで、同じような話をやると集○社にクレームが来ちゃうんで、その提案は遠慮させていただく方向で……」

「だったら地獄へ直行させるわよ。エッチを禁止された世界で、100年間むさ苦しい鬼のパンツを洗濯することになるんだけど?」

「「喜んで魔王退治をやらせていただきますっ!!」」

 

 もっとも恐ろしいネタで脅迫された銀時と長谷川は、アクアの提案を飲むしかなかった。

 

「しかしなぁ、ただのオッサンが行っても返り討ちに遭うだけじゃねーか?」

「その点は心配無用よ。大サービスとして、何か一つだけ好きな物を持っていける権利をあげるわ。強力な武器だったり、とんでもない才能だったり。魔王に対抗できる力が手に入るのよ」

「なるほどね。確かに【強くてニューゲーム】ってわけだ」

 

 その特典は、マンガが大好きな銀時にとって中々魅力的な話だった。もちろん、グラサンしか値打ちのあるものを持っていない長谷川も期待に胸を膨らませる。

 

「それじゃあ、何でも願いが叶うドラゴンボールをくれ」

「だったら俺はドラゴンレーダーだな」

「ふっ、話が分かるな長谷川さん」

「銀さんとの付き合いも長いからな。もはや阿吽の呼吸だぜ!」

 

 こういう時だけ息が合う2人は、ガシッと右手を重ねあう。ドラゴンボールとドラゴンレーダーさえあればいくらでも願いを叶えることができる。少年だった頃、ジャンプを読みながら夢見た望みがついに叶うのだ。

 しかし、そうは問屋がおろさなかった。

 

「あー、そういうのはダメよ。著作権に引っかかるから」

「ここにきて著作権かよっ!?」

「つーか、著作権って神様にも適用されんの!?」

「そりゃそうよ。偉大な神が人間の創作物なんかに影響されてちゃ、色々と台無しになっちゃうじゃない。だから、私の用意したものの中から選んでもらうわ」

 

 そう言うと、アクアはクルクル回りだして、持っていける特典が記された紙を派手にばら撒く。

 

「さぁ選びなさい! あなたに一つだけ、何者にも負けない力を授けてあげましょう!」

「いや、この状況でそんなこと言われてもなー……」

「一気にテンション下がっちまうよなー……。かめはめ波とかデスノートとか使ってみたかったのに、著作権でダメですーとか、ほんと使えねよーこの駄女神。デンデの足元にも及ばねーよ」

「きぃ―――っ!! いちいち文句言ってないで、さっさと選びなさいよ!」

 

 願いが叶わず拗ねてしまったオッサンたちにアクアはイラついた。

 ほんと、なんなのよこいつら。ちょっとは使えそうだと思ってここに連れて来たのに、いざ話してみたらただのマダオじゃないの。

 

「どーせなに選んでも一緒でしょ? 侍だか何だか知らないけど、無職のおじさんたちに期待なんてしてないから」

「はぁ? 俺は全然無職じゃねーだろ! 長谷川さんと違って自営業を営んでるし! 立派な社屋も持ってるし!」

「ちょ、なに自分だけかっこつけてんだよ! 銀さんだって限りなく無職に近いじゃねーか!」

「あーそんなこと言っちゃうわけ? 友達の俺を傷つけるよーなこと言っちゃうわけ? こういう時は優しくオブラートに包んであげるのが常識ってモンだろーが、この家無し野郎!」

「お前の方こそ、オブラートに包めよ天パ野郎!」

 

 アクアの暴言をきっかけにしてマヌケなケンカが始まってしまった。その様子を見て、彼女は更に呆れてしまう。アクア自身もかなりのおバカなのだが、女神としての力とプライドが彼女の発言を傲慢にする。

 

「んなことどーでもいいから早くしてぇ? 他の死者の案内がまだたくさんあるんだからぁ」

『『このクソアマァ、下手に出てりゃ調子に乗りやがってぇ!!』』

 

 あまりに理不尽な物言いに、2人の反骨精神がMAXになる。小娘ごときにここまで言われちゃ男が廃るってもんだ。

 

「なぁ長谷川さん。あいつが願いを叶えるっつーんならよぉ、あいつ自体を異世界に持ってけばいいんじゃね?」

「おっ、そりゃナイスな案だな! 女神様がいれば魔王との戦いも楽になるかもしんねーしな!」

「だな。一見するとバカそうな女だけど、俺の背後を取れるほどの実力者だ。頭はアレでも、アテナみたいに強大な小宇宙(コスモ)を持っているに違いないぜ!」

 

 逆襲を企てた銀時は、長谷川と小声で相談する。その内容は、別の並行世界で佐藤和真という少年が考え出したものと奇しくも同じだった。

 

「ちょっと、オッサン同士でなにコソコソ話してんのよ? キモイわねぇ」

「なーに、ちょいと相談事がありましてねぇ」

「ようやく持っていきたいものが決まりましたよ女神様」

「ふーん。で、何に決めたの?」

 

 足を組みながら椅子に座っているアクアが偉そうに聞いてくる。この時、彼女はまったく予想していなかった。女神である自分にとんでもない不幸が降りかかることになることを。

 

「俺たちが異世界に持っていくもの」

「それは……」

「「お前だぁ―――――――っっっ!!!!!」」

 

 銀時と長谷川は、仲良くハモりながらアクアを指差す。それはあまりに意外な選択だったので、彼女はしばらく何を言われたのか認識できなかった。だから、いつも通りに転生の準備を進め、2人の足元に魔方陣を出現させる。

 

「………………それじゃ、魔方陣から出ないように立って――」

 

 そこまで言ってようやく頭が回ってきた。

 

「今、何て言ったの?」

 

 椅子から腰を浮かしかけたところで違和感に気づき動きを止める。しかし、時既に遅しだった。

 アクアが何かを言う前に、神々しいエフェクトを伴って翼を生やした金髪美女が出現した。その女性は、これから異世界に行くことになるアクアの代理としてやって来た天使だった。

 

「承りました。では、今後のアクア様のお仕事は、この私が引き継ぎますので」

「え?」

 

 アクアよりも女神らしい天使がそう言うと、アクアの足元にも魔方陣が出現した。そして、円柱状に光を発して外部と遮断するようなフィールドを形成する。こうなるとアクアでも脱出することは出来ず、ただ泣き叫ぶしかない。

 

「ちょ、え、何コレ? う、嘘でしょ……いや、いや、いや! ちょっと、あの……おっかしいから、女神を連れてくなんて反則だから! 無効でしょ! こんなの無効よね! 待って! 待って~!」

「行ってらっしゃいませアクア様。無事魔王を倒された暁には、迎えの者を送ります」

 

 代理の天使は、まったく聞く耳を持たなかった。

 そうこうしているうちに魔方陣が起動して銀時たちが浮かび上がる。いよいよ異世界へ転生するのだ。

 

「あーん、待ってよぉ!!」

「ふっふっふ……どうやら上手くいったようだなぁ長谷川さん」

「ああ、すべて計画通りだ」

 

 ゲスな顔をした銀時が、碇ゲンドウのような長谷川と頷き合う。

 

「これでお前の力は俺たちのモンだぁ。とことん使い尽くしてやるから、覚悟しておくんだなぁ!」

「天上でぬくぬくと暮らしてたお前さんに、下々の辛さを思い知らせてやるぜぇ!!」

「ひぃぃぃ――――――っ!!? こんな奴等と一緒にいたら、私のすべてが汚されるぅ――――――っ!!

 

 貞操の危機を感じたアクアは、自身の身体を抱きしめる。しかし、そんな抵抗も空しく、彼女は空中へと舞い上がっていく。

 

「さあ、勇者よ。願わくば、数多の勇者候補達の中から、貴方が魔王を打ち倒すことを祈っています。さすれば、神々達からの贈り物として、どんな願いでも叶えて差し上げましょう」

「なっ、マジか!?」

「むわぁぁぁ――っ! 私の台詞ぅ――っ!?」

 

 異世界へと続く光の門へ飲み込まれる直前に、天使から重要な情報がもたらされる。魔王を倒せば元の世界へ戻れるかもしれない。たとえ世知辛い世界でも、大切な者たちがいるあの場所へ2人は戻りたいと思った。

 しかし、その希望を達成するには魔王を倒さなければならない。

 

「さぁて、洞爺湖(こいつ)で魔王を倒せるか、いっちょ試してみるか」

 

 愛用している木刀に手を当ててニヤリと笑う。果たして、万事屋銀ちゃんと無職の長谷川さんは、異世界でどのような冒険を繰り広げるのだろうか。


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