宙を目指す世界にて 【凍結】   作:シエロティエラ

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大変お待たせしました。
一応活動記録には書いていましたが、時間がかかったことをお詫び申し上げます。

そして時間がかかったわりには内容が薄いかもしれません。

それではゆったりと






五反田食堂にて

 

 

「……で?」

 

「で、とは?」

 

 

 現在俺と一夏は週末になったので昔馴染みの五反田弾の家におり、弾の部屋でテレビゲームに興じていた。まぁ尤も、俺はゲームはカラキシだから見るだけたが。

 因みに言うと、カレンは現在女子オンリーでのショッピングらしい。メンバーには生徒会長もいるのだとか。

 

 五反田弾。

 小学生高学年から親交のある友人の一人。家は食事処を営んでおり、俺とカレンも何度もお世話になった。

 弾のことを一言で表すのなら、苦労人の親友といったところか。一夏の女性関係で最も苦労したのは、恐らく弾だろう。ビジュアルも二枚目、俺よりは良いが、赤みを帯びた長髪にそれを纏めているバンダナ。性格も最近の若者といった風である。

 

 

「だからIS学園の話だよ。女の子が沢山いるんだろう? どうせ楽しんでるんじゃないか?」

 

「してねぇっての。何べん言わせんだよ」

 

「嘘つけ。メール見るだけでも楽しそうじゃねぇか。招待券とかねぇの?」

 

「ねぇよ馬鹿」

 

 

 そして先程からテレビゲーム、「IS:VS」というISのバトルゲームをしながら会話を行う青少年二人。いやはや、なんとも器用なことだ。俺自身はゲームとはほとんど無縁だったからな、こんな芸当はできん。

 

 

「とりあえず、一夏(こいつ)はこちらでも相変わらずだ。少なくとも二人、多く見積もってクラス一つ分は建築しているだろう」

 

「なにぃ!?」

 

 

 俺の一言に過剰に反応する弾。当の一夏は何のことかわかっていないようだが。

 

 

「よっしゃ‼ 俺の勝ちーッ‼」

 

「おぁ!? きたねーぞ一夏‼」

 

「余所見しているお前が悪い‼」

 

 

 やいのやいのと戯れる二人。やはりと言うべきか、まだまだ二人とも子供だな。まぁ弾のほうが少し年齢よりも落ち着きがある方だが、こと男女関係、馬鹿騒ぎとなると年相応になる。

 

 

「……ところで士郎は?」

 

「む? 俺か?」

 

「ああ。一夏の話は聞いてるけど、士郎の話はあまり聞かないしさ」

 

「それに確か、カレンは士郎を追ってIS学園(こっち)に来たって有名だぜ?」

 

 

 はてさて、俺のことか。

 

 

「……相変わらず、簀巻きにされていると言えばわかるか?」

 

「……俺が悪かった」

 

 

 素直なのはよろしいことだ。弾も「マグダラの聖骸布(アレ)」の恐ろしさは身に染みているだろうしな。

 

 

 ゲームも一段落して三人で駄弁っていると、唐突に部屋の扉が開かれた。そして弾と同じ、真っ赤な長い髪をした少女がラフな格好で入ってきた。

 

 

「お兄ぃ‼ さっきからご飯できたって言ってんじゃん‼ さっさと食べに……」

 

 

 部屋に入ってきたのは五反田蘭、弾の一つ違いの妹である。その蘭は俺と一夏を見つけると、驚愕に顔を染めた。

 

 

「い、いいい、一夏さん!?」

 

「おっ? 久しぶりだな、蘭」

 

「息災か?」

 

「し、士郎さんも!?」

 

 

 俺と一夏が声をかけたが、どうやら蘭は混乱の極みらしい。しきりに口をパクパクとさせている。というか俺が話しかけるまで一夏しか眼中にないとは、恐るべし恋する乙女。

 

 

「え、ええと、あの。よ、よろしければお二人とも、お昼いかがですか?」

 

 

 パニックから少し回復したのか、蘭は先程とは違って大人しくなりながら俺たちを昼に誘ってきた。

 

 

「おっ、じゃあお願いしようか」

 

「迷惑でなければ、ご一緒させていただこう。厳殿にも挨拶したいしな」

 

「わ、わかりました。是非どうぞ」

 

 

 蘭はそう言うと慌ただしく部屋から出ていった。

 

 

「……ノックぐらいしろっての」

 

「まぁいいだろう。それだけお前に心を許している証拠でもあるのだから」

 

「士郎は本当に大人にだよなぁ」

 

 

 やれやれとため息をつく弾を伴いつつ、俺たちは階下の食堂へと向かった。

 

 五反田家は食事処「五反田食堂」を構えており、その味はとても美味しいとここら一帯で有名である。

 

 

「厳殿、御無沙汰しております」

 

「おう、士郎か‼ 一夏の坊主も久しぶりだな」

 

「お久しぶりです」

 

「今日はあの嬢ちゃんはいないのか?」

 

 

 厳殿が言っている「嬢ちゃん」とはカレンのことである。俺が覚えている限り、カレンを嬢ちゃん扱いする人は厳殿だけだろう。

 

 

「げっ」

 

「どうした?」

 

「……」

 

 

 露骨に嫌そうな声を出した弾。彼の視線を辿ると、俺たちの昼食が用意された机に着飾った蘭という先客がいた。

 

 

「なに? 文句あるならお兄ぃだけ外で食べてくる?」

 

「聞いたかお前ら。俺ぁ妹の優しさで泣きそうだぜ」

 

「……」

 

 

 弾よ、強く生きろ。

 

 

「別にいいじゃねえか? 四人で食べようぜ?」

 

「……何もわかっていない奴が一人いるが」

 

「……士郎、俺お前の友達で良かった」

 

「お兄ぃ、早く座れ」

 

 

 まぁそんなこんなで四人とも席に着いたが、蘭の無言の圧力によって弾と俺は一夏と向かい合う形に、即ち一夏が蘭の隣に座ることになった。

 

 

「あれ? 蘭は着替えたのか?」

 

「え? あ、はい!」

 

 

 ふと蘭に目を向けると、先程までのラフな格好とはうって変わって着飾っていた。まぁ一夏の前で良い格好をしたいのだろう。

 

 

「……ああ‼」

 

 

 そこで一夏が何かを察したような声を出した。まぁこの男のことだ、検討違いなことを言うだろうな。

 

 

「デート?」

 

「違います‼」

 

 

 やはりと言うべきか、一夏は検討違いなことを言い、蘭は机を叩いて全力否定した。猫が剥がれ落ちているぞ、猫が。

 

 

「食わねえなら下げるぞ、ガキども」

 

「「「失礼しました(した)、いただきます」」」

 

「おう、食え」

 

 

 俺たちの返事に満足したのか、厳殿は料理を再開した。しばらくは食器が軽く擦れる音が響いていたが、やがて弾と一夏を中心に雑談を始めた。

 

 

「そういや参ったよ。俺は今寮にいるんだけどさ」

 

「ん?」

 

「どうしたんですか?」

 

「部屋割りが追い付かないかなんかで最初は女子と相部屋だったんだよ」

 

「「んなッ!?」」

 

「……」

 

 

 ……一夏よ。お前のその発言は爆弾だぞ? ほら見てみろ。立ち上がった弾の頭にお玉が直撃しただろうが。

 

 

「相変わらずいいコントロールですね、厳殿」

 

「まだまだ俺は若いぞ」

 

 

 五反田厳、御年八十だが筋骨隆々の漢である。

 

 

「まぁ今は一人部屋だけどな」

 

「イツツ、そうか。そういや鈴も帰ってきたって?」

 

「おう。なんでも中国の代表候補生になってたぜ」

 

「鈴姉がですか?」

 

 

 そういえば蘭と鈴は微妙な仲だったな。人間としては好感が持てるが同じ人物を好きになったがゆえに、完全に心を開けないといったところか。

 

 

「……決めました。私IS学園を受験します‼」

 

 

 ……は? この娘は今なんと言った?

 

 

「はぁ!? お前ッ何を言ってッ!?」

 

「五月蝿ぇぞ弾‼」

 

「フギャッ!?」

 

 

 思わず立ち上がった弾の額に再び直撃するお玉。だが弾の気持ちはわかる。

 

 

「あれ? 蘭の学校ってエスカレーター式に高校までいけるんじゃなかったか?」

 

「私は優秀ですから大丈夫です」

 

「推薦はないぞ?」

 

「私はお兄ぃとは違いますから」

 

 

 あくまでも姿勢を変えない蘭。まずいな、この娘は一夏の近くにいることにしか目を向けていない。それにこの娘は女尊男非に若干染まりかけている。その証拠が弾に対する態度だろう。

蘭は弾を阿呆のように認識しているが、彼は言うほど馬鹿ではない。勉学ができることと頭が良いことは別物だ。それに弾は勉学も決して悪くない。

 

 

「で。でも……そうだ‼ 確かあそこって実技あったよな‼ なぁ‼」

 

「あ、ああ。それも結構厳しいのが」

 

「ご心配なく、それも大丈夫です」

 

 

 そういって蘭が取り出したのは一枚の紙。そこには……

 

 

「IS簡易適正試験……判定A……」

 

「問題ないでしょう? そ、それでですね一夏さん」

 

 

 蘭はモジモジとしながら一夏に向き直った。

 

 

「入学できたらその……指導をお願いして良いですか?」

 

「おう、いいz「待て」ぅえ? 士郎?」

 

「なんですか士郎さん」

 

 

 流石に不味いと思い、俺は二人に待ったをかけた。それにより一夏は疑問の視線を、蘭は射殺さんばかりに鋭く睨み付けてきた。

 

 

「先ずは一夏。お前はISの操縦に関しては俺と同じ、ドがつく素人だ。たかが一年扱っただけで誰かを指導できると思っているのか? 安請け合いはするな」

 

「お、おう」

 

 

 俺は次に蘭に顔を向けた。

 

 

「次に君だ、蘭。まさかと思うが、たったそれだけの理由でこの世界に入るのか? その場の思いつきで将来を決めるのはやめたまえ。見も蓋もない言い方をさせてもらうと、君のやっていることは愚か以外の何者でもない、おっと」

 

 

 俺が蘭に自分の意見を言うと、横合いからお玉が飛んできた。気配はしていたから難なく手に取ることができたが、投げた当人たる厳殿は険しい顔をしていた。

 

 

「おう士郎。お前ぇ蘭の決めたことにケチをつけるのか? いくらお前でもそれは許さんぞ」

 

「そうですよ‼ 私が決めたことに口を出さないでもらえまs「二人とも待ちなさい」ッ!? お母さんッ!?」

 

 そこで兄妹の母親たる蓮さんが二人を諌めた。

 

 

「彼が反対するのはそれほどの理由が有るからじゃない? 先ずは理由を聞いてからよ」

 

「「……」」

 

 

 蓮さんの言葉に厳殿と蘭は黙りこくった。一夏と弾も俺の話の続きを待っている。さて心苦しいが、ここは心を鬼にするとしよう。不本意だが、魔術使いとしてのオレを出すことにしよう。

 

 

「ありがとうございます、蓮さん。まず始めにだ、五反田家の皆さん、あなた達はISを何だと思っている?」

 

「なにって、スポーツだろう」

 

「それ以外に何があるんですか?」

 

「……」

 

 

 ああ、確かに世間ではそういう認識だ。だが足りない。それだけでは足りないのだ。大体を察している弾は黙っている。

 

 

「やはり……か。何もわかっていなかったようだ」

 

「どういうこと? 士郎君?」

 

「言葉の通りです。二人は何もわかっていない」

 

「士郎、てめぇ俺と蘭に喧嘩を売ってんのか?」

 

 

 厳殿がオレの言葉を聞き、オレを威圧してきた。

 

 

「そうやって甘やかすからこの娘は付け上がるのだ。そして生憎だがその程度の殺気はオレには効かん。戦場を渡り歩いたのがあなただけとは思うな」

 

「ッ⁉︎」

 

 

 威圧してくる厳殿を逆に威圧し、黙らせる。そはさてオレは居住まいを正し、口を開いた。

 

 

「話を続けるぞ。お二人が理解していないこと、それはISの危険性、危うさ、世界への影響だ」

 

「き、危険性だぁ?」

 

「スポーツなのに危うい?」

 

「あれはスポーツと謳っているが、あれは武器の紹介場のようなものだ。各国の最新鋭の兵器のな」

 

 

 オレの言葉に皆怪訝そうな顔をしている。特に一夏はあまり理解していないようだ。

 

 

「おかしいと思わないか? スポーツなのに実弾や刃を躊躇なく人に向ける現状を」

 

「で、でも‼ ISにはS.Eが有るから‼ それに絶対防御も‼」

 

「あんなもの有って無いものだ。許容量を越えた攻撃を受ければ容易く生身に届く」

 

「「ッ!?」」

 

「一夏、お前はわかる筈だ。衝撃砲を受けたとき、お前はどうなった?」

 

「え? ……あっ」

 

 

 一夏はようやく一つ理解したらしい。

 

 

「で、でも‼ 条約で兵器利用は禁止されて」

 

「あんな名ばかりのもの、国々が守ると思うか? もし守っているなら、何故最近は戦車や戦闘機が使われていないのだ?」

 

「え?……まさか?」

 

 

 そういうことだ。

 世界は条約を結んではいるがそれは形だけ。実質どこの国もISを軍事利用している。(あのこ)の願いとは違い、世界はISの兵器としての有用性にしか目を向けていない。

 むしろ本来の目的である宇宙進出は禁止されている始末。束はもう少し怒りの感情を出していいと思うが。

 

 

「例えば何処かの孤島に高性能のISが打ち上げられたとする。さてここで質問だ。蓮さんならどうします?」

 

「私? 私なら……そっとしておくわね」

 

 

 成る程、世界のトップが蓮さんのような人ならどんなに良かったことだろう? だが世界は、人はそう簡単ではない。

 

 

「そうならばいいですが、世界はそうもいかない。ISは数が限られているところに、何処の所属でもないISが出てくる。それは猛犬の群れに生肉を投げ入れるようなものだ」

 

「それは……取り合いになるってことですか?」

 

「容易く戦争に発展するだろうな、例えだが。そしてISは無人じゃあ動くことはない。だが操縦者もいつまでも動くことはできず、欠員などが出るだろう。そこで第二の質問だ」

 

 

 今度は弾に顔を向けた。

 

 

「弾、お前はわかっているだろう。だからこそお前は反対しているのだろうからな」

 

「……欠員が出れば、補充のために外部から人が連れてこられる。先ずは学園卒業生から、次に一般人の適正の高い人からだ」

 

「完璧だ、流石にわかっている。そして兵士として戦場に出たとき、人の死、殺しに直面する。幾多の死を見てきた厳殿ならともかく、蘭や弾のような一般人ならすぐに気が狂うかもしれんな」

 

 

 オレの言葉に蘭は顔を青ざめさせた。厳殿や蓮さんも険しい顔をしている。

 

 

「あくまでも仮定の話だ。今の話を聞いて、それでもISの世界に入るというのならば」

 

 

 俺は立ち上がり、食器をカウンターに返しながら蘭に向き直った。

 

 

「そのときは一後輩として迎えよう。お前の覚悟を阻む者は俺が廃しよう。まだ時間は有るからゆっくりと考えることだ」

 

 

 俺はそれだけを言い残し、店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

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「……あれは言い過ぎじゃないのか?」

 

「なにがだ?」

 

 

 IS学園へと帰る道すがら、一夏が話しかけてきた。

 

 

「なにって、蘭に対してだよ。泣きそうになっていただろう?」

 

「……」

 

 

 呆れて物が言えない。

 

 

「一夏、お前は俺の話を聞いていたのか? あれは全て起こる可能性のある事象だぞ?」

 

「いや、でもな」

 

「俺やお前と違い、あの娘は自分で決めることができる。ならば先に現実を教え、覚悟を持たせることが必要だった」

 

「……でもな」

 

 

 いい加減理解してほしいものだ。

 

 

「一夏、甘さと優しさは全く違うぞ? お前のそれは甘さだ。決して優しさではない」

 

「うぇ?」

 

「甘さは人を()とす。お前のそれがそうだ。あの娘は覚悟を一切持っていなかったのだ、自分が人を殺すかもしれないという覚悟がな」

 

「……」

 

 

 一夏は黙りこくる。だがこれは一夏には大切なことだ。

 

 

「もし何とかなるという考えを持っているのなら、そんなものは其処らの犬にでも食わせてしまえ。どんな御託を並べたところで、今のご時世ではISが兵器利用されている、人を殺すかもしれないというのは変わらない」

 

 

 こいつもまた今の世の被害者。覚悟を持つ時間もなくこの世界に投げ込まれた。ならばすぐにでも認識を改めさせなければならない。ISが本来の目的に使われるようになるまで。

 それまでは、仮令俺が敵に回ろうとも一夏を見守り、諭すとしよう。

 

 

 

 





はい、ここまでです。

今回を以て一端ISの更新をお休みし、ハリポタの更新に移らせていただきます。
そしてアンケートの回答も本日23:59を以て締め切らせていただきます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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