スノーフレークⅡ   作:テオ_ドラ

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作者体調不良のため今回は手抜き
&スノーフレークⅠの更新もなくすいません。
来週はきちんと更新したいと思います。


005.「だが、その先には何もないと思え」

守護輝士たちの話し合いが終わったと聞き、

クリスは居住区へと向かう。

アンジュは部屋には戻らず、

パーツのメンテナンスのために医務室にいるらしい。

キャストは定期的に調整が必要なのはわかるが、

それは数日前に既に終わったはずだ。

今日の話し合いで、何か決まったのだろうか?

妙な胸騒ぎ……自然と早足となってしまう。

先ほどのカトリとの会話、

それが心の中に妙なモヤをかけている。

 

「師匠……」

 

大切なこと、それを今聞かなければ手遅れになる……

そんな漠然ととした不安。

 

「あっ……」

 

慌てていたせいで、

曲がり角で誰かと肩がぶつかってしまう。

別にそんな大した勢いではない。

相手も転ぶこともなかったが、

それでもやはり印象は良くはないだろう。

 

「すいません」

 

謝って先に行こうとするが、

 

「……ふんっ」

 

ぶつかった相手を見て思わず立ち止まってしまう。

黒いマントを羽織った銀髪のアークス。

小柄、とまでは言わないが華奢な方だろう。

短い髪にまるで猫のような可愛い耳がつき、

更には整った顔立ちをしている女性だ。

これで笑顔でも浮かべていれば

クリスもドキッとしたかもしれない。

だが、

 

「……ティスラ=ナーベア」

 

能面のような感情を一切感じさせない表情に、

氷のような冷たい瞳。

右目は眼帯で覆われており、

まとう雰囲気もアークスにしては剣呑だ。

 

――皆殺しのティスラ

 

それもそのはず。

彼女はかつてアークス同士で争い会った時に、

数えきれないほどのアークスを殺した存在。

だがそれは虚構機関に所属していたがゆえ、

責任はルーサーにあった。

だから「あの時は仕方なかった」で

形としては済まされたが……

それでもアークスを

多く殺したという過去が消えることはない。

ティスラというアークスに向けられる

畏怖と憎悪は5年前から変わらなかった。

虚構機関が解体されてからは、

他のアークス共にダーカーと戦っているが、

周囲を気遣うこともなく

敵を倒すためなら味方も巻き込む事を厭わない、

そんな戦い方をする彼女が敬遠されるのは無理ない話だった。

彼女が背負う、

禍々しい赤い色をした剣のような短杖が淡く点滅している。

ノクスキュクロス……

血塗られたアークスと揶揄される所以の武器だ。

支援を得意とするテクタークラスだというのに、

殲滅能力に特化した戦闘スタイルは苛烈の一言に尽きる。

 

「……盲信」

 

クリスも何度か彼女と同じ戦場にいたが、

実力の違いもあり、

正直に言うと相手にされてはいない。

そんな彼女が、珍しく、

いや初めてクリスに話しかけた。

 

「……?」

 

「信ずるモノがたった一つというのは

 思考停止で生きられる」

 

「……何が、言いたいんですか」

 

アンジュに対するクリスの想いのことだと、

何故かすぐに察した。

それを否定されたと思い、

クリスの声が険を帯びる。

だがティスラは済んだ瞳、

怖いくらいに透明な瞳で言葉を続けた。

 

「だが、その先には何もないと思え。」

 

そう言い残して、

彼女はマントを翻して立ち去った。

 

「なんなんだよ……」

 

クリスは彼女のことを詳しくは知らない。

だが、そこの言葉には重みがあった。

皆殺しと呼ばれる彼女にも、

過去になにかあったのだろうか。

そもそも何故アークス同士が戦うことになったのか、

そのことも知らないのだけれども。

今では聞き返すのもタブーとされる雰囲気がある。

 

――絶対令

 

一度だけアンジュに訊ねたことがあるが、

二度と口にしてはいけないと冷たく言われてから、

改めて聞いたことはなかった。

ただ、その事件で多くの命が失われたと聞く。

そして『英雄』もその時の怪我が原因で命を落としたとも。

もしその事件を防げていたならば、

もっとベテランのアークスも生き残り、

この未来が変わっていたのだろうか?

 

「……考えても仕方ないか」

 

クリスは首を振り、

アンジュのいる医務室へと向かったのだった。


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