スノーフレークⅡ   作:テオ_ドラ

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002.「……終わり」

『しっかりと送り届けたぜ!

 毎度すまんが、俺はここで戻るぜ!』

 

軽薄そうな声、

戦闘機のパイロットであるオプタの声に女性は頷く。

 

「ありがとう」

 

元々は惑星内での調査に使われていた戦闘機だ、

宇宙空間においてダーカーに有効な攻撃手段は少ない。

またアークスでもないオプタは

ダーカーの発する「気配」に対してアークスに比べ鈍感だ。

それは彼自身もわかっていることだし、

また乗ってきたアークスの女性も理解していること。

だからダーカーのいるエリアまで

送り届けてくれるだけでも十分といえる。

 

数多くいた戦闘機乗り達……

そのほとんどが責務以上のことをしようとして

アークスを救う代わりに自身が命を落としてしまった。

そんな中、オプタは「自分の出来ること」を

しっかりと見極め判断し、把握していたからこそ

今では一番のベテランパイロットとして戦線で活躍できている。

 

……そう、死んでしまっては元も子もないのだから。

 

戦闘機から女性は飛び降りる。

アークスシップの周囲には重力が発生しているため、

不安定な無重力下で戦う心配はない。

女性は美しい白い衣装を身にまとっていた。

カルオセオリアと呼ばれる戦闘服で、

鋭角的なデザインに少しゆるりとした大きなスカート。

腕、背、腰にフォトンを増幅する特殊な

フォトンバーニアを装着し、

それは清廉な青いフォトンで美しく輝いていた。

足元まで届くであろう長いロングヘアーがたなびき、

青白い髪色と深く被ったティアラ。

まさに機械仕掛けのヴァルキリアといったところだ。

人々の希望となるためにデザインされたシロモノ。

 

彼女が一度、肩に手をそっと添える。

そこにあったのは勇猛な衣装には少し不釣り合いな

可愛いエンブレム。

それはまるでランプのように

ゆるりと垂れ下がった花のデザインのものだった。

 

手を離した彼女は、

すぐに無感情な冷たい表情に切り替わり、

腰に下げていたガンスラッシュを引き抜く。

 

「……シュトレツヴァイ!」

 

目にも止まらぬ速度で繰り出された銃剣は

周囲に浮遊していた

エル・アーダの群れの頭を精確に撃ち抜く。

モードよって違う効果を発動させるPAで、

射撃モード時は本来であれば牽制に使われる。

だが圧倒的な密度で放たれたフォトンの弾丸は、

エル・アーダたちの頭をいとも容易く吹き飛ばしていた。

 

白色の本体に、黄金色の装飾が施された銃剣。

荘厳でありながらどこか生物的な柔らかいフォルムを持ち、

その神聖な形状は「聖騎士」という言葉を連想させる。

持ち手のところに埋め込まれた

青白く輝く超高密度のフォトンの結晶からは

抑えきれないほどの光が溢れていた。

 

――オフティアバスター

 

それが彼女のために用意された

最強のガンスラッシュの名前。

かつてはダーカーの深き闇に呑まれたとある武器……

その負の力を識り、制することで転化した銃剣だ。

 

「エイミングショット!」

 

収束された銃弾が背後から寄ってきていた

ダーカッシュたちをまとめて貫通させ、

ダーカー因子へと霧散させる。

視線を向けることなくて周囲へと連射し、

次から次へとダーカーを葬っていく……

まるでダーカーが自ら弾丸に

当たりに行っているような錯覚を覚える光景だった。

 

「クライゼンシュラーク!」

 

彼女が左手を地面につき、

逆立ちをしながら右手の銃剣を周囲に乱射する。

先ほどの銃撃で倒したので周囲には敵はいない……

彼女の攻撃は空振りするかと思われたが、

 

シュンッ!

シュンッ!

 

どこからともなく出現した2足で立つカマキリのようなダーカー、

ディガーダとプレディカーダがあわせて8体。

奇襲を仕掛けようとしたのだろうが

その出撃ポイントを撃ち抜かれて成す術もなく霧散した。

 

「トレンシャルアロウ!」

 

イオからの援護射撃。

フォトンの矢の雨は彼女を避けながら降り、

更に沸いて出てきたカマキリたちを溶かしていく。

彼女は視線だけでイオに礼を言い、

 

「……」

 

ガンスラッシュを振り、

フォトンの刃を生み出してセイバーモードに移行する。

 

目の前には無数の「玩具」のようなパーツが

どこからともなく出現して集まってきていた。

薄い紫と青、そして禍々しい赤色のライン、

出来の悪い「ガラクタ」の寄せ集め……

中型玩具系ダーカー、コドッタ・イーデッタだ。

力任せに振り抜かれる攻撃は危険である。

更に玩具系特有の頑丈な体に、

弱点であるコアを本体を堅い部品で覆っているのが特徴だ。

非常に厄介な敵ではあるのだか、

 

「エインラーケン!」

 

彼女の前に立つには、全く力不足。

下から切り上げられた斬撃、

そのたった一撃で唐竹割りのように装甲が引き裂かれる。

甲高い悲鳴とともに飛び出した子供のような本体、

それを射撃で呆気なく吹き飛ばしてしまった。

 

「……終わり」

 

イオの援護もあり、

気付けば100体以上いたはずの

ダーカーたちは全て倒され、

霧のように赤いダーカー因子が宇宙空間に舞っていた。

彼女はオフティアバスターの刃を収める。

 

まるで何事もなかったかのように

彼女は静かにたたずんでいた。

圧倒的な戦力差のあるダーカーとの死闘、

それであたかも何一つ変わらない日常の一コマであるかのように。

 

彼女もイオと同じ守護騎士の一人。

イオよりも年下でまだ二十歳にも満たない、

けれどまとう雰囲気はどこか大人びていた。

決まったクラスを持たないという

アークスの中でも特異な存在でありながら、

その高い戦闘力で常に最前線に闘い続ける銃剣使い。

 

――アンジュ=トーラム

 

それが、女性の名前だった。




【未来編TIPS】
[5年後の世界]
深遠なる闇が最悪の形で復活してから5年。
かつてはオラクルは大規模な惑星航行船団として宇宙を旅していたが、
戦いで数多くのアークスシップは失われ
既にマザーシップを含めて10隻を残すのみとなってしまっている。

5年後の世界……
ここは誰も知らない一つの可能性の先にある結末。
希望もなく、ただ滅びるのを待つだけとなった最果ての未来。

――この世界に、英雄なんていない

※話が進むと未来編の舞台についての捕捉を随時入れていきます。
※正史ではEP4は地球とかの話ですが、それとは「全く別の未来」です。

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