スノーフレークⅡ   作:テオ_ドラ

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011.「キミが、未来を改変するんだ」

――希望のない世界。

 

残された人々にとって世界には絶望しかなく、

すがれるモノも喪い、ただ最期の日を待つだけ……

どれだけマザーシップが演算を重ねようが無意味で、

全てが「手遅れ」となった現在では

滅びは避けようのない決定事項だ。

けれどみんなはそれでも懸命に生きようとしていた。

 

でも僕にとっては「明るい未来」だなんて

少しも「想像できないモノ」に対して興味があるはずがない。

世界がどうなろうと、それを決定できるのは僕じゃないのだから。

 

僕にとって大切なことはただ一つ、

「あの人」と一緒にいられること……

それだけが僕にとって生きる意味であったし、

その他のことはどうでもいいと思っていた。

 

その人はとても物静かで口数も少ない。

最低限必要なことで大体は会話を終えてしまう。

けれど僕には言葉なんていらない、

ただ傍にいるだけで彼女の持つ安心感に身を包まれていた。

彼女はいつだって冷静で頼もしくて凛々しくて……

それでいてどこか憂いを帯びた瞳が

ミステリアスな魅力だと僕は常日頃から思っている。

 

オラクルの未来がどうなるかなんて

シャオですらわからないのに

新米アークスである僕にわかるはずがない。

でもこの愛おしい人と一緒にいられる未来は

どこまでも続くものだと無意識に思い込んでいた。

 

 

――だから、この人を喪う覚悟なんて

  これっぽっちも持っていなかったんだ。

 

 

宇宙に響く少年の慟哭。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

けれどそれはすぐに掻き消えることになる。

アンジュの手から放たれた光に包まれ、

クリス=トーラムは姿を消したからだ。

 

涙で濡れる視界、

その異変にやっと気が付く。

 

「……えっ」

 

最初は【深遠なる闇】に自分を殺されたのだと思った。

宇宙空間とはまた違う浮遊感に、

すぐに違うのだと気が付く。

 

キャンプシップからゲートへ飛び込んだ時の

ワープトンネルの中にいるような感覚。

けれどそれとは違うのはそのトンネルが

鮮やかな虹色に輝いていたことだ。

 

『まっ…く、ア……ュも無……をするよ……』

 

そこに聞こえてくる若い少年のような声。

一瞬誰かと思ったが、それは

 

「シャオ……?」

 

マザーシップの演算装置であるシャオの声だった。

こちらの声が聞こえていないのか、

彼は構わずに何かを言う。

 

『け……ど……で希望は……た』

 

まるでノイズがかかったように、

とぎれとぎれの声。

 

「シャオ……何を言ってるんだよ!

 聞こえない、聞こえないよ!」

 

師匠を、愛おしい人を助けてほしい。

その一心で叫ぶけれど、彼には届かない。

 

『クリ………ト……ラム。

 君……過去……飛ぶ……』

 

シャオは、一体何を自分に伝えようとしているのか。

 

『時間軸は……がフォ……して……した。

 ……英雄が………いて、

 そして……希望が……在した分岐……』

 

きっと、大切なことなんだろう。

そのことに気付き、クリスは耳を澄ます。

 

『ボク……どうなる……はわからない。

 でも………世界……変えられる……だ』

 

だから、最後の言葉だけははっきりと聞き取ることができた。

 

 

『キミが、未来を改変するんだ』

 

 

 

そしてクリス=トーラムは長い長いトンネルを抜けた。




これで未来編は終了となります。
次回からはやっと、スノーフレークⅠの続きの時間軸の物語が始まります。
絶望しかない未来から、
まだ希望が輝いていた過去へと。
世間ではEP4が始まってますが、
まだスノーフレークはこれからEP2が始まるところです。
相変らずの更新速度にはなりますが、
気長にお付き合い頂ければ幸いです。

Ⅰの主人公であるウェズ=バレントスと、
新たな主人公のクリス=トーラム。
二人の物語が始まる

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