スノーフレークⅡ   作:テオ_ドラ

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体調崩したり土日に用事があったりして
久々の更新です。
勢いだけで更新したので、
ちょっと内容が手抜きかもしれません。


009.「あなたには……後悔をしてほしくないから」

スターリングフォールの勢いで高く舞ったカトリは

ネメシスデュアルを両手に突っ込む。

 

「ディスパースシュライク!」

 

フォトンの刃が縦横無尽に飛び回り、

敵を切り刻んでいく。

ヒプラスが煩わしげに腕を振るうが

 

「ジャスティスクロウ!」

 

剣で描いた魔法陣が攻撃を防ぎ、

逆にそれを撃ちだしカウンター。

ヒプラスの攻撃を先読みしているかのように、

いや……まるで彼女を引き立てるため

ヒプラスがわざとそうしていると

錯覚してしまうほどの鮮やかな手並み。

 

ダーカーに対抗するために生まれた

ネメシスデュアルの攻撃はダークヒプラスの

堅牢な装甲をことごとく吹き飛ばしていく。

忌々しげな咆哮にも、

カトリは余裕はの表情を浮かべていた。

 

「カトリさん、ありがとうございます!」

 

ヒプラスはもうクリスには見向きもしない。

彼女に言われた通り、

先に向かおうとしたところで、

 

「受け取りなさいな!」

 

カトリが何かを投げる。

受け取ったそれは、

龍の翼を象ったとされる鋼の飾りを持つ魔装脚。

機械的なデザインは龍というよりは

黒い戦闘機を思わせる鋭いフォルム。

 

「リンドブルム……?」

 

飛翔剣を得意とする

カトリのモノではないはずだ。

けれどとても使いこまれており、

大事に扱っていたことが持つだけでわかる。

 

「私の……パートナーだった人の形見ですわ」

 

彼女の静かな声。

そこに込められた感情の色はとても複雑で、

懐かしそうな、それでいて悲しそうな……。

 

「……ありがとうございます!」

 

クリスはグレスミカを背中に背負い、

リンドブルムを装着して駆ける。

元々ジェットブーツの扱いは得意ではないし、

また未熟なクリスにとって

高位の魔装脚であるリンドブルムは扱い切れるシロモノではない。

 

だが移動くらいならできるはずだ。

今、急いでいるこの場面では

これ以上に相応しい武器はないだろう。

 

「あなたには……後悔をしてほしくないから」

 

そのカトリの声に駆けだしたクリスは返事をできなかった。

 

そこへ

 

『そうだ……俺たちはいつも後悔し続けていた』

 

勇ましい男の声が通信機から聞こえてくる。

 

『……いつだって、気付いた時には手遅れだったから』

 

続けて話したのは物静かな女性の声。

 

「オーザさん……マール―さん……!」

 

それはハンターの守護輝士のオーザと

そのパートナーであるマール―だった。

 

『クリス。

 きっとアンジュは助からないだろう』

 

「そんなの……まだわからないじゃないですか!」

 

悲観的な、そして恐らくは正しい予測。

でもそんなの認められない、クリスは叫び返す。

 

『そう、わからない。

 それでいい……足掻かなければならない

 何もしないことで後悔をすれば、

 取り返しのつかないことになるのだから』

 

『だから私たちは、貴方には諦めないでほしい。

 希望を持つこと、そして信じることを』

 

二人の言葉はきっと、

アークスたち全員の想いなのではないだろうか。

力強い言葉に背中を押され、

ブーツの出力を前回にして駆けるクリス。

ダーカーの群れをなんとかくぐり抜けていくと、

前に立ち塞がるのは

ゼッシュレイダやダークラグネといった大型種。

さすがに簡単には通してはくれないだろう。

 

「立ち止まるわけにはいかないんだ……!」

 

クリスが被弾覚悟で突破しようと考える。

ここで引き下がるわけにはいかない。

 

「……?」

 

だがダーカーたちはクリスの方を向いていない。

その後方……何かに対して身構えているようだった。

 

クリスもやっとそこで気付く。

背後から自分を護るように迫ってくる大きな存在に。

 

「ザンディオン!」

 

それは雷の鳥だった。

創世器の圧倒的な力を惜しみなく発動させた

限られたアークスにしか使えない風と雷の複合テクニック。

両手を広げダーカーを蹴散らしながら舞うのは

守護輝士たちのリーダー、クラリスクレイス。

 

「……クラリスクレイス、どうして……!?」

 

強烈なフォトンの奔流の前には

ダーカーたちはまるで飴細工のように溶けて行く。

彼女が……いや守護輝士たちは

どうして自分なんかのために

ここまでしてくれるのだろうか。

戦力が固まれば当然、

アークスシップの防衛で手薄になる場所も増える。

それはあまりにリスキーすぎる行為。

 

驚くクリスに併走するクラリスクレイスは

 

「必要なことなのだ」

 

前を向いたままそう呟く。

 

「こんな絶望しかない世界、

 灰色の『現在』にはあまりにも救いがない」

 

彼女は淡々と言葉を紡ぐ。

 

「だから……だからこそ、絆だけは忘れてはならない。

 一人死地へと向かった仲間……

 アンジュにせめてもの手向けとして、

 貴様を連れていくのは、自己満足しかない」

 

「クラリスクレイス……」

 

「しかし自己満足だとしても必要なのだ。

 誰かを想う気持ち、

 それがアークスたちに足りなかったからこそ

 5年前の悲劇は起き、

 そして世界は色を失ってしまった」

 

クリスには正直にいうと

彼女の語る言葉の意味を理解することができなかった。

でも絶対に忘れていけない……

そのことだけは間違い。

 

彼女がザンディオンを解き、

灰錫クラリッサを背中から取り出す。

 

「行け!

 貴様が行っても結末は変わらないかもしれない。

 だが、最期まで見届けろ……大切な人を!」

 

彼女がありったけのフォトンを込めて

立ち塞がるダーカーの群れに向けて両手を突きだした。

 

「フォメルギオン!」

 

炎の闇の複合テクニック。

フォトン粒子砲の何倍も圧倒的な力の奔流が

ダーカーたちを吹き飛ばしていく。

 

「……師匠!」

 

その空いた穴へ迷わずクリスは飛び込む。

やっとアンジュの反応を確認する。

とても弱々しいが、でもその先にいるのは間違いない。

 

「師匠!」

 

さあ、彼女を連れて帰ろう。

まだ話したいことがたくさんある。

彼女の為に、自分が何ができるかを教えてもらおう。

 

そのためにみんなが道を切り開いてくれた。

 

彼女に至るまでの希望の道を。

 

クリスは駆け抜けた。

そして最後の壁を抜け、辿り着く。

愛おしい人の場所へと

 

 

「……ク……リス」

 

 

 

 

――そしてクリスが目にしたのは

鋭い爪で串刺しになったアンジュ=トーラムの姿だった。




なおリンドブルムはサガの最後に装備していたブーツらしいです。

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