江戸川コナンと友達になりたい男   作:平良一君

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ごめんなさい、さぼってました。

いろいろ考えたのですが主人公の名前が他の登場人物達と中途半端にダブってややこしかったので、変更しました。過去話もまとめて変えてあります。「安室徹(降谷零)」のことを考えたらこっちのほうが的確だったなぁ、と思う次第。

前回、新一と対等な話し相手にはなれなかったとぼやいている主人公ですが、少なくともクラスメイトの中では一番まともな話し相手になっては居ます。
おなじ凡庸でも高校生と社会人では経験値の面でやはり結構な差がありますので。
コナンが高木刑事と年齢を超えた友情を持ってるのと一緒。


第五話 「こうするのが工藤のためだから(キリッ)」

 以前、工藤が人としての成長がどうこうという事を言ったが、真面目な話、あんまり原作と乖離するとただでさえあやふやな原作知識がさらにアテにならなくなるので、俺の方にトロピカルランド行きを止めさせるという選択の余地は無かったんだな、と今更ながら気づいた。

 工藤と毛利のデートに関しては、鈴木が我が事のようにうれしそうに話すから、大体は把握できている。いやコイツ、実際自分の恋愛が上手くいかない鬱憤を毛利で晴らしてるんじゃないよな……?

 ともあれ、高2になってからそういくらもしないうちにその日はやってきた。

 

 

 さて、江戸川コナンと関わるに当たって、俺には二通りの付き合い方がある。

 一つは鈴木のように、クラスメイトである毛利の家に居候している生意気な男の子としてのみ付き合う方法。

 もう一つは服部平次のように、工藤新一が変じた姿と判っている上で、周りにそれを隠しながら付き合う方法だ。

 危険を出来るだけ回避する、という点では鈴木の立場一択のように思える。

 『原作』でたびたび危機に晒されている鈴木だが、別に黒の組織と関わって、という訳では無い。劇場版でジンに狙撃されたことがあったが、あれは勝手に宮野志保似の髪型に変えて自ら虎口に飛び込んでいっただけだ。余計なことさえしなければ組織に狙われることはあるまい。

 ただ、こちらを選ぶには俺の方に問題があった。

 俺は『原作』知識を有していて、本来ならば知り得ないことを知ってしまっている。それこそ未来予知のレベルで。

 果たしてそれを隠し続けておけるのか、というのが大きな問題だ。

 極端な例で言えば江戸川コナンに会う度に「工藤」と呼んでしまう服部平次が的確だろう。

 毎度毎度苦しい言い訳で逃れているが、アレは相手が毛利や彼の幼なじみの遠山和葉だったから見逃して貰えてるだけだろう。

 工藤新一=江戸川コナンを薄々察して黙っていた毛利や、工藤と江戸川少年の類似性をそこまで知らない遠山だったからこそ深く突っ込まなかった、という事だ。

 同様のミスを工藤の前でやらかした場合、ほんの些細なことでも「何でお前が知っている?」という疑問を持たれるには十分だろう。

 真実を話しても信じて貰えるとは限らないし、下手すりゃ黄色い救急車で運ばれるオチが待っている。

 そして一番まずいパターンは俺自身が黒の組織と繋がりのある人間だと見なされて、敵対されてしまうことだ。

 危機に陥った俺を、工藤なら敵と疑っていても見過ごすことは出来ないだろう。が、後々現れる灰原嬢辺りは疑わしい俺の反応を見るために俺がピンチに陥った場合、工藤への情報伝達を意図的にサボタージュする、ぐらいはやりかねない。

 というわけで、俺としては「江戸川コナンの正体に気づいている友人」の立場を得なければならないわけだ。

 APTX4869の秘密を知る=黒の組織に近づくことで余計な危険を背負い込むことになるんじゃないか、という懸念があることにはあるが、原作の工藤を考えるに極めて希薄だろう。

 自分の危機にはかなり無頓着なくせに、他者が危険に近づこうとすることは防ごうとする性質だ。こっちが変につっこんで行かない限り、黒の組織がらみの事件にかり出される事はあるまい。

 何しろもろに関係者である灰原哀=宮野志保嬢の介入にすらいい顔をしなかったのだから。

 『生前』の俺の友人がどこぞのアニメからパクって来た台詞によると「大切にすることと、大切に想うことは似ているようで違う。こと、女性に関しては」とのことだが工藤とは縁遠そうな言葉だなぁ。

 

 

 仕込みは済ませてある。

 工藤と毛利がトロピカルランドに行く二日ほど前、

「気分転換に読書したいんだがおすすめの本とかあるか」

 と工藤から推理小説を三冊ほど借りていた。

 そしてその借りていた本の内容について話そうと電話をかけたが、工藤が出ない。というのがカバーストーリーだ。

 ちょっとコンビニに行ってくる、とだけ母親には告げて夜に家を出て、何度か訪れたことのある工藤邸へと足を向ける。

 別に嘘は言ってない。

 帰りにコンビニに寄れば良いだけだ。

 夜道をのんびりめに足を進めていると、同じく工藤邸の方に向かっている女性らしい人影が前方に見えた。

 幾度か街灯に晒されるその髪の長い後ろ姿を見るに毛利に間違いなさそうだ。

 さーて、工藤に恩を売るためにわざと少し遅れていくとしますかね。

 

 

 毛利が工藤邸に入っていくのを確認して五分後、俺も玄関に立ち呼び鈴を鳴らす。

「おーい工藤、いるかぁ? こないだ借りた小説で聞きたいところがあるんだけどー」

 戸を開けながら間延びした声で呼びかける。

 我ながら白々しいとは思うが、こうしなければここに来るのが怪しすぎる。最低限毛利の意識から怪しまれない程度にしないと工藤に恩が売れない。

「あ、鈴村君」

 邸内からタタッと毛利が現れた。

「おう毛利、こんばんわ。工藤は?」

「それが、新一留守みたいで」

「留守? 今日デートじゃなかったのかよ?」

「で、デートっていうか、一緒に遊びに行っただけって言うか……」

 少し照れくさそうに言い訳する毛利。うん、それはデートだな。

「別々に帰ってきたのか?」

「うん、だけどあいつまだ帰ってないみたいで……」

「おう、飛鳥君か、こんばんは」

 奥の方から阿笠博士氏が現れた。工藤と一緒に行動するようになってから、顔見知り程度には面識を持てている。うーん、相変わらず実年齢より老けたおっさんだ。

「あ、ども、阿笠博士。工藤の奴いないんですか?」

「う、うむ、全くどこをほっつき歩いておるのかのぉ」

 髭をいじりながら露骨に目線をそらす。初期設定では黒幕だったんじゃ無いか、って噂のある旦那だけど、この様子じゃ少なくともこの世界でそれはなさそうだな。

「そっすか……ん?」

 その阿笠博士のうしろ、隣の部屋から覗いている子供の頭が見えてすぐに引っ込んだ。

「誰です? その子」

 博士の後ろを伺うジェスチャーをしながら尋ねかける。

「あ、ああ……えー、コナン君、こっちに来なさい」

「は、は~い」

 震える声でおそるおそる出てくる眼鏡の少年。うん、この邸内が薄暗くて解りづらいけど明らかに眼鏡のレンズが無いね。気付けよ毛利。

「わしの遠い親戚の子でな。江戸川コナンくんじゃ」

 まぁいいや。俺がモブから準レギュラーに昇格する最期のダメ押し。せいぜい踊ってくれよ? 工藤。

「コナン……? ああ! もしかして、以前工藤が言ってたコナン君かい?」

 工藤、もとい江戸川コナンがぎょっとした顔になり、阿笠博士も目を白黒させている。

「鈴村君、知ってるの?」

 不思議そうに毛利が尋ねてくる。

「ああ、工藤の奴が妙に楽しそうにしてたときがあって、なんかあったのかって聞いたら、面白い子と会ったんだって教えてくれてな。コナン・ドイルから名前を貰った男の子が居て、それが自分みたいに頭の切れる子なんだってすっげぇ嬉しそうに話しててなぁ」

 しゃがみ込んで江戸川少年の頭をなでる。

「ほら、俺たちって結局工藤の話の聞き役には成れてても、きちんと会話は出来てなかっただろ? きっと君は、ホントにアイツ並みに頭が良いんだろうなぁ。正直、ずっと申し訳ない気分になってたからさ、これからもあいつの友達でいてくれよ」

「う、うん! ぼく、新一兄ちゃんだぁ~いすき!」

 大分引きつっている笑みを浮かべて、江戸川がうなずいた。

 その後、予定通りに江戸川は毛利に連れられていき、それを手を振って見送った俺は、二人の姿が見えなくなったところで同じく手を振っていた阿笠博士に声をかけた。

「これでよかったんですよね、阿笠博士」

「う、うむ。しかし冷や冷やしたぞい」

 げっそりとした顔で自分の家に帰る博士について行く。

「新一め、飛鳥君に協力を頼んであるならそうと言えばいいものを……」

 台所に直行して手製の浄水器で水をくみ、口へと運ぶ阿笠博士。

「頼まれてませんよ」

 飲んでいた水をぶぅ、と噴き出した。いやぁ、後ろに立っててよかった。

「ななな、なんじゃとぉ!?」

「今の博士の言葉でようやく確証が持てたんですけど、やっぱあの男の子が工藤ですか。おかしな事件に巻き込まれて子供にされた……でいいんですよね」

「むぐっ……」

 振り返った博士が口元を拭いながら呻く。

「ら、蘭君に黙ってくれたのは感謝するが、なんで気がついたんじゃ!?」

「んー、まぁ状況証拠の多さ、ですかねぇ」

 もちろん、俺は最初から知っていたわけだが、実際、あの場に立ち会ってみて、なんで毛利が気づかなかったのかが解らない。

「まずはもちろんコナン君という工藤の子供の頃の写真にそっくりな少年自身。それにレンズの入ってなかった眼鏡。あんなものをわざわざつけている必要があるってのは、顔を隠したいからでしょう? あとで度の入ってない眼鏡を持って行ってやらないと、明るいところで見たら一発アウトですよ」

 ちょんちょんと俺自身の顔を叩いてみせると、うむ、と唸る阿笠博士。

「それにあの服、ちょっとにおいを嗅げば、防虫剤のにおいがするのは丸わかりですからね。おおかた、急いで工藤の子供の頃の服を引っ張り出してきたんでしょう」

「鋭いのぉ」

「んで、最期にかまかけです。工藤から聞いたことも無い俺の作り話。本当なら江戸川少年は『工藤? 誰それ』って反応をするんですよ。けど、今の江戸川少年にはリアリティが足りない。毛利に疑われないためには、俺の作った嘘の話に乗るしか無かった」

 そこでふぅ、と一つため息をつく。

「あいつのええかっこしぃにも困ったモンですねぇ。幼なじみに虚勢張りたいからって、最大の協力者になり得る毛利に真実を話さないとは」

「い、いやいや。新一は蘭君を巻き込まないためにじゃな……」

「だったら、毛利のところの厄介になんて死んでもなりませんよ。巻き込む確率100%じゃないですか」

 この辺に関しては、こちら側に転生してからずぅっと俺が疑問に思っていたことだ。

 作品としての都合、なんてメタな話もあるが、こちら側に人間として実在する以上、理由は別個に存在する。

 物語の中盤以降、黒の組織が本当に危険と解ってもう話すに話せない状況になっているのならともかく、この序盤で正体を隠す理由なんてそうはない。

「……まぁ前から判ってはいたことですけど、工藤は毛利のヒーローになっちまってるんですよねぇ」

 鈴木と、工藤本人と、二人から聞いた工藤と毛利が初めて会った幼稚園の頃の話。俺が死ぬ前には知ることが無かった話だ。

「毛利が工藤にヒーロー像を無意識に求めて、工藤は無意識にそれに応えている。あんまり健全とはいえない関係ですよ」

 それをぶちこわすのがあの二人の関係のためには良いのかも知れない、とも思うが……原作から離れるのもなぁ。せめて俺の知識が及ぶ範囲では変わらないようにした方が良さそうだ。

「そ、そうか言われてみれば……飛鳥君は案外細かいところに気がつくのう」

「いやー、あんまり勘が良いと嫌われる元ですからね。特に対人関係は。ほどほどに無能のふりをしてないと」

 まぁ今回はそこら辺のポリシーを無視して、前世の知識まで動員しあいつの味方をしたわけで。

 これで準レギュ以上は確定。前線には立てなくても、アリバイ作りなどのサポートとして協力出来る立場は確立出来た。

 というか下手に前線に立つような協力者になったら、黒の組織との戦闘で死なないまでも銃で撃たれる程度のことはあり得るかも知れない。そんなのはゴメンだ。

「ま、なんで子供のふりをしてなきゃいけないのか、とかその辺は今度本人に聞きますよ。アイツも今頃何で俺が協力したのか、とか混乱してるでしょうし」

 博士に確認してみると、工藤のケータイはジン達に破壊されてしまったらしい。

 原作とは違って、使い捨てカメラなんか殆ど流通しなくなってる世の中だからなぁ。そっちで写真撮影してたせいでケータイごと破壊されたんだろうけど。

 阿笠博士に江戸川コナンと会う日時を設定して貰う約束を交わして、俺は家路についた。


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