江戸川コナンと友達になりたい男   作:平良一君

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あいだを一気にすっ飛ばします。


第四話 「鈴木に下手に手出しすると、どっかの勇者王にライバル視されかねないし」

 俺がこの体に入ってから1年半が経過した。

 結構記憶があやふやだが、おおよそ原作通りだと思う。

 工藤と毛利がアメリカに行って、行きの飛行機で事件に遭遇したり、旅行の裏側で例のベルモットと毛利のファーストコンタクトもあったっぽいし。

 そして予定通り工藤は『平成のホームズ』『高校生探偵』の二つ名をゲットしたわけで。

 俺? 俺は平穏無事に暮らしてましたよ?

 幸いあれから工藤が俺と話をするのも徐々に落ち着いて、一番言葉を交わすのが毛利に戻ったから、おかしな噂も立たなかったし。

 ……うん、結局工藤と対等に話せるだけの知識量は無理だったよ。

 あ、いや、一つだけでかい問題があったな。

 一番が毛利に戻っただけで、それからも俺と工藤が仲が良いのは変わらなかった。それ自体は予定通りだったから別に良いんだけど、そうなると必然毛利と過ごす時間も増えてくる。

 そうすると毛利の親友である鈴木とも一緒に居る時間が増えてくる訳で。

 あろうことか俺と鈴木との間で、「スズスズカップル」と称されて出来てるんじゃ無いかという噂が立ったのだ。

 顔を赤くして必死に否定する鈴木。いや、それ逆効果だから。

 仕方ないから俺の方が、目一杯申し訳ない顔をしながら

「いや……鈴木は友達としては一緒に居て楽しいけど、正直女としては……」

 といったところ、言葉は信じてもらえたのだが女子生徒たちからデリカシーの無い女の敵扱いされた。

 正直そっからが大変だった。

「どうせ私は女としての魅力が無いわよぅ!」

「鈴村くんんん~?」

 鈴木は泣き崩れるし、毛利は闘気を纏わせて俺の前に立つし。ホントに死ぬかと思った。

「高2の夏にきっと良い出会いがあるから! ホント! それまで待ったらすっごいいい男と会えるから!」

「なんでそんなことが解るのよ! 気休めは止めてよね!」

 原作知識を披露するという反則技まで駆使して、それが外れるようなら今度こそ命が無いという崖っぷちまで追い込まれてなんとかその場は取りなした。

 ……大丈夫だよな。俺一人が存在するために京極真が存在しなくなってるとかいう変なバタフライ効果生んでないよな。

 そんな不安を抱えながら帰宅した俺は、一晩中スマフォにかじりついて米花高校の一学年上に京極真という空手家がいることを確認して胸をなで下ろすことになった。

 そうそう、この騒ぎの間工藤の奴はずっと面白そうに俺を眺めていた。

 うん、例のトロピカルランド行き妨害しようか原作のままにしようか迷ってたけど、放置してやる。

 ジンとウォッカの後をつけてAPTX4869の試作品飲まされやがれ。

 こ、これはコナンになってからいろいろ助かる人が多かったり、工藤が人として成長するから選んだルートなんだからね! 別に今回の復讐のためじゃないんだから!

 

 

 そうそう、人として成長する、といえば最近の工藤はモノの見事に天狗になっている。

 テレビに映る自分や、女の子達に騒がれている自分、というのを認識して高笑いする工藤。

 原作最序盤の工藤新一がそこにいた。

 流石に公共の場でそんな顔をするのは極希だ。頭の良いこいつなら衆目の前でそんな態度を晒せばどうなるか判るだろうから当然か。

 ただそんな頭が良くて演技力も高く、気障な台詞も吐ける工藤にしては、何というかツメが甘い。学校内でもたまに他の生徒が居る場面でアレをやるのだ。

 最初の頃は学校内にヒーローが居る、と賞賛してたクラスメイト達もだんだんと苛立って来ているのを俺も感じていた。

 決定的に嫌われはしないのが少し不思議だったが、少し観察すればすぐに理由は判明する。

 そうやって調子に乗った工藤はすぐに毛利によって制止されているのだ。

 脅しか、あるいは実力行使も伴って。

 そうされることで周りも溜飲を下ろしながら調子に乗っていたクラスメイトをまた輪の中に迎え入れる訳だ。

 しかしそれがわかると、別な疑問も湧いてきた。

 

 

 今朝も今朝とて、登校早々に回し蹴りの寸止めで脅されている工藤を視界へ入れつつ教室に入ってきて、斜め後ろの席に座る鈴木に声をかける。

「おはよ。工藤の奴、何で毛利が居るときだけああなんだろうな」

「ああ、おはよう。あれは新一くんが蘭に甘えてるのよ。蘭なら自分を止めてくれる、ってね」

 俺と同じ事に気づいていたらしい鈴木からは、多くを語らずともそんな答えが返ってきた。けど、それって……

「それってなんかおかしくねぇか? あのええかっこしいの工藤が、好きな子に止めてもらうために周りの目も気にせずに無様を晒すって」

「バカねぇ。好きな蘭にかまって貰うには、そっちのほうが都合が良いのよ。『このままじゃあ愛する新一がみんなから嫌われちゃう!』って蘭に思わせて、注意を引く。新一くんならそこまで計算済みよ」

「んー……」

 鈴木の語る工藤が、殆ど小学生男子な扱いなのはこの際置いておく。

 『原作』を知る俺にしてみれば、小学生と言うよりもむしろ今のあいつは好きな子に告白できないで居る中学生なのだが、それを鈴木に言うわけにもいかない。

 そう。『原作』を知る俺にしてみれば、だ。

 毛利の奴にも工藤のに奴も、双方そんな意図が無いのははっきりしている。

 特に毛利に関しては、工藤が有名になったあおりを受けて父親が荒れているという実害付きだ。本気で天狗になっている工藤が気にくわない、という風にすら見えた。

「……あ」

 もしも、そんな毛利の父親がらみなマイナスの感情を工藤が察しているとしたらどうだろう。

 うろ覚えだが父親が工藤のせいで荒れている、という話を毛利が工藤にはしていた、よーな気もする。

 そんな毛利のストレス発散の対象となるためにわざと自分から工藤が憎まれ役を買っているのだとしたら……。

「……全ては毛利のため、か」

 一応説明はつく。

「そうよん。判ったかしら、飛鳥くん」

 鈴木の勘違いは放置しておく。やはりこれも『原作』知識有りでの考察だ。毛利家内部の問題を部外者の鈴木に勝手に話すわけにもいかない。

 多少の引っかかりを覚えないでもないが、ひとまずこの問題は放置しておく。

 そんなことよりも差し迫った「江戸川コナン」誕生の日の方が俺にとっては遙かに問題だ。




原作序盤の新一と学園祭の時の周りの歓迎ムードがどーもイメージとして合致しないので、そこら辺の考察の話です。

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