江戸川コナンと友達になりたい男   作:平良一君

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第二話 「いやほら、中身は三十前のおっさんだから」

 俺はてっきり『名探偵コナン』の世界に来たと思っていたが、それは正確じゃあなかったらしい。

 中学生の工藤新一が、毛利蘭が、鈴木園子が……鈴木の字はこれで合ってたっけ。

 まぁいい、ともかく俺が居るのはこの主人公やその幼なじみたちが中学3年生の時。つまり……えーっと本編から2年? 前だ。

 いや、あんまり覚えてないからさ。工藤新一が本当は17歳だっていうのは覚えてるんだけど。誕生日迎えてこの年齢なのかがいまいちはっきり覚えてないんだよね。

 まぁ、将来鈴木の彼氏になるくっそつよい京極真が一つ年上だけど高校生だった、ってのは覚えてるからたぶん本編が高2であってるはず。高1なら15か16だもんね。

 しかしまぁこれはチャンスだ。

 最初こそ驚いてしまったが、ここで親しくなっていれば殺人事件で殺される確率は格段に少なくなるだろう。

「俺は工藤新一。サッカー部に入ってる」

 昼休み。記憶を失った俺のために、とクラスのみんなで一通り自己紹介をしてくれた。

 五十音の出席番号順で、比較的早くに工藤が挨拶をしていった。

 よかった、ここで「探偵さ」なんて言われた日にはどうリアクションして良いか解らないからな。

 うろ覚えだけど確か工藤が本格的に探偵の活動を始めたのが高校に入ってからだから、正に「高校生探偵」ではあっても「中学生探偵」では無かったか、まだ名前が売れてないんだろうな。

 そのまま番号順に自己紹介が進んでいく。

 お嬢様なのに全くお嬢様らしくない、と鈴木がいじられたりしながら毛利の番だ。

「私は、毛利蘭よ」

 毛利の隣に立つ鈴木が蘭の肩に手を乗せながら、誇らしげに語った。

「んで、さっきの工藤新一が旦那様なのよん?」

「ちょ、ちょっと園子やめてよね!」

 顔を赤く染めながら必死に否定する毛利。

 工藤もそっぽを向きながら、「バーロー、んなんじゃねー」と口にした。

「照れるな照れるな」

「学校公認の夫婦が何言ってるのよ~」

 それでもかまわずはやし立てる周囲。

 まぁ俺は言われなくても二人の仲の良さは知ってるけど……なんか、見てらんないなぁ。

「おいおい、止めてやれよ。本人たち困ってるだろ」

 ぶっちゃけ、俺以外止める奴も居なかった。

「大体さ、まだ中学生なんだろ? 人生まだまだこれからなんだ。周りがそうやって暗示かけるみたいなのはよくないぜ」

 これは二人の関係に関わらず俺の生きる上での指針みたいなモンだ。

「人間、生きていく上で選択肢なんていくらでもある。周りがそれを期待してるから、とかいう理由で選択肢を狭めちゃ可哀想だろうが」

 俺の考えを押しつけるのはどうかと思うが、少なくとも二人に関係性を無責任に期待するのはもっとよくない。

 だから、軽くヒートアップしていた空気を冷まさせるだけでよかったんだが。

「……鈴村、お前どうした?」

 男子の一人が、目を見開きながらそう問いかけてきた。

「へ?」

「お前、本当に記憶喪失か? 記憶失う前でもそんなこと言う奴じゃなかっただろ」

 こっちは露骨に気味の悪そうな目を向けてくる。

 というか、どんな奴だったんだこの鈴村君は。

「い、いや。今は俺のことはどうでも良いだろう! それよりも、みんなが二人のことを応援してるのは解るけど、あんまり露骨にはやし立てるのはよくないってことさ!」

「だって、鈴村君、前は率先して二人をからかってたじゃない」

「…………」

 どーも鈴村君は悪い奴じゃ無かったようだが、悪のりはする奴だったらしい。

「まぁ、あれだよ。記憶を失って、より客観的に物事を見られるようになった、って言うか? ともかくさ、工藤と毛利のことはちょっと遠くから眺めるぐらいで良いんじゃ無いかな」

 二人への囃し立ては収まったが、なんだか俺への不信感が増してしまった気がする。

 

 それから一週間、みんなからは戸惑いの目を向けられながらもようやく鈴村飛鳥の日常にも慣れてきて、さてこれからどうやって工藤と仲良くなろうかと考えながらの帰り道。

「よぉ」

 当の工藤が下校途中の道で待ち構えるようにリフティングをしていた。

「工藤、部活はどうしたんだ?」

「試験一週間前だから休みだよ」

「あ、そっか」

 もうじき中3一学期の中間試験だ。

 三流大学出とはいえ、曲がりなりにも大学を出ている俺にとってはさすがにそう難しい試験範囲でも無い。すっかり使わなくなって久しい英語を除いて、だが。

「けどそれこそ毛利とでも帰ればよかったのに、何やってんだ?」

「一応礼を言っときたくてさ。よっと」

 頭の上でバランスをとっていたサッカーボールを、一度胸で受けてから地面に落とし右足で押さえる。

「お前がああ言ってくれてから、からかいが減ったよ」

「そっか、そりゃよかった」

 思ったよりも親しくなる状況はそろっているようだ。これは親しくなるのも簡単かも知れない。

「なぁ鈴村」

「ん?」

「お前……誰なんだ」

 そう思ってた時期が俺にもありました。

 うわー、めっちゃ不審の目を向けてるよ。きっと犯人見る目だよこれは。

「……誰って、鈴村飛鳥さ」

 とはいえ一週間前までアラサーだった俺が、工藤新一とはいえ年の差ダブルスコアのガキにそうそう気圧されはしない。

 平然と名前を返して

「見た目はな。中身は別モンだ」

 うん、気圧されはしてないけど確実に追い詰められてるね。

「この一週間、お前大体の授業で当てられても平気で答えてるだろう? 鈴村の奴はそんなに成績はよくなかったんだよ。記憶喪失になっても常識を忘れないのはあるもんさ。けど、記憶喪失の前に知らなかったことを、知ることはありえない」

「俺が鈴村飛鳥じゃないとして、どうやってそれを証明するんだ? 遺伝子検査でもして、俺の両親と比べてみるか?」

「そう、そういう言い方だよ」

 にやりと口元に笑みを浮かべ、鋭い眼光で俺を見る工藤。おっかねぇ。

「俺の知ってる鈴村は、「遺伝子検査」なんて言葉の意味を知ってても、口からは出てこない奴なんだ。ましてや『どうやって証明するんだ』なんて持って回った言い方は絶対にしない」

 ぽん、と器用に右足だけで蹴り上げてボールをキャッチし、それでも視線は外さない。

「記憶喪失を装って、別人が鈴村に化けてるって方が遙かに納得がいくってもんだ。お前はいったい、誰なんだ?」

「……そんなのは、俺の方が知りたいよ」

 俺は観念してそうつぶやきながら、工藤の横を通り過ぎようとした。

「お、おい!」

「なぁ工藤、いつでも良いから俺に教えてくれないか。俺がいったい誰なのかって。本当に記憶喪失になってるだけの鈴村飛鳥なのか、記憶喪失の鈴村飛鳥と思い込まされている別の誰かなのかって」

 案外、この名探偵ならば解けるかもしれない。

 こんな、まるでカミサマのような超常的な事を引き起こせる奴の存在を。

「……ああ、良いぜ。この俺に解けない謎は無いんだからな」

 ボールを脇に抱えながら、不適な笑みを浮かべる工藤の姿を振り返った肩越しに見て、俺は改めて帰路についた。




俺個人は新志派なんですが、この話を新志に持って行くかどうかはちょっと悩んでます。
いやまぁ、そもそも原作が終了していないコナンの二次創作できちんとオチをつけられるかどうかと言うのが一番の疑問なんですが。

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